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月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった42 BL小説 「いい車って言うなら、元気のランドクルーザーじゃないすか」 井原は不動産屋への道を軽くハンドルを切りながら車を走らせる。 「ああ、でかいよな。でも器材積むし、あの黒、元気に似合ってる感じ」 「まあ、そうっすね」 ちょっと拗ねたような口調の井原
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった41 BL小説 「からかわないでくださいよ、それより十時くらいで大丈夫? 土曜日」 井原は真剣な目を向けてくる。 「ああ、いいよ」 「じゃあ、十時に迎えに行きますから、よろしく」 響の返事をもらい、慌てて美術室を出たと思うと、また井原は戻ってきた。 「あのさ
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった40 BL小説 それが功を奏したか、生徒たちには割と早く顔を覚えてもらえたと、一年生クラスの二回目の授業を終えた昼休み、響は美術室を訪ねた。 「ああ、音楽っていいですよね~、そういう手段っていうか、もちろん、響先生の手腕があってこそだけど。俺なんか、キュビズム
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった39 BL小説 「彼女ができないって叫ぶ前に、ちっとは引き締めろよ。身も心も。紀ちゃんを見返してやれって気になんないのかよ」 元気にきっちり言われた東は、「わかった! 明日から俺はポテチを断つ!」と一人喚く。 「明日と言わず、今日からにすれば? 響さんは、
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった38 BL小説 「何か、ドイツ語っぽい言葉で怒ってなかった?」 席に戻った響に心配顔の井原が尋ねた。 「嫌なやつから。何でこの番号わかったのか。うちに電話して聞いたのかも。クソ!」 腹立ちまぎれに響は言い放つ。 「嫌なヤツって、大丈夫? 何ならボコってやるけど
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった37 BL小説 「俺は好きな子からしかもらわないって決めてるから悪いって断った」 井原が断言すると、東が、「くっそ、俺もそんな科白はいてみたいよ」と自棄っぱちに言い放つ。 「響さんも実は女の子に色々もらってたでしょ?」 元気が響に振ってきた。 「俺はないよ。と
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった36 BL小説 以前祖父がヨーロッパ旅行のついでに響を訪ねて来てくれた時に、響はたまたまクラウスがいたので紹介したが、二人になった時、クラウスと付き合っていることを祖父には告げた。 祖父は案の定、それをきちんと受け入れてくれた。 しかし、父親にも話してくれ
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった35 BL小説 「俺も勝手に誰か振り込んでくれねーかな! そしたら部屋借りて、自信もって女の子ゲットに全力を尽くす!」 東が拳を上げて宣言した。 「お前のアーティスト魂はちっせえんじゃないの?」 元気はスタッフを呼んで、生ビールを追加した。 「俺、じゃあ、久
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった34 BL小説 「ということで、とにかく、響さんの都合に合わせますから」 にこにこしているからそうは見えないかもだが、結構井原が押しが強いのは変わらないようだ。 「まあ、俺は土曜日か祝日しか空いてないぞ」 不承不承な顔で響は言った。 「大丈夫です!」 井原は
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった33 BL小説 「でも響さん、あんまし変わんないですね。高校の時も女子どもが超クールビューティとか騒いでた。超超クールって」 井原の盛大な響賛美に、「今も女子どもが言ってる」と、響の前に座る東がちょっと上目遣いに響を見て笑う。 「俺? 何それ」 響はまともに聞
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった32 BL小説 放課後、井原は毎日のように音楽室に顔を出すのだが、なんのかのと言いつつも、いつの間にか井原が来るのを待っている自分がいる。 今頃井原は何年生を教えているんだろうなどと、響は授業中もふと考えてしまうこともある。 ただ、このままそんな付き合いが
