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オリジナルBL小説を扱っています。広告代理店COO×家具デザイナーの短篇~長篇の糖度高めな「物語」をご用意しています。(#溺愛 #トラウマ持ち受 #独人×伊人)

甘くて幸せな「物語」がお好きな方はぜひお越しください。時々シリアスもありますが、受け溺愛主義の攻めが何が何でもハピエンにします。

あざさ
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2011/01/01

1件〜100件

  • トリステの正しい場所 11

    試験で良い成績を取ることも、試合で最高の結果を出すことも。「当たり前」だと人々は口にした。だが、どうして彼らはそれを出来て当然だと思ったのだろう。確かに、はじめから何でも出来てしまう人も居る。僅かな努力や練習で卒なくこなしてしまう人だって居る。しかし、そんな人は極僅かだ。自分がその数パーセントの人だと言った覚えもなければ、自負できるだけの器用さもない。にも関わらず、他人は一方的に決めつける。「当た...

  • トリステの正しい場所 10

    防具を鞄に詰め、ケースに入れた剣を右肩に担ぐ。もう何年も触れていなかったというのに、その重みは身体に馴染んだもので。疲労感はあるが、爽快感を伴うそれに足取りは自然と軽くなる。試合中は危険だからとコンタクトレンズにしているが、やはり眼鏡の方が落ち着くな、とブリッジを人差し指でくいっと上げたフルアはそのまま更衣室を出た。互いの健闘を称え合い、談笑する選手たちを横目にエントランスに向かう。過去に何度も訪...

  • トリステの正しい場所 9

    その人は、安全装置。たとえば、エレベーターは各階の全ての扉が閉じなければカゴが移動しないようになっている。鉄道車両も同様で、左右全ての扉が閉じなければ発車できない。ボイラーは燃料や水位が低いときには燃焼を始めず、高度な医療機器は幾つもの手順を踏まなくては作動しない造りになっている。ある操作を行うときに、特定の条件が満たされない限りその動きが制御されるのだ。機器の起動状況、扉の開閉状況、圧力、液面、...

  • トリステの正しい場所 8

    「それで?」「はい?」「また始めたのか、フェンシング」サインを終えた書類を受け取り、フルアは上司に視線を向けた。短くなった煙草を灰皿に捩じ込み、重厚なデスクチェアに背中を預けたハインリヒが紫煙を吐き出す。その眼差しは一見すると射抜くような鋭さと冷たさを持っているが、冬の海の色を宿したそれが存外に温かいものだと知っている。今も純粋な好奇心を浮かべたハインリヒの双眸に、フルアはそれと辛うじて分かる程度...

  • トリステの正しい場所 7

    サッカーやラグビーなどのスポーツ競技で自軍のゴールを守備する役割を担う選手やポジションの名称“defence”の意味は、「防御」。この言葉を由来に持つのが、「柵」や「囲い」を意味する“fence”。隣家との境界を守る塀、家畜を外界から守る囲い、車から人を守る歩道の柵。それらは全て、フェンスと呼ばれている。つまり、「防御」の意味を持つ“defence”から生まれた“fence”には、「守る」という意味もあるのだ。自分自身の身を守...

  • トリステの正しい場所 6

    エレベーターが目的地に着き、静かにドアが開く。最上階に位置するそこから望むミュンヘンの夜景は壮観だが、見慣れたそれに感慨があるはずもなく。ハインリヒは書類が詰め込まれた重たいビジネスバックを片手に、長い廊下へと足を向けた。どうしようもなく気が急くのは、その先に「会いたい」と望む人が居るからに他ならず。今朝別れたその人の顔ばかりが思い浮かぶ。24時間常駐しているコンシェルジュが最上階の住民のために活け...

  • トリステの正しい場所 5

    ファストフードの代名詞とも言える世界的に有名なハンバーガーショップの出店数が世界で第4位のドイツには、様々なファストフードが存在する。それらの店は総称して“インビス”と呼ばれ、街中に限らず駅構内や市場の中にも多く見られる。ドイツの代名詞ともいえるヴルストや国内ではポメスと呼ばれているフライドポテトのインビスは、それこそ歩いていれば必ず見つけられるほど。アジア系の店では焼きそばやフォーが人気で、トルコ...

