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菜の花紀行に出かけて行った両親と入れ違いにやってきた清音は、手土産のショートケーキを彩葉に渡すと「きょう、俺も夕飯づくりを手伝っていいか?」とわくわくした表情でキッチンを眺めた。「もちろん、ありがとう。今晩は白身魚の南蛮漬けと青菜のおひたし、豚汁にするつもりなんだけど」「……俺、おひたしの係にしてくれ」「だよね」 ケーキを冷蔵庫にしまいつつ彩葉がこたえると、「笑ったな」とうしろから腕が伸びてきて抱...
母親が朝の情報番組の懸賞で『春の房総半島~おふたりで巡る一泊二日菜の花紀行~』に当選したのは、彩葉が清音との交際をはじめて2か月ほど経った、冬のしっぽをようやく春が掴んだ頃合いだった。「どうしよう、彩葉~。お母さん、このさきの幸運をぜんぶこれにつかっちゃったかも……」 テレビ局からの当選案内をダイニングの照明に透かしながら、オレンジ色をまとった横顔が言う。「だいじょうぶ、だいじょうぶ。このさきも母...
「彩葉ちゃんの初恋の相手って、速水くんだったの?」「そう、だけど……」「お似合いと言えばお似合いなんだよねぇ。彩葉ちゃんかわいいし、速水くんはかっこいいし……」 ぶつぶつと思考の海に沈んでいくと思われたふたばが、突然「あぁ!やっぱ無理!」と発するので彩葉の胸は冷えた。「瀬戸さん、やっぱり男どうしでつきあってる……って嫌悪感があるよね。ごめん、へんなところ見せちゃって」 うなだれる彩葉に「ちがうの!」と慌...
そより、と頬を撫でたのは夏の匂い。微かに潮の香りが混じるそれは、幼い頃を過ごしたイタリアの港町ラヴェンナを思い起こさせる。そこは、哀しみと寂しさを置き去りにした町。喪ってしまった日常や奪われたいくつかの未来を直視することができず、遺されたアルバムを開くこともできなかった。だが、今は違う。彼らと共に過ごせた時間は決して多くはなかったけれど。惜しみない愛情を与えられ、無条件の優しさに包まれ、幸せだった...
「ねぇ、ちょっとちょっと彩葉ちゃん!」 瀬戸ふたばがにぎにぎしく彩葉の席まで小走りでやってきたのは、冬休みがあけた日、全校集会を終え、きょうはこれで帰るだけ、という放課後だった。がらんとした教室で、色を読むまでもなく興奮した表情を浮かべたふたばは、椅子から立ちあがろうとしていた彩葉の肩に手を置いて「まぁまぁ落ち着いて」などと言う。「どうしたの?落ち着いたほうがいいのは瀬戸さんのような……」「落ち着い...
清音の頬に手を伸ばして、彩葉は言う。「清音、ちゃんと心の色が見えるよ」「よかった……」「もうだいじょうぶ。清音はなくさない、もう、なにも」「ありがとうな。ぜんぶ、菅原のおかげだ」 彩葉を抱きしめている腕に力がこもる。まるで、懸命に身体のかたちを憶えようとしているかのようだった。 憶えていて。刻んでおいて。なくさないように。清音の心がいまを刻みはじめたのを感じながら、彩葉は胸を躍らせてその抱擁を受け...
「気持ちはうまく隠し通すつもりだったんだ。でも、おとといの夜に菅原のパジャマ姿を見て、欲情を我慢できなくなった。……まぁ、つまり、要するに、むらむらしたわけだな。怒鳴られても、殴られてもいいから、告白しようと思ってキスしたら泣かれてしまってびっくりした。あぁ、そんなに嫌なのかって。だから、全力でごまかした」 彩葉はそっと清音の背中を抱きしめかえした。こんなにかわいい人を、僕はほかに知らない。「それな...
