メインカテゴリーを選択しなおす
フェル博士が活躍する長篇シリーズ第6作『三つの棺』では、作品の終盤になってフェル博士が「密室講義」を始める。何故?と聞かれて「われわれは探偵小説のなかにいるからだ。」と答える。それまで作中の人物としてのリアリティを体現していた存在が、それを演じていた役者にすぎないのだと赤裸々に話し出すのだ。当時としてはかなりぶっ飛んだ挿入シーンは、エンターテイメントが何事にも優先されてしまう現代でもかなり興味…
『絞首台の謎』を楽しむために、(その1)では首を切り裂かれた運転手の死体が操るリムジンが、霧がかかったロンドンの目抜き通りを疾走するシーンをgoogleマップと照らし合わせて再現してみせた。次はCarr Graphic Vol.1で指摘されている「ブリムストーン・クラブって何階建てでしょう?」という森咲郭公鳥さんの問いかけ(P.24)について、僕なりに考えてみようと思う。 何故、こんな事が問題になるかというと創元推理文…
ディクスン・カーの長篇デビュー作にしてアンリ・バンコランシリーズ第一作の『夜歩く』は新訳・旧訳あわせて何度も読んでるし、あまりに有名な密室トリックは忘れようもない。だが、第二作の『絞首台の謎』ときたら、そもそも読んでいた事すら忘れていたくらいだからどんな内容だったかも思い出せなかった、という話は書評で書いた。メインとなるトリックの「古さ」が論われ、作品自体の評価もカー・マニアの間でも低いらしい…
『夜歩く』(1930年)でデビューしたカーが、翌1931年に出版した第2作である。アンリ・バンコランを探偵に据えたシリーズの第2作でもある。これまで読んでこなかったのはおそらくかつては手元になかった事と、「カーの代表作とはほど遠い」という世間(と言っても本格ミステリーファンに限られる世間)の評判ゆえだろう。タイトルが(カーにしては)平凡という事もあるかもしれない。バンコランシリーズ第4作『蝋人形館の殺人』の…
[髑髏城へのアクセス] ジョン・ディクスン・カー『髑髏城』に出てくる髑髏城にはどうやったら行けるか。アクセスについて考える。 ライン川下り(マインツ〜コブレンツ)の地図
前回の(その17)でとりあえず完結したはずだったのだが、その際に「髑髏城の歩き方を書こうと思う」と言い添えておいた。諸事情があってずいぶん寝かしてしまったが、そろそろちゃんとまとめておかないと、もうガタが来ている僕のメモリが次々とデータを忘れてしまいそうだ。だから、この散策文を整理して「歩き方」を書く準備をしようと思ったら、最初から挫折してしまった。挫折の原因は、髑髏城の両耳にあたる二本の塔(tow…
髑髏城三階(ダイニングルーム)(第16章) いよいよ最終回。髑髏城の三階にあるダイニングルームを渉猟したら、僕の髑髏城散策も一段落だ。前回は髑髏城の最上階(四階)にあるガラス張りの丸屋根の部屋を詳しく見て回った。そこから下の階に降りるところから始めよう。 (原文)[第16章P.206] The dining-room, as I have already indicated, was on the…
(今回も、多少ストーリー後半のネタを割ります。犯人を直接示すようなネタバレではないが、前もって知っておくとストーリーの面白さを損なう可能性があるので、未読の方は読まないで下さい。) 髑髏城一、二階(中央広間〜回廊)(第16章) 引き続き、髑髏城の大髑髏の内部を散策していく。前回は一階と二階の描写をたどって第16章に続いて第18章にワープしたが、再…
(今回も、多少ストーリー後半のネタを割ります。犯人を直接示すようなネタバレではないが、前もって知っておくとストーリーの面白さを損なう可能性があるので、未読の方は読まないで下さい。) 髑髏城2階の回廊(第8章) いよいよ、今回から髑髏城の大髑髏を散策していく。長く遠い道のりだったが、これで僕の髑髏城散策も大団円だ。今回で完結するかと思ったが…
今回はまたまた寄り道。例の「マイロン・アリソンは、はたして転落したか否か」を考える。 すでに僕の髑髏城散策では「転落していない」という結論が出ている。旧訳は髑髏城の胸壁、というより髑髏城の回廊の上部の狭間胸壁から城壁(30フィート)の下まで落下している。一方、新訳は、同じく回廊の上部の狭間胸壁から回廊の下すなわち城壁の上に落下している。しかし、原文をよくよく読み込んでいくと、回廊の上部には胸壁…
