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  • 深夜3時の思い出話し

    時間は過ぎ去り、戻らないのだろう。   時刻は午前3時。 あたりは静寂に包まれている。 早い時間に目が覚めてしまった。 だが、もう一度寝ようという気にならず、コーヒーを淹れた。 コポコポと音を立ててコーヒーが落ちる。 その音を聞いていたら、すこし昔話をしたくなった。   あれはいつだったか。いつからだったのか。 10歳だったか、12歳だったか、正確には覚えては居ないが、随分...

  • 月明りと酔っ払い

    月明かりに照らされて酔っ払いが歩いている。 だいぶ飲んだらしく酔っ払いは千鳥足だ。 電柱や民家の壁を伝いながら、ひょこひょこ歩いていく。 鼻歌を歌ったり、信号機に挨拶をしたり、電柱にもたれかかったり、、何もかもが幸せそうだ。   ちょっとからかってみたくなった。   俺はワンカップ大関にお酢をいれてよっぱらいに近づいた。 ひょこひょこ歩いている酔っ払いに向かって、突然「危な...

  • あの世とこの世の真ん中の世界

    どうやら俺は死んだらしい。 あ、やばいな。それが最後の記憶だった。 最後に聞いた音は車が谷底に激しくぶつかる音だった。 あ、やばいな。と頭によぎった次の瞬間に車は谷底にぶつかり、目の前が真っ暗になって意識が途切れた。   いま俺の目の前には神さまがいた。 神さまはふさふさの白髭を生やしてつるつるの頭、肌つやの良い顔をして微笑んでいる。 肉付きの良い体を白い着流しで覆って、俺をみて...

  • 箱の中

    狭い箱の中に閉じ込められている。 外に出ようと必死に中から扉を叩くが一向に開く気配はない。 無駄だと悟り、そのうちに叩くことをやめる。 長いこと箱の中で過ごしたので、そのうち外がどうなっていたのか忘れてしまった。   外の世界は季節が巡り春先になっているようだ。 随分昔に嗅いだ春の匂いが、箱の中にも入り込んで来る。 外は明るい陽光に照らされているのだろう、でも中はいつだって真っ暗...

  • 無伴奏チェロ組曲

    メッセージはありません。通信を終了します。   黒いコンソールに白い文字でそう表示された。 事実だけを告げる冷徹なその言葉は、大きく期待を裏切るものだった。 僕はその言葉を1文字づつマウスでなぞって、現実を認識しようと努めた。   端末からは、バッハの無伴奏チェロ組曲第一番が流れている。 その大きく包み込む温もりを感じさせる旋律は、端末の持つ無機質さとあまりに対照的で、 隣...

  • あんず島

    沖合にある島を目指していた。大しけだった。海はうねりをあげて荒れ狂っている。 小舟は怒涛により何度も転覆の危機を迎えた。1つの怒涛を超えても息つく間もなく次の荒れ狂った大波が押し寄せてくる。小船は急流に飲み込まれる木の葉のように翻弄され続けた。 穂先を波に対して真っすぐに。大波を被りながらも、ただそれだけを愚直に延々と繰り返す。   大しけの日は監視が緩む。決行するにはこの日しかなかっ...

  • 自転車

    40の手習いに自転車に乗り始めた。子供の頃以来の自転車は、なかなか真っ直ぐに進まず、あっちによれよれ、こっちによれよれしながらペダルを回していた。高校生の自転車に追い抜かれたり、電動自転車に追い抜かれたりしながら、それでも体にあたる風がすがすがしくてとてもいい気持ちだった。そんな気分最高のおれの行く手に長い登り坂が見えてきた。すっかり子供の気分に戻っていたおれは、この坂を登る決断をした。坂の始まり...

  • 午前4時半

    早く目が覚めた。午前4時半。 遠くに新聞配達のバイクの音が静かに聞こえている。 僕と新聞配達員しか存在していないと思わせるような静かな時間帯。 すこし寒い感じがする。ハロゲンヒーターをつけようとしたが手が届かない。 パソコンに向かおうとしたけどめんどくさくてやっぱりやめた。   しばらくの間、ベッドから部屋を眺めている。 外はまだ暗い。カーテン越しに外の暗さが解る。 机があって...

  • ウルの力

    ウル第三王朝の牛飼いの少年が丘の上で寝そべって小鳥を戯れているとき、牛たちは思い思いの場所で草を食んでいた。およそ2キロ先をエラムの大群が土煙をあげて馬を走らせる。 牛たちは騒ぎだし、少年の指先で戯れていた小鳥は辺りをキョロキョロと見まわすと飛んで行ってしまった。 少年が地面から聞こえる蹄の音で身を起こしたとき、エラムの兵士が放った槍が牛飼いの少年を貫いた。 少年は言葉も発せないまま高く掲げ...

  • ラディッシュ

    特製サラダには生のラディッシュも添えた。 ラディッシュはつい今しがた庭の一角の菜園から採ってきたものだ。色とりどりの一皿にテーブルがいっきに華やいだ。町を訪れた客人たちが息を呑むのがわかった。   ラディッシュを摘んできた菜園は庭の東側にあり陽の光をより長く浴びた作物はよく育った。 土作りにはこだわりがあった。季節季節に有機肥料や石灰をまぶして土をよく混ぜる。リン、チッソ、カリウムがバ...

