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生絹とは二年生に進級したときにもおなじクラスになった。心のどこかでそうなるような気がしていたから、とくに驚きもしなかった。クラス分けが張り出されている掲示板のまえで前後になったふたりの名前を見つけたとき、生絹とはこうして一生そばにいるのかなぁとひどくしずかに凪いだ気持ちで思った。それでも、春の光のなかで、おだやかな湯にたゆたうような幸福を覚えた。 生絹。傍らで「またおなじクラスだな」と言ってうれ...
小説サンプル⑯逢魔が時人を喰らうは 文体診断・2 文章校正^^; アイコン変えました
まだ見つからないんですねリブログします早く見つかりますように 私が書きたいのはこういうBL短編小説なんだと実感しています 【小説サンプル・⑯ 逢魔が…
担任のその提案に当初は、子どもっぽいとか、その程度で大学受験を乗り越えられるのなら苦労しないとか、高二の同窓会ってなにか意味があるのかなとか、ぜんぜん乗り気でない意見ばかりが目立った。至極もっともだ、と碧生も思った。手紙を書こうにも三年後という微妙なタイムラグはどうなんだろう、と。 けれど、つぎの週のロングホームルームで担任が便箋と封筒の束を抱えて教壇に立ったとき、なぜか全員が厳粛といっても差し...
寒風の吹き抜けるグラウンドの片隅には長机が置かれ、そのまわりを高校二年生のときにおなじクラスだった男女が取り囲んでいる。ほとんど全員の視線が長机のうえの一抱えはあろうかというぼろぼろのごつい金属の箱にむけられている。碧生たちのタイムカプセルだ。13年間ものあいだ、漂流し続けていた17歳の自分たちのかけら。 もうずっと長いことその存在すら忘れていたのも関わらず、碧生の心はそわそわと落ち着かない。「それ...
プロポーズされるほど、幼い従弟に慕われているが、狐には逃れられないが運命が。神をまえにして、狐は泣いて乱れて、つい本音を・・・。「男ぎらいの狐を神より先に抱く」のサイドストーリー。2000字前後のエッチでやおいなBLショートショートです。R18。俺ら、狐の一族は、
小学生のころ、犬猿の仲だった、いけ好かない美少年。大人になって再会をしたら、思いもよらない頼みごとをされて・・・?2000字前後のエッチでやおいなBLショートショートです。R18。幼いころ、俺は田舎に住んでいた。で、通っていた小学校にいけ好かない同級生がいて。色白
「ねぇ、どうして?」 やっと絞り出したふるえる声で碧生は訊ねた。傷つけられたのは碧生のはずなのに、なぜか生絹がひどく傷ついている気がした。「どうして……どうして、こんなことするの?」「な、これで、碧生はいつだって左手を見れば俺を思い出せるんだよ」「こんなこと、しなくても……忘れたりしないのに」「言葉だけの約束は弱いんだ。ちゃんと物理的に残しておかないと。俺には碧生以上に大切なやつがいないんだから。碧生...
嬉しくて 嬉しくてリブログをリブログしちゃう わたあめさん⸜(*´꒳`*)⸝有難うございました 💕︎ ん十年前に比べると、だいぶ世間に浸透して来…
うたうような調子で、楽しげに生絹が碧生の名を呼ぶ。その声が魂がここにないようなまなざしとひどくちぐはぐで、碧生の背を悪寒が這いあがった。どうしたの?訊きたいそのひと言が、どうしても出ない。「碧生、手を貸して」 悪い魔法というのは、ああいうふうなものなのだろうか。碧生はうっすらといやな予感を覚えながらも、催眠術にでもかかったように生絹の手のひらにゆらりと手をゆだねた。 つぎの瞬間、脳天まで貫くよう...
