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RIYO BOOKS https://riyoriyo.hatenablog.com/archive

主に本の感想文を書きます。海外文学が多めです。作家の込めた想いをできる限り汲み取ろうと努めています。

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2022/01/09

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  • 『憂国』三島由紀夫 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 第二次世界大戦争において、日本は敵わぬ科学力に生命を投げ出す形で交戦し、夥しい戦死者と甚大な都市被害を受けて敗戦しました。植民地支配を拒否するようにファシズムという国政で抗いましたが、結果、ドイツやイタリアとともに不平等条約を結ぶことになりました。このような戦争体験を思想とともに執筆した文学を戦後派文学と呼びます。武田泰淳、埴谷雄高、野間宏、椎名麟三、梅崎春生などがこの思潮を固めた代表作家たちで「第一次戦後派」と呼ばれます。荒れた地を復興し、その社会をどのように生きるのかを、彼らはそれぞれの思想を持って訴えました。やがて、復興の兆しを見せた社…

  • 『モルグ街の殺人事件』エドガー・アラン・ポオ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 美の錬金術師ポオ。その美への情熱は精確無比な理知的計算と設計にもとづいてあらゆる作品に発揮されており、読者を怪奇な幻想世界、異常心理の世界へと抗いがたく引きずり込む。ポオの作に傾倒した若きヴァレリはあの「数学的アヘン」を決して忘れることはできぬ、と言った。表題作のほかに「裏切る心臓」「盗まれた手紙」など。 フランス詩の改革者シャルル・ボードレールが敬愛し、ダーク・ロマンティシズムを開拓したアメリカ人作家エドガー・アラン・ポオ(1809-1849)。彼は現在に溢れる推理小説の祖としても名を馳せています。彼が生み出した多くの作品は、彼の人生と内面…

  • 『レクイエム』アンナ・アフマートワ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 戦争と革命の嵐が吹き荒れるなか幾多の苦難をくぐり抜け、監獄の前で差し入れを持って並ぶ列の中で「これを書くことができますか」と問われた詩人がともに苦難の中にある人々への思いをつづった詩篇「レクイエム」。悪事が行われた場所に生えて笛となってその悪をあばいたと言われる伝説の「葦」を表題にかかげ、忘却にあらがって書き続けられた言葉。孤独と絶望の中でささやく女の声が詩となって私たちに届く。 アレクサンドル・プーシキンによって目覚めたロシア文学の黄金期は、レフ・トルストイとフョードル・ドストエフスキーという二大偉人によって牽引され、感化された多くの作家も…

  • 『夜の来訪者』ジョン・ボイントン・プリーストリー 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 息もつかせぬ展開と最後に用意された大どんでん返し──何度も上演され、映画化された、イギリスの劇作家プリーストリーの代表作。舞台は裕福な実業家の家庭、娘の婚約を祝う一家団欒の夜に警部を名乗る男が訪れて、ある貧しい若い女性が自殺したことを告げ、全員がそのことに深く関わっていることを暴いてゆく……。 ジョン・ボイントン・プリーストリー(1894-1984)は、英国を代表する作家の一人です。120を超える彼の著作は、本国において絶版になった作品は無いと言われるほどに英国人の文化に根付いており、今なお思想や哲学の面で影響を与え続けています。自由な思想家…

  • 『灰と土』アティーク・ラヒーミー 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 恥辱をすすげ、息子よ。ソ連軍の侵攻を背景に、村と家族を奪われた父の苦悩をとおして、破壊と混乱のなかに崩れゆくアフガン社会を浮き彫りにする、映像感覚あふれる現代小説。 カーブル生まれの小説家・映像作家、ラヒーミーの第一作である本書は、アフガン社会の生の内面とイスラームの倫理を描き出して、大きな話題を呼んだ。20か国で翻訳。 1973年にクーデターによって王政が廃止されたアフガニスタンは、ソビエト連邦や中国と隣接し、さらにはアメリカと密接な関係をもつパキスタンにも囲まれていました。冷戦下において、大統領のムハンマド・ダウドは各大国を刺激しないよう…

  • 『内なるゲットー』サンティアゴ・アミゴレナ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ホロコーストに消えた母、僕は沈黙することしかできなかった。──第2次世界大戦時、ポーランドに母を残し、アルゼンチンに移住した息子の苦悩を静謐な筆致で描いた仏ベストセラー。 1939年、アドルフ・ヒトラー率いるドイツ軍がポーランドへと攻め込み、首都ワルシャワを占拠してドイツ支配下としました。国政に「反ユダヤ主義」を掲げるナチス党は、自国で起こした「水晶の夜」を繰り返すようにユダヤ人を排斥する政策を推し進めていきます。ドイツはユダヤ人を労働力として奴隷のように扱う計画で、「ゲットー」と呼ばれる強制居住区域へ押し込めました。ユダヤ人たちは、一部屋に…

  • 『クロイツェル・ソナタ』レフ・トルストイ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 転換期以後トルストイの最も円熟した時代に於ける代表作。同名の名曲を聴いた感銘を創作上に表現した傑作。嫉妬のため妻を殺した男の告白を通して、この惨劇が如何なる理由で行われなければならなかったかを迫真の筆で描き、性問題に関する当時の社会の堕落を峻烈に描き出す。肉欲を否定するトルストイの性欲小説。 1803年にウィーンで発表され、今なお最高峰として愛されているベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調」。当時ではヴァイオリン助奏つきのピアノ・ソナタが主流であったのに対し、この曲は「ほとんど協奏曲のように、きわめて協奏的に」と題付けられ、ヴァイ…

  • 『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』作者不詳 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 少年ラーサロが、悪知恵にたけた盲人や欲深坊主、貧乏なくせに気位は高い従士やいんちき免罪符売りと、次々に主人をわたり歩いてなめるさんざんな苦労の数々。16世紀当時のスペインの社会や下層民の生活が風刺鋭く、簡潔な描写で赤裸々に写しだされてゆく。ピカレスク小説をヨーロッパに流行させるさきがけとなった傑作。 カルタゴ領ローマの属州であったスペインは、八世紀から数百年間をイスラムが支配していました。このイスラム支配から国土を奪還しようとするキリスト教の活動「レコンキスタ」が十一世紀より激しくなり、スペインも分割しながらカトリック化していきます。カトリッ…

  • 『ソラリス』スタニスワフ・レム 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 惑星ソラリス──この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が?ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく.......。人間以外の理性との接触は可能か?──知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版 スタニスワフ・レム(1921-2006)は、戦間期のルヴフに生まれました。現在はウクライナ領リヴィウとなっていますが、当時はポーランドに属していまし…

  • 『痴人の愛』谷崎潤一郎 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 生真面目なサラリー・マンの河合譲治は、カフェで見初めた美少女ナオミを自分好みの女性に育て上げ妻にする。成熟するにつれ妖艶さを増すナオミの回りには、いつしか男友達が群がり、やがて譲治も魅惑的なナオミの肉体に翻弄され、身を滅ぼしていく。大正末期の性的に解放された風潮を背景に描く傑作。知性も性に対する倫理観もない〝ナオミ〟は、日本の妖婦の代名詞となった。 産業革命の煽りを受けて、フランスでは資本的格差社会が拡大し、成り上がりの貴族を生み出す反面、市民たちは過酷な貧困生活を過ごしました。このような社会を詳細に映し出そうとする文学がエミール・ゾラやギ・…

  • 『大理石像』ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 破竹の勢いでヨーロッパを席巻したナポレオン・ボナパルトは、1813年にライプツィヒの戦いでついに敗れました。戦後処理を目的として開かれたウィーン会議では、ナポレオンが掲げた「自由」を否定するように、封建君主たちが再び主権を確保するように取り決め、「自由」に期待を抱いた国民たちに落胆を与えました。しかしドイツでは、実質的な国家の統一が平和とともに徐々に進められ、国家としての産業発展へと舵をとり、新しい時代の景色が見えてきます。そして、時代の変化に芸術も影響を受け、ドイツのロマン主義文学は後期へと移行していきます。自由の風が「個人」という存在に焦…

