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フェル博士が活躍する長篇シリーズ第6作『三つの棺』では、作品の終盤になってフェル博士が「密室講義」を始める。何故?と聞かれて「われわれは探偵小説のなかにいるからだ。」と答える。それまで作中の人物としてのリアリティを体現していた存在が、それを演じていた役者にすぎないのだと赤裸々に話し出すのだ。当時としてはかなりぶっ飛んだ挿入シーンは、エンターテイメントが何事にも優先されてしまう現代でもかなり興味…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その7)
本書では、エラリイ・クイーンの第二期の作品について次のように書き出している。 [原文](INTRODUCTION P.7) It's convenient to date the beginning of Queen's second period from Halfway House (1936) since this is the first of Ellery's cases not to contain an adjective of nationality in the title. But the new title format is merely symptomatic of chan…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その6)
いよいよINTRODUCTIONは佳境に入る。クイーンの全作品を概括していくのだが、クイーンは時期を追うごとに作風を変えていったので、ネヴィンズはそれを第一期〜第四期に分類している。日本では新本格ミステリの作家や批評家たちが初期・中期・後期などと分類するようになっているので、必ずしもネヴィンズの分類が一般的だというわけではない。しかし、とりあえずはネヴィンズの主張につきあうためには、この分類は重要だ。ここ…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その5)
エラリー・クイーンのデビュー作『ローマ帽子の秘密』は1929年8月にフレデリック・A・ストークス社から出版された。発表当時の時代背景を考える上で、禁酒法と世界恐慌について少し知っておいた方がよさそうだ。手もとには、滅多に活躍しないが時々見返す事がある『クロニック世界全史』(講談社)という百科事典(?)がある。索引で「禁酒法」をたどると以下の年月日にヒットする。 1846年 アメリカ初の禁酒法が…
フランシス・M・ネヴィンズJr.『エラリイ・クイーンの世界』を散策する(その4)
ダネイもリーもニューヨーク市ブルックリンにあるボーイズ・ハイスクールに通ったが、その後リーはニューヨーク大学に進学し、ダネイは一足先に広告会社に就職して、コピーライター兼アートディレクターの仕事に就いた。リーは遅ればせながら映画会社で映画を宣伝する文章を書く仕事に就いた。 [原文](INTRODUCTION P.4) They met almost every day for lunch and among th…
神保町逍遙2023/07/14~PASSAGE,、羊頭書房、東京堂書店、富士鷹屋~
前回からちょうど三か月。まあ、通院が三か月おきなので、それに合わせて神保町にブラッとたどり着くというわけだ。今回は診察も会計も待ち時間が少なかったので午前中には病院を後にして、神保町に向かった。大井町からだと京浜東北線で田町駅で下車。都営三田線で神保町駅へと向かう。前回もそういう順路だったのに忘れていた。 神保町に到着すると、ちょうどお昼どきでサラリーマンでどこもごった返している。これはや…
中学生の頃、国語の課題として、読んだ本のタイトルと一行感想を付けた読書ノートを作らされた。教師に提出する事を踏まえて選んだわけではないが、やはりどこかお行儀のよい読書になりがちで、今で言えば「夏の文庫フェア」に入るような作品をよく読んでいた。高校になってからも本のタイトルを読書ノートに控える習慣は続けていたようだが、中学のお行儀の良さの反動で、太宰治や島崎藤村、芥川龍之介といった一部の小説家の…
続・ファイロ・ヴァンスの活躍した4年間とは一体いつのことか?
さて、またしてもヴァン・ダインが生んだ名探偵ファイロ・ヴァンスに関する話題である。しかも最初にとりあげた「ヴァンスの活躍した4年間はいつのことか」を蒸す返す事になる。前回の結論を以下にまとめてみた。 ・ファイロ・ヴァンスが活躍したのは、友人の地方検事マーカムの在任期間(4年間)に限られる。 ・長編全12作に事件発生の日付と曜日は書かれているが、西暦は書かれていない(少なくとも最初の4作に…
ベンスンが撃たれたのは額か、こめかみか?(「ベンスン殺人事件」)
ゆえあって、再びファイロ・ヴァンスの物語に関する話題の続きとなる。(犯人名は明かさないが、犯人を特定するための情報を引用しているので、未読の方は読まないでください。) 前回は「ファイロ・ヴァンスの活躍する4年間は西暦何年か」というトピックだったが、次なるトピックは「ベンスン殺人事件」での被害者ベンスンは「拳銃で額を撃ち抜かれたのか、こめかみを撃たれたのか」…
ファイロ・ヴァンスとは、ミステリー作家S.S.ヴァン・ダインが生み出した探偵である。かつてはエラリー・クイーンや同時期のアメリカのミステリー作家たちに多大な影響を与えた作家であり、その探偵であったが、今では諸々の理由から顧みられる事が少なくなってきた。諸々の理由とは、近年の伝記により数十年前までは信じられてきた神話の大半がデタラメだったと暴露された事と、読もうにも全12作の長編のほとんどが書店では…