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「どうだい、千歌音さん。千涯(ちはて)さんといったっけ?君の母上の仇をとってあげたんだよ。褒めてほしいな」千季さまが鐘にとらわれているのが、せめてもの幸いだわ。千歌音はこの事態にも、そんなことを思い及んでしまう。かつての姉巫女に知られたくはなかった。汚された身で生まれた自分が、世界を救う清純な血筋の月の巫女を名乗るという矛盾に、千歌音は耐えられなかったのだった。めまいがしそうになってふらつく千歌音を支えながらも、姫子が言葉を投げつける。「その男は、おろち衆一の首だったはず。味方の寝首を搔くとは、あなたがたには組織の団結がないの?」「なあに、言ってんだか。だまし討ちは僕たちの十八番(おはこ)。おろちの同胞(はらから)?闇わだから生まれたきょうだい?同じ邪神を崇める信徒?そんなもの、僕にとっちゃあどうでもいい...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(八)
「あらら、外れちゃったぁ。お姉ちゃん、あんがい、すばっしこいんだねえ。僕、びっくりしちゃったあ」姫子に抱きかかえられるようにして立ち上がった千歌音。とっさのことで、すこし左足を挫いてしまったのか、びっこを引いている。痛みと苦みがないまぜになって、千歌音は顔をしかめた。まさか、あんな年端もいかぬ男の子が?!にわかに信じがたいが、姫子の言葉でそれは現実になった。「おろち衆も人手不足なの?あなたみたいな小僧を使うなんて姑息ね」「若いからって侮るほうが馬鹿なんじゃないの」「まあ、そうね。すっかり、だまされちゃったじゃない」そうはいいながら、姫子はすっかり闘気をあらわにしているのか。手をかざして召喚した巫女の御神刀をすぐさま抜いて、鞘は袴の帯にさしている。様子見の姫子にしては珍しいが、相方の千歌音が迅速に動けないと...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(七)
ツイッターがあると、お気に入り作品の話題急上昇ぶりが如実にわかるものです。しかし、過去、ツイッターのトレンド入りなんてことがあったでしょうか。姫神の巫女がYahoo!ニュースになったときもびっくらこいたものですが。神無月の巫女がラーゼフォンと一緒にトレンド入りする令和……pic.twitter.com/Tv9dhUURye—きらりん(@kirarinmaiyuyu)January14,20232022年10月、拙ブログでもしつこくプッシュしている百合の金字塔作品「神無月の巫女」が、にわかにSNS界隈で騒がれだしました。例年、十月には神無月祭りと称して自発的にファンがお祝いのファンアートを発表したり、感想を述べあったりの活動がみられるのですが。それとは違った、もっと熱量の濃い動きだったのです。それは同時期に...神無月の巫女、なぜかガノタ界隈で話題にッ?!
「ごめん申す。ちと宿借りを願いたいのだが――」梅雨時の雨上がりの境内は、執拗に葉がはりついてなかなか掃除しづらい。丹念に参道を掃き清めていた姫子と千歌音、おとないのその声に同時に振り向く。あまりにも揃っていたものだから、おかしくて、ふたりで目を合わせ、くすりと笑ってしまった。祝詞合わせでなくとも、箸の上げ下ろしまで、息ぴったりになったこのふたりである。大神神社に賓客(まろうど)が訪れることは、この頃、珍しくない。この二人の巫女を拝みたくて訪れるという輩もいるくらいなのだ。馴染みの客人が訪れると、真っ先に姫子の居場所を自分に問われるのが、千歌音にはすこぶる嬉しかった。ふたりで居ないのが珍しがられるのだ。風来坊の姫子が居なくなったら、探し当てられるのは自分だけ。この神社では誰もがそう認識している。そして、姫子...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(六)
巨神(おほちがみ)討伐をはじめてから、千歌音は姫宮家本邸を離れて、姫子と共に大神神社に宿直することになっていた。起居を共にすることで、姫子と千歌音の巫女として能力は、よりいっそう高まった。辛く厳しい戦いの日々であったが、姫子と過ごす時間が増えることは、千歌音にとってはおおきな喜びだった。ときは七月七日。七夕祭りで忙しい時節である。大神神社の境内にも、めずらしく色鮮やかな短冊のついた笹竹が飾られていた。神社の主はほくほく顔で男児を抱え、あやしては散歩をしている。ふだんは静謐で辛気くさいはずの神社の建物も、どこか乳くさい匂いが流れているのだった。毎日、乳がゆをつくるのが老いた主の日課になった。「今年のお盆は賑わしくなりそうじゃの。これも巫女どのの働きのおかげじゃて」一時期、骨折して寝たきりになっていた大神壱之...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(五)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十八)
いや、ほんとうにどうしてそんなことを口走ってしまったのだろうか。リリアン女学園のことなんて。まるで、聖の口から過去を引きずり出そうとしているみたいだ。だめだめ、そうじゃない。今はあの久保琹さんとのことは、一時保留だ。「どうしてって、そのね…図書館の司書さんで出身者がいるのよ。体育館の裏側に、それはみごとな桜並木があるって」とっさについた嘘だが、あながちまちがいではない。リリアン女学園の体育館の裏側に目にも絢な桜並木があることを教えてくれたのは、リリアンOGではないあの築山みりんだった。「なぁんだ、そっか。そうだよねぇ」聖は頭を掻いて、あぐらを組んだ足をさかんに揺すぶっていた。聖からほど遠い人物を設定したのがよかったのだろうか。もし、それが池上弓子であったならば、景はまたしても、入院中の彼女の容態について思...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十八)