生絹が「化学室に参考書を忘れたからいっしょに取りに行こう」と碧生を誘ったのは、高校一年生の秋、碧生が生絹と出会ってもう半年以上がすぎようとしていたころの放課後のことだった。 面倒だなぁとすこしだけ思いながらも、ところどころが欠けているすのこをがたがた言わせながら渡り廊下を連れ立って歩いて、化学室のある第三校舎までむかう。もうすぐ陽が落ちようとしていた。燃え立つようなオレンジ色の陽はすべてをあま...
バスのアナウンスがのどかな声でつぎは高校前、と告げる。バスのなかの泡のようなざわめきがひときわ大きくなるとともに、碧生はふっと冬枯れの木々が空に梢を伸ばす景色に引き戻された。また回想にふけっていたことに気がついて、しっかりしろと自分に言い聞かせる。 それなのに、心のなかで厳重に封をして、閉じ込めて押し込めて普段は忘れたふりをしている数々の記憶の蓋が、丘野と言葉を交わしたのを皮切りにつぎからつぎへ...
けれど、碧生はどれだけの理不尽な束縛を受けようと、生絹のそばにいたかった。そばにいられさえすれば、ほかの級友たちの目も気にならない。クラスで孤立してもいい。ふたりぼっちでいい。 自分でももう、どうしてなのかわからなかった。二重底になった心の奥では、芽生えはじめていた自分の本音の帯びる熱に気づいていたのかもしれないけれど。ただそのときは、親愛からも友愛からもかけ離れたところで、「碧生だけがいればい...
たとえば。 生絹といつものように碧生の席であちこちとピンポン玉みたいに話題を変えながらだらだらと喋っていたら「おーい、園田」と呼ばれて振り返った。クラスメイトで読書が好きだという男子が、二週間ほどまえに生絹に黙って碧生が貸した本を片手に歩み寄ってくるところだった。 たったそれだけで生絹の切れ味のよい不機嫌の気配を感じて、胸の奥がひんやりする。 いつも寡黙で教室でひとり本を読んでいるのがうそのよう...
生絹の碧生に対する束縛の例をあげつらえば、それはもうきりがなかった。 たとえば、週明けの月曜日。「おはよう」と声をかけた瞬間から生絹の機嫌がひどく悪いので、おそるおそる「どうかした?」と訊ねた。針のような声が碧生の心に突き刺さった。「碧生、お前、きのう井上たちとみどり町のショッピングセンターにいただろ」 碧生と目を合わせようともせずに生絹は言う。背中をひやりと、とてもつめたいものが這った。 たし...
ひとりぼっちの生絹。人付き合いの苦手な生絹。けれど、それでも碧生を選んでくれた。 そう思えば思うほど、びっくりするほど賢いのにうまく立ち振る舞えない不器用な生絹がいとおしかった。そばにいたいと思った。 生意気、気取ってる。ひそひそとささやかれる、あるいは聞こえよがしな生絹への反感を耳にするたびに、「だいじょうぶだよ」と視線だけで碧生は生絹に伝えた。その視線にこたえて、生絹はいつもかすかに笑って...
自分のしたいことができず、歯がゆいまま雑誌の仕事をするカメラマン。異色のアイドルを撮ることになったのだが、カメラを向けたとたん、なにもかも一変して・・・。2000字前後のエッチでやおいなBLショートショートです。R18。若い女性むけの雑誌専属の、俺はカメラマン。い
生絹はまるで口癖のように気負いない口調で言う。「碧生がいれば俺はそれでいいから」と。 勇気を最後の最後まで振り絞るような女子からの告白をあっさり断ってしまうとき、口さがないクラスメイトの「瀬尾って生意気じゃね?」という言葉を偶然聞いてしまったとき、「碧生だけがいればいいんだ」とむしろ碧生を安心させるように繰りかえしそう口にする。 まるで選ばれた人間だけが聴ける福音のような言葉だと碧生は思った。生...
