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怪談 ~再生~ 熱気を孕んだ八月の風が窓から吹き込み、一翔の部屋に散らばる漫画雑誌のページをめくった。高校の夏休み、同級生の一翔、勝、壮真、そして守は、惰性のように一翔の家に集まっていた。蝉時雨が容赦なく降り注ぐ昼下がり、どこか倦怠感を覚える時間を破ったのは、勝の一言だった。「なあ、夜になったらさ、肝試し行かない?」その提案に、一翔と壮真の目が光る。勝はニヤリと笑い、皆の視線が守に集まった。守は、普段から物静かで、刺激を求めるようなタイプではなかった。「肝試し…どこに?」一翔が尋ねた。勝は少し声を潜めた。「この町の外れにあるだろ? あの刑場跡地。」その言葉に、部屋の空気が一瞬にして冷えた気がし…
怪談 ~瞼~ 目を閉じると瞼の裏に映る人影。常にではないが、それは現れる。そしてそれは笑いかける、俺に向けて。最初は気のせいかと思った。疲れているだけだと。しかし、その影は日に日に濃くなり、笑みは嘲笑の色を帯び始めた。まるで、俺の心の奥底にある弱さを見透かしているかのように。ある夜、眠ろうと目を閉じた俺は、恐れつつもついにその人影に問いかけた。「お前は、一体何者なんだ」しばらくの沈黙が続いた後に、それはゆっくりと応えた。その声は、まるで壊れたオルゴールの音色のように、耳障りで不快だった。「私は、お前の心の影。お前が目を背けている、真実の姿だ」まさか反応があるとは思わず、俺は絶句し言葉を続けるこ…
怪談 ~日記~ 数年前、私は趣味のカメラを持って、廃墟となった古い洋館を訪れた。蔦が絡まり、窓ガラスは割れ、内部は荒れ放題。それでも、どこか惹かれるものがあり、夢中でシャッターを切っていた。その洋館の一室で、私は古い日記を見つけた。表紙は色褪せ、所々破れている。興味本位でページをめくると、そこには若い女性が書いたと思われる手記が綴られていた。内容は日常的なものだったが、次第に「何か」に怯えるような記述が増えていく。「昨夜も、あの視線を感じた。誰もいないはずなのに…」「誰もいないのに私を呼ぶ声が聞こえてくる...」「お願い、私を見つけないで…」日記の最後は、乱れた文字で「もう、逃げられない…」と…
怪談 ~自殺の理由~ 夜風が肌を刺す。コンクリートの冷たさが靴底から伝わり、男の焦燥感を増幅させた。百メートル。この高さならば、万が一を考えての躊躇など無用だろう。彼は柵のない屋上の縁に立ち、眼下の街を見下ろした。無数の光が瞬き、まるで遠い星のようだ。その光の一つ一つに、それぞれの生活がある。自分とは無縁の、輝かしい世界。その時、突然に風が強く吹きつけた。ぐらりと体が揺れる。咄嗟に手すりを探したが、当然そこには何もない。バランスを失った体は、重力に従い、無慈悲に落下を始めた。落ちていく。景色が猛烈な速さで迫ってくる。風圧が全身を叩きつけ、息が詰まる。その瞬間、男の脳裏に鮮烈な後悔の念が押し寄せ…
怪談 ~サバイバルゲーム~ かつての大戦の際には激戦地だったと言われている太平洋に浮かぶ小島、今では無人島となったその地でのサバイバルゲームは、陽太たちが今まで体験してきたいかなるゲームを超える最高のものになるはずだった。島に向かう船上で仲間たちみな興奮を隠しきれずにいた。 この日のサバイバルゲームはチーム戦ではなく個人戦で行われることになっていたため、島に上陸するとすぐに、仲間は森の中へと散っていった。 陽太も遅れまいと深い森に足を踏み入れた。しかしその瞬間から、楽しい時間は悪夢へと変貌した。木々のざわめきにかき消され、気づけばそこかしこに感じられていた仲間たちの気配はどこにも感じられなかっ…
怪談 ~廃屋~ 一裕は、従業員わずか十数名の小さな解体業者で事務員として働いていた。蒸し暑い夏の朝、現場作業員のリーダーである田中から会社に電話が入った。「今日の現場は社長が直接依頼を受けた仕事だったよな」電話口から、いかにも不機嫌そうな田中の声が響いてきた。「そうですよ」一裕は顔をしかめながら答えた。「社長はいるか?」「今、外出中でいません」電話の向こうで、舌打ちのような音が聞こえた。田中は苛立ちを隠そうともせずに言った。「さっきから社長の携帯に電話してるのに全然繋がらないんだ。一体どうなってんだよ」「何かあったんですか」「何かあったなんてもんじゃない。このままじゃ作業が進められない。とにか…
