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ChatGPTを使って小説を書いてみました。『シリコン脳はバイナリの涙を流す』の第11章目です。人工知能デルタのインターフェースが現実世界で動く。
※朝の早い兵舎では、すでに起きだした兵卒たちが、がやがやとにぎわいながら食堂へ向かっていた。その楽し気な声と、足音、物音で、趙雲は目を覚ました。夢を見ていたような感じがするが、目をひらいたとたんに忘れてしまった。どうせ夢だし、たいした内容でもなかろうと思いつつ、寝台から起き上がる。兵舎の一角にしつらえた粗末な部屋が、趙雲の寝起きする場所である。もっとよい部屋で、劉備や孔明のそばの場所もあるのだが、趙雲が希望してここにしてもらっていた。ここにいると、兵卒たちの把握がしやすいうえに、奥向きのことに気を取られなくてすむので、かえってのんびりできるのだ。女が苦手というほどではなかったが、生来、あまりがつがつと異性に食らいつくほうではない趙雲としては、気を使わない男どものそばにいたほうが気安い。本来なら起き抜けにす...地這う龍その8新野城の朝
しばし、狼心青年のことばを呑み込むことができなかった。曹操が物見遊山《ものみゆさん》に許都をでたわけではない。いよいよ野望をむき出しにし、荊州を併呑《へいどん》せんと動き出したのだ。「し、しかし、いまはもう秋だぞ。すぐに冬になってしまう。兵法に通じている曹公が、まさかこんな時期に軍を動かすとは」おどろきうろたえる夏侯蘭《かこうらん》だが、狼心《ろうしん》青年は頓着しないというふうに、白湯《さゆ》をすすりつづけている。「裏をかいたか、それとも絶対の自信があるのか…どちらにしろ、曹公は自分がまけることなどつゆほどかんがえていない。まあ、負けることは万が一にもなかろうが。なにせ、百万の兵を動かしているのだからな」「百万…」そのあまりの膨大な数を想像しようとした夏侯蘭だが、すぐに想像が追い付かなくなり、やめた。「...地這う龍その7ふたたび荊州へ
<血盟ニュルンベルグの地下の牢獄にて> 剣を通さない強靭な外皮をもつ悪豚卑(アントンヒ)の喉元に突き立てた、風華夢(フーカム)の剣は折れてしまった。 風華夢は…
「ぐふぅぅ!」龍神鬼の攻撃をもろに受けて、ヴィシュヌが血の泡を吹き出した。『ヴィシュヌが124のダメージを与えました!』『龍神鬼が426のダメージを与えました…
「おいおい、たったひとりの丸腰の男相手に、多勢で向かうは卑怯であろう」どこか呑気に、狼心《ろうしん》青年は襲撃者たちに言う。「そいつはおれの朋友だ。殺さないでもらおうか」「知ったことか」吐き捨てるように言ったのは、例の小柄な血の涙の女だった。「おまえたち、先にこいつらを始末しておしまい!」黒装束の者たちは、返事をするまでもなく、こんどは狼心青年たちに向かっていく。狼心青年は驚く様子もない。静かにたずさえていた槍の穂先をあらわにした。となりの巨漢もまた、それに倣《なら》う。黒装束の者たちは、鳥のように高く飛び上がり、狼心青年たちに斬りかかる。その数、五人。だが、巨漢の男は狼心青年と同様にまったく動じず、腰に力を入れると、手にした槍でもって、黒装束の者のうち、ひとりを薙ぎ払った。すさまじい力であった。そいつは...地這う龍その6あらわれた助け手
コネらしいコネもないままに、乱世を腕一本でのし上がった英雄。そのわりに、なぜかふしぎと、強引さや、残虐さといった、自己中心的な面が前面に印象としてないのが、得なところ。前半生は苦労の連続であったのは、ご存じのとおり。ただ、苦労したおかげで、逆にあまたの英雄から「良い面」「悪い面」を学べたのかもしれない。「三国志演義」では、後半生はとくに泣いてばかりの印象が強く、「泣いて蜀をとった」とまで揶揄されがち。包容力のある人物で、あまり多くを語らないところ、感情をあらわにして周りに無駄な気を遣わせないところなどがある。髭は薄く、あるのかないのか、というほど(ちょっとコンプレックス)。みごとな福耳で、手足が細長いため、ふつうのひとより長く見える。音楽が好きで、派手なもの、楽しいものが好き。手先が器用で、牛のしっぽの飾...劉備(玄徳)
