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怪談 ~彼~ 私は、この山奥の村でたった一人の生徒として、小学校に通っていた。四年生になった時から、私は一人だった。寂しい?最初はそう思っていた。でも、すぐに慣れた。だって、私には『彼』がいたから。『彼』は、私にしか見えない友達。いつも一緒に遊んでくれた。授業中も、休み時間も、放課後も。他の人には見えないけれど、私には確かに『彼』がいた。でも、周囲の人たちはいつも一人の私のことを気にかけていた。とくに先生はいつも心配そうな顔で私を見ていた。「有里ちゃん、学校で一人で遊ぶのもいいけど、たまには外に出て遊んだら」と。でも、私には『彼』がいれば十分だった。卒業の日が近づき、小学校が閉鎖されることが決…
怪談 ~事故物件~ 街中にある古びた一軒の不動産屋。その異様な雰囲気に惹きつけられ若い男は入口のガラスの扉を開けた。店の中にいたのは奥の事務机に座っている痩せこけた店長だけだった。「いらっしゃいませ」嗄れた声が、人気のない店内に響く。若い男は席に座ると単刀直入に告げた。「事故物件を借りたいんです」店長の目は、ギョロリと大きく見開かれた。「お断りだね。事故物件なんかに積極的に住みたがるようなのに関わると碌なことにならない。帰ってくれ」そう言い残し、店長は奥の部屋へと消えてしまった。若い男は店を出て、人気のない裏道を歩いていた。そんな若い男の背後から私は声をかけた。若い男が振り返り私を見た。「事故…
おはよう、皆の衆。定次さんです。 本日はみんな大好きチャージズデー。 『充電期間』というそれっぽい理由をつけて記事の投稿をお休みする日です。 それにしても何だか久しぶりにこの...
怪談 ~悔恨~ カウンター席しかないバーで、オカルト好きの常連客3人がアポカリプティックサウンドの真偽について議論していたが、議論が尽きたのか、次第に口数が少なくなってきた。そんな時、常連客の一人、40代くらいの身なりの良いスーツ姿で、皆から「先生」と呼ばれる男が、店の女性マスターに「今日は元気がないようですが、大丈夫ですか」と訊いた。するとマスターは、今までの人生での後悔が唐突に思い出されて苦しくなり、昨夜はあまり眠れなかったという。今の私は幸せだと思っているはずなのに、なぜなんだろうと途方に暮れたように呟いた。「それは誰にでもあることです。『後悔先に立たず』とも言いますし、あまり気にしない…
怪談 ~応報~ 周囲を見渡すと、無数の同じ顔がひしめき合い、蠢いている。奴らは皆、無表情で目的も分からず、ただひたすらに歩き続けている。その異様な光景に俺は言いようのない嫌悪感を覚えた。「俺は違う。お前らとは違うんだ!」心の奥底から叫びが込み上げるが、声にならない。俺はこの異質な群れに紛れ込んだ異物。奴らとは違う存在であることを、必死に主張したかった。 目の前に男が座っている。その顔は、無機質なほどに整っており、感情が読み取れない。男の瞳は、底なしの闇のように深く、俺をじっと見つめている。「なぜ、こんなことをしたんだ」男の声は静かで冷たい。まるで氷の刃が肌を滑るようなぞっとする感覚を受ける。「…
怪談 ~鏡像~ 夜中、保晴は突然の悪寒に襲われ、目を覚ました。普段は一度眠ると朝まで起きることなどないのに、今夜は異様な気配がまとわりつき、眠気は完全に消え失せていた。喉の渇きを覚え、保晴は重い体を引きずって台所へと向かった。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出しコップに注ぎ込む。水を飲む音だけが、静まり返った部屋に不気味に響き渡る。「なにかが変だ」漠然とした不安が心の中で膨らんでいく。寝室に戻る前に保晴はトイレに立ち寄った。そして何気なく鏡を見た瞬間に背筋が凍り付いた。鏡に自分の姿が映っていない。代わりに背後の壁だけが虚ろに広がっている。「まさか…」保晴が恐怖に震えながら鏡に手を伸ばし…
おはよう、皆の衆。定次さんです。 普段から何気なく開け閉めを繰り返す家の扉。 人の出入りに非常に便利な家の一部ですが、普段閉め切っている扉の向こうにはどんな世界が広がっているのか...
