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『気をつけて。ホントにホントにホントに気をつけて』という節子の言葉を守り、安全運転を心がけながら灰谷は自宅に向けバイクを走らせていた。 結局、真島が友樹を開放したのは夕食をすませてから一時間後だった。友樹はニコニコとイヤな顔ひとつ見せず真島のゲームに付き合っていた。真島が可愛がるのもわかる気がする。 それにしても……真島の噂の件、あのオレをアオるような態度はなんだったのか。 『お二人、仲がいいから、真島ブラザーズなんて言われるボクとしてはちょっと嫉妬しちゃうんですよね』 嫉妬、とか言ってたけど。ただオレの反応見て面白がってるって感じもあったし。 『さっきだってボクの存在忘れちゃってたでしょ。ま…
♪フンフフン~ 鼻歌まで飛び出して、皿を洗う節子は上機嫌だった。 となりに並び灰谷はせっせと皿を拭く。 『誰かと一緒に台所に立つっていいわね』と節子が言ったことを覚えていた灰谷は機会があれば手伝うようにしていた。 「ボクも手伝います」と友樹も申し出たが「灰谷がいれば大丈夫だって。ゲームっ!ゲームっ!」と、真島に引っ張られていった。ほどなく真島の父も帰ってきてダイニングテーブルで晩酌を始めた。 「プハー。ウマイっ。夏には夏の。秋には秋のウマさがある」 テレビCMのように美味しそうにのどをならし、ビールのコップを空けると真島の父・正彦は誰にともなくそうつぶやいた。鼻の下に泡をくっつけたまま満足そう…
食事会のメニューもギョウザメインの中華に決まった。こりゃあ楽しみだぜっとオレは思ったけど、灰谷的にはどうなんだろうな。 「そうだ、おかず足りた?」母ちゃんが聞く。「あ~灰谷が唐揚げバクバク食うからさ~」とオレがボヤけば、「ウマいからな節子の唐揚げ。世界で一番ウマイ」灰谷がさらりとつぶやいた。「もう~灰谷くんったら~」母ちゃんの顔がパッと耀く。 もう~そういうとこ。そういうのを、たらしてるって言うんだぜ。 「早くお婿に来て来て~」「じゃあ高校卒業したら」小さく笑いながら灰谷が返す。 おっ、灰谷がノッた。 「来て来て~。マコ、あんたからもお願いして」「だからマコやめろって。なあんでオレがお願いすん…
「ホンっトにオマエは……」 え?え?オマエは……何? オレは灰谷を見つめて言葉の続きを待った。 ――――この顔って。ええと…。これって……もしかして呆れてる?オレ、なんかヘンな事言った? が、灰谷はそのまま何も言わずにくるりと背を向けるとドアを開け、部屋の中に入ってしまった。 な、何? なんなの。なんで「ホンっトにオマエは……」でやめちゃうんだよ。ってか何あの顔。なんかもうこいつ……みたいな表情。あんな顔、はじめて見た。何なにその思わせぶりなやつ……。オレなんかした?ええ~? なんだか胸ん中をワチャワチャさせながら部屋に入る。 「マコ先輩、コーヒーおいしいです」友樹がカップ片手に微笑んだ。 「…
食事会のメニューもギョウザメインの中華に決まった。こりゃあ楽しみだぜっとオレは思ったけど、灰谷的にはどうなんだろうな。 「そうだ、おかず足りた?」母ちゃんが聞く。「あ~灰谷が唐揚げバクバク食うからさ~」とオレがボヤけば、「ウマいからな節子の唐揚げ。世界で一番ウマイ」灰谷がさらりとつぶやいた。「もう~灰谷くんったら~」母ちゃんの顔がパッと耀く。 もう~そういうとこ。そういうのを、たらしてるって言うんだぜ。 「早くお婿に来て来て~」「じゃあ高校卒業したら」小さく笑いながら灰谷が返す。 おっ、灰谷がノッた。 「来て来て~。マコ、あんたからもお願いして」「だからマコやめろって。なあんでオレがお願いすん…