  • 『死都ブリュージュ』ジョルジュ・ローデンバック 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 沈黙と憂愁にとざされ、教会の鐘の音が悲しみの霧となって降りそそぐ灰色の都ブリュージュ。愛する妻をうしなって悲嘆に沈むユーグ・ヴィアーヌがそこで出会ったのは、亡き妻に瓜二つの女ジャーヌだった。世紀末のほの暗い夢のうちに生きたベルギーの詩人・小説家ローデンバックが、限りない愛惜をこめて描く黄昏の世界。 ジョルジュ・ローデンバック(1855-1898)は、ベルギーのトゥルネーで生まれ、出生後すぐに北部フランドル地方のゲント(ガン)に移住します。ローデンバックはゲント大学で法律を学び、のちに修学のためにパリへと向かいますが、そこでの出会いに影響されて…

  • 『花』アルトゥル・シュニッツラー 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 ドイツでの自然主義は十九世紀後半、エミール・ゾラやヘンリック・イプセンなどといった、海外文学の影響を強く受けて生まれました。ゾラの自然主義作品群はその描写によって多くの作家へ影響を与え、イプセン作品の劇場上演はベルリンで「新演劇運動」を引き起こしました。この運動は、ゲアハルト・ハウプトマンを世に知らしめた大きなきっかけとなり、ドイツ自然主義も伴って広く知られるようになります。しかしながら、このドイツ自然主義の波及はウィーンにまでは届かず、退廃的な作品が主となって生み出されていました。一般に「世紀末ウィーン」と呼ばれる思潮は、特に明確な綱領が出…

  • 『ヘンリー五世』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 百年戦争のアジンコートの戦い(1415年)前後に焦点を当て、イングランド王ヘンリー五世の生涯を描いた史劇。『リチャード二世」、『ヘンリー四世第一部・第二部』に続く四部作の最終作。ヘンリー五世は前作『ヘンリー四世」で、手に負えない少年・ハル王子として登場していた。その若き王子も『ヘンリー五世』では高貴で勇壮な王に成長し、フランスの征服に乗り出す。 シェイクスピアの「第二・四部作」を締め括る本作『ヘンリー五世』は、「第一・四部作」に繋がる時系列であり、英国の栄えある歴史のひとつ「アジンコートの戦い」(アジャンクールとも)が描かれています。 ヘンリ…

  • 『ヘンリー四世 第二部』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。続いて第二部です。 第一部最終幕で描かれた作品全体の祝祭的な印象からは大きく変わり、第二部は悲劇的な空気に包まれて進行していきます。冒頭で全身に舌を纏った口上役の「噂」が登場し、人の噂がどれほど信憑性に乏しいかを語り、第一部での激戦「ハル王子とホットスパー」の結果を逆転させて流布しようと宣言します。幕が開き、ノーサンバランド伯に届けられた報せは噂であり、息子ホットスパーがハル王子を撃破したとする内容でした。しかし、間髪を入れずに真実を届けられたノーサンバランド伯は意気消沈し、反乱に向かう意思も弱まりました。ヨーク大司教、モーブレー、ヘイスティングズらはシュルーズベリー…

  • 『ヘンリー四世 第一部』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ヘンリー四世の治世は貴族の叛乱と鎮圧に明け暮れた。そのかたわらで放蕩息子の王子ハルは、大酒飲みのほら吹き騎士フォルスタッフとつるんで遊び歩くが、父の忠告に一念発起し、宿敵ホットスパーを執念で討ちとる。父の死後、ハルはヘンリー五世として期待を背負って国王の座につく──。ハルとフォルスタッフの軽快な掛け合いが見どころの人気英国史劇。 『ヘンリー四世』第一部は、シェイクスピアによって1596年から1597年にかけて執筆されたと言われており、『リチャード二世』発表後に着手したと考えられています。本作の話の流れもこれに関連し、「第二・四部作」と呼ばれる…

  • 『リチャード二世』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 イングランド国王リチャードは、宿敵である従兄弟ボリングブルック(のちのヘンリー四世)を追放したあげく、その父ジョン・オヴ・ゴーントの財産を没収する。しかし、復権をねらって戻ってきたボリングブルックに王位を簒奪され、屈辱のうちに暗殺される。胎弱な国玉リチャード二世の悲痛な運命を辿る。 『リチャード二世』は、シェイクスピアによって1595年ごろに執筆されました。本作は「第二・四部作」と呼ばれる連作史劇の先頭に位置し、『ヘンリー四世』第一部、第二部、『ヘンリー五世』と続きます。1398年ごろの出来事を中心に描いたこの作品は、プランタジネット家最後の…

  • 『絵のない絵本』ハンス・クリスチャン・アンデルセン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 わたしは、貧しい絵描き。友達はいないし、窓から見えるのは、灰色の煙突ばかり。ところがある晩のこと、外をながめていたら、お月さまが声をかけてくれた......。ある時はヨーロッパの人々の喜びと悩みを語り、ある時は空想の翼にのって、インド、中国、アフリカといった異国の珍しい話にまで及ぶ。短い物語の中に温かく優しい感情と明るいユーモアが流れる、まさに宝石箱のような名作。 1807年からナポレオン戦争にフランス側として参戦したデンマークは、1813年のスウェーデンによる侵攻によって敗れました。翌年、代償として国土の割譲を求めるキール条約が結ばれ、それ…

  • 『死と乙女』アリエル・ドルフマン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 「あの医者よ。」海辺の一軒家。シューベルトから逃げ続ける女主人公が不意の客人の声に探りあてたものとは。息詰まる密室劇の姿を借り、平和を装う恐怖、真実と責任追及、国家暴力の闇という人類の今日的アポリアを撃つ、チリ発・傑作戯曲の新訳。 作曲家フランツ・シューベルトが死の直前に書き上げ、没後に認められて見出された「弦楽四重奏曲第十四番」は、自身の歌曲「死と乙女」の主題をもとに作られている経緯から、この名が通称として使用されています。死を前にしたシューベルトが抱いた「絶望」が描かれていると解釈されており、歌曲の歌詞からも死を受け入れる心の揺れ動きが伝…

  • 『アグネス・グレイ』アン・ブロンテ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 家産の傾いた牧師館の娘として生まれ、家庭教師をすることになったアグネス。しかしその屋敷は、あまりに乱暴な子供たちと、子を溺愛し勝手なことばかり言うモンスター・ペアレンツの魔の巣窟だった!孤軍奮闘するアグネスは、客観的な審美眼で人々を観察し、時に軽蔑し、時に尊敬の念や恋心を抱く。 アン・ブロンテ(1820-1849)は、イングランド北部に位置するヨークシャーで牧師を務める父親のもとに生まれました。四人の姉と一人の兄を持つ六人きょうだいの末っ子でした。アンが産まれて間もなく母は体調を崩し、闘病の末に亡くなります。叔母エリザベスは、義務感と使命感か…

  • 『ひとはなぜ戦争をするのか』アルベルト・アインシュタイン/ジークムント・フロイト

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 一九三二年、国際連盟がアインシュタインに依頼した。「今の文明においてもっとも大事だと思われる事柄を、いちばん意見を交換したい相手と書簡を交わしてください」。選んだ相手はフロイト、テーマは「戦争」だった──。宇宙と心、二つの闇に理を見出した二人が、人間の本性について真摯に語り合う。ひとは戦争をなくせるのか? 1932年、国際連盟はアルベルト・アインシュタイン(1879年-1955年)に、「今の文明で最も大事だと思われる事柄を取り上げ、一番意見を交換したい相手と書簡を交わすこと」を依頼しました。アインシュタインはジークムント・フロイト(1856-…

  • 『高慢と偏見』ジェイン・オースティン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 十八世紀末イギリスの田舎町。ベネット家の五人の子は女ばかりで、母親は娘に良縁を探すべく奮闘中。舞踏会で、長女ジェインは青年ビングリーと惹かれ合い、次女エリザベスも資産家ダーシーと出逢う。彼を高慢だとみなしたエリザベスだが、それは偏見に過ぎぬのか?世界文学屈指の名ラブストーリー。 十八世紀後半のイギリスでは産業革命が国全体の特色となり、営利追求の姿勢が民衆に根付いたことで代々続く各家庭の階級にも大きく変化を見せるようになりました。土地の有無が重要であった当時の階級社会では、地主貴族が最も権力と資産を有しており、確固たる地位を示していました。また…

  • 『虐殺器官』伊藤計劃 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 9・11以降の、〝テロとの戦い〟は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こず〝虐殺の器官〟とは? 1921年に人類学者であり言語学者のエドワード・サピアが、「言語は用いる人間の思考に影響する」という言説を発表しました。その後、サピアの下で言語学を研究していたベンジャミン・ウォーフは、この言説をさらに発展…