****「日輪光裂大撃破ァアアアアア――ッ!!」武者姿の神機タケノヤミカズチの雄たけびが響きわたり、おろち衆の駆る神機がからくも退散する。雲をかき分け一直線に貫く光りの御柱が昇り、巨神(おほちがみ)はあっけなく空へとかき消えた。陽の巫女、月の巫女両名共に会心の笑みがやどる。背負われていた赤子は、疲れたのか、満足したように眠りに落ちたのだった。剣の巫女としての資格をやっと得た千歌音と、すでに先輩格の姫子によるおろち神退治は、その後、つつがなく進んでいた。巨体と思えていたあの魔神も、姫子といっしょにいれば、畏れることなどなかった。姫子とともに、からだを鍛えて、並外れた跳躍力と膂力とを身につければ、山のような巨神(おほちがみ)であっても、その動きを封じることはできたのだ。姫子が言ったように、あのおろち神たちは、...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(四)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十七)
訊ねなきゃ、そう、きょうはあれを訊ねなきゃいけないの。だが、あのことを思ってはいるのに切り出すタイミングがむずかしい。きょうの聖はあまりに楽しそうで、その気持ちに水を差すのもためらわれる。それに彼女はきょう、明日で大事なレポート製作を控えているのだ。それに集中できるような環境を整えてやるのが、友人としての務めではなかろうか。でも、まだ関係が浅いうちならばいいが、どんどん深みにはまっているというのならば早めに足を洗った方がいいと忠告しておくのもいいだろう。そんな気持ちのせめぎ合いがあって、景はもどかしいところをいったり来たりしてばかりいる。「ね、景さん。このレポート終わったらさ、お花見に行かない?」「…お花見って桜よね?」「もち。他に何があるの?」「ふだんから、我が家のお花見は梅と決まっているの。加東家の家...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十七)
「その覚悟やよし。おぬしの望み叶えてやろう」「ほんとうに?やったぁ!」「ぬか喜びはまだ早い。さて、その代わりに供物が必要だ」「あ、ごめんごめん。さっきね、虫は鳥にさらわれちゃって。そうだ、この賽子(さいころ)はどうかな?僕の昔からのお気に入りでね、象牙づくりだからわりと貴重品なんだよ」またしても風が吹きつけてくる。まるで大きな巨人に鼻で笑われたかのような。「虫を失っただと。何を言う。貴様はまだ立派な虫をそこへ隠しているではないか」「…え?虫なんてもう一匹もいな…――ぐェッ!?」うっかり巾着の底にもう一匹入れておいたのだろうか?いぶかしみつつ懐に手を入れんとしたせつな、喉ぼとけの下あたりに鋭い痛みが走った。空中に真一文字になった剣、それに首を串刺しにされていたのだ。「何を寝ぼけておるのだ。おぬしはここに、立...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(三)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十六)
「そう。二羽を同じ鳥かごで育てるとね、声質がそっくりになる。しかもハモってるんだね」「それはとても美しい声でしょうね」「ところがね、一羽がいなくなるとどうなると思う?」「啼かなくなるの?」「いんや、それが違う。残された一羽が、別々の声で啼き出すんだな。鳥かごの隅に寄っては雌の声で啼き、支え木にぶら下がっては雄の声で誘う。そのうち餓死するか、自分の羽毛を抜きはじめたりする。小学生だった私はそれが気味悪くてね。夜もおちおと眠られなくなって…」たくみに言葉を切った聖は、景の顔をのぞきこんで、で、どうしたと思う?と尋ねた。景がその答えを畳み掛けるように知りたがっている表情を、さもご満足げに眺めてから、聖は両手でふわりとしたボールを包んでいるようなしぐさをしてみせた。しかし、景にはそれがあたかも、なにかを締め潰して...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十六)
【目次】神無月の巫女×京四郎と永遠の空二次創作小説「君と舞う永遠の空」
神無月の巫女二次創作小説第二弾を目次再構成、やや加筆修正してお届けします。アニメ京四郎と永遠の空放映記念に書いた短編、全六話。掲載当時はアラビア数字で、リリカルなのはアニメ版にならったact.1などとナンバリングしていたのですが。神無月の巫女はやはり和風ファンタジーですからということで、漢数字にあらためております。一部のサブタイトルも修正してあります、よしなに。再構成にあたり、神無月の巫女×京四郎と永遠の空二次創作小説というシリーズ系列のコラボSS扱いとしましたが、実際は「京四郎」のキャラは登場しません。ネタ元はもちろん、原作者介錯先生のお遊びブログ「宮様日記」からなのでした。【前書き】最初にお読みください第一話:ふたりだけの鑑賞会第二話:君と立つ初舞台第三話:不意に訪れた歌姫第四話:漫画家のほんとうは第...【目次】神無月の巫女×京四郎と永遠の空二次創作小説「君と舞う永遠の空」
ヒメコサマ――その女神の名はこの古井戸の守り神。その名を唱えさえすれば、どんな罪だろうと祓われる。そう教えられてきた。命にも等しい宝ものを犠牲にさえすれば。「ひめこさま、ひめこさま!この僕を生まれ変わらせてください!僕はあの家から逃げるんだ、親の言いなりになんか生きたくない!好きなひとを傷つけたくないから逃げるんだ」ごぉおお。たちまち強風にあおられて、手の中が空っぽになった。これを釣瓶に落として、井戸に奉納する算段だったのに。あ、と思う間もなかった。一羽の夜鴉(よがらす)が飛んできて、なけなしのお供え品を奪われてしまったのだった。とっさのことで悔しまぎれの声も出なかった。鴉の胃袋におさまった虫は、その胎内であっけなく命を閉じるだろう。たとえ鴉自体が自由にどこへ行こうとも、それは虫みずからの意思でもない。た...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(二)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十五)
***佐藤聖が下級生にレポートの課題を肩代わりさせているのではないか──加東景のかねてからの淡い疑惑は、すぐに解消してしまった。聖はまたしても景の部屋に転がり込んできた。理由は、もちろん、仕上がらない読書感想文の執筆なのである。厄介者だと思っていた相手なのに、いざこうして日参してくれるとなると、やはりそれなりの愛着も湧いてくる。まあ、餌付けしてしまった野良猫のようなものか。逆にこの2LDKの部屋にふたりいるのが当たり前になっていて、聖が帰ってしまうと、とたん寂しさに襲われてしまうのだった。大家の池上弓子が入院してからこっち、独り暮らしの侘しさを切々と噛みしめていたから、賑やかになるのは嬉しかった。しかし、景にはどうしても聖に確かめたくてたまらないことがあったのだ。築山みりんの残したあの衝撃的な言葉。あれは...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十五)
★魔法少女リリカルなのは二次創作小説「冬のタルト」の再構成★(2023.07.09)