  • トリステの正しい場所 4

    上司が会議室に入るのを見送り、フルアは公用車ではなく自家用車のキーを手にした。そして向かったのは、街の小さな個人医院。時間は午後の診察時間に入る少し前で、ドアにはまだ「休憩中」の札が掛かっていた。緊急の際はベルを鳴らすように書かれているその札を横目に、フルアは勝手知ったるとばかりの足取りで裏口に回った。小さな庭へと続くレンガの道を進めば、声が聞こえてくる。1人はこの医院の医師のもの。そして、もう1人...

  • トリステの正しい場所 3

    人形のようだ、とこの人を揶揄していたのは誰だったか。1人や2人ではなく、大多数が眉を顰めながらそう囁くのだ。感情がない、だの。だから人の心が理解できないのだ、だのと。その者たちに見せてやりたい、とグラースは思った。一体どんな顔をするだろう。きっと驚きの余り口をぽかんと開けたまま立ち竦むだろう。あまりにも衝撃な光景に我が目を疑うかもしれない。行き場を失った手を彷徨わせながら、グラースはそんなことを考え...

  • トリステの正しい場所 2

    「そういえば、もう辞めちゃったんですか?」「…何を、でしょうか?」「フェンシングです」両手でカップを持つ姿は小動物が木の実を食べているようだな、と微笑ましく見守っていたフルアはアルフレードのその唐突な問いかけに反応が遅れた。こてんと首を傾げるアルフレードの真っ直ぐな瞳に思わずたじろいでしまったのは。その瞳がビスクドールのような端正な顔立ちに人間らしい強烈な熱量を持たせていたからか。綺麗なものだけを...

  • トリステの正しい場所 1

    紀元前の頃よりその歴史が始まったといわれる、フェンシング。古代ローマ帝国の時代にその原型は作られ、度重なる革命や戦争の中で磨かれてきた。やがて火砲などの武器が発展したのちもフランスでは騎士の嗜みとして文化の中で生き続け、1896年には第1回近代オリンピックに競技として採用されることになる。元は戦うための技術。欧州の長い争いの歴史の中でそれはより鋭利に研がれ、より美しく研磨されてきた。しかし、その語源は...

  • 光が告げる、始まり。5

    助けてと声が枯れるまで叫んでも、助けはない。心を蹂躙された激痛は、消えない。忘れることのできない記憶が、悪夢となって襲いかかってくる。救いなどどこにもなく、現実はいつだって残酷だ。希望などない、と叫ぶことにも疲れて。絶望を嘆くことにも、疲れて。それでも。「先生がね、生きろと願ってくれた」「……」「先生が諦めずにいてくれたから、オレもあと少しって思えて…」「……」「あと少し…もう少しだけって思いながら、今...

  • 光が告げる、始まり。4

    それは、16歳のときの出来事。酷い凍傷のように焼き付いてしまった忌々しい記憶と傷。聞いて欲しいことがある、とそう語り出したアルフレードの声に耳を傾けながら、ハインリヒは殺意とはこうして芽生えるものなのかと思った。人が人を殺す正当な理由などない。どんな訳や原因があったとしても、人が人の命を蹂躙することなどあってはならない。だが、それでも。もし、大切な人が理不尽に傷付けられたら。もし、愛しい人が不条理に...

  • 光が告げる、始まり。3

    しまった、と思ったのは空になったベッドを見たとき。いつの間にかベッドに凭れて眠ってしまっていたことに気付き、ハインリヒは慌てて寝室を飛び出した。反射的に見た腕時計の針は4時を指し示している。睡眠薬で眠らされたアルフレードが目を覚ますには早過ぎる時間だ。だが、そこで眠っていたはずのベッドは空で。トイレに行っているのかもしれない。しかし、そうではないと己の勘は言う。(…あそこか)自然と足が向かうのは、リ...

