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ウクライナ戦争を誘発した遠因として、しばしば「ブダペスト覚書」に基づくウクライナの核放棄が指摘されています。同覚書によって、ウクライナは同時に核の抑止力をも失ったからです。事実を直視しますと、「ブダペスト覚書」とは、NPTの縮図にも見えてきます。核兵器を手放したウクライナと核放棄の見返りに同国の安全を保障したアメリカ、イギリス並びにロシア等との関係は、NPTにおける非核保有国と核保有国との間の関係との相似形であるからです。ウクライナは、結局、約束を反故にされて騙される形となったのですが、核保有国による核兵器使用の可能性が高まる今日、核攻撃のリスクに晒されている非核保有国の多くでは、核保有国、否、NPT体制の背後で蠢いてきた世界権力によって‘騙された’とする感情が湧いていることでしょう。もっとも、ウクライナ...「ブダペスト覚書」の教訓-日台同時核武装が対中戦争を防ぐ
ウクライナのゼレンスキー大統領は、同国と交戦状態にあるロシアのプーチン大統領からの威嚇を受けて、自国の核武装を断念したと報じられています。両大統領のやりとり、すなわち、ゼレンスキー大統領が事実上の‘白旗’を揚げるに至るプロセスは、マスメディアの報道によって国際社会が知るところとなったのですが、ウクライナの核武装断念は、NPT体制を維持するための茶番であった可能性も否定はできないように思えます。何故ならば、ウクライナが本気で戦争を遂行しているならば、あくまでも核武装を目指すはずであるからです。自国の主権が危機的な状況にある場合の脱退は、NPTに定められている合法的な行為です。しかも、国連憲章の第51条では、個別的であれ、集団的であれ、全ての諸国に正当防衛権を認めているのですから、抑止力を目的とした核保有は、...ゼレンスキー大統領の核武装断念の意図
報道に因りますと、ロシア外務省のザハロワ情報局長は、米軍による日本国への核配備について言及し、‘地域の安定を崩壊させる’として強く牽制したそうです。ロシア側の威嚇とも言える発言の背景には、石破首相によるアジア版NATO創設、並びに、核シェアリング等の提唱があり、この動きを未然に抑える意図があったとも解説されています。石破首相の核シェアリング論は、‘核の傘’が閉じられる事態への対処をも含む踏み込んだ内容を特徴としています。現状にあって、日本国内では、仮に日本国がロシア、中国、北朝鮮等の核保有国から核攻撃を受けた場合、アメリカが、自国への報復核攻撃を覚悟してまで日本国のために相手国に核を使用するはずはない、とする懸念が、水面下にあって静かに広がっていました。そこには、同盟国に対する根強い不信感があります。平時...日本国の核の意思決定参加要求が問い詰める先は?
体制という言葉の語感には、良しにつけ悪しきにつけ、どこか安定性をイメージさせるものがあります。NPT体制につきましても、IAEAによる査察制度を伴う形で締約国に核兵器の不拡散を法的に義務付けているのですから、人々が、非人道的な兵器である核の脅威を取り除き、国際社会の安定に貢献していると信じ込むのも無理からぬことです。しかしながら、‘核なき世界’の理想を目指して発足したNPT体制は、現実にあって国際社会に安定と平和をもたらしているのでしょうか。平和的解決手段、即ち、合意や法的解決のための制度は別として、国際社会において、力による安定を求めるならば、大きくは(1)支配型と(2)従属型(3)均衡型の三者に分けることが出来ます(‘司法型’は警察組織とセットですので、ここでは扱わない・・・)。支配型は、力に勝る国が...NPT体制の不安定な構造-計画された不安定性?