魔法少女リリカルなのはシリーズの二次創作小説第三弾「冬のタルト」について。このたび、わかりやすく目次を再編成してお届けしています。中身に加筆修正はしていませんので、リンクは従前のままにしています。ブログ初期のころは、ちょうどアニメ第三期のStrikerSが終わったあと、ViVid開始の2009年まで、ヴィヴィオを含めたなのはさん・フェイトさん百合夫婦のホームコメディ路線SSがわりとファンサイトでもあったのではないでしょうか。私も行きつけの親しいブロガーさん経由で知った大手同人サークルの字書きさんのSSをよく読んでいた記憶があります。リリカルなのはのファンサイトはそれこそ膨大にあって、当時はすべてがすべて読み切れない程でした。躍動的な魔法バトルシーンの描写については私はすごく苦手でしたので、うまく書かれてい...★魔法少女リリカルなのは二次創作小説「冬のタルト」の再構成★(2023.07.09)
魔法少女リリカルなのはStrikerS二次創作小説第三弾「冬のタルト」の目次頁です。2009~2010年発表の中編SS,なのはママお手製デザートをめぐるヴィヴィオにおこった小事件を描いたもの。拙ブログでは珍しく、あまりヘタレではないフェイトちゃんが登場します。前書き:最初にお読みください。第一話:おかえりなさいの後のお約束第二話:忘れられた習慣第三話:甘い罠の仕度第四話:彼女が無理をする理由第五話:抜けがけのデザート第六話:冬のタルト第七話:デザート・パニック第八話:救いの主第九話:母親、失格第十話:しくまれたデザート第十一話:誓約の娘第十二話:痛みのおすそわけ第十三話:黄金の執務官、名裁き第十四話:ママごとはじめの記念日第十五話:思いがけない贈り物第十六話:ただいまの前のお約束後書き:ご読了ありがとうご...【目次】魔法少女リリカルなのは二次創作小説「冬のタルト」
★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」第一話 更新★★★(2023/07/09)
********神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」第一話:虫愛でる君の願い自分は虫が大好きだった。虫は神さまの使いなのだ。千年以上も昔からあのすがたを永遠に保ち、ときには甲羅のようなに頑丈で、ときには滑らかで節くれだったその細長い肢体を伸ばし、枝のあいだを縫い、草むらを闊歩する。さらには土を耕して豊かにしてくれもする。虫はやさしい。ひとのように腹が減らない限りはむやみな殺生をしない。虫は貪ることをわきまえている。蜘蛛だって、網にかかった獲物を必要以上に食い漁ったりはしない。蜜蜂は夫婦花(めおとばな)を仲立ちするために、花粉をからだに塗りつける。花は虫を養うために蜜をあふれさせる。虫を慈しめば、おのが種は生きながらえることを知っているからなのだ。この自然のいのちはすべて繋がっているのだ。([神無...★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」第一話更新★★★(2023/07/09)
***ある晩夏の月明かりの夜、人気のない古井戸に小さな影がさした。この場所は、大好きな母親に教えてもらった場所だった。女ものの袴に小袖ならば、誰にも怪しまれはしなかった。なにせ自分は見目うるわしく、聡明そうで、いかにも神聖なこの杜に入り込んだとて、野良猫よろしくつまみ出されたりはしないだろうから。だが訪れてみたはいいが、いざどうやってお祈りの作法をしたものやらわからない。子どもは欲しいと決めたらまっしぐら。考えなしに、勝手に走り出してしまう。なにか大事な手順があったはずだが、思い出せない。ただ、ここが願事(ねぎごと)を叶えてくれる場所だということを聞きつけて、夜を忍んで辿り着いただけなのだ。いや、導かれたといったが正しいか。小水にたったおり、ふと何気なくひらひらと舞う蝶を追いかけてきてみれば、おのずと足が...神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(一)
「お母さんがね、よく言っていたの。お月さまはみんながいずれ辿り着く場所だって…。そこには悲しさがなくて、優しさだけがいっぱいあるところなんだって」おろち討伐が佳境を迎えつつある、大正十二年の夏ざかり。姫子と千歌音の住まう大神神社に、おろち衆が牙を剥いて襲い掛かる。そして、ふたりの巫女を襲う絶望の瞬間が――…。神無月の巫女二次創作小説第十弾「夜顔」シリーズ十六の章。(2008年7月ごろ構想2023年7月8日より第十六章掲載)【神無月の巫女二次創作小説「夜顔」シリーズ(目次)】神無月の巫女二次創作小説「夜の狽(おおかみ)」(〇)
★★★神無月の巫女二次創作小説「最高の晩餐」の再構成★★★(2023.7.2)
拙ブログの神無月の巫女二次小説記念すべき第一作「最高の晩餐」について。スマホからでも読みやすいように、各話に直リンクの目次頁を設けました。拙ブログ準備段階から書き溜めていた初期作の一つで、わりと思い出深い作品だったりします。けれど、今からみると、なんだこのサブタイトルは!!!って賢者モードでつっこみたくなります。が、例によって若気の至りということでそのままにしてあります。なんと初出は2008年3月頃。この作品、当時、著名な神無月の巫女の二次創作サイト運営者さんからもコメントを戴いていました。私は字書きさんどうしとは競合する可能性もあるのと、感想の送り合い褒めあい合戦で時間を奪われるので、どの方とも失礼ながらあまり深くお付き合いしなかったのです。自分が欲しい感想がこなかったら、心外だと思われる方も多いみたい...★★★神無月の巫女二次創作小説「最高の晩餐」の再構成★★★(2023.7.2)