  • 光が告げる、始まり。2

    1日中パソコンと書類に向き合って凝り固まった身体の痛みを感じながら、ようやく帰り着いた自宅のドアを開けたとき。空気を切り裂くような悲鳴が聞こえ、ハインリヒは持っていた鞄を玄関に放り投げて廊下を走った。声が聞こえてきたのは寝室からで。ドアを勢いよく開け、ベッドに駆け寄る。「アルフレード!?」明かりのない寝室の中央に置かれたベッドの上。胸を掻き抱きながら蹲っている青年を、そこに見つける。形振りなど構っ...

  • 光が告げる、始まり。1

    ※ご注意※この作品は2011年に公開のちに非公開になっていた『光が告げる、世界の終わりと今日の始まり』の改題・修正版です。アルフレードの告白篇としてもう一度丁寧に描きたいと思い、当時とは一部大幅に内容を加筆修正して再公開しました。いつもの長篇より短めですが、彼らにとってはひとつの「大きな起点となった物語」として読んで頂けましたら嬉しいです。なお、この1話には過激な暴力シーンを含みますのでご注意ください。...

  • Morning Glory Fizz

    「後は荷解きだけだな」「うん、手伝ってくれてありがとう」「重たいものは無理に持つなよ」ラフなシャツの袖を捲ったハインリヒがデザイン用の資料が詰まっている段ボール箱を叩く。他にもサンプルの布や木材もあり、怪我をしたらいけないと続けた彼の過保護な一面に微苦笑を重ねる。俺のところにおいで、と差し出された手を取ったのは今から1週間前。不用な家具の処分も転居の手続きも全て任せてくれていいと言われたが、そうは...

  • いとおいしい時間

    熟練した職人によって丁寧に縫い上げられたそのシャツは世界最高峰と称され、“着る芸術品”とも謳われる。ナポリの伝統を守りながら長い歴史に驕ることなく真摯に人体と向き合い、徹底的に研究されたそれは袖を通した全ての人に最高の着心地をもたらすのだ。衿の形は、世界でもっとも美しいセミワイドカラーシャツと誉れ高い“ルチアーノ”。ナポリシャツならではの高めの衿腰、上着のラペルから跳ねない衿羽根、ノットの収まりが良い...

  • Mojito

    不意に肩に落ちてきた重みにアルフレードはそちらに視線を向け、ふっと頬を緩めた。普段は後ろに撫でつけている黒髪は洗いざらしのままで額を隠し、強烈な印象と鮮烈な存在感を与える瞳も今は瞼の向こう側。存外に長い睫が薄い影を作っている容貌はどこかあどけなくも見え、ハインリヒのその穏やかな寝顔にアルフレードは眦を下げる。首筋を擽る吐息もまた穏やかで。その優しさに思わず泣きそうになるのは、王で在れと己を律して生...

  • 25,dicembra

    許容量を遥かに超えた色彩に、目が眩む。ローテーブルの上に山を成す色鮮やかなそれらを、ハインリヒは未知の物体でも見るかのようにじっと見つめた。手を伸ばすことを躊躇してしまうのは、それらが見慣れない物だからか。それとも、己が生きてきた世界から掛け離れた異物だからか。(ヴァイナハテン、か…)イエス・キリストの降誕を記念する日。そして、その日のために飾られるそれら。用途を知らないわけではない。目にする機会...

  • Uriel

    「…はぁ、あんなところにいたら窒息する」凍てつく夜風に晒されるのも厭わずに。むしろ、あの窮屈な空間で無駄な時間を過ごすよりは余程マシだと言わんばかりに息を吐き出す。開け放たれたままになっている扉の向こうから、まるで少年を呼び戻そうとするかのように聖歌隊の讃美歌が彼を追ってくる。しかし、美しい旋律も彼の興味を引くことはできなかったようだ。少年は背中を叩くそれを拒むように厚手のコートのポケットに両手を...