  • 牛乳風呂

    「今夜は牛乳風呂にしよう」 リーダーの佐藤はそういった。 後輩の田中が「それ、いいっすね」と頷く。 僕たち3人は売れ残りの牛乳ケースを販売車からせっせと運び出した。   ある地方都市での出来事。牛乳販売の会社に在籍していた時の事の話し。 販売のノルマがあったが、みんながノルマを誤魔化していた。 僕たちも例にもれず、その時、ノルマを誤魔化して多めに売れたと申告していた。 誤魔化し...

  • なに?なに?

    さて一日も終わるし、サプリメントでも飲もうか。 ミカはサプリメントを数粒取り出して、マグを手元に引き寄せ、 珈琲を入れようとして席から立ち上がった。 席から立ち上がった拍子にサプリメントの1粒が床に転がってしまった。 もぉというため息を漏らしながら、床に屈んで探す。 ワークデスクの下の暗がりに見つけた。拾って口に入れる。 マグに珈琲を入れてそれで飲み込む。   飼い猫の軍曹が寄...

  • プライバシーポリシー

    プライバシーポリシー個人情報の利用目的当ブログでは、お問い合わせや記事へのコメントの際、名前やメールアドレス等の個人情報を入力いただく場合がございます。取得した個人情報は、お問い合わせに対する回答や必要な情報を電子メールなどでご連絡する場合に利用させていただくものであり、これらの目的以外では利用いたしません。アクセス解析ツールについて当ブログでは、Googleによるアクセス解析ツール「Googleアナリティク...

  • マムシ草

    鉛筆で横に線をひいた。画用紙は線によって上と下に分断された。さらに横線を引いた。上と下と真ん中が出来た。 子供の頃、真ん中に属していると思っていた。長い間、自分はごく普通の家庭の子供だと思っていた。ごく普通の家庭で裕福でもないが貧乏でもない、そんな家庭に属していると思っていた。 在るとき、何かのタイミングで、あの子と遊ぶな、と言われているらしいことを知った。同級生の親に言わせると僕は乱暴者...

  • チキンライス

    その時、リエは静かに泣いていたようだ。 僕には、リエが確かに泣いていたように見えた。 そんなとこ、僕は初めて見た。   泣かない女性だった。 それまでは涙を見せない女性だった。 そんな彼女が泣いていた。   僕はなんて言葉をかけたらいいのか、わからなかった。 そんなリエの隣で、無力に打ちひしがれた僕は、やはり同じように泣いていた。2人で泣いていると、僕のお腹がぐーっと鳴っ...

  • 月の隣のおおくま座

    気がつくと離れられなくなっていた。 離れるには、長い時間を共に過ごし過ぎた。 共に過ごした長い時間は、適度な距離感と丁度いい存在感、血縁のような親近感を2人の間に作っていた。今更、離れることは出来ない。   今のままでは共倒れが確実なのも理解出来ていた。 もっとも離れたとしても、2人別々に倒れるか、2人一緒に倒れるかの違いだけだった。 どちらにしろ、このままでは倒れるだろうことは予想...

  • 風船さんぽ

    夢を見ていた。大きな風船に掴まってふわふわと町の空に浮かんでいた。上に下にをふわふわふわふわと繰り返しながら、町の通りをふわふわ進んでいる。風船の行きたい方向に行きたいように任せて、ふわふわ浮かびながら、長い時間、空に浮かんでいた。 下に降りたタイミングで、突然、知らない男がしがみ付いてきた。二人は定員オーバー、風船は再び浮かび上がることなく、地面に落ちて転がった。 私はその男の顔をみて、...

  • 具象と抽象と神さまと

    具象があった。そこでは大勢の具象たちが存在していた。具象たちは個々に在り、共に交わることをしなかった。そこには混沌が支配していた。 具象たちはいつからか群れることを覚えた。具象たちは群れ、交わり、1つの大きな抽象になった。 具象は在り、抽象は成る。抽象は歪さを持った具象を群れから弾き出した。抽象から存在を否定された具象は個別で生き残るより他なかった。 弾き出された具象たちは集まり、より...

  • トリック

    今月の「トリック」というテーマの「小説でもどうぞ」の公募に出してみようと思って書いてみたのですけど気が変わりましたwこちらで公開します。「やつのアリバイはどうだ?」 田上警部がタバコを咥えながらいう。 長野県の県警の一室。室内には10数人が集まり、それぞれがタバコを吸っているものだから、 煙が充満して空気がかすんでいた。空気清浄機がフル稼働する音が高く響く。 「やつのその日の足取りはまった...

  • ツインピークス

    稲光を背景にコンピュータ制御の塔が映える。   稲光が光る度に、狂ったコンピュータが1秒間に80億回の計算を行う。   周期も計算結果も明らかに滅茶苦茶だが、コンピュータは稲光が光る度に同じ処理を繰り返す。   Error 88890163   稲妻がコンピュータを直撃した。 煙をあげたコンピュータはそれでも止まらない。   稲光が光り、狂ったコンピュータが制御する塔が照...

  • 黄金虫の巣

    黄金虫はヒマラヤスギの樹上に巣をつくる。 黄金虫の甲殻は魔女の秘薬の材料になる。   黄金虫の甲殻とマンドラゴラとイヌサフラン、ヨウシュトリカブト、蝙蝠の頭、 猫の目から作った秘薬を焚くと狼に変身することができる。   フェンリルの夜。 魔女たちは狼に変身して村々を襲う。  ...

  • 植物連鎖のジョーカー

    ある国の、ある地方に在る、ある暗い森の中にそれは在る。昼でも暗いその森のさらに奥深い場所に、甘い香りを放つ植物が在る。この植物は土壌の窒素とリン酸とカリウムを栄養素としない。この植物は動物や人間を捕食して生きている。甘い香りを放ち、被捕食者たちを幻惑してその花びらに閉じ込め、そして食べた。...