(今回も、多少ストーリー後半のネタを割ります。犯人を直接示すようなネタバレではないが、前もって知っておくとストーリーの面白さを損なう可能性があるので、未読の方は読まないで下さい。) ダンスタンの回想(第13章) 今回は予告通り、別荘の客の一人ダンスタン卿が人妻イソベル・ドオネイと密会を企て、髑髏城まで赴いてアリソンの悲劇に遭遇した時のことを回…
ミステリな建築にして建築なミステリの『髑髏城』を散策する 前回の終わりで、次は「ダンスタンとイゾベルとの逢い引きの場面」と書いたのだが、状況が変わった。ついに髑髏城中毒を標榜する方の本が出版されたのだ。その名も『ミステリな建築 建築なミステリ』(篠田真由美)。もちろん髑髏城は、この本の中で紹介される建築にしてミステリの一つに過ぎない。ただ、僕自身が『Yの悲劇』あるいは『グリーン…
後追いになるが、目次と内容についてまとめようと思う。 自分でも驚くくらいに長々と書き綴ってきたおかげで、自分でも何がどこに書かれているか確かめるのが難しくなりつつある。もし奇特な人がいて、『髑髏城』を再読する際にこの文章を読んでみようと思っても、いったい何がどうなっているのか分からなくなると思う。まだ、散策は完結していないのだが、書き継ぐ度に目次の方も書き足していく事にする。
(今回以降は、多少ストーリー中盤のネタを割る事になる。犯人を直接示すようなネタバレではないが、前もって知っておくとストーリーの面白さを損なう可能性があるので、未読の方は読まないで下さい。) 前回はついに髑髏城の外観を目の当たりにする事ができた。もちろん僕個人の目に映った髑髏城である事を断っておく。僕にはこう見えた(読めた)に過ぎない。今回は髑髏城の内部を探索す…
ついに(その10)になってしまった。こんなに続ける事になるとは当初は思ってもみなかったけれど、カーの原文を手探りしながら、調べ物しながら、図を書きながらと、いろんな事に手を出していたら、こんな始末になってしまった。特に今は図を書くのに時間がかかっている。いよいよ今回で髑髏城の外観図が完成するからだ。いままで仕事でもパワーポイントはずいぶん使ってきたつもりだけれど、体裁のいいグラフや図を駆使すると…
前回の(その8)で仕切り直しをした。そこで確認したのは「マイロン・アリソンはどこにも落ちていない」という事だった。そこで、再び城壁内部の通路と階段をぐるりと巡った終着地courtyard(中庭)にたどり着く事になる。そこから散策を再開しよう。 ところで、今、非常に後悔しているのは、(その7)の終わりに髑髏城の城壁上部を俯瞰した図を出してしまった事だ。もちろん、あの図を出す事で、城門からどのように内部の通…
緊急事態だ。 (その7)で僕らは髑髏城の正面入口である城門から城壁の内部に入った。そのまま通路と階段を経巡り、ついには城壁の屋上とでも言うべき中庭(courtyard)にたどり着いた。そして、そこで見たのは狭間胸壁(battlements)への階段であり、回廊はまだ見あたらない。その階段を登ればやがて回廊は見えてくるのだが、肝心の回廊の屋根にあたる位置に別の狭間胸壁など見あたらないのだ。では、いったい炎に包まれたマ…
(その6)で城の正面の城門を通って幅の広い石敷きの通路(a wide passage of stone)に出た。城門を入ってすぐ右手には低いくぐり戸(a low door)があって、中は番人の詰所になっている(はず)というところまで来た。謎の人物が城壁の上で持っていたたいまつが通路に放り出されていたのをホフマンとフリッツが見つけたのも、この場所だ。ここには城門の上から溶かした鉛を敵の頭上に流す装置があり、鉄製の桶を火にかけるために、…
小説としての、ミステリとしての『髑髏城』は、創元推理文庫から出版された旧訳(宇野利泰)と新訳(和爾桃子)とを立て続けに読む事で一段落ついた。感想も書いた。残ったのは原書だ。神保町の羊頭書房で見つけ出した『CASTLE SKULL』は、カーが最初に出版した1931年当時のものでは当然ながらなく、1947年にPOCKET BOOKSから出版されたもの。ほぼ日本の文庫サイズのペーパーバックは劣化していてボロボロだ。読み込もうとしたら崩…
ジョン・ディクスン・カーの作品をこよなく愛するミステリー好きが、日本国内にどの程度いるのか分からないけれど、確実に存在する。かくいう僕がその一人だ。昔から長編・短編をあわせて著作リストを当時のワープロに入力して印刷し、一つ一つに購入マークを付けたり、読了マークを付けていった。印が増えるのが楽しみだった。というのもカーの著作は長編だけでもかなりの数にのぼり、リストを作成した数十年前には絶版となっ…