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下記ページにて、「緑綺星」第2部の目次とあらすじを追加しました。http://auring.web.fc2.com/au-novel.html(目次)http://auring.web.fc2.com/ro-outline2.html(第2部あらすじ)- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -困った。第3部の展開がほとんど思いつかない。現時点で決まってることは第3部主人公の名前と特徴くらいです。……ともかく他の予定をある程度片付けてしまってから、じっくり取り掛かろうと思います。...
絵師さん募集中!黄輪雑貨本店 総合目次 (あらすじもこちらにあります)- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -「緑綺星」地図(作成中……)- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -「双月暦」の暦双月世界の魔力・魔術観について双月世界の種族と遺伝(2019年版)双月世界の戸籍- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1話目から読みたい方はこちら緑綺星・狼嬢譚1 2 3 4緑綺星・闇騎譚1 2 3 4 5 6緑綺星・嘘義譚1 2 3 4 5 ...
妙な共同節活がはじまった。篤人さんと理佳子さんとわたし。そして、物音。ヒリヒリとした緊張感がある。感じているのはわたしだけかもしれない。篤人さんも理佳子さんもゆったりとくつろいでいるし、それは、わたしがいることを見ない振りで、わたしはいないものとして扱っているからだとかではなく、理佳子さんはわたしにハーブティーをすすめたり、一緒に料理をしないかと誘ってきたりする。わたしはそれをたまに受ける。篤人...
シュウの話、第77話。広がる闇。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -9. シュウたちがリビングに入った途端、一行テロップが表示されていたテレビ画面は、金火狐総帥シラクゾ・ゴールドマンのバストアップに切り替わった。《本日報告された飛翔体によるテロ攻撃に関し、公安局に犯行声明が送られました。現在公安局にて大々的な捜査が進められている犯罪組織『ネオクラウン』からのものと思われます》「なんやて!?」 先...
シュウの話、第76話。シュウ・メイスンのターニングポイント。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -8.「まあ、その、なんだ。またお達しがあったわけだが」「奇遇ですねー。わたしにもありましたよー」 セーフエリアにて、シュウとカニートがまた、二人きりで話し合っていた。「わたしの方から先にお話した方がいいですかー?」「……だろうな」「じゃ、まずコレを」 そう前置きし、シュウは自分のスマホに送られてきた文面...
シュウの話、第75話。ラスト・ダークナイト;その宿命のために。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -7.「トッドレールか?」「です。……もしもーし」 電話に出た途端、あのキンキンとしたアルトの声がコクピット内に響き渡った。《もしもーしじゃねえよ、お前さんよぉ? なんだって白猫党のヘリなんざ奪ってやがんだ? 特区じゃ大騒ぎだぜ、『キジトラ猫獣人と真っ黒な狼獣人の二人がアジト襲った』っつって、血眼で探し...
シュウの話、第74話。ミッション・インコンプリート。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6. その時だった。《……さん! エヴァさん! 聞こえ……すか!?》 まだ耳に付けたままだった通信機から、とぎれとぎれにラモンの声が聞こえてきた。《急い……陰に隠……て! 航……支援し……す!》「……!」 エヴァは小銃を捨て、ばっと身を翻す。《おいおい、まだやる気なの?》 一方、エヴァとラモンのやり取りに気付いていないらし...
シュウの話、第73話。次世代型戦闘兵器・SD714。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. 一瞬前までエヴァが立っていた場所に無数の弾痕が刻まれ、その背後にあった執務机は木っ端微塵に破壊される。(回転連射砲にグレネード砲2門――一瞬でも気を抜けば、私もあの机同様に細切れにされる!) エヴァはSD714の集中砲火から逃げるため、側面に回り込もうとする。だがSD714は頭部をぐるんと動かし、エヴァを追尾す...
