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ウクライナ紛争をめぐっては、ロシアによる核兵器使用の如何が常々議論の的となってきました。アメリカ政府並びに軍部では、ロシアが戦術核のみを使用するケース、戦略核の使用に及ぶケース、両者を併用するケースなど、様々な事態を想定した対応が既に協議されているそうです。バイデン政権は明言を避けつつも、メディアや識者等の大方の見解では、何れにせよ、人類滅亡を意味しかねない核戦争への発展を怖れ、たとえロシアが核を使用したとしても、通常兵器によって対抗するものと予測されています。こうした核使用をめぐる一連の動きを見ますと、ウクライナのゼレンスキー大統領の判断は、‘悪しき前例’となりかねないと思うのです。それでは、何に対する‘悪しき前例’であるのか、と申しますと、核兵器国と非核兵器国との間で‘戦争’が起きたときの対応です。ウ...ウクライナは‘悪しき前例’?-コントロールされた戦争?
中国による台湾侵攻が現実味を帯びる中、日本国政府も、同国による軍事的脅威を根拠として防衛費増額に踏み切る方針を固めたようです。敵基地攻撃能力の保持や反撃力が議論されてはおりますが、政府やメディアの説明を聞いておりますと、最も重要な観点が抜け落ちているように思えます。それは、中国の核戦略です。泥沼化も懸念されているウクライナ紛争では、ロシアによる核兵器の先制使用の可能性が取り沙汰されることとなりました。その理由は、2020年6月にプーチン大統領が署名した「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎について(核抑止力の国家政策指針)」において示した核使用条件の一つに、「通常兵器によるロシアへの侵略により存立危機に瀕したとき」というものがあったからです。ロシア軍の劣勢を受けて、プーチン大統領も、核の先制使用に...中国の核戦略抜きの防衛議論は空論に
警察の主要な任務の一つは、現行犯への対応です。一般社会にありましても、殺傷事件が発生した場合、一〇〇当番による通報により警察がいち早く駆けつけ、一悶着の末に犯人逮捕で終わるのが一連の流れしてイメージされています。皆が事件の無事解決に安堵するのですが、よく考えてみますと、これで一件落着なのか、と申しますと、そうではないように思えます。殺人事件であれば、失われた尊い命は決して戻ってはこないからです。戦争におきましても同様であり、被害の不可逆性は否定のしようもありません。「核兵器使用禁止条約」における執行機能を考えるに際しましても、核兵器の先制使用が取り返しの付かない民間人虐殺をもたらす点には慎重な配慮を要しましょう。競争や競技の開始時点については必ずそれを同一にしなければならないように、勝負事にありましては、...核の先制問題-‘現行犯’への対応の限界
核兵器使用禁止条約は、ある特定の他害行為を全てのメンバーに禁じるための仕組みとはどのようなものなのか、という人類社会の基本的な問題を問いかけています。国内レベルであればこの答えは比較的簡単であり、大多数の人々が、先ずもって同行為を禁じる禁止法を根拠として活動する警察並びに司法機関の必要性を指摘することでしょう。しかしながら、国際レベルとなりますと、この国家モデルを採用することは極めて困難となります。治安維持機能のための制度設計という側面からしましても、今日の国際組織には、同機能を任せ得る機関は存在していません。国家モデルでは、中立的であり、かつ、独立的な警察機関がそれに付与された物理的な強制力をもって違反者の取り締まりを担いますが、国際社会にあっては、国連という組織はあっても、必ずしもそれが警察機能を提供...核兵器使用禁止条約における核使用の未然防止について