拙ブログの神無月の巫女二次小説記念すべき第一作「最高の晩餐」をお届けします。姫子のつくってくれたあるものがきっかけで、千歌音はある人物との対戦を思い出す。ふたりが勝負に賭けたものは?神無月の巫女とFate/staynightのコラボ。スマホからでも読みやすいように、各話に直リンクの目次頁を設けました。拙ブログ準備段階から書き溜めていた初期作の一つで、わりと思い出深い作品だったりします。けれど、今からみると、なんだこのサブタイトルは!!!って賢者モードでつっこみたくなります。が、例によって若気の至りということでそのままにしてあります。内容にほとんど変更はありません。***前書き:最初にお読みください。第一話:最悪─疑いの味─第二話:最初─はじめてを貴女に─第三話:最奥─ふたりだけの試食会─第四話:最大─巫女...【目次】神無月の巫女二次創作小説「最高の晩餐」
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十三)
築山みりんは空に向かって、両腕を挙げ、ううんと大きく伸びをした。この長身がそのポーズをとると、まるで空へと突き出たひとつのタワーのようであった。「あたし、きっと、琹さんに嫉妬していたの。夢を諦めないで、一筋の道に進んでしまった琹さんが心底うらやましかったんだわ」そうか、たしか、この人は高校時代からの夢やぶれてしまったのだ。ほんとうは今ごろ、女子バレーの全日本代表としてオリンピックに出場しメダルを獲得する、という夢に邁進していたはずなのだ。あるいは彼女の年ごろならば引退して、セカンドキャリアを考えているころか。図書館司書の教育係としても厳しくも有能なのだから、スポーツ選手団の指導役としてもすぐれていただろう。「私も羨ましいです。自分には高校時代に周囲に反対されても貫きたいような願いなんてなかったから。だから...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十三)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十二)
築山みりんは、その去っていく背中を射抜くように見つめている。「そう、あれがうわさの佐藤聖…」その低いつぶやき声にはっとして、景は顔を見上げた。どう考えても、出会いを喜ばしく思っている顔つきではなかったからだ。そして、景にとって、佐藤聖という人物に初対面で魅せられなかった人物は彼女がはじめてだった。それほど、リリアン女子大でも聖は人気者だったのだ。なにせ、高等部からの進学者も多いのだから。本人はなぜか飄々としているのだが。「築山さんはご存じなんですね、彼女のこと」「ええ、もちろんよ。だって、延滞者リストになんども載っているものね。向こうは口うるさい図書館職員のことなんて覚えていないんでしょうけど。ほんと、うちにとっちゃ、いちばん来て欲しくない利用者よね。借りたものを期日までに返さない人って、ほんと傍迷惑。死...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十二)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十一)
「…景さん、こんなとこで何やってんの?空き缶拾いのボランティア?」拾いあげた缶を手渡しながら、佐藤聖はあからさまに不審なまなざしを加東景に、ついで離れている長身の女に向けた。怪訝そうな顔をしているはずが、彫りの深さゆえかなんだか思索家のような面影がある。美術室にある石膏像のように、うっかり描きとめておきたくなるような。いつものちゃらんぽらんさとは、また別の色気が乗った顔でもある。そうだ、こいつは女とみれば、かならずこういった惚れ惚れしたくなる顔をする。男に対しては鉄面皮なのに。「聖…サトーさんこそ、なんでこんなところにいるの?」「なに言ってんの。私、ここの大学生だし。キャンパス内うろついていても、同級生に疑問視される謂れはないんだけど?春休みに学内に出入りすんのに許可でもいるの、このガッコ?」よくよく考え...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十一)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(十)
景はそのみごとなサーブ二本、その美しいフォームからくり出された投射物の軌跡に圧倒され、我知らず拍手をしてしまっていた。さきほどその手で襲われかけたというのに、なんとものんびりしたものである。しかし、人間の憎悪も悲哀も、歓喜もすべてこのようなものではないだろうか。すべて手のひらをひっくり返したように、握手を求め、頬を打ち、そしてまた、手を握ろうとする…。ぐるぐると肩を回しながら、築山みりんが椅子の側に戻ってきた。きれいさっぱり、憑き物が落ちたような顔つきをしている。いつもの、といってもここ最近は見られなかった、さばさばした姉御肌ふうの表情である。「あー、すっきりした。やっぱ、こうでなくちゃね。むしゃくしゃしたときは」腰に両手をあてて、うんうん、と大仰にうなずく。「あたしね、たまにここで練習してるの。昔を忘れ...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(十)
ネット上をさまよっていると、紙のカレンダーにはない記念日が溢れています。5月23日は何の日?なんとキスの日。日本ではじめてキス場面(もちろん男女の)がある邦画が封切られた日なのだとか。そして、その日は、ツイッター上でもこんな話題でもちきりなのでした。これを見たのは、神無月の巫女の原作者先生のリツイートからなのですが。本日、5月23日は「#キスの日」ということで『#神無月の巫女』をご覧になってみてはいかがでしょう??OP&ED映像もYouTubeにて公開中?Re-sublimity/KOTOKOhttps://t.co/xHp3xQ4lCXagony/KOTOKOhttps://t.co/OhSLqrkM9b#KOTOKOpic.twitter.com/JSOqKCGF0a—NBCユニバーサルANIME×M...キスの日、神無月の巫女がなぜか話題に
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(九)
