短篇小説「風の吹きまわし」
その日は朝から、いつもとは違う風が吹いていたように思う。 朝の食卓につくと、いつもは半熟の目玉焼きの真ん中を箸で突き破ってから食べる父が、白身から黄身の周囲を丁寧にくり抜いてから口に運んでいた。どういう風の吹きまわしであろうか。 ちなみに父の右のほっぺたにはそこそこ大きなほくろがあって、その中心からは一本の毛がにょろりと生えている。わたしはそれを「父が目玉焼きの目を突きすぎてきたことによる呪い」であると考えてみたりもしてきたのだが、だとしたら今朝のような食べかたを続けていればほくろが丸ごとぽろりと剝がれ落ちる日がじきに来るのかもしれない。ほくろを黄身、その周辺の地肌を白身に見立てるとそういうこ…
2025/07/16 19:58