シュウの話、第72話。クーデターの真実。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. 人形から唐突な真実を告げられ、エヴァは面食らっていた。「死んでいる!? 3年前にだと!?」《ああ。アドラー家から逃げ出した後、彼は我々のところに身を寄せて……いや、これも率直に言おう。我々が身柄を拘束したんだ》「白猫党か?」 エヴァのこの質問に、人形はようやく驚いた様子を見せた。《へえ? 偽装したつもりだったけど、よ...
皆さんは、「貧困」という言葉にどんなイメージを持ちますか?自分とは関係ない遠い異国の話でしょうか?それとも、身近にある問題でしょうか?今回紹介する小説は、日本でも当たり前に存在する、誰にでも起こりうる貧困について扱ったものです。日本の貧困に
シュウの話、第70話。祖父の後悔。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. アドラー屋敷も相当攻撃を受けたらしく、既に半壊していた。(流れ弾が当たったと言う感じじゃない。間違いなく攻撃目標にされた感じだ。……いや、相手のトップがリベロなんだ。ここを襲わないわけが無い) 崩れ落ちた箇所から中へ入り、用心深く廊下を進む。(騎士団本部を最初に襲い、そして陥落させたとして、祖父が簡単に投降するとは思えない...
シュウの話、第71話。嘘と偽装と。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. エヴァが大統領官邸に到着した時点で、既に太陽は西へ傾き、夕暮れが迫りつつあった。(今朝方、電撃的に襲撃したのだから、相手はおしなべて疲労しているだろう。注意力も落ち込んでいるはずだ。薄暮時の今なら私の行動を捕捉し、即応することは難しいだろう) 物陰から敵の様子を確認したところ、エヴァの予想通り、誰も彼も憔悴した表情でぼん...
シュウの話、第69話。自分自身へのミッション。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. 3年前、エヴァの兄リベロ・アドラーも家の期待を背負い、騎士団試験に臨んでいた。しかし――周囲にとっても、そして恐らくはリベロ本人にとっても――極めて残念なことに、リベロはその期待に応えられるだけの資質・能力を持ち合わせていなかった。結果としてリベロは試験に落第し、その翌日から屋敷の地下に軟禁された。「一族の面汚し...
シュウの話、第68話。奇妙な符合。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -8. 合流したラモンに、エヴァは駐車場のヘリを指し示す。「あれは操縦できるか?」「は?」 目を丸くするも、ラモンはこくりとうなずいた。「まあ、できなくはないですが」「あれならリモード共和国まで1時間くらいで行ける。いますぐ調達できる移動手段としては、あれ以上は無いだろう」エヴァの言葉に、ラモンの猫耳がびくんと跳ねる。「リモード...
シュウの話、第67話。拠点制圧。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -7. ラモンに案内され、エヴァは工場跡らしき建物の裏手に到着した。「連中はこの中で生活してます。半月に1回くらいでトラックも来るんで、結構忙しくしてるみたいですよ」「忙しく、か」 建物の窓から中をうかがおうとしたが、廃屋に似合わない真新しい軍用コンテナに視界が阻まれる。「確かに何かの拠点らしいな」「たまーに盗みに入ろうとする奴が...
シュウの話、第66話。無法地帯の儲け話。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6.「どうしたんですか、こんなところで? ……あ、そんなに警戒しないでいいです」 ラモンはそう続け、腰のテーザー銃――結局あの晩に鹵獲した後、ずっと携行していた――に手を伸ばしたエヴァに落ち着くよう促す。「アルトさんならもうこの街にいません」「そうなのか?」「なんか結構大きい仕事頼まれたらしいです。書き置きだけ残ってました」「…...
シュウの話、第65話。罪と報復。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5.「エクスプローラ社の役員から直々に、お前にお達しがあった」 正午少し前、シュウは苦い顔をしたカニートに呼び出され、二人きりで話していた。「『弊社のインターン生がビデオクラウドにて政治的主張を主旨とする動画を配信していたとの情報をつかみ、我々役員会で当該動画を視聴した結果、前述のインターン生、シュウ・メイスンと思しき名前が公表...