「築山さんも、久保さんも恐いんです。ご自分たちが穢れきった関係だから、琹さんの清らかな存在が側にいることが疎ましいんです。だから、貴女たちは琹さんをこの世界に呼び戻そうとしているんです。ふしだらな間柄を断罪されないために、糾弾されないために」自分はなんということを口走っているのだろう。妙齢の独身女と妻帯者の男。しかも子どもがうまれたばかりの男が同僚の女性と不倫をしている。その疑惑をあけすけに暴き立てようとしているのだ。しかし、そうでもしなければ、築山みりんは久保琹について、ことごとく爆弾を投げつけてくるだろう。投げられる前にこちらから撃つに限る。しかもなるべく、相手に致命傷を与えられるような話の釘を。あちらが聖をも巻き込みかねない久保琹のなんらかのスキャンダルをネタにしているというのならば、こちらも弱みを...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(九)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(八)
「築山さんにふたつほど言いたいことがあります。まず、ひとつめ。私は久保琹さんの過去にはまったく興味がありません」久保琹の過去が暴かれるということは、畢竟、あの何らか関わりがあったであろう佐藤聖についても口さがない人びとの俎上に乗せられてしまうということだ。そんなことはあってはならない。今になって気づいたが、景が久保琹についてかたくなに言葉を開けようとしないのは、琹本人を守りたいだけのためではない。その関係者であるはずの大切なあの友人を好奇の目から守りたいがためだったのだ。「その人が過去にどんなやましい事実事象を抱えていようとも、現在のその人が誠心誠意こめて人生を歩んでいらっしゃるのならば、むやみやたらに掘り返すべきことではありません。私は久保琹さんとすこしだけお話しただけですけれど、立派なシスターになれる...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(八)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(七)
「加東さんが話したくないのならいいの。あたし、どうせ知ってるもの。妹さんのことなんでしょう?」景がさっと顔色を変えたのを楽しむように、築山は流し目を送った。「私と久保くんが大学の先輩後輩だったってこと忘れていない?それに、あたし、彼女のこと知ってるのよ。久保琹さん、よね。会ってお話したことはないし、久保さんに紹介されたわけでもないけれど、よく知ってるわ。だってね、私の姪っ子が彼女と同期だったんですもの」景が思わず目を見はった。自分がかたくなに口を閉ざせば守っておけると信じたものは、まったくの無駄な行いだったのだ。では、この次にすべきことはなんだろう。琹さんの貞節なる生活を脅かされないためにすべきことは、この人にお願いしてそれを言いふらさずにしてもらうことだろうか。しかし、そのためにどんな条件を持ち出されて...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(七)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(六)
こうなったら腹をくくってやれ。景は肩にかけた鞄をやおら掛けなおすと、真正面に向き直った。「私にお話があるんですね。よろしければ場所を変えていただけませんか」築山はかすかに微笑んでいた。待ってましたと言わんばかりである。大人らしい余裕の笑顔といったところか。身長差が三十センチ近くも開いた二人はまるで大人と子どものようだが、ものに動じないふてぶてしさがよけいに、景との落ち着きの差になって表れていた。「いいわ。私もそのつもりだったの。いらっしゃい、こっちよ」築山はおもむろに景の手首を握ると、そのまま歩き出した。導かれるままに、スタッフが出入りする裏口の扉を抜け、雨除けのない通路を伝い、広い中庭を後にして、二人が辿り着いたのは生協の食堂が入った建物のすぐそばにあるテラスだった。春分の日が近いせいか、午後五時を過ぎ...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(六)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(五)
****三月も下旬ともなると、学生たちはみな、春のバカンスへとしゃれこむせいだろうか。リリアン女子大学附属図書館のカウンターに、人が列をつくって立ち往生するような事態もない。仮に、二、三人を待たせたとしても、すでに景は難なく対応を済ませてしまうことができた。その日の図書館での出勤は夕方五時までだった。すでにロッカーで着替えを済ませ、鞄を肩にかけた景の仕事の締めくくりは、自分の名前の書かれたタイムカードを押すことだけだった。だが、その日、二、三回繰り返しても、タイムカードは異常な音を発して押し戻されてくる。カードを握りしめたまま、困惑していると、ふと頭上から声が降りてきた。「タイムレコーダーが壊れたのかしら?」仰ぎ見たその上にあったのは、あの築山みりん女史の顔。指先を紙がすべった感触が走ったかと思うと、景の...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(五)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(四)
「いえ、別に。そう思っただけなの」質問のやり先をひっこめる。トクガワさんは一瞬にして表情をほぐした。礼儀正しい後輩顔になる。さっきの攻め顔と、こちらのおとなしめの甘えた声の貌と。どちらが彼女の素なのだろう。「もしや、そこなるお姉さまはリリアン女子大の方でしょうか?」──…お姉さま!!うわ、お姉さまだって!!嬉し恥ずかし、加東景。成人式を迎えてはいるが、いまだかつて、そんな呼ばれ方をしたことなぞない。リリアン女学園の幼稚舎から純粋培養されたお嬢さまがたがエスカレーター式に進学するリリアン女子大とはいいながら、大学キャンパス内ではスール制度などはなく、お上品言葉などが不文律で飛び交っているわけでもない。ましてや、あのサトーさん、お嬢さま学校出なのに、からきしそんな気配もないからして。いったいどこの女子校出身者...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(四)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(三)
