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悪夢に魘されて飛び起きるのでもなく、浅い眠りのままぼんやりと覚醒するのでもなく。瞼越しに感じる光が徐々に身体を包み、日向の中で、穏やかな気持ちで、目を覚ます。溜め息から始まるのではなく、清々しい気持ちで迎えた朝。しっかりと休息を得た身体は軽く、心も弾む。思考もクリアで、アルフレードは早々にベッドに別れを告げた。ぐーっと両腕を上げて身体を伸ばし、夜着の上に薄手のカーディガンを羽織る。寝室を出る足取り...
国境を越え、いくつかの都市を抜けて。アウトバーンからの景色を楽しみながら、ウィーンからミュンヘンまでのおよそ4時間30分の道程をたっぷりと堪能して。美しいオレンジ色の屋根が建ち並ぶ中に聳え立つ近代的な高層がビルが見えてきた頃には、すっかり陽が暮れていた。ミュンヘンの空が夕日に染まる頃には帰り着いている予定だったが、つい寄り道を繰り返してしまったな、とフルアは口端をそっと緩めた。助手席には、先ほどから...
身体に染み込んだ習慣から呼吸のように自然に後部座席のドアを開ければ、不思議そうな眼差しを向けられる。ドアを開けられることなど初めてではないだろうにどうしたのだろう、とフルアも疑問を滲ませた視線をアルフレードに向けた。「アル君?」「えっと、前じゃダメですか?」「はい?」助手席に、とおずおずと指を差され、そこでようやく合点がいく。彼を乗せるときはプライベートな感情が優先されるとはいえ、上司であるハイン...
ヒュッと、息を飲む引き攣った音は悲鳴に似ていて。ハインリヒは足を止め、その音の先を見た。瞳は見開かれているが、その焦点は虚ろで。頭で考えよりも先にハインリヒは呼吸を忘れて微動だにしないアルフレードの肩を抱き寄せた。搭乗ゲートへ急ぐ者、次の目的地に向かう者、長旅を終えて帰って来た者たちが入り混じる国際空港のコンコースは鉄道の最終便が迫る時刻であっても賑わっている。大きなキャリーを引く者たちが訝しそう...
www.xifuren.work 6/25にロジカル真王の第10話がコロコロオンラインにUPされましたが、いやぁ、衝撃の展開でした。 ※この先はネタバレを含みますので御注意ください。 カズシグ初描きだったのに 前回の記事で「カズシグの関係の発展も楽しみ。シュウバル並みに【腐】な展開をしてくれるといいなぁ」と記したばかりなのに、そんな二人がトーナメントの第一戦で対決することに。ああこれ、初っ端からシグマが負けて消えるパターンじゃん。そんでもってこの先、カズは並み居る強敵を苦労の末に倒していく、一方の京は順当に勝ち進んで、決勝戦はこの二人ってことになるんだろうな。ただし、カズが京にあっさり勝つとは…
www.xifuren.work るろ剣の1期が完結、呪術2期は今月いっぱい、ジャンフェスに於いてはその呪術とヒロアカの原作連載が来年中に完結という情報が上がり、当のヒロアカと鬼滅が春からアニメ開始、幽白実写ドラマは話題沸騰……ジャンプ系のネタが次々に出てくるのですが、今一番語りたいのはやはりベイX【腐】じゃあないかってんで、そっちを優先してしまいました(笑)。カテゴリが偏らないようにするという誓いはどこへやら、ここのところずっとベイXだな。まあ、いいか。 つーことで、今回は【腐】ネタです。ブログのメインタイトルでおわかりのとおり、このブログは基本的に腐った話を提供しているのですが、最近の記述…
SLAMDUNK2️⃣2️⃣ サークルよもやま話Ⅻ 過去本紹介③(完結)