  • 今日も命を生きる

  • それは、ある日常の「物語」 #19

    (12色相環シリーズ:赤/1月)扉の開く音と同時に、微かなシャンプーの香りが鼻腔を掠めた。その心地良い甘い香りを消してしまわないように、まだ長い煙草を灰皿に捻じ込む。数年前には考えられなかった己のそんな行動も、今では当たり前になった。部屋に入ってきた彼の気配に、口端が緩むのもまた。「あれ、ハイン?」「ただいま」「うん、おかえりなさい」部屋に備え付けられているカウンターバーのチェアに腰掛けていた俺に気付...

  • 祝餐のためにはじまるあした

    クリムゾンレッドのテーブルクロスの上には、幾何学模様が編み込まれたアイボリーのテーブルランナー。レース調に透かし彫りが施された白磁の皿と銀食器。テーブルクロスと同色のナプキンはをヤドリギを象った純銀製のリングで丁寧に丸められている。テーブルの中央にはイタリアで縁起物として扱われている黄金色の麦の穂が飾られ、その手前に置かれているのは創業250年の名門ガラスブランドのタンブラー。世界で初めてブドウの品...

  • さんざめく、ひかり(おまけ)

    「重荷が人を作る」。それは、約260年もの長きに渡り続いた太平の天下を築き上げた人の言葉だ。不遇の幼少期を経て、謀略と策略に翻弄されながらも戦乱の世の終わりを見届けたその人の真意を知ることはできない。だが、臣下を「宝」だと言って憚らなかったその人の言葉に偽りはなかったのだろう。地位も名誉も、単独では意味を成さない。独りで君主だと喚いたところで、付き従う者が居なければ国は成らないのだ。民が居なければ国...

  • さんざめく、ひかり

    星々が煌めく美しい夜空に、黒と金の2色に染め抜かれた旗が翻る。それは、「ヨーロッパの父」と呼ばれるカール大帝の戴冠によって産声を上げた神聖ローマ帝国を象徴する色。青空に映える黄金色の旗地とそこに描かれた雄々しい双頭の黒鷲の色は、ヨーロッパにおいて800余年もの長きに渡り栄華と栄光を欲しいがまま手に入れた大国の誇りそのものだ。今からおよそ200年前に滅びてもなお、かの大国は死してはいない。この街で今も確か...

  • Kirsch & Cassis

    賑やかだった会場の音が一瞬消えた気がした。誰もが目を奪われ、口を噤み、瞬きも忘れて、悠然と歩くその人たちを目で追う。1人は、艶やかな黒髪を丁寧に後ろに撫でつけ、シルクが織り込まれた光沢のあるタキシードで均整の取れた体躯を包んでいる。ウイングカラーの白シャツにはクリムゾンレッドのアスコット・タイを合わせ、胸元にはタイと同色のスリーピークに畳んだチーフ。袖口から覗く時計やカフス、靴に至るまで洗練された...

  • Glad Eye

    背後から近付いてくる気配に気付かない振りをして、アルフレードは読んでいた小説の行間に小さな笑みを隠し落とした。はじめは驚かせようとしているのかと思ったが、その割には気配を消していない。むしろ、自分が振り返ることを待っているかのようで。焦れたようにじりじりと近付いてくる様子に声を押し殺して笑っていると、背中に小さな衝撃を感じた。「アル」背中に覆い被さってきた身体を受け止め、アルフレードは両肩の上から...

  • Bucks Fizz

    綺麗な言葉を並べ立てる裏に醜い本心を潜ませ、美しい笑顔の影に残酷な思惑を飼い、穏やかな佇まいの後ろ手には鋭いナイフを隠し持つ。悪意や憎悪を懐に、それを知りながら人々は微笑み合い、互いの腹の中を探り合う。それを愚かなと一蹴するには、自分はそちら側に浸かり過ぎてしまった、とハインリヒは誰に向けるでもない嘲笑を口端に乗せた。当たり障りのない会話に見せかけて、その実、相手の弱みや傷口を耽々と狙っている。蹴...