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった31 BL小説 「朱莉みたいな能天気にはわからねぇ、いろいろがあるの」 「誰が能天気よ!」 いつもの言い争いを始めた姉弟を見て、響は「じゃ、また寄ります」と袋を抱えて店を出た。 可愛い猫たちが思い思いに遊んでいるのが外からも見えるが、猫はただ見ていた時より飼
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった30 BL小説 それにしても井原は全く昔と変わらずたったか勝手に約束を取り付けるし。 まあ週末の飲み会も、今日の新任の懇親会と同様、旧交を温めるくらいのものなのだろう。 元気や東と一緒だし、何を俺はそんなに構えているんだ。 自分の中に、古い思いがあるだけに
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった29 BL小説 いや、尾上も流行りだしなんて笑ってたくらいだから、ジョークの一種だったのだと思っていた。 あきらめねーからなんて喚いていたのは多少気になっていたのだが。 それに、そういうつもりはないと一応言ったよな? そこまで俺にマジだとかは思わないが、俺
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった27 BL小説 「なあ、実際、どうなの? あいつら」 東は元気にボソリと尋ねる。 「俺が知るか!」 元気は胡散臭げに言い放つ。 「まああれだ、人気のあるヤツらがくっついてくれる分には、俺は助かる」 「だから、それ、人気のあるヤツらがいる、イコール東がモテない、
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった26 BL小説 ヨハンのバカのお陰でコンクールに出損ねて、何か、全てがバカらしくなってしまった。 音楽が嫌いになるとかではないけれど、コンクールに命燃やすとかはもういいやと思ったのだ。 肩が軽くなったように、響はドサ回りで演奏会を続けてきた。 疲弊したのは
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった25 BL小説 お前の思い切りのいい笑顔は、晴天の空のように清々しかった。 変わらないんだな、そんなところは。 井原の笑顔を見ながら、何だか、あの頃に戻ったような気がして、響はふわりと胸に温かいものを感じた。 「にしたって、寛斗、大丈夫なんでしょうね。なんか
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった23 BL小説 先日志田のヴァイオリンをみんなで聴かせてもらったが、音大を目指しているだけあって技術もしっかりしているし、高校の部活とはレベルが違うが、志田は皆と一緒に演奏するのが高校での醍醐味だとか達観していて逆に面白い。 結局、ピアノとヴァイオリン、チェ
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった22 BL小説 「ああそう。オヤジが亡くなって、俺が店をやることにした時、ライブとかやるのにやっぱ防音措置しとかないと右隣り近いし。結構な出費だったけど、母親がオヤジの保険金ポンと出してくれたから、それこそ元取るまで店やらないとな」 元気は真面目な顔で頷いた。
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった20 BL小説 「ほんとカッコいい! 井原さん、エリートビジネスマンみたいな雰囲気」 客を見送った紀子が向き直り、憧れの眼差しで井原を見上げた。 「大学でお星さまだけみてたわけじゃなくて、いろんな企業のプロジェクトにも関わったりしてたから、下手するとそれこそ身
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった19 BL小説 「井原のやつ、本場で向こうの仲間とやっぱジャズやってたらしくて、俺も一緒にやるの楽しみなんですよ」 「そうなんだ」 今、元気の口から語られている井原は、もう響の知っている井原ではない。 十年ものの初恋を後生大事に抱えて腐らせてしまっているよう
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった18 BL小説 まるであの日の続きのように、「あ、響さん、いい天気でよかったですね」などと言いながら、新任式が終わった講堂で、井原が声をかけてきたのだ。 一体全体何がどうなっているんだ? 「やだな、響さん」 元気が声をあげて笑った。 「この春から、井原、物