  • スケール越しの街

    スケール越しに石膏像を見た。 パジャントの石膏像はかすかな微笑みを浮かべて窓の外を見ていた。 パジャントが見ている窓の外に目を向ける。 陽が落ちてだいぶ暗くなってきている。 蛍光灯に照らされた石膏像たちは思い思いの方向をみている。 それぞれの方向を向く石膏像たちには何が見えているのか。 何が見えて、それを見て何を考えるのか。 何も見えていないし、何も考えていないというには、 石膏像...

  • 澱のある風景

    なにか違和感を覚えた。何かがおかしい。違和感の正体を探るべく、私はその部屋を見渡してみた。特に変わったようなものはない。ぐるっと部屋を見渡して、ふと天井に視線を移した。うねうねとした澱がびっしりと付着している。なんだ、これは。澱は突起物をつくり、それぞれの突起物は意識を持っているように伸びては縮み、うねうねと蠢いていた。...

  • ノベル - Webアプリ

    ノベル系のWebアプリです。 以前ブックオフで買った書籍を参考に。 パソコンでしか、見れません・・・

  • フォーレの名による子守歌

    回廊の軒先から、彼もこうやってこの五重塔を見上げていたのだろうか。 そんなことを思った。   世俗的な雑事から隔絶され、この地所のなかで半ば幽閉に近い状態で一生を過ごしたのだろうか。 従者に身の回りの世話をしてもらいながら、来る日も来る日も思索に没頭していたのだろうか。 そうして、世俗的な感性を失う代わりに専門的な感性を研ぎ澄ましていったのだろうか。   人間は集団化の果てに...

  • ダメ度計

    「お前はダメな奴だなあ。」 「まったく何をやってもダメだ。」 課長は呆れ果てた口調でそう言うと、うず高く積みあがった資料の5つの山を端から順番に軽く叩いた。 「どうするの、これ。」 完全に呆れ果てている。   ソウタは資料の山と課長とを交互に見ながら、もごもごと口を動かした。 「すみません、すぐに処理します・・・」 もう泣き出しそうだった。   午後からプロジェクトの方...

  • 遠雷

    遠くに貨物船が見えた。貨物船は僕の視界にぼんやりとした船影を見せながらゆっくりと動いていた。 聴こえてくるはずのないボォーという音が聞こえてきそうだった。 白みかがった砂浜には陽光が照り付け、すべてはきらきらと輝いていた。透明な波が寄せては返しを繰り返し、いまこの時が永遠に続くことを僕に思わせた。 悩みや迷い、痛みや悲しみ、怒りや憎しみ、不信や裏切り、妬み、そして絶望。そんな感情とはまったく...

  • コウタとカナコ

    シンギュラリティを迎えて、AIが人間を追い越した未来。 人間はただ生命を維持するためだけの存在になっていた。 食事も睡眠も恋も子孫を残すのも、すべてAIによって管理され、人間はただその種を残すためだけの存在だった。   AIによる管理を行いやすくするために、人間は脳に小さな機械を埋め込まれ、常に脳波を測られている。 学校というものは変わらずにあるが、授業はそれぞれの生徒に割り当てられている...

  • 狂戦士

    先頭を走っていた。後方から来る第三連隊の馬列は遥か後ろに見えた。 レイジは馬上で弓を構えると矢をつがえて、並走して走るコンピュータ操縦の殺戮兵器に狙いを定ると、矢を放った。殺戮兵器はレイジに機銃掃射を浴びせる。そのいくつかがレイジを貫通して肉が削げ血が飛び散った。レイジは顔を歪めながらも、次の矢を弓につがえた。精神統一して狙いを定める。一点を見極めて矢を放つ。矢は唸りをあげて飛んでいった。殺戮兵...

  • ひらけぽんちっち

    「ひらけぽんちっち」と怪しい書体で書かれた看板が風に揺れていた。 すえた匂いがする一帯を、ぶぶー、と軽快な音を立て、年季の入った赤いスーパーカブで通過していく。 年季の入った赤いスーパーカブで町を巡っていた。 家々の玄関先にあるポストに手紙やら葉書やらを投函して回るのだ。 寒い日も暑い日も、風の日も、雨の日だってそうやって回る。   その日も、ぶぶー、と軽快な音を立てながら、テンポ...

  • ある年の12月の出来事

    ある年の12月のことだ。 友人と山の中の湖を一周した。陽が西の山に沈み行くなか、2人とも無言で歩いた。 時折、足音に驚いたガチョウが鳴きながら湖面から飛び立っていく。 木立の隙間から湖面に差し込む夕暮れの光が幻想的な雰囲気を作っていた。 湖はさざ波立ち、夕暮れの光を受けてキラキラと輝いていた。   湖に向かってお椀のように下っている舗装されていない土の上を2人は歩いていた。 僕ら...

  • ニート、プログラマを目指します!

    第一話 日常ちゅんちゅん、、スズメが鳴いている。寛治はのそりとベッドから起き上がると、目覚まし時計に手を伸ばした。10:20だった。まだ眠そうな目をこすりながら時計に目をやったまま、しばらくぼーっとしていた。寛治の目覚まし時計は目覚ましの役割をしていない。目覚まし時計としてではなく、ただの時計として使っている。寛治自身もいまのところこれといった役割を持っていない。意識的に役割を放棄しているのだ。役割を放...