我が家のお風呂は音声つきうちのマンションは築35年を優に超えていると思う。 でも、意外と綺麗に見える。 水回りを除いては・・・。 水回りというのは年代がよく分…
怪談 ~シミ~ 大和の働く会社は、築40年を超える古い雑居ビルの中にあった。 時代に取り残されたようなその建物は、昼なお薄暗く、淀んだ空気が漂っている。 会社の中もまた、外観に違わず陰鬱な雰囲気を纏っていた。大和は、そんな会社の中でも特に嫌悪感を抱く場所があった。 それは、薄汚れた蛍光灯が寂しく光る男子トイレだ。 個室が一つと小便器が二つだけの狭い空間は、清掃会社の努力も虚しく、常に湿気と尿の匂いが入り混じった不快な空気に満ちていた。大和がトイレを嫌う理由は、入ってすぐ左手にある古びた洗面台に設置された鏡にあった。 曇った鏡には、やつれた自分の姿と、背後のコンクリート壁が映り込む。 問題は、そ…
怪談 ~予定外~ どこだかわからない、深い霧に包まれた場所。足元はぬかるみ、冷たい空気が肌を刺す。若い男は、自分がなぜここにいるのか、全く理解できなかった。最後に覚えているのは、橋の上から川の流れを見下ろしていた時の目も眩むような景色だけだ。「勝手に死なれたら困るな」低い、それでいてよく響く声が、霧の中から現れた黒いコートの男によって放たれた。男の顔は影になって見えないが、その声には有無を言わせぬ威圧感があった。「別に死にたくて死んだんじゃない」若い男は、苛立ちを隠せずに答えた。そこでハッとした顔になった。橋から川に落ちて死んだことを思い出した。「だって川に身投げしただろう」「違う、橋から川の…
怪談 ~願い~ 陽の傾きかけたグラウンドに、広夢のバットが乾いた音を響かせた。土埃を上げながら白球が弧を描き、フェンスを越えていく。それを見つめる広夢の瞳は、ダイヤモンドよりも輝いていた。 シングルマザーの貴子にとって、小学四年生の息子広夢はかけがえのない宝物だった。しかし仕事に追われる日々のなかで、広夢と向き合う時間は決して十分とは言えなかった。広夢が少年野球チームに入ってからというもの、貴子は息子の成長を遠くから見守るばかり。そんなある日、貴子は偶然、野球チームの監督から声をかけられた。「広夢くん、最近めきめきと上達していますよ」驚いた貴子が理由を尋ねると、広夢は誰かと特訓をしているらしい…
怪談 ~なんで~ 最近、4歳になった娘がいろんなことに興味を持つようになった。「あれ、なに?」「なんで?」が口癖のように出てくる。そんな子供の成長を母親は微笑ましく思っていた。 ある日、娘と二人で電車に乗った時、後続の急行の通過を待つため駅に止まる電車内で、窓から外を眺めていた娘が母親に訊いた。「なんであの人はあそこにいるの」そう言って指をさした先は反対側ホームの下あたりの線路上だった。母親は困惑の表情を浮かべて言った。「えっと...誰もいないけど...」先ほどと同じ所を指さして再び娘は言った。「えー、いるよ、おんなのひと。でもへんなの、そのおんなのひと、あしがないの」それを聞いて思わず母親は…
怪談 ~トレッキング~ トレッキングが趣味の美雪は、その日も週末の休みを利用して、お気に入りの山へ向かった。いつもは仲間と一緒だが、今回は初めて一人で来ていた。紅葉が終わり、冬の足音が聞こえ始めた山は、昼なお薄暗く、冷たい空気が肌を刺す。午前10時、美雪は登山道に入った。午後1時には山頂に着く予定だった。山頂までの道則は至って順調だった。しかし下山を始めた頃から、美雪は背後からの視線を感じ始めた。誰かが常に一定の間隔で自分を見ている、そう感じた。周囲を見回しても、木々が視界を遮り誰の姿も見つけられない。気のせいだと思おうとしたが、その視線は次第に強まっていくように感じられた。嫌悪感と焦燥感に駆…
おはよう、皆の衆。定次さんです。 心の拠り所として人形を身の回りに置いておく人は多いでしょう。 それは今の時代も昔の時代も変わらず……アニメフィギュアやぬいぐるみなどと形は変われ...