墓の前にいたのは、小柄な女だった。女が墓の前の地面に屈みこんで、なにやら熱心にやっている。ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ…規則正しく音がする。どうやら、地面を掘り返しているようだ。犬のような女だな、どこかおかしいのかもしれぬ。と、そこまで考えて、夏侯蘭《かこうらん》はとつぜん、ひやっとした。おかしい、だと。おかしいのも当たり前ではないか。この女の掘り返している地面の下にはなにがある?狗屠《くと》の首ではないか。夏侯蘭は思わず腰に手をあてていた。そして、おのれのうかつさを呪った。ここ数か月、あまりに平和に過ごしていたので、近所に出かけるときは、剣を佩《お》びないようになっていたのだ。女の白く細い手が、土にまみれている。女はそれでもかまわず、熱心に土を掘り返そうとしていた。背後に夏侯蘭がいるのにも気づかない様子...地這う龍その5血の涙の女
※夏侯蘭《かこうらん》は、集落の外れに住んでいた変わり者の叔父の家を継いで、子供たちのための私塾をひらいて暮らしていた。教え方がうまいというので、瞬く間に子供たちが集まり、塾は大盛況である。子供たちの相手をするのは楽しかった。自分の冒険譚を語ることで、頭の整理もできる。それに、子供たちの素直な反応で、かえって自分を客観視できた。そもそも人に教えるということは、自分がその事物について深く理解していないとできない。夏侯蘭は、自分が武辺者だと思い込んでいたが、あんがい、自分は学があるなと自分でおどろいていた。子供たちは毎日、うれしそうに自分の話を聞いてくれる。周りの反応がよいため、夏侯蘭もうれしくなり、常山真定に帰ってからのほうが、よく勉強するようになっていた。勉強は、真面目に取り組んでみると、とても面白い。世...地這う龍その4秋祭りの日に
冀州《きしゅう》、 常山真定《じょうざんしんてい》。集落のはずれめざして、童子が走っている。幼い妹のおしめの世話をしていたら、いつのまにか太陽がすっかり昇り切ってしまっていたので、焦っている。あわてて支度をして、母親から渡された野菜のいっぱいはいった籠をかかえて、いま走っているのだが、さて、あたらしい私塾の先生は授業を待ってくれているだろうか。籠のなかの泥付きの野菜を落とさないように、気を付けながら走らねばならないので、なかなかコツがいる。ときどき、籠から野菜がごろりと地面に落ちるので、そのたびに立ち止まって拾わねばならなかった。童子はぼやきながらそれをひろい、授業がはじまっていないといいな、先生の面白いはなしを聞き逃していないといいなと願う。やがて、集落のはずれにある、古い大きな家の入口が見えた。入口...地這う龍その3常山真定の夏侯蘭先生
龍神鬼は、両手剣を片手でくるくると振り回しながら、ヴィシュヌの目前まで迫ってきた。 数直線上の攻撃が、龍神鬼にいともたやすく破られた。まさか戦闘中に、自分の唯…
名前が『雲』で、あざなが子『龍』。まさに雲を得て天に昇る龍をあらわした、そうとうに気合の入った名前である。名とあざなの意味が対応できている名前なので、学のあるきちんとした人物にあざなをもらったのだとわかる。趙雲はそれなりの家柄の子息だったのだろう。「奇想三国志英華伝」では、認知症がすすんでいる老いた父の代わりに、次兄が字を授けた、という設定にした。(くわしくは「臥龍的陣番外編しゃれこうべの辻」でどうぞ)。趙国の王族の末裔かもしれない、というのは、柴錬三国志の影響を引き継いだ。趙雲が現在でもこれほど人気を誇っているのは、正史三国志の注釈にある「趙雲別伝」によるところが大きい、というのは異論がないと思う。文章に堪能な子孫が残したと思われるこの「別伝」。そこに描かれる趙雲は、ともかくかっこいい。身の丈八尺、容姿...趙雲(子龍)
※朝議が散会になったあと、趙雲は孔明のそばに向かった。孔明は趙雲の顔を見るなり、不機嫌そうに小声で言う。「曹操が来ないというのは、ほんとうだろうか」「なぜそうおもう」「根拠らしい根拠はない。勘だ。根拠と言えば、ひとつだけ。徐兄からの手紙がかえってこないのだ」徐兄とは、孔明の前任の軍師の徐庶、あざなを元直のことである。前身は潁川《えいせん》のやくざ者だったが、改心して学問にはげみ、立派に軍師となって、短期間だが劉備に仕えた人物だ。孔明の兄弟子でもあり、親友でもある。いまは事情があって曹操に仕えているが、それでも孔明はせっせと徐庶とその身辺に向けて、無事かどうかを確かめる手紙を送り続けていた。「手紙がこないとは、無視されているということか?」徐庶は義理堅い男だった。その徐庶が、かわいがっていた弟弟子《おとうと...地這う龍その2孔明の疑問
