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江戸後期のこと、不老不死の神人・仙人が住む海上の異界や山中の異境の実在を信じる、いわゆる「神仙思想」に大きな関心を向けた人物がいた。とある少年の特異な体験談(1820年頃)が世間の注目を集めると、すかさずその人物はすかさず行動を起こした。その人物とは、当時45
聖トマス・アクィナス司祭教会博士記念日1月28日中央イタリアの有名なモンテカッシーノ大修道院の近くにあったロッカセッタ城に生まれる(1225年頃)。5歳の時、父は彼をモンテカッシーノ大修道院の寄宿学校に奉献した。以後ナポリで勉強を続けると、18歳の時にドミニコ会に入会して、パリ大学に学び、ここではじめて教鞭をとった。彼の教えは大いに歓迎され、アナニ、オルヴィェト、ローマ、ヴィテルポ、ナポリに次々に教え、そしてまたパリに帰って教えた。彼は、大聖アルベルトの弟子で、聖書と教父の思想を土台として、大いにその思想を発展させた。彼が特に好んで用いた哲学思想は、アリストテレスのそれと、そのアラビア人による注解であるが、プラトンの思想なども利用した。真理であるかぎり、彼はそれを誰が主張したとしても、これを正しく活用し信...聖トマス・アクィナス司祭教会博士
北森嘉蔵著「神の痛みの神学」はたいへん説得力がある。カール・バルトは北森神学に対して否定的評価を下していたようだけど、バルトの「ローマ書講解」は神と人間との隔絶がやたら強調されていて、福音というより律法臭い。北森神学の方が福音としての本来性を感じる。「神の痛み」は神の怒り...
ペドロの話、最終話。ピリオド。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -24. 総帥交替が行われてまもなく、3世が死去したとの知らせが市国に広まった。しかし、「現総帥は死亡の事実を把握していなかった」、「葬儀の場には遺体が無かった」など、本当に亡くなったのか疑問を抱かせるような要素がいくつもあり、人々は「3世は財団の急進派に暗殺された」、「3世はどこかに逃げ延び、再起の機会を図っている」などと、口々...
ペドロの話、第23話。革命の顛末。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -23. 5年ぶりに市国に戻ったペドロ父子は、すぐさま3世を訪ねた。「久しぶりやな。そんなに変わってへんみたいやし」「3世もお変わりないようで」 そう言ったものの、ペドロの目には、3世の衰えぶりがはっきりと映っていた。「挨拶はこの辺でしまいや。早速、仕事の話や」 しかし3世の心の中には辛うじて、仕事に対する意欲と情熱は残っていた...
ペドロの話、第22話。最後の依頼。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -22. 第4冊目となる「モール師事記」を刊行した後も、ペドロは変わらず聖書編纂事業に勤しんでいた。一方で、歳を重ねるごとに妄執を強め、剣呑な行動を繰り返す3世に、さしもの聖人ペドロも辟易しており、彼は352年、今度は南海へと旅立った。建前上は「エリザの最晩年についての資料を集めること」を目的としたものであったが、3世から距離を...
ペドロの話、第21話。子息革命。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -21. 350年の暮れ、ナイジェル博士はペドロの元を去った。別れの言葉も無く、突然消息を絶ってしまったのである。ペドロは右腕であった彼がいなくなり困惑したものの、既にこの時「モール師事記」は概ね完成しており、ナイジェル博士がいなくても大きな支障は無く、翌年無事に刊行された。 それから3年後の354年――ネール家が突然、「大公位」の...
ペドロの話、第20話。博士の復讐。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -20. 時間と場所は349年、モールが拘束されていた宿に戻る。 話し疲れ、休憩を取っていたモールのところへ、ナイジェル博士が訪ねて来た。「休憩中、失礼する」「失礼なんかしないでほしいんだけどね」「言葉の綾だ。用がある」「私にゃ無いね」 つっけんどんに対応するモールに、ナイジェル博士はこう切り出した。「3世には腹が立つだろう?」...
ペドロの話、第19話。礼を示す。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -19. ペドロもナイジェル博士も、長年の研究でエリザが必ずしも聖人君子の類ではないことを把握していたし、その師とされるモールについても、相応の性格であろうことを察していた。「……ふん」 それ故、ベッドの上でとぐろを巻き、肌着姿で煙草をふかす、退廃的な彼女の姿を目にしても、両者ともたじろいだり愕然としたりするようなことは無かった。「...