怪談 ~雑巾~ 夕焼けが校舎を茜色に染める放課後。人気のない小学校の廊下を、小学三年生の修哉は一人、音楽教室に向かってトボトボと歩いていた。修哉のクラスでは掃除当番は男女のペアだったが、今日修哉のペアの女の子は風邪で学校を休んでいたため、音楽教室の掃除当番は彼一人ですることになった。窓の外では、カラスが不気味な声で鳴いている。修哉は少し心細くなりながらも、早く終わらせて帰ろうと、音楽教室に着くと、まずは机を拭くために、ほうき入れの隅に置いてあった古びた雑巾を手に取った。その雑巾は、今まで見た他の雑巾と比べて明らかに異質だった。全体的に灰色にくすみ、所々に黒ずんだ染みがこびり付いている。まるで長…
怪談 ~冬山~ 俺は友人の佐々木と二人で冬山登山をしていた。山の中腹にある山小屋で一泊し、翌日に頂上を目指す予定だったが、翌日は午後から天候が崩れると予報が出ていたため、佐々木と相談し朝早くから登頂することにした。翌日、まだ夜明け前の薄暗い中を出発し、昼前には頂上に辿り着くことができた。しかし、その頃には予報よりも早く天候は悪化し始めていた。白い雪が渦を巻き、空は鉛色に染まっていた。下山を開始して間もなく、天候は急激に悪化の一途を辿った。猛烈な吹雪が視界を奪い、風は容赦なく身体を叩きつける。足元は雪に覆われ、踏み出す一歩ごとに不安が募った。次第に前に進むことが困難になり、遭難の二文字が頭をよぎ…
怪談 ~音~ 大学入学と同時に引っ越したマンション。築年数はそこそこだが、駅からのアクセスも良く、家賃も手頃だった。しかし、引っ越して数日後から、奇妙な出来事が起こり始めた。夜中、草木も眠る丑三つ時の2時過ぎになると、必ず「コツ、コツ、コツ……」という、何かを堅いものに叩きつけるような音が聞こえてくるのだ。その音は、毎晩決まって5分間だけ続き、その後、嘘のように静寂が訪れる。最初は、上の階の住人が夜中に何か作業でもしているのかと思った。しかし、マンションの管理会社に相談し、他の住人に確認してもらったところ、そのような音を立てている人はいないという。音が聞こえるたびに、音源を突き止めようと試みた…
怪談 ~月光~ 男は一人山奥にいた。今日は満月のはずだが、生憎空は厚い雲で覆われ一筋の月の光も見られない。足場の悪い中、男は必死にスコップを使い穴を掘り続けた。やがてポツポツと雨が降り始めたと思ったら、あっという間に大雨となった。ずぶ濡れになりながらも、やっと穴を掘り終えると、近くに止めてあった車のトランクを開いた。中には若い女性の遺体が体を丸めるように収まっている。トランクから女性の遺体を穴の中に移し土の上に寝かせると、さきほど穴を掘った時に出た土を、穴の中の女性を覆うように戻していく。全ての土を穴に戻し終えた男は、スコップを放り出すと力尽きたように倒れ込んだ。荒く息を吐き出しながら、他とは…
怪談 ~無限~ 真夏の暑い公園、蝉の鳴き声だけが異様に響き渡る。ベンチに座る男、健太の額には脂汗が滲んでいた。その目の前には、異様な二人の姿があった。一見親子のようにも見えるその二人は髪の長い女と少年。しかし、その女は真夏だというのに黒いコートを纏い、顔色は青白く、生気を感じさせない。少年の瞳は虚ろで、まるで人形のようだった。そのあまりにも異質な雰囲気に、健太は言いようのない不安を感じていた。女は健太を見据え、冷たい声で語り始めた。「あなたが今進んでいる道は、血塗られた不幸な未来へと繋がる道。あなたにとっても、彼女にとっても。」「はっ、なんだいきなり。どういうことだ。」健太は、女の言葉に戸惑い…
怪談 ~時をかける~ 幼い頃、陸生の母はある日突然姿を消した。誰にも理由は分からず、警察にも捜索願を出したが、母が見つかることはなかった。 時は流れ、陸生は40代となっていた。ある日、ふらりと入った喫茶店で店員を見て驚愕した。その女性は失踪した母に瓜二つだったのだ。「母さん…」思わず呟いた陸生の声に、女性が顔を上げた。「陸生なの…」女性は、陸生の名前を呼んだ。間違いなく陸生の母だった。詳しく話を聞くと、母はタイムスリップによって未来の世界へと来ていた。母の中では陸生の前から姿を消してから、まだ2年ほどしか経っていないと言った。そのため、今では陸生の方が母親よりも年上になっていた。普通ならとても…