  • 『灰とダイヤモンド』イェージイ・アンジェイェフスキ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 焦土と化した戦後ポーランドの混沌とした状況を四日間の出来事に凝縮して描く長篤小説。ヨーロッパ戦線が実質上終結していた一九四五年五月五日、ワルシャワ南部の地方都市で党幹部と誤認された労働者が反革命テロ団により射殺される事件がおこった。 1930年代、ドイツではアドルフ・ヒトラー率いるナチス(国民社会主義ドイツ労働者党)が台頭し、ソ連では独裁政権のスターリン体制が成立しました。この二大国に挟まれたポーランドは、両国からの侵攻の恐怖を常に抱くことになりました。二大国は互いに牽制しあっていましたが、双方でポーランドへ攻め込むことを予め「独ソ不可侵条約…

  • 「眼」シュリィ・プリュドム 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 十九世紀のナポレオン・ボナパルト戴冠は、フランスの激動の始まりを告げたと言えます。ヴァグラム、ドレスデン、ライプツィヒ、ワーテルローと、対外的な軍事騒乱が立て続けに起こり、さらにはフランス七月市民革命による復古王政の打倒と、国民感情を強く揺さぶりました。この影響を受けたフランス芸術や文化は大きな変化を見せます。特に文学においては、革命の自由による思想的なロマン主義、作品における美化を省いた自然主義、すべての善悪を絡げた現実主義など、新たな思潮が同時的に隆盛しました。また、フランス詩においても大きな変化が見られました。十一世紀より引き継がれてい…

  • 『ためいきのとき』アンヌ・フィリップ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 36歳の夫ジェラール・フィリップを肝臓ガンで亡くした妻の、夫に捧げるレクイエム。自らの孤独と悲哀を胸に、夫の死を深く見つめて綴った文章には、彼女の高貴な感性と強靱な精神があふれている。真実であること、純粋であること、精神的に優雅であることを心がけていた彼女ならではの、香りたかい愛の書。 1950年代後半から隆盛したフランス映画史の転換的衝撃「ヌーヴェルヴァーグ」、その前の時代に輝いた俳優がいました。ジェラール・フィリップは、第二次世界大戦争後から1950年代のフランス映画界、とくに文芸映画を支えた役者でした。早くから俳優を目指していたジェラー…

  • ウィリアム・シェイクスピア『ヘンリー六世 第三部』感想

    こんにちは。RIYOです。続いて第三部です。 第二部最終幕で映し出されたイギリス内乱の様相は、ヨーク家とランカスター家の争いが次々に生み出す互いの憎悪を、どこまでも激しく連鎖させて血に塗れた戦闘を繰り広げていきます。 ヨークが強引に手に入れた玉座に腰を掛けると、ウォリックは王位を表明することを進言します。そこにマーガレットとランカスター側の貴族たちを率いたヘンリー六世が現れます。互いに王位を主張するなか、ヘンリー六世はヨーク公に対して、「自分の生命がある限りは王として統治させてほしい、そしてその後はヨーク公の思うようにして構わない」という身勝手な提案を出しました。これを受け入れたヨーク公とは反…

  • ウィリアム・シェイクスピア『ヘンリー六世 第二部』感想

    こんにちは。RIYOです。続いて第二部です。 第一部最終幕でのヘンリー六世とマーガレットの婚姻は、不安の影を落としながら宣言されました。本作はシェイクスピアが歴史的な人間の言動をもって普遍的な人間像を描こうとしたことからも、この展開は物語に非常に強い印象を持たせています。ヘンリー五世という強力な王権が消滅したことで生まれた国政の無秩序が、社会や国民の精神の奥深くまで蝕む様子が、この第二部でも明確に描かれています。ウィンチェスター司教の対抗相手という印象が強かったグロスターですが、第二部に入るとその愛国心と騎士道、そして清廉潔白な性質が浮かび上がります。ヘンリー六世が何かと頼りにする場面にも説得…

  • ウィリアム・シェイクスピア『ヘンリー六世 第一部』感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 百年戦争とそれに続く薔薇戦争により疲弊したイングランドで、歴史に翻弄される王へンリー六世と王を取り巻く人々を描く長編史劇三部作。敵国フランスを救う魔女ジャンヌ・ダルク、謀略に次ぐ謀略、幾度とない敵味方の寝返り、王妃の不貞──王位をめぐる戦いで、策略に満ちた人々は悪事のかぎりをつくし、王侯貴族から庶民までが血で血を洗う骨肉の争いを繰り広げる。 ノルマンディ公ウィリアムのイングランド征服より長く続いていたイギリスとフランスの領地問題は、王位継承問題を口実に、イギリス王エドワード三世が本格的な実戦闘を開戦させます。1339年の北フランス侵入に始まっ…

  • 『雪国』川端康成 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 無為徒食の男、島村は、駒子に会うために雪国の温泉場を再訪した。駒子はいいなずけと噂される好きでもない男の療養費のために芸者をしている。初夏の一夜以来、久々に会えた島村に駒子は一途な情熱を注ぐが、島村にとって駒子はあくまで芸者。島村は雪国への汽車で会った女、葉子にも興味を抱いていて……。「無為の孤独」を非情に守る男と、男に思いを寄せる女の純情。人生の悲哀を描いた著者中期の代表作。 川端康成(1899-1972)は、現在の大阪市天神橋のあたりで医者の長男として生まれました。父は肺を患っており、母もまた同様に感染して病んでいました。姉が一人あり、四…

  • 『バラバ』ペール・ラーゲルクヴィスト 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ゴルゴタの丘で十字架にかけられたイエスをじっと見守る一人の男があった。その名はバラバ。死刑の宣告を受けながらイエス処刑の身代わりに釈放された極悪人。現代スウェーデン文学の巨匠ラーゲルクヴィストは、人も神をも信じない魂の遍歴を通して、キリストによる救い、信仰と迷いの意味をつきとめようとする。 スウェーデン南部の宗教都市ペグショーでペール・ラーゲルクヴィスト(1891-1974)は生まれました。十二世紀にイギリスからノルウェーへと渡った宣教師のひとり聖ジークフリートは、ノルウェー宣教後にスウェーデンへと入り、国王に洗礼を授けたのち、ペグショーに大…

  • 『権利のための闘争』ルドルフ・フォン・イェーリング 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 自己の権利が蹂躙されるならば、その権利の目的物が侵されるだけではなく己れの人格までも脅かされるのである。権利のために闘うことは自身のみならず国家・社会に対する義務であり、ひいては法の生成・発展に貢献するのだ。イェーリングのこうした主張は、時代と国情の相違をこえて今もわれわれの心を打つ。 プロイセンを主体として、普墺戦争、普仏戦争を経て成り立ったドイツ帝国は、1860年代からドイツ統一を目指すなかで、軍備を強化しようとする目的で工業が目紛しく発展していきます。この流れは市民生活にも影響を及ぼし、産業を中心とした経済発展にも繋がっていきました。こ…

  • 『オネーギン』アレクサンドル・プーシキン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 純情可憐な少女タチヤーナの切々たる恋情を無残にも踏みにじったオネーギン。彼は後にタチヤーナへの愛に目覚めるが、時すでに遅く、ついに彼の愛が受け入れられることはなかった……。バイロン的な主人公オネーギンは、ロシア文学に特徴的な〈余計者〉の原型となった。ロシア文学史上に燦然と輝く韻文小説の金字塔。散文訳。 ロシアでは皇帝による専制政治が十六世紀より続き、社会は上流貴族(ブルジョワ)と地主貴族によって農奴制が敷かれ、民衆を支配していました。法によって土地に縛り付けられた民衆は、結婚や生活にさえも束縛を受け、実質的な奴隷のような扱いを受けていました。…

  • 『蒲団』田山花袋 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 フランス第二帝政期におけるイギリス産業革命の影響は、社会を進歩させるとともに、成り上がりの資産家を多く生み出しました。ブルジョワジーと資産家によって生活を圧迫された労働者たちは、厳しい格差社会を生き抜くことを強いられました。エミール・ゾラは、この社会を「時代」「環境」「遺伝」といった要素を通して、人間社会を明確に映し出そうと試みました。そして生まれた「ルーゴン・マッカール叢書」という連作小説は、ブルジョワジー、資産家、労働者、といった立場の人間と社会を後世へと伝え、当時の「人間の真実」を描きだしています。ここで描かれる情景は、作者による感情を…