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった17 BL小説 「にしたって、やっぱ父さんの言う通りだったってことだな。実質的な仕事に就けないようじゃ意味がない、か」 尾上はガラス屋を継ぐべくして大学に行き、きっちり地に足をつけて仕事をしているらしい。 仕事をしているからこそ、好きなガラス工芸の仕事もできる
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった16 BL小説 「お前、俺に夢を見てんじゃないか? 俺はつい最近までドロドロでぐっちゃぐっちゃの付き合いぶった切って、日本に戻ったんだからな」 「終わったんだろ? なら、いいじゃん!」 「疲弊しきってんの。色恋沙汰なんか、ゴメンなんだよ。俺は思い出の初恋に生きるか
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった15 BL小説 「まあた、ボールかなんか飛び込んだんすか? ここほんと、昔っからよく飛び込みますよね~」 作業員は言いながらひょうひょうとブルーシートを外し、抱えてきたサッシから保護材を取り除いて窓にはめ込んだ。 「俺は本気で言ってんだぞ!」 窓の方を見てい
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった14 BL小説 「どしたん?」 あまりに凝視していたのだろう、胡乱気に寛斗が聞いた。 「ああ、いや」 しょっちゅう、井原もそうやって響に笑みを向けていた。 あれ弾いてよ、ドビュッシー、なんかこう眠くなるやつ。 井原の声が聞こえた気がした。 指は勝手にドビ
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった13 BL小説 井原と同じクラスで、琴美よりもっと線の細い感じの少女だったが、井原のことが好きだと、そんな目をしていた。 気が付いたのは、響が同じ目で井原を見ていたからだろう。 少女のことを思い出した途端、当時のキリキリと胸をひっかくような感情までが呼び起
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった12 BL小説 「よし、決まり! これで五人!」 琴美は二つの拳を握りしめながら、声を大にして言った。 「あとは、春の新入生どれだけ誘い込むかだわ」 「どういう作戦で行きます?!」 もう一人の一年生、榎沙織も身を乗り出すようにして琴美を見た。 「誘い込むとか作
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった11 BL小説 「あーーっ、やっぱり! さっき大きな音がしたから何かと思ったら、これどうすんのよ!」 窓ガラスが割れて風が吹き抜ける音楽室に二人の一年生を連れてやってきたのは音楽部部長の瀬戸川琴美だった。 寛斗と同じクラスで、クラス委員もしている快活な少女だ。
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった10 BL小説 何だか、また井原のことを思い出してしまったな。 などとのんびりしていた響だが、間もなく高校時代の音楽の教師である田村からの一本の電話が入ってから響のそれからが怒涛のように決まっていった。 幸か不幸か、父親の口癖ではないが、卒業して潰しがきか
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった9 BL小説 「あいつ、お客さんのこと気に入ったんじゃないすか? どうです? あいつの里親になりませんか?」 いきなり寛斗が響の傍に来て言った。 「は?」 「ヒロってば、失礼でしょ、藪から棒に!」 「ほら、ゴマスリアウモタショウノエンとかいうじゃないですか」
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった8 BL小説 「おい、ガラス、気をつけろよ」 一応非常勤とはいえ、響も教師の端くれなので、生徒がケガなどしないように監督しなくてはならない。 「ヒロ、ガラス弁償、きっついな。ご愁傷様」 同学年の唐沢功が寛斗を揶揄した。 しょっちゅうつるんでいる寛斗の相棒と
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった7 BL小説 ジェンダーギャップが百位以下で、先進国などという殻を被った日本の最もくだらない歪みに押しつぶされた被害者だと、響は出て行った母親の心に今は思いをはせている。 母が出て行ってからは一度も会ったこともないしどこにいるかも知らない。 ピアノを続けるこ
