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大学生のKさんは、市民プールで監視員のアルバイトをしていた。 蒸し暑い夏の夜。 閉館時間の午後9時を過ぎ、遊びに来ていたお客さんたちは全ていなくなり、車の通る音や虫の鳴き声だけになっていた。 Kさんは手に持った懐中電灯で、プールサイドや更衣室に落とし物がないか、一つ一つ確認して回る。 プールの水はライトに照らされて、青白い光を放っていた。 その時だった。 「キャッキャッ」 微かに子どもの笑い声のようなものが聞こえた。
夏休み、社会人のTさんが、久しぶりに実家に帰省した時の話。 連日うだるような暑さが続いていたが、故郷の空気はどこか懐かしい。 Tさんは、ふと思い立って裏山へ散策に出かけることにした。 子供の頃、秘密基地のようにして遊んでいた場所がある。 鬱蒼とした木々の奥まったところに、大きな岩がいくつかあって、そこがTさんのお気に入りの場所だった。
Hさんが小学四年生の夏休みに体験した話。 Hさんの住む家は、築数十年は経つであろう古い木造家屋だった。 真夏の蒸し暑さがまとわりつくような夜、Hさんは寝苦しさから何度も寝返りを打っていたが、ようやく眠りについたはずだった。 ふと、意識が浮上した。 寝室で微かに響いていた扇風機の音が止まっている。 重苦しい空気が肌にまとわりつき、嫌な汗が滲んでいた。 同時に尿意を感じ、仕方なく布団から起き上がった。
夏の林間学校での話。 中学生だったTさんは、山奥のキャンプ場に泊まることになった。 夜にはキャンプファイヤーがあり、生徒たちの笑い声が山に響いていた。 消灯の時間になり、Tさんたち4人の生徒はテントに入り、寝袋にくるまった。 皆、小声で今日の出来事を話していた。 まだ眠りにつくには少し早い時間だった。
小学五年生だったYさんが、家族旅行で訪れた古い温泉旅館での出来事。 昔ながらの趣があるその旅館は、廊下を歩くたびに床がきしむ音がするほど、年季が入っていた。 Yさんが家族と通された部屋は、広縁のついた和室だった。 荷物を置いて一息ついた時、ふとYさんは部屋の押し入れに目が留まった。 少しだけ開いていたその隙間から、何かの影が見えたのだ。 好奇心に引かれて開けてみると、奥に古いくたびれた、クマのぬいぐるみが転がっていた。
大学生のTさんから聞いた話。 Tさんは大学の近くでアルバイトをしていて、いつも終電で帰宅していた。 その日はバイト先の店が急に忙しくなり、Tさんが解放されたのは日付が変わる寸前だった。 ホームは人影もまばらで、いつもの煩さが嘘のように静かだった。 終電が滑り込んできた時、Tさんはすでに意識が朦朧としていた。 車両に乗り込むと乗客はほとんどいない。 まばらに座っている乗客も皆、疲れた顔でスマートフォンを操作しているか、あるいは眠っているかのどちらかだった。
会社員のSさんが体験した話。 その日、Sさんは残業で遅くなり、最終電車に飛び乗った。 いつもと変わらない夜の駅、そして乗り慣れた路線の電車。 疲労で重い体を座席に沈め、Sさんは目を閉じた。 電車は定刻通りに発車し、ガタンゴトンと規則正しい音を立てて走り出す。 しばらくして目を開けると、窓の外に広がる景色が、どうにも見覚えのないものだと気づいた。 いつもならこのあたりは、もっと建物が密集しているはずだ。 電車の揺れに身を任せていたSさんの背筋に、冷たいものが走る。