  • 『リリオム』モルナール・フェレンツ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 心のうちの愛情を素直に表わせないならず者リリオムの悲劇を、作者ならではのユーモアをまじえて描いた名作戯曲。原典からの初訳。 モルナール・フェレンツ(1878-1952)は、ドナウ川を挟むハンガリーの首都ブダペストで、医者を営むドイツ系ユダヤ人のもとに生まれました。ブルジョワに位置する家庭環境で、その生活は裕福でしたが、病弱であった母親が亡くなり、社会に出る前に深い悲しみを抱えることになります。学生のあいだにジャーナリストとして活動することを心に決め、執筆や取材を独自で進めていましたが、父親の意向により法学を学ぶことを迫られた彼は、スイスのジュ…

  • 『夢宮殿』イスマイル・カダレ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 そこには、選別室、解釈室、筆生室、監禁室、文書保存所等が扉を閉ざして並んでいた。国民の見た夢を分類し、解釈し、国家の存亡に関わる夢を選び出すこの機関に職を得た青年は、その歯車に組み込まれていく。国家が個人の無意識の世界にまで管理の手をのばす怖るべき世界を描いた、幻想と寓意に満ちた傑作。 イタリアの対岸、ギリシャの隣にあるアルバニア共和国は、十五世紀より約四百年ものあいだオスマン帝国の支配下にありました。それまで東ローマ帝国下にあった民衆は、キリスト教からイスラム教への改宗を進められ、現在では半数以上の国民がムスリムであると言われています。広大…

  • 『今日は死ぬのにもってこいの日』ナンシー・ウッド 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 いつか、どこかで、また会おう。大地に根ざして年を重ねたインディアンたちの大らかで、重みのある言葉──心の糧として、あなたに何度も噛みしめてほしい。本書は、1974年にアメリカで出版されて以来、世界中のあらゆる世代の人々に読みつがれてきている。愛する人の死に際して、人々の心の支えとなったり、追悼式や結婚式、ユダヤ教の成人式、キリスト教のミサなどにおいても朗読されてきた。その詩は、無数の名詩選や教科書に転載されている。 1492年、クリストファー・コロンブスによる新大陸発見は、大西洋の向こう側に豊かな土地があることを証明しました。これを受けて、ス…

  • 『羅生門』芥川龍之介 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 第一次世界大戦争によって日本が不況に見舞われるようになったころ、大正の文壇では思潮に変化が見られるようになりました。それまでは、武者小路実篤や志賀直哉らといった白樺派が主流となって活躍していましたが、彼らの理想主義的または人道主義的な作風とは、対照的な思潮が生まれます。この思潮は、同人誌「新思潮」に参加していた、芥川龍之介(1892-1927)、菊池寛、久米正雄などが代表作家として挙げられ、「新現実主義文学」と呼ばれます。それまでの白樺派が観念的な理想像を描いているのに対して、新現実主義は理知的に現実を描写しているということが特徴と言え、それ…

  • 『緋色の研究』アーサー・コナン・ドイル 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 文学の知識─皆無、哲学の知識─皆無。毒物に通暁し、古今の犯罪を知悉し、ヴァイオリンを巧みに奏する特異な人物シャーロック・ホームズが初めて世に出た、探偵小説の記念碑的作品。ワトスンとホームズの出会いから、空家で発見された外傷のないアメリカ人の死体、そして第二の死体の発見……と、息つく間もなく事件が展開し、ホームズの超人的な推理力が発揮される。 1841年にエドガー・アラン・ポオが『モルグ街の殺人』を発表したことで、謎解きを主体とした小説が文壇に広がっていきました。作中に登場する探偵オーギュスト・デュパンに読者は魅せられ、後に作品形式を継承した探…

  • 『ボヴァリー夫人』ギュスターヴ・フローベール 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 これは夢と現実との相剋の書であり、空想と情熱とが世俗のうちに置かれたときの不幸を物語る悲劇である。作者の目的は飽くまでも「美」の追究であったが、しかしこの小説が作者の書斎のなかで美を枢軸として自転している間に、それはまた19世紀フランス文学史上では、写実主義の世界に向って大きく公転していた。1857年。 ウィーン体制によって復古王政を目指したシャルル十世のフランス支配は、1830年にブルジョワ共和派が主導した市民蜂起によって絶対王政を崩壊し、国王は退位しました。これにより、ブルジョワを代表するかたちでルイ=フィリップが実権を握り、七月王政を成…

  • 『真昼の暗黒』アーサー・ケストラー 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 独房404号に収監された古参党員ルバショフ。三度の審問を通じて明らかになる過去と現在、壁を叩く獄中の暗号通信。No.1とは誰か?自白はなぜ行われたか?スターリン時代のモスクワ裁判と大粛清を暴いたベストセラー、戦慄の心理小説。 1924年、ボリシェヴィキを主権へと導いたレーニンが死去し、ソ連共産党は二極化されました。これは、世界革命論(全世界的な共産主義革命)を掲げるレフ・トロツキーと、一国社会主義論(ソ連における社会主義国家の建設)を提唱するヨシフ・スターリンによる主権争いで、同党内において激しい内部対立が勃発します。ソ連共産党としての政策も…

  • 『笑う月』安部公房 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 笑う月が追いかけてくる。直径1メートル半ほどの、オレンジ色の満月が、ただふわふわと追いかけてくる。夢のなかで周期的に訪れるこの笑う月は、ぼくにとって恐怖の極限のイメージなのだ──。交錯するユーモアとイロニー、鋭い洞察。夢という<意識下でつづっている創作ノート>は、安部文学生成の秘密を明かしてくれる。表題作ほか、著者が生け捕りにした夢のスナップショット17編。 第二次世界大戦争での敗北は、日本国民に「天皇が絶対的な指導者」という価値観の基盤を崩壊させ、すべての信仰を失った者のように、人々は焼け跡のうえに思考回路を停止させて茫然と立ち尽くしました…

  • 『白鯨』ハーマン・メルヴィル 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 巨大な白い鯨〈モービィ・ディック〉をめぐって繰り広げられる、アメリカの作家メルヴィルの最高傑作。本書は海洋冒険小説の枠組みに納まりきらない、法外なスケールとスタイルを誇る、象徴性に満ちあふれた「知的ごった煮」であり、およそ鯨に関することは何もかも盛り込んだ「鯨の百科全書」でもある。新訳(全3冊) 1712年に始まったアメリカの捕鯨業は、十九世紀にかけての産業革命によってその収穫物の需要が高まり、捕鯨はアメリカ国内において重要な商業として広まりました。特に鯨から得られる「鯨油」は現代の石油に匹敵するほど重宝され、ランプの灯りから工業製品の潤滑油…

  • 『無心の歌』『有心の歌』ウィリアム・ブレイク 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ロマン主義の先駆けとして知られるウィリアム・ブレイク(1757-1827)は、靴下商を営む父親のもとに生まれ、幼い頃から溢れる詩才を垣間見せていました。窓から覗き見る神の姿、庭の木に舞い降りる天使たちなど、幻視を訴えるブレイクを見て、父親は画家の道を歩ませました。ブレイク家はイギリス国教徒に属していましたが、その思想はマルキオン主義に傾倒していました。真の至高の存在である神と対を成す悪の創造神デミウルゴスによる対立が、ブレイクの価値観の根底に刻まれました。父親の商才により労働者階級にありながら比較的裕福な暮らしのなかで育ち、少年時代にはデッサ…

  • 『吉原手引草』松井今朝子 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 廓遊びを知り尽くしたお大尽を相手に一歩も引かず、本気にさせた若き花魁葛城。十年に一度、五丁町一を謳われ全盛を誇ったそのとき、葛城の姿が忽然と消えた。一体何が起こったのか?失踪事件の謎を追いながら、吉原そのものを鮮やかに描き出した時代ミステリーの傑作。選考委員絶賛の第一三七回直木賞受賞作、待望の文庫化。 1600年、豊臣秀吉没後に起こった政権争いにより繰り広げられた関ヶ原の合戦において、毛利輝元を総大将とした西軍に対して、東軍を率いた徳川家康が勝利を収めました。この勝利は、家康に大きな権力を掌握させることになり、新たな統治が国内に広められました…