  • シングルベッド

    その夜もカンナとヒトシはシングルベッドに2人で寝ていた。 毎夜のことだが2人とも棒になって寝ている。 ちょっと狭い。というか、かなり狭い。 寝苦しくて寝返りをうつと、咳払いをされる。 いつものことだ。 ヒトシの何回目かの寝返りの時、カンナは声を荒げて、 「ヒトシ、全体的にもう少し小さくなって!」 と言った。ヒトシは棒に戻る。 棒のようにして2人は、シングルベッドの上、夜を過ごした。...

  • わたぬき

    「わたぬきって知ってる?」 ユカリは、ぼーっとした表情で湖面を眺めながら、小さな声で、そう聞いた。 「知らない。人の名前?」 ケンタは、やはり湖面を眺めながら、低い声でそう返す。 「うん、この地域に昔あった、行事みたいなもの。今は無くなったけど。」 ユカリは、心ここにあらずといった感じで湖面を見続けている。   日の暮れかかった時刻、湖面はさざ波、辺りは薄暗い。 湖面は暗い色を...

  • 夢のなかで暮らして、夢のなかで生きていく

    山のなかの木漏れ日に溢れる静かな道を歩いていた。道の両側を欝蒼とした森が囲んでいる。欝蒼とした森から伸びるたくさんの枝が、その道をドーム状に包み込んでいる。枝と枝との隙間から溢れるほどの木漏れ日が注いでいる。木漏れ日が作り出す、いくつものまばらな光の点は、枝枝が風になびくたびに形を変え、場所を変え、大きくなったり小さくなったりしている。太陽が雲に隠れた。光が消え、辺りはほんの少しの間、暗くなった。...

  • キラーナンプレ出来たよ

    こんにちわ^^キラーナンプレ出来ました。https://web-app-dev-env.com/number/index.htmlたまにバグってますけどw右下の最後のセルが単独になっているときはバグっているときです。...

  • 闇にまぎれて生きる

    とある企業の休憩室の一角で男女が会話していた。壁に貼られているノー残業デーのポスターとVDT作業時はこまめに休憩のポスターがよそよそしい。「これ。」ミホは指輪をはめた指先をくるくる回す。ミホの手が回るたびに、はめられた指輪がキラキラと煌めいた。僕は不安な気持ちを抱きながら、それを顔に出さないように努めて、「いいね。どこで買ったの?」平静を装い、やっとの思いでそう口にした。「もらったんです。彼氏から。...

  • 点つなぎパズル

    点と点の間にボールペンで1本の線を引いて繋いでいく。 線は違う線と交わって段々と絵が浮かび上がってくる。 残りの点が半分に来たところで、鱗に覆われた魚の絵が見えてきた。 そこでその作業をやめる。 完成形が見えたので作業をやめて次のページを繰る。 そしてまた最初から、点と点の間にボールペンで1本の線を引いて繋いでいく。   そんな作業を延々と繰り返していた。もう半年もそんな感じで過...

  • 対不明体用人型防衛兵器コア

    秒針が時を刻んでいる。一つの呼吸が終わる間もなく、秒針は次のメモリに進み、今という瞬間は過去になった。タクミはスチールの棚の上に置かれていたヒューリスティックグラスをとって掛けた。ヒューリスティックグラスを通しての世界は、緑色の様々な補助線によって補助されていた。視界の右上にあるやはり緑色で縁取られた枠の中に「おはよう」とナミからのメッセージが入った。タクミは「おはよう」と呟くと、その言葉が視界の...

  • 曾祖父の、いや、おそらく、それよりずっと前から在るもの

    起伏のある山を登ったところにそれはあった。 鬱蒼とした森のなかを進んでいくと、突然、切り開かれた広場に出て、 その中央にこんもりとした盛り土の山が不思議な存在感をたたえていた。 それは遠い昔からそこにあったらしい。 私の祖父が子供の頃、やはりその祖父からことあるごとに聞かされたと、生前、私の祖父は話してくれた。 それはひっそりと静まり返った山中で、何百年もの間、夜の漆黒の黒い闇と朝の朝靄...

  • 炎を纏って飛ぶ蛾

    ふとカレンダーに目をやって秋に変わったことを認識した。 夏から秋に向かって過ごした生活の記憶に繋がりはなく、 夏のとある1日から秋のいまこの瞬間に向かって一瞬のうちにワープしてきてしまったような感覚に陥った。   段々と意識が薄くなっているのだろうか。 連続的に意識を保つことが出来なくなっているらしい。 統計的に、あと10年ほどでこの生にも終わりが来る。   早かったのだろ...

  • 孤独の匂い

    あれは真冬の夜のことだった。 山間の町に吹き付ける乾いた風が凛とした空気を作り出していた。 吐く息は白く、短時間外に出ているだけで、手はかじかみ、耳が痛い。 僕は1人で家々を巡っていた。   「寄っていけば?」 ある家を巡った時に、おじいちゃんからそう声を掛けられた。 おじいちゃんはそう言うと、杖を持つ反対の手で小さくドアを開けて、僕を家のなかに招き入れてくれた。   所...

  • ウォーターワールド

    おはようございます。寒くなりましたね・・・とても寒いです。変化していきますよね、いろいろと。ショートショートガーデンに久しぶりに投稿してみました。お読みいただけたら嬉しいです。ウォーターワールドhttps://short-short.garden/S-uCTvqd...

  • ショートショートガーデン 現象

    こんばんは。日中はまだ暑いですね、、間違いだらけで傷だらけになりながら、それでも生きています。どこに向かおうとしているのか、わかりませんwショートショートガーデンに投稿してみました。お読み頂けたら嬉しいです。https://short-short.garden/S-uCTvku...