怪談 ~彼~ 私は、この山奥の村でたった一人の生徒として、小学校に通っていた。四年生になった時から、私は一人だった。寂しい?最初はそう思っていた。でも、すぐに慣れた。だって、私には『彼』がいたから。『彼』は、私にしか見えない友達。いつも一緒に遊んでくれた。授業中も、休み時間も、放課後も。他の人には見えないけれど、私には確かに『彼』がいた。でも、周囲の人たちはいつも一人の私のことを気にかけていた。とくに先生はいつも心配そうな顔で私を見ていた。「有里ちゃん、学校で一人で遊ぶのもいいけど、たまには外に出て遊んだら」と。でも、私には『彼』がいれば十分だった。卒業の日が近づき、小学校が閉鎖されることが決…
怪談 ~事故物件~ 街中にある古びた一軒の不動産屋。その異様な雰囲気に惹きつけられ若い男は入口のガラスの扉を開けた。店の中にいたのは奥の事務机に座っている痩せこけた店長だけだった。「いらっしゃいませ」嗄れた声が、人気のない店内に響く。若い男は席に座ると単刀直入に告げた。「事故物件を借りたいんです」店長の目は、ギョロリと大きく見開かれた。「お断りだね。事故物件なんかに積極的に住みたがるようなのに関わると碌なことにならない。帰ってくれ」そう言い残し、店長は奥の部屋へと消えてしまった。若い男は店を出て、人気のない裏道を歩いていた。そんな若い男の背後から私は声をかけた。若い男が振り返り私を見た。「事故…
怪談 ~悔恨~ カウンター席しかないバーで、オカルト好きの常連客3人がアポカリプティックサウンドの真偽について議論していたが、議論が尽きたのか、次第に口数が少なくなってきた。そんな時、常連客の一人、40代くらいの身なりの良いスーツ姿で、皆から「先生」と呼ばれる男が、店の女性マスターに「今日は元気がないようですが、大丈夫ですか」と訊いた。するとマスターは、今までの人生での後悔が唐突に思い出されて苦しくなり、昨夜はあまり眠れなかったという。今の私は幸せだと思っているはずなのに、なぜなんだろうと途方に暮れたように呟いた。「それは誰にでもあることです。『後悔先に立たず』とも言いますし、あまり気にしない…
怪談 ~応報~ 周囲を見渡すと、無数の同じ顔がひしめき合い、蠢いている。奴らは皆、無表情で目的も分からず、ただひたすらに歩き続けている。その異様な光景に俺は言いようのない嫌悪感を覚えた。「俺は違う。お前らとは違うんだ!」心の奥底から叫びが込み上げるが、声にならない。俺はこの異質な群れに紛れ込んだ異物。奴らとは違う存在であることを、必死に主張したかった。 目の前に男が座っている。その顔は、無機質なほどに整っており、感情が読み取れない。男の瞳は、底なしの闇のように深く、俺をじっと見つめている。「なぜ、こんなことをしたんだ」男の声は静かで冷たい。まるで氷の刃が肌を滑るようなぞっとする感覚を受ける。「…
怪談 ~鏡像~ 夜中、保晴は突然の悪寒に襲われ、目を覚ました。普段は一度眠ると朝まで起きることなどないのに、今夜は異様な気配がまとわりつき、眠気は完全に消え失せていた。喉の渇きを覚え、保晴は重い体を引きずって台所へと向かった。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出しコップに注ぎ込む。水を飲む音だけが、静まり返った部屋に不気味に響き渡る。「なにかが変だ」漠然とした不安が心の中で膨らんでいく。寝室に戻る前に保晴はトイレに立ち寄った。そして何気なく鏡を見た瞬間に背筋が凍り付いた。鏡に自分の姿が映っていない。代わりに背後の壁だけが虚ろに広がっている。「まさか…」保晴が恐怖に震えながら鏡に手を伸ばし…
怪談 ~シミ~ 大和の働く会社は、築40年を超える古い雑居ビルの中にあった。 時代に取り残されたようなその建物は、昼なお薄暗く、淀んだ空気が漂っている。 会社の中もまた、外観に違わず陰鬱な雰囲気を纏っていた。大和は、そんな会社の中でも特に嫌悪感を抱く場所があった。 それは、薄汚れた蛍光灯が寂しく光る男子トイレだ。 個室が一つと小便器が二つだけの狭い空間は、清掃会社の努力も虚しく、常に湿気と尿の匂いが入り混じった不快な空気に満ちていた。大和がトイレを嫌う理由は、入ってすぐ左手にある古びた洗面台に設置された鏡にあった。 曇った鏡には、やつれた自分の姿と、背後のコンクリート壁が映り込む。 問題は、そ…
怪談 ~予定外~ どこだかわからない、深い霧に包まれた場所。足元はぬかるみ、冷たい空気が肌を刺す。若い男は、自分がなぜここにいるのか、全く理解できなかった。最後に覚えているのは、橋の上から川の流れを見下ろしていた時の目も眩むような景色だけだ。「勝手に死なれたら困るな」低い、それでいてよく響く声が、霧の中から現れた黒いコートの男によって放たれた。男の顔は影になって見えないが、その声には有無を言わせぬ威圧感があった。「別に死にたくて死んだんじゃない」若い男は、苛立ちを隠せずに答えた。そこでハッとした顔になった。橋から川に落ちて死んだことを思い出した。「だって川に身投げしただろう」「違う、橋から川の…