友人のKさんが大学生だった頃の話。 Kさんは大学の夏休みを利用して、実家のある田舎に帰省していた。 都会の騒がしさから離れ、久しぶりに味わう静けさは心地よかった。 夜になると街灯の少ない道は漆黒に染まり、虫の声だけが響く。 Kさんはその日もコンビニへ行くために、見慣れた夜道を歩いていた。 いつもの道だ。そう思っていた。 コンビニまでの道のりは、いつもなら10分もかからない。 しかし、その夜は妙に時間がかかっているような気がした。
いつも忙しく働く、フリーランスのNさんから聞いた話。 ある日の夜、打ち合わせを終えて帰ろうとすると、外は雨が降っていた。 Nさんは急いで終電に乗り込み、なんとか最寄りの駅にたどり着く。 電車を降りて改札を出ようとしたその時、ふと視線が駅のベンチに向けられた。 そこには一本の傘が忘れられている。 それはNさんが普段使っているものとよく似た、ごく普通の黒い傘だった。 その日傘を家に忘れてきてしまったNさんは、思わず手に取った。
SNSで知り合ったMさんから聞いた話。 お盆の時期、Mさんは趣味の登山で人気の少ない裏山へ分け入った。 この山はかつて山頂付近に小さな集落があり、お盆には里から先祖の霊を送りに来る人々が列をなしたという言い伝えがあった。 Mさんはそういう話は好きだったが、まさか自分がそれに遭遇するとは思っていなかった。 Mさんは山頂を目指して歩き続けた。 夕方近くになり、ふと視線を感じて立ち止まった。 道の脇に、何人かの人影が立っているように見えた。
医療現場で日々忙しく働く、看護師のYさんから聞いた話。 Yさんは毎年お盆になると、実家のある山間の集落へ帰省していた。 その集落は古めかしい風習が残る場所で、特に夏場の夜には、どこかの家が唱えてるのか、遠くから聞こえる念仏の声がするのが当たり前だった。 Yさんは幼い頃からその念仏を聞き慣れていたので、特に気にも留めていなかった。 それは夏の風物詩のようなものだった。 しかしある真夜中のこと。
大学生のYさんたちが、夏休みを利用してハイキングに訪れたのは、人里離れた静かな山だった。 彼らが予約していたのは、古びた山小屋。 到着した山小屋は想像以上に年季が入っていて、木の床は歩くたびに軋んだ。 どこかひんやりとした空気が漂い、彼らの他には誰もいないようだった。 その夜、疲れ切ったYさんたちは、早々に深い眠りについた。 真夜中、Yさんは妙な音で目を覚ました。 意識がはっきりしない中で、その音の発生源を探ると、どうやら二階から聞こえてくるようだった。
大学生のRさんたちは、夏休みを利用して友人たちと旅行に出かけた。 目的地は、静かな山奥にひっそりと佇む山小屋だった。 インターネットで写真を見た限りでは、古民家風の趣がある、可愛らしい山小屋に見えた。 しかし実際に到着してみると、想像以上に年季が入った建物で、どこかひんやりとした空気が漂っていた。 管理人らしき人物は、山小屋に泊まる時の注意事項や物の使い方、鍵は麓の管理人室に持ってきてくれという説明を終えると、鍵を渡してすぐに姿を消してしまった。 どうやら山小屋には、Rさんたち以外に誰もいないようだった。
大学のサークル仲間と、山奥にある古い山小屋に泊まりに来たMさんたち。 夜、みんなで囲炉裏を囲み、酒を飲みながら馬鹿話で盛り上がっていた。 窓の外は真っ暗で、木々を揺らす風の音が響いている。 ちょっとした肝試し気分で、誰かが「この山、昔から変な噂があるよな」と言い出した。 幽霊や行方不明者の話など、いつもの与太話だ。 みんなは笑って流していたが、Mさんは漠然とした胸騒ぎを覚えていた。 ふと、窓の外に小さな光がチラッと見えた。