www.xifuren.work 前回のスラダン関連記事はこちら☝ よもやま話はこちら☟ www.xifuren.work スラダンに関する記事は8月以来、ほぼ半年ぶりですね。ここのところベイX一色って感じで、まあ、今最も支持しているジャンルの最新作であり、原作は連載中、アニメも放送中だから勢いがあって当然なんですけど、他のジャンルもまんべんなく取り上げようというスタンスが崩れつつあって、さすがにそろそろスラダンもやるべきかと。ひとつ前に何書いたのか、次は何のネタだったか忘れているからね、 それでは1994年頃にサークル活動していた当時の薄本紹介、またまた続きを記して参ります。過去本の紹介はこ…
www.xifuren.work 前回の記事はこちら☝ 【腐】ネタはこちら☟ www.xifuren.work ベイXについてはアニメの15,16話と原作8話の所感が控えているのですが、その前にどうしても【腐】について記事を上げねばと思った次第。そもそもはアニメ14話の初っ端「プロポーズに失敗したクロム」さらに「クロムの手は取らないけどバードならOKのエクス」というトンデモ展開だったせいで、クラスタ間での【腐】が加速したんじゃないかと思いまして。あんなん見せられたら誰だって勘繰るし妄想する(語弊)。 つまりクロエク、クロム×エクスは有りだと思っています。逆は考えにくいしね。【腐】やるなら、相手…
新公開サイト『B-NOVEL』さまのご紹介+ブレバンの腐向け虹創作SSを投稿しました……_(:3」z)_
こちらへのご報告が遅れてしまい、大変申し訳ありません。 え〜、有島、実は新規公開された投稿サイトのβ版を使わせていただいてました。 それが、⬇︎これ!! こちら⬆︎はリリースのお知...
大人が抱えても腕が回りきらないサイズの大きなテディベア。ふわふわと柔らかな毛並みは蜂蜜色、真ん丸の瞳はチョコレート色。あれはいつだったか、お前に似ていると思ったら買っていた、と言ってそれを脇に抱えて帰って来たその人は、今。ぐったりとソファに沈んで大きな溜め息を吐き出している。オートクチュールの上等なスーツが皺になることも構わずに横に脱ぎ捨て、首元でだらしなく緩めたネクタイを乱暴に抜き取って放り投げ...
何故、彼ばかりが。何故、と繰り返し溢れてくる言葉をハインリヒは奥歯で噛み殺した。骨が軋む嫌な音が頭に響いたが、それには構わずにベッドの縁に腰を下ろして拳を握りしめる。いっそ感情のまま喚き散らかし、壁か床に叩きつけてしまおうか、とその拳を振り上げた。歯痒さやもどかしさは焦燥と苛立ちを伴い、すでに冷静ではない。引き結んだ唇を解けば、そこから怒りや憎しみが止め処なく溢れそうになる。水が沸くようにふつふつ...
果たして危惧は危惧で終わったのか。いつもの夜が過ぎ、いつもの朝を迎え、いつもの日常が過ぎて行く。すでに2週間。アルフレードが「憂鬱なニュースを見てしまった」と引き攣った苦笑を見せたあの日から、2週間が経った。あの日、彼を1人にしてしまうことに不安が拭えずにダイトの医院に出向くように仕向けて。違和感に気付いたフルアに問い詰められ、彼から状況を聞いたグラースが慌てて執務室に飛び込んできて。自分たちもアル...
ペーパーレスの時代とは一体なんなのか。積み重なっていく書類の山を前にうんざりした顔で溜め息を吐きながらも、黙々とそれを崩していた上司の手が止まったことに気付いたフルアはボトルグリーンの瞳を探るように細めた。淹れたてのコーヒーを彼の手元に置き、その端整な顔を窺い見る。世界的な大企業の最高執行責任者。実質のトップというその肩書きは誰もが羨む。白を黒にすることも容易い力を持ち、名声と金も思うまま…と、他...
肌にシーツが触れる。ミュンヘンの街が深い雪に覆われていようともセントラルヒーティングによって全ての部屋は1年中適温に保たれており、寝室の空気も穏やかで。しかし、深夜特有の独特な凛とした静かさにアルフレードの肩が小さく跳ねた。それに気付いたハインリヒが毛布を引き上げ、2人でその中に入り込む。「寒くないか?」「うん、大丈夫だよ。こんなにもあったかい」子供のようにぎゅうと抱き着いてくるアルフレードにハイン...
