地這う龍 三章 その4 軟児の父の事情
「まずは、わたくしの身の上話からさせていただきます」そう言って、軟児の父は、とつとつと語り始めた。もともと荊州の人間ではなく、洛陽《らくよう》の商家の三男坊として生まれた。家は羽振《はぶ》りが良く、黄巾の乱が起こった後も、うまく立ち回って、物資や武器や馬を政府に調達し、大金を稼いだ。「そのころはまだわたくしも、世間知らずの幸せな若者のひとりでした」しょんぼりと子礼が言う。未来のことなどまともに考える必要がないほどに、幸せな青春時代を過ごした。ぼんやりと、家業を継ぐか、兄の手伝いをして各地の商談をまとめる仕事に就くのだろうと思っていた程度。ほどなく、苦労の連続をすることになるだろうとは夢にも思っていなかったという。運命が暗転したのが、かわいがってくれていた父が急死してからだ。老いた父はまだまだ元気であったが...地這う龍三章その4軟児の父の事情
2024/01/11 09:55