シュウの話、第64話。臨時ニュース。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. セーフエリア強襲と、そしてエヴァの訴えが配信されたその翌日、午前8時少し前――。「ふあ~ぁ……全然伸びてないね、再生数。37回だって」「……そうか」 意を決して執った行動が功を奏しておらず、エヴァはがっかりしていた。「だが一応の牽制にはなっただろう。この動画が世に出回った今、奴らが襲ってきたら、わたしの主張を認めたも同然に……...
シュウの話、第63話。メイスンリポート#1;エヴァンジェリン・アドラー嬢の告発!- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3.「積極的な? ……どーゆーコト?」 きょとんとするシュウに、エヴァはこう返した。「襲う理由は一つしか無い。私に共和国の内情を語られてはまずいからだ。なら、先んじて公表してしまえばいい。その後で襲ってきたところで、もう手遅れだからな」「つまり今すぐ報道しろってことか。確かに効果はある...
シュウの話、第62話。偶然の撮影記録。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. セーフエリア内を周り、他の敵を探している間に、どうやらトラス側の態勢も整ってきたらしく、廊下の電気が一斉に点く。「止まれ!」 兵士たちが4人一組で現れ、エヴァに声をかける。「怪しい者じゃない。本日、ここに護送されたエヴァンジェリン・アドラーだ」 素直にテーザー銃を床に捨て、両手と尻尾を挙げたエヴァに、兵士たちはほっと...
シュウの話、第61話。真夜中の襲撃。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. 眠っていたはずなのにすっかりくたびれ切ってしまい、エヴァはもそもそとベッドから這い出した。(なんて悪夢だ……) ブラインドが下りた窓に目をやるが、一筋の光も差していない。(9時前に寝てしまったが、……どれくらい寝られただろう? 3時か、4時か……) そう思って部屋の中にあったデジタル時計を見ると、3時どころか、まだ日をまたい...
シュウの話、第60話。煩悶と悪夢。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6. 食事と入浴を済ませたところで、エヴァは強烈な眠気に襲われていた。(まさか……食事に何か盛られた? ……なわけないか)「どしたの?」 様子を眺めていたシュウに尋ねられ、エヴァは素直に答えた。「疲れて眠い。そろそろ休みたい」「もう? だってまだ9時前、……ってそっか、ついさっきまでハードな生活してたんだもんね。ベッドどうしよっかな...
シュウの話、第59話。トラス王国産官学事情。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. オーノ博士が部屋を出たところで、エヴァは二人に尋ねてみた。「今の……オーノ博士、だったか。こっちの人間じゃないよな?」「そーですね。央南の方です」「どうしてわざわざ央南から人を呼んだんだ? 地質学者ならこっちにだって一杯いるだろう?」 エヴァがそう尋ねたところで、カニートの方が答えた。「央南の焔紅王国ってところに...
シュウの話、第58話。シュウの成長。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. と、部屋のドアがノックされ、全身泥だらけの、眼鏡の短耳が中に入って来た。「ごめんなさい、すっかり遅くなっちゃ、……って?」 エヴァと目が合い、短耳は目を丸くする。「あの、その人は? 警護の人……じゃないですよね」「ええ。あ、紹介しますねー」 シュウが立ち上がり、まずはエヴァの方を示す。「こちらはエヴァンジェリン・アドラーさ...
シュウの話、第57話。央北政治の闇。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. 頑丈な装甲車で20分ほど運ばれた後、エヴァはシュウたちが拠点にしているセーフエリアに到着した。(高さ3メートルを超えるコンクリート製防壁がエリア全体を囲み、出入口のゲートも、厚さ30ミリはあるだろう鋼鉄製。その前後に、アサルトライフルで武装した王国軍の兵士が数名。流石にここは守りが堅いか。もし突破でもされれば、王国の威...
シュウの話、第56話。友との再会。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. ほとんど無意識に、エヴァはスマホに上ずった声をぶつけていた。《もしもーし? エヴァ、今だいじょ……》「シュウ! 君か!?」《ほぇ? う、うん、わたしがシュウだけど?》 シュウの戸惑った声に構わず、エヴァはまくし立てる。「そのっ、あのさっ、今、私はその、……ああそうだ、君、確かトラス王国に住んでたんだよな? 無理かも、いや、き...