ほのかに甘く、日向のような優しい香りが鼻孔を擽る。ネクタイを首から引き抜き、ソファの背に身体を預けたハインリヒは大きく息を吐き出した。両肩に圧し掛かっていた息が詰まるほどの重たさは、大仰な肩書きに伴う責任と覚悟の質量。用意されたたった1つの椅子が置かれているのは、目が眩むほど高い場所で。そこで味わう孤独は、まるで上下さえ分からなくなるほどの闇の中に取り残される感覚に似ている。どこに進むべきか、そも...
窓の向こうに広がるのは、白銀の世界。木々も家々も雪に覆われ、そこにあるはずの色を覆い隠している。動物の気配もなく、シンと静寂に包まれた夜はどこかもの哀しい。だが、星の明りに照らされて淡く輝いているその光景にアルフレードは瞳を煌めかせた。美しい、と思う。凛と静謐な空気と頭上に広がる満天の星空、そして、暖炉の中で薪がパチパチと爆ぜる音。そのどれもが完璧な芸術作品のように存在している。心が、弾む。自然と...
地中海の中央に位置し、様々な歴史と文化が入り混じった島国マルタ共和国。色とりどりな船が港に持ち帰ってきた新鮮な魚介類は島民の生活を支えるだけではなく、世界中から訪れる観光客の胃袋も満たす。調理法は隣国のイタリアの影響が強く、トマトやオリーブオイルを使ったものが多いが、アラブから運ばれたスパイスや調味料も多用される。文化が交わる島らしい料理の数々に、ハインリヒは感嘆もポーカーフェイスも忘れてエプロン...
地中海に浮かぶ5つの島々からなる、マルタ共和国。マルタストーンと呼ばれる蜂蜜色の石灰岩で造られた建築物が立ち並び、中世の息吹が今も感じられる美しい国だ。「ガラリア」と呼ばれる通りに突き出た特徴的なバルコニーは赤や黄、青や緑に彩色され、マルタストーンとの鮮やかなコントラストは見る者の足を止めるほど壮麗で。“ルネッサンスの理想都市”と謳われたかつての栄華に感嘆を零すだろう。近代では1989年12月3日に44年続い...
至急対応して欲しい案件がある、と秘書のフルアから連絡を受けたのは1時間前のこと。担当部署からの報告書に目を通し、いくつかのメールに返信し、やるべきことに片を付けたハインリヒはふぅと小さく息を吐き出した。身体を伸ばし、そのままソファの背に体重を預ける。ラップトップの画面を埋め尽くしている小さな文字や数字がぼんやりと滲み、疲労が蓄積された目頭を解そうと手を伸ばす。と、その指先が眼鏡のブリッジに当たった...
そより、と頬を撫でたのは夏の匂い。微かに潮の香りが混じるそれは、幼い頃を過ごしたイタリアの港町ラヴェンナを思い起こさせる。そこは、哀しみと寂しさを置き去りにした町。喪ってしまった日常や奪われたいくつかの未来を直視することができず、遺されたアルバムを開くこともできなかった。だが、今は違う。彼らと共に過ごせた時間は決して多くはなかったけれど。惜しみない愛情を与えられ、無条件の優しさに包まれ、幸せだった...
ベッドヘッドに積まれたクッションに顔を埋めるように倒れ込んだアルフレードの髪を梳き、ハインリヒは深く息を吐き出した。それに気付いたアルフレードが埋めていた顔を上げて、微苦笑する。「ふふ、お腹いっぱい。食べ過ぎちゃったね」「あぁ。さすがは卿の行きつけの店だったな」マルタ島の伝統的な料理を出すレストランは個人が経営する小さなものだったが、地元の人々が集うその空間には柔らかな時間が流れていた。財界人や著...
断片が、繋がる。「おしまい」と結ばれたはずのいくつかの物語が。舞台を変え、主人公を代え、全く違う景色を描きながら。延長線上に、新しい物語を紡ぎ出す。誰かの祈りが、誰かの願いが、織り込まれていく。昨日が、明日へと。たとえ途切れてしまったとしても、そこで終わりではないのだ。そこからまた、こうして始まる。始められる、とハインリヒは己自身とロザリオを重ねた。このロザリオが見届けてきた時間はそれこそ人間には...