怪談 ~願い~ 陽の傾きかけたグラウンドに、広夢のバットが乾いた音を響かせた。土埃を上げながら白球が弧を描き、フェンスを越えていく。それを見つめる広夢の瞳は、ダイヤモンドよりも輝いていた。 シングルマザーの貴子にとって、小学四年生の息子広夢はかけがえのない宝物だった。しかし仕事に追われる日々のなかで、広夢と向き合う時間は決して十分とは言えなかった。広夢が少年野球チームに入ってからというもの、貴子は息子の成長を遠くから見守るばかり。そんなある日、貴子は偶然、野球チームの監督から声をかけられた。「広夢くん、最近めきめきと上達していますよ」驚いた貴子が理由を尋ねると、広夢は誰かと特訓をしているらしい…
怪談 ~なんで~ 最近、4歳になった娘がいろんなことに興味を持つようになった。「あれ、なに?」「なんで?」が口癖のように出てくる。そんな子供の成長を母親は微笑ましく思っていた。 ある日、娘と二人で電車に乗った時、後続の急行の通過を待つため駅に止まる電車内で、窓から外を眺めていた娘が母親に訊いた。「なんであの人はあそこにいるの」そう言って指をさした先は反対側ホームの下あたりの線路上だった。母親は困惑の表情を浮かべて言った。「えっと...誰もいないけど...」先ほどと同じ所を指さして再び娘は言った。「えー、いるよ、おんなのひと。でもへんなの、そのおんなのひと、あしがないの」それを聞いて思わず母親は…
怪談 ~トレッキング~ トレッキングが趣味の美雪は、その日も週末の休みを利用して、お気に入りの山へ向かった。いつもは仲間と一緒だが、今回は初めて一人で来ていた。紅葉が終わり、冬の足音が聞こえ始めた山は、昼なお薄暗く、冷たい空気が肌を刺す。午前10時、美雪は登山道に入った。午後1時には山頂に着く予定だった。山頂までの道則は至って順調だった。しかし下山を始めた頃から、美雪は背後からの視線を感じ始めた。誰かが常に一定の間隔で自分を見ている、そう感じた。周囲を見回しても、木々が視界を遮り誰の姿も見つけられない。気のせいだと思おうとしたが、その視線は次第に強まっていくように感じられた。嫌悪感と焦燥感に駆…
怪談 ~イヤホン~ 車窓から流れていく景色を見るでもなく眺めていた。いつもと変わらぬ風景。清太郎は通勤時、いつもスマホで音楽を聴いている。ワイヤレスイヤホンが耳にぴったりと収まり、外界の音を遮断する。自宅から最寄りの駅まではバス、そこから電車に乗り換えて会社へ。入社して数ヶ月、そんな日常が続いていた。ある日、いつものようにバスに揺られていると、イヤホンから微かな雑音が聞こえることに気づいた。最初は気のせいかと思ったが、その雑音は次第に大きくなる。ザッ、ザッ、ザッ……。耳障りな音が音楽に混じり、不快感を覚える。いつからだろうか、バスに乗っている時だけ、この雑音が聞こえる。電車の中では一度もなかっ…
怪談 ~廃墟巡り〜 大学生の智治は、大学の友人グループ、男3人、女3人の計6人で廃墟巡りをするのが趣味だった。彼らはスリルと好奇心を求めて、各地の廃墟を訪れていた。ある日、智治たちはいつものように廃墟巡りを計画した。目的地は、彼らが住む街から車で2時間ほどの距離にある山奥の廃村だった。そこはかつて数十軒の家が立ち並ぶ村だったが、過疎化が進み、今では誰も住んでいない。村全体が廃墟と化しており、その異様な雰囲気が彼らを惹きつけた。昼過ぎに車で出発したが、道に迷ったり、途中で休憩を挟んだりしているうちに、予定よりも大幅に時間が過ぎてしまった。廃村に到着したときには、すでに日は傾き始めていた。廃墟の中…
怪談 ~袋〜 隆一は10年前に父親を病気で亡くし、今は自宅である一軒家で母親と二人で住んでいる。だが母親は健康診断で癌が見つかり、今はその治療のため入院しているため、家には隆一だけしかいなかった。ある日、仕事を終えた隆一は最寄りの駅から自宅へと向かって歩いていた。時刻は19時を少しだけ過ぎたあたりで、周囲は夜の帳が下りつつあった。自宅は片側一車線のそれほど広くはない道路沿いにあった。その道は大通りへの抜け道となるため交通量も多く、自宅前の歩道と車道の間には鉄製の白いガードレールが設置されていた。自宅が近づいてきたときに、自宅前のガードレールに、何かがぶら下がっているのことに気がついた。その日の…