  • 呱々の声は光を祝う

    月のない乾いた夜空に、閃光が走った。薄い雲を切り裂く白い光と大地を揺らす轟音が腹の底に響き、アルフレードは手を止めた。世界レベルの建築技術と国内最高峰と謳われる最新システムによって形作られた頑強なマンションさえも、その足元を震え上がらせる自然の力。それは人智を遥かに超えたもので、いかに科学が神の領域に手を伸ばそうと決して掴むことができない。チャレンジャー海淵にはその先があることを突き止めたとしても...

  • Aurora

    ただの偶然だったのかもしれない。その日、たまたま目を通すべきメールも書類もなかった。その時間、たまたまあの道を通った。そして、たまたま顔を上げた瞬間にたまたま彼を見つけた。たったそれだけの、偶然なのかもしれない。「だが、そのいくつかの偶然が同時に重なったというなら、それを奇蹟と呼びたい」是が非でも大仰な名前を付けたいわけではない。しかし、それだけの価値があるのだ、と続けたハインリヒの視線はグラスに...

  • Nikolaschka

    ふと、喉の渇きを感じて目が覚めて。隣で眠っていたはずのハインリヒの姿がないことに気付いたアルフレードは、目を擦りながら気怠い身体を起こした。ぽっかりと空いてしまった部分に触れれば、温もりはない。ベッドから落ちるギリギリのところで何とか引っ掛かっていたシャツを羽織り、窓の方へ視線をやる。まだ夜は深く、皓々と輝く白い月と凪いだアドリア海が見えた。(…ハインも水を飲みに行ったのかな?)床に脱ぎ捨てられた...

  • Cacao Fizz

    微かな旋律が耳を掠めて顔を上げれば、広々としたバルコニーの日当りが良い場所に並べられたプランターに水をやっていたアルフレードの後ろ姿が見えた。どこか懐かしく感じる優しい旋律は彼の鼻歌だったようで、ハインリヒはキーボードを叩いていた手を止める。陽光を食んだ白いシャツとアルフレードの金糸の髪のコントラストが眩しく、思わず目を細めた。(…神聖な色、と言うべきか)迂闊に触れることを躊躇させるに十分な光景だ...

  • Imperial Fizz

    顔が痛い、とハインリヒは鏡の前で眉を寄せた。シェーバーで切ったのだろうか、と首を左右に傾げてみるがどこにも傷はない。そもそも、痛みと言っても切り傷などの外傷的なものではないのだ。もっと内側。しかし、歯が痛むのでもない。人差し指と親指で顎を掴むように左右の頬をそれぞれの指の腹でぐりぐりと解す。「どうしたの?」ひょいっと覗き込んできたアルフレードと鏡の中で目が合い、ハインリヒは「顔が痛い」と素直に返し...

  • エルピスの存在証明11

    たとえば、雨上がりの空に虹が架かったとき。たとえば、マーケットに初摘みの果物が並んだとき。たとえば、道端に花が咲いたとき。たとえば、焼き立てのパンが手に入ったとき。たとえば、夜空に浮かぶ月が一際明るいとき。それらは、日常の中に“当たり前”にある風景や出来事、何気ない瞬間で。多くの人にとっては、傍らにあるもので。しかし、自分たちにとってはまるで別の世界のもののようだった。自分たちの傍らにあるものと言え...

  • エルピスの存在証明10

    元々受け入れるための器官ではないそこを無理矢理押し開き、身体の最も深い場所を穿つ。熱量と質量を持った異物が体内を犯すのだ。その本能的な恐怖はいかほどのものか。愛があれば、などと幻想に浸った生温い言葉は、本当の意味で他者に自分を委ねたことがない者のものだろう。自分自身でさえ触れることができない身体の奥を開かれ、内臓を直接抉られ、半ば強制的に快楽を引きずり出されるのだ。愛程度で、人間としての急所を曝け...