アメリカの銃社会に対する批判として、しばしば日本国の銃刀法が引き合いに出されます。確かに日本国は、同法によって一先ずは‘銃なき社会’が実現しています。しかしながら、同法の歴史を振り返りますと、必ずしもその目的が人々の安全を護るためではなかったことに気付かされます。日本国の銃規制の歴史を辿りますと、明治政府によって廃刀令が発せられたのは明治6(1873)年であり、その後、明治43(1910)年には、鉄砲類の所持については登録制となりました。もっとも、今日の銃刀法の起点は、第二次世界大戦後の連合国による占領政策にあります。1945年9月から翌年にかけて、GHQは、日本国の武装解除を目的として民間人の所有する刀剣類を米軍に引き渡させると共に、ポツダム勅令として鉄砲類の所持を禁じたのです(銃砲等所持禁止令)。現行...NPT&核兵器禁止条約は‘刀狩り’か-世界支配の構造的基盤
力には破壊力と抑止力との二面性がありますので、常々、武器類の禁止をめぐっては議論が起きます。アメリカにあって、無辜の市民が犠牲となる痛ましい銃事件が度々発生しても、銃禁止一色に世論が傾かない背景には、銃なくして自らの身を守ることができない現実があります。銃を保持していれば、銃撃された時には応戦することができますし、銃を見せて‘動くな’と叫べば、相手に犯行を断念させることもできます。この場合、誰も、護身や犯罪の抑止のために銃を所持している人を、道徳的に批判したり、重大な罪として責めたりはしません。犯罪者側にも、自らが銃を使って犯罪を犯せば銃によって反撃されるリスクがありますので、犯罪を自制する強い抑止力ともなるのです。とりわけ、アメリカのように広大な土地に人々が離れ住み、凶悪な事件が起きても警察官が直ぐには...‘銃刀法’になれない核兵器禁止条約-成立要件の欠如
今年、2024年のノーベル平和賞は、戦後、凄惨を極めた原爆被害の経験を語り続け、核兵器廃絶を訴えてきた「日本原水爆被害者団体協議会」におくられることが決定されました。被爆体験を多くの人々に広く伝え、核兵器の非人道性を知らしめたという意味において、平和への貢献として高く評価されたのでしょう。その一方で、同団体は左翼系の核廃絶運動に携わる団体の一つでもありましたので、既に日本国の政治にも影響が出てきているようです。核禁止条約へのオブザーバー参加、あるいは、加盟が取り沙汰されるようになったからです。ノルウェーのノーベル賞委員会の受賞者選定は、かねてより政治色が強いとする指摘を受けてきました。その政治色の一つが核廃絶運動に対する傾斜であり、これまでも、2009年にはプラハでの「核なき世界演説」で核廃絶を訴えたオバ...ノーベル平和賞で懸念される抑止力の否定
NPTの逆効果問題-‘事情の根本的変化’による条約終了は可能
近年の核兵器保有国の動向は、NPT条約が存在していなかった方が、余程国際社会はより平和で安全ではなかったか、という問いをもたらしています。戦争であれ、‘特別軍事作戦’という名の軍事介入であれ、攻撃を仕掛けた側は、決まって核兵器保有国であるからです。この歴然たる事実は、NPTの存在意義に対して根底から疑問を投げかけていると言えましょう。例えば、ここ数日、ロシア・ウクラナ戦争を背景として、攻撃兵器としての核兵器の有用性を積極的にアピールするロシアのプーチン大統領の姿が報じられています。6月21日は訪問先のベトナムにおける記者会見にあって先制攻撃の必要性は否定しながらも、「ロシアの戦略核兵器は完全な戦闘準備態勢にある」と述べています。次いで昨日23日には、軍士官学校の卒業生らを前にして、大陸間弾道ミサイル、戦略...NPTの逆効果問題-‘事情の根本的変化’による条約終了は可能
中国の核自衛論は日本国の核武装を正当化する:現在の核保有状況はNPT条約の正当なる終了事由を満たしているのでは?
先日6月17日、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所は、世界各国の核保有に関する推計を発表しています。同報告に因りますと、核保有国の攻撃力並びに脅威はさらに高まっているようです。核保有国による核戦力の拡大増強は、それだけ非核兵器国の安全が脅かされることを意味するのですが、国際社会はNPT体制の維持を優先し、この現状を看過すべきなのでしょうか。同報告は、核保有について中国の保有する核弾頭数が今年の1月の時点で500発に上り、昨年との比較では90発増えているとしています。しかも、今回の報告では、中国の核の内24発は、初めて「貯蔵弾頭」から「配備弾頭」へと分類を変えています。同ペースで増加し続けますと、10年以内には中国が保有するICMB数は米ロに並ぶとされ、中国は、核を本格的に実戦に投入する体制を整えつ...中国の核自衛論は日本国の核武装を正当化する:現在の核保有状況はNPT条約の正当なる終了事由を満たしているのでは?