深夜のオフィスで、資料をまとめていたTさんの話。 会社は静まり返っていて、時計は0時を回っていた。 オフィスの中はエアコンの低いうなり声だけが響いている。 ふと、廊下からカタカタとキーボードを叩くような音が聞こえてきた。 こんな時間に誰かいるのか?同僚はみんな帰ったはずだ。 気になって音のする会議室の方へ向かった。 ガラス張りの会議室のドア越しに、ぼんやりした人影が見える。
大学生のSさんたちは、夏休みに山奥の山小屋へ行くことになった。 普段は都会の騒がしさの中で過ごしているSさんにとって、自然に囲まれるのは久しぶりのことだった。 山小屋は、最寄りの集落から車で一時間ほど走った場所にある、古びた建物だった。 到着してすぐに、Sさんはスマートフォンの画面を確認した。 予想はしていたものの、アンテナは一本も立っておらず、圏外の表示が出ている。 「あー、やっぱり電波ないか。まあ、たまにはデジタルデトックスもいいだろ?」 友人のTさんが、気にする様子もなく笑った。
大学生のSさんたちから聞いた話。 彼らは夏休みを利用して、大学の友人たちと連れ立って少し名の知れたハイキングコースにやってきた。 コースは整備されていると聞いていたので、地図もろくに見ず、ただ前を歩く友人の背中を追っていた。 初めのうちは鳥の声や木々のざわめきが心地よく、他愛もない会話を楽しんでいた。 しかし、一時間ほど歩いただろうか。 道は次第に細くなり、足元はぬかるんでくる。
Kさんが小学生だった頃の話。 夏休みになると、Kさんはいつも田舎の祖父母の家へ遊びに行っていた。 祖父母の家は裏に小さな山があり、そこがKさんのお気に入りの遊び場だった。 その裏山には、今はもう使われていない古い貯水池がある。 水は澄んでおらず、表面には藻が浮き、周囲は人の背丈を超えるほど草木が生い茂り、昼間でも薄暗くどこかひっそりとしていた。 祖父は「危ないから近寄るな」と言っていたが、子供心に秘密基地のような魅力があり、Kさんはよくその貯水池の周りで一人遊んでいた。
Kさんは休日に一人で、人気の少ない山道をハイキングするのが趣味だった。 都会の騒がしさから離れ、静かな山道を歩くことが何よりのリフレッシュになっていた。 汗をかき、自然の中で心を解放する時間は、日頃の疲れを忘れさせてくれた。 ある日のこと、Kさんはいつものように、お気に入りの裏山へと足を踏み入れた。 その日は特に天気が良く、鳥のさえずりが心地よく響いていた。 小道をしばらく進んでいくと、Kさんの目に奇妙なものが飛び込んできた。 道の真ん中に古びた藁人形が落ちていたのだ。
写真家のSさんは、常に新しい被写体を求めていた。 特に人があまり足を踏み入れないような、秘境と呼ばれる場所が好きだった。 カメラを片手に一人で山奥深く入り込み、誰の目にも触れられていないような自然の風景を切り取ることに、Sさんはこの上ない喜びを感じていた。 先日、SさんはK県北部の、地元でもほとんど人が立ち入らないという深い山奥へと向かった。 事前に地図で入念にルートを確認し、数日分の食料と撮影機材をリュックに詰め込んだ。
怪談 ~バス~ 山道を進むバスの中で、健次は深い呼吸を繰り返していた。全身にまとわりつく湿り気が不快で、着古したTシャツが肌に貼り付く感触に思わず顔を顰める。また、あの夢だ。バスが横転し、動けない体で意識が薄れていくあの悪夢。一体何度、この悪夢に苛まれただろうか。健次はこれまで、バスどころか車での事故にさえ遭遇したことはなかった。にもかかわらず、なぜこれほどまでに生々しい夢を見るのか。もしや、これが予知夢というものなのだろうか。だとすれば、健次には未来で事故に巻き込まれる運命が待ち受けているということになる。そんな未来など、真っ平御免だった。もし夢の通りに事故に遭うというのなら、バスに乗らなけ…
