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阿波池田、山間に沈む町。次にウダツを上げる日はいつか <トラキチ旅のエッセイ>第9話
阿波池田。夏。 揺れる陽炎の底に沈み込んだような静かな町を歩いた。 古い家並みの中、ふと1枚の表札が目に留まった。 「蔦 文也」とそこにあった。蔦監督である。 「山あいの町の子どもたちに海を見せてやりたい」 そう言って、県立池田高校野球部を甲子園へ14度導いた名監督の自宅が、そこに佇んでいた。 優勝3回、準優勝2回。 そうした成績よりも、甲子園球場を明るく沸かせたそのキャラクターがより印象深い人だった。 蔦監督は、すでに2001年に亡くなっている。 ご近所の人がたまたま植木いじりのため家から外に現れたのを呼び止め、「この家は蔦監督のお宅で間違いありませんか」と、尋ねると、 「そうです。蔦先生の…