くねくねは実は2000年に出現した新しい怖い話だった!発信源も特定されていた
くねくねは発信源が特定されていて2000年に生まれた話でした。怖い話として有名で完成度の高いストーリ。その裏には創作だったと分かる背景がありました。
怪談 ~イヤホン~ 車窓から流れていく景色を見るでもなく眺めていた。いつもと変わらぬ風景。清太郎は通勤時、いつもスマホで音楽を聴いている。ワイヤレスイヤホンが耳にぴったりと収まり、外界の音を遮断する。自宅から最寄りの駅まではバス、そこから電車に乗り換えて会社へ。入社して数ヶ月、そんな日常が続いていた。ある日、いつものようにバスに揺られていると、イヤホンから微かな雑音が聞こえることに気づいた。最初は気のせいかと思ったが、その雑音は次第に大きくなる。ザッ、ザッ、ザッ……。耳障りな音が音楽に混じり、不快感を覚える。いつからだろうか、バスに乗っている時だけ、この雑音が聞こえる。電車の中では一度もなかっ…
怪談 ~廃墟巡り〜 大学生の智治は、大学の友人グループ、男3人、女3人の計6人で廃墟巡りをするのが趣味だった。彼らはスリルと好奇心を求めて、各地の廃墟を訪れていた。ある日、智治たちはいつものように廃墟巡りを計画した。目的地は、彼らが住む街から車で2時間ほどの距離にある山奥の廃村だった。そこはかつて数十軒の家が立ち並ぶ村だったが、過疎化が進み、今では誰も住んでいない。村全体が廃墟と化しており、その異様な雰囲気が彼らを惹きつけた。昼過ぎに車で出発したが、道に迷ったり、途中で休憩を挟んだりしているうちに、予定よりも大幅に時間が過ぎてしまった。廃村に到着したときには、すでに日は傾き始めていた。廃墟の中…
概要 書名:909の恐怖 作者:ディスカヴァー編集部 出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン 出版年:1991年 本の長さ:141ページ ジャンル:ホラー、怪奇 内容:日常生活の中で感じる恐怖や不安を短文でまとめられている。 特徴 ・CDサイズの文庫本という形態で、手軽に持ち運べる。 ・基本的には怖いものの表現が、単語だったり、シチュエーションで書かれており、長くても100文字程度なので、読書が苦手な人でもサクサク読める。 ・どのページからでも楽しめる。 ・怖くはないけど、なんともいえない不思議な雰囲気の写真や挿絵が所々にある。 ・怖い話が苦手な人でも読める…と思う。 この本から得られること…
怪談 ~袋〜 隆一は10年前に父親を病気で亡くし、今は自宅である一軒家で母親と二人で住んでいる。だが母親は健康診断で癌が見つかり、今はその治療のため入院しているため、家には隆一だけしかいなかった。ある日、仕事を終えた隆一は最寄りの駅から自宅へと向かって歩いていた。時刻は19時を少しだけ過ぎたあたりで、周囲は夜の帳が下りつつあった。自宅は片側一車線のそれほど広くはない道路沿いにあった。その道は大通りへの抜け道となるため交通量も多く、自宅前の歩道と車道の間には鉄製の白いガードレールが設置されていた。自宅が近づいてきたときに、自宅前のガードレールに、何かがぶら下がっているのことに気がついた。その日の…
怪談 ~救急車〜 救急車の揺れと共に、男は意識を取り戻した。頭は鉛のように重く、全身は痺れたように動かない。耳に入ってくるのは、救急隊員の逼迫した声とけたたましいサイレンの音。「鹿島さん!鹿島さん!」救急隊員が必死に呼びかけている。しかし、男は返事をすることはおろか体を動かすことすらできなかった。まるで魂だけが抜け殻に閉じ込められているような感覚。(一体、何が起こっているんだ)男は混乱しながらも、必死に状況を把握しようとした。「鹿島さん、わかりますか」救急隊員が呼びかけている名前が、自分の名前ではないことに気づいた時、男は愕然とした。(鹿島?俺の名前は鹿島じゃない。まさか....)その時、脳裏…
彼女は風邪の時毎回この同じ夢を見るらしい…聞いた時はポップな雰囲気でおもしろいじゃんって思ってたけど、よくよく想像したら結構怖い!彼女は毎回なんとかゴリラから逃げ切るらしいんですけど、もし逃げ切れなかったらどうなっちゃうんだろう…とか思ったり…みなさんも
昨日の夜中から体の調子が悪くなって、すごい悪夢?現実?をみましたまず急に金縛りになって、ざざざ・・と背の高い髪の長い女の人が目の前に見えてだんだんとちはやとまーくんのケージに近づいていくのですそれで「近寄るな!ちはやとまーくんから離れろ!!」と声を出すのですが、声にならない声でかすれるのです自分もすごく恐怖でしたが、それ以上にちはやとまーくんに近寄っていく幽霊?が許せず怒りでいっぱいになって「ちか...