  • エルピスの存在証明 9

    それは、最高峰グレードと誉れ高いオーダースーツ。名前は、「ミケランジェロ・サルトリア」。イタリア語で「仕立て屋」を意味し、熟練の職人による縫製によって仕立てられたその一着はどの角度から見ても美しいシルエットと重さを感じさせない究極の着心地を併せ持つ。素材と着心地へのこだわりを追求する伝統的な文化が根強く残るイタリアのテーラーリングを意識して開発された、まさに最高峰、最高級と謳われるに相応しいスーツ...

  • 夏祝ぐ千輪華

    白い炎に燃える空は目に痛いほど眩く、重たい熱気に焼かれた肌がひりつく。吸い込んだ空気は気道に纏わりつき、言葉は沈黙するばかり。夏の陽光はあまりにも強く、気温と湿気が手足に絡みついてくる。しかし、瞳を灼くそれはまさに“光”であって、弾けんばかりに輝く命の色を純粋に美しいと思う。いや、そう思えるようになったと言うべきか。夏は、最愛の人が産声を上げた季節。己の命に意味を与えた命が産まれた、特別な季節だ。痛...

  • エルピスの存在証明 8

    どこを切り取っても完璧だと思うのは、惚れた欲目なのか。光を食んで煌めく金糸の髪、まろい頬、そこに影をつくる長い睫、艶やかな唇。全てのパーツは完璧なバランスで配置され、細い首から繋がる肢体は柔らかな曲線を持つ。巧緻なその姿はまさにビスクドールそのもので。白いシーツに抱かれるように眠るアルフレードを見つめ、ハインリヒは瞳を細めた。眩しい、と思うのはカーテンを引いていない窓から差し込む朝陽を食んだ髪が煌...

  • エルピスの存在証明 7

    古代ギリシア時代にアテナイのアクロポリスの上に築かれた、壮麗な神殿の東破風。そこに、“若いゼウス”を意味する名前を与えられた男神の彫像がある。その大部分が破壊や風化によって失われてしまっているが、ゆったりと背中を預けて杯を傾けているような姿は今も人々の目を惹き付けるには十分なもので。雄々しく戦う神たちの彫像の中で堂々と、そして、悠然と寛ぐ美しい姿はまさに“神々の王”の子として相応しい佇まいと言えるだろ...

  • エルピスの存在証明 6

    寝室に持っていくはずだったシーツを両腕に抱えたまま、アルフレードは自室の作業机の椅子に深く腰掛けて溜め息を零した。迂闊だったな、と呟きながら、ずるずると力なく机に突っ伏す。(あの場所に居たのは“王様”…。それは彼であって彼ではないのだから…)ドア1枚。たった1枚だが、そのドアの向こう側とこちら側では世界が違うことを知っていたはずなのに。迂闊だったな、と改めて溜め息と共に独りごちる。「…あんなハイン、初め...

  • エルピスの存在照明 5

    かつてアメリカに、低所得者向けにローンを発行していた大手の投資銀行があった。人々は地価の上昇を目論見、そのローンを利用して土地や家を買った。しかし、不景気によって地価が下がったことで人々は借金の返済目処が立たなくなり、次々とその土地や家を手離した。これはアメリカのシステムでは土地や家を手放せば残りのローンを支払う義務がなくなるからであり、これによって投資銀行は貸していた金を回収できなくなった。その...

  • 世界が花笑む日に

    瞼の向こう側に感じたのは、光。太陽のものよりはささやかで柔らかく、月のものよりは確かな存在。陽だまりによく似たそれに触れたい、と思ったのはひどく優しい匂いがしたからで。肌触りの良いシーツの波に身を委ねる心地良さはあまりにも名残惜しかったが、アルフレードは鼻腔を擽った甘い香りに瞼を押し上げた。挽きたての豆で淹れたコーヒーの苦い香りと蜂蜜の甘い香り。そこに混ざる爽やかな香りは果物のものか。コトリ、と食...