怪談 ~プール~ 初夏の強い日差しが照りつける小学校で、6年生のプール授業が行われていた。プールサイドのコンクリートは熱を帯び、素足では火傷しそうなほどだが、子どもたちはそんなことも気にせず、水しぶきを上げて楽しんでいた。 やがて自由時間になり、生徒たちが思い思いに泳ぐ中、祐太が突然激しく水面を叩き、浮き沈みしながら助けを求めて叫び始めた。周囲の生徒たちが戸惑う中、担任の佐々木先生が慌ててプールに飛び込み、祐太を救助した。祐太は大量の水を飲んだようで苦しそうに咳き込んでいたが、意識ははっきりしていた。しかし、次第に恐怖で体を震わせ、顔色も真っ青になったため、念のため救急車で病院へ搬送された。 …
【ゲーム話】#2 アパシー鳴神学園七不思議〜好きなショートシナリオ3本
※注意・ネタバレあり・画像はよく見ると怖いので注意・リメイクではなくリブート『【ゲーム話】#1 アパシー鳴神学園七不思議〜2年振りに再ダウンロード』※注意・1…
前回のお話はこちらから↓何やら切羽詰まった様子のわこからの連絡に、しのは早々に会う約束をしますその数日後、カフェで待ち合わせて久々の再会です何があったのかと思ったしのでしたが、わこは視線を彷徨わせます「何を言っても信じてくれる?」と言うわこに、しのは一瞬
Hさんは、大学の友人たちと廃墟巡りをするのが趣味だった。 廃れた場所の持つ独特の雰囲気に惹かれ、カメラ片手に様々な場所を訪れていた。 ある日、Hさんはネットの掲示板で「地図から消えたトンネル」という古いトンネルの存在を知った。 それは、かつて使われていた鉄道のトンネルで、今は完全に閉鎖されているという。 危険だと忠告する書き込みも多かったが、Hさんの好奇心は抑えきれなかった。 Hさんは廃墟巡りの仲間である友人のFさんと二人で、そのトンネルを目指すことにした。 車で山道を奥へ奥へと進むと、やがて古びた標識が見え、その先に目的のトンネルの入り口が見えてきた。
Tさんという人から聞いた話。 Tさんは夜間の警備員として、都心にある大きなデパートで働いている男性だった。 昼間のデパートは人で溢れかえり、喧騒に包まれているが、深夜になると照明も落とされシンと静まり返る。 非常灯の薄暗い光だけが通路をぼんやりと照らし、華やかな商品が並ぶ売り場は、どこか無機質な空気をまとっていた。 Tさんはこの深夜の静寂が嫌いではなかった。 いつものように、夜間の巡回業務をこなしていた時だった。
Sさんから聞いた話。 Sさんは仕事終わりの日課として、いつも海沿いの遊歩道を歩いていた会社員だった。 日中は観光客やカップルで賑わう場所だが、夜遅くになると人通りはほとんどなくなる。 街の灯りも届かない暗い遊歩道で、波の音と潮風だけが、日々の仕事で疲れたSさんの心を癒してくれた。 ある晩、いつものように遊歩道を歩いていると、遠くから微かな音が聞こえてきた。 それは「パチャ、パチャ」と誰かが水面を叩くような音だった。
Dさんがまだ学生だった頃の話。 Dさんは大学時代の友人たち、Sさん、Mさんと集まり、近場の山へ登山に出かけた。 秋晴れの空の下、紅葉が始まったばかりの山道は、都会の喧騒を忘れさせてくれるような、心地よい静けさに満ちていた。 午前中から登り始め、山頂で昼食をとり、下山を開始したのは午後の半ばだった。 山の天気は変わりやすい。 下山を始めてしばらくすると西日が傾き始め、山の木々は徐々にその影を長くし始めた。 辺りはだんだんと薄暗くなり、冷たい風が吹き始める。