ベッドヘッドに積まれたクッションに顔を埋めるように倒れ込んだアルフレードの髪を梳き、ハインリヒは深く息を吐き出した。それに気付いたアルフレードが埋めていた顔を上げて、微苦笑する。「ふふ、お腹いっぱい。食べ過ぎちゃったね」「あぁ。さすがは卿の行きつけの店だったな」マルタ島の伝統的な料理を出すレストランは個人が経営する小さなものだったが、地元の人々が集うその空間には柔らかな時間が流れていた。財界人や著...
「―――あいつさぁ、」 紫煙が揺れた―――様にみえた。 錯覚だ。だって夜衣(よい)はもう煙草を喫っていない。夜衣が吐いたのは、ただの白い息。 ぼくは夜衣に眼を向けて、それからその視線の先を追って天を見上げる。 冬の夜空。澄んだ空気に星が瞬いている。月は細く、居心地悪そうに浮かんでいた。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どーすんの?」 その声が少し震えていたのは、この寒さの中長時間こんな処に立っていたからだろうかそれとも、「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どう・・・・・・、」 何気ない風を装っ…
清音がなぁ、と言う。ちいさな猫がそっと鳴くときのような、なぁ、だった。「菅原、顔あげて」「……やだ」「なんで」「絶対、赤くなってるから」 清音がゆっくりと息をつく。そして、身動きする気配のあとで彩葉の身体に腕が回った。そのまま、抱きしめられる。彩葉が願っていたような、強く熱っぽい抱擁だった。 パジャマのままでぜんぜんさまにならないのが悔しい、と清音がちいさな声でつぶやいた。そして、こたつ布団に顔を...
「映画館の帰り、僕にマフラーを貸してくれたせいで清音が風邪を引いたんじゃないかって思ったら、なんだか申し訳なくて……」「そんなはずないだろ。俺が映画の途中で眠っちゃって、体温高いまま外に出たからだよ」 言下に否定するかすれた清音の声を聞きながらりんごの入った茶碗を片手に居間に行くと、水色の半纏を着た清音はこたつに入ってゆるく背を丸めていた。やっぱりだるいのかな、迷惑じゃなかったかな、と思いつつ清音の...
教えてもらった住所をスマホに打ち込んで、清音の家へとむかった。駅の反対側はコインパーキングを抜けるとすぐに住宅街だ。 左手に提げた袋のなかの鮮やかなりんごの赤に彩葉は目を細める。清音の熱がひどいようなら、すりおろしりんごを作るつもりだった。 しばらくスマートフォンのガイドにしたがって歩くと、やわらかな声が目的地についたことを知らせる。彩葉は目のまえの家を眺めて、まばたきを繰りかえした。「……ここ、...
翌日、胸をはやらせながら登校したところ、いつまでたっても清音が教室に現れない。清音の席のほうばかりをふりかえっている彩葉のところに、瀬戸ふたばがやってきた。「彩葉ちゃん、どうしたの?きょろきょろしたって百円玉は落ちてないよ」「……うん、あの、清音がこないから」 ほんとに仲がいいよね、というふたばの言葉に胸が大きく跳ね、視線を戻した。目のまえの席に腰かけているふたばは「速水くん、風邪だって」と言う。...
断片が、繋がる。「おしまい」と結ばれたはずのいくつかの物語が。舞台を変え、主人公を代え、全く違う景色を描きながら。延長線上に、新しい物語を紡ぎ出す。誰かの祈りが、誰かの願いが、織り込まれていく。昨日が、明日へと。たとえ途切れてしまったとしても、そこで終わりではないのだ。そこからまた、こうして始まる。始められる、とハインリヒは己自身とロザリオを重ねた。このロザリオが見届けてきた時間はそれこそ人間には...
両親が帰宅したのは夕方だった。彩葉の手に「はい、お土産」と温泉まんじゅうの箱を乗せ、荷解きをしている母親の背中を眺める。そういえば、母さんは清音がお気に入りだ。包装紙をはがしながら、なんとなくそんなことを思った。「彩葉?どうしたの、ぽーっとして」 こちらをうかがう母親の声に、リビングの椅子におさまって温泉まんじゅうをかじりながら、彩葉は「ん-ん」と生返事をする。 頭のなかは清音に対する恥ずかしさ...