怪談 ~ペットボトル〜 ある一人のサラリーマンの男が、初めて訪れる場所へと足早に向かっていた。空は曇天、昼間にも関わらず周囲は薄暗く、いつ天候が崩れてもおかしくない。目的地のビルがある場所はそう遠くないはずだが、いつまで経っても辿り着かない。どうやら道に迷ってしまったようだ。スマホで調べようにもバッテリーが切れているのか電源が入らない。朝にテレビで見た星座占いで運勢が最悪だったことを思い出して、今日はどうやらツイていないようだと男は一人ぼやいた。男はやむを得ず、自分の勘を頼りに歩き出した。しばらく歩いていくと、小さな公園が見えてくる。男は公園に入ると近くのベンチに腰を下ろし、一息つくことにした…
怪談 ~後悔~ その家に静寂が訪れることはなかった。昼夜を問わず息子の耳に響く女の泣き声。姿は見えない、ただ確かにそこにいる気配と泣き声だけが息子の小さな体を悲しみに震え上がらせた。「またママが会いに来てくれている…」その声は、確かに記憶に残る母親のものだった。しかし母親は数年前に家を出ていった、嫁姑の軋轢に耐えかねて。そしてそのまま両親は離婚。親権は父親が持ち、息子は父親と祖父母と暮らしていた。「ママは、僕のことが嫌いなのかな…」息子は今までそう思っていた。だからこそママは僕を置いて出て行ったんだと。でもママは僕のことを見捨てたわけではなかった。幽霊となってまで僕に会いに来てくれる。「ママ……
にほんブログ村 神戸モロゾフ?とかいうのモラタw なかなか金をかけてくる女子がおるもんやなw 余は満足じゃw 俺は昔から、バレンタインチョコを手作りする子に、…
怪談 ~空き家~ 今から30年ほど前の話。 キャンプ場に向かって走る車の中、助手席で地図を見ていた山本が、次の交差点を左に曲がった方がキャンプ場への近道だという。その近道は鬱蒼とした森の中へと続いているように見える。車を運転している藤田が不安げな顔をした。「ほんとうに近道か。前にお前の案内で行った道行き止まりだったことあったよな」だが山本は自信満々といった口ぶりで返した。「今回は大丈夫。ほら、地図ではちゃんとキャンプ場まで繋がっているから」たしかに今走っている幹線道路に沿って行くと森をグルっと大きく迂回するルートになるためかなりの遠回りになってしまう。今乗っている車はツードアで後部座席はかなり…
怪談 ~眼鏡 美咲は長い間この日が来るのをずっと待ち望んでいた。やっと私も幸せになれる。美咲は純白のウェディングドレスに身を包み、幸せいっぱいの笑顔でバージンロードを歩いた。祭壇の前には、新郎の健太郎が待っている。健太郎は優しく微笑み、美咲の手を取った。式は順調に進み、指輪交換の時が来た。健太郎は美咲の左手薬指に指輪をはめようとしたが、なぜか指輪が入らない。焦った健太郎は無理やり指輪を押し込もうとした。「あっ」その時、美咲の眼鏡がずり落ちた。美咲は眼鏡をかけ直し、健太郎の顔を見た。すると先ほどまで優しく微笑んでいた健太郎の顔が歪んでいる。目は充血し口は大きく裂け、まるで化け物のようだ。美咲は恐…
怪談 ~満員電車~ 朝の通勤電車は、社会の縮図と言われる。人々は皆、疲れた顔で座席に身を委ね、あるいは吊り革に力無く掴まっている。私もその一人だった。毎日同じ時間に家を出て、同じ電車に乗り、同じ駅で降りる。そんな日々が永遠に続くかのように思えた。しかし、その日は違った。電車に乗った瞬間から車内は何か異様な雰囲気に包まれた。乗客たちの顔はいつもより険しく、そして互いに警戒し合っているようだった。私はすべての人が剥き出しの悪意に晒されているような、そんな不安感を覚えた。世界は悪意に満ちている。それは誰もが知っていることだが、この電車の中では、それがより鮮明に感じられた。人々は皆、自分のことしか考え…