「ずっと、探している気がするんよ、ね・・・・・・」 彷徨う彼の視線は確かに一瞬ぼくをみた。 ぼくを見ている。なのに、「・・・・・・えっと、・・・・・・な、なにを?」 そう問い返した都古くんの意識はこっちを向いている。 計登は少しだけ眉を寄せて天井を見た。「なにを・・・・・・? だろう。なにを・・・・・・、なんだろう、」 彼は、首を少し横に倒す。ぼくは動けない。息すらもできない。彼の視線はぼくに向けられている。―――けれど、「・・・・・・でも、わかんない、」 彼は困った様に、瞬きをした。 ぼくをみたのに。 「・・・・・・わかんないんだ、」 彼はぼくに視線を向けたままだ。でも、 時雨さんの瞳には、…
ほかのクラスメイトのまえではいつも涼しげな顔をして、つねに他と一定の距離を保っている生絹が、碧生にだけ笑顔や不機嫌な顔を見せるようになるのに時間はかからなかった。その笑顔に、ぶすっとした顔に、特別な友達だと言外に言われているようでただうれしかった。いまだに、碧生のどこが彼のお気に入りだったのかはわからないけれど。 碧生のほうもすぐに生絹に夢中になった。 ユーモアと怜悧さを兼ね備えた生絹と話すのは...
追記あり 小説サンプル⑪ 沛雨と過誤 時には原稿用紙に起こしてみたり──今年の目標(笑)
前記事でご紹介した心理テスト 『小説サンプル⑩ 気付けば絆されてクマだらけ&心理テスト('ω')ノ可愛いイヴとのloveな生活♡』 アイコン変えましたそろそ…
昨年2022年半ばから、連載形式で投稿していた通称・白露しらつゆの 『健やかなる時も、そして病める時も……あなたに終わりのない幸せを』本当長いなぁって作品*…
ふっと回想から我に返ると、バスのなかはなんとなく聞き覚えのある名前を呼びあう声と「ひさしぶり!」「元気だったか?」などというやりとりに満ちていた。乗車時には気がつかなかっただけで、碧生をふくめ、地元組ではない元クラスメイトがほとんど、同級会会場に指定されている母校にむかうこのバスに乗り合わせているようだった。丘野も通路を挟んでむこうの栗色の髪の女子となにやら熱心に話し込んでいる。 にぎやかな車内...
BLss「『触らないで』と泣く幼なじみは、とんだむっつり助平」
母親の教育の賜物で、下ネタに拒否反応を示す体質の幼なじみ。彼への思いと劣情を隠しつつ、接していたのが、ある日、トラブルに巻きこまれて・・・。2000字前後のBLショートショートです。R18。俺の幼なじみ、清志は性的なことへの拒否反応が尋常でない。原因は母親。夫に十
販売中のBL短編集「祭りに狂い乱れる男たち」の電子書籍のサンプル。収録されている十作の冒頭を読むことができます↓趣味で全国の祭りに参加している男。今回は初めて褌をつけたのだが、打ちあげのときに、酔った地元のおっちゃんが手を伸ばしてきて・・・。2000字前後のエ
昔から祭りずきだった俺は、社会人になってから、全国を回って参加をした。神輿の担ぎ手をはじめ、どんなハードで難しい役を任されても大歓迎。が、今回だけは、乗り気になれず。なんたって、褌の着用が求められたから。裸にはっぴを羽織ることはあれど、今の時代、褌とは、
なんとか笑いの波を飲み込んだらしい彼は、それでもまだ声をふるわせながら言った。「頼む。『もめん』はやめてくれ。俺、瀬尾もめんなんて名前いやだよ」「……じゃあ、これ、名前なの?」「そう。これで『すずし』って読む」 変わった名前、とちいさくつぶやく。声を拾っただろうに、生絹は気分を害するふうでもなく「だろ?」と笑って「4年前に死んだ父親が絹織物を扱う仕事しててな。そこにちなんでるんだ。生絹ってのは生糸...
