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糖度高めなオリジナルBL小説(短篇~長篇)を扱っています。 ドイツ人広告代理店社長×イタリア人家具デザイナーが美味しいもの食べたり困難を乗り越えたりいちゃついたりする日々の物語。 #溺愛攻め #トラウマ持ち受け

受け溺愛主義かつ強火担の攻めが何が何でもハピエンにします。

あざさ
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2011/01/01

  • 焔えるルビナイト 7

    ワイドキングサイズのベッドに敷かれているシーツの色は、ミッドナイトブルー。白やアイボリーなどの淡く柔らかな色を好んで使うアルフレードが選んだものとしては珍しい。それも無地で、寝室に相応しい落ち着きはあるが、一見すると地味な印象を抱かせる。寝室の四方ある壁のひとつは全面ガラスで、2面は白い壁紙だがベッドの頭側の壁はチョコレート色に塗られている。そのためシーツを暗色にすると寝室全体が遊び心のない空間に...

  • 焔えるルビナイト 6

    すごい1日になっちゃったね、と苦笑するアルフレードに淹れたてのミルクティーを差し出しながら、ハインリヒも肩を竦めた。「疲れただろう」「ハインもね、お疲れ様でした。さっきまで電話鳴りっぱなしだったけど、ひとまずは落ち着いたみたいだね」「あぁ、やっとだ。そろそろ叩き壊すところだった」「ホテルから病院に向かう前からすごかったもんね。あれってどこから情報が伝わるの?」事故のニュースの速報は出たかもしれない...

  • 焔えるルビナイト 5

    鼓動が煩い。息が切れる。指先は冷え、血の気が引く。擦れ違った看護師が「廊下を走らないでください」と叱責する声を背中に聞きながら、ダイトは処置室と書かれているプレートの中から目的の番号を探す。本来は静かなはずの廊下にも人が溢れ、ざわざわと空気が落ち着きない。だが、それに構う余裕もなく、ダイトは見つけ出した番号の部屋のドアを勢いよく引いた。「無事か!?」ノックもなく突然開いたドアとそこから転がるように...

  • 焔えるルビナイト 4

    「今回もカマーバンドじゃなかったかぁ…」ぽつり、と零されたアルフレードの声は周囲の音に搔き消されるほど小さなものだったが、ハインリヒの耳には届けられた。足を止め、どうしたと問う。「え?」「今、カマーバンドがどうのと言っていただろう?」「あ、口に出ていた…?」はっとした顔をして口許を手で隠すアルフレードにハインリヒは口端を緩めた。随分と幼い仕草だが、どうしてこうも艶っぽく見えるのか。その柔らかな金糸の...

  • 焔えるルビナイト 3

    ビジネスやネットワーキング、文化的な交流を目的とし、特定の社会的な階層や特権階級のメンバーが集まるイベント。それらを一般的に、社交パーティーと呼ぶ。親しい友人や家族とカジュアルな雰囲気の中で気軽な会話や交流を楽しむこともまたひとつの社交パーティーではあるが、それとは何もかもが違う、とアルフレードは煌びやかな会場を見渡した。所謂、上流階級と呼ばれる人間たちによるそれはまさに“社交”と呼ぶに相応しい。会...

  • 焔えるルビナイト 2

    と言うことが今朝あった、と話し終えたハインリヒはグラースから差し出されたコーヒーを受け取り、ゆっくりと口を付けた。かつてはその液体を流し込むばかりで、味わうことはなかった。いや、その行為に意味を感じなかったと言うべきか。吐き出してはいけない言葉を、表に出してはいけない感情を流し込むためだけにそれを利用していたに過ぎない。だが今は、こうして立ち止まり、香りと味を楽しむ余裕ができた。余裕ができた、と気...