「トク…いえ、貴女、たぶん女子高生でしょう?その年でそんなものを読みこなすなんて凄いと思って」「そうですか?」「そうよ。私、リリアン女子大の米英文学学科なんだけどね。それでもその本はなかなか読みすすめられたもんじゃなかったの」彼女の片手には英和辞書はない。ということは、この子、英語の読解力はかなり高い。生意気ざかりではるが、それなりに頭はいいのだろう。才を鼻にかけるあまりに、ひとと衝突してしまう危うさを秘めた彼女に、景はますます関心を深めた。「小説ってその登場人物の行動の裏側にある思考が読みとれないと、楽しめませんものね。私はなりきるようにしています」「なりきる?」「その登場人物のそれぞれを自分で演じてみるんです。その人がその場面で見てるもの、聞いたものを想像してみたり。じっさいにおなじ行動をとってみて、...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(三)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(二)
****都立病院行きのバスの扉から吐き出された人は少なかった。乗り込んだバスは、あいにく、一席しか空いていなかった。加東景はその相手と相席になった。降りるのは停留所を三つか四つ経過したところ。すこぶる健康体の景ならば、相手かまわず、腰を下ろしたりはしない。なにせ、行き先が行き先だけに。父親の看病をしたことがある彼女だからこそ、病を得た者が腰を下ろす場所を欲しがっているのは痛いほどわかるのだ。けれども、彼女をその最後の空席に引き寄せたのは、十代の女の子だったからだけではない。その手もとに開かれたものだった。イヤホンを耳に入れて、英語がびっしり書かれた本を読んでいる少女。どこかで見たことのある顔だと思った。いったいどこだったのだろう?それは雨の日だったような気がする。さて、彼女はこんな地味な髪型だったかしら。...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(二)
☆☆☆マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」掲載開始☆☆☆(2023/04/01)
********ひさびさにマリみての二次小説を更新します。登場人物紹介頁を目次に設けています。マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」第一話:いたずらな人間観察──人間の中身は、その人が読む本の質で決まる。…なんて、しゃちほこばったことを誰が言ったのだろう。本なんてものは、自分を装うための小道具にすぎない。私たちが共通のグループに属することを、そこに服従することを示すための、格好のアイテム。([マリア様がみてる二次小説]→「いたずらな聖職」(目次)→「「プライベートAttacker」」)********マリア様がみてる二次創作小説第三弾、長編シリーズ「いたずらな聖職」の第七部。またしても春の課題に追われている佐藤聖。その彼女に、ゴーストライター疑惑がもちあがる…。https://blo...☆☆☆マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」掲載開始☆☆☆(2023/04/01)
マリア様がみてる二次創作小説「プライベート Attacker」(〇)
マリア様がみてる二次創作小説第三弾「いたずらな聖職」シリーズの第七部をお届けします。またしても春の課題に追われている佐藤聖。課題製作の場を提供することによって、共同生活がはじまることをひそかに喜んでいる景。だが、その彼女にゴーストライター疑惑がもちあがる…。すでに第六部「未来の白十字」を発表しています(2015年5月~9月ごろ投稿)が、その前にあたるエピソードです。第七部扱いとしました。序盤の書き出しが不足していてかなりの年数放置していたのですが、マリみて再熱が高まったので、これを機会に完成に向けて発表していくことにしました。お読みになりたい方はブックマークの「創作小説ご案内」→「マリア様がみてる二次創作小説」→「いたずらな聖職」→「目次」より、お入りください。各回のサブタイトルが表示されます。(2023...マリア様がみてる二次創作小説「プライベートAttacker」(〇)
「鈴は笛にはなれない。鈴はきれいな愛らしい音を出すけれど、笛みたいにいろんな唄を吹けるわけではないわ。千の歌、千の音。千歌音という名前には、ひとつに定まらないという思いがこめられている」「ひとつではない…」「そう、わたしたちは巫女だけど。巫女だからといって、他人に聖者であることを求めてもいけないの。そんなこと言ってたら、みんな窮屈じゃない?」ああ、そうか。千歌音はいま腑に落ちたのだ。自分は他人が許せない。不都合で、不完全で、不愉快で、不足の、不利不明で。だが、哀しいかな、人とはそういう生きものだ。人間が理解できないから、許せないのだ。けれども姫子は違う。なぜ、この人がすべてに優しいのか。甘いのではない。受け入れなければ、自分の居場所がなくなってしまうからだ。月がひとりきりで輝いているのではないように、星屑...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(二十五)
見上げていた月は、今宵は叢雲に覆われ気味で明るくはなかった。あの夜の月を、これまで、こうしてふたり並んで眺めたことが、何回あったことだろうか。「苦も晴れてのちの光と思うなよもとより空に有明の月──。誰が詠んだかご存じ?」「夢窓国師ね」「さすが、千歌音。月の大巫女様仕込みの教養は伊達じゃない」「悩みがとれたから空がきれいに見えるんじゃない。もとから空には明るい月があったのに、見えなくしていたのは自分の気持ち…なのね」「夜空には、いつも神さまの目が開いている。あの煌々とした光りは、ときにまばゆくなり、細くなり、またまあるく大きくもなって、この世をすべからくご覧になっている。あの光りが赤く染まるとき、わたしたちは──…。」縁側についた千歌音の指に指をすべりこませて、姫子がつぶやいた。真面目なことを言うのに、いつ...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(二十四)
★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第二十三話 更新★★★(2023/03/11)