  • 『タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 時空を超えたあらゆる時と場所に波動現象として存在する、ウィンストン・ナイルズ・ラムファードは、神のような力を使って、さまざまな計画を実行し、人類を導いていた。その計画で操られる最大の受難者が、全米一の大富豪マラカイ・コンスタントだった。富も記憶も奪われ、地球から火星、水星へと太陽系を流させられるコンスタントの行く末と、人類の究極の運命とは?巨匠がシニカルかつユーモラスに描いた感動作。 第一次世界大戦争は、アメリカ経済へ大きな潤いを与えました。ロシア、フランス、イギリスによる三国協商からアメリカに向けて、戦時中は軍需物資を、戦後はその復興に必要…

  • 『ペリクリーズ』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 求婚しようとした王女とその父の近親相姦を見抜いてしまった時から、ペリクリーズの波瀾万丈の旅が始まった──。詩人ガワーの語りという仕掛けのなかで、次々と起こる不思議な出来事。過酷な運命を乗りこえ、長い歳月をへて喜びに包まれる、ペリクリーズと家族の物語。イギリスで人気の高い、シェイクスピア最初のロマンス劇を新訳で。 本作『ペリクリーズ』は1607年から1608年に掛けて執筆された作品で、「四大悲劇」と呼ばれる『ハムレット』、『マクベス』、『リア王』、『オセロー』が発表された後の、シェイクスピア晩年に生み出されたものです。晩年に開花したシェイクスピ…

  • 『尺には尺を』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 公爵の代理に任命された貴族アンジェロは、世の風紀を正すべく法を厳格に適用し、結婚前に恋人を妊娠させた若者に淫行の罪で死刑を宣告する。しかし兄の助命嘆願に修道院から駆けつけた貞淑なイザベラに心奪われると……。性、倫理、欲望、信仰、偽善。矛盾だらけの脆い人間たちを描き、さまざまな解釈を生んできた、シェイクスピア異色のシリアス・コメディ。 本作『尺には尺を』は一般的に「喜劇」として扱われています。結末を婚姻の成就で締めくくり、道化的なやり取りを据えていることからも、「シェイクスピア喜劇」の枠内に収められる要素は多くあります。しかしながら本作は、作中…

  • 『恋の骨折り損』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 十六世紀後半、カトリック国のフランスではルターの思想を契機に勢いづいた新教派(カルヴァン派)が、フランスの商工業者層を中心に活動を強めて勢力を拡大していました。国教に背く行為であるとして、フランスは新教派に対して厳しい弾圧を与えましたが、商工業者たちが繋がっている各貴族たちをも取り込み、王権の強化に対する反発と相まって、カトリック(旧教派)との激しい対立の構図が生まれます。カトリックは新教徒を「ユグノー(乞食者)」と蔑み、反対にカルヴァン派はカトリック教徒を「パピスト(教皇の犬)」と読んで、対立は一触即発の緊張感を帯びていました。そのようなな…

  • 『書店主フィクリーのものがたり』ガブリエル・ゼヴィン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 島に一軒だけある小さな書店。偏屈な店主フィクリーは妻を亡くして以来、ずっとひとりで店を営んでいた。ある夜、所蔵していた稀覯本が盗まれてしまい、傷心の日々を過ごすなかで、彼は書店にちいさな子どもが捨てられているのを発見する──本屋大賞に輝いた、すべての本を愛する人に贈る物語。 三十九歳のA・J・フィクリーは、妊娠中の愛妻を交通事故で亡くし、絶望の淵から逃れられないままでいます。彼の営むアリス島唯一の書店「アイランド・ブックス」は観光シーズンの夏場に多少の売上が見込めるばかりで、さほど繁盛はしていません。それでも彼は余生を憂うことなく、ある意味で…

  • 『水晶』アーダルベルト・シュティフター 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 短篇集〝石さまざま〟中の1篇。クリスマスの前日、兄と妹はアルプスを越えて祖父母の許へ行き贈物をもらって帰途についた。妹ザンナは黒衣に落ちる一ひらの雪を捉えて大喜び、それが遭難の前触れとも知らずに。 フランス革命より展開したナポレオン・ボナパルトによるヨーロッパ侵略は、ワーテルローの戦いにより終結し、オーストリア外相メッテルニヒが主導となってヨーロッパ諸国は「絶対王政」の姿へと戻っていきました。この1815年に確立したウィーン体制は、ナポレオンによって排除された君主たちを元の地位に据えることが目的でしたが、再び革命が起こらないようにと、フランス…

  • 『嵐が丘』エミリー・ブロンテ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 寒風吹きすさぶヨークシャーにそびえる〈嵐が丘〉の屋敷。その主人に拾われたヒースクリフは、屋敷の娘キャサリンに焦がれながら、若主人の虐待を耐え忍んできた。そんな彼にもたらされたキャサリンの結婚話。絶望に打ちひしがれて屋敷を去ったヒースクリフは、やがて莫大な富を得、復讐に燃えて戻ってきた……。一世紀半にわたって世界の女性を虜にした恋愛小説の〝新世紀決定版〟。 イングランド北部ヨークシャーで村の牧師を務める父親のもとに、エミリー・ブロンテ(1918-1948)は生まれました。僅か三歳にして母親を病で亡くし、厳粛な叔母によって育てられました。残された…

  • 『野火』大岡昇平 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 敗北が決定的となったフィリピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的作品である。 第二次世界大戦争では、ファシズムの繋がりである日独伊三国同盟を中心とした枢軸国が、その苛烈な攻撃によって優勢に進めていました。日本は日中戦争の激しい勢いのまま、アジア東南部に広がる欧州植民地の資源を確保…

  • 『無伴奏ソナタ』オースン・スコット・カード 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 生後6ヵ月でリズムと音程への才能を認められ、2歳にして音楽の天才と評されたクリスチャン。人里離れた森の奥で、いっさいの人工的な音から遮断され、ただ鳥の声や風の歌声だけを聴いて育った彼は……表題作ほか、異星人の攻撃から地球を守るため設立されたバトル・スクールで最高の成績を収めた少年エンダーの成長を描く処女作「エンダーのゲーム」(短篇版)など、独創的なアイデアと奔放華麗な想像力で描く傑作11篇 オースン・スコット・カード(1951-)は、現代を代表するサイエンス・フィクション作家の一人です。1985年と1986年の二年連続でヒューゴー賞とネビュラ…

  • 『あしながおじさん』ジーン・ウェブスター 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 お茶目で愛すべき孤児ジルーシャに突然すてきな幸福が訪れた。月に一回、学生生活を書き送る約束で、彼女を大学に入れてくれるという親切な紳士が現われたのだ。彼女はその好意にこたえて、名を明かさないその紳士を“あしながおじさん"と名づけ、日常の出来事をユーモアあふれる挿絵入りの手紙にして送りつづけるが……このあしながおじさんの正体は?楽しい長編小説。 アメリカ南北戦争の終結後、1866年に合衆国憲法修正第十四条が制定されたことで黒人を含む全アメリカ人に公民権が与えられました。プランテーション奴隷制度によって苦しめられていた黒人たちは、その後も選挙権な…

  • 『黄金の壺』エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ドイツ・ロマン派の異才ホフマン自らが会心の作と称した一篇。緑がかった黄金色の小蛇ゼルペンティーナと、純情な大学生アンゼルムスとの不思議な恋の経緯を描きつつ、読者を夢幻と現実の織りなす妖艶な詩の世界へと誘いこんでゆく。初期の作品ではあるが、芸術的完成度も高く、作家の思想と表現力のすべてがここに注ぎこまれている。 1789年、フランスの封建社会に確立したアンシャン・レジーム(旧制度)に締め付けられていた市民階級は、「自由、平等、平和」を掲げて王権や貴族などの支配者層に対して、武装蜂起して市民革命を起こしました。このフランスで起こった革命は、ナポレ…