  • 釈迦に説法は逆輸入。つまり循環。

    瓦斯状の雲が山の頂を覆っていた。 それは薬で抑制された僕の頭を想起させた。 僕は追われている。 いつの間に埋め込まれたのかいつからか頭の中にゲルマニウムラジオがあり、そこから音が聞こえるようになった。 昼夜問わず、周波数の合わないゲルマニウムラジオから出るノイズが聞こえてくる。 僕の行く先々に先回りする様に監視者たちが居る。 監視者たちは僕の頭に埋め込まれたゲルマニウムラジオに設定され...

  • 新・桃太郎伝説

    おはようございます。ショートショートガーデンにまた投稿してみましたー。お読みいただけたら嬉しいです^^https://short-short.garden/S-uCTvjt...

  • ショートショートガーデンに投稿してみました。その2

    こんにちわ。ショートショートガーデンに投稿してみました。お読み頂けたら嬉しいです。線香花火https://short-short.garden/S-uCTviD...

  • ショートショートガーデンに投稿してみました。

    おはようございます。夕べ、眠りにつく間際にショートショートガーデンなるサイトを知って投稿してみました。もし、よろしかったらお読みください。https://short-short.garden/S-uCTviw...

  • 新時代

    脚立に登り、くるぶしにあたる部分の装甲を磨いていた。 黒びかりするそれは圧倒的な重量からもたらされる重厚感を湛えていた。 重さが推定出来ないほどの圧倒的な重量が醸し出す神気を纏ったそれは恐怖の感情を人に抱かせた。 今から5000年前、人はその巨大な鉄の塊と共存する道を選んだ。 それ以来、人類の文明は栄え、社会は発展した。   それは神気を放ち、今、私の目の前にある。 人の力の及ばない...

  • 待ち時間と式神

    無造作に方々に散っている髪の毛を特に気にする様子もなく、その男はその時、この街で唯一の酒屋の前に佇んでいた。ちらちらと営業時間が書かれた看板を見ては腕時計に目を落とす。通勤時間が終わって少し過ぎた頃だった。開店までにはまだ1時間以上あるだろう。男は所在なげに、体をひねってみたり、手をぶらぶらさせてみたりしていた。そのうちにポケットから半紙を取り出すと筆入れから筆を取り出して何やら書き始める。書き終...

  • 月夜

    月が出ていた。 満月だった。   ピンホールカメラのようだった。 この世界はピンホールの外に広がっている世界の写像なのだ。 銀板のプレートに焼き付けている最中の写像なのだ。   タバコの煙が流れ、僕の周りの写像が動き出した。 完全に焼き付け終わる前に煙は無くなってしまうだろう。 それで良いかと思った。   そんな満月の夜だった。...

  • 猫みたいな人だった。釣り合いがとれた大きな目は見透かされているような、語りかけてくるような不思議な魅力を持っていた。キメの細かい白い肌に均整のとれた鼻。品よくまとまった口。体型も細くしなやかな感じで顔の作りとあいまって、別世界の存在感を放っていた。年齢は不詳、中性的な雰囲気を漂わせているが性別は女性に分類されるようだった。コードネームをソラと言った。何処に住んでいるのかは分からない。これがナミが持...

  • ウサギオイシ

    ウサギが顔を覗かせていた。 ウサギは不敵な笑みを浮かべていた。 若者が年寄りを笑うような不遜さが感じられた。 ウサギは鉄パイプを右手に持っていた。 この鉄パイプで既成のすべてを壊して回るらしい。 かといって革命などというものに興味はなかった。 ただ不遜な態度の延長でそうしようと思ったようだ。   ある時、ウサギは鉄パイプで戦車を襲撃した。 戦車のウィークポイントは砲台の部分だ...

  • ハサミの木

    その木にはハサミが実っていた。 実っているハサミは先がまるくなった子供が使うようなハサミで、 切れ味も鋭くなくどちらかというと鈍いものだった。 持つところも子供が持つのに最適化されたかわいらしいものだ。 全体的にまるみをおびたハサミはおもちゃといった感じが 当てはまるほのぼのとしたものだった。   ある時、木の下で猫が寝ていた。 するととても強い風が吹いた。 風は木を飲み込ん...

  • 夏の終わり

    蝉が鳴いている。夏が終わるまであと僅かだ。終わりの期日に間に合わせようと必死になって鳴いているように僕には思えた。僕は病室の窓辺で僅かに見える緑を目にしながら蝉の声を聞いている。病気はあまり思わしくなく、将来を悲観的に捉える気持ちもわずかばかり出て来ていた。そんな僕の状況が蝉の鳴き声をそんな風に聞かせたのかもしれない。緑が生だとしたら蝉の声は死だった。生と死の混在しているその世界は窓の外に見えてい...

  • ふっとんだ布団

    「はっ、くしょんっ!うぃ、、」 下からしゃくり上げるようなクシャミが響き渡った。 そのクシャミの圧倒的な声量によってしじまは破られた。 早朝の静けさのなかで過ごす時間。 お香を炊いて繊細なその香りを楽しんでいる最中だった。   最後のうぃが気になった。 くしょんっで吐き出した息を吸い戻した際に出た声がうぃなのだろうか、とかいろいろと考えた。   音の主が気になって窓を開け...

  • 笑う石膏像とパン屑と

    山と山の連なりの隙間を雲が充していた。 凸凹した画面を平らに均すために隙間を雲で補ったように見えた。 山への雲の補完は幻想的で幽玄な場面を作り出している。 地を充した雲は空にもつながりを保っており、 そんな両極性をタクミは羨ましいとも思った。   食パンをちぎって小さな塊にし、その塊を木炭紙に押し付けて乗せ過ぎた木炭を取った。 タクミは石膏像を描いている最中だった。 蛍光灯の下...