アニメ京四郎と永遠の空もNBCユニバーサル公式でOP&EDが公開中です(^^♪🎊30周年記念🎊当社作品のOP/ED映像を毎日公開📺本日は、TVアニメ「#京四郎と永遠の空」OP映像(クロス*ハート/#CooRie)です!作品は2007年1月~放送されました😀OP映像と楽曲をお届けします♪https://t.co/hPhnZxpBqC#NBCAM30thpic.twitter.com/oZJG7l3LdB—NBCユニバーサルANIME×MUSIC公式(@nbc_anime_music)February21,2023🎊30周年記念🎊当社作品のOP/ED映像を毎日公開📺本日は、TVアニメ「#京四郎と永遠の空」ED映像(#微睡みの楽園/#Ceui)です!ED楽曲とED映像をお届けします!https://t.co/5...★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第二十三話更新★★★(2023/03/11)
だめだ、これでは──あの忌まわしい夢のとおりになってしまう!千歌音の見た暗黒の夢、それは──どこか、いつかのふたりが、姫宮の洋館でいたした危険な一夜。巨神(おほちがみ)らしき機神のひかえる窓の側近く、ピアノを鳴らした巫女装束の千歌音が、姫子を引き寄せて…唇を奪い、服を裂いて、姫子の絶叫が響き渡り…──思い出したくはなかった。あの姫子は、魚になって優しく愛おしく見つめて触れあった内気そうな少女の姫子だった。魚と人間ではあれほど清らかな関係を結べたふたりが、なぜに、こうも愛憎みだれた絆で結ばれねばならないのか。あれが、まさか自分に眠る、自分のなかの劣情。姫子に抱く憧憬があんなに穢れたものであったはずがない。ひとのかたちをして生まれなおすことが、女として愛してしまうことが、私たちにとっては罪深いことなのだろうか...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(二十三)
嫉妬は、そのひとを愛しているからこその証拠。自分の感情にしがみついているからこそ、生まれるのだ。千歌音の頬にさらりと伝うものがある。悔しい。誰に負けたとかではなく、屈したわけでもない。だのに、くち惜しい。神の怒りを鎮めたはずの自分が、あいもかわらず自分の感情の膿を持て余しているのが。こころの爛れはいつ治るのだろう。隣に腰をおろした姫子が、舌で涙を拭いとってくれる。それから、いつものように甘えた感じで抱きついてきて。這子になったのか、されているのか。他人の目があるときは姉ぶっているのに、千歌音だけの前ではまったく顔向きが違うのだ、姫子というひとは。千歌音が大人びてきたがために、今では姫子の方が幼げに見えることがある。正面に回りこんだ姫子は、千歌音に背中を預けてきた。いつもならば、姫子の方が背後から覆うように...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(二十二)
──その夜、姫宮邸の自室に戻った千歌音は悶々としていた。夕食を済ませ、侍女たちも辞し、巫女の相方とふたりきりになった。このところ忙しい姫子が、夜に千歌音の側にきてくれたのは、嬉しくもあったが、反面、うしろめたかった。昼間のもの問いたげなまなざしが、瞼に張りついている。乙羽の不意な訪問で巫女修業の肉体疲労は癒されたはずだった。なのに、なにか違う瘧(おこり)にとりつかれているようである。千歌音の脳裏には、染みついて離れないことがあった。きょうの昼間に訪れた招かれざる客──あの男の手には大きなおろちの痣があった。あいつは間違いなくおろち衆のひとりなのだ。そして、あいつをこちら側に寝返らせること、それもまた姫子の策略なのだろう。しかし、千歌音には解せない。そのうえ、見逃せなかったのは──あいつの首から下げていたも...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(二十一)
可愛らしい鳴き声の主。千歌音が何の気なしにそれを、水をすくうように手のひらでうけとめようとしところ――乙羽の目がたちまち鬼気として光ったのだった。殺気にあふれた目つき。その手には針がある。こんな乙羽を千歌音は知らなかった。くわ!と甲高く鳥の喚きのような声。今日は相棒のひよこのミカは連れていないはず、なのに。「いけません、お嬢さま!虫は不衛生にございます!おからだに障ります」「ええ、でも…。鈴虫には害はないし…」乙羽がいまにも針を飛ばして突き殺さんといったばかりの勢い。千歌音は手のひらに匿うように虫を包んで、庭先へ降り立った。どこかで鳥が狙っているのだろうか。襲われたらたまらない。虫はちょこんと芭蕉の葉の上に飛び移り、こちらを眺めつつ、なにやら嬉しそうに飛び跳ねまわり、歌い踊り、奥へと消えていった。なんとな...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(二〇)
★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第十九話 更新★★★(2023/02/11)
過去に原作者先生のブログで公開された塗り絵イラストを加工したものです。おそらく猫の日記念********神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第十九話:巫女の針山ふと、千歌音は乙羽が片付けている道具箱へと目を転じた。鍼の刺さった針山がある。ほんのりと桜いろをした、割れめのある、むにむにとした針山。布地とは思えないほどぬめぬめとしていて、艶やかに光った銀の針を収めている。糸が通されたものもあり、そうでないのもある。糸は透き通っていてほつれもなかった。針山にはうっすらと薔薇いろの筋のようなものが浮かび上がっている――ように見えた。変わった布地でも詰めているのだろか。それにしても、なにかに似ているような…。([神無月の巫女二次小説其の一]→「夜顔」(目次)→「夜の蚕(ひめこ)」)********時は大正、...★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第十九話更新★★★(2023/02/11)
長襦袢を胸もとまで引き寄せたまま、千歌音はあくびをこぼした。目覚めたのは夜が明ける少し前だった。乙羽があいかわらず畏まったように平伏している。千歌音はその侍女が頭をさげるときには、どんな表情をぶら下げているのかを知らない。「いかがでしたか?」「そうね、なんとなく、からだが軽くなった感じがする」腕をぐりぐりと回したり、太ももをさすったりする。骨に感じた痛みや筋肉のこわばりがかなり和らいでいる。ほんとうに軽い。飛んでいきそうな軽さ。まるで万里を渡っても疲れ知らずの鳥のような肉体を与えられたかのようだった。からだを布巾で拭いて清潔な下帯を身に着け、長襦袢を着なおしする。なんだかそれが窮屈な感じさえする。すこし肉づきがよくなってしまったのだろうか。身支度は乙羽が手伝ってくれた。「それは、ようございました。鍼を通し...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(十九)
