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ランチはカレーだ。ライスではなく、ナンだ。「美味しい。この黄色はカボチャだ」ヒロはダディが食べているナンを指さす。「その赤色って人参か?」「甘くて美味い」「緑色、これはなんだろう」そう呟いたヒロは嬉しそうな表情をする。「ほうれん草だ」ダディは赤色のナンばかり食べているので、言っていた。「ダディ、人参ばかり食べないで。僕も人参食べたい」ヒロは声をかける。「赤色のナン、デカいのを2枚追加お願いします」...
人参は馬のおやつにして、他のキュウリやチーズを食べて休憩する。3回目の休憩場所では、朝食を作ってくれたお兄さんが立っていた。「グッドタイミングです。ちょうど焼けた頃なので、どうぞ。馬はこちらで」しかし、馬は動こうとしない。「あれ、動かない?」だね、動かないね。動かないところか、イヤイヤと首を振ってるみたいだ。もしかしてと思ったのか、ヒロが助け船を出してくれる。「ジュンに懐いてるんだ」だから言ってい...
馬を歩かせながら、ヒロは色々と話をしてくれる。たまにはヒロを独り占めするのもいいかもしれない。僕はすっかり馬に慣れてきた。「気持ちいいね」「三日月みたいな形だから馬にとってもいい運動になる」「ダディ、まだかな」「そろそろ来てもいい頃なんだけどな」すると、後ろからドドドッと音が聞こえてくる。「何の音?」ヒロはため息をついている。「マザコン野郎が来たってことだ」「ダディ、来たの?」「走らせてる。こっち...
僕はヒロと一緒に乗り、ダディは1人で乗る。「ジュン、見てろ」「なにを?」「トモはもう少しで落馬する」「そうなの?」時間をおかずにダディは馬から落ちた。「なんで・・・・・・。ダディ、大丈夫?」「ってぇ・・・・・・。なんで」ヒロは一言だ。「あんな乗り方だと直ぐ落ちる」「うー・・・・・・」腰をさすっているダディを見てると、なんとなくだけど分かってきた。「ダディは、馬に乗れる年齢、いや、乗れる体つきではないから落ちたの?」...
厩舎の中に入ると馬が2頭いる。ダディは馬を触っている。「毛並みがいいな」「ロッジの管理と、この馬や牛の世話を近くに住んでいる人に頼んでいるんだ」「だから食事作りもしてくれたのか」「そういうこと」するとヒロはこう言ってくる。「乗ってみるか?」僕は思わず言っていた。「乗る!」嬉しくなって言っていた。「ダディ、一緒に」ダディ、僕は一緒に乗りたいのと言いたかったのに、ダディはこんなことを言って遮ってくる。...
ベージュの砂の上に、手のひらをすべらせた。ひとつかみ、ぎゅっと握って持ち上げる。ぱっと空で指をほどくと、さらりと散る。散り落ちた砂粒はもう他と見分けがつかなかった。人の心も。水銀灯だけが照らす夜の公園の砂場、通勤リュックを背負った佳尚(かなお)はしゃがみこんだまま思う。人の心も、細かく細かく砕いたのなら、こんなふうに扱ってもいいのだろうか。それとも、こんなふうになった心はもう心の機能を果たせない...
窓から吹き込む海風の心地良さに瞳を細めれば、それを眩しいからだと思ったのかハンドルを握るハインリヒから「大丈夫か?」と声が掛けられる。限りなく黒に近いが、サファイアブルーを持つ彼の瞳は光に弱いようで、今も濃い色のサングラスをしている。それが妙に様になるのだから、同性が羨むのも分かる、と思いながらアルフレードは笑みで返した。「風が気持ちいいなぁって思って」「ダッシュボードの中にアルのサングラスも入っ...
潮風が頬を擽る。砂浜を素足で歩いていたアルフレードは探していたものを見つけ、それを拾い上げて満足そうに口端に笑みを乗せた。親指と人差し指の間に挟み、それを空に翳す。“シーガラス”と呼ばれるその小さなガラス片。それは、ジュースやワインの瓶や漁具などのガラス製品が海に投棄されたり何らかの理由で波に攫われたことで割れ、その破片が長い時間をかけて自然の中で摩耗や風化することで出来る。海底の石や砂にもまれるこ...