これは長年山に登り続けているベテランの登山家、Hさんの話。 Hさんは人があまり足を踏み入れない、奥深い山域を好んで単独行をしていた。 その日も、彼は古い地図にしか載っていないような、とある無人の山小屋を目指して山を登っていた。 夕暮れ時、ようやく山小屋にたどり着いたHさんは、簡単な食事を済ませ、明日に備えて早めに寝袋に入った。 その夜、日付が変わる頃だろうか。Hさんは外の音で目を覚ました。
初戦は人間の完敗…看護師をしている知人から聞いた話です夜中の見回りは原則1人で行うらしく、加えて例の患者さんは個室だったのもありダッシュで逃げたそうです真っ暗な中しかも1人でこれに出くわしたらそりゃ怖いわ…痴呆の人が多い病棟だったようなので、誰かがベッド下
※注意・あくまでも個人の体験談『【ミニ雑談】唯一信じてしまった都市伝説』※注意・22年11月投稿の編集版・あくまでも都市伝説です『【ミニ雑談】ゲームをやってる…
Mさんが大学生だった頃の話。 都会の喧騒から離れたくて、Mさんは旅行雑誌で見つけた山奥の古い民宿を訪れることにした。 そこは車でもたどり着くのが困難なほどの山奥にあり、雑誌には「静寂に包まれた隠れ家」と紹介されていた。 民宿は想像以上に古く、黒光りする木材の柱や梁が時代を感じさせた。 独特の土埃と、何かが燻されたような匂いが混じり合ったような、古い匂いがした。 宿の女将は年配の女性で、物静かな人だった。 Mさんは二階の、庭が見える広々とした部屋に通された。
とある学校で教員をしているKさんが、学生だった頃に体験した話。 Kさんは地方の大学に進学するため、初めて一人暮らしをすることになった。 大学から少し離れた築年数の古いアパートの一室を借りることになったのだが、家賃が相場よりもずっと安く、広さも十分だったのでKさんは大満足だった。 部屋は日当たりもよく、静かで勉強するにはもってこいの環境。 ただ一つだけ気になったのは、備え付けのクローゼットだった。 クローゼットの扉はなぜかいつも少しだけ開いていて、閉めてもすぐにまた少し開いてしまう。 Kさんは、建付けが悪いのだろう、と特に気にせずに服をしまっていた。
地方に住むKさんが中学生の頃に体験した話。 その地域にある古いお寺は、鬱蒼とした林の中にひっそりと佇んでいた。 昼間でも薄暗く、どこか神秘的な雰囲気が漂っている。 お寺のすぐ隣には広い墓地が広がっており、夕暮れ時になると、ひんやりとした空気が漂ってくる場所だった。 ある日の夜、Kさんを含む仲の良い友人たち数名で、肝試しをしようという話になった。 怖いもの見たさという年頃特有の好奇心からだった。
小学生のHさんは、夏休みの宿泊体験で地域のお寺に来ていた。 ここは広く、古くからの言い伝えも多い場所だった。 お寺の敷地の隅には、苔むした小さな石のお地蔵様が、いくつも横一列に並べられていた。 どれも同じような大きさで、素朴な表情をしている。 肝試しではないが、Hさんは友達と「あのお地蔵様の数を数えてみよう」と話していた。
小学生のSさんは、夏休みに地域のお寺で宿泊体験に参加した。 これは地域の子供たちが集まって、お寺での生活を体験するという催しだった。 Sさんの他にも、地域の学校から集まった数人の希望者が、本堂に布団を並べて寝ることになっていた。 昼間、子供たちは住職からお寺の歴史や仏様の教えについて話を聞いた。 古びた本堂の柱や、使い込まれた畳、そして厳かな仏像に、Sさんは普段の生活では感じられない空気を感じていた。 住職は優しそうな人で、時折冗談を交えながら、子供たちにも分かりやすいように話をしてくれた。 その後は広大な境内を散策したり、庭の手伝いをしたりと、普段できない体験に子供たちは興奮していた。