シュウの話、第55話。「人」のいない街。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. アルトたちと別れた後、エヴァはずっと廃ビルの中に潜んでいた。街へ繰り出せばアルトに鉢合わせする危険があったし――彼の性格と口ぶりからすれば、何ら状況の変化が無いままここで再会したとしても、約束通りに「金を払え」と要求してくることは明らかである――何より、長年自分を縛っていた環境から解放された反動が、自分で思っていたより...
シュウの話、第54話。夜は明けても、なお薄暗く。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -7. バスは国境を越えて2時間ほど後、テントや土塊を積み上げた小屋が連なる集落の手前で停車した。「ほれ、着いたぜ。これでバスの旅はおしまいだ。おっと、慌てなさんなよおチビさん方。慌てず騒がず一人ずつ、ゆっくりだ。ゆーっくり降りるんだぜ」 アルトに促され、奥から子供たちがぞろぞろとバスを降りていく。「なあ、ミリアン...
シュウの話、第53話。難民特区。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6. アルトの言った通り、バスは危険に瀕することも、立ち往生することもなく、無事に白猫党領とトラス王国間の国境に到着した。「国境警備はどうなってる?」 尋ねたエヴァに、アルトは肩をすくめて返す。「白猫軍の現在の主戦場はもっと北だ。トラス側は事実上、『特区』に関しては放置してる。どっちも国境にゃ構ってらんねえのさ」「じゃあ、無防備...
破綻しているはずなのに、なぜこの生活は続いているのだろう。わたしは変わらずに智也の所有物で、首にはその証である痣をつけられ、当然のように首を絞められ犯される。当然のように、わたしは出かけるときには、どこに、だれと、いつ帰る、を申し出る。バイトであってもそれは変わらない。智也は当然と言った顔でわたしを束縛し続け、わたしもそれを受け入れている。なぜだろう。 「お前、ガリガリすぎる。骸骨みたいだよ」 ...
就職して半年、姉が結婚をする。と聞いて、驚かなかったと言えば嘘になる。そんなに深い付き合いをしている男の人がいるなんて知らなかったし、でも、姉なら恋人の一人や二人いてもおかしくはないだろう。いや、姉ならたった一人だ。真剣に付き合う唯一その人だけ。 何をしている人なのかと聞いたら、役者の卵だと言う。両親は姉のすることに異議を唱えたことはなく、そもそも姉は反対されるようなことをしようとしたことがな...
相変わらずPCは大学の授業のためにはろくに使われず、出会い系サイトでのメッセージのやり取りばかりだった。そして事ある毎によく知りもしない男の人とセックスをしていた。授業もろくに受けていないどころじゃなくて、「このままだと留年になりますよ」と指導部に通告された。大学の代わりに、バイトをしようと、文字入力のバイトに精を出し、生活には余裕が出た。 セックスにも金銭を要求するようにしてみた。一万円くら...
調子が狂う。いや、狂っている。世間が狂っていることなんて、当たり前でしかないのに、今日はなぜだかそれがやたらと目につく。愛想笑いにしか見えない愛想笑いが、通り過ぎる。社会に溶け込んでいられる、一般的な人の群れ。一般ってなんだ、一般的って。一般人的な人、一般人の振りをした異常者。それをもう飲み込まないといけないのに、いつまでもはじかれたままでいたい、わたし。 ママが自殺して、パパに引き取られるこ...
ここで働きはじめて三年。半年前からバイトで入っている青年のことが気になる今日この頃だ。 飯田亮太くん、十九歳。大学生。十九だと言うのだけれど、どう見ても十六やそこいらだ。高校生にしか見えない。しかも、なりたてのピッカピカの高校生って感じ。私服で出勤しているのだけれど、その私服もそんな感じがする。 「飯田くんも読むー?」 忘れ物の手紙を従業員で回し読みしていた。女の子からのラブレターだ。かわい...