瀬尾生絹(すずし)と出会ったのは、碧生が高校一年になったばかりの春だった。 大なり小なりの差はあれど、みんな鋭意作成中というふうなおさなさの残る顔立ちをしていたなか、生絹は同い年とは思えないくらいに完成度の高い、むしろすこし怖いくらいに整った目鼻立ちをしていた。ほっそりした背中をいつもまっすぐに伸ばしていた。入学してすぐのころは、女子たちが川のなかの小魚のようにさわさわと騒ぎながら、彼を遠巻きに...
こちらを見る瞳に軽く首を振った。「いや、普通に大学に進学して、最初は一般企業に入社したくらいだよ」 碧生が答えると、「すごいね、13年もあればなんにだってなれるってことだよね」と丘野はくりくりした瞳を瞬かせて真顔でうなずいた。碧生は自分をそんなたいそうに考えていないので、若干の戸惑いを覚える。 なにやらひとり納得しているようすの丘野は楽しげに言う。「けど、むかしから園田くんってものすごくきっちり...
規制ぎりぎりで配信しているエッチな動画にはまっている大学生。いつものように動画をたのしみ、投げ銭をしていたのが、ここぞというときに放送事故が・・・?2000字前後のえっちでやおいなBLショートショートです。R18。今、はまっているのは、ツインテールの美少女「タキト
「ありがと、わたしひとりだったらきっと落っこちちゃってたよ」 そう言って笑って碧生を見上げた母親は、赤ん坊をあやしながら「川瀬美星です、覚えてる?」と言った。 聞き覚えのない名前に首をかしげると「あっ、ごめんね。旧姓は丘野。丘野美星」と軽やかに訂正が入った。なんとなく天体観測を彷彿とさせるこちらの名前の記憶はあったので、「覚えてるよ。図書委員で一緒だったね」と答える。 結婚してもう7年経つからつい...
ふるさとの地を踏むのは高校卒業以来はじめてだった。なつかしさを覚えるより足元がざわざわと落ち着かないような奇妙な感覚だ。ふと間違った世界に入り込んでしまったような。 山間の鄙びた温泉街は町を出たときとほとんどなにも変わらないように思える。駅前に並んで三軒あったはずの土産物屋が一軒減っているところをみると、どうやら衰退の方向になだらかにゆるゆると下っていっているのかもしれないけれど。 ぼんやりと駅...
「見つかった、のか」 ふたたびのひとり言とともに見あげる、アイボリーホワイトの天井のシーリングファンを埃がうっすら覆っていた。めんどうだ。また掃除をしなければ。 そんなことをつらつらと思いながらも、碧生の心ははるかむかしの高校時代に飛んでいる。 古い校舎の廊下に反響する上履きが床にこすれる音、チョークと埃の混ざりあったような教室のにおい、休み時間ともなれば学校中を覆ったはじけるような笑い声、配られ...
その風変わりな同級会の開催を知らせるはがきを見つけたのは、たまたまのことだった。 仕事先でもらってきたラングドシャを食べようと紅茶を淹れてカップをソファーテーブルに置いた。その拍子に、郵便受けから抜き出してきてそのままテーブルの端に置いてあった郵便物の小山がばらっと崩れた。 ダイレクトメールやチラシ、公共料金の引き落としの連絡票にまざって妙に目を引いたのは、そのなかに一枚だけあったなんの変哲もな...
ときどき見る夢がある。真っ白で、真っ黒な凍りついた悪夢。 夢の景色はこうだ。 小雪のちらつくなか、広い雪原にたたずんでいる。すこし離れたところから、ブレザーを着た端正な顔立ちの男子高校生が黙ってこちらを見返している。表情に浮かんでいるものを読み取ろうとするけれど、うまくいかない。 上着を着ていないのが寒そうで、上履きを履いた足がとてもつめたそうで、歩み寄り手を取ってこちらに引き寄せようとする。あ...