ああ、【永遠】という言葉が、こんなにも儚く虚しく霧散していく。 「大丈夫。アナタたちのことは、私が守る」 僕はよっぽどな表情をしていたんだろう。幼い子供を宥めるような優しい笑みを浮かべ、でもきっぱりと云ってくれたのは、僕たちの所属している小さな音楽事務所の社長。あのとき、僕たちを見つけてくれた。そして必死で育ててくれた。彼女がいたからこそ僕たちはこうして存在していられる。このひとは、身内を捨てたりしない。僕たちを、放り出したりしない。このひとがこう云ってくれるのならきっと大丈夫。僕が頷こうとすると、 がたっ、と。―――大きな音。 眼を向けると、計登さんが足をテーブルにかけ、揺らしていた。「・・…
昼食のあと、名残惜しい気持ちで清音を駅まで送っていった。清音はいちどだけ振りかえると、反対側の出口への階段を下りていく。 ひとりになった帰り道、肩を並べる相手がいないのがさびしい。冷えた空気によそよそしいほど白い息を吐きながら、やっぱり寒いな、清音が持っているようなマフラーを買おうかな、などと思考があてどなく流れる。ずっと話していた気がするので、考えたことを言葉にしない感覚が新鮮だった。 自室に...
空が青いと思い知ったのは夜衣(よい)が吐いた煙草の煙を眼で追いかけたときだった。 ビルの屋上で吹きっさらしの真冬の澄んだ空を見て、セカイは美しいんだなって、理解した。 白く淡い煙草の煙が、青く鮮やかな空にとけていく。あの日―――そう、あの日あの瞬間まで、ぼくらは――― ぼくらはふたりきりだった。 ぼくらはひとりきりだった。 ぼくらはふたりで、ひとつだった。 ぼくらのせかいは、ふたりで完結していたのに。
映画のできばえはまあまあそこそこだったかな、というのが原作を読破している彩葉の見解だった。エンドロールと主題歌が流れるなか、清音に話しかけようと隣を見るとぐっすり眠りこんでいる。「清音?寝落ちしちゃった?」 呼びかけるとうっすら目を開けた。その、眠りと現のあいだにある、完全にはここにない視線は彩葉がはじめて目にする清音のまなざしだった。とろりと半分溶けたような、はじめて世界を映す赤子のような、甘...
互いに悶々とした夜を過ごすのでは、と危ぶんだものの、彩葉は軽く泣いたせいもあってかごく普通に眠れてしまった。 清音がどうだったのかはわからないけれど、朝食を食べているいま、とくに眠そうなようすもない。食欲も旺盛で、丁寧ながら盛んな箸づかいで彩葉がグリルで焼いた魚の身をほぐしている。「きょう、これからどうしようか?」 清音の問いかけに、しばらく考えた。どうしよう。なにをしよう。朝から清音といっしょ...
そうっと髪を撫ぜられて、もう一度、唇が重なって離れる。心臓がせわしなく動いているのか、静まり返って止まってしまったのかさえ彩葉にはわからない。ぎゅっと抱きしめられる。「……清音」 かすれた声で呼ぶと、応じるように彩葉を抱きしめている腕にさらに力がこめられる。こんなふうにだれかに抱きしめられたことはない。こんな、とても壊れやすい大切なものをどうしようもない気持ちで扱うときみたいに。 頬に、清音の頬の...
軽く風呂を洗って換気扇をまわし、すこし緊張しながら自室の扉を開けると、清音がふとんの端で読んでいた本から目をあげた。「なんだかすっかりくつろいでしまった」などと言いながら本を閉じる。「お泊まり会って、もっと緊張するかと思っていたのにな」 清音の言葉にうっすらとした寂しさを覚えながらも、「ゆっくりしてもらえてよかった」と返した。ベッドに腰かけると、ふとんに座った清音が彩葉を見上げてくる。まつげが長...