CDショップで、BGMとして流れていた曲に、驚きの余り誰の曲なのかを店員に尋ねた。「ニコラ」というバンドだと聞いて、CDを手に取った。どういうことだろう。けれど思い出す。はじめて行ったライブスタジオの、暗い感じや、爆音や、圧倒的熱量、放出されたエネルギーや、歓声や、人の汗。どうしてここにいるんだろうかと少し途方にもくれた。あの日から、わたしは何か変わっただろうか。変わらずに過ごしている。今だって...
男は、少年が少年のままいてはくれないものかといつも考えていた。この少年がいつまでも幼気な少年でいてくれるなら何もいらない。必要なものがあるのなら、なんだって、惜しみなく渡そう。それで少年が少年たる所以を失わないのなら。 そうでなくても、少年には、考え得るすべてを与えた。少年が愛おしくて仕方ないから。幼気なまなざしに、長くて濃いまつげに、ぷっくりとした唇に、赤い頬に、どうしようもなく愛おしさを感...
「星の光?」 「そう。星野ヒカリ。バッカみたいな名前でしょ」 ヒカリはそう笑ってた。この名前嫌いのなよ、と。八重歯が特徴的な子だった。 「みんなと同じ方向見てさ、さあ、頑張りましょう!って言うのがどうも苦手でさ、高校行けって言われたけど、もうすっごい嫌で、入学しただけ。絶対馴染めないし、馴染めないせいで悩むのももう嫌だし、それなりにあたしも頑張ったつもりなの。でも、どうしても合わないんだよ、学校...
大人になったらみいちゃんをお嫁さんにしてあげるね。そう言ったときの自分をもう思い出すことはできない。どれほどの自信があって、どれほどの自分への期待と確信のもとにそう言ったのだろうか。僕は点で役に立たない、ダメ人間だ。 美鈴は奔放に生きていた。僕とは真逆だ。美鈴は容姿も眩しいが、その生き方はもっと眩しい。お嫁さんにしてあげるね、と上から目線で言った僕が、今や美鈴に憧れている。あの頃の美鈴は泣き虫...
身長、マイナス百二十。イコール、理想。それを告げた人と、心中したって構わない。あの日、そう思った。真の理想は、永遠に少女でい続けること。彼が求める少女性は、かわいらしく純真無垢な女の子、ではなく、刹那的な感情や、消せない傷や、なにかしらへの憤慨や、耐えがたい現実や、痛みに耐えて飲み込む矛盾や、愛すべき絶望や喪失や、そういう、少女であるからこそ故の葛藤だ。そう理解したわたしを彼はカメラに収めた。 ...
大学に入学してすぐ、ああここはわたしの居場所じゃない、そう思った。世間ではコロナと言う病が流行りはじめて、感染しないように接触を避けましょうと、授業はオンラインになって、それもあってキラキラしたキャンパスライフのはじまりとはならなかった。でも、一人暮らしの部屋で授業を受けて、レポートを作成して、目的もなく入った大学でそれをこなすモチベーションはなかった。大学に入ったら少し頑張って、人並みに夢や希望...
彼と結婚を決めたのは、彼となら幸せになれるって確信していたから。わたしは彼のことが大好きだし、愛しているし、彼もわたしのことが大好きだし、わたしは愛されているし、この人と一生一緒にいたいって思った。結婚式には最高にかわいいウエディングドレスを着て友達みんなに祝福されようって、そういう式を挙げた。幸せいっぱい。 はじまった彼との暮らしは幸せそのものだった。彼のためにおいしい料理を作って、彼と暮らす部...
姉は愛されている。そう認識したのは、まだそれを具体的に言語にすることが出来ない頃だ。けれど、姉は愛されている、と直感的に悟った。そしてわたしはそうでもない。ないがしろにされているわけではないが、わたしはそうでもないと気づいたのは小学校の高学年の頃だった。 その日、姉は足を骨折して、母は姉と病院にいた。そんなときに初潮を迎えたわたしは、母にあらかじめ言われていたナプキン入れからそれを取り出し、怖々と...