思い返してみれば、違和感はいくつもあった。3ヵ月前からスケジュールに組み込まれていた“会談”は「最優先事項」として位置付けられていながら、その詳細は一向に不明のままで。どこで、誰に会うのか。何を目的としているものなのか。一向に知らされる気配がなく、痺れを切らしてフルアに詰め寄ったのは1ヵ月前のこと。COO専任秘書である彼は単純にスケジュールを組むことだけが仕事ではない。たとえば会談ならば、その目的や議題...
魅力溢れる海岸都市アルゲロで過ごした2日間は短くも濃厚なものだった。サルデーニャ島でも特にスペイン文化の影響が強く残る町で、料理にもその特色が表れていた。地元のワインで煮込んだ豚肉料理の「アリスタ・アル・ヴェルメンティーノ」は肉の旨味とワインの香りが絶妙に調和した一皿で、サルデーニャ特有の小粒パスタ「フレゴラ」を使った料理も絶品だった。伝統的なスイーツも多く、揚げたパスタ生地にチーズを詰めてはちみ...
古代ヌラーゲ文明の遺跡、透明度が抜群の海と真っ白な砂浜、サルデーニャ島最大の湖、豊かな海産物…小さいながらも魅力の尽きない町、カーブラス。別れを告げるにはあまりにも惜しい美しい景観だが、しかし別れを告げなければいけないときが来て。早朝の柔らかな光が大地を金色に染め始めた頃、「行こうか」というハインリヒに促されてアルフレードは車に乗り込んだ。猟師たちはすでに海に出ているようで、遠くに漁船の影が見える...
むかし、大好きだった人が死んだと聞いた。よくない死にかただったようなので、ようすを見に行ってみることにした。 てんてんと道をたどっていくと、遠くにそれらしき影が見える。うわあ、と声が洩れた。腰から下がほとんど液状になって、満足に歩くこともできないみたいだ。あれは相当ひどい。いったいぜんたい、彼の身になにがあって、なにがなくて、あんなふうにここにいるのだろう。 じゅうぶんに距離を保ったまま、彼の姿...
ヒロが教えてくれる。「あそこの明るい所に泊まるよ。あそこで3日間過ごす」「今って何時なの?」「時計は2時間早めにしろよ」「早めるの?」「そうだよ。ドイツ時間からロシア時間にしないと」ロシアって、どこ?そう思っていたらダディは呟いている。「たしかに、緊急オペが入っても無理な距離だ」「だろ」ロッジに入ると、中は綺麗だ。「掃除を頼んでおいたからアラ探ししないように」「はいはい」テレビが置いてあるので点け...
2人に、この4年間のことを話していた。ヒロは溜息をついていたけれど、ダディは笑っている。「どうしよう・・・・・・」「それなら、あと1年欺き通せ」「でも」「あいつは必死になって味の改良に励むだろうよ」「僕は」「ジュン。お前はそのままでいればいいんだよ」「いいの?」「マサとジュンヤとエドの3人はお喋りじゃないからな。ジュンにとって、誰が一番頼れる?」「ジュンヤ先生。GPボスは怖いけれど、でも、好きだよ」「なら...
誰かの声が聞こえてくる。が、痛みも襲ってきた。「ったーい・・・・・・」ダディの声も聞こえてくる。「優しく起こしてくれる?」すると、イラついた声も聞こえてくる。「2人揃って仲良く寝やがって・・・・・・」ヒロだ。「今、何時?」「19時」その言葉にダディも一緒に跳ね起きる。「夕食」「僕、スープ」「お前はメイン! スープは私が作る」「えー、時間かかるじゃない」本当は起きて待っていたかったんだ。でも、寝るのが好きなダディ...
「一日、1回は連絡すること! これがフリーディのルールだよ」いきなりそう言われ叫んでいた。「なんで?!」ジュンヤ先生はダディみたいな言い方をしてくる。「ジュン。君はまだ小学生だよ」「フランスではそんなこと言わなかったじゃないか」「フランスでは1日も無かったからね」「えー・・・・・・、だって、ドイツは」「だから」話しを聞きたくなくて駅へと走ろうとしていた。だけど、瞬時に捕まってしまう。「こら、待て」「なん...