  • いま爆破させなきゃ!

    キャリーケースを引きながらタバコを吸っていた。 飛行機のなかでは吸えなかったので10時間以上ぶりのタバコだった。 スパスパ吸って灰は地面に落とした。 落ちた灰は風に吹かれて飛ばされていった。   他の旅行者とぶつかりそうになった。 両手が塞がっている状態での歩行は危険この上ない。 だけどもニコチン切れの離脱症状が出ていたので大目に見てもらおうと考えた。 歩きタバコだった。 煙を...

  • マジックアワー

    力を込めてみた。血圧があがったのか少しだけクラクラした。少し間が空いてからポンっと音と立てステッキの先に花が咲いた。手慣れた動作でステッキの先から花を摘み取ると、グラスに差した。後ろの荷物箱から黒いシルクハットを取り出して頭にかぶる。それから指をパチンっと鳴らした。シルクハットを頭から取ると頭の上にヒヨコが載っていた。もう一度シルクハットをかぶる。指を鳴らす。シルクハットを取った時、ヒヨコはニワト...

  • 野生動物に注意

    高速道路を北から南に向けて移動していた。垂れ込めた重い雲は閉塞感と息苦しさを感じさせた。南に降るにつれて四方を覆う重い雲のカーテンはところどころに綻びが見えるようになった。綻びの向こうは晴天のようだ。だがしかし、雲の向こうに辿り着くことは出来ない。野生動物に注意の標識が目につく頃、高速道路を降りた。山間の道を走らせしばらく山を登る。ガードレールの向こうは林で、木々の合間を猿が群れになり逃げていった...

  • サイレン

    サイレンが聞こえた気がして家の外に飛び出した。 外は真っ暗で小雨が降っている。 サイレンは鳴っていなかった。 少し肌寒い感じがして、 注射の跡が残る右腕をさすりながら家の中に入った。   家に入ってもどことなく落ち着かない。 文机の前を行ったり来たりし、布団に寝転んでみたり、 起き上がっては背伸びしてみたり、屈伸をしてみたりしていた。 1時間くらいそんな時間を過ごしていただろ...

  • 癒しの時間

    放課後の数人しかいない教室。   カナは教室でぼーっと空を眺めていた。 空には穏やかな青空が広がっていた。 その青い空に白い雲がわずかばかりのアクセントを添えている。 そんな空を眺めながら穏やかでゆったりと流れていく時間を感じているのがカナは好きだった。 この時間がカナにとって、学校で唯一好きな時間だった。   遠くから聴こえてくる吹奏楽部の演奏を耳にしながら、ぼーっと空を...

  • 粘性を持った季節とタバコ

    セミの声が二重奏を成して響いていた。 その声は幾層にも重なって独特な世界観を作っている。 夏という季節が持つ独特な世界観を。   その時、ジンは車を停めエンジンを切って、窓を全開に開けタバコを吸っていた。 エンジンを止めるとすぐに、車の中は夏のムワッとした熱気に包まれた。 多重層に重なったセミの声が織りなす協奏の世界に、 自身を同調させるようにジンはタバコの粘性の煙を吐き出した。...

  • 空き地と土管

    空き地に土管が置かれている。 たまにその土管から人が出たり入ったりしている。 時にはとげとげしい毒のありそうな花がひょっこり出てきたりするし、 ヘルメットをかぶった人がハンマーをお手玉のように投げている風景もみる。   土管は子供たちの語らいの場になっている。 土管に腰掛けて将来について語らい友情を育むのだ。   その時も夕暮れの茜色に染まった空き地で数人の子供が土管に腰掛...

  • 天体観測

    その夜は空のすべてが星で埋め尽くされていた。 夜空の所々で星が瞬いていた。 「あれが白鳥座、こっちが射手座、向こうが天秤座。」   夏の星座を指さしながらカンナはそれぞれの神話を話してくれた。 それぞれの星座にまつわる神話は非常に人間的でひどく俗物的だとレイは思った。 それは何万光年も離れていて決して辿り着くことが出来ない星々をとても身近に感じさせた。   「何万年も前の光...

  • オブジェクト指向と宮沢賢治の春と修羅

    宮沢賢治の春と修羅の序にあたる部分を私なりに解釈したものと、その解釈をオブジェクト指向という思想でソフトウェア的にしたものを書いていこうと思います。ふっとした思い付きではありますがお読みいただけたら嬉しいです。宮沢賢治の春と修羅 序とは次のような詩です。春と修羅 序わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です(あらゆる透明な幽霊の複合体)風景やみんなといつしよにせはしくせはしく...

  • 私にとっての世界は作り物だった

                     作り物の青空だった。視界の奥の方に大きな入道雲が出来ていた。子供の頃に見た夏の空そのものだった。悲しみを知らない子供の頃に見た夏の空。それが作り物であった事に気が付いたのはいつの頃だったろう。青空の元、ガマが茂る水辺で木陰の下に置かれたベンチに腰掛けて、父と並んでアイスを食べていた。二人とも無言だ...

  • 宇宙雲

                        「ねえ、あの雲、何に見える?」アカリは雲を指さしながら、そんなことを尋ねてきた。僕は本から顔をあげてアカリが指さしている先を追った。山の連なりの上に大きな雲がかかっている。茜色の空の中、その雲は徐々にその形を崩していく。大きな口を開けた獣のように僕には見えた。「うーん、大きな口を...