怪談 ~救急車〜 救急車の揺れと共に、男は意識を取り戻した。頭は鉛のように重く、全身は痺れたように動かない。耳に入ってくるのは、救急隊員の逼迫した声とけたたましいサイレンの音。「鹿島さん!鹿島さん!」救急隊員が必死に呼びかけている。しかし、男は返事をすることはおろか体を動かすことすらできなかった。まるで魂だけが抜け殻に閉じ込められているような感覚。(一体、何が起こっているんだ)男は混乱しながらも、必死に状況を把握しようとした。「鹿島さん、わかりますか」救急隊員が呼びかけている名前が、自分の名前ではないことに気づいた時、男は愕然とした。(鹿島?俺の名前は鹿島じゃない。まさか....)その時、脳裏…
怪談 ~ペットボトル〜 ある一人のサラリーマンの男が、初めて訪れる場所へと足早に向かっていた。空は曇天、昼間にも関わらず周囲は薄暗く、いつ天候が崩れてもおかしくない。目的地のビルがある場所はそう遠くないはずだが、いつまで経っても辿り着かない。どうやら道に迷ってしまったようだ。スマホで調べようにもバッテリーが切れているのか電源が入らない。朝にテレビで見た星座占いで運勢が最悪だったことを思い出して、今日はどうやらツイていないようだと男は一人ぼやいた。男はやむを得ず、自分の勘を頼りに歩き出した。しばらく歩いていくと、小さな公園が見えてくる。男は公園に入ると近くのベンチに腰を下ろし、一息つくことにした…
怪談 ~後悔~ その家に静寂が訪れることはなかった。昼夜を問わず息子の耳に響く女の泣き声。姿は見えない、ただ確かにそこにいる気配と泣き声だけが息子の小さな体を悲しみに震え上がらせた。「またママが会いに来てくれている…」その声は、確かに記憶に残る母親のものだった。しかし母親は数年前に家を出ていった、嫁姑の軋轢に耐えかねて。そしてそのまま両親は離婚。親権は父親が持ち、息子は父親と祖父母と暮らしていた。「ママは、僕のことが嫌いなのかな…」息子は今までそう思っていた。だからこそママは僕を置いて出て行ったんだと。でもママは僕のことを見捨てたわけではなかった。幽霊となってまで僕に会いに来てくれる。「ママ……
怪談 ~空き家~ 今から30年ほど前の話。 キャンプ場に向かって走る車の中、助手席で地図を見ていた山本が、次の交差点を左に曲がった方がキャンプ場への近道だという。その近道は鬱蒼とした森の中へと続いているように見える。車を運転している藤田が不安げな顔をした。「ほんとうに近道か。前にお前の案内で行った道行き止まりだったことあったよな」だが山本は自信満々といった口ぶりで返した。「今回は大丈夫。ほら、地図ではちゃんとキャンプ場まで繋がっているから」たしかに今走っている幹線道路に沿って行くと森をグルっと大きく迂回するルートになるためかなりの遠回りになってしまう。今乗っている車はツードアで後部座席はかなり…
怪談 ~眼鏡 美咲は長い間この日が来るのをずっと待ち望んでいた。やっと私も幸せになれる。美咲は純白のウェディングドレスに身を包み、幸せいっぱいの笑顔でバージンロードを歩いた。祭壇の前には、新郎の健太郎が待っている。健太郎は優しく微笑み、美咲の手を取った。式は順調に進み、指輪交換の時が来た。健太郎は美咲の左手薬指に指輪をはめようとしたが、なぜか指輪が入らない。焦った健太郎は無理やり指輪を押し込もうとした。「あっ」その時、美咲の眼鏡がずり落ちた。美咲は眼鏡をかけ直し、健太郎の顔を見た。すると先ほどまで優しく微笑んでいた健太郎の顔が歪んでいる。目は充血し口は大きく裂け、まるで化け物のようだ。美咲は恐…
怪談 ~満員電車~ 朝の通勤電車は、社会の縮図と言われる。人々は皆、疲れた顔で座席に身を委ね、あるいは吊り革に力無く掴まっている。私もその一人だった。毎日同じ時間に家を出て、同じ電車に乗り、同じ駅で降りる。そんな日々が永遠に続くかのように思えた。しかし、その日は違った。電車に乗った瞬間から車内は何か異様な雰囲気に包まれた。乗客たちの顔はいつもより険しく、そして互いに警戒し合っているようだった。私はすべての人が剥き出しの悪意に晒されているような、そんな不安感を覚えた。世界は悪意に満ちている。それは誰もが知っていることだが、この電車の中では、それがより鮮明に感じられた。人々は皆、自分のことしか考え…