本日6月17日の東洋経済オンラインにおいて、第三次世界大戦の可能性について、池上彰氏が‘第三次世界大戦が起きない理由’を語る記事が掲載されておりました。同氏の説明に因りますと、ロシア・ウクラナ戦争であれ、イスラエル・ハマス戦争であれ、軍事的な抑止力によって第三次境大戦への連鎖的拡大が制止される、ということのようです。ところで、この見解は、幾つかの重要な真実を暴露しているように思えます。第一の真実は、戦争の最大の抑止力は、核兵器であるというものです。NATO諸国がロシアと直接に戦う事態に至れば、当然にロシア・ウクライナ戦争は、集団的自衛権の発動により第三次世界大戦へと発展することが予測されます。しかしながら、このNATO参戦は、ロシアによる核兵器使用の脅迫によって封じられているというのです。言い換えますと、...NPTが悪で核武装が善では?-第三次世界大戦の抑止
近年、ノーベル平和賞の受賞者には、バラク・オバマ元米大統領やICANなど、核兵器廃絶に尽力した人たちが目立つようになりました。日本国では、唯一の被爆国ですので、戦後、一貫して反核運動が盛んであったのですが、国際社会を見ましても、核兵器に対する反対運動は強い影響力を発揮してきました。核廃絶を求める同運動は、平和を求める人類の良心の声のようにも聞えます。しかしながら、その一方で、核兵器を特定国にのみ保有を許す現行のNPT体制が、その実、全世界を対象とした核の配分による支配体制の構築のための戦略であったとする視点からしますと、同運動は、平和に資するものとして無条件に賞賛されるべきものでもないように思えてきます。もちろん、核廃絶運動に取り組む人々の大多数は、平和を願う気持ちから同運動に参加しているのでしょう。組織...反戦より反核に熱心な奇妙な平和主義者たち
核兵器については、これまで、攻撃兵器にして大量破壊兵器という一面からしか議論されない状況が続いてきました。この延長線上にNPT体制の成立や核兵器廃絶運動があり、何れも、その前提として核兵器=非人道的兵器=絶対悪というイメージがすり込まれてきました。いわば疑うことの許されない‘絶対真理’の如くと化し、核の存在に拒絶反応を示す人も少なくありません。しかしながら、核兵器に限らず、軍事力には、攻撃力と抑止力という二面性がありますので、核兵器に対する視点の攻撃面への偏りは、核兵器の効果や作用の全体像を見失わせ、むしろ、悪用されるリスクを高めていると言えましょう。実際に、核兵器国による非核兵器国に対する傲慢な態度には、目に余るものがあります。そこで、先ずもって核兵器の抑止力についてもその効果を認めるべきであり(実際に...核兵器という世界支配の道具-核の配分権の問題
原爆投下人類救済論を主張するならば全ての諸国に核保有を認めるべき
日本国に対する非人道的な大量虐殺である原爆の投下は、国際法上の違法行為でありながらも、米ソ超大国が角を突き合わせた冷戦期にあって、核戦争の恐怖が人類を救ったとする‘見せしめ論’によって、違法性の阻却が主張されてきました。結果論としては、同主張にも一理があるようにも聞えるのですが、今日の世界情勢を考慮しますと、今一度、同論について考えてみる必要ありましょう。ここ数日の間、原爆投下の違法阻却事由について記事を書いてきたのも、この問題が極めて今日的であるからです。‘見せしめ’による人類救済論とは、端的に申しますと、刑法の分野で言えば、犯罪抑止効果による正当化、ということになりましょう。リベラル派の人々は、刑罰については常々抑止効果に対して否定的なのですが、何故か、原爆投下となりますと、それが如何に非道であったと...原爆投下人類救済論を主張するならば全ての諸国に核保有を認めるべき
第二次世界大戦末期、連合国側のみならず、枢軸国側でも核兵器の開発が急がれていました。現実には核兵器開発競争はアメリカが先んじることとなったのですが、可能性としては、日本国のみの開発成功、並びに、日米両国による同時開発のケースもあり得ないわけではありませんでした。昨日の記事では、前者について考えてみたのですが、本日は、後者の日米同時開発のケースについて論じたいと思います。原爆投下に関する違法阻却事由としては、アメリカにおきましては、核の抑止力による人類救済論が一般的です。悪しき行為でありながらも、そこに神の采配とも称されるべき正義を見出そうとする見解です。‘神は、悪からも善を引き出す’と申しますので、人類救済論は、原爆を投下した側となるアメリカ国民を強く惹きつけるのも理解に難くはありません。結果論からすれば...日米による核兵器同時開発のケースを考える
第二次世界大戦末期にあって、核分裂から生じる膨大なエネルギーを破壊力として用いる核兵器の開発は、連合国側であれ、枢軸国側であれ、戦争当事国の至上命題でもありました。同兵器を手にした側が、圧倒的に有利になることが予測されたからです。戦局の悪化で追い詰められていた日本国もまた、同兵器の開発に一縷の望みを抱いていたのです。戦争末期の核兵器開発競争は、結局、ナチスによる迫害を逃れてアメリカに渡ってきた科学者達の貢献もあって、アメリカの勝利に終わります。そしてそれは、第二次世界大戦における連合国の勝利をも意味したのです。かくして第二次世界大戦は、アメリカによる核兵器の開発成功に終わるのですが、核兵器の存在は、その後、国際社会に多大なる影響を与えることになります。しかしながら、核兵器とは、そもそも国際法違反となる都市...核兵器開発競争から考える違法阻却事由
原爆投下は国際法違反であった-違法行為の阻却事由はあるのか?