(この書き出しだけで終わっていた小説?実話?) 浅い眠りから覚めると、土の匂いのする草原の上だった。目の前にグルーディオの外壁が見える。おれは軟弱なアバラをお…
「曹操は来ないんじゃないかな、秋だし」張飛は自分にだけ聞こえるようにつぶやいたつもりらしい。だが、もともとの地声がおおきいこともあり、静まり返った広間に、かえって響いてしまった。となりにいる関羽が、ぽかりと張飛の頭を小突いて、たしなめる。「ばかもの、安易に憶測を言うな」「でもよ、兵法では、秋になったら兵を動かさないものなのだろう?自分は兵法の大家だって自慢している曹操の野郎が、あえて秋に兵をうごかすかなあ?」張飛の言うことはもっともだ。張飛と関羽のやり取りを聞いていた趙雲は、張飛もすこしずつ進化しているなと素直に感心した。ほかの者もおなじようで、張飛のことばに目をみはっている。朝議の中の発言である。しかも、今朝は勝手がちがう。許都からの情報をもったはやぶさが、飼い主たる陳到のもとへ戻って来たのだ。その細作...地這う龍その1許都からの密書
趙雲(子龍)→劉備の主騎。劉備の命令で孔明の主騎もかねる。槍の名手。ただし、その名はまだ天下に轟いてはいない。武人ながらも思いやりのある性格で、気配りの人。冷静沈着に事態に対処できる。諸葛亮(孔明)→劉備の軍師。号は臥龍。軍師ではあるが、策謀にはあまり長けていない。むしろ人を励まし鼓舞することのほうが得意。リアリストだが、人を慮ることができ、苦難に対しても精一杯努力できる美点がある。劉備(玄徳)→趙雲、孔明らの主君。感情の振れ幅が大きい。普段はおだやかだが、ことあると激情家の面も見せる。おおいに笑い、おおいに泣くことのできる、人間くさい主君。残酷なところが少ないのも、人をほっとさせるところ。手先がとても器用。関羽(雲長)→劉備の義兄弟。曹操とその家臣たちについては、だれより詳しい。当初は孔明に反発していた...地這う龍登場人物紹介
ご存じ、天才軍師。三国志演義では八面六臂の活躍をみせ、神算鬼謀の軍師として生き、蜀漢の丞相となってからも劉備の遺志をひきつぎ、そして志に殉じたとされる。史実の場合は、意外にも軍師として戦場で活躍したことは少なく、陳寿に評された通り、政治家としては超一流だったが、戦術家としては、ざんねんながら超のつく一流とはいいがたかった。「奇想三国志英華伝」(当作品)においては、知恵のあるリアリスト・常識人として描かれる。きわめてまっとうな倫理観を持ち、どんな局面においても揺らがない。育ての親である叔父に感謝の念を伝えきれなかった後悔から、周囲の人への感謝の念は、言うべき時にはっきり口にするよう自分に習慣づけている。それにより周りはおおいに照れたり、呆れたりするが、きざなのではなく、乱世において、明日また会える保証はない...諸葛亮(孔明)
まずは、この長い話を読んでくださったすべてのみなさまに感謝です。みなさまに幸あれー!小説投稿サイトを利用しての作品発表は初めてで、わからないことだらけ(いまもわかってない)です。それでもとりあえず「奇想三国志英華伝臥龍的陣」はいったん終了させることができました。途中、紆余曲折ありまして、「毎日更新」のはずが…ウクライナの戦争にショックを受けて休んだり、Windowsの更新バグに引っかかり、ビットロッカーをしっかり管理していなかったせいで、一か月以上の休みを余儀なくされたり、ううん、なにをやっていたのやら。とくにウクライナの戦争がはじまったころは、「覚悟もなく人身売買や児童虐待の話を書いてしまった、これを発表してよいものか」と悩みました…戦争がはじまったとき、隣国へ避難していく人たち、子供たちや女性たちを狙...臥龍的陣あとがきにかえて
※石広元の屋敷で数日ほど世話になったあと、その足で、徐庶は、襄陽をあえて通り過ぎ、孔明が隠遁しているという、隆中へと向かった。教えられた道のとおりに孔明の庵へ行くと、その途中、拍子抜けするほど、あっさりと、本人と再会した。孔明は、なだらかな丘のうえで、ひとり、身をかがめて、草を摘んでいた。農作業をしている、というふうではない。人の影もまばらな、のどかな光景のなかにあっても、孔明は相変わらずの着道楽だった。だれも見ていないというのに、質のよさそうな洒落た衣を纏っているのが、孔明らしいといえばらしかった。孔明は草叢で、丹念に植物を取って、几帳面についている土を払っている。薬草を集めているようだ。旅の中で、さまざまな顔を見た。男の顔、女の顔、年寄りの顔、子供の顔、人種もばらばらな顔だ。しかし、孔明の顔というのは...臥龍的陣番外編空が高すぎるその30