怪談 ~洞窟~ 梅雨の候、しとしとと雨が降りしきる中、私は友人の田中と二人で山奥へと繰り出した。目的は川釣り。都会の喧騒を離れ、静寂な渓流で時を過ごす。そんな穏やかな時間を過ごすはずだった。山道は次第に険しくなり、木々の間から差し込む光も薄れていく。そんな時に突然に空が暗転し、轟く雷鳴とともに激しい雨が降り始めた。衝撃とともに辺りを激しい閃光が包む。私たちは慌てて近くにあった洞窟へと逃げ込んだ。洞窟の中は薄暗く、湿った土の香りが鼻をつく。 思っていたよりも洞窟は深く広がっていた。二人は何かに誘われるようにスマホのライトを頼りに奥へと進んでいく。そして洞窟の一番奥にあたると思われる場所に着くとそ…
怪談 ~消える女~ 自宅の最寄駅近くにある居酒屋でバイトを始めることにした大学生の智生。そのバイト初日の帰り道でのことだった。バイトが終わって店を出たのは23時、智生は自宅に向けて一人歩き始めた。自宅までは徒歩で15分ほどの距離だ。自宅近くには片側2車線の大きな道路がある。昼間はわりと交通量の多い道路だが、夜になると交通量は減って車の通行はほとんどない。自宅に帰るためにはその道路を渡る必要があった。智生が横断歩道まで来るとちょうど歩行者側の信号が赤に変わったために立ち止まった。バイト初日で緊張もあり疲れていた智生は、車の通りがまったくない道を何を見るでもなくただ眺めていた。すると100mほど離…
怪談 ~負の遺産~ 昔から、血の味がするような感覚が突如として襲ってくる。そして口の中に生肉を噛み砕いたような吐き気を催すような味がしばらく残り続ける。成長するにつれ、徐々にその異様な味がすることはなくなっていった。私は安堵感の中で充実した生活を過ごすことができるようになった。やがて社会人になり日常に追われるうちに、あの異様な味は記憶の彼方に追いやられた。まるで悪夢が消え去ったかのように。しかし、それは束の間の平穏だったのかもしれない。結婚し子供が生まれ成長し、言葉を覚え始めた頃、ある日突然に我が子は「口の中が変な味がする」と訴え始めた。私は子供の頃に、自分だけが抱えていた奇妙な感覚が、我が子…
怪談 ~恐怖への誘い~ 雨音が激しく窓を叩きつける夜、家を抜け出した少年は自宅の近くに建つ今は誰も住んでいない古い洋館へと足を踏み入れた。傘は役に立たずに全身がずぶ濡れとなってしまっていた。体から滴る雨水で床を濡らしながら、持ってきた懐中電灯で暗い室内を照らす。少年は洋館の奥深くにあるという、地下へ続く赤い階段を探し求めていた。その階段の先は、少年の祖父に教えてもらった絶対に行ってはならないとても恐ろしい場所だった。だが今の少年にはそこに行くことにしか希望がなかった。 薄暗い廊下の奥で、少年はようやく赤い階段を発見した。階段の赤は懐中電灯の光の中でまるで血の色のように鮮やかで、少年の心を激しく…
怪談 ~助けを求める者~ 都内のデザイン事務所で働く佐々木は、通勤の不便さを解消するために一月程前に現在住んでいる賃貸マンションへと引っ越してきた。佐々木が入居したのは12階建ての4階、角部屋の406号室だった。入居後しばらくは何の問題もなく生活していたが、ある日の夜中、突然に目覚めた佐々木は自身の寝るベッドの傍に誰かが立っていることに気づく。そっと目だけを動かして見てみると、それは見たこともない老いた男性だった。「幽霊...?」佐々木は体を起こそうとするが、体はまったく動かない。これが金縛りというものだろうか。不思議と冷静に状況を確認している自分に佐々木は驚きつつも、その老人の幽霊の様子を伺…
怪談 ~ゴミ屋敷~ 小学4年生の大夢の家の近所には地元では有名なゴミ屋敷があった。そのゴミ屋敷には誰も身寄りがいない老婆が一人で住んでいた。教師や親からは危ないからゴミ屋敷には近づいてはいけないと言われていたが、老婆は子供達には優しくお菓子やジュースをくれたりするので、大夢は友達と一緒に度々老婆の家に隠れて行ったりしていた。ある日、大夢と友達の康太と篤の三人は老婆の家でいつものようにお菓子を貰って食べていた。すると、家の奥から女性の啜り泣くような声が聞こえてくるのに気づいた。老婆は一人暮らしのはずなのにおかしいと三人は思っていると、好奇心旺盛の康太が老婆にこの泣き声は誰かと聞いた。すると老婆は…