  • 『犬と独裁者』鈴木アツト 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 革命時代のソ連を生き、小説『巨匠とマルガリータ』を遺したミハイル・ブルガーコフは死の前年、「モスクワ芸術座」の依頼で、独裁者スターリンの評伝劇を書き上げるも、上演禁止の告を受けた。この史実をもとに、文学者が独裁者の評伝劇を書き上げるまでの葛藤を、想像力豊かに描出した戯曲。 1917年の十月革命より、ロシアではレーニンが導くボリシェヴィキが独裁を実現させ、世界最大の社会主義政権であるソヴィエト連邦が発足しました。このときにレーニンの片腕であったヨシフ・スターリンが書記長となり、その後、レーニンから権力を継承する形でソ連の独裁的権力を握りました。…

  • 『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 「いいえ、先生、わたしは眼鏡もかけたことがないのです」。突然の失明が巻き起こす未曾有の事態。運転中の男から、車泥棒、篤実な目医者、美しき娼婦へと、「ミルク色の海」が感染していく。善意と悪意の狭間で人間の価値が試される。ノーベル賞作家が、「真に恐ろしい暴力的な状況」に挑み、世界を震撼させた傑作長篇。 ジョゼ・サラマーゴ(1922-2010)は、ポルトガルのリスボン北東部にある寒村の農家の息子として生まれました。貧困に苦しむ一家は首都リスボンへ移住しますがそれでも苦しい生活には変わりなく、家を間借りするような暮らしでした。幼少期から文学を愛してい…

  • 『大衆の反逆』ホセ・オルテガ・イ・ガセット 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットによる痛烈な同時代批判の書。自らの使命を顧みず、みんなと同じであることに満足しきった「大衆」は、人間の生や世界をいかに変質させたのか。1930年刊行の本文に加え、「フランス人のためのプロローグ」と「イギリス人のためのエピローグ」を収録。20世紀の名著の完全版。 第一次世界大戦争後、1920年のスペインでは、植民地として支配していたモロッコ北岸の反乱にあい、リーフ戦争が起こっていました。リーフの名家アブデル=クリムが率いる被支配者たちの軍勢は、スペイン軍を打ち破って独立を勝ち取ります。しかし、フランスの将軍…

  • 『白鳥の首のエディス』「ルパンの告白」モーリス・ルブラン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 怪盗が名探偵に変身。太陽光線を利用した暗号の謎を解く「太陽の戯れ」、宝石細工師に化けたルパンが、かつての恋人の危機を救う「結婚指輪」、セーヌ河で発見されたショールから、異常な事件をかぎつけたルパンが殺人事件に巻きこまれる「赤い絹のショール」など7編を収録。痛快アクションの魅力と謎解きの面白さを満喫させる冒険ミステリー。 モーリス・ルブラン(1864-1941)は海運通商で成功を収めた父親と、染色業で成功した家庭の娘である母親とのあいだに生まれました。幼いころより非常に裕福な生活にあり、不自由なく学業を進めて成長していきます。彼が生まれる分娩に…

  • 「春と修羅」宮沢賢治 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 「無声慟哭」を中心として、死と愛を主題とする抒情詩を詠いあげ、詩人として開花した著者の「春と修羅」第1集。貧しい東北農村へ献身した時期「稲作挿話」「和風は河谷いっぱいに吹く」の秀作を収めた第3集。彼の描いた東北農村への理想像がくずれ失望と挫折感におそわれた時期の作第4集等、賢治の巨跡をあます所なく収載。 明治から昭和にかけて、伝統的な「定型詩」では表現できない個人の感情を自由に表現するため、日常的に用いられる言葉を使用した「自由詩」が生み出され、世に多く広まりました。島崎藤村、北原白秋、石川啄木、高村光太郎など、多くの詩人が活躍し、現代でもそ…

  • 『永遠平和のために』イマヌエル・カント 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 十八世紀の啓蒙時代を代表する哲学者イマヌエル・カント(1724-1804)はプロイセン王国ケーニヒスベルクで生まれ、生涯のほとんどをその地で過ごしました。ルター派の敬虔主義的な家庭で育ち、その教えを基盤とした寄宿学校へと通います。ラテン語、宗教学、哲学などが基本の授業に組み込まれ、人生の早い段階で思想というものに触れることになりました。当時の西洋では「哲学」に関して現代ほどの理解が及んでおらず、政治や軍略を重視する国の姿勢が反映され、立場もさほど重要視されていませんでした。しかし、ヨハネス・ケプラーやガリレオ・ガリレイによる研究、ルネ・デカル…

  • 『園丁』ラドヤード・キプリング 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 キプリングはその短篇の多くにおいて超自然的なものに接近しているが、それはポーの短篇とはちがって、徐々に明らかになるといった底のものである。本巻のために選んだ短篇のうちで、おそらく私がいちばん心を動かされるのは『園丁』である。その特徴のひとつは作中で奇跡が起こることにある。主人公はそのことを知らないが、読者は知っている。状況はすべてリアリスティックなのに、語られる話はそうではないのだ。 J・L・ボルヘス「序文」より 英国領インド帝国のボンベイで生まれたラドヤード・キプリング(1865-1936)は、幼年期をその地で過ごし、根底的な人間としての価…

  • 『パルプ』チャールズ・ブコウスキー 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵ニック・ビレーンのもとに、死んだはずの作家セリーヌを探してくれという依頼が来る。早速調査に乗り出すビレーンだが、それを皮切りに、いくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する。 チャールズ・ブコウスキー(1920-1994)は、ワイマール共和政時代のドイツで生まれました。父親はドイツ系アメリカ人で、第一次世界大戦争でアメリカ占領軍に従軍し、兵役を終えてからもドイツに留まっていました。父親は戦後復興を需要とした建設請負業者となって、戦後…

  • 『蟹工船』小林多喜二 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 秋田で貧しい小作農を営んでいた両親のもとで、小林多喜二(1903-1933)は生まれました。伯父が小樽で工場などの事業を成功させると、彼が苦労を掛けていた多喜二の両親に安定した生活を提供するために小樽へと招きます。移り住んだ四歳の多喜二は、伯父の工場に勤めながら商業学校へと進みます。この頃に志賀直哉の作品に触れて耽溺し、彼の持つ文芸性を大きく刺激して、多喜二は積極的に自ら執筆を行っていきます。傾倒していた志賀直哉の影響を受けながら、労働運動を含めたプロレタリア文学の思想が、多喜二のなかで心の中心を占め始めます。 1925年に結成された「日本プ…

  • 『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 アルゼンチン国土の中心部、パンパの広がるブエノスアイレス州のヘネラル・ビジェガスという地で、作家マヌエル・プイグ(1932-1990)は生まれ育ちました。裕福ではありませんが中流階級に生まれた彼は、母親の趣味に合わせて幼少期から映画館へ足を運ぶようになります。わずか三歳にして映像のなかに見える「美」に目覚め、美しく着飾った銀幕の女優に憧れを持つようになります。この憧れは彼の持っていた性的なアイデンティティを強く刺激して、同一的な「女性性」を追い求めるようになりました。母親のナイトガウンを羽織って自分を美しく見せようとする試みは、父親から激しい…

  • 『喪服の似合うエレクトラ』ユージン・オニール 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 二〇世紀アメリカを代表する劇作家オニールの最高傑作。ギリシア悲劇の筋立てを南北戦争後のニュー・イングランドに移し、父母姉弟の錯雑した愛憎を描く迫真のドラマ。 ユージン・オニール(1888-1953)は、アイルランド系アメリカ人の舞台俳優ジェイムズ・オニールの子として生まれました。「モンテ・クリスト伯」で一世を風靡した父は、人気を保ちながらツアーを行い、実に六千回以上もの興行を成功させました。オニールはこの巡業に合わせて、各地をまわりながら幼少期を過ごします。カトリックの寄宿学校を経てプリンストン大学へと進学しましたが、勉学に熱は入らず、異性と…

  • 『若草物語』ルイザ・メイ・オルコット 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 虚栄心はあるが温順で信心深い長女メグ、独立心が強く活発な次女ジョ一、心優しくはにかみやの三女ベス、無邪気でおしゃれな四女エミイ──ニューイングランドに住むマーチ家の四人姉妹は、南北戦争に従軍した父の留守宅で、母を助け貧しいながらも誠実さと希望をもって、懸命に暮す。著者の少女時代を題材に、人間として成長していく四人姉妹の複雑で微妙な心の動きを捉えた感動作。 キリスト教プロテスタントにおいて、信者たちに最も読み継がれ、最も影響を与えてきた模範的信者が描かれている寓話『天路歴程』は、新大陸アメリカへと渡ったピューリタンたちによって新天地でも広められ…