  • 焔えるルビナイト 1

    手繰り寄せた布をもそもそと身に着け、アルフレードは睡魔の手を振り払うように目を擦った。小さく欠伸を零しながら半身を起こし、広いベッドから何とか抜け出す。ワイドキングサイズのそれには上等なスプリングが使われており、淡いクリーム色のシルクのシーツは肌触りが良い。それに誘われるままうっかり二度寝してしまったことも一度や二度ではなく、後ろ髪を引かれながらもアルフレードはまだ覚醒しきっていない身体をぐっと伸...

  • ベローナが祝ぐ日まで 10

    悪夢に魘されて飛び起きるのでもなく、浅い眠りのままぼんやりと覚醒するのでもなく。瞼越しに感じる光が徐々に身体を包み、日向の中で、穏やかな気持ちで、目を覚ます。溜め息から始まるのではなく、清々しい気持ちで迎えた朝。しっかりと休息を得た身体は軽く、心も弾む。思考もクリアで、アルフレードは早々にベッドに別れを告げた。ぐーっと両腕を上げて身体を伸ばし、夜着の上に薄手のカーディガンを羽織る。寝室を出る足取り...

  • ベローナが祝ぐ日まで 9

    国境を越え、いくつかの都市を抜けて。アウトバーンからの景色を楽しみながら、ウィーンからミュンヘンまでのおよそ4時間30分の道程をたっぷりと堪能して。美しいオレンジ色の屋根が建ち並ぶ中に聳え立つ近代的な高層がビルが見えてきた頃には、すっかり陽が暮れていた。ミュンヘンの空が夕日に染まる頃には帰り着いている予定だったが、つい寄り道を繰り返してしまったな、とフルアは口端をそっと緩めた。助手席には、先ほどから...

  • ベローナが祝ぐ日まで 8

    身体に染み込んだ習慣から呼吸のように自然に後部座席のドアを開ければ、不思議そうな眼差しを向けられる。ドアを開けられることなど初めてではないだろうにどうしたのだろう、とフルアも疑問を滲ませた視線をアルフレードに向けた。「アル君?」「えっと、前じゃダメですか?」「はい?」助手席に、とおずおずと指を差され、そこでようやく合点がいく。彼を乗せるときはプライベートな感情が優先されるとはいえ、上司であるハイン...

  • ベローナが祝ぐ日まで 7

    ヒュッと、息を飲む引き攣った音は悲鳴に似ていて。ハインリヒは足を止め、その音の先を見た。瞳は見開かれているが、その焦点は虚ろで。頭で考えよりも先にハインリヒは呼吸を忘れて微動だにしないアルフレードの肩を抱き寄せた。搭乗ゲートへ急ぐ者、次の目的地に向かう者、長旅を終えて帰って来た者たちが入り混じる国際空港のコンコースは鉄道の最終便が迫る時刻であっても賑わっている。大きなキャリーを引く者たちが訝しそう...

  • ベローナが祝ぐ日まで 6

    “魂の殺人”。それは、狂気と悪意によって身体も心も凌辱されることを意味する。一方的な暴力によって人としての尊厳を踏み躙られ、否定され、日常の全てを変えられてしまう。傷の痛みは簡単に消えるものではなく、酷い凍傷のように皮膚の下に残り続ける。想像してみてほしい。「また明日」と笑顔で別れた友と昨日のように笑い合うことができなくなり、昨日まで楽しみだったテレビ番組を見ることもできなくなり、あれほど心待ちにし...

  • 甘くとける恋はいかがですか

    大人が抱えても腕が回りきらないサイズの大きなテディベア。ふわふわと柔らかな毛並みは蜂蜜色、真ん丸の瞳はチョコレート色。あれはいつだったか、お前に似ていると思ったら買っていた、と言ってそれを脇に抱えて帰って来たその人は、今。ぐったりとソファに沈んで大きな溜め息を吐き出している。オートクチュールの上等なスーツが皺になることも構わずに横に脱ぎ捨て、首元でだらしなく緩めたネクタイを乱暴に抜き取って放り投げ...

