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Mさんが小学六年生の夏休みに、親戚の家に泊まりに行った時の事。 その家は海の近くにあり、庭から細い坂道を下ると、すぐに小さな入り江の海岸に出られる。 観光客も少なく、静かで波音だけが絶えず耳に届く場所だった。 Mさんは絵を描くのが好きで、親戚の家に来るといつもスケッチブックと色鉛筆を持って海へ出かけていた。 岩場に腰を下ろし、波打ち際や漂流物、遠くの灯台などを、無心に描く時間が好きだった。
Sさんから聞いた話。 Sさんは仕事終わりの日課として、いつも海沿いの遊歩道を歩いていた会社員だった。 日中は観光客やカップルで賑わう場所だが、夜遅くになると人通りはほとんどなくなる。 街の灯りも届かない暗い遊歩道で、波の音と潮風だけが、日々の仕事で疲れたSさんの心を癒してくれた。 ある晩、いつものように遊歩道を歩いていると、遠くから微かな音が聞こえてきた。 それは「パチャ、パチャ」と誰かが水面を叩くような音だった。