核兵器の抑止力を最大化する一方で、攻撃力を最小化するには、核兵器については全諸国に対して保有を認める一方で、その使用を禁じる必要があります。この方向転換により、諸国間に相互抑止作用が働き、核使用の可能性、即ち核戦争に至る可能性は格段に低下することでしょう。しかしながら、核戦争の予防をより確実にするために、現行のNPTに代わる一般国際法としての新たな条約―核使用禁止条約―を制定し、国際的な核制御システムを導入するとすれば、その基礎となるのは、核兵器の保有禁止ではなく、使用の禁止、しかも、罰則規定付きの条約に基づくシステムということになりましょう。それでは、何故、罰則規定を設ける必要があるのでしょうか。NPTにおいては、「核兵器国」及び「非核兵器国」の何れに対しても、同条約に違反した国に対する罰則はありません...核兵器使用禁止条約の多重抑止体制
核兵器の廃絶は、一国でも核兵器を保有する国が出現した時点で、殆ど不可能な目的となります。言い換えますと、核兵器の保有を禁止したいならば、誰もがそれを手にしていない段階、即ち、全ての諸国の立場や条件が同一である状態で行なうべきであったと言えましょう。しかしながら、核兵器は、戦時下にあって双方による勝利を決定づけるための‘絶対兵器’の開発競争の過程で登場していますので、全面的な核兵器の禁止が可能な状態まで時計の針を逆回りに戻すことはできないのです。核兵器の廃絶が絶望的であるとしますと、核戦争を回避するには、どのようなシステムを造ればよいのでしょうか。先ずもって、NPTは、適用の一般性に欠けた不平等条約であるために一般国際法の要件を欠いています。NPT、否、核に関する行動規範を定める国際法を定めるならば、その選...NPT体制に代わる核戦争回避システムとは?
考えてもみますと、「非核兵器国」にとりましてNPT体制ほど不条理なものはないかもしれません。何故ならば、大航海時代来、軍事大国が競うように勢力圏を広げる傍ら、金融財閥を中心とした世界権力によるコントロールが浸透した結果こそ、今日の国際社会におけるNPT体制であるからです。核兵器を生み出したのはこれらの勢力であるにも拘わらず、その危険性を理由に中小国が核を保有することを‘国際犯罪化’し、自らはそれを寡占してしまったのです。これは、いわゆる自ら仕掛けて自らを利する‘マッチポンプ’であり、大多数の中小諸国は、核の抑止力を得ることも、核兵器国に対して正当防衛権を発動することも、事実上、封じられてしまいました。しかも、核技術は、原子力発電にも利用されますので、NPTは、「非核兵器国」のエネルギー供給手段をもコントロ...NPT体制の不条理ー核廃絶は不可能では?
NPT体制の致命的欠陥-何故ロシアの核使用問題が発生したのか
NPT体制とは、人類史上にあって最も破壊的で非人道的兵器とされる核兵器による戦争、即ち、核戦争を未然に防ぐための国際システムとして一般的には理解されています。同目的を実現するために、NPTでは、核兵器の保有のみならず、使用の前段階となるテクノロジーの開発並びに核ミサイルの運搬手段(ミサイル等・・・)をも規制の対象としております。核戦争の回避という目的は正しいのですが、今日の状況は理想からほど遠いばかりか、逆に安全保障上のリスクを高める方向に作用しているかのようです。それでは、同体制の逆機能の原因は、一体、どこにあるのでしょうか。第一に、NPTには、違反国を取り締まる仕組みが設けられていない点を挙げることができます。刑法がそうあるように、法律だけが存在していても、違反者がいなくなるわけではありません。警察と...NPT体制の致命的欠陥-何故ロシアの核使用問題が発生したのか
今日の国際社会ではNPT体制が成立しております。このため、現在、核を保有している国は、国連安保理の常任理事国をはじめとしたごく少数に過ぎません。このNPT体制下における核兵器保有国と非保有国との間の非対称性が、今日、国際の平和と安全を脅かす様々なリスクをもたらしているのですが、核保有国による同兵器の使用はあり得るだけに事態は深刻です。ところが、昨日の11月30日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの核兵器使用について否定的な見解を示しています。同大統領の楽観的な発言は、一体、何を意味しているのでしょうか。ロシアの核戦略を見ますと、2020年6月2日にプーチン大統領は「核抑止の分野におけるロシア連邦国家政策の基礎について」を公表し、核使用条件を明らかにしています。回使用の条件とは、(1)ロシア及びその...ゼレンスキー大統領のロシア核不使用発言を考える