ペドロの話、第18話。最後の謎を知る者。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -18. モール・リッチ――央北天帝教において「三賢者」の一角と称される人物であり、「彼」は「旅の賢者」とも呼ばれている。残る二人「時の賢者」ゼロ・タイムズ、そして「幻の賢者」ホウオウ、この三人によって現代における魔術の基本理論が確立されたとされてきたが、克大火や黒炎教団の件もあって、この説は近年、疑問視され始めている。 便...
ペドロの話、第17話。斜陽の大商人。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -17. 北方での研究の甲斐あって、「北方見聞記」改訂版は初版以上の好評を博した。そしてその主筆であるペドロも、既に教主の職を辞して10年以上経っているにもかかわらず、その評価と人気は衰えることを知らなかった。 一方で3世の評判は、次第に陰りを濃くしていた。316年の大交渉で央中を中央政府から独立させ、大規模な再開発計画を打ち...
ペドロの話、第16話。ナイジェル氏との邂逅。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -16. 率直に言えば、ナイジェル氏は己の知識をひけらかすことを快感とする類の人間だった。「ふむ、そこに気が付いたか。いや、確かに世界中の図書館やら資料庫やらを漁り渡るような人種でなければ、気付くはずもなかろう。確かにここは世界有数の蔵書量を誇っている。いいや、中央政府文化院や神学府など足元にも及ばんほどにだ。それには...
ペドロの話、第15話。北の邦での研究。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -15. 央北滞在中に2人の子供に恵まれ、4人家族となっていたペドロ一家は、10年ぶりに央中へと戻って来た。だが、やはり10年前と変わらず、3世はペドロを疎んじていたようだった。戻ってまもなく、3世がこんな提案を持ちかけて来たからである。「北方へ……?」「せや。ほれ、あの……、『北方見聞記』やったかなんか、君、出したやんか? ま...
ペドロの話、第14話。正教会の内乱と、新たな宗教の台頭。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -14. 339年、ペドロに対し苛烈な要求を突きつけ、央北天帝教に対して歪んだ制裁を続ける3世を諌めるべく、マルティーノ師は最期の力を振り絞って抗議行動に出た。「あなた方がこうして人々の模範、標(しるべ)となれたのは誰のおかげですか? 他ならぬラウバッハ君の功績によるものでしょう? その恩を忘れたのですか?...
ペドロの話、第13話。聖書をめぐる騒動。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -13. 神学府に出戻って以降も、ペドロは央中天帝教の聖書編纂を続けていた。正教会を追い出された身であるため、例え聖書が完成したとしても、それは外典扱い、まともな書物として扱ってもらえないのは明らかであったが、それでも彼は没頭していた。神学者、聖職者として以前に、彼自身がエリザと言う存在に惹かれていたからである。 そして妻...
ペドロの話、第12話。3世の罠。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -12. 2冊目の聖書が刊行され、央中天帝教の支持者、信奉者が増加するに伴い、その教主であるペドロに対する信用と信頼は、右肩上がりに増していった。 こうなってくると――実に勝手なことに――3世は一転、ペドロの存在を疎み始めた。「独立……ですか?」 331年、ペドロは3世の屋敷に呼び出され、彼から央中正教会を金火狐財団の一部門から、完全に独...
ペドロの話、第11話。異教の聖人、信愛を説く。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -11. 克大火によって天帝教教会は、世界の中枢であるクロスセントラルから、辺境の港町マーソルへと放逐された。当然、神学府も追従する形となったのだが、その蔵書を移動させるだけでも、大変な苦労と出費を強いられた。 前体制下――天帝教が中央政府の中核に位置し、存分に税を吸い上げていた頃であれば、資金面の問題など取るに足らぬ...
ペドロの話、第10話。暴君の如く。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -10. ペドロは3世に要請し、彼を伴って古巣の神学府を訪ねた。「ようこそゴールドマン卿、そしてラウバッハ卿」 一見、にこやかに応じているようではあったが、ペドロは相手が複雑な思いを抱いて自分たちに接していることを察していた。「どうも、サラテガ枢機卿。お忙しい中、お手数おかけしますで」 一方の3世は、言葉こそやんわりとしたもので...