怪談 ~正座する男~ 夕闇が迫る11月、冷たい雨が降りしきる中、優里は駅に降り立った。時刻はすでに21時を過ぎている。どうも昼間から少し熱っぽく感じられ、体調が優れない。家路の途中に川があり、いつもなら遠回りになってでも街灯があり明るい大橋を選ぶところだが、一刻も早く家に着きたい一心で、優里は暗くて人通りの少ない近くの歩行者専用の橋へ向かった。 駅を出て土手沿いの道を少し歩くと、眼下にひっそりと佇む歩行者専用の橋が見えてくる。そこへ続く下り坂は土手の上からは死角になり、橋の街灯も球切れ点いていないものもあり心許ない。普段なら夜中に一人で渡ることをためらう場所だが、急ぐ気持ちが優里の警戒心を鈍ら…
大学生のMさんが住む築十年ほどのアパートは、都心へのアクセスも良く、静かな住宅街の中にあった。 隣の部屋に新しい住人が引っ越してきたのは、梅雨が明けたばかりの蒸し暑い日のことだった。 挨拶に来たのは痩せぎすで、どこか陰のある雰囲気の男性だった。 名前は確か、Sさんと言ったはずだ。 Sさんはとても物静かで、Mさんが生活音に気を遣う必要がないほど、物音を立てることがなかった。
これは、とある夫婦、夫のKさんと妻のYさんが経験した話。 都会の喧騒から離れ、少し古いが趣のある一軒家に引っ越してきた二人は、新しい生活を楽しみにしていた。 しかし、この家には一つだけ奇妙な点があった。 それは家の奥まった場所にある、決して開かない一室の存在だった。 管理人の人も「ずっと開かずの間だった」とだけ説明し、特に気にすることもなかったため、二人は特に深く考えることもなく、その部屋を「開かずのドア」と呼んで放置していた。 しかし、引っ越して数週間が経ったある夜のことだった。
これはとある社会人のKさんから聞いた話。 Kさんは、最近引っ越したばかりのアパートに住んでいた。 築年数はそれなりに経っていたが、立地も良く、何より家賃が手頃だったため、すぐに決めたのだ。 窓からは小さな公園が見え、日当たりも良く、Kさんは新生活に期待を膨らませていた。 引っ越してきて数日経った頃、Kさんは夜中にふと目が覚めた。 時計を見ると午前3時。
大学生のTさんは、休日の骨董市をぶらつくのが好きだった。 古いものに宿る物語を想像するのが、Tさんにとって至福の時間だったのだ。 その日も埃っぽい露店を眺めていると、Tさんの目に一冊の古びた包みが留まった。 黄ばんだ和紙で丁寧に包まれ、紐で結ばれたそれは日記のような、あるいは手紙のような何かの束だった。 値札には「手紙束時代不詳」とだけ書かれていた。 Tさんは何かに導かれるようにそれを買った。 自宅に戻り、Tさんは丁寧に和紙を解いた。
結婚を間近に控えたSさんたちは、新しい生活のために郊外に理想の一軒家を見つけた。 大きな庭があり陽当たりも良く、何より価格が手頃だったのが決め手だった。 築年数はそれなりに経っていたが、リフォームされており、すぐにでも住める状態だった。 Sさんは、これから始まる新婚生活への期待に胸を膨らませていた。 引っ越してきて数日後、Sさんはリビングの窓辺に立って庭を眺めていた。 すると、ふと胸の奥に甘酸っぱいような、切ないような、しかし覚えのない感情が込み上げてきた。