皿をまとめて運んだ清音がシンクで水を使う音を聞きながら、彩葉は口をひらいた。「清音、将来のことはなにか決まった?奨学金とか、目指す学部とか」「奨学金はたぶん大丈夫。学部は就職率とかも勘案しなきゃいけないから、ゆっくり決めるよ」「そうかぁ。就職率、重要事項だよねぇ」「菅原はいい図書館司書になれるよ。俺はそう信じてるから」 テーブルをはさんで、キッチンカウンターのむこうで皿を洗いながら清音はなんのて...
「清音、ハンバーグつくるのってそんなにすごいことじゃないから。やってみれば簡単にできちゃうし」「もうそのせりふがすごいよ……菅原って料理好きだったんだな、知らなかった」「うーん、好きっていうか、中学生のころから家事が分担制になったせいでできるようになっただけだよ」 ふうん、とうなりながら清音はカウンターキッチン越しに彩葉の手もとを凝視している。子どものようなまなざしに小判型に種を整える手が恥ずかしが...
なんで?と湯船につかりながら彩葉は何度目かもわからないまま疑問を心に浮かべた。 あのとき、『清音は僕の特別だから』とたしかそう言った。あの言葉にどうしてあんなに清音は驚いたのだろう。わからない。 自分の身に置き換えて考えてみた。もしも清音が『菅原は俺の特別だから』って言ったら?あの声で、そんなふうに言われたらどう思う?彩葉は鼻まで湯に浸りながら、うれしい、という単純な結論を即座に導いた。どんなか...
清音の問いが、耳に滑り込んできた。どこかぼんやりとした、幼い口調だった。「菅原、いままで友達を泊めたことないのか?」「実はね。お泊まり会、はじめてなんだ」 みじかく答えて、清音を見る。目があうと、すうっと的を絞るように彩葉だけを清音の視線がとらえた。 そのときの清音の表情の変化の意味を彩葉は読み取れなかった。たとえて言うなら、暗い闇に沈んだ地面をさっと強く鮮やかな光が掃いていくような、そんなふう...
「みっともないところを見せたね」そう言って微苦笑するパスクァーレに促され、ハインリヒは絨毯についていた片膝を上げた。そして、場所を変えてもいいだろうかと問う彼にアルフレードと共に頷き、杖を手にソファから腰を上げた彼に続く。部屋から出ると席を外していた執事のエリゼオがこちらに戻ってくるところで、主であるパスクァーレに慌てて駆け寄って来た。それもそうだろう。長く仕えている主の瞳に涙の跡があれば誰だって...
……気にするなって、どういうこと? 清音の言葉の意味を掴めずに、彩葉は心に浮かんだまま「どういうこと?」と返した。清音はうつむいて、首筋をかりかりと引っかきながら困ったように言葉をさがしている。「俺の好きな相手のことなら、菅原は気にしないでくれ」 まだよくわからないけれど、自分はいま告白もしていないのにふられたのだとそれだけはわかる。彩葉は精いっぱいに振り絞った笑顔を浮かべて「承知しました!」と言...
その日の帰り、冬の夕方の白くて弱い光が差し込む昇降口で清音と鉢合わせた。制服のブレザーの上から厚手のコートとぐるぐる巻きのマフラーを身につけていて、ちょっとした越冬隊のかっこうだ。少なくとも、学年内のだれよりも厚着しているにちがいないと彩葉はちょっと笑ってしまう。「清音、寒いの苦手?」 告白事件の顛末を聞いてなにを話せばいいのかわからなくなっていたはずなのに、おかげでそんな軽口を叩くことができた...