赤い糸。 絡まっちゃってこんがらがっちゃってさ。それでも、 もうひとつの端は、運命の相手に結ばれているのかなぁ。 ねぇ? 運命の相手って誰れが決めてるのかな? カミサマ? ねぇ? じゃあ、 いまこの手首に巻いた、紅い、布。 かなしい。 うれしい、 ふたりを繋いだこの。紅い布。 解けることのないように、きつくキツク縛った。 知らないカミサマが勝手に繋げた細い見えない糸なんかより、ほら、 ふたりで互いに結んだこの布の方が確実だよね。愛なんて恋なんてそんなモノ知らないけどさぁ。 夜の海は静かで黒くてうつくしい。
フランス・ドイツ旅行に参加するのは10人。料金が高いので保護者のサインが貰えなかった人が多かったそうだ。小学生は僕だけなんだけど、語学勉強を兼ねてダディとヒロに会えるのが楽しみだ。行けることが決まった時点で、チャットで話したら2人とも喜んでいた。一番最初はフランス。フランスには4日間いて、ドイツには7日間。フランスのフリーディは1日。行き先は決まってないので、ぶらぶらと街中を散策する。目に付いた店に...
ある日。ジュンヤ先生は夏休みを2週間取って、フランス・ドイツ旅行を予定しているので、行きたい生徒を募るプリントを渡してくれる。料金は高いが、思わず行くと言っていた。「ジュン」「だって、ダディはドイツにいるから」「あ、そうか。保護者のサイン貰えないか」その言葉に項垂れるが、でも諦めない。すると、保護者代理のサインを貰えないと無理といわれ、GPボスに話をしたらサインしてくれた。「ありがとうございます」「...
あれから毎週のように通っているので、ジュンにとっては変わりの無い日々を送っている。家に帰ると誰もいないので、ジンの家で泊まっている。ジンの母親は父親が亡くなってから夜の時間は仕事をして、翌日の昼前に帰ってくる。だから、夜は一緒に寝ていた。でも、いつもではない。家で寝る日もある。家で寝る時は、おばさんが休みで家に居る日だ。ヒロやダディが居た頃は遅くても必ず部屋に来て、お休みのキスをしてくれていた。だ...
挑戦するのに年齢は関係ない #30 副業&軽く性描写あります
わりと暇な火曜、水曜、木曜の夜を語学サークルとして開く。料金設定で躓く。週1にするか、学び放題にするか。得意のタロットで占うと、カードまでもが揺れ動いている。アドバイス的に、もう1枚。その結果、学び放題にする。即座に小中学生が入り、国外に行きたいと願う人達までもが入ってきた。一気に30人を超す語学サークルになった。私の副業ができた。英語、日本語、ドイツ語、フランス語を教え、息抜きに合気道。小学生相手...
これはまさか?「受け取れよ」「ちょっと待ってよ」「お前のお陰で、ジュンは勉強好きになった。そのレッスン料だよ」 「ちょっと待った!」 「ほら、受け取れ!」「待って、待って、待って。今、なんて言った? 私のせいで勉強好きになった?」「そうだよ」 「ボスの遺伝では?」 「違う」「即答かよ」「ほ~ら、ジュンヤセンセ。受け取るんだよ」「仕方ないなあ」 「よろしく」押し問答しても、結局はボスに言いくるめられ...
後手だけど、ボスについてはジュンから聞いている。ジュンが私の所に来たのは、たまたまだった。ここオーストラリアに来てからはつるむことはなかった私だが、あのハロウィーンのファッションショーがきっかけで、ジュンは来るようになった。手先が器用で、縫い物をさせると、どこまでも続ける。ボスがそうだったように、ジュンまでもがとことん突き進めていくタイプのようだ。来るようになって4年。ジュンは私のパタンナーアシス...
翌日の水曜。ジュンはいつもより遅い時間に来た。しかも息があがっている。「ジュン、走ってきたの?」「学校から走ったの」「学校からここまで?」「学校から家まで。で、スィーツ店に寄って、そこからここまで」「別に走らなくても」「ジュンヤ先生、お願いがあるの」そのスィーツの入れ物を見ると分かるが聞いていた。「泊まらせて欲しいってことかな?」「うん。ダメかな?」「どうしようかなぁ」「来るの遅れたから、帰るの遅...
そのいじめっ子の呟きが聞こえてくる。爪を囓りながらこう呟いている。「くそぉ・・・・・・。あいつは、いつも、ジン、ジンと言って・・・・・・。幼稚園に入った頃はもっと可愛くて、俺に対しても可愛かったのに・・・・・・。誰に対しても優しく笑いかけやがって・・・・・・。俺には敵意むき出しのくせに」その子は叫んでいる。「あー! クソッタレ! それが嫌で俺だけを見て欲しいのに、それはできないことなのか。あのヤロー・・・・・・」しばらくすると...