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月夜の猫-BL小説です 花のふる日は36 BL小説 「悪いな、小林先生はこれから俺と小説の映画化の打ち合わせがあるんだ」 工藤は後部座席のドアを開けると、千雪を促して乗せ、自分も後から乗り込んだ。 「俺は諦めたわけじゃないからな、千雪!」 ドアを閉める間際、呻くような京助の言葉が千雪の心に飛び込んだ。 バックミ
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は35 BL小説 「自己防衛、するしかないし。大体、俺の人相風体がマスコミのお陰で勝手に一人歩きして、警察がそれに踊らされるやなんて、情けなさ過ぎですわ」 言葉に詰まる渋谷に、クールな笑みを浮かべて千雪はさらに辛らつな言葉を投げつけた。 そこへドアが開いて、西岡警部が入ってきた
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は34 BL小説 「そら、名探偵のイメージは大事やし、ほんまいうと、高校の頃女の子に追っかけられすぎて嫌気がさしてたよって、これなら誰も寄ってこないだろう思て。わかりますやろ? 西岡警部」 不細工の代表のような面構えの西岡警部に千雪がわざとらしくそう言うと、警部はムッとした顔で
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は33 BL小説 「ほう? 別荘ね。どんなしのぎで手に入れたのやらな」 もっとキモいのはこのおっさんや! 何様や思うとんのや! 千雪はまた心の中で毒づいた。 工藤のエロやろうの肩持つわけやないけど、このアンコウオヤジはすかん! 「西岡さん、別荘は工藤さんが曽祖父から譲り受けられ
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は32 BL小説 「今、西岡警部がおっしゃいましたよね、屈強な刑事を『油断させておめおめと殺してしまった』のが犯人ですよ。俺以外のね。渋谷さん、俺用に使てたメルアド、他に知っている人はいてへんのですか?」 すると渋谷は一瞬何かを思いついたような顔で考え込んだ。 「いい加減御託を
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は30 BL小説 昼前には東京に入り、乃木坂にある工藤の会社で一緒に降りた千雪は、タクシーを拾ってアパートに帰り、慌てて着替えて研究室に出向いた。 「おお、小林くん」 そこでちょうど廊下の向こうからやってきた宮島教授に出くわした。 「探していたんだよ、君を。実は警察が来てね…
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は29 BL小説 名探偵というキーワード、さらに容疑者が、ぼさぼさ頭に黒渕メガネ、ダサいジャージという、どこかで聞いたような人相風体に、千雪はのんびり別荘で休養しているわけには行かなくなった。 どうしても気になった千雪は、佐久間の携帯を呼び出してみた。 「あ、先輩! 今、どこ
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は20 BL小説 中軽井沢にある老舗の軽井沢グランドホテルでは、時ならぬ雷の襲来に従業員までがピリピリしていた。 その日はスイートルームと中庭を借り切って朝からドラマのロケが行われていた。 雷の発信源はその辺りにあった。 人気女優やらアイドルタレント上がりの人気俳優やらが来てい
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は19 BL小説 ヤクザと一言ではくくれない、人それぞれの人生があるのだろう。 「けど、いくら晴れとっても寒ない? 俺、手ったおか?」 千雪は社交辞令的に申し出てみた。 「へっぴり腰じゃ、薪割りなんかできやせん」 「部活で結構やらされたよって、ちょ、貸してや」 根が捻くれている
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は18 BL小説 最初は場違いではないかと断ろうとした千雪だが、ミステリーの内容とは別の、文章の美しさにマニアックなファンがいるのだ、ぜひにと熱心に頼まれ、じゃあ試しに一度、と引き受けはしたものの、何を書いたらいいかわからないまま、放ってあったのだ。 千雪はバッグを開いてタブレ
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は13 BL小説 部屋を出るとき、平造が空調の温度をかなり上げていったが、やはりこの辺りはまだ真冬の寒さだ。 部屋が広いだけ、温まるのも遅い。 桜を見るのが嫌でここにきたはいいが、いくら酔っていたとはいえ、こんなところまで拾った男を連れてきたことを工藤は少し後悔した。 モデル