ペドロの話、第9話。聖書の誕生と正教会の成立。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -9. 聖書編纂事業の第一歩は、金火狐一族の人間らがそれぞれ所有していた古書を蒐集(しゅうしゅう)し、比較検討することから始まった。 エリザは金火狐一族の開祖であり、双月暦1世紀を代表する偉人中の偉人、まさに「女神」である。彼女を記し、崇め、そして称える書物には事欠かなかったが、客観的かつ現実的に、彼女を一人の人間と...
ペドロの話、第8話。恩師との再会。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -8. 央中、ゴールドコースト市国に着いたペドロを待っていたのは、かつての恩師だった。「お久しぶりです、ラウバッハ君」「え? ……あっ、もしかして!?」 驚くペドロに、その老いた狐獣人はにこりと微笑む。「ええ、私です」「お久しぶりです、マルティーノ先生。……あっ、じゃあ3世が仰っていた『神学に詳しい情報筋』って」「そう言うこっちゃ」...
ペドロの話、第7話。神話の血筋。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -7. ニコル3世は確かに、多忙の人であるらしかった。「……うん、ほんなら500万で事足りるやろ、送金するわ。……ほんでな、南海のアレやけど……さよか、それやったらロクミンさんとこに一筆書いたら十分やな。……ホンマかいな、ほな私の方から先方さんに連絡しとくから……」 3世の本拠地、ゴールドコースト市国に戻る船の上でも、彼はずっと魔術頭巾を頭...
ペドロの話、第6話。3世の力技。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6. ペドロが酒場を出たところで、ニコル3世は単刀直入に尋ねてきた。「どこで働いてはるんです?」「今はゴメス運送って言って、えっと、この通りを西に」「案内してもろてええです?」「あっ、はい」 連れ立って歩き出したところで、3世は彼にいくつか質問する。「歳は?」「27です」「奥さんとか付き合うてる子とか、いてます?」「全然いません...
ペドロの話、第5話。大商人からの依頼。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. 狐獣人が名前を告げた瞬間、店内がより一層、しんと静まり返る。何故ならその男の名はあの克大火すら黙らせたと言う、世界最高の大商人のものだったからである。「……え……あ、あの、……あの、『ニコル3世』!?」 世情に疎いペドロでも、流石に彼の名と評判は知っている。「そうそう、そのニコル3世です」 男はこくりとうなずき、話を続けた...
ペドロの話、第4話。堕落した神童。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. 自由の身となったペドロであったが、残念ながらその前途が多難であることに変わりは無かった。 若き英才、期待の新星であった神学者が一転、思想犯として10年も獄中で過ごしていたのである。当然の如く、故郷からは戻ることを拒否されたし、学問一筋で生きてきた24歳が今更、どこかの職人に弟子入りすることも難しい。ましてや古巣の神学府が...
ペドロの話、第3話。「悪魔」の治世、その実情。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. 男がいなくなった後、ペドロは密かに、独房で聖書の暗誦を始めた。最初はほとんど思い出せず、己の衰えに愕然としたが、それでもかつて神童と謳われた青年である。「……第5項、ハンニバルは嘆き、己の情況を呪った。第6項、ハンニバルの前に狐の女が現れた。エリザであった。第7項、エリザはハンニバルを救い、ハンニバルに告げた。...
ペドロの話、第2話。牢の中の信仰。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. ほとんど外の光も入って来ない、常にひんやりとした湿気に包まれた牢獄の中で、ペドロは絶望していた。(僕の……僕の人生は……神学の世界で業績を挙げ、神学史に名を残すと言う僕の夢は……全部終わってしまった) 中央政府の下では死刑、もしくは終身刑に課せられた人間には、慈悲も温情も一切与えられることは無い。一日二度の食事以外には、本も新...
新連載。若き天才の転落。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. ペドロ・ラウバッハは神童であった。齢12の時には既に天帝教の聖書すべてを諳(そら)んじていたどころか、当時既に定番の議題となっていた「ゼロ帝の閏週矛盾問題」に新たな説を提示し、神学府をざわつかせていたのである。 それだけの稀有な才能と優秀な頭脳の持ち主を、絶大な権勢を奮い世界の支配者として振る舞う中央政府、そしてその中枢に位置す...