バレンタインデーの始まりには、意外な歴史があるのをご存知ですか?聖バレンタインの伝説やローマの祭り、世界のバレンタイン事情まで楽しくご紹介します。チョコを贈って告白する習慣は、日本だけのようですよ。
怪談 ~洞窟~ 梅雨の候、しとしとと雨が降りしきる中、私は友人の田中と二人で山奥へと繰り出した。目的は川釣り。都会の喧騒を離れ、静寂な渓流で時を過ごす。そんな穏やかな時間を過ごすはずだった。山道は次第に険しくなり、木々の間から差し込む光も薄れていく。そんな時に突然に空が暗転し、轟く雷鳴とともに激しい雨が降り始めた。衝撃とともに辺りを激しい閃光が包む。私たちは慌てて近くにあった洞窟へと逃げ込んだ。洞窟の中は薄暗く、湿った土の香りが鼻をつく。 思っていたよりも洞窟は深く広がっていた。二人は何かに誘われるようにスマホのライトを頼りに奥へと進んでいく。そして洞窟の一番奥にあたると思われる場所に着くとそ…
怪談 ~消える女~ 自宅の最寄駅近くにある居酒屋でバイトを始めることにした大学生の智生。そのバイト初日の帰り道でのことだった。バイトが終わって店を出たのは23時、智生は自宅に向けて一人歩き始めた。自宅までは徒歩で15分ほどの距離だ。自宅近くには片側2車線の大きな道路がある。昼間はわりと交通量の多い道路だが、夜になると交通量は減って車の通行はほとんどない。自宅に帰るためにはその道路を渡る必要があった。智生が横断歩道まで来るとちょうど歩行者側の信号が赤に変わったために立ち止まった。バイト初日で緊張もあり疲れていた智生は、車の通りがまったくない道を何を見るでもなくただ眺めていた。すると100mほど離…
怪談 ~負の遺産~ 昔から、血の味がするような感覚が突如として襲ってくる。そして口の中に生肉を噛み砕いたような吐き気を催すような味がしばらく残り続ける。成長するにつれ、徐々にその異様な味がすることはなくなっていった。私は安堵感の中で充実した生活を過ごすことができるようになった。やがて社会人になり日常に追われるうちに、あの異様な味は記憶の彼方に追いやられた。まるで悪夢が消え去ったかのように。しかし、それは束の間の平穏だったのかもしれない。結婚し子供が生まれ成長し、言葉を覚え始めた頃、ある日突然に我が子は「口の中が変な味がする」と訴え始めた。私は子供の頃に、自分だけが抱えていた奇妙な感覚が、我が子…
怪談 ~恐怖への誘い~ 雨音が激しく窓を叩きつける夜、家を抜け出した少年は自宅の近くに建つ今は誰も住んでいない古い洋館へと足を踏み入れた。傘は役に立たずに全身がずぶ濡れとなってしまっていた。体から滴る雨水で床を濡らしながら、持ってきた懐中電灯で暗い室内を照らす。少年は洋館の奥深くにあるという、地下へ続く赤い階段を探し求めていた。その階段の先は、少年の祖父に教えてもらった絶対に行ってはならないとても恐ろしい場所だった。だが今の少年にはそこに行くことにしか希望がなかった。 薄暗い廊下の奥で、少年はようやく赤い階段を発見した。階段の赤は懐中電灯の光の中でまるで血の色のように鮮やかで、少年の心を激しく…
怪談 ~助けを求める者~ 都内のデザイン事務所で働く佐々木は、通勤の不便さを解消するために一月程前に現在住んでいる賃貸マンションへと引っ越してきた。佐々木が入居したのは12階建ての4階、角部屋の406号室だった。入居後しばらくは何の問題もなく生活していたが、ある日の夜中、突然に目覚めた佐々木は自身の寝るベッドの傍に誰かが立っていることに気づく。そっと目だけを動かして見てみると、それは見たこともない老いた男性だった。「幽霊...?」佐々木は体を起こそうとするが、体はまったく動かない。これが金縛りというものだろうか。不思議と冷静に状況を確認している自分に佐々木は驚きつつも、その老人の幽霊の様子を伺…