第二次世界大戦下にあって原子爆弾の開発に携わり、「原爆の父」とも称されることとなった理論物理学者、ロバート・オッペンハイマーの半生を描く映画『オッペンハイマー』が、昨年、アメリカで制作されました。アカデミー賞を受賞した注目作品となったのですが、同映画の公開を機に、原子爆弾の投下の是非をめぐる議論も起きています。世界最初にして唯一の被爆国となった日本国では、原爆の残虐性が描き切れておらず、不満が残る作品とする評が少なくない一方で、アメリカ国内では、若い世代には若干の変化が見られるものの、原爆投下を正当化する意見が今なお優勢です。アメリカ人が支持してきた原爆投下の正当化論とは、原子爆弾がアメリカの若き兵士達の命を救うと共に、来るべき本土決戦において一億玉砕を覚悟していた日本人の命をも救うのみならず、戦後にあっ...原爆投下は国際法違反であった-違法行為の阻却事由はあるのか?
大手マスメディアは、アメリカのオバマ元大統領については常に好意的な記事を書く傾向にあります。先日も、最もIQの高い大統領として持て囃す記事もあったのですが、同大統領に対する異様に高い評価は、ノーベル平和賞の選考と同様に、核廃絶という一つの物差しで測った結果なのかもしれません。核兵器=絶対悪という固定概念あってこその受賞なのですが、核の抑止力が冷戦期にあって第三次世界大戦を防いだとすれば、全く逆の評価もあり得ます(物事の評価には、‘物差し’そのものが間違っているケースも・・・)。一面からの評価は、必ずしも全ての人々を納得させるわけではないのです。オバマ元大統領に対する賞賛を過大評価ではないかと疑うもう一つの理由は、先ずもって‘世界の警察官’を止めたことにありましょう。何故ならば、この‘辞職’は、アメリカ合衆...トランプ前大統領のNATO撤退論を考える
東京都は、北朝鮮によるミサイル発射並びに台湾有事に備えるために、地下シェルターの整備を進めるそうです。ミサイル攻撃に対する防御施設ですので、専守防衛の基本方針からしますと、国民の命を守る地下シェルターの建設に対しては、多くの国民が賛同することでしょう。しかしながら、その一方で、国民の命を守るという政府の基本的な役割を考えますと、作業の順番が違っていると思うのです。先ずもって、地下シェルターの設置は、他国、あるいは、外部勢力からのミサイル攻撃を受忍する政府の基本姿勢を示唆しています。有事になれば、ミサイルが飛んできますが、戦争なので致し方なく、国民の避難場所として地下シェルターを設置することで対処します、という、政府のどこか諦めたような、あるいは、冷めた心根が伝わってくるのです。地下シェルターを造るのだから...地下シェルターより核の抑止力では?
第二次世界大戦に至るまでの経緯、並びに、その展開を注意深く辿りますと、連合国枢軸国を問わずに、‘何故、ここでこの判断をするの!’という場面に何度も遭遇します。日ソ中立条約、真珠湾攻撃、ヒトラーによる対米宣戦布告、そして、二度の原子爆弾の使用など、不可解で非合理的な出来事の連続なのです。この不可解さは、第二次世界大戦の計画性を十分に疑わせるのですが、意図的な世界大戦の危機は、同戦争をもって地球上から消え去ったわけではないようです。今日の世界情勢を見ても、ウクライナ紛争にせよ、イスラエル・ハマス戦争にせよ、不審点に満ちています。戦争回避のチャンスがありながら、何れの政治家も組織も、意図的にチャンスを逃した、あるいは、敢えて開戦に協力したとしか考えられないのです。ウクライナのゼレンスキー大統領についても、‘凶暴...戦争回避兵器の保有・配備を
昨今、メディアでの多くは、ウクライナ側の反転攻勢が功を奏し、ウクライナ側によって一部占領地の奪還に成功したとするニュースが流されています。ウクライナ優勢のイメージが振りまかれる一方で、アメリカのインタヴュー番組に出演したゼレンスキー大統領は、‘ロシアが勝てば第三次世界大戦になる’と述べたと報じられております。ウクライナ側の勝利が目の前に迫っているのであれば、出てこないような台詞なのですが、同大統領によるアメリカ並びに全世界の諸国に対する警告として受け止められています。日本国内でも、ゼレンスキー大統領の発言を受けて、‘ロシアが勝利すれば日本国も危ない’、‘北海道も侵略されかねない’、‘中国が勢いづいて暴挙に出る’・・・といった懸念の声が上がっており、何れも、‘ウクライナ支援は日本国の安全を保障する’とする結...ゼレンスキー大統領を止めるという発想
極めて近い将来において、開発競争を経て指向性エネルギー兵器は実用化されることでしょう。そして、同兵器の登場は、核兵器をも越える脅威となり、人類を地獄に突き落とすかもしれません。しかしながらその一方で、使い方を間違えない、即ち、防衛兵器に特化、限定すれば、人類を戦争の恐怖から完全に解放する可能性をも秘めていると言えます。何れにしても、現在はまさに核兵器を主軸とするNPT体制から別の体制へと移る過渡期にあり、人類は重大な岐路に立たされていると言えましょう。そして、過去と現在と未来が混在する過渡期ほど、不安的な時期はありません。過去の延長線上において現在の事柄を決断することができない一方で、未定の未来のみを想定してこれを決めることもできないからです。言い換えますと、過去と未来との狭間にあって、過去に対応しつつ、...過渡期の安全保障政策とは-指向性エネルギー兵器の出現