シュウの話、第52話。夢も希望も無いお話。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. エヴァを乗せて動き出したバスは、東へ向かっていた。「どこに向かうんだ?」「きょうび、白猫党領の難民が陸路で向かうとこっつったら、2つしかねえよ。西の天帝教直轄領マーソルか、東の『特区』ニューフィールドだ」「リモード共和国じゃないんだな」「当たり前だろ。近付いただけで撃たれるようなとこへなんざ、行っても無意味だぜ」...
シュウの話、第51話。軽蔑と訣別。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. エヴァは顔をぐしぐしとこすって涙をこそぎ取り、Rに怒鳴る。「もう御免だ。これ以上、国の悪事に加担するわけには行かない! 私は抜けさせてもらうぞ、R!」「抜けてどうする?」 Rはまだ顔を青くしてはいたが、どうやら回復してきたらしく、声には張りが戻ってきていた。「君は国家機密を知ってしまった身だ。その上で離隊したとなれば、騎...
シュウの話、第50話。騎士団の真実。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3.「おめでたい? おめでたいだとッ!?」 涙声で怒鳴ったエヴァに、老人は嘲った笑みを向ける。「そうだろうがよ。今の今まで、自分がやってきたことが分かんなかったってんだからよ」「知らされていなかったんだ。私たちはあれが敵だと言われて……」「そりゃあウソだな」 老人はヒッヒッと薄気味悪く笑い、エヴァたちが乗ってきたトラックをあご...
シュウの話、第49話。暗中のCQC。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2.「なっ……」 エヴァの目測ではトラックとの距離は10メートル近く離れていたはずだったが、老人はその10メートルを、瞬き程度の一瞬で詰めてきた。それでもエヴァは懸命に指を動かし、小銃を撃つ。だが――。「遅え、遅え。眠っちまうくらい遅いぜ」 老人は事も無げに小銃のバースト連射をかわし、エヴァの小銃をつかむ。「うっ!?」 反射的にエヴ...
シュウの話、第48話。激動の裏で。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. 双月暦716年を迎えた途端に、世界情勢は目まぐるしく動き始めた。双月節が終わってまもなく金火狐第22代総帥が死去したとの訃報が流れたその半月後には、南の白猫党が大規模攻勢を仕掛け、北部前線を壊滅させたとの情報が央北を席巻。さらにその半年後には南側が北側首都を陥落させたと喧伝され、1世紀以上続いた白猫党の南北戦争に終結の兆...
シュウの話、第47話。「任務」とは。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -6. ひとたび現れた疑念はエヴァの心の中で、日を増すごとに大きくなっていった。「どうしたんだ? いつもに増して仏頂面してるが」 11度目の出撃に向かう車内で、いつものようにトラックのハンドルを握っていたRから声をかけられて、エヴァはその心中を吐露した。「疑問があるんだ。私たちが今就いているこの任務は、本当に任務なんだろうかと...
シュウの話、第46話。電話と疑念。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -5. 入団から1年が、そして初陣から半年が経過し、エヴァはこの頃既に、寮と騎士団本営からの外出を許可されていたが、彼女はほとんど外出せず、寮の中で黙々と装備の手入れと鍛錬を続けていた。(もう外界に興味なんか無い) ナイフを研ぎ、小銃を分解整備し、戦闘服のほつれを直しながら、彼女はひたすら心の中で、同じ言葉を繰り返していた。(私...
シュウの話、第45話。エヴァの初陣。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. 国境を越えて20分ほどしたところで、Rがやはり淡々とした声色で全員に声をかけた。「10時方向、不審車輌を発見。大きさからしてマイクロバスだ。ツキノワ社のエンブレムを確認」「……!」 それを聞いて、エヴァたち3人の顔色が変わる。「そう……」 Cが何かを言いかけたが、すぐにコホンと咳払いし、言い換える。「……そう、ですか」 様子...