  • ベローナが祝ぐ日まで 5

    何故、彼ばかりが。何故、と繰り返し溢れてくる言葉をハインリヒは奥歯で噛み殺した。骨が軋む嫌な音が頭に響いたが、それには構わずにベッドの縁に腰を下ろして拳を握りしめる。いっそ感情のまま喚き散らかし、壁か床に叩きつけてしまおうか、とその拳を振り上げた。歯痒さやもどかしさは焦燥と苛立ちを伴い、すでに冷静ではない。引き結んだ唇を解けば、そこから怒りや憎しみが止め処なく溢れそうになる。水が沸くようにふつふつ...

  • ベローナが祝ぐ日まで 4

    果たして危惧は危惧で終わったのか。いつもの夜が過ぎ、いつもの朝を迎え、いつもの日常が過ぎて行く。すでに2週間。アルフレードが「憂鬱なニュースを見てしまった」と引き攣った苦笑を見せたあの日から、2週間が経った。あの日、彼を1人にしてしまうことに不安が拭えずにダイトの医院に出向くように仕向けて。違和感に気付いたフルアに問い詰められ、彼から状況を聞いたグラースが慌てて執務室に飛び込んできて。自分たちもアル...

  • ベローナが祝ぐ日まで 3

    ペーパーレスの時代とは一体なんなのか。積み重なっていく書類の山を前にうんざりした顔で溜め息を吐きながらも、黙々とそれを崩していた上司の手が止まったことに気付いたフルアはボトルグリーンの瞳を探るように細めた。淹れたてのコーヒーを彼の手元に置き、その端整な顔を窺い見る。世界的な大企業の最高執行責任者。実質のトップというその肩書きは誰もが羨む。白を黒にすることも容易い力を持ち、名声と金も思うまま…と、他...

  • ベローナが祝ぐ日まで 2

    肌にシーツが触れる。ミュンヘンの街が深い雪に覆われていようともセントラルヒーティングによって全ての部屋は1年中適温に保たれており、寝室の空気も穏やかで。しかし、深夜特有の独特な凛とした静かさにアルフレードの肩が小さく跳ねた。それに気付いたハインリヒが毛布を引き上げ、2人でその中に入り込む。「寒くないか?」「うん、大丈夫だよ。こんなにもあったかい」子供のようにぎゅうと抱き着いてくるアルフレードにハイン...

  • ベローナが祝ぐ日まで 1

    ほのかに甘く、日向のような優しい香りが鼻孔を擽る。ネクタイを首から引き抜き、ソファの背に身体を預けたハインリヒは大きく息を吐き出した。両肩に圧し掛かっていた息が詰まるほどの重たさは、大仰な肩書きに伴う責任と覚悟の質量。用意されたたった1つの椅子が置かれているのは、目が眩むほど高い場所で。そこで味わう孤独は、まるで上下さえ分からなくなるほどの闇の中に取り残される感覚に似ている。どこに進むべきか、そも...

  • レヴァントリの下で

    窓の向こうに広がるのは、白銀の世界。木々も家々も雪に覆われ、そこにあるはずの色を覆い隠している。動物の気配もなく、シンと静寂に包まれた夜はどこかもの哀しい。だが、星の明りに照らされて淡く輝いているその光景にアルフレードは瞳を煌めかせた。美しい、と思う。凛と静謐な空気と頭上に広がる満天の星空、そして、暖炉の中で薪がパチパチと爆ぜる音。そのどれもが完璧な芸術作品のように存在している。心が、弾む。自然と...

  • 㤅を知る

    至急対応して欲しい案件がある、と秘書のフルアから連絡を受けたのは1時間前のこと。担当部署からの報告書に目を通し、いくつかのメールに返信し、やるべきことに片を付けたハインリヒはふぅと小さく息を吐き出した。身体を伸ばし、そのままソファの背に体重を預ける。ラップトップの画面を埋め尽くしている小さな文字や数字がぼんやりと滲み、疲労が蓄積された目頭を解そうと手を伸ばす。と、その指先が眼鏡のブリッジに当たった...