  • 『夏への扉』ロバート・アンスン・ハインライン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にたくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じているのだ。1970年12月3日、このぼくもまた夏への扉を探していた。最愛の恋人には裏切られ、仕事は取りあげられ、生命から二番めに大切な発明さえ騙しとられてしまったぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ!そんなぼくの心を冷凍睡眠保険がとらえたのだが……巨匠の傑作長篇 科学の進歩によって膨大な規模となった第二次世界大戦争は、空想でしか思い描くことがなかった恐ろしい荒廃の広がる戦禍を齎しました。人々に与えた恐怖は、その…

  • 『アテネのタイモン』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 財産を気前よく友人や家来に与えることで有名なアテネの貴族タイモン。貯えが尽きることを恐れる執事の忠告も無視し贈与を続けるが、膨れ上がった借金の返済に追われることに。「友達を試す」と他の貴族らに援助を求めるものの、手の平を返したようにそっぽを向かれ、タイモンは森へと姿をくらましてしまい……。忘恩、裏切り、破滅。普遍的なテーマを鮮烈に描く。未完の戯曲として議論を呼ぶ問題作が、瑞々しい名訳で甦る。 アテネの繁栄に助力した資産家タイモンは寛大な心で人々に接し、毎日を盛大な晩餐で隣人を招き、多くの人々の望みを叶えて互いに満足していました。もてなすタイモ…

  • 『シンベリン』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 ブリテン王シンベリンの娘イノジェンは、イタリア人ヤーキモーの罠にはまり、不貞を疑われる。嫉妬に狂う夫ポステュマスの殺意を知らぬまま、イノジェンは男装してウェールズへ行くが、薬で仮死状態になった彼女の傍らにはいつしか夫の首のない死体が──。悲劇と喜劇が入り混じり、波瀾万丈のなか、最後は赦しと幸福な結末を迎える「ロマンス劇」の傑作。 古代ブリテンの国王シンベリンには二人の王子と一人の美しい娘がいましたが、後妻を迎えたころに幼い王子たちは失踪して行方不明になりました。世継ぎの問題もあり、一人娘のイノジェン(イモージェン)の婚姻に関しては後妻の息子ク…

  • 『ウィンザーの陽気な女房たち』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 1597年から1598年に執筆されたと言われる本作『ウィンザーの陽気な女房たち』は、題名どおりにシェイクスピア作品のなかでも頭抜けて陽気な感情で観る(読む)ことができる演劇です。諸説ありますが一説に、シェイクスピアの劇団を支援する宮内大臣であるジョージ・ケアリー男爵がガーター勲章を授かり、それを祝う騎士団の祝宴で喜劇を披露することになったため、シェイクスピアが約二週間で書き上げたものだと言われています。この説に付随して、『ヘンリー四世』を観劇したエリザベス女王が、登場人物フォールスタッフが色欲に溺れる姿を観たいと望んだため、このような題材とな…

  • 『夏の花』原民喜 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 広島で被爆した原民喜は、見たものすべてを書き尽すことのみを心に決め、激することなく静かに物語った。だからこそ「夏の花」「廃墟から」「壊滅の序曲」等の作品が伝える原爆の凄惨さと作者の悲しみを、いっそう強く深いものにしている。生前の作者自身の編集による能楽書林版(1945)を底本とした。 原民喜(1905-1951)は、広島県広島市幟町で陸海軍を相手とした縫製業によって大きく成功していた父親のもとで生まれました。幼少期より口数が少なく、自分の意見を自ら述べるようなことのない内向的な性格でした。対外的な環境ではその性格が災いし、仲の良い級友を作るこ…

  • 『論理哲学論考』ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 「およそ語られうることは明晰に語られうる。そして、論じえないことについては、人は沈黙せねばならない」──本書は、ウィトゲンシュタインが生前刊行した唯一の哲学書である。体系的に番号づけられた「命題」から成る、極度に凝縮されたそのスタイルと独創的な内容は、底知れぬ魅力と「危険」に満ちている。 父親のカール・ウィトゲンシュタインは一代でオーストリアにおける鉄鋼業界を牽引し、莫大な財産を築き上げました。その富と名声に加え、ウィトゲンシュタインの両親ともに音楽に造詣が深かったことから、多くの音楽家たちが邸宅に訪れるサロンのような存在となっていました。親…

  • 『慈善週間または七大元素』マックス・エルンスト 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 『慈善週間または七大元素』では文章の部分が減り、「絵解き」の要素をぐんと強めているが、一種の小説であることにはかわりがない。既成の銅版画図版を切りとり、貼りあわせてゆくコラージュのごく単純な操作から、これほどにゆたかな想像力の飛翔がおこなわれえたという驚くべき「奇蹟」を、読者はあらためて実感されることだろう。 第一次世界大戦争が引き起こそうとする平和の乱れや崩壊に対して、交戦を推し進めようとする世界や社会への抵抗を、芸術家たちは作品を通して世に提示しようとする運動が勃こりました。戦争を肯定しようとする秩序や概念などの否定を目的とした芸術運動は…

  • 『ハイ・ライズ』ジェイムズ・グレアム・バラード 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ロンドン中心部に聳え立つ、知的専門職の人々が暮らす、新築の40階建の巨大住宅。1000戸2000人を擁し、マーケット、プール、ジム、レストランから、銀行、小学校までを備えたこの一個の世界は事実上、10階までの下層部、35階までの中層部、その上の最上部に階層化されていた。その全室が入居済みとなり、ある夜起こった停電をきっかけに、建物全体を不穏な空気が支配しはじめた。3ヵ月にわたる異常状況を、中層部の医師、下層部のテレビ・プロデューサー、最上層の40階に住むこのマンションの設計者が交互に語る。バラード中期の傑作。 第二次世界大戦争によって広がった…

  • 『武蔵野』国木田独歩 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 武蔵野を逍遥しながら独歩は愛着をこめて「生活と自然とがこのように密接しているところがどこにあるか」と言っている。作者は、常に自然を通じて人生を、また人間を通じて自然を見、その奥に拡がる広々とした世界を感じとっていた。このことは表題作を始め、所収作品のすべてからうかがうことができる。 西欧より興ったジャン=ジャック・ルソーの思想を皮切りとした「ロマン主義」はあらゆる芸術家が影響を受け、自我の解放という主張のもとで多くの作品が生み出されました。その大きな影響は明治維新を通して日本にも広がり、それまでの封建的な社会からの精神解放や思想の目覚めといっ…

  • 『青い眼がほしい』トニ・モリスン 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 黒人の少女クローディアが語る、ある友だちの悲劇──。マリゴールドの花が咲かなかった秋、クローディアの友だち、青い目にあこがれていたピコーラはみごもった。妊娠させたのはピコーラの父親。そこに至るまでの黒人社会の男たちと女たち、大人たちと子供たちの物語を、野性的な魅惑にみちた筆で描く。白人のさだめた価値観を問い直した、記念すべきデビュー作。 1993年に黒人作家として初のノーベル文学賞をしたトニ・モリスン(1931-2019)。彼女は、文壇として光を当てられていなかったアメリカ社会の側面、白人による人種差別やそれに伴う社会への弊害、このような影響…

  • 『偽りの告白』ピエール・ド・マリヴォー 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 女性の繊細な恋愛心理と微妙な恋のかけ引きを得意とするマリヴォーの代表作。心おだやかで愛らしい登場人物たちが織りなす恋愛喜劇。 現代でも舞台で数多く演じられる作品を残した劇作家ピエール・ド・マリヴォー(1688-1763)は、モリエールの築き上げた古典としての喜劇に、細かな心理描写を埋め込んで新たな喜劇の基盤を構築しました。当時のフランスでは、ルイ十四世の弟であるオルレアン公フィリップ一世によるパレ・ロワイヤルでの豪奢な放蕩三昧に代表されるように、貴族たちは娯楽と遊蕩に溢れた生活に耽っていました。このような世にありながら、ランベール侯爵夫人は格…