「それでいいの?」と小窪がすこし笑った。緊張がゆるんだのか、おさない笑顔だった。すこしだけ、と僕は言う。「すこしだけなら、怖くない?」小窪がうなずく。あらためて向き合うかたちで座りなおして、その唇に唇を重ねた。ただ重ねるだけのキスだったのに、とても気持ちがよかった。これ以上のあれやこれやはもっともっと気持ちいいんだろうなぁという煩悩がよぎりはしたものの、実行には至らなかった。ただ、小窪をこわがらせ...
からめた指先でゆるく手をつないだまま玄関ドアをくぐる。背後のドアの閉まる音がいつになく大きく聞こえた。指を離して施錠し、上がり框で小窪を抱きしめた。指先まで心臓になったみたいに鼓動がうるさい。小窪がそろそろと僕の背に腕を回す。なにも言わずに抱きしめあったままで、お互いのにぎやかな鼓動をそっと交換した。ほんとうのところ、女の子じゃない身体を感じたら、小窪も僕も淡い夢から目覚めるように「これじゃないな...
僕の手をそっと離すと、小窪は「僕にはいま、榎並くんしかいない」とまっすぐな目で言った。ちょっと怖いくらい、直線的なまなざしだった。「夏休み、毎日ピアノを聴いてくれて……しかも、わざわざ聴きにきてくれた日もいくつもあって、話を聞いてくれて、じいちゃんが倒れて混乱しているときに優しくて。言葉が足りない僕のことをちゃんとわかってくれる榎並くんが、僕には必要だよ。榎並くんがくれる気持ちにこたえたいし、僕だっ...
数学を愛して、生徒を蔑む高校教師。その視線によからぬ感情を抱く生徒が、とうとう我慢できず・・・。2000字前後のエッチでやおいなBLショートショートです。R18。「数学を愚弄するやつは万死に値する」授業でたびたび数学担当の先生は、そう告げる。言葉どおり、数学の勉強
そのピアノの旋律が耳に入ってきたのは、駅のロータリーに差し掛かったときだった。スピッツの『スターゲイザー』だ。あっ、と思いふわふわとした足取りのまま駆け出す。躓きそうになりながらも駅前広場に辿りつけば、案の定、小窪がピアノに向かっている。両手の指がいっさい迷うことなく鍵を押し、メロディを奏でている。「小窪!」名を呼ぶと、旋律がやんだ。榎並くん、と振り返った小窪はただにこにこ笑っていて、しあわせそう...
はじめてLINEの小窪とのトークルームにふきだしが浮かんだのがその一週間後の金曜日の夜だった。驚いたことにトークはじめてのメッセージは小窪からだった。漫画雑誌を読んでいた僕の頭から、おもしろいと思っていたはずのストーリーが瞬時に吹き飛んでいく。『あした、12時に駅ピアノのところで待ってる』急に走り出したせいでひっくり返りそうな心臓をもてあましながら、みじかいメッセージをなんども読み返す。これは、返事をさ...
翌日からも小窪は屈託なく僕に笑いかけ、話しかけてくれた。昼食の弁当を一緒に開くようにもなった。僕のとなりでひろげられる小窪の弁当は彩りがきれいで、大事につくられているのがよくわかる。こんなふうに育てられたんだろうなぁと、勝手に弁当から生い立ちを思った。天高く馬肥ゆる、という感じの秋晴れの昼休みだった。あいかわらずきれいな色彩の弁当を食べながら小窪が言った。「そうだ。高校卒業したら弟子入りする人が決...
高校の最寄り駅まで並んで歩き、改札を抜けて電車に乗ると小窪はちいさく息をついた。「どうなっちゃうのかな」うん、とうなずく。小窪の祖父が師として彼を導けなくなったあと、小窪はだれを頼りに箱庭の木を植え、花を咲かせ、うつくしい庭を保てばいいのだろう。「じいちゃんの伝手で、弟子入りさせてくれそうな人をあたってみてはいるんだけど」えっ、と小さくつぶやく。この地域にそうそう調律師を生業としている人はいそうに...