怪談 ~ハシモトの記憶~ 高校三年生の隆志のクラスは朝から騒然としていた。その理由は、先日修学旅行で行った沖縄で撮影したクラスの集合写真にあった。生徒たちが前後数列に並んで撮ったその写真、後列の真ん中あたりに立っている男子生徒二人の間に人の顔のように見える黒い影が写っていた。それを見つけたクラスメイト達はこれは心霊写真だと騒いでいたのだ。だが隆志には写真を最初に見たときから、その黒い影のような顔に見覚えがあった。それは隆志が高校一年生のときに亡くなったクラスメイトのハシモトの顔のだった。仲の良い友人の佑良に隆志はそのことを伝えるが、佑良はハシモトという生徒なんて知らないと隆志に答えた。ならばと…
怪談 ~自殺の名所~ カウンター席しかないバーでオカルトが好きな常連客の3人がアブダクションの真偽について話をしていたが、議論が尽きたのか、みな次第に口数が少なくなってきた。そんな時、常連客の一人、40代くらいで身なりの良いスーツ姿、皆から”先生”と呼ばれる男が、先日出張で行った先で興味深い話を聞いたんですよ、と話を始めた。 「話は昭和初期のころ、西日本のZ県には自殺の名所として有名な崖がありました。その崖は県南部にあるA山を少しだけ登ったところに張り出すように存在していました。近くの村落から歩いて1時間ほどで行ける場所だったみたいです。周辺の村落にはその崖に纏わる言い伝えありました。その言い…
怪談 ~フリマ~ 今から20年以上も前のこと、当時真紀が住んでいた地域には都内でも有数の大きな公園があり、そこでは週末になるとフリーマーケットが開催されていた。フリーマーケットには常に多数の出店があり、掘り出し物目当てに集まる客も多く、いつもなかなかの賑わいを見せていた。真紀も古着などを売るために、友人里香と一緒に度々出店していた。その日も出店していた真紀と里香は、お昼過ぎになると順番に昼食を取ることにして、真紀が先に昼食を食べに行くことになった。真紀は公園近くのファーストフードのお店でお昼を済ませると、お腹を空かせているであろう里香と交代するために足早に自分の店がある場所に向かって歩いていた…
怪談 ~写真~ 女子高生の美桜にはクラスメイトに紬という友人がいた。紬は口数も少なく大人しい性格のため、クラスの中ではあまり目立たない存在だった。ある日、休憩時間に紬が立ち上がった際にポケットから床に生徒手帳を落とした。ちょうど後ろにいた美桜は生徒手帳を拾ろうが、その際に開いた生徒手帳の中身を偶然に見てしまう。生徒手帳には普通顔写真が貼られているが、紬の生徒手帳の顔写真を見たときに美桜は違和感を覚える。美桜や他の生徒の顔写真には、写真を撮った際に背後にあった薄いグレー色の壁が背景に写っている。だが紬の顔写真の背景の色は白だった。それに妙に画像も荒く思えた。顔写真は同じ時に同じ場所で撮っているは…
怪談 ~喫煙所~ 都内にある大手食品会社の社員である田中。地方にある支店でトラブルがあり、その対応のため直属の上司である部長と共にその支店へと出張してきていた。支店は駅前に広がるオフィス街の一角にある雑居ビル内にあり、周囲を同じような雑居ビルに囲まれていた。雑居ビルは6階建てで、その5階に支店がある。支店に到着するなり、今回のトラブルで迷惑をかけた関係各所への謝罪のため、日中はずっと部長と外回りとなった。夕方支店に戻ってからは本社とテレビ会議にて今後の対策と方針について話し合っていた。気がつけばすでに時刻は22時近くになっている。みな夕食を食べていなかったこともあり、ここで一旦休憩することとな…
怪談 ~残り香~ 大学生の和司は自宅から歩いてすぐにあるコンビニでバイトをしている。今は大学が夏休み中のため、時給の高い夜間のシフトに入っていた。その日もバイトに向かうため、21時過ぎにマンション12階にある自宅を出た。夜だというのにひどい暑さで、熱せられたじっとりとした空気が体にまとわりつく。エレベーターに乗り込み一階のボタンを押す。エレベーターは軽い振動と共に下に向かって動き出したが、すぐに停まった。エレベーター内のフロア表示は『10』を示している。扉が開くとそこには俯き加減の女性が立っていた。今まで見たことがない女性だった。年齢は40前後くらいだろうか、白のブラウスに黒いズボンというラフ…
怪談 ~友人~ 裕太は生まれつき心臓に持病があり、幼いころは度々発作を起こしては入退院を繰り返すような生活を送っていた。それは小学生になっても変わらず、発作を起こす度に学校を休んでいた。裕太はそのせいもあり引っ込み思案な性格で学校でなかなか友達ができなかった。小学5年生になった時に心臓の手術を受けたことで奇跡的に回復した裕太は、それ以来学校を休むことはなく、他の子と同じように生活できるようになっていった。そんな裕太にやっとできた友人が拓真だった。拓真は裕太とは真逆のタイプで、性格は明るく頭も良く活動的だったため、いつもクラスの中心にいるような人気者だった。 そんな二人が、同じクラスで隣同士の席…