この女主人の肌は、まるで雪原のようだ――。ため息をつきたくなるようなほど美しく、指先で触れるのさえおこがましい。けれども、誰しもその指が焦げてしまうほどの情熱にたえきれずに、許されるのならば、その陶磁のような雪肌に手をすべらせてみたくなるだろう。長襦袢をひらいて、背中をあらわしたまま、姫宮千歌音が床に臥せている。千歌音の肌は美しい。巫女としての修業が荒いとは聞いていたが、不思議とあまり傷もない。指の腹で気脈をたどりながら、如月乙羽は慎重にそろりと針を落とす。口に針をくわえるのは、世迷言のようなうめきをもらさないようにするためだ。炎であぶって消毒した針をここぞという地点を探り当てて、一気に突きたてることもあれば、じっくりじっくり、針先を滲ませるように刺すこともある。乙羽が千歌音に申し出たのは、東洋医学のひと...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(十八)
★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第十七話 更新★★★(2023/01/28)
祝ソウマロボの立体化!!アメノムラクモさんもプラモデルにならないの?********神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第十七話:巫女の木のぼり「もし、お嬢さまが木から飛び降りたい。そうおっしゃられるのであれば、この乙羽、我が身を下敷きにしてでも、うけとめてさしあげますわ。しかし、千歌音さまは、ほんとうにそうなさりたいのですか?」千歌音は、顔を覆って首を振った。指のあいだから涙が零れ落ちている。「いいえ、私は…姫子といっしょにいたい。同じ場所でずっと…月の巫女とか陽の巫女とかそんなものではなく」「お嬢さまは、いま、お幸せなのですね…。大切に想う方がいらして…」([神無月の巫女二次小説其の一]→「夜顔」(目次)→「夜の蚕(ひめこ)」)********時は大正、場所は神さびた村。いまの姫子は心をわけあ...★★★神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」第十七話更新★★★(2023/01/28)
おはようからおやすみまで365日、神無月の巫女ライフ。…いや、最近は封印している日もありますが、ひさびさにタガが外れてしまう時もあります。公式さんがこんなつぶやきをされてしまったらば。今回再販しました、神無月の巫女の姫子×千歌音のアクスタと姫神の巫女同人誌HIMEGAMIAFTERの在庫が復活しています。よろしくお願いしますhttps://t.co/UJlG9eXjmMhttps://t.co/JK7zUkcHec—介錯(セブン)(@Kai_Seven_)January12,2023もちろん、ひさびさに姫神の巫女同人誌「HIMEGAMIAFTER」、読みました。ついでに最終巻までさらっとおさらい。やはいイイ。すごくイイ!言いたいことは山ほどあるが、アニメブックレット感想と一緒で、もつれあった毛糸の如く言葉...ヒメコの歴史、チカネの歴史、今年でじつは百年…?!
「夢といいますのは、木登りと同じにございます。高みをめざして進むあいだは夢中になります。しかしながら、昇りつめてしまうと勝手が違います。降りるのが怖くなります。頂点のみを見つめておりましたのに、いつのまにか、この世界を神のごときまなざしで見降ろしている。その権力を失いたくないと願い、蹴落とした者がうらめしげにこちらを眺めている視線に耐えねばなりません。お嬢さまはいずれ高みに上り詰めるお方。星に近く、青く澄んだ空を目指せば、花はちいさく映り、湿った土の匂いは振り捨てるべきもの。それなのに、千歌音さまはお優しすぎるのです」乙羽の言うとおりだった。千歌音は怖いのだった。姫庫(ひめぐら)から巨神(おほちがみ)に引きずり出されてからの惨事を経てしまったいま、いくら高貴な生まれだとか、奇蹟の巫女だとか崇められようとも...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(十七)
自室で文机に向かっていた千歌音は、障子の向こう側でした声に耳を澄ませた。こちらが返事をするまでは、相手はむやみに開いたりしない。これが姫子ならば、障子に影を残す暇もなく、ずかずか入り込んでくるのだけど。たちあがった千歌音は、すらりと障子を開けた。栗毛色の巻き髪の侍女が平伏している。礼儀を体現したような佇まい。そばには見慣れた布地模様の風呂敷包があった。千歌音はおもわず顔をほころばせた。「おひさしぶりね、乙羽さん」「はい。しばらくお暇をいただいておりまして。千歌音さま、ありがとうございました」畳のうえに指さきをそろえて、深々と頭をさげた如月乙羽。こころなしか、以前よりもやつれたように思える。どこかからだの具合でも悪かったのだろうか。乙羽はここへ戻ってきた。姫宮千歌音の侍女として。侍女のせつなとくうの言ったこ...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(十六)
冷えてしまった湯飲みに、千歌音は所在なく目を向ける。キャラメルの甘さなんか、喉に残したくはない。寂しさに思わず涙を落としそうだったので、あわてて、白湯を飲み干した。いくらか残った底に、千歌音は瞳を吸われた――透明な生きものがみえる。すいすいと飛び跳ねて微生物のようだった。それが跳ね返り、息を吸えばたちまちにこちらの口へ流れていく。ぱくぱくと水泡が増えて、煌めく水しぶきがあがる。ひらめく黒銀の鱗とひらりとひるがえる尾ひれ。美しく静かな夏の夕暮れ、足音でさばかれてふやける視界、水底のふゆりとした揺らぎ、つるりとする滑らかな石。ここは山の清流か。川面を突き抜けたところで手の届かぬ高く赤らんで澄んだ空があり、当世ものよりはいささか小型の写真機が自分をとらえる。レンズを構えていたのは、紅の制服を着た可憐な女の子──...神無月の巫女二次創作小説「夜の蚕(ひめこ)」(十五)