「灰谷く~ん。座って座って」 居間のテーブルの上に料理本やらレシピノートやらを広げた母ちゃんがソファから嬉しそうに手招きする。久子母ちゃんの婚約が嬉しくてたまらない母ちゃんは何日も前からあれこれと食事メニューの案を練っていた。 「久子さんとの食事会のこと、ちょっと相談させて」「はあ」 母ちゃんの向かいのソファに灰谷が腰を下ろす。オレは灰谷側のソファの肘掛けにケツを半分だけのっけた。 「和洋中どれがいいかしら~。久子さんはイタリアン好きよね。お相手もお好きかしら」「さあ?一度しか会ったことないんでオレ」「あら、そうなの?」「はい」「じゃあ、わからないわね~」「わからないっすね」 灰谷は気持ちいつ…
「しっかし、モノの少ない部屋だな」 一人になった友樹はあらためて部屋をぐるりと眺め、つぶやいた。 ベッド、勉強机、テレビの載ったAVラック、食事ののった折りたたみ机、家具はそれだけで全体にがらんとした印象だった。 ふらりと立ち上がり、クローゼットの扉を躊躇なく開け、中を眺める。 「服、少なっ。ボクの百分の一じゃん。逃亡犯かよ。うわっ、ダサッ」 扉についた鏡に映る自分のジャージ姿を見てつぶやく。 「スポーツブランドを私服にするのってなんかなあ~。趣味じゃないんだよな」 クローゼットの扉をしめるとゲームやマンガが整然と並んだAVラックを眺め、机の引き出しを下から順に開けた。プリントの入ったファイル…
真島がいなくなると部屋にピンと張り詰めた空気が流れた。 パリパリパリパリと灰谷がレタスやキュウリを噛む音だけが響く。しばらくして友樹が口を開いた。 「言わなかったでしょ?」 「……」 灰谷はバリバリと野菜をかみ砕いた。 バリバリバリバリ。 「灰谷先輩、あの時ボクに言いましたよね」 あの時……。真島についての悪質な噂を聞いた時の事か。 「『真島がそういうヤツかどうか、一緒に働いて自分の目で確かめてくれ。あいつ、いいヤツだよ。オレが保証するっ』って」 よく覚えてるな。 「マコ先輩はステキな人ですよ。灰谷先輩の言葉が、一緒にいてよくわかりました。ボク、大好きだなあ」 バリバリバリ。 つうか、なんなん…
「夏休みにも来てましたよ、お店に。他校の女子たち。ねえ~灰谷先輩」 静かに微笑み灰谷を見つめる友樹。 「そうだっけ」と返した灰谷に、「来てたじゃないですか女の子たち。ボク、休憩中に店の前で捕まって取り囲まれてあれこれ聞かれたんですよ」と友樹が澄ました顔で言う。 先程のやり取りを知らない真島は「ほほう~。相変わらずモテるな灰谷~」とオムライスを頬張りながらちょっと誇らしげな様子だった。 「覚えてねえな」そう返すと灰谷は友樹に鋭い視線を投げかけた。 それをさらりと受け流して友樹がさらに明るい声で続ける。 「ホントに覚えてないんですか?灰谷先輩」 「ああ」ぶっきらぼうに灰谷は返す。 「灰谷、オマエ、…
「友樹、どんどん食えよ」「いただきま~す」「唐揚げ、ほれ唐揚げ食べろ。うまいから。そんでポテサラな」 真島は友樹の皿にポテトサラダを盛りつけた。 「うんま~い!」唐揚げを口に入れた友樹が声をあげる。「マコ先輩のお母さん、料理お上手ですね」「だろだろ~って、なんだよ友樹、急に。マコやめろって」「いや、マコってなんかカワイイなと思って。あっポテトサラダも美味しい」「だろだろ。っていやいやカワイイもやめろよ。かわいくねえし。なあ灰谷」 真島の向いに座った灰谷はスマホの画面を見ながらオムライスをモリモリ頬張っている。 「今日のオムライスどうよ」「ウマい」「食事中に行儀悪いなあ。さっきから何見てんのそれ…
「服、大丈夫でしたか?灰谷先輩」 真島がいなくなると友樹が灰谷に話しかけた。 「ああ。大丈夫」 盛大にぶちまけたと思ったが被害は案外少なかったようだ。服よりもベッドカバーの方が濡れている。まあでもこれは自業自得だ。 濡れたところを避け、灰谷はまたベッドに寝転がった。 「灰谷先輩。マコ先輩ってカワイイですよね」 一人対戦モードでゲームをしながら友樹が言う。革ジャンの画像を見つめていた灰谷は首をひねる。 ……カワイイ?『カワイイ』か?『カワイイ』と『マコ』は真島の地雷なんだがな。 「見た目もですけど中身がっていうか。そう、なんかまっすぐでロマンチストなんですよね」 そんなかな、あいつ……。ああ。ま…