  • ストレリチアが蕾む頃 12

    地中海に浮かぶ5つの島々からなる、マルタ共和国。マルタストーンと呼ばれる蜂蜜色の石灰岩で造られた建築物が立ち並び、中世の息吹が今も感じられる美しい国だ。「ガラリア」と呼ばれる通りに突き出た特徴的なバルコニーは赤や黄、青や緑に彩色され、マルタストーンとの鮮やかなコントラストは見る者の足を止めるほど壮麗で。“ルネッサンスの理想都市”と謳われたかつての栄華に感嘆を零すだろう。近代では1989年12月3日に44年続い...

  • ストレリチアが蕾む頃 11

    地中海の中央に位置し、様々な歴史と文化が入り混じった島国マルタ共和国。色とりどりな船が港に持ち帰ってきた新鮮な魚介類は島民の生活を支えるだけではなく、世界中から訪れる観光客の胃袋も満たす。調理法は隣国のイタリアの影響が強く、トマトやオリーブオイルを使ったものが多いが、アラブから運ばれたスパイスや調味料も多用される。文化が交わる島らしい料理の数々に、ハインリヒは感嘆もポーカーフェイスも忘れてエプロン...

  • ストレリチアが蕾む頃 10

    そより、と頬を撫でたのは夏の匂い。微かに潮の香りが混じるそれは、幼い頃を過ごしたイタリアの港町ラヴェンナを思い起こさせる。そこは、哀しみと寂しさを置き去りにした町。喪ってしまった日常や奪われたいくつかの未来を直視することができず、遺されたアルバムを開くこともできなかった。だが、今は違う。彼らと共に過ごせた時間は決して多くはなかったけれど。惜しみない愛情を与えられ、無条件の優しさに包まれ、幸せだった...

  • ストレリチアが蕾む頃 9

    ベッドヘッドに積まれたクッションに顔を埋めるように倒れ込んだアルフレードの髪を梳き、ハインリヒは深く息を吐き出した。それに気付いたアルフレードが埋めていた顔を上げて、微苦笑する。「ふふ、お腹いっぱい。食べ過ぎちゃったね」「あぁ。さすがは卿の行きつけの店だったな」マルタ島の伝統的な料理を出すレストランは個人が経営する小さなものだったが、地元の人々が集うその空間には柔らかな時間が流れていた。財界人や著...

  • ストレリチアが蕾む頃 8

    断片が、繋がる。「おしまい」と結ばれたはずのいくつかの物語が。舞台を変え、主人公を代え、全く違う景色を描きながら。延長線上に、新しい物語を紡ぎ出す。誰かの祈りが、誰かの願いが、織り込まれていく。昨日が、明日へと。たとえ途切れてしまったとしても、そこで終わりではないのだ。そこからまた、こうして始まる。始められる、とハインリヒは己自身とロザリオを重ねた。このロザリオが見届けてきた時間はそれこそ人間には...

  • ストレリチアが蕾む頃 7

    「みっともないところを見せたね」そう言って微苦笑するパスクァーレに促され、ハインリヒは絨毯についていた片膝を上げた。そして、場所を変えてもいいだろうかと問う彼にアルフレードと共に頷き、杖を手にソファから腰を上げた彼に続く。部屋から出ると席を外していた執事のエリゼオがこちらに戻ってくるところで、主であるパスクァーレに慌てて駆け寄って来た。それもそうだろう。長く仕えている主の瞳に涙の跡があれば誰だって...