現在、指向性エネルギー兵器の開発は、世界軍事力ランキングにあって上位を占めるような軍事大国を中心に進められています。日本国もその一国であり、先日、日米両国政府が共同プロジェクトとして開発に合意した極超音速ミサイル迎撃システムでも、同技術の導入が予測されます。中国やロシア等によるミサイル発射を瞬時に把握するためには、これらの諸国の領空を越える宇宙空間からの監視が必要ですので、衛星ネットワークと指向性エネルギー兵器を組み合わせは、グローバルな視点からは極めて合理的な発想と言えましょう。計画されている「衛星コンステレーション」は、地球全体のカバーを目的としているのですが、一国の防衛並びに安全保障の観点からしますと、必ずしもこれほどに大規模なシステムを要しないのかもしれません。監視対象が地球全体でなければ、単体の...非核兵器国による指向性エネルギー兵器の開発
既に実用化段階にあるとされる指向性エネルギー兵器の登場は、国際社会における防衛や安全保障のあり方を根底から揺るがす可能性を秘めています。その理由は、あらゆるミサイルを迎撃する技術として、戦後、人類を滅亡させかねない大量破壊兵器とされてきた核兵器をも無力化してしまうからです。ミサイル攻撃という攻撃方法そのものをも過去のものとして葬り去るのですから、軍事分野に与えるその衝撃は計り知れません。しかしながら、‘核なき世界’への期待は、いささか早計に過ぎるように思えます。指向性エネルギー兵器については、決して楽観視することができない幾つかの負の側面を挙げることができるからです。先ずもって指摘され得るのは、核の抑止力をも無力化する点です。今般、日米間で合意された極超音速ミサイルの迎撃システムは、同ミサイルを先行して開...指向性エネルギー兵器の登場によるゲーム・チェンジ
日本国は、第二次世界大戦の末期にあって原子爆弾が投下された、唯一の被爆国として知られています。広島並びに長崎における原爆による惨状は筆舌に尽くしがたく、壮絶な被爆の経験は、日本国にあって激しい反核運動や核廃絶運動の原点ともなってきました。その多くは、‘民間人をも大量に殺戮する非人道的な兵器である原子爆弾が、二度と炸裂することがあってはならない’とする一途な願いから発しているのでしょう。かくして、原子爆弾という存在そのものが‘絶対悪’とされ、日本国の核武装の選択肢もはじめから‘存在してはならないもの’としてタブー視されてきたのです。しかしながら、現下のウクライナ紛争のみならず台湾有事も現実味を帯び、第三次世界大戦への拡大さえ懸念される今日、核武装を‘絶対悪’と見なす論調は、むしろ、核兵器国の軍事行動をサポー...核武装は‘絶対悪’なのか?-日本国の選択肢
台湾における麻生自民党副総裁の‘戦う覚悟発言’については、‘抑止力の強化’という前置きが強調されたことで、今では、日本国内の保守層を中心にマスメディアによる政権批判誘導と見なす傾向にあります。同副総裁は、ストレートに台湾有事に際しての対中開戦を主張したわけではなく、‘日米台三国間による連携を基盤とした有事体制の強化が、中国に対する心理的な圧力となって同国の軍事行動を抑制する’と述べたに過ぎないとする解釈は成り立ちます。その一方で、抑止力を期待した一種の威嚇であれ、言語表現としては明らかに戦争を想定していますので、意図された‘挑発’と見なされる要素を含んでいることも疑い得ないことです。過去の歴史にあって戦争を機に巨万の富とグローバルな支配力を手中にしてきた世界権力、並びに、同勢力と麻生副総裁との間のパーソナ...‘戦う覚悟’よりも‘戦わない覚悟’を-台湾の核保有
‘ウクライナに対して核兵器を供与すべき’とでも主張しようものなら、平和主義者のみならず、‘世界’というものから強い反発を受けそうです。大手メディアをはじめ、各国政府もからもウクライナの核武装はあり得ない、として即座に却下することでしょう。しかしながら、軍事大国に対しても抑止力を発揮する核の効果を考慮しますと、ウクライナの核武装は、最初から選択肢から外すのは早計であるように思えます。それでは、ウクライナの核武装は論理的に正当化できるのでしょうか。第1に、NPTのように戦争当事国の一方に対してのみ兵器に関する制約を課すことは、ナンセンスの極みです。かつて、チンギス・ハーンが世界帝国を建設し得たのはモンゴルの機動力に優れた騎馬部隊に追うところが大きく、銃火器の発明とその使用が世界史を大きく変えたことはよく知られ...ウクライナの核武装は正当化できるのか?