『ナツノヒカリ』続編 『アキノワルツ』、読んでくださってありがとうございます。 取り急ぎお詫びしなければならない事があります。 本日5月10日(水)『アキノワルツ』10話の更新を済ませた後、何気なく記事一覧のチェックをしていた所、『アキノワルツ』第5話の更新がされていなかったことに気がつきました。 本来なら4月29日に更新されたいたはずのものです。 ブログをFC2からはてなブログに移す際、うっかり落としてしまったようです。 先程4月29日の日付で更新しました。 ↓ 下記リンクからお読みいただけます。↓ ku-ku-baku-baku.hatenablog.com お話はなんとか繋がっていなくも…
「服、大丈夫でしたか?灰谷先輩」 真島がいなくなると友樹が灰谷に話しかけた。 「ああ。大丈夫」 盛大にぶちまけたと思ったが被害は案外少なかったようだ。服よりもベッドカバーの方が濡れている。まあでもこれは自業自得だ。 濡れたところを避け、灰谷はまたベッドに寝転がった。 「灰谷先輩。マコ先輩ってカワイイですよね」 一人対戦モードでゲームをしながら友樹が言う。革ジャンの画像を見つめていた灰谷は首をひねる。 ……カワイイ?『カワイイ』か?『カワイイ』と『マコ』は真島の地雷なんだがな。 「見た目もですけど中身がっていうか。そう、なんかまっすぐでロマンチストなんですよね」 そんなかな、あいつ……。ああ。ま…
ドカドカドカドカ。 オレは足音を立てて階段をかけ降りた。降りきったところで立ち止まる。心臓に手を当てるとバクバクいっている。 なんなのなんなのあれ。今の一連のあれなんだったの? そりゃ確かにペプシのペット振ったのも、先にくすぐったのもオレだけどさ。いつものノリっちゃノリだし。 それが……。 気がついたら両手首ぎゅっと握られて上から見下ろされてて顔があんなに近くにあって。真剣な顔で、なんか見つめられてて。 あいつ……なんであんな男前なんだよ。ありゃあ女子はキャーキャー言うわ。男のオレだってこうなんだから。つうかなんで見つめてたのオレのこと。え?オレがドキドキするのを見る復讐?いや、そういうんでも…
なに意識してんだよ……。 なんだか胸がむずがゆいような気持ちがこみ上げた。 灰谷は真島の手首をつかんだまま顔の横から頭の上に上げ、バンザイの格好をさせた。そして両手でつかんでいた手首を片手だけでつかみ直した。男にしては細めの真島の手首は灰谷の大きな手のひらに収まった。 急に頭の上で両腕をバッテンに拘束され、上半身がガラ空きになった真島の目に戸惑いの色が浮かんだ。 次の瞬間……。 「オラッ!」灰谷は空いた方の手ですばやく真島の脇をくすぐった。 「ひゃっひゃっひゃっ」「オラオラッ」「やめろっ。やめろっ…ひゃひゃひゃひゃひゃ…」 真島はカラダを折って足をバタつかせる。 「……モレる…モレる…」「モラ…
「セクハラってのはな……こういう事だっ!」 叫ぶなり真島は全身の力を一気に抜き、鯨がローリングするようにカラダごとドスンと灰谷の上に倒れこんだ。 「イタっ!」「からの~っ」 真島は素早く起き上がると灰谷の両手首をつかみ、胸の前でバッテンにさせると器用にクルリとカラダを返し、うつ伏せにさせ、その背にドカッと腰を下ろした。あまりの早ワザに灰谷は身動きが取れなかった。 「ヘイヘイ~セクハラ上等~。いいケツしてんな灰谷く~ん」真島は灰谷の尻をペチペチと調子に乗って叩く。 「オマっ……何……ウワッ」 真島の指が灰谷の脇をくすぐりにかかった。 「ヘイヘーイ」「やめっオマ、やめっ……やっ……やっ……」 真島…