  • ぼんやりとした風景

                  「何か見える?」薄くぼんやりとした光が差している窓辺で外を眺めている僕にユカリはそう話しかけてきた。「うんん、特に何も・・・」僕はぼんやりとした返答をする。外には薄曇りの空の下、田舎町のぼんやりとした風景が広がっていた。遠くに見えるあぜ道を軽トラックがゆっくりと走っている。僕はぼんやりとした視線でその軽トラックを追...

  • ゼログラビティ

                             重力をゼロに。質量があるから重力が発生する。重力が発生するから引力が発生する。単体での存在が危ぶまれるとき、お互いに影響を及ぼしあう引力は悪だ。重力をゼロにしてお互いに影響を及ぼし合わないようにする。密林で獲物を待って何十年も休止状態に入るダニのよう...

  • 緑レンジャー

                              その昔、ゴレンジャーという戦隊ものがあった。その中の緑レンジャーが敵に捕まって、敵アジトで洗脳されるというシーンがあった。このシーンが未だに記憶に残っている。緑レンジャーは変身したままの格好で椅子に座らされており、手足を拘束されている。頭に半ド...

  • ひとりぽっち

                 夕方、あと少しで暗くなりそうだ。僕はのそのそと起き上がり、階下に降りていく。リビングは暗くなっている。電灯もつけずに椅子に腰かけてしばらく、ぼんやりと宙に視線を漂わせていた。リビングの掃き出し窓から入ってくる車のテールランプの赤色だけが、唯一の色彩だった。すべてがぼんやりとした紫黒色に包まれている。蛾の羽音がどこからか聞...

  • 月が綺麗ですね

                              さみしい。かなしい。こんな気分になったとき、どうしたら良いのだろう・・・みんなはどんな方法で、さみしさやかなしさを乗り越えているんだろう。弱い私にはどうしたら良いの未だにかわからない。さみしさやかなしさに飲み込まれてしまう。月が出ていた。さみし...

  • ラベンダー

    その頃、ケンジは入院していた。ひとつのことに熱中するあまり、生活リズムを乱し、症状が再燃してしまったのだ。たまちゃんは1日おきにお見舞いに来た。そして限られた時間のなかでケンジとの絆を確かめ合った。ある時、病院の敷地内を建物に沿って散歩した。敷地内にはラベンダーが植えてあって、時折、そよ風に乗ってその香りを運んでくる。「そこ、段差あるから気を付けて」とケンジが言えば、「ケンジくん、お水飲んで水分補...

  • 海の見える町

    もう少し歳をとったら、海の見える町に越そうと思う。その町で海を眺めて、ぼーっと過ごしたい。僕のすれ違いの人生のなかで、僕が僕なりに人と分かり合うために、精一杯の想像力を働かせたように、海の向こうを精一杯の想像力を働かせて想像したいと思う。陳腐な想像力しかない僕だけど、それでも精一杯に想像してみることで、分かり合えた人もたしかに居た。だけども、想像してみたけど分かり合えなかった人たちに涙を流したこと...

  • 空に還るその日まで

    風が吹いていた。湿気のない乾いた風が吹いていた。吹き付ける風のなか、ひとりぼーっと空を眺めていた。視界の隅のほうに風で舞い上がる風草切れが見えた。町の高台にある丘の上にいた。容赦なく吹き付ける風は僕からすべてを奪い消えていった。すべてを失って呆然としている僕はただ丘の上に立ちぼーっと空を眺めていた。僕が何を考えているのか僕自身にも分からなかった。何かを作り出すとか、何か目標を定めるとかの、意味をも...

  • 叔父からの贈り物

    むかし、彼女いない歴=年齢だった私のアパートに叔父から箱入りのさくらんぼが届いた。特に私の好物というのではなく、突然それは届いた。箱を開けてみると、つやつや光っているさくらんぼが詰められていた。見栄えの良さに食欲をそそられ、1粒、取り出して食べようとした、その時、裏面にカビが生えているのがわかった・・・僕はあわてて食べるのを止めた。みると半分以上のさくらんぼにカビが生えているようだった。カビている...

  • ナツハゼ

    駅まで一緒に帰ろうってカンナが言ってきた。僕はカンナのほわほわしている雰囲気に少し意地悪な気持ちになって「いやだ、だってカンナ歩くの遅いんだもん」と返した。僕の返答にカンナはどうしてーって感じの表情を浮かべている。そんなカンナをそのままにして、僕は早足で歩き出した。「あ、待って待って」カンナは慌ててついてくる。駅までの途中の道端に、紅い実をつけた木が咲いていた。カンナはその木の前で立ち止まると、「...

  • 世界のはじまり

    古ぼけた年代物の14インチのブラウン管テレビが光を放っていた。そのテレビは湖の底に沈んでいた。湖の底に堆積しているヘドロのなかで斜めに傾きながら、つぎつぎといろんな色を放っていた。いろいろな光は幾重にも重なりあって様々な映像を映し出す。テレビから魚が飛び出した。その魚はテレビの周りをくるりと回って遠くに行ってしまった。湖の底に沈んでしまったこのテレビの映像をみるのは魚くらいだった。でもそんなのお構い...

  • スーパーオオゼキ

    夜の7時ころだった。私は、スーパーオオゼキで買い物をすませて、家路を急いでいた。民家と民家の間をすり抜けるようにして狭い路地を歩いていた。両手は1週間分の食材などが入った買い物袋でふさがっている。鮭の切り身、ホッケの一夜干し、鯖、牛肉の切り落とし、豚肉、鶏肉の胸肉、豆腐、みそ汁用の貝など、日曜日の夜に1週間分の食材を買い込むのだ。民家と民家の間を歩いていると、民家の1つから住人が観ているのテレビの...