徐庶は複雑だった。徐庶が旅をはじめたのは、まず孔明から遠ざかるためでもあった。劉表に仕官を求めた日以来、徐庶は孔明との距離が、いま以上に縮まるのを恐れた。孔明がおのれを頼りすぎて、自分を押し込めているのが見えてしまったのが、ひとつ。もうひとつが、孔明の優しい誘いに、抗えなくなる自分が、こわかったのが、ひとつ。田舎に隠棲して暮らすことは、その気になれば出来ただろう。あまり仲のよくなかった石広元さえ、いつのまにか心服させている孔明である。一緒にいれば、楽しいに決まっている。だが、その先にはなにもない。自分で築いてきたものを捨てる代わりに、未来も捨てることになる。それに、徐庶には、わかっていた。いままでは、孔明は、杖にすがるようにして、徐庶にすがって生きていた。だが、孔明は、徐庶がいなくなったことで、かえってと...臥龍的陣番外編空が高すぎるその29
「なぜ旅をしてきたのだい。襄陽のほうじゃ、あんたは劉表に振られたのが悔しくて、出奔したことになりつつあるそうだぜ」徳利《とっくり》を傾けながら笑う石広元に、徐庶はつられて苦笑いを浮かべた。「言いたいやつには、言わせておけばいい。襄陽のことは、俺の耳にも入っている。あんまり変わっていないようだな」「そうだな、孔明のやつが、すっかり隆中の田舎に引っ込んだよ。弟夫婦の畑がもぐらに悪さされてたまらないから、もっと土地のいいところに移ったと本人は言い張っているが、実際は世間から遠ざかりたいからだろうという噂だ。とはいえ、孔明は、妙なものだが、隆中に引っ込んでからのほうが、人づきあいがよくなったようだよ。暇さえあればぶらぶらと、知り合いの家へ出かけて、ほとんど家には帰らないらしい。徐兄がいたころは、ほかのやつとは、あ...臥龍的陣番外編空が高すぎるその28
※徐庶は、旅の終わりに、襄陽にはもどらずに、石韜《せきとう》、あざなを広元のところへ向かった。石広元は、もともと徐庶と同郷である。徐庶がおたずね者になって逃亡する際に、いっしょになって付いてきてくれた若者であった。地味であるが、気のいい青年で、孔明とはまたちがった意味で、長年、徐庶を支えてくれた人物でもある。小さな丸い顔に、カラスの羽をふたつハの字に並べたような髭が特徴で、目も鼻もまるっこい形をしており、人柄のよさがそのまま顔にあらわれている。石広元は徐庶が顔を出すと大変よろこんで、一家をあげて迎えてくれた。かれは、崔州平とおなじく、すでに家に妻を迎えており、さらには故郷の両親を呼び寄せて、ともに暮らしていた。石広元の位は郡の戸曹史主記である。つまりは戸籍係であるが、辺鄙な土地柄で、禄は高くなく、生活は苦...臥龍的陣番外編空が高すぎるその27
徐庶が劉表へ仕官をしようとした件は、内密にしていた者であったのだが、それがだれからともなく漏れていった。それはやがて知らぬ人のいないこととなり、司馬徳操の私塾の生徒の、いちばんの話題とまでなった。司馬徽の塾の生徒たちの大半は、裕福な家庭の子弟であったから、徐庶の挑戦を酒の肴にしては、どこがどう駄目なのかと、他人事のように勝手なことを話し合った。司馬徽の塾に来てだいぶ経ち、その理解者も増えては来ているももの、一定数の徐庶の『敵』は存在する。その『敵』と犬猿の仲の孔明が、徐庶の悪口をたたく者たちの場に居合わせると、かならず喧嘩となった。以前は孔明と『敵』の喧嘩が始まると、仲裁に入っていた司馬徽であったが、最近では、どちらかが気絶するまで放っておくことが増えた。きりがないと思われてしまったのだろう。孔明のこのと...臥龍的陣番外編空が高すぎるその26