  • ストレリチアが蕾む頃 6

    ロザリオとは、カトリックにおいて祈りの際に使用される数珠状の道具だ。大珠6個と小珠53個が繋がれており、この珠を手で繰りながら「アヴェ・マリア」と呼ばれる祈りを繰り返し唱える。こうすることによって何回祈りを唱えたか正しく把握することができるのだ。そう、故にロザリオは装飾品ではない。だが、アルフレードは幼い頃から「お守り」として首から下げて身に着けていた。夏らしいリネンのシャツの下から取り出したそれを...

  • ストレリチアが蕾む頃 5

    足に擦り寄ってきた三毛猫が一度涼やかに鳴き、崩れたレンガの山を颯爽と登っていく姿を見送る。これで何匹目だろうか、とハインリヒと顔を見合わせたアルフレードは笑みを乗せた。「マルタは“猫の島”っていうのは本当だったね」「あぁ、島中どこにでもいるな。どの猫も毛並が良いが、基本は野良なのだろう?」「ほとんどそうみたいだね。でも、みんなちゃんと去勢手術もされているんだって」マルタ島の人口は42万弱。それに対して...

  • ストレリチアが蕾む頃 4

    ふと目が覚めて、肩に触れる温もりに視線を向ければ。眠っていると思っていたその人の瞳もこちらを見ていて、ぱちりと交わった視線にどちらからともなく小さく笑う。「ふふ、ハインも目が覚めちゃった?」「あぁ、アルもか。まだ暗いようだが…今何時だ?」「んー、まだ4時前だね」夜明け前か、と呟いて横になったまま前髪を無雑作に掻き上げるハインリヒにアルフレードは瞳を細めた。彼のこんな無防備な姿を見ることができるのは世...

  • ストレリチアが蕾む頃 3

    ハニーストーンと呼ばれる優しい色合いの石灰石で造られた建物が並ぶ首都バレッタの街並み。この街は島の北東に位置する岩山に築かれたもので、街そのものが世界遺産に指定されている。高低差が激しく、それ故に複雑に建物が折り重なる光景は圧巻の一言だ。古代から戦いの要塞となり、多くの民族や文明、勢力がこの場所で衝突し、時に交わっては重なり、複雑に絡み合ってきた。そうして生まれた唯一無二の存在は、その背景にある歴...

  • ストレリチアが蕾む頃 2

    耳を澄ませば、馬の嘶きが聞こえてくるような。ふと振り返れば、回廊の奥から甲冑を身に纏った騎士たちが歩いて来るような。目を閉じれば、砲撃の煤けた匂いや炎の熱を感じるような錯覚さえ受けた。重厚な門扉を抜けた先にあった光景はそれほどに、かつての姿のままそこにあった。アルフレードのデザイナーとしての才能を見い出し、今はパトロンとしてその活動を支えているパスクァーレの招待で訪れたマルタ島。個人的に所有してい...

  • ストレリチアが蕾む頃 1

    空と海の間にあるはずの境界線がない世界を見たことがあるだろうか。見事に溶け合ったコバルトブルーの眩しさに、ハインリヒは胸元のポケットに差していたサングラスを手に取った。執務室という閉鎖された空間で過ごすことに慣れた身体はどこまでも広がる夏の景色に圧倒され、蛍光灯とは比べ物にならない光量に瞳を細める。しかし、ふわりと頬を撫でた潮風は柔らかなもので。痛いほど強い日差しにじりじりと肌は焼かれるが、それを...

  • 鋼玉石にとける

    世界に名を馳せるブランドの服、それ1つで資産になり得る腕時計、発表されたばかりの新車。つらつらと並べられる単語を前に、アルフレードはゆっくりと首を横に振った。何か与えたい、という彼の気持ちが分からないわけではない。その気持ち自体はやはり嬉しい。だが、それらは自分の身の丈に合わない、と高級ブランドの名前を指折り挙げていたハインリヒにアルフレードはきっぱりと言う。「時計も靴もスーツも全部もうハインが贈...