2023年! 今年も宜しく*° 小説サンプル⑧『犯りのめし手枷』今年も熱いvoyageも宜しく♪
2023年美しく明けまして 今年も宜しくお願い致します 慌ただしく過ぎ去った2022年 創作を思い出し、昔のようには出来ないけれどと 新たにペンを執った…
言葉を尽くして伝えながら、強く思った。花が盛りを終えて散って、若葉が芽生えて生い茂り、花が咲いていたことすら忘れるまえに、やがてすべてが失われるまえに、小窪に想いを伝えられてよかった。ほんとうによかった。どきどきと速い脈を心臓に隠して、意識して口角を持ち上げる。気持ち悪かったらごめんな、と小窪に視線を合わせて笑ってみせると、まなざしは意外にも逸らされなかった。「榎並くん」生真面目な声で小窪が言った...
「混乱しているときに、いきなりごめんな。でも、伝えたかったんだ。小窪が将来、どうしたらいいか考えたかったら、僕がいっしょに考える。ほんとうに逃げたいんだったら、どこへでも連れて行く。小窪のことが、好きだからだよ」重ねて言うと、血の気の失せた小窪の表情にようやく徐々に赤みがさしていく。ゆらゆらと所在なげに視線がぶれる。「榎並くん」とつぶやいて、恥ずかしそうに僕のシャツから手を離す。離した手は膝の上に...
ゆるゆると髪を撫ぜてやりながら、僕は小窪の壊れてしまった箱庭に想いを馳せる。きっと居心地のいい、日当たりのいい、やさしい場所だったんだろう。その居心地の良さや日当たり、やさしさが小窪には窮屈に思えたにちがいない。ちがうものを見てみたくて、あたたかな場所ばかりじゃない現実の厳しい側面も目にしたくて、大学に行きたいとか、この町を出たいとか、口にしていたのだろう。小窪の生真面目さをこんなときなのにいとお...
寒い朝は、なかなか布団からでられない。愛用の古い毛布を抱きしめながら、それでも起き上がろうとしたのだが・・・。2000字前後のエッチでやおいなBLショートショートです。R18。寒い朝に布団をからでるのは、死ぬほど辛い。とくに俺は毛布に愛着があるから、なおのこと。中
ほんとうにこのまま小窪とどこかに逃げてしまいたい熱情のような衝動は、でもほんの一瞬だった。小窪の声が、しずかに揺れていたから。小窪にゆっくりゆっくり歩み寄ると「どうした?」と顔を覗き込む。うつむいた小窪の眼からぽたん、ぽたんと涙が落ちる。涙腺ではなくて、心が直接泣いているみたいな痛ましい泣きかただった。「じいちゃんが、入院したんだ。もう家には帰ってこられないかもしれない」「……そう、なんだ」「どうし...
残暑がひさしぶりにぶり返した放課後だった。小窪のピアノを聴きたいなぁと思いながら、地学室に置き忘れたノートを取りに第三校舎までむかった。座っていた席から無事にノートを回収して教室の外に出る。ぽろぽろと三階にある音楽室から旋律が聞こえた。メロディを聴きながらついにまぼろしを聴けるほどになったかと思っていたけれど、旋律がスピッツのあの曲になったとたん、ノート片手に階段を駆け上っていた。小窪が、僕を呼ん...
ゆく年くる年……創作に生きた2022年と創作に生きるであろう2023年 ※緊急追加告知^^;
緊急告知2023年明けましてお年玉企画としてpixivBOOHTにL'alliage絵師・フロイントさんのgalleryを公開しています 2023年明けまし…
二学期の滑り出しは上々だった。将来をしっかり見定めている小窪の影響で夏休みのあいだになんとなく勉強に熱が入っていたので、実力テストで思った以上の点数がとれた。それよりなにより、小窪の顔を見て「おはよう」と言えるのがうれしかった。小窪にとってそれが何ら特別ではない言葉にしても。新学期初日、おそるおそる「おはよう」と小窪に声をかけると、それはそれはうれしそうに挨拶が返ってきて、不毛な片想いが勝手にとき...