「わたしは、こうして相談できる相手がいるだけしあわせだな。徐兄がいなくなってしまったら、いったいどうなってしまうだろう。想像もつかない」「どうもならんさ。なんとかなっているだろう」「そうは思えないよ。いつまでも間違いに気づけない、いま以上に嫌な人間になってしまうと思う。なにもかも世の中のせいにして、いじけて、そのくせ、心の中では、人が怖いと怯えている人間だ。けれど徐兄がわたしの間違いを教えてくれるから、わたしもすこしは、まともでいられる。ほんとうに感謝している。ありがとう、吹っ切れた。徐兄の言うとおりにしてみるよ」「ま、おまえの考えもところどころ入れて、自分なりにがんばれ」「うん、がんばろう。わたしたちの将来を、きっといいものにするように、がんばらなければならないな」孔明の声が眠気まじりのものになる。しか...臥龍的陣番外編空が高すぎるその25
「俺や家族に触れられるのは平気なのだろう。だったら、そのうち、ほかのやつで親しくなった者には平気になるかもしれない。だいたい、家族や仲間以外の人が身体に触れてこることなんて、日常ではあまりないものだぞ。気持ちはわかるが、そこまで深刻にならなくてもいいんじゃないか」「人が怖いのだ」「うん?」「揚州で叔父が朝廷の命令を受けてやってきた新しい太守に追い出されたとき、そそのかされた一部の民が蜂起した。賞金首に目がくらんだのだ。叔父は、いま振り返ってみても、よい太守であったと思う。いつも民のことを考えて、自分は質素に暮らしていた。なのに、みな妄言に振り回されて、血なまこになって、武器を手にわたしたちを襲ってきた」「ああ、大変な目に遭ったって言っていたな」「すまない、嫌な話だし、何度も聞きたくないよね。でも、わたしは...臥龍的陣番外編空が高すぎるその24
※数日後、徐庶と孔明は、劉表の返事をもらったあと、襄陽城市の宿で夜を迎えた。こういうときに、亡くなった叔父から多額の遺産を受け継いでいる孔明は、頼りになる。宿代などは、すべて孔明持ちなのだ。徐庶とて面子があるから、すこしは払おうとする。だが、孔明はこういうとき、頑として徐庶の財布を開かせない。「叔父上は、いつもよい友を得よ、そのためならば、手間も時も金も惜しむなとおっしゃっていた。徐兄は、わたしにとっては最良の友なのだから、わたしがもてなすのは当たり前だ。だから、金はわたしがすべて払う」というのが孔明の理屈である。孔明のなかで、叔父という人物は、だいぶ美化されているようだ。もちろん、徐庶は孔明の叔父という諸葛玄のことを見聞でしか知らない。だが、割り引いて見ても、孔明には、たいへんに立派なところを見せた男だ...臥龍的陣番外編空が高すぎるその23
※劉表は謁見のあと、徐庶に後日、返事をする、といった。だが、徐庶にはわかっている。劉表の徐庶を見る目は冴えないもので、表情も退屈そうであった。のちほど返事をするとは言ったものの、色よい返事は期待できないであろう。直接、本人に言わないところは気遣いの人なのか、それとも優柔不断なのか…あるいは、とても悪くとれば、善人ぶっているのかもしれない。どちらにしろ、実際に顔を合わせてみた劉表という人物は、思った以上に、緩慢な印象を与える人物であった。これほど襄陽城の風俗をきっちり取り締まって、儒を尊ぶ気風を励行しているわけだから、風采が立派で凛とした聖人君子があらわれるのではなかろうかと徐庶は期待していたのだ。たしかに礼装をしてあらわれた劉表は、血筋のよさゆえか、それなりに貫禄はあった。しかし、かれを主君としてあおぎ、...臥龍的陣番外編空が高すぎるその22
「毎日、むやみやたらに喧嘩ばかりしているやつが、言うな。しかし、さすが多くの修羅場を経験してきているやつのことばだ。わかっている、と誉めてやらんでもない」「けなしているの、誉めているの、どっち」「両方だ。まあ、要するに、おまえの言うとおり。ここの連中は、無駄に誇りが高すぎる。劉豫洲の家来があんまりコテンパンにやりすぎてしまったので、かえってここの文官たちの反感を買ってしまったようなのだ。出自のあやしい傭兵あがりの家来ごときが、意気がるな、とな」「それもひどいな。劉豫州は帝におなじご血筋だと認められたと聞いているし、その家来だって、すべてがすべて、流浪者ではない。徐州の麋家をはじめ、名門の人間だって加わっているぞ」「いくら帝室に認められても、その義兄弟は、肉屋とおたずねものだぞ」「その義兄弟だって、長いひげ...臥龍的陣番外編空が高すぎるその21