昨年の2022年6月、民間の人権団体であるアムネスティ・インターナショナルが、ロシア軍がハルキウでクラスター爆弾を使用したとする調査報告書を発表しました。クラスター爆弾とは、多数の小型弾や地雷を搭載した大型爆弾であり、これを使用しますと、広範囲に亘って殺傷・破壊効果が及びます。建物に対する破壊力は低いものの、絨毯爆撃と同様の殺傷力を有するため、投下された場合には多数の民間人の被害も予測されるのです。このため、国際社会は非人道的兵器かつ復興の阻害要因として同兵器の規制・禁止の方向へと向かい、2010年8月には「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」も発効しました。オスロ条約では、クラスター爆弾について、その使用、開発、製造、取得、貯蔵、保持、並びに移譲の何れの行為が禁止されています。日本国も発効に先立って加...ウクライナの米提供クラスター爆弾使用の行方
今月の6月15日、ロシアとウクライナとの間で戦術核配備に関する協定書が調印されました。ベラルーシは、地理的にはロシアともウクライナとも国境を接してはいるものの、紛争当事国ではありません。ロシア側の言い分とは、NATO側が反転攻勢を狙ってウクライナへの軍事支援を強化している以上、自らの陣営も攻守両面において軍備増強を図らねばならず、NATOの最前線となるポーランドとも国境を接しているベラルーシへの核配備もその一環である、ということなのでしょう。言い換えますと、ロシアによる同盟国への核兵器配備の原因を造ったのはNATO側であり、最悪の場合、今後、紛争がエスカレーションして第三次世界大戦並びに核戦争にまで発展したとしても、その責任を負うべきはNATOであると主張しているのです。かくして、ウクライナ紛争は、遂に当...ベラルーシ核配備がウクライナ核武装を実現する?
G7サミットの広島開催が決定して以来、日本国の岸田首相は、同サミットが歴史的なイベントとして記憶されるよう、演出には余念がなかったようです。広島が被爆地と言うこともあり、「広島宣言」によって「核なき世界」に向けた力強いメッセージを発すると共に、ウクライナのゼレンスキー大統領まで参加したのですから。主役のはずの岸田首相の影も薄くなってしまったのですが、もちろん、同イベントの脚本家は、アメリカ、あるいは、その背後にG7を操る世界権力であったのでしょう。日本国政府が、独自の判断で紛争当事国のトップを招けるはずもなく、フランス政府専用機での到着も既にお膳立てができていた証しとも言えます。ゼレンスキー大統領の突然のサプライズ訪日は、内外に一定のインパクトを与えたのですが、この訪問、改めて国際社会の欺瞞を見せつけてし...広島サミットが明かす国際社会の欺瞞
台湾有事に関しては、今年1月19日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙に米戦略国際問題研究所(CSIS)による机上演習の結果が掲載されたそうです。何れにあっても米軍側が最終的に勝利を収める結果となったのですが、同勝利には、4つの条件が必要とされています。勝利のための条件とは、(1)台湾国民の戦闘参加、(2)武器の事前集積、(3)米軍の在日米軍基地への依存、(4)長距離対艦ミサイル(LRASM)の即時かつ集中投入となります。これらの4つの条件から、日本国も台湾も共に島国ということもあり、幾つかのリスクやそれへの対応が見えてくるように思えます。第1並びに第2の条件は、四方を海に囲まれた島国ですので、上陸してきた人民解放軍との白兵戦が予測されていることを示唆しています。この条件を整えるために、ウォール・スト...CSISの台湾有事机上演習が示唆する日本国の危機
今日の国民国家体系では、国家間の対等性を意味する主権平等が基本原則として確立しています。しかしながら、この原則はあくまでも‘建前’であって、実際には、国力の差により国家間関係が対等ではなくなるケースも少なくありません。軍事力を基準として国際社会全体と構造的に理解しようとする現実主義の立場からも、世界は、パワーを有する大国を‘極’とする、超大国による二極構造や三極構造、あるいは、幾つかの大国によって構成される多極構造として説明されます。軍事ではなくマネーをパワーの主要な源泉と見なすならば、もしかしますと、世界は、既に金融・経済財閥が牛耳る一極支配に近づいているのかもしれません。何れにしましても、その源泉が何であれ、パワーというものは個々の関係性に多大な影響を与えますので、平等原則を損なう作用があります。否、...核保有は主権平等を実現する-核は多面的に評価を
