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フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その12)
(その11)で原註について検討するのを忘れていたので、そこから始めよう。 フレデリック・ダネイの自伝的小説『ゴールデン・サマー』の主人公ダニー少年は、知り合いの本屋の店主から新刊で発売されたばかりの『恐怖の谷』を貸してもらう。汚すこと無く新品のままに返す事が条件だったが、不注意からヨレヨレに型崩れしてしまい買い取る事になる。 [原文](INTRODUCTION P.9)
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その11)
(その10)では、最盛期を迎えたクイーンの二人が悠々自適とは決して言えないが忙しい日々の合間を縫って、自らがやりたい事を思うように過ごしていたと描かれていたが、実際にはダネイには悲劇とも言える個人的な出来事がふりかかっていた。 [原文](INTRODUCTION P.10) The reality was harsher. Personal tragedy stalked Dannay through the years and caught him mor…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その10)
引き続き、第3期について。ただし、クイーンの二人が、最盛期と言われる第3期を私生活ではどう過ごしていたかについて語られる部分だ。 [原文](INTRODUCTION P.9) These Period Three years, 1942-58, saw Dannay and Lee at the peak of their powers and popularity, selling millions of copies a year, praised as highly by critics and their fellow writers as by…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その9)
いよいよ第三期について、だ。あらためて著者による第三期の長編小説リストを挙げておく。 [第三期(12作品)] 災厄の町(1942) 靴に棲む老婆(1943) フォックス家の殺人(1945) 十日間の不思議(1948) 九尾の猫(1949) ダブル・ダブル(1950) 悪の起源(1951) 帝王死す(1952) 緋文字(1953) ガラスの村(1954) クイーン警視自身の事件(1956) 最後の一撃(1958)
検死審問-インクエスト- パーシヴァル・ワイルド/越前敏弥訳(創元推理文庫)
パーシヴァル・ワイルドは1912年にデビューした米国の劇作家だそうだ。まったく聞いた事もないし、今回、越前敏弥さんが2008年に翻訳した本書が今年(2024年)の復刊フェアの一作に取りあげられなければ、読む事もなかったかもしれない。劇作家というからには戯曲を書く事が本業で、ミステリは副業というか余技だったようで、Wikipediaを見ても長篇が4作と、短篇集が2作あるだけだ。短篇集『悪党どものお楽しみ』(1929年)はエ…
ミステリを愛して人生も終わりを迎えようとする今、なにも後悔していない
好きな推理作品はある? 今回、いつも以上に偏愛なブログになってます、すみません。 ミステリ読み始めてウン十年。中学入った頃エラリー・クイーンとクリステ…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その8)
第二期について、ネヴィンズは以下のように総括している。 [原文](INTRODUCTION P.) Compared with the early masterworks, the novels of Period Two suffer from intellectual thinness, an overabundance of feminine emotion, and characters cut out of cardboard with the hope that they would be brought to life by movie performers. On the other hand, with th…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その7)
本書では、エラリイ・クイーンの第二期の作品について次のように書き出している。 [原文](INTRODUCTION P.7) It's convenient to date the beginning of Queen's second period from Halfway House (1936) since this is the first of Ellery's cases not to contain an adjective of nationality in the title. But the new title format is merely symptomatic of chan…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その6)
いよいよINTRODUCTIONは佳境に入る。クイーンの全作品を概括していくのだが、クイーンは時期を追うごとに作風を変えていったので、ネヴィンズはそれを第一期〜第四期に分類している。日本では新本格ミステリの作家や批評家たちが初期・中期・後期などと分類するようになっているので、必ずしもネヴィンズの分類が一般的だというわけではない。しかし、とりあえずはネヴィンズの主張につきあうためには、この分類は重要だ。ここ…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その5)
エラリー・クイーンのデビュー作『ローマ帽子の秘密』は1929年8月にフレデリック・A・ストークス社から出版された。発表当時の時代背景を考える上で、禁酒法と世界恐慌について少し知っておいた方がよさそうだ。手もとには、滅多に活躍しないが時々見返す事がある『クロニック世界全史』(講談社)という百科事典(?)がある。索引で「禁酒法」をたどると以下の年月日にヒットする。 1846年 アメリカ初の禁酒法が…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その4)