夏の終わり、小窪の言葉がしずかに、余すことなく心の隅々までいきわたる。小窪にとってもかけがえのない時間だったのだと思うと、僕の独りよがりじゃなくて本当によかったと胸を撫ぜ下ろしたい気分だった。たとえ最後に芽生えたものが、不毛な片想いだったにせよ。連れ立って帰り道を歩きながら、小窪も僕もなんとなく言葉少なだった。分かれ道に辿りつくと、小窪はちょっと笑って「じゃあね、またあした」と言った。ひらりと手が...
僕に、大人びているのに子どもっぽい、ふしぎなまなざしを向けながら小窪が言う。「こうやって演奏するのも、榎並くんが聴きに来てくれるのも、きょうが最後だから」小窪がふっと目を伏せて「楽しかったよ」とつづけた。榎並くんが好きそうな曲を探して、ここで弾くのがすごく楽しかった。そんな、そんな些細な(僕にとっては些細ではないのだけれど)夏休みの日々をとても大事なことのように言う小窪のつむじをじっと見つめた。あ...
それからも、部活帰りに小窪の演奏を聴いて一緒に帰ったり、わざわざ駅前広場まで聴きに行ったりして夏休みを過ごした。小窪の演奏曲のなかにスピッツの曲をちらほら耳にするたびに、胸が高鳴った。小窪の指先の奏でる音楽に、どんな形であれ、少なからず影響を及ぼしている自分が誇らしかった。そして、これは僕のために弾いてくれているのかな、と思うともうどうしようもなく、心を内側からごく弱い力で引っかかれているようなく...
それだけ、と言う小窪は、でも何かほかのことを言いかけたのではないかと思ったけれど、深追いするのはよくなさそうだったので「彼女なんかいないよ」と事実を述べた。疑わしそうに小窪がこちらを見てくるので「ほんとだって。小窪こそピアノっていう大技があるんだし、見た目も整っているし、彼女のひとりやふたり、あっという間だって」と言い聞かせた。言い聞かせながら、そんな日が来たら、たったいま登録されたばかりの僕のLI...
ジムの支援を頼まれた、ある会社社長。渋ったところ、新人の格闘家との食事をすすめられて、つい応じてしまい・・・。2000字前後のエッチでやおいなBLショートショートです。R18。知りあいのオーナーに経営不振のジムの支援を頼まれた。が、俺も手がけている複数の店の経営が
僕は首をかしげる。明るい、と言われたことはあまりないのだけれど。「そんなに陽キャじゃないよ、僕。小窪とそう変わらないって」「そんなことない。クラスで自分がどう思われているかくらい、よくわかってる」小窪はうつむいて、「あんまり取り柄がなくて、ぼうっとしていて、静かでなに考えてんのかわかんないって思われてることくらいはわかってる」とむしろおだやかな声で言った。あきらめているのだろうか、もうそれを軌道修...
翌日、部活が終わるのももどかしく急いで駅に向かった。小窪の奏でるピアノの旋律が聴こえてくると小走りになる。駅前広場のグランドピアノのまえで小窪は初日に弾いていたのとおなじ曲を楽しげに演奏していた。ラストのサビまで弾きおわり曲の余韻が消えると、小窪はきょろきょろして僕に目をとめてかすかに笑った。改めて鍵盤にむきなおった小窪が手をなめらかに動かすと、僕がきのう好きだと言った曲が流れだす。うつくしい、演...
結局、僕のほうはなんとなくそわそわしつつ、夕方になるまでとりとめのない話をしながら過ごした。スターバックスを出て駅の反対側に回り、三日連続で同じ道を歩く。もう日が沈むというのに、まだ身体にまとわりつくような暑さで、小窪に訊いてみた。「暑いの得意?」「好きではないけど、寒いよりましだと思うな……」あぁ、なんとなくそんな感じ、と言葉に出さずに胸のうちだけで思う。小窪はどこか、寒いとすぐ風邪をひいてしまい...