「野郎ども、天国の門にキッスしな!」 友樹が甘いロリ声を作り、自身の操るキャラクター、ミルハニの決めセリフを叫んだ。 「うお~ミルハニ総攻撃~」 キャラチェンジしてからどうにも勝てなくなったらしい真島の焦った声を聞いて、灰谷は再びスマホから顔を上げた。
「げえ~マジかよ~~」 スマホチェックしていた真島がそう言って机につっぷした。 真島・灰谷・佐藤・田中、略してマジハイサトナカ。いつものメンツで学校の昼休み、お腹も満たされ、まったりしている時の事だった。 「なになにどした? 真島?」 好奇心旺盛な佐藤が目をキラキラさせて声をかける。 「バイト先の店長から。今日もシフト入れないかって」 真島は顔も上げずにそう続ける。 「よっ!勤労少年!」「よっ!副店長!」 早速サトナカから声が飛ぶ。 「ぐわ~いやだー。ゲーム~。ゲームして~~」真島は手足をバタバタさせた。 「子供か!自分で言ったんだろ。空いたシフト全部入れますって」 佐藤のめずらしいド正論だっ…
赤信号でバイクを止めた灰谷はその長い足を持て余し気味に伸ばした。夏の終わりに乗りはじめた原付バイクは今では立派な足がわりになっていた。 「寒(さむ)っ」灰谷はつぶやき、カラダをぷるりと震わせた。 ーーあれから約一ヶ月半が経つ。 表面上は相も変わらず、夏休み前とほぼ同じ日々が続いていた。 学校のある日は自転車で迎えに行き、週に三日はコンビニで一緒にバイト。放課後は真島家に入り浸っている。 小さな変化といえば、真島のバイト時間が増えたこと。バイクの代金を稼ぐためだ。早く両親に返し終わって、好きにバイクに乗りたいとバイトに精を出しまくっている。だがそんな真島もさすがに五連勤となるとしんどいらしく、ウ…
「灰谷くんいらっしゃい。お疲れ様」 真島の母、節子が玄関先で迎えてくれた。お陽さまみたいないつもの笑顔だ。 「チイッス。これ」「あら、何?」差し出されたコンビニの袋を受け取り、節子が中をのぞきこむ。 「新商品のチョコレートまんとカスタードまんっす。おじさんとどうぞ」「あら~いつもありがとう」とさらにニコニコしながら「そうそう友樹くんも来てるのよ」と節子は付け加えた。 ……だろうな。 玄関に二足、仲良く並んだオニツカタイガー。真島が履いているのを見て友樹も欲しがり、二人おそろいになった白いスニーカー。 バイトの後輩である友樹を、真島が可愛がっているのもこの一ヶ月半の小さな変化の一つだった。 「い…
「何そんなに驚いてんだよ。バイトの代打センキューって」「おっ、おう」「ビビっちゃってカ~ワイ~」 そう言うと真島は履いていたジャージのズボンで濡れた手をぬぐった。 「ビビってねえわ。しっかり手、拭いてこい。小学生か」「小学生じゃねえわ。灰谷の潔癖」「潔癖じゃねえわ」 いつものやりとりを交わすと、真島は「おっ何それ」と目ざとく灰谷の手にしたコンビニの袋に目を止めた。 「ああ、これな。肉……くすぐってえって」灰谷は身をよじった。 袋の中身をのぞき込んでいた真島が、肩にアゴだけのせ、首を振ってカクカクさせたからだ。こういうちょっとしたジャレを真島は最近してくるようになった。 「ホントオマエ、小学生か…
ドスン。 友樹の隣りに乱暴に腰を下ろすと、真島は「ほらよ、ピザまん」と宙にポイッと放り投げた。 「うわっ」 あらぬ方に飛んでいったピザまんを友樹がかろうじてキャッチする。 「もう~……テレちゃって」「違うわ!」 テレ隠しもあるのだろう早速パクつきながら「あ~ウマいウマい。灰谷ゴチな」真島が礼を言う。 「灰谷先輩、ごちそうさまです」友樹も灰谷に向かって小さく頭を下げた。 ほんのちょっとした事でも必ずきちんと礼を言うよな真島は、と改めて思いながら「おう」と返し、灰谷はベッドに腰を下ろした。