「みっともないところを見せたね」そう言って微苦笑するパスクァーレに促され、ハインリヒは絨毯についていた片膝を上げた。そして、場所を変えてもいいだろうかと問う彼にアルフレードと共に頷き、杖を手にソファから腰を上げた彼に続く。部屋から出ると席を外していた執事のエリゼオがこちらに戻ってくるところで、主であるパスクァーレに慌てて駆け寄って来た。それもそうだろう。長く仕えている主の瞳に涙の跡があれば誰だって...
ロザリオとは、カトリックにおいて祈りの際に使用される数珠状の道具だ。大珠6個と小珠53個が繋がれており、この珠を手で繰りながら「アヴェ・マリア」と呼ばれる祈りを繰り返し唱える。こうすることによって何回祈りを唱えたか正しく把握することができるのだ。そう、故にロザリオは装飾品ではない。だが、アルフレードは幼い頃から「お守り」として首から下げて身に着けていた。夏らしいリネンのシャツの下から取り出したそれを...
足に擦り寄ってきた三毛猫が一度涼やかに鳴き、崩れたレンガの山を颯爽と登っていく姿を見送る。これで何匹目だろうか、とハインリヒと顔を見合わせたアルフレードは笑みを乗せた。「マルタは“猫の島”っていうのは本当だったね」「あぁ、島中どこにでもいるな。どの猫も毛並が良いが、基本は野良なのだろう?」「ほとんどそうみたいだね。でも、みんなちゃんと去勢手術もされているんだって」マルタ島の人口は42万弱。それに対して...
ふと目が覚めて、肩に触れる温もりに視線を向ければ。眠っていると思っていたその人の瞳もこちらを見ていて、ぱちりと交わった視線にどちらからともなく小さく笑う。「ふふ、ハインも目が覚めちゃった?」「あぁ、アルもか。まだ暗いようだが…今何時だ?」「んー、まだ4時前だね」夜明け前か、と呟いて横になったまま前髪を無雑作に掻き上げるハインリヒにアルフレードは瞳を細めた。彼のこんな無防備な姿を見ることができるのは世...
ハニーストーンと呼ばれる優しい色合いの石灰石で造られた建物が並ぶ首都バレッタの街並み。この街は島の北東に位置する岩山に築かれたもので、街そのものが世界遺産に指定されている。高低差が激しく、それ故に複雑に建物が折り重なる光景は圧巻の一言だ。古代から戦いの要塞となり、多くの民族や文明、勢力がこの場所で衝突し、時に交わっては重なり、複雑に絡み合ってきた。そうして生まれた唯一無二の存在は、その背景にある歴...
耳を澄ませば、馬の嘶きが聞こえてくるような。ふと振り返れば、回廊の奥から甲冑を身に纏った騎士たちが歩いて来るような。目を閉じれば、砲撃の煤けた匂いや炎の熱を感じるような錯覚さえ受けた。重厚な門扉を抜けた先にあった光景はそれほどに、かつての姿のままそこにあった。アルフレードのデザイナーとしての才能を見い出し、今はパトロンとしてその活動を支えているパスクァーレの招待で訪れたマルタ島。個人的に所有してい...
空と海の間にあるはずの境界線がない世界を見たことがあるだろうか。見事に溶け合ったコバルトブルーの眩しさに、ハインリヒは胸元のポケットに差していたサングラスを手に取った。執務室という閉鎖された空間で過ごすことに慣れた身体はどこまでも広がる夏の景色に圧倒され、蛍光灯とは比べ物にならない光量に瞳を細める。しかし、ふわりと頬を撫でた潮風は柔らかなもので。痛いほど強い日差しにじりじりと肌は焼かれるが、それを...
世界に名を馳せるブランドの服、それ1つで資産になり得る腕時計、発表されたばかりの新車。つらつらと並べられる単語を前に、アルフレードはゆっくりと首を横に振った。何か与えたい、という彼の気持ちが分からないわけではない。その気持ち自体はやはり嬉しい。だが、それらは自分の身の丈に合わない、と高級ブランドの名前を指折り挙げていたハインリヒにアルフレードはきっぱりと言う。「時計も靴もスーツも全部もうハインが贈...