怪談 ~ゴミ屋敷~ 小学4年生の大夢の家の近所には地元では有名なゴミ屋敷があった。そのゴミ屋敷には誰も身寄りがいない老婆が一人で住んでいた。教師や親からは危ないからゴミ屋敷には近づいてはいけないと言われていたが、老婆は子供達には優しくお菓子やジュースをくれたりするので、大夢は友達と一緒に度々老婆の家に隠れて行ったりしていた。ある日、大夢と友達の康太と篤の三人は老婆の家でいつものようにお菓子を貰って食べていた。すると、家の奥から女性の啜り泣くような声が聞こえてくるのに気づいた。老婆は一人暮らしのはずなのにおかしいと三人は思っていると、好奇心旺盛の康太が老婆にこの泣き声は誰かと聞いた。すると老婆は…
怪談 ~ハシモトの記憶~ 高校三年生の隆志のクラスは朝から騒然としていた。その理由は、先日修学旅行で行った沖縄で撮影したクラスの集合写真にあった。生徒たちが前後数列に並んで撮ったその写真、後列の真ん中あたりに立っている男子生徒二人の間に人の顔のように見える黒い影が写っていた。それを見つけたクラスメイト達はこれは心霊写真だと騒いでいたのだ。だが隆志には写真を最初に見たときから、その黒い影のような顔に見覚えがあった。それは隆志が高校一年生のときに亡くなったクラスメイトのハシモトの顔のだった。仲の良い友人の佑良に隆志はそのことを伝えるが、佑良はハシモトという生徒なんて知らないと隆志に答えた。ならばと…
怪談 ~自殺の名所~ カウンター席しかないバーでオカルトが好きな常連客の3人がアブダクションの真偽について話をしていたが、議論が尽きたのか、みな次第に口数が少なくなってきた。そんな時、常連客の一人、40代くらいで身なりの良いスーツ姿、皆から”先生”と呼ばれる男が、先日出張で行った先で興味深い話を聞いたんですよ、と話を始めた。 「話は昭和初期のころ、西日本のZ県には自殺の名所として有名な崖がありました。その崖は県南部にあるA山を少しだけ登ったところに張り出すように存在していました。近くの村落から歩いて1時間ほどで行ける場所だったみたいです。周辺の村落にはその崖に纏わる言い伝えありました。その言い…
怪談 ~フリマ~ 今から20年以上も前のこと、当時真紀が住んでいた地域には都内でも有数の大きな公園があり、そこでは週末になるとフリーマーケットが開催されていた。フリーマーケットには常に多数の出店があり、掘り出し物目当てに集まる客も多く、いつもなかなかの賑わいを見せていた。真紀も古着などを売るために、友人里香と一緒に度々出店していた。その日も出店していた真紀と里香は、お昼過ぎになると順番に昼食を取ることにして、真紀が先に昼食を食べに行くことになった。真紀は公園近くのファーストフードのお店でお昼を済ませると、お腹を空かせているであろう里香と交代するために足早に自分の店がある場所に向かって歩いていた…
怪談 ~写真~ 女子高生の美桜にはクラスメイトに紬という友人がいた。紬は口数も少なく大人しい性格のため、クラスの中ではあまり目立たない存在だった。ある日、休憩時間に紬が立ち上がった際にポケットから床に生徒手帳を落とした。ちょうど後ろにいた美桜は生徒手帳を拾ろうが、その際に開いた生徒手帳の中身を偶然に見てしまう。生徒手帳には普通顔写真が貼られているが、紬の生徒手帳の顔写真を見たときに美桜は違和感を覚える。美桜や他の生徒の顔写真には、写真を撮った際に背後にあった薄いグレー色の壁が背景に写っている。だが紬の顔写真の背景の色は白だった。それに妙に画像も荒く思えた。顔写真は同じ時に同じ場所で撮っているは…
怪奇現象は心臓に悪い 以前に職場で経験した、心臓に悪い怪奇現象あるある。 立てかけていたホウキが、 何の前触れも無く、倒れる。(T^T) ・・・特に…