シュウの話、第44話。静寂の戦場。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. エヴァたち新入団員は2チーム、3名ずつに分けられ、それぞれにリーダーとして先輩団員が付けられた。ちなみにエヴァたちのリーダーは、やはりと言うべきか――。「R、まさか君は私を狙っているわけではないよな?」 尋ねたエヴァに、Rは軍用トラックのハンドルを握りつつ、いつものように肩をすくめて返した。「チームメンバーの選出はくじ引き...
シュウの話、第43話。Make a KNIGHT。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2. 入団してまもなく、エヴァは寮での生活を義務付けられ、外界との接触を一切禁止された。それに加え、エヴァが物心付いた時から伸ばしていた黒髪はばっさり落とされ、すっかり丸刈りにされた。「まるで監獄ですわね」 寮長を務める先輩団員に――彼は先日の真最終試験で、エヴァに合格を言い渡した青年である――皮肉交じりの感想を述べたところ、彼...
シュウの話、第42話。最終入団試験。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. 双月暦715年2月、エヴァはアドラー騎士団に入団するべく、試験に臨んでいた。 軍人一家で代々士官・将軍を輩出する名家といえど、それだけでやすやすと通されるほど試験は甘くなく、彼女も規定通りに一次試験から参加していた。とは言え元より英才、文武両道のご令嬢として、外国の雑誌にも取り上げられるほどの実力の持ち主である。一次試...
シュウの話、第41話。微笑ましさの裏に。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -4. リモード共和国での取材を終え、故郷に帰ってからも、シュウとエヴァの友情は続いていた。シュウ「今度の夏季インターンは 別の国に取材に行く予定だよ」エヴァ「また来てくれると思ったけど 残念だな」シュウ「行きたいんだけどね」シュウ「あ でもインターン終わって秋期始まるまでちょっとあるから」シュウ「2日か3日くらいなら行け...
シュウの話、第40話。おともだち。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -3. 夕方になり、シュウは持って来た服と市街地で買ったアクセサリでできる限りのおめかしをして、エヴァとの夕食に臨んだ。(ちょっと早く来ちゃったかな。……コレでいいよね? うん、かわいいし、多分ドレスコードも満たしてるはず) レストランの入口のガラスで、失礼のない服装であるかを何度も確認する。と――。「すまない。待たせたな、シュウ」...
シュウの話、第39話。不思議の国。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -2.「ソレじゃ、あの、コレで取材終わりで、はい」 初めてのインタビューを終えたシュウは、カチコチとした仕草でスマホをしまった。と、彼女を取材に連れてきた出版社の先輩、カニートがシュウの腕を小突く。「シュウちゃん、言ったろ? はじまりとおわりに必要なことは?」「……あっ、挨拶! ごめんなさい! ありがとうございました!」 慌ててシ...
シュウの話、第38話。はじめてのおしごと。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -1. え? わたしのお話ですか? いやー、えーと、ソレはちょっと。取材中ですし……あ、そうですね、止めればいいんですよね。……コレで止まったかな。コホン、わたしの名前はシュウ・メイスンで、……ってコレ、最初に言ってましたね。ごめんなさい、まだ慣れてなくって、……ああそうそう、続きですね。今は大学生なんですけど、夏休みにインター...
この長編小説では当初主役として舞台前面で照明を浴びて目立っていたものが、読み進むにつれやがて少しずつその存在を希薄にしてゆきます。反対にそうした全般的な流れに逆らうようにして、それまで目立たなかった脇役たちが舞台の袖から登場してきます。長く主役をはってきたものは翳り、それに代わりそれまで役割も明確ではなかったものが新たに活躍を始めます。 まず社交界で、次に恋愛において起きる大きな変化を追ってみますが、それに重なるようにして主人公マルセルの内面においても大きな変化が起き、主人公は変貌することになります。<ゲルマント公爵家の没落> 社交界の中心となるのは、なんといってゲルマント公爵家です。王家とも…
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