  • エルピスの存在証明 3

    酒に酔えない身体を何度恨めしく思っただろう。アルコール度数が高いだけの酒は喉を焼くばかりで、その痛みと虚しさばかりが募った。しかし、今までは“酔う”という感覚を知らなかっただけで、酒に身を委ねることを一度覚えてからは心地の良い酩酊感を味わうことができるようになった。自家製のサングリアを一口含めば、さっぱりとしたレモンの甘味とその奥に共存する白ワインのほのかな苦味が口内で調和する。決してアルコール度数...

  • エルピスの存在証明 2

    何もなかった無機質なバルコニーに、ある日小さなプランターが1つ置かれた。しかし、そこに植えられた鮮やかな緑の苗は一向に花を咲かせる様子がなく、さすがにどうしたのだろうと思った頃にそれがそもそも花を咲かせることのないバジルだと知った。そうして、いつの間にかプランターは1つ、また1つと増えていき。ミニトマトが収穫できる頃には、無機質だったバルコニーは季節の野菜や花が育まれる場所になっていた。ミモザの花が...

  • エルピスの存在証明 1

    ローテーブルの上に置いてあったモバイルがメッセージの受信を告げ、アルフレードは読んでいた雑誌から顔を上げた。世界中のインテリア照明を特集したその雑誌を閉じ、モバイルに手を伸ばす。ディスプレイに表示されているのは、ハインリヒの名前。同じ家の中に居る彼から届いたそれを開いたアルフレードは、あまりにも短い本文に小さく微苦笑を落とした。(おいで、って)彼らしいと言えば彼らしい、とくすくすと笑いながらソファ...

  • Golden Cadillac

    ベッドの端にそっと腰を下ろしたハインリヒは口端を緩めた。視線の先にあるのは、開かれたままの小説とそれを手にして眠るアルフレードの姿。レースカーテン越しの月光に晒された白い肌は精巧なビスクドールのそれそのものだ。こうして瞳が閉じられていると、その上等な琥珀を思わせる瞳がいかに強烈な存在感を放つものなのかつくづく思い知る。護られる側ではなく、戦う側の者だと言わしめるだけの意志や覚悟の炎を宿した瞳。それ...

  • 雨上がりと君の笑顔

    急いで確認を、と求められたメールの対応を終えて書斎からリビングに戻ったハインリヒはそこに居たはずのアルフレードの姿を探した。キッチンにもソファにも居らず、私室に居るのだろうかと書斎の向かい側にある彼の部屋に向かおうとしたとき。ふわり、とレースカーテンが大きく風を孕んで揺れた。呼ばれている、と思ったのは気のせいか。ハインリヒは引き寄せられるままそちらに足を向けた。一昨日から降り続いていた雨の音がしな...

  • 冷えた肌に温もりを

    世界はひとつの同じ空を戴いているというのに、何故こうも違う表情を見せるのか。突き抜けるような青空からは目に痛いほどの光が燦々と降り注ぎ、イタリアが太陽に愛された国と言われるのも頷けるとハインリヒは瞳を細めた。サングラスの薄いガラス1枚では防ぐことのできない光量に全身を包まれる。何もかもが、眩い。何もかもが、美しい。光に溢れる空、瑞々しい緑、真っ白な砂浜、穏やかな波の海。夏らしいリネンのシャツ、風と...

  • 雨よ止まないで

    バケツをひっくり返したような雨の勢いは衰えることなく、交通機関は完全に麻痺。アウトバーンも閉鎖され、鉄道も運転を見合わせたまま半日が過ぎた。地上は混乱のさなか。となれば、空も例外ではなく。欠航を知らせる赤い表示が並ぶスクリーンを前に、フルアは溜め息を吐き出した。自然の脅威を前に人間などちっぽけなもので、こればかりは仕方がない。とはいえ、空港に足止めをされたまま7時間も過ぎるとさすがに参る。ベンチで...

  • 相合い傘の魔法

    音もなく降る静かな雨は、忌々しい記憶を呼び起こす。それはグジュグジュに膿んだ傷口を引っ掻き回し、アルフレードは酷い痛みを訴える胸を押さえるようにシャツを握り締めた。濡れた石畳の感触は古びた板張りの冷たい床に似ていて、肌に纏わりつく湿気が煩わしい。耳鳴りは悲鳴の残響のようで。息が上手く吸えない。足取りは重くなり、逃げようと這いずる足首を掴まれた感覚が妙に生々しく甦る。そうして、米神がズキズキと鈍く痛...