中国の習近平国家主席が台湾の武力併合をも辞さない構えを見せている今日、台湾有事が、日本国の安全を直接的に脅かす事態であることは、誰もが認めるところです。アメリカのバイデン政権はウクライナ紛争への介入の度を強めており、同政権の介入主義的な方針からすれば、台湾有事に際して同様の対応を採ることが予測されます。台湾有事につきましては、あらゆる手を尽くしてこれを未然に防ぐのが最善の策です。平和的な解決手段としては、台湾の国際法上の独立的地位を確認訴訟を通して確立するという方策もあるのですが、各国の政治家の怠慢や中国、あるいは、世界権力の妨害により、阻止されてしまう可能性があります。このため、多方面からのアプローチを同時に進める必要があるのですが、軍事的手段としては、抑止力に期待する同国の核保有があります。そして、核...核保有が日本国の戦場化を防ぐ-台湾有事への対応
NPT体制とは、「オセロゲーム(リバーシ)」に喩えれば、初期設定において核兵器国によってゲーム板の四隅に既に石が置かれているようなものです。同ゲームでは、四隅に自らの石を置いたプレーヤーが圧倒的に有利となり、最終局面で勝敗を逆転させることができます。これをNPT体制に当てはめますと、核兵器国は、既に四隅を確保しているため、対戦相手となる非核兵器国が如何に通常兵器で善戦しても、最後の局面では一気に勝敗がひっくり返されてしまうのです。NPT体制における核兵器国の絶対的な非核兵器国に対する優位性は、核兵器国による軍事行動を引き起こす要因ともなり得ます。今般のウクライナ危機についても、ウクライナが「ブダベスト覚書」に基づいて核放棄に応じていなければ、ロシアは軍事介入を控えたであろうとする憶測があります。非核兵器国...ウクライナ紛争が示唆する台湾有事未然防止策
ウクライナ紛争については、抑止面においても強力な手段となる核武装が、新たな局面を開く可能性があります。不法に核を保有するに至ったかの北朝鮮でさえ、軍事大国アメリカとの直接交渉を実現しており、核保有には、攻撃に対する抑止効果のみならず、当事国双方に対等の立場を与えるという意味において、交渉促進効果も期待されるからです。ところが、不思議なことに、ウクライナのゼレンスキー大統領は、NATO諸国に対して主力戦車では物足りず、戦闘機や長距離ミサイルの供与を求めながら、決して核兵器の供与を言い出しません。ウクライナ側も核兵器を保有すれば、ロシアとの間に‘核の平和’が実現する道も開ける可能性があるにも拘わらず・・・。その一方で、ウクライナを支援するNATO側も、同国に対する核の提供については口をつぐんでいます。各国政府...歴史の転換点を迎えた人類-ウクライナ紛争への懐疑
核の供与を求めないゼレンスキー大統領の不思議-核ファクター問題
今般、アメリカ並びにドイツがウクライナに対する主力戦車の供与を決定した背景には、今春にも実施が予定されているロシア側による大規模な攻撃計画があるとされています。NATOからの軍事支援無くして自力での防衛は困難と悟ったゼレンスキー大統領が強く供与を求め、その要請に応えたのが、今般のNATO諸国による主力戦車供与という筋書きとなりましょう。主力戦車が投入されれば、ウクライナ側は、ロシア側の大攻勢に軍事力で対抗し得ると共に、クリミアを含むロシア軍によって占領されている地域を奪回できる可能性が飛躍的に高まるのですから、同決定は、‘鬼に金棒’のようなものなのです。メディアの報道も、NATO側が供与した主力戦車が登場すれば、侵略国家ロシアのヨーチン大統領の野心は砕かれ、国際秩序が護られるというものです。確かに、NAT...核の供与を求めないゼレンスキー大統領の不思議-核ファクター問題
ウクライナ紛争をめぐっては、ロシアによる核兵器使用の如何が常々議論の的となってきました。アメリカ政府並びに軍部では、ロシアが戦術核のみを使用するケース、戦略核の使用に及ぶケース、両者を併用するケースなど、様々な事態を想定した対応が既に協議されているそうです。バイデン政権は明言を避けつつも、メディアや識者等の大方の見解では、何れにせよ、人類滅亡を意味しかねない核戦争への発展を怖れ、たとえロシアが核を使用したとしても、通常兵器によって対抗するものと予測されています。こうした核使用をめぐる一連の動きを見ますと、ウクライナのゼレンスキー大統領の判断は、‘悪しき前例’となりかねないと思うのです。それでは、何に対する‘悪しき前例’であるのか、と申しますと、核兵器国と非核兵器国との間で‘戦争’が起きたときの対応です。ウ...ウクライナは‘悪しき前例’?-コントロールされた戦争?