  • 低燃費と効率化

    エネルギーが違うのだとザルうどんを食べながら思った。例えば、ある人は一つの仕事を10年も続けている、なのに私ときたらバイトでさえ5日しか続けられない、この続けられる続けられないの違いは、その仕事に向けているエネルギー量や、その仕事をこなすために必要な消費エネルギー量が一人ひとりで違うからだよなー、つまりは向けているエネルギー量とこなすために必要な消費エネルギー量の差がプラスに触れているか、マイナス...

  • イエス、イチジクの木を呪う

    ある朝、腰が痛くて起き上がれなくなった。寝返りも打てない状態で、呻き声をあげながらなんとか起き上がって、寝巻のままで玄関をでた。玄関脇の鉢植えから朝顔の支柱として設えてあるナンテンの木の枝を引き抜いて、それを杖代わりにして足を引き釣り引き釣り病院に向かった。バス停では、バスがやって来る方の道をきりッと睨んで、苦悶の表情でバスを待っていた。なんとかバスに乗り込むと、座席に腰掛けようとした寸前にバスが...

  • 長女みたいな花

    土手沿いに車を走らせていた。季節は秋の始まりのころ。既に雑草に勢いはなく、また彩りも青々とした、とは言い難く、どこか夏の反動から疲れみたいなものが、草木からも感じられる、そんな頃だった。赤い花がいくつかの群れをつくって咲いていた。彼岸花であった。疲れ切った草木のなかに、いまが我が世の春と言わんばかりに赤を広げて、数週間だけ咲く花だ。それでいて、周りの草木に気を使った風に、赤もそれほど強烈な赤ではな...

  • 連休と三ツ矢サイダー

    ぽかぽか暖かくて、なんだかとっても幸せだった。100円を握りしめて自動販売機にジュースを買いにいく。自動販売機の前には人だかりができていた。その人だかりは旅行者の一団でエジプトのパンフレットを持っていた。次々と自動販売機に100円をいれてエジプト行きのボタンを押している。ボタンを押しては自動販売機に吸い込まれていった。エジプトの隣はスイスだった。商品説明にはスイスの山並みの中に冷涼な空気という文字...

  • 自転車泥棒

    母が運転する自転車の荷台にしがみ付いている、ときおり風が石鹼の匂いを運んでくる。俗にいう母の匂いというやつだ。僕はその匂いに安堵した気持ちを覚えながら荷台にしがみついていた。僕は保育園の桃組だった。家は貧乏のため自転車は買ってもらえなかった。けれども家から出るのが怖い思いがあった僕にはどっちでもよかった。自転車で遠くにいくというか、自転車があれば友達ができるのだ。しかし特に友達を欲しいとも思ってい...

  • 秒針の呪い

    カチッカチッ、時計が秒を刻む。その音を聞きながら、僕はなんとも不安な気持ちになる。秒を聞くことによって、僕という存在の曖昧さを知るからだ。僕はそのなかで過去の自分と未来の自分を体験する。そして、1秒前の僕と1秒後の僕は、本当に同じ僕なのか、という質問を自分自身に問いかける。それは呪いのように僕に絡まりついて、僕の考えすべてを支配する。自分自身に呪いをかけるのだ。自分の存在さえも疑問に思ってしまう。...

  • 夏と秋の狭間で

    柔らかい葛餅を食べていた。黒蜜と黄な粉をかけて。葛餅をフォークで二つに分けると、二つに分断されたその溝を黒蜜が満たした。柔らかい葛餅はぷるぷるしていて、かろうじて形をとどめている。外界からの刺激を受けやすく簡単に二つに分断されてしまう。その葛餅を巡って二人は議論していた。一方は葛餅には形がない派、もう一方は形はある派。形がない派の論旨は、形がないのだから食べ方はマナーを守っていれば何でもいいという...

  • 100円分のため息

    電卓をパチパチ打ちながら「合わないなあ、おかしいなあ」とつぶやいた。手元に123,000円。伝票の合計では123,100円と出ていた。手元の方が100円少ないのだ。時刻は22:49を回っていた。今日中に仕上げる仕事だ。眠い目をこすりながら、もう一回パチパチと電卓をたたく。やっぱり合わない。いい加減お腹もすいたし帰りたくなってきた。ヒカリは自分の財布から100円を取り出した。「じゃあこれで。」と手元のお金にその100円を追加す...

  • 右手の薬指に刺さった棘

    温度計が27度を指していた。 黄色い板に細長いガラス製のメーターがついた温度計だ。 温度を刻むメモリは黄色い板に書いてある。 理科の実験室にあるような、面白みのない温度計だった。 温度計はオーディオの上に無造作に立てかけられていた。 オーディオからはラジオ放送が流れている。 そのオーディオは机に取り付けた棚の上に載っていて、 ワーキングチェアに腰掛け、机に向かうと頭のちょっと上あたりにそのオーディ...

  • 花火

    漆黒の空にドドーンと花火が咲いた。見上げる観客たちの足元を猫は歩いている。猫は子猫へのもとに急いでいた。花火を見るために露店が並んでいて、そこから出た食べ残しを子猫の元に運んでいる最中だったのだ。この猫たちは野良猫だった。雨の日には雨に打たれ、風の日には親子で身を寄せ合い雪の日には寒さに身を縮こませ、それでも親子で楽しく暮らしていた。決して楽ではなかったが、それでもその暮らしの中で楽しみを見出して...

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