  • 降りしきる夜雨

    「雨、止まないね」「あぁ、しばらくは続くと予報にあったな」「そっかー」明日はお休みなのにね、と残念そうな顔で振り返ったアルフレードを手招き、素直に近付いてきた彼をハインリヒは膝の上に抱き上げた。「お弁当持って庭園に行きたかったなぁ」こてん、と胸に頭を預けてきた彼の幼い仕草に小さく笑い、その柔らかな金糸の髪を撫でる。いつもはふわふわと跳ねている毛先も心なしか元気がないように見えるのは気のせいか。全身...

  • 揺れる傘揺れる恋

    昨夜から続く大雨を抱えた鈍色の分厚い雲は、ドイツのみならず近隣国をも覆い隠している。空港から唯一街に繋がるアウトバーンも土砂崩れで通行止めになり、辛うじて動いていた電車で普段の数倍以上の時間をかけてようやくミュンヘンの玄関口に降り立ったハインリヒは重たい溜め息を零した。曇天につられるように人々も昏く俯きがちで。確かにこうも陰鬱な天気が続くとさすがに嫌になる、と纏わりついてくる湿度を振り払う。だが、...

  • ずぶ濡れの恋心

    上等なスーツは水を吸い、磨かれていたであろう革靴は泥で汚れ、裾には跳ね返ったそれがシミになっている。黒髪からぽたぽたと水滴を垂らしながら息を切らして駆け込んできたその男を前に、ダイトは持っていたカルテの束を落としかけた。慌ててそれを抱え直し、大袈裟に肩を竦めてみせる。「おいおい、何だそのナリは」「そんなことよりもアルは?倒れたときに怪我はしていませんか?」「貧血で少しふらついただけだ。怪我はしてね...

  • Casablanca

    ふとしたときに、思い出すことがある。たとえば、好きだと言ってよく食べていた果物が市場に並んでいるのを見たとき。たとえば、毎朝淹れてくれたものと同じ豆のコーヒーを飲みながら窓の向こうに広がる青空を見たとき。たとえば、同じタイミングで吹き出した映画がテレビで放送されているのを見たとき。たとえば、色違いで使っていた歯ブラシやシャンプーを店先で見たとき。そう、たとえば。初めて2人で迎えた朝に見た花を前に、...

  • てるてるぼうずの恋

  • 君を待つ雨の午後

  • こんな雨の日には

  • 雨降りに恋

  • Diki Diki

  • エルピスの存在証明 4

    蜂蜜色の少し癖がある柔らかい髪。滑らかな白い肌。頬に影をつくるほど長い睫。それに縁取られた上等な宝石を思わせる鳶色の瞳。あぁ、どこを切り取っても美しいとハインリヒは思う。前髪を指先で払えば、形の良い額が現れる。その生え際に唇を落とし、次で眉に、瞼に、鼻先に口付けていく。擽ったそうに零れた吐息はひどく甘く、熱を煽るには十分過ぎるもので。右手だけで器用にアルフレードのシャツのボタンを外し、細い首筋から...

  • Campari and Orange

  • Cablegram Highball

  • High life

  • Bahama

  • Angel's Kiss

  • Klndike Cooler

  • Silk Stockings

  • Frozen Margarita

  • Vodka Apple Juice

  • Cardinal

  • 140文字の物語

  • Kir

  • Montana

  • Eye Opener

  • カクテル言葉50題

  • 明日に告ぐ

  • オベロンといく 11

  • オベロンといく 10

  • オベロンといく 9

  • オベロンといく 8

  • オベロンといく 7

  • オベロンといく 6

  • オベロンといく 5

  • オベロンといく 4

  • オベロンといく 3

  • オベロンといく 2

  • オベロンといく 1

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