※さきほどの武人と徐庶は、廊下で行き交う形となった。徐庶は、自分とは真逆の方向へ行く武人に興味が引かれたものか、ちらりとそちらに顔を向けた。武人のほうは徐庶の目線を気にしない様子で、軽く会釈をしただけで、そのまま立ち去っていく。そのきびきびした颯爽とした歩き方は、いかにも武芸に秀でた男というふうだ。からだの動きにいっさいの無駄がない。武人の背中が遠ざかると同時に、徐庶が近づいてきた。「こんなところにいたのか、探したぞ。州平は帰ってしまったというし」「帰ったというのはひどいな。徐兄を置いていくなんて、無責任じゃないか」崔州平は、律儀で真面目な性格なのだが、ときどき、戸惑うほどに気まぐれな振る舞いをすることがある。孔明や徐庶にはわからない、崔州平だけが感じる『不快さ』が原因らしい。だが、たとえ状況が落ち着いた...臥龍的陣番外編空が高すぎるその20
※気づけば、孔明は花安英とぶつかった廊下にまで戻ってきていた。さきほどぶつかったときに散った白の花びらが、まだ廊下に残っている。だれもいない。しんとした廊下のなかで、孔明は、柱にもたれて、こみ上げる嘔吐感と戦っていた。深い呼吸をくりかえしているうちに、頭痛も落ち着いて、わずかな吐き気が残る程度にまでおさまった。大きく息をつき、柱に首をあずける。なんの因果か。すでに太陽は西に傾きはじめている。その光の色はあざやかな茜色に転じて、孔明の立つ廊下と、花々の咲き誇る中庭を血のように染め上げる。あのときと同じ。豫章から逃げてきた叔父と孔明たちを支援してくれた劉表に、礼をいうための登城だった。まずは孔明と叔父が劉表に型通りの挨拶をした。そのあと、叔父だけが残り、劉表となにか話し合いをした。会談は喧嘩別れに終わったらし...臥龍的陣番外編空が高すぎるその19
こちらの事情をすべて知り尽くしているような男の振る舞いに、孔明はむしろ、気味悪く思いはじめていた。思い切って、たずねる。「失礼ですが、あなたはどなたです。劉公子のご学友ですか。 花安英《かあんえい》と同じく」孔明に問われて、男は、はじめて名乗っていなかったことに気づいたようで、きまり悪そうに笑った。「ああ、すまぬ、失礼をした。俺は 程子文《ていしぶん》という。そのとおり、劉公子の学友というやつだ」「どこかでお会いしましたか」「いや、初対面だな」言いながら、程子文は孔明の横を過ぎる。そして、白い花を片手に、放りっぱなしの画材道具のところまで行き、ていねいに片づけをはじめる。花安英のものではなかったのか。孔明はたずねた。「絵を描かれるのですか」「ちょっとした趣味でね。昔からこれは得意だった。俺ができることのな...臥龍的陣番外編空が高すぎるその18
※気を取り直してまいりましょう、と伊籍にうながされ、孔明はさらに奥に通された。たどりついた場所は、清潔にととのえられた城のなかでもとくに古色蒼然とした雰囲気のある場所であった。なぜだか孔明は、その場に来てほっとした。きちんとしているけれど、そう片付きのよいほうではなく、生活のにおいが感じられる空間である。劉琦の部屋のそばには、小さな庭があった。庭の中央には池があり、そこに飼われているのか 鵞鳥《がちょう》の親子がいて、にぎやかに白い羽根をばたばたとせわしなく動かしている。池のまわりには、画材道具が散らかっている。鵞鳥の親子を描こうとして、途中でそのままになっているらしい。伊籍は、さきほど会った 花安英《かあんえい》に画才があると言っていた。孔明は、あの少年は、片付けないで、そのままどこかへ行ってしまったの...臥龍的陣番外編空が高すぎるその17
教えを受けさえすれば、いまにもそこへ行きそうな孔明に、少年は調子が狂ったようだ。つんとすましていた表情が、今度はあきらかに戸惑いの表情に変わっていく。「結構です。時間が惜しいのです。教えるの手間だし、あなたを待っている時間もない。それに、あなたが届けてくれるにしても、わたしの邪魔をされるのは困る」「どこへ行くかは知らぬが、邪魔をしないと約束しよう。目立たないようにするのは不得意だが、挑戦してみる」妙に意気込んでいる孔明に、少年は毒気を抜かれたのか、あきれた顔をした。そして、孔明の沓《くつ》の先から冠のてっぺんまで、じろりと見渡した。「不得意どころか、ムリでしょう。あんたみたいな図体のでかい目立つ方に、のっそり来られたら迷惑だっていう話です。ただでさえこじれているのだ、よけいに向こうがごねるでしょう」「おや...臥龍的陣番外編空が高すぎるその16