月夜の猫-BL小説です 花のふる日は12 BL小説 工藤にそんな古びた感情を呼び起こしたのは昨今注目を浴びている新進ミステリー作家の一冊の本だった。 桜の絵を表紙にした『花のふる日は』の作者、それが小林千雪だ。 たかだか同じ名前なだけだ、そう思いつつも手に取らないではいられなかったその小説は、どうせろくな話で
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人70(ラスト) BL小説 「速水なんか来やしねぇよ。それに鍵も取り替えた」 しばらく二人は向かい合って座り、そう言葉もなくポトフとワインに集中した。 ポトフは確かに美味かったし、何だか久しぶりな、まったりと穏やかな夜だ。 そのまま朝までまったりと過ごせればなどと思った千雪である
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人69 BL小説 春に同級生が千雪の家に集まって飲み会をやった時に卒業以来ぶりに会ったのだ。 「ああ、俺、ほとんどこっちやし、母親が世話になっとった大学の先生とかに聞いて、親父が部屋を改造して絵を保存できるような倉庫にしたから、そこに置いてある」 絵の保管方法とか、素人の千雪に
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人68 BL小説 「文子さん、速水さん、お忙しいところ今日はありがとうございます」 桐島が笑顔で二人を迎え入れた。 「恵美さん、ほんとに素敵だったわ。こちらこそありがとうございます」 文子が言った。 「いい音楽を聴いて、狭い心が豊かになった気がしますよ」 速水も賛辞の言葉を口にし
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人67 BL小説 「文子さん、さっきの話の続きだが……」 楽屋に向かう廊下で速水は言った。 「京助って男はガキの頃から、見かけで誰かを判断するとか、ないやつだった。高校の時に付き合ってた子は、チャーミングだが別にすごい美人ではなかった。たまたま、その子の親が東洋グループの社員だ
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人64 BL小説 不意に目を覚ましたのは、喉がひどく渇いていたからだ。 少し身体を動かそうとすると、京助の腕が伸びてまた千雪を抱き込んだ。 「……まだ夜中だ……」 「……喉、乾いた……」 すると京助がベッドを降り、「待ってろ」と素裸のまま冷蔵庫からミネラルウォーターを取ってくる
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人63 BL小説 こいつの言うてるんが今限りの言葉やとしても、今はこの腕を離しとうない。 やっぱり、いやや…… 「千雪……」 「…やや、………俺を置いていくな……」 京助は驚いた。 千雪が珍しく本音を口にしたことに。 「……置いてきゃしねぇってっだろ?」 柔らかな言葉が少しばか
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人61 BL小説 夜景は窓一面、静かに広がっていた。 煌く光の渦が少しずつゆっくりと形を変えていく。 上等のワインもひとりでがぶ飲みしたって美味くはないな。 グラスを持ったまま京助は窓の外から視線を戻す。 カレンだったか、理香だったか、いつ誰とこのホテルに来たのかなど忘れてしま
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人60 BL小説 考えてもみ、もし仮に、俺ら好き合うたとして、世間ではそんなん通用せえへんわ。 少なくとも、やさかのおっちゃんらを悲しませるようなことはでけん。 男の俺とどうなるいうんや。 先はわかっとったことなんや。 それでも、あんなつらいのんはもういやや…… 京助みたいなタ
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人59 BL小説 何や? 一体どないしたんや? 俺、おかしい……… 千雪は立ち上がる。 「酔うてしまわんうちに、風呂、入ってくるわ」 「ああ、そっちのドア」 千雪は言われた方へ歩いた。 ドアを開けると、ガラス張りの風呂越しに、港の夜景が飛び込んできた。 ここからはベイブリッジもく
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人58 BL小説 「くだらん揚げ足取るなや! 文子さんにも、お前に今つき合うてる彼女いてるかて、聞かれたから、いてないて言うたった」 千雪は京助を睨み付けながら言った。 「ほう? いつの話だ?」 「飲み会の夜や。文子さんはやっぱお前のこと好きみたいやし、より戻したったらええんや。