初秋、まだ日差しが強い九月の連休。 Kさんたち3人は、久しぶりのキャンプ登山を楽しんでいた。 メンバーはリーダー格のKさん、少し神経質なMさん、そしていつも陽気なHさん。 彼らは学生時代からの友人で、年に一度はこうして自然の中に繰り出すのが恒例になっていた。 今回は、以前から行きたがっていた奥秩父の秘境にあるというキャンプ場を目指していた。 前日の夜にレンタカーを借り、朝早くから車を走らせていた。 途中コンビニで食料を調達し、目的のキャンプ場に到着したのは昼過ぎだった。 テントを張り終え、遅めの昼食をとろうと準備を始めた矢先、空の様子が急に変わり始めた。
登山とソロキャンプが趣味のIさんは、週末を利用して県境の山奥へと向かった。 この辺りは標高が高く夜間はかなり冷え込むが、その分、人も少なく静けさに包まれている。 焚き火を囲みながら湯を沸かし、コーヒーを飲みつつ本を読む──そんな時間が、Iさんにとって最高の癒やしだった。 日が落ちてから数時間が経ち、焚き火の火もだいぶ落ち着いた頃。 薪をくべながらIさんはふと、違和感を覚えた。 焚き火の隣、ちょうど自分の左手側に何かがいる気配がする。
これはRさんという人が、祖父のTさんから聞いた話で、とある地方の山奥にある、小さな村での出来事だった。 その村は、地図にも載っていないような場所にあった。 外界との唯一の繋がりは、険しい山道を一本だけ。 その道の入り口には、昔から古びた道標が立っていた。 風雨に晒され文字もかすれてしまっていたが、それが村の唯一の目印であり、心の拠り所でもあった。
これは私の祖母の故郷で、祖母の近所に住んでいたという人の話。 その家は本当に古めかしい家で、築何年かも分からないような、黒光りした柱と軋む廊下。 そしていつも誰かがいるような、妙な気配がする家だった。 そんな家に一人暮らしのお婆さんがいた。ここでは仮にTさんと呼ぶことにしよう。 Tさんは近所でも評判の物静かな人で、いつも縁側で庭を眺めていたという。 特に何をするでもなく、ただじっと外を見つめている。 まるで誰かを待っているかのように。
これは私の友人の話。 彼は都会での生活に疲れて、田舎に移り住んだ。 築百年は経つだろうか、古い農家を改築した一軒家だった。 広い庭には、何十年も前からそこに立っていたらしい、大きなケヤキの木が一本、堂々とそびえ立っていた。 友人はその家を気に入り、快適な田舎暮らしを満喫していた。 特に気に入っていたのが、夕暮れ時の庭の景色だった。 太陽が西に傾くと大きなケヤキの木の影が、ゆっくりと家全体を覆い尽くしていく。 その光景は、まるで家が大きな影に包み込まれるようで、どこか神秘的でさえあったという。
あれは私がこの図書館で働き始めて、まだ間もない頃だった。 その図書館は町外れにある古い洋館を改装したもので、夜になるとまるで生き物のように軋む音がする。 特に奥まった場所にある書庫は昼間でも薄暗く、いつもひっそりと静まり返っていた。 ある日のこと。 閉館時間を過ぎても、なぜか奥の書庫の電気が点いていることに気づいた。 普段なら館長さんか、ベテランのSさんが最終確認をするはずだった。 「もしかして消し忘れかな?」 私はそう思いながら、書庫へと続く長い廊下を歩いていった。
ある年の夏、Kさんはいつもの地方の無人駅のホームで、最終電車を待っていた。 残業で遅くなってしまい、疲れた体をひきずって辿り着いたこの駅には、最終の到着を待つ乗客はKさん一人だけだった。 深夜の駅のホームは、街灯の明かりがぼんやりと照らすだけで、物音ひとつしない。 普段なら虫の鳴き声がうるさいのだが、この日は虫の声すら聞こえず、ただただ静寂がKさんを包んでいた。 その時、背後のベンチから「きしり」という小さな音が聞こえた。 誰かが腰かけたような、そんな音だった。