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった6 BL小説 家に戻ってからバスルームと簡単なキッチンを増築したが、離れは割と広いリビングと奥に六畳ほどの部屋があり、響は高校を卒業するまでその部屋を寝室にしていた。 この家に戻ることは祖父の訃報を伝えてきた電話で申し出たが、父親は、そうか、と言っただけだ
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった5 BL小説 「お、きたな」 元気の言葉に、響は窓の外を見る。 「こんちは~」 「卒業したよぉ、元気ぃ!」 どやどやと入ってきたのは卒業証書を抱えた卒業したばかりの生徒たちだ。 「ああ、キョーちゃんこんなとこにいたぁ! 東も」 「お前ら、東先生と言え!」 「キ
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった4 BL小説 「またまた、ロン・ティボー国際コンクールで優勝して、ショパンコンクール優勝候補だったくせに。指だって怪我なんかしてないんだし」 元気は響のあまのじゃくに笑みを浮かべた。 「ロン・ティボーなんか業界の連中しか知らないし、第一、最近ショパンコンクール
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった3 BL小説 「まあ、ガチでピアニスト目指す人と趣味でやってるやつらじゃ、無理ってもんか。俺も大学時代はたまに会ってたりしたけど、ほら、あいつ、お星様狂いで留学しちまったし、俺もバンドとかやってたからお互いあれから会ってなくて。あいつ、まだ留学してんのかな」 「留
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった1 BL小説 ちらちらと白いものが空から落ちてきた。 濃いねずみ色の空は青い空より何かずっと遠いものを心の中に感じさせる。 「……さらば友よ!」 力のこもった生徒会長の声に騒然としていた面々が一瞬静まり返る。 歴史ある校舎を背景に、グラウンドの傍の道には
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった BL小説 高校時代一学年下の大らかな井原渉(わたる)に懐かれていた和田響(ひびき)。井原は卒業式の後、音大に進んだ響に、卒業したら、校門の傍に聳え立つ大銀杏の下で逢おうと勝手に約束させたが、響は結局行かなかった。言葉にしたことはないが響は井原に対して友人以上の
月夜の猫-BL小説です 笑顔をください40(ラスト) BL小説 高橋に触られた時は怖気が走るほど嫌だったのに、七海の指が少し触れるだけで志央の肌は反応し、発熱した。 「ごめん、ほんともう、とまんねーっ…」 結局のところでかい男に合体されて尚、若い情の迸りは留まることを知らず、大きな波にさらわれるように志央
月夜の猫-BL小説です 笑顔をください39 BL小説 ボロボロボロ、と志央の目から熱いものが溢れ出て落ちた。 「俺なんか、見るのも嫌なんだろ?」 もう一度、あの笑顔を取り戻せたらよかったのに。 「行けよ! 行っちまえ! バカやろ…」 顔を涙でぐしゃぐしゃにして、志央は精一杯の虚勢を張る。 すっと、そ
月夜の猫-BL小説です 笑顔をください37 BL小説 ニヤニヤ笑いながらその男は志央の目の前にナイフをちらつかせた。 「わざと俺を挑発したのはきみだろ? さんざん俺の邪魔してくれてさぁ」 志央がきっと睨みつけるとさらに男は口をゆがめて笑う。 「近藤が俺にたてついて、もうイヤだなんて言い始めてさ。屋上であい
月夜の猫-BL小説です 笑顔をください36 BL小説 階段を駆け下りる途中、また幸也のポケットで携帯がなる。 『本校舎探してますがいません。そっちは?』 勝浩だ。 「いない。あとは体育館か、ホールの屋根とか…」 その頃東棟を飛び出し、グラウンドから校舎を見回し、本校舎の時計塔に目をやった七海は動きを止
月夜の猫-BL小説です 笑顔をください35 BL小説 やがて終業のチャイムが鳴り、六時間目の英語が終わると、志央はぐんとのびをした。 「志央、生徒会室、行くか?」 教室を覗いて幸也が呼んだ。 「あ、俺、今日日直。日誌出してくるから先行っててくれ」 「わかった」 日誌を書き終え、担任に提出して職員室を出た
月夜の猫-BL小説です 笑顔をください34 BL小説 松永はとっくに帰り、生徒会室には勝浩とぼんやりたたずむばかりの七海と二人だけだ。 「帰る? 七海」 「あ、ああ」 七海は力なく返事を返す。 勝浩は七海を促して生徒会室を出ると、鍵をかけ、顧問に鍵を返すために職員室に向かった。 「七海はまだあの人のこと