伊籍と仲良く手をつないで…実際は袖をひっぱられて…まるで父子のように襄陽城の廊下を行く。そうしつつも、孔明は、これだけ広い城の奥に入り込みすぎると、徐庶たちと別れたときにいた建物に戻れなくなりそうだなと、いささか不安に思った。なるべく、周りの、どこに何が置いてあるかなどを確認しつつ廊下を進む。きょろきょろと、孔明にしては落ち着かなくしていると、不意に、目のまえを花の山に塞がれた。建物の位置を把握することに目を奪われていた孔明は、思わず足を止める。花の山のほうも、前がよく見えない状態で移動していたらしい。かわしきれず、正面からぶつかる形となった。孔明はその花の名前がわからなかった。馥郁たる香をただよわせる、からたちの花に似た、白い花弁の花だ。その花を、両手いっぱいにかかえたその者の、驚きに目を見開いた顔が、...臥龍的陣番外編空が高すぎるその15
※孔明は、反省していた。とてもとても反省していた。さきほどまでの、むすっとした表情はなくなり、後悔のあまり唇をかみ締めて、うなだれている。まるでしおれた花のようだ。となりにいる親切な伊籍の説明をなんとか聞かねばと努力しているのだが、なかなかそのことばが頭に入ってこない。それというのも、徐庶や崔州平と別れたすぐあとに、司馬徽の塾で喧嘩したばかりの相手と、ばったり出くわしてしまったからである。喧嘩相手と会ったことが決まり悪くて、しょげていたのではない。その相手が、早々と襄陽城で官吏として働いているのを見てしまったのだ。そこで、ようやく徐庶も劉表に仕えるかもしれないという現実が見えてきた。だとしたら、自分の先ほどの態度は、あまりにみっともないものだったのではないか…徐庶がたとえ、周囲に好印象を与えたとしても(与...臥龍的陣番外編空が高すぎるその14
「似合わないからといって、いきなり宰相になれる者がいるわけがない。急がば回れというではないか。おれたちは、まずはこつこつと下積みからはじめるべきだ。大それた野心は、身を滅ぼすもとになるだけだぞ」「たしかに、常識でいえばそうなのだが、しかし、こつこつと下積みからはじめて、天下を動かす仕事にたずさわれるようになるのは、頭がすっかり白くなってからか?それでは遅い。こころも枯れてしまっているだろうし、おれたちが地道にこつこつ下働きをしているあいだ、だれが天下を安んじる」「天下とは、大きく出るな」「そうさ、天下だ。水鏡先生のところで、みんなでさんざん議論してきただろう。天下を安んじるためにはどうしたらよいかと。俺たちは、すぐれた英雄が出れば、自然と天下が治まってくるだろうと希望を語っていた。さてそれでは英雄とはだれ...臥龍的陣番外編空が高すぎるその13
崔州平は、なにかを言おうとしたが、徐庶が言葉をうながすしぐさをすると、顔を赤らめて、横を向いた。「それは、おれの言葉の選び方が間違っていた。君を不快にさせたのなら、すまない。君が仕官するのは喜ばしいことだ。君の母上が君どれだけ心配していたかも知っている。ここに仕官するなら、生活も安定するだろう」「面接するだけだ、まだ仕官は決まっちゃいない。だが、なにか引っかかるぞ、俺は」「なにが」今度はうるさそうにして、崔州平は徐庶のほうに顔を戻した。「すまんな、俺はどうも変なところに気がつく性分らしいのだ。おまえも、もしかして孔明と一緒で、この襄陽城にいい思い出がないとか、そういうクチか?だったら、俺のために無理をしなくていいのだぜ。俺だって、三つや四つの子どもじゃない、ちょっと行く先を教えてくれれば、ひとりで劉州牧に...臥龍的陣番外編空が高すぎるその12
※二手にわかれた徐庶と孔明であるが、やはり孔明を一人にするのは妙に心配だった。成人した親友をこうまで心配するのは、友情も過剰だなと思いつつも、孔明のほうを振り返る。すると、あの人のよい、おしゃべりな伊籍が、ここでも世話役を買って出て、孔明の案内役となっているようだ。思わず徐庶は、崔州平に聞いた。「伊籍どのは、いったい、いつ仕事をなさっているのだ。われらのように、無位無官の男を案内するのが仕事ではあるまいに」すると、徐庶のとなりにいた崔州平はあきれたように目を丸くした。「なんだ、君は知らないのか」「なにが」「この襄陽城の家臣は、いま、二手に分かれているのだ。さきほどの伊機伯どのは、劉州牧のご長男の世話役をしている。そのため、次男のほうを擁護している蔡将軍ににらまれて、閑職に追いやられているのだ。だから、城内...臥龍的陣番外編空が高すぎるその11