  • Side car

    滅多に取材のアポイントが取れないことで有名だった大手広告代理店のCOOが、いつの頃からかインタビューの依頼を断らなくなった。もちろん受けるべき記事の内容は取捨選択され、悪意あるゴシップ誌の記者は近寄ることさえできない。だが、基本的には出版社の規模に問わず、地域誌のアマチュア記者であっても望めばその門扉は開けられるようになった。経済誌ならともかく娯楽誌にまで受け入れるようになった理由を、正直に言えば人...

  • 誰かの何かであるためのオブリージュ 12

    彼らがその関係を公にしたとき、世間の声は歓迎と批判に二分した。そして、それは圧倒的に後者に軍配が上がっていた。嘆く声もあれば、汚らわしいと侮蔑する声もあった。悪だ罪だと蔑み、憎悪を露わにした者もいた。ハインリヒがCOOの椅子に就く企業株は一時的とは言え大幅に値を下げ、その年の株主総会では彼を引責辞任させるべきだという声が挙がり荒れに荒れたという。社内でも実質のトップである男が同性をパートナーに選んだ...

  • 誰かの何かであるためのオブリージュ 11

    11世紀、カトリックを信仰するヨーロッパの貴族たちは巡礼者の宿泊と医療奉仕のために整地エルサレムに修道会を作った。聖ヨハネ騎士団と呼ばれた彼らは信仰や人種を問わずに医療奉仕を続け、十字軍に派遣された際も多くの兵士の治療にあたったという。その後、地中海のマルタ島に拠点を移したことで“マルタ騎士団”と呼ばれるようになる。しかし、ナポレオン軍の侵攻によってこのマルタ島に置いた本拠と地中海に有していたいくつか...

  • 誰かの何かであるためのオブリージュ 10

    花が咲くように笑う、とはよく言ったもので。太陽に愛された国に産まれ育った青年は光の下がよく似合う、とフルアはボトルグリーンの瞳を和らげた。初夏というには少し早いが、イタリアの穏やかな陽光を食んだ白いシャツが眩しい。濃灰色のボトムは動きやすいストレッチ素材のもので、アンクル丈の裾から細い足首が見えた。決して派手な服装ではない。むしろどんな景色にも埋没してしまうようなシンプルな出で立ち。だというのに、...

  • 誰かの何かであるためのオブリージュ 9

    ギリシア神話の主神にして全知全能の存在であるゼウスは、増え過ぎた人口を調整するために大戦を起こして人類の大半を死に至らしめることにした。それが、ペロポネソス半島の都市ミケーネを中心に栄えたアカイア人による遠征戦争である。ギリシア神話において“トロイア戦争”と記述されたそれには数々の神も関わり、攻め入られた都市イリオスは滅ぼされた。だが、1人の武将が焼け落ちるイリオスから地中海に浮かぶ半島に逃げ延びた...

  • 誰かの何かであるためのオブリージュ 8

    君の胸に秘めたままにしてほしい、と言ってグラスを空にしたパスクァーレの言葉が重たくないと言えば嘘になる。だが、決して胸に痞えるような重みではない。何故なら、「今はまだ」と小さく付け加えられた一言がひどく穏やかな音をしていたから。(いつか真相を知ったとき、お前はどんな顔をするのだろうな)案内されたゲストルームのベッドにアルフレードをそっと寝かせ、その枕元に腰を下ろして彼の前髪を指先で払う。彼にとって...

  • 誰かの何かであるためのオブリージュ 7

    あぁ、美しい花を咲かせてくれた。そう感慨に浸りながらパスクァーレは目許の皺を深くした。まだ小さな若葉だったそれは2人の手によって清らかな水を与えられ、光を与えられ、優しさと慈しみによって育まれて。そうして、今。晴々と咲き誇っている“愛”という形の何と眩いことか。ミラノのホテルでハインリヒと初めて会ったあの日。緊張した面持ちで、しかし怯まずに自分を真っ直ぐに見つめて彼は許しを請うた。己にはアルフレード...

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