中国による台湾侵攻が現実味を帯びる中、日本国政府も、同国による軍事的脅威を根拠として防衛費増額に踏み切る方針を固めたようです。敵基地攻撃能力の保持や反撃力が議論されてはおりますが、政府やメディアの説明を聞いておりますと、最も重要な観点が抜け落ちているように思えます。それは、中国の核戦略です。泥沼化も懸念されているウクライナ紛争では、ロシアによる核兵器の先制使用の可能性が取り沙汰されることとなりました。その理由は、2020年6月にプーチン大統領が署名した「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎について(核抑止力の国家政策指針)」において示した核使用条件の一つに、「通常兵器によるロシアへの侵略により存立危機に瀕したとき」というものがあったからです。ロシア軍の劣勢を受けて、プーチン大統領も、核の先制使用に...中国の核戦略抜きの防衛議論は空論に
核兵器使用禁止条約は、ある特定の他害行為を全てのメンバーに禁じるための仕組みとはどのようなものなのか、という人類社会の基本的な問題を問いかけています。国内レベルであればこの答えは比較的簡単であり、大多数の人々が、先ずもって同行為を禁じる禁止法を根拠として活動する警察並びに司法機関の必要性を指摘することでしょう。しかしながら、国際レベルとなりますと、この国家モデルを採用することは極めて困難となります。治安維持機能のための制度設計という側面からしましても、今日の国際組織には、同機能を任せ得る機関は存在していません。国家モデルでは、中立的であり、かつ、独立的な警察機関がそれに付与された物理的な強制力をもって違反者の取り締まりを担いますが、国際社会にあっては、国連という組織はあっても、必ずしもそれが警察機能を提供...核兵器使用禁止条約における核使用の未然防止について
核兵器の抑止力を最大化する一方で、攻撃力を最小化するには、核兵器については全諸国に対して保有を認める一方で、その使用を禁じる必要があります。この方向転換により、諸国間に相互抑止作用が働き、核使用の可能性、即ち核戦争に至る可能性は格段に低下することでしょう。しかしながら、核戦争の予防をより確実にするために、現行のNPTに代わる一般国際法としての新たな条約―核使用禁止条約―を制定し、国際的な核制御システムを導入するとすれば、その基礎となるのは、核兵器の保有禁止ではなく、使用の禁止、しかも、罰則規定付きの条約に基づくシステムということになりましょう。それでは、何故、罰則規定を設ける必要があるのでしょうか。NPTにおいては、「核兵器国」及び「非核兵器国」の何れに対しても、同条約に違反した国に対する罰則はありません...核兵器使用禁止条約の多重抑止体制
核兵器の廃絶は、一国でも核兵器を保有する国が出現した時点で、殆ど不可能な目的となります。言い換えますと、核兵器の保有を禁止したいならば、誰もがそれを手にしていない段階、即ち、全ての諸国の立場や条件が同一である状態で行なうべきであったと言えましょう。しかしながら、核兵器は、戦時下にあって双方による勝利を決定づけるための‘絶対兵器’の開発競争の過程で登場していますので、全面的な核兵器の禁止が可能な状態まで時計の針を逆回りに戻すことはできないのです。核兵器の廃絶が絶望的であるとしますと、核戦争を回避するには、どのようなシステムを造ればよいのでしょうか。先ずもって、NPTは、適用の一般性に欠けた不平等条約であるために一般国際法の要件を欠いています。NPT、否、核に関する行動規範を定める国際法を定めるならば、その選...NPT体制に代わる核戦争回避システムとは?