「小窪がこのあたり一帯を箱庭だって言い切っただろ。あれからずっと考えていたけどたしかにそうだな」僕がそう切り出すと、小窪の目が揺れた。実は、と言っていったん言葉を切り、話し出す。「実は、きのう、じいちゃんに大学の話をしてみたんだ。ここは閉鎖的すぎて僕には息が苦しいから、外に出てちがうものをみたいって。そうするのも調律の糧になるんじゃないかって」「そしたら?」「うーん、若気の至りって言われて、それだ...
つぎの日。部活の練習は休みだったけれど、なんとなく家を出て駅のほうにむかってしまった。猛暑のなか、ばかみたいに外に出たのは、ひとえに小窪に会いたかったからだ。歩を進めながら小窪が演奏しているといいなぁと思っていたら、しっとりとしたピアノのバラードが聴こえてきて思わず足を速めた。駅前広場のピアノに静かに目を落とし、きのうまでとは違う雰囲気の流行りの歌を奏でる小窪がいた。ギャラリーはきのうとおなじくら...
きのうのコピーみたいな日差しのなかを、ふたり連れ立って歩く。「じいちゃんに、高校卒業したら弟子入りしろって言われててさ」小窪はぽつりと言葉を落とした。「ほんとは大学に行きたいんだけど、言い出せなくて」それは相当、圧が重い。小窪の横顔をちらっと見た。「なぁ、小窪はどうして進学したいの?」「すこしでいいんだ、箱庭から外に出たい」箱庭?と僕が問うと、小窪はすこしうなって言葉をたぐり寄せるように言う。「こ...
翌日の部活帰り、駅ピアノの音がしないかと実のところ期待していた。だから、きのうとはちがう流行りのポップスが聴こえてきたときには小走りに駅前広場にむかっていた。広場に据えられたピアノのまえで小窪は心底楽しそうに、鍵盤に指を滑らせている。ピアノを囲むギャラリーはこころなしか、きのうより多いような気がした。最後の音が天井にこだましながら消えると、これまたきのうより熱心な拍手が起きた。小窪の名を呼んで手を...
小窪に触発されてというわけではないけれど(いや、そうなのか?)、ちゃんと帰宅後は高校生らしく小論文の課題を終わらせた。しごくささやかな、けれど、ちかりと光る達成感を胸に榎並家の夕食の席に着くと、一応、両親に尋ねてみた。「あのさ、僕に将来なってほしいものとかってある?」「……はぁ?」母親のいぶかしむような声にくじけずにおなじ質問を繰り返す。「いまさら言われてもねぇ。ひとりっ子だから期待したかったところ...
「ばあちゃんはともかく、じいちゃんがなぁ……」小窪はどこか遠い声で言う。おとなしそうな小窪。でも、おじいちゃんとなにか確執があるのだろうか。思って訊くと、「確執っていうか、師弟関係?」と返ってくる。『シテイカンケイ』を漢字変換するのに時間がかかった。暑さのあまりに頭がわるくなっているのかもしれない。「……師弟って、なんの?」僕の疑問に小窪が足をとめたので、僕もつられて立ち止まる。足元の黒い影のうえに汗...
「でも、小窪もああいう音楽を聴くんだな」「ああいうって?」「ノリのいい、大衆受けするタイプの曲」どちらかというと、小窪は自分の好きなアーティストをじっくり掘り下げていそう、と思ったから言った。もちろん、それがほんとうがどうか推し量れるほど僕と小窪が親しくないにしても。「うーん……、聴くってほどには聴いてない。さっき、スーパーのBGMで流れててわりと好きな感じだったから」「えっ?じゃあ、耳コピの即興演奏...
小説サンプル⑤ 『飢餓月 』 フロイントさんからのプレゼント♡ アルバムを作りました*°
前記事、プライベートな写真を公開記事に置いとくのが嫌でアメ限にしました。コメント下さった方はアメンバー申請して下さいねお手間掛けますが、宜しくお願い致します…