ダネイもリーもニューヨーク市ブルックリンにあるボーイズ・ハイスクールに通ったが、その後リーはニューヨーク大学に進学し、ダネイは一足先に広告会社に就職して、コピーライター兼アートディレクターの仕事に就いた。リーは遅ればせながら映画会社で映画を宣伝する文章を書く仕事に就いた。 [原文](INTRODUCTION P.4) They met almost every day for lunch and among th…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その2)
『エラリイ・クイーンの世界』は次のように始まる。 [原文](INTRODUCTION P.1) ONE DAY IN THE FALL OF 1928 TWO YOUNG NEW YORKERS, first cousins, decided to write a detective novel. The occasion was a newly announced $7500 prize contest, sponsored jointly by McClure's Magazine and the publishing house of Frederick A. Stokes. The work consumed the you…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その1)
手もとに一冊の本がある。奥付を見ると「1980年4月15日初版発行」と書かれているから、ちょうど浪人が決まってお茶の水の予備校に通いだした頃だろう。前年は年も押し詰まるまで病院で悶々とした日々を送っていたのだから、当然受かるとは思っていなかったが、いざ浪人すると決まった時は、それなりにショックだった。病名も分からず、直ったとは言いがたい状況で退院し、爆弾をかかえたまま、よちよち歩きの状態からなんとか…
今回も篠田真由美著『ミステリな建築 建築なミステリ』出版記念の企画だ。著者が十代の頃から魅了されてきた作品『髑髏城』は、どうやらミステリ愛好家やカー愛好家からもあまり評価されてこなかった事に、著者はずいぶんと悔しい思いを抱いてきたようだ。著書の第二部「ミステリを建築で読む」の第4章「ディクスン・カー『髑髏城』」の冒頭で、本格ミステリを誰よりも愛し、カーへの愛を惜しげも無く開陳してきた江戸川乱歩と…
(今さらですが、今回は後半に犯行現場についての文章を細かく見ていきます。ネタバレもありますので、未読の方はエラリイ・クイーン「犯罪カレンダー」の「皇帝のダイス」を読んだ後にお読み下さい。) 前回同様、比較の際の色づけと下線の意味を説明しておく。 緑=翻訳の出来が素晴らしい 赤=誤…
途中から読む人はいないと思うが、とりあえず事情説明。 エラリイ・クイーンの短編集「犯罪カレンダー」の12編のうち4月の短編「皇帝のダイス」の原作と宇野利泰訳(ハヤカワ・ミステリ文庫版)とを比較している。目的は「なぜ宇野さんの訳は何故長くなるのか」を明らかにする事だったが、すでに判明しているように宇野訳のスゴさを明らかにする事に変質してきている。まあ、結論はもうちょっと先に延ばすとして、これまでのあ…
さっそく続き。なにしろエラリイ・クイーンの短編集「犯罪カレンダー」の「皇帝のダイス」の原文と宇野訳とを最後まで調べ尽くしてあるので、すべての労力を回収するまでは終われない。改めて、比較の際の色づけと下線の意味を説明しておく。 緑=翻訳の出来が素晴らしい 赤=誤訳あるいは訳に疑問がある
以前に、角川文庫版「Yの悲劇」(越前敏弥・訳)の書評を書いた際に、それまで愛読してきたハヤカワ・ミステリ文庫版(宇野利泰・訳)との比較をちょっとだけ試みた。というのも、ハヤカワ・ミステリ文庫の「Yの悲劇」は分厚い一冊というイメージだったのに、角川文庫のそれはかなりスリムな一冊に仕上がっていたからだ。一頁あたりの文字数…
神保町逍遙2023/07/14~PASSAGE,、羊頭書房、東京堂書店、富士鷹屋~
前回からちょうど三か月。まあ、通院が三か月おきなので、それに合わせて神保町にブラッとたどり着くというわけだ。今回は診察も会計も待ち時間が少なかったので午前中には病院を後にして、神保町に向かった。大井町からだと京浜東北線で田町駅で下車。都営三田線で神保町駅へと向かう。前回もそういう順路だったのに忘れていた。 神保町に到着すると、ちょうどお昼どきでサラリーマンでどこもごった返している。これはや…
近年、エラリー・クイーンの悲劇四部作や国名シリーズなどの初期の作品が、角川文庫と創元推理文庫から相次いで出版され、さらにはハヤカワ・ミステリ文庫からは、中期・後期を代表する「災厄の町」を初めとした作品が出版された。いずれも新訳で読みやすくなったので、新しい読者を開拓する事に繋がったのは、長年クイーン好きを公言してきた自分としては喜ばしい限りだ。 エラリー・クイーンの代表作と言えば「Yの悲劇…
料理本を眺めているのが好きだが(作るのではなくて、あくまでも 眺めるのが好きという変な性分だ)、身の回りには食に関連する エッセイ本も異様に多い、ということにふっと気付いた。 出かける際のバッグの中にも文庫本でつい数冊。 加齢と共に食べる量は減っているけれど、根っからの食いしん坊、 張っている食い意地だけは終生変わらないのかもしれない。
ドルリー・レーンが「悲劇四部作」を解決に導いたのは一体いつのことか?
ファイロ・ヴァンスに引き続き、今度はドルリー・レーンだ。言わずとしれたミステリー作家エラリー・クイーンが生み出した二人の名探偵のうちの一人だ。作家と同名の探偵は長きにわたって活躍する事になるが、ドルリー・レーンが解決した事件は「悲劇四部作」に限られる。エラリー・クイーンの研究家で知られる飯城勇三氏によると、バーナビー・ロス名義でクイーン名義とは違う出版社から出したけれど、クイーン名義ほど売れな…
本屋に行って文庫の海外ミステリの棚を見ていたら、懐かしいタイトルが並んでいました。それも複数部。 クイーンの国名シリーズシャーロックホームズのシリーズフィルポッツやカーも並んでいます。 どうしたんでしょう。最近本屋で海外ミステリの棚は見ていませんでしたが、ちょっと前までは新作が多くて、古典と言われるようなミステリはあまりなかったような気がします。 どうやら東京創元社が名作と呼ばれるものの新訳を出し始めたようです。 懐かしくなって手に取ってみました。中学生ころから大学生時代はこれらのミステリを夢中で読んだものです。それからもずっとミステリは読んでいたのですが、古典的なものは読むことはありませんで…
ジェフリー・ディーヴァーはすっかり短編創作の虜になってしまったようだ。本国アメリカで短編集「クリスマス・プレゼント」(2003年)を出版して以来、「ポーカー・レッスン」(2006年)と続き、さらに「Trouble in Mind」(2014年)を出した。デビューは1988年。リンカーン・ライムシリーズ第一作「ボーン・コレクター」(1997年)が注目を浴び、一躍人気作家になった。他にもキャサリン・ダンスシリーズが人気を博し、さらに最近あ…