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こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 十一世紀に生まれた「聖アレクシス伝」「ロランの歌」などから始まるフランス詩史は、やがて厳格な規則性を持ちフランス韻文詩が形成されていきます。道徳的思想と芸術性を併せ持った美しい詩が数百年ものあいだ生み出され続け、堅固たる伝統的文化としてフランス文学に定着します。心身の美を追求した幾つもの作品は、読者の心を清浄にし、身の穢れを削ぎ落とす、美しい文体と韻律で絵画のように描かれていきました。 十九世紀に入るとナポレオン・ボナパルトの戴冠に始まり、ヴァグラム、ドレスデン、ライプツィヒ、ワーテルローでの激しい戦争、フランス七月市民革命と、民衆が心を落ち…
ひどい翻訳の見本――ボードレール『悪の華』堀口大學訳「信天翁(あほうどり)」全文解説
シャルル・ボードレール生誕200周年を機に『悪の華(1861年版)』の韻文訳に取りかかり、前回「アホウドリ」の新訳のために改めて「L’ALBATROS」の原文を読み直した。この詩は初版の1857年版には収録されていないため、しっかりとすみずみまで読んだのは今回がはじめてである。 悪の華 (新潮文庫)作者:ボードレール新潮社Amazon 新訳にあたっては、参考にするため既存の邦訳も精読することになる。すると、どうしても過去の翻訳にある間違いや欠陥が目についてしまう。私自身の旧訳でもそうなのだ。以前にも書いたことだが、誤訳はどんな翻訳にもある。だから、以前に書いた記事でも、たんなるミスを執拗に非難…
前回新訳を公開した、シャルル・ボードレールの『悪の華』の5番めに収録されている無題詩は、三島由紀夫にとっての『潮騒』(1954年)のような作品だったのではないかと私は考えている。 潮騒 (新潮文庫)作者:三島 由紀夫新潮社Amazon 三島由紀夫も、代表作である『仮面の告白』(1949年)や『金閣寺』(1956年)がまさにそうであるように、鬱々とした内面の苦悩を描くイメージの強い作家だ。その三島が遺した膨大な作品のなかで、唯一の純愛小説と言われているのが、離島で暮らす漁師の少年、新治と、島の外から帰ってきた海女の少女、初江の恋を描いた『潮騒』である。 三島が人生初のギリシャ旅行の「昂奮のつづき…