※そうして、あらかたのあいさつをおえて、いよいよ劉表に、という段になり、それまでぴったりと徐庶にくっついていた孔明が、ふと足を止めて、言った。「すまないけれど、わたしはここで待っているよ」好奇心のつよい奴が、めずらしい。好奇心より内気さが勝ったか、と思った徐庶であったが、孔明の顔色は、おどろいたことに真っ白で、表情も態度も、落ち着きなく、そわそわとしていた。聡い徐庶はすぐに察した。そうか、叔父さんとやらのことを思い出したのだな。「すまない、ついていきたいのはやまやまなのだが、足が動かない。叔父が刺されたのは、この先の廊下だ。あそこを通るのは、まだ、気持ちの整理がついていない。下手に取り乱して、徐兄の仕官の話を邪魔してしまいたくない。だから、ここで待っているよ」それでは気持ちも塞ぐのは当然だと思い、これまで...臥龍的陣番外編空が高すぎるその10
※劉表の家臣のひとりに、おしゃべりな男がいた。伊籍、あざなを機伯と名乗った。かれはどうやら、ひと目で徐庶を気に入ったらしい。一通りのあいさつをし終わったあと、いまはちょうど手が空いているからといって、親切にも、襄陽城のあちこちを案内してくれることになった。その伊籍がいうことには、襄陽城の居城は、劉表が入るまでは、風紀が乱れきって、建物もぼろぼろで、荒みきった場所であったという。これを劉表がきれいに整えた。こと細かに指示をだし、いまのように、大幅に改修させ、居心地のよい場所となったという。とはいえ、ここにずっといると、『居心地がよい』となるのか、それとも、周囲に配慮し、あえてそう口にしているだけなのだろうかと、徐庶はひそかに疑問に思った。さらに伊籍は言う。劉表は、曹操が儒者をきらっていることをよく知っている...臥龍的陣番外編空が高すぎるその9
石広元が仕官を決めて襄陽から去って以来、徐庶、崔州平、孔明と、この三人は、以前よりもっと密にいっしょにいるようになった。たいがいのことでは馬が合い、仲良くしている三人であるが、たまに、その関係の均衡が崩れる。きっかけは、たいがい崔州平と孔明の喧嘩である。崔州平も意固地で、孔明はもっと意固地。二人が喧嘩をすると、殴りあいにならないぶん、長引くのだ。そして、いつもそのあいだに挟まれるのは徐庶である。今日もか、と思いつつ、うんざりして二人のあいだに割って入った。「おいおい、頼むよ、やめてくれ。まるで嫁姑の喧嘩に巻き込まれた亭主の気持ちだな。崔州平、おまえは孔明より年長なわけだし、孔明の性格はよく知っているだろう。孔明のなだめ方だってわかっているだろうに、どうして挑発するようなことばかり言うのだ。そして、孔明も、...臥龍的陣番外編空が高すぎるその8
いよいよ荊州牧の劉表と対面するときがきたというのに、困ったことに、孔明は機嫌がわるかった。いつもよりは地味目な色合いの衣裳をまとっていて、徐庶を引き立て役にすまいという気づかいは見られるのだが。しかし、顔はむすっとして、口をヘの字に引き結び、ただでさえ目立つのに、ぶっきらぼうな態度を隠さないために、襄陽城のひとびとから、訝し気な目線をあつめている。崔州平がせっかく仲介にたって襄陽城の官吏などを紹介してくれていても、孔明の機嫌があまりにわるいので、徐庶としても気が気ではない。孔明が機嫌がわるい理由はわかっている。徐庶が劉表に仕官することが気に食わないのだ。孔明は荊州牧の劉表にたいして、あまり高い評価をくだしていない。一方で、兄弟子の徐庶に対しては、かなりの高評価をくだしている。あえて孔明の本音をたどれば、『...臥龍的陣番外編空が高すぎるその7
※海の彼方を越えようとした者の話は知っている。大地の彼方を探訪した英雄の話も知っている。だが、空を飛んでみようとした者はいない。海も大地もすでに先駆者がいるのなら、自分は空を飛んでみたいと思わないか。かつて、みなで石広元の送別会をひらいたとき、主賓たる石広元が言い出したことである。夢見がちな石広元は、酔って頬が少年のように紅潮していた。まるで自分がたったいま、千里の彼方から戻ってきたかのように興奮して。石広元の問いに、まともに答える者はなく、妙に律儀なところを見せて、孔明が、空を行くなら、まずは飛ぶ算段を考えねば、と答えただけだった。孔明は真面目に答えたつもりだったようだが、これを茶化した孟公威が、「飛ぶなら仙人になるしかない」と言い出し、崔州平が、いつもは大人しい癖して、「天女をつかまえてその衣を奪うと...臥龍的陣番外編空が高すぎるその6