怪談 ~躓き~ カウンター席しかないバーでオカルトが好きな常連客の3人がキリストの聖痕現象の真偽について話をしていたが、議論が尽きたのか、みな次第に口数が少なくなってきた。そんな時、常連の中で1番若い、皆から”坊ちゃん”と呼ばれる男が、「そう言えばこんなことがあったんだけど。」と、先日自身が経験した不思議な出来事を話始めた。 その日、坊ちゃんは友人との待ち合わせに遅れそうだったため、駅に向かって急いで歩いていた。その途中、駅近くの商業ビルの横にある広い歩道を足早に進んでいた坊ちゃんは、突然道の真ん中で何かに躓いた。ちょうどスマホを操作しながら歩いていたために完全にバランスを崩し踏ん張る事ができ…
怪談 ~監獄~ 手を離すと、後ろで鉄が重く軋む音がして今まさに通り抜けてきたばかりの扉が閉る。扉が閉まりきるときに金属がぶつかる甲高い嫌な音が鳴り響く。もう幾度となく聞いている音だが、その瞬間にはいまだに体がピクっと反応してしまう。扉の方を振り返ると、扉の上部にある覗き窓からこちらを見る看守の顔が見える。その看守の顔はまったくの無表情で、いつ見てもゾッとする。いつもなるべく見ないようにはしているが、毎日会わざるをえないため、どうしてもその表情のない顔を見てしまう。不快な気持ちを抑えつつ、私は前に向き直った。目の前には青白い明かりに照らされた通路が長く奥まで伸びている。通路の突き当たりまでは30…
怪談 ~似顔絵~ ※この作品は有料となります。全文をご覧いただくにはご購入をお願いいたします。 女子高生の桜は通っている学校の近隣のショッピングモールに遊びに行くことがあった。桜が好きなアイドルグループのショップがそこにあったためで、同じようにそのアイドルグループのファンであるクラスメイトの友人星奈と月に2~3回くらいの頻度で通っていた。ある日、桜は学校の帰りにショッピングモールに行こうと星奈を誘ったが、星奈はその日は別の予定があるために行けないと断られてしまった。いつもならば一人では行かずに帰宅する桜だったが、その日は一人でそのショッピングモールに行くことにした。実は桜にはアイドルグループの…
怪談 ~タトゥー~ ※この作品は有料となります。全文をご覧いただくにはご購入をお願いいたします。 都内の大学へ通う沙耶は同じ大学の友人の紹介で莉里という女性と知り合った。莉里は沙耶とは別の大学に通っていたが、同い年でしかも同じミュージシャンのファンであることが分かり、ライブに一緒に行くようになり次第に仲良くなっていった。それからは2人だけで買い物や食事に行くことも度々あり、いつのまにか親友とも言える間柄になっていた。ただ沙耶は莉里に対して一つだけどうしても気になることがあった。それはどんなに暑い日でも長袖を着けていることだった。夏で40度近い気温の日でも莉里は必ず手首まである長袖を着ていた。最…
怪談 ~通過~ 「うわぁ!」時間は20時を過ぎていた。場所は高層ビルの5階フロア、人が少なくなったオフィスに山下の叫び声が響き渡る。斜め向かいの席に座っていた山下の上司の田中はその叫び声に驚いて、山下を見た。叫び声と同時に椅子から立ち上がった山下は驚きの表情で田中の席の後方を見ている。やがて自分を見る田中の視線に気づいた山下は田中と目が合うと、われに返った。「すっ、すみません。」山下は田中と他にオフィスに残っている同僚社員に向けて頭を下げて謝罪する。「どうしたんだ。」田中は普段の生真面目な山下からは考えられない突然の行動に困惑していた。「すみません、別になんでもないです。」椅子に座った山下は気…
怪談 ~輪廻~ ※この作品は有料となります。全文をご覧いただくにはご購入をお願いいたします。 由夏は時代の寵児と呼ばれる若きカリスマ社長の晴輝と1年ほど前から交際していた。由夏は高校を卒業後、家庭の事情で進学ができずに、昼間はカフェで夜は居酒屋でとバイトを掛け持ちして家計を助けていた。そんな由夏が働いているカフェを晴輝が客として訪れたのが二人の初めての出会いだった。晴輝は店に来ると積極的に由夏に声をかけた。次第に打ち解けていった二人は店の外でも会うようになる。そして二人の交際が始まった。由夏にとって、高収入で社会的ステータスもある晴輝のような自分とは住む世界が違う男性と出会い、そして今その男性…