呆然と見上げる彩葉の視線の先で、相変わらず花のような香りのするふたばが楽しげに話している。 清音とはちがう香り。清音を抱きしめたときは、どこか香ばしい、牧草みたいなのんびりした匂いがした。あの瞬間、たしかに清音のいちばん近くにいたのは彩葉だったはずなのに。「彩葉ちゃんが仲良くなってから、速水くんもまわりと打ち解けてきてたしね。好きな女子のひとりくらいいてもおかしくないんだけど」 なにをやっていた...
「ねぇねぇねぇ、彩葉ちゃん!」 瀬戸ふたばがばたばたと上履きを鳴らして定位置、つまり彩葉の机の前にやってきたのは、月があけ、いよいよ週末には清音が泊まりにやってこようとしている火曜日の朝のことだった。 その興奮した口調に若干気圧されつつ「どうしたの?」と彩葉の机に両手をついているふたばを見る。「速水くんの好きな子って、だれ?」「……は?」 双方きょとんと顔を見合わせた彩葉とふたばだったが、ややあって...
両手でスマートフォンにしがみつくようにして、清音の声に神経を集中させる。『どうした、菅原。怖い夢でも見てたか?』 あたたかく甘く耳に流れ込んできたのは、清音にしてはとても珍しい、軽やかにからかうような口調だった。「見てないし!それより清音、来月のことは」『俺、人んち泊まるのはじめてなんだけど、それでもいいか?なにか不作法があるかもしれない』「いいよ、ぜんぜん気にしないでそんなの。清音がきてくれる...
自室へ引っ込み、どきどきしながらベッドに寝転んで天井を眺める。 だれかが泊まりにくるなんてはじめてだ。彩葉にとって四六時中他者といっしょにいることは、つねに機嫌をうかがいつづけることになってしまうので、無意識のうちに回避してしまっていたのかもしれない。 その点だけでいえば、清音には感情の色がないぶんすこしだけ気楽だ。おなじ部屋で過ごし、となりで眠る。きっといつになく清音を近くに感じられるにちがい...
正直なところ、はじめてのことに戸惑いを覚えつつも、清音に対してうっすらと性的な欲求のようなものを覚えることはある。あの唇に触れてみたら。あの腕に抱かれてみたら。 まだそれはいい。しかたがない、健全な男子高校生たるもの、好きな人相手に性の色をまとう衝動を覚えるのは至極まっとうなことだろう。 でも手料理というのはどうなんだろう。彩葉は内心で首をかしげる。一通りの料理はできる自信がある。でも、清音にと...
彩葉の成績が突然よくなったことに、常日頃「我が子はばかでも元気がいちばん」などと言っている母親も喜びを隠せないようすだった。あかるい黄色をまとって、「大学のこと、ほんとうにいいの?」となんども彩葉に尋ねる。ちょっと肩身が狭い。やっぱり、子どもの成績っていいほうがよかったんだね、と。「お父さんだって言っているの。彩葉がもしももっと偏差値の高い大学を目指すなら、うちから通えるところに絞らなくても、い...
考査前が思い出される。彩葉は清音に声をかけ、毎日のようにふたりで試験勉強を重ねた。勉強を教えてもらいたいのが半分、なんでもいいから清音といっしょにいたかったのが残りの半分だった。 彩葉の部屋や図書室でむかいあって黙々と問題集を解きながら、ときどきわからない箇所を清音に尋ねた。「ねぇ、清音。ちょっとここ見て」とノートを差し出すと、清音は彩葉のつまづいているところや解答の導きかたをすこしも疎んじるよ...
ロザリオとは、カトリックにおいて祈りの際に使用される数珠状の道具だ。大珠6個と小珠53個が繋がれており、この珠を手で繰りながら「アヴェ・マリア」と呼ばれる祈りを繰り返し唱える。こうすることによって何回祈りを唱えたか正しく把握することができるのだ。そう、故にロザリオは装飾品ではない。だが、アルフレードは幼い頃から「お守り」として首から下げて身に着けていた。夏らしいリネンのシャツの下から取り出したそれを...