  • 『フーコーの振り子』ウンベルト・エーコ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 「追われている。殺されるかもしれない。そうだ、テンプル騎士団だ」ミラノの出版社に持ち込まれた原稿が、三人の編集者たちを中世へ、錬金術の時代へと引き寄せていく。やがてひとりが失踪する。行き着いた先はパリ、国立工芸院、「フーコーの振り子」のある博物館だ。「薔薇の名前」から8年、満を持して世界に問うエーコ畢生の大作。 1980年に発表した『薔薇の名前』で一躍イタリア文壇の頂点に到達した記号学者であるウンベルト・エーコ(1932-2016)。世に衝撃を与えたのち八年を経て、彼は本作『フーコーの振り子』を発表しました。 中世における美学の研究において、…

  • 『海賊船』岡本綺堂 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 元は徳川の御家人でおり、明治維新ののちに英国公使館で日本語書記を務めていた父親のもとで岡本綺堂(1872-1939)は生まれました。士族らしく彼は漢文や漢詩を習う一方で、父親と同じように英国公使館で働く叔父より幼い頃から英語を学びました。また、父親の人脈や歌舞伎に関心のある母親の影響で在学中より観劇に多く足を運び、彼もまた強い興味を抱くようになっていきます。父に連れられて新富座の興行を観た折に楽屋へ向かうと、十二代目守田勘弥に引き合わされます。「團菊左」の時代を牽引した座頭で、当時の界隈で最も重要な一人でした。また、当時の花形である九代目市川…

  • 『ある奴隷少女に起こった出来事』ハリエット・アン・ジェイコブズ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 好色な医師フリントの奴隷となった美少女、リンダ。卑劣な虐待に苦しむ彼女は決意した。自由を掴むため、他の白人男性の子を身籠ることを──。奴隷制の真実を知的な文章で綴った本書は、小説と誤認され一度は忘れ去られる。しかし126年後、実話と証明されるやいなや米国でベストセラーに。人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遥かに凌ぐ〈格差〉の闇を打ち破った究極の魂の物語。 1492年のクリストファー・コロンブスによるアメリカ大陸発見から始まったスペイン・ポルトガルによる新大陸の支配は、原住民アメリカン・インディアンへの激しい侵略行為から始まりました。彼…

  • 『にんじん』ジュール・ルナール 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 にんじん色の髪の少年は、根性がひねくれているという。そんなあだ名を自分の子供につけた母親。それが平気で通用している一家。美しい田園生活を舞台に繰りひろげられる、残酷な母と子の憎みあいのうちに、しかし溢れるばかりの人間性と詩情がただよう。 ジュール・ルナール(1864-1910)はフランス西部に位置するマイエンヌで地元役人の父親のもとに生まれました。この父親は一般公共事業の請負業者で、のちに彼の出生地であるブルゴーニュ地方シトリー・レ・ミーヌに移り住んで市長となりました。反聖職者の共和党員であった彼に対し、母親は金物商人の家柄の娘で、敬虔なカト…

  • 『デカブリストの妻』ニコライ・ネクラーソフ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 十九世紀、ツァーリの圧政に抵抗し酷寒のシベリアへ流されたデカブリスト。その妻たちの美しい愛情をうたい上げた長篇叙事詩。 十六世紀より続いた皇帝(ツァーリ)による専横政治によって、ロシアでは上流貴族(ブルジョワ)による封建制と、地主貴族による農奴制が基盤となった社会が続いていました。国家は農奴たちを負担から逃がさないように罰則で土地に縛り付け、法的な土地緊縛を確立させていました。結婚の自由もなく、裁判権は領主に委ねられ、罰則は領主によって執行されるという、まさに奴隷的な処遇でした。また上流貴族(ブルジョワ)は、専横政治そのものに不満を抱き、引き…

  • 『深い河』遠藤周作 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 愛を求めて、人生の意味を求めてインドへと向う人々。自らの生きてきた時間をふり仰ぎ、母なる河ガンジスのほとりにたたずむとき、大いなる水の流れは人間たちを次の世に運ぶように包みこむ。人と人との触れ合いの声を力強い沈黙で受けとめ河は流れる。純文学書下ろし長篇待望の文庫化、毎日芸術賞受賞作。 第二次世界大戦争を経て、それまで隆盛していた日本の文学は大きく変化しました。空襲によって与えられた凄惨な経験と、戦禍によって与えられた精神への強烈な苦痛は、文学という形を通して新たな思想や哲学となり、第一次戦後派という思潮を生み出しました。その後、復興に伴い流れ…

  • 『終わりよければすべてよし』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 前伯爵の主治医の遺児ヘレンは現伯爵バートラムに恋をしている。フランス王の難病を治して夫を選ぶ権利を手にし、憧れのバートラムと結婚するが、彼は彼女を嫌って逃亡、他の娘を口説く始末。そこでヘレンがとった行動は──。善と悪とがより合わされた人物たちが、心に刺さる言葉を繰りだす問題劇。 この作品は1601年から1606年の間とされており、一般的にシェイクスピア作品のなかで「問題劇」と呼ばれる『トロイラスとクレシダ』及び『尺には尺を』などと共に括られています。三作どれもが、暗く苦い笑いと不愉快な人間関係を軸に描かれており、これはシェイクスピアの喜劇時代…

  • 『ヴェローナの二紳士』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 本作『ヴェローナの二紳士』は、シェイクスピアが執筆した最初の喜劇と言われています。劇中には、女性の男装や情欲の森など、彼が後の作品に活かす発想が随所に現れています。舞台となるイタリア北部にあるヴェローナは『ロミオとジュリエット』でも知られています。 ヴェローナの紳士であるヴァレンタインとプローテュースは、互いに固い友情を交わし、何事も隠し事のない強い絆で結ばれていました。しかし恋愛についての考え方は正反対で、ヴァレンタインはそのようなものに関心を持つことができず、見識を広めたいという思いからミラノ公爵のもとへと旅立ちます。反してプローテュース…

  • 『タイタス・アンドロニカス』ウィリアム・シェイクスピア 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 ローマの帝位継承権を争う前皇帝の息子兄弟。そこにゴート人との戦いに勝利したタイタス・アンドロニカスが凱旋帰国し、市民の圧倒的支持により皇帝に推薦されるが……。男たちの野望に、愛情・復讐心・親子愛が入り乱れたとき、残虐のかぎりが尽くされる……。シェイクスピアの作品では異色の惨劇。 ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)は、劇作家として活躍する初期の1588年から1593年の間にこの劇を書いたと考えられています。『タイタス・アンドロニカス』は、彼の作品のなかで最も暴力的で血生臭い作品の一つであり、名誉の力と暴力の破壊的な性質を題材として…

  • 『幽霊たち』ポール・オースター 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー……。'80年代アメリカ文学の代表的作品! 十九世紀末から二十世紀にかけて隆盛を極めたモダニズム文学は、それまでのリアリズム(写実主義)を否定するように作家の思想や意思を表現していきました。それまで文学として求められていた「…

  • 『いさましいちびのトースター』トーマス・M・ディッシュ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 だんなさまは、いったいどうしたんだろう?森の小さな夏別荘では、主人に置き去りにされた電気器具たちが不安な日々を送っておりました。ある時ついにちびのトースターが宜言します。「みんなでだんなさまを探しに行こう!」かくしてトースターのもとに電気毛布、掃除機、卓上スタンド、ラジオなどが集結し、波乱に満ちた冒険の旅に出たのですが……けなげでかわいい電気器具たちの活躍を描く、心温まるSFメルヘン! 第二次世界大戦争後、あまり戦禍を被らなかったアメリカでは特需景気が巻き起こり、資本主義的に世界を牽引するようになります。娯楽や歓楽が賑わう一方で、音楽や文学な…

  • 『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。 1944年の英国、すでに推理小説作家として文壇に揺るがない立ち位置を築いていたアガサ・クリスティー(1890-1976)は、長年のあいだ構想を続けていた作品の執筆に取り掛かりました。この作品は謎解き小説とは一味違った雰囲気の「ロマンス小説」なるもので、ミス…

  • 『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 アンナは兄のオブロンスキイの浮気の跡始末に、ペテルブルグからモスクワへと旅立った。そして駅頭でのウロンスキイとの運命的な出会い。彼はアンナの美しさに魅かれ、これまでの放埒で散漫だった力が、ある幸福な目的の一点に向けられるのを感じる。 十九世紀ロシアを代表する二人の偉大な作家、フョードル・ドストエフスキーとレフ・トルストイ。内なる感情の劇的な興奮やその明暗に渡る高揚を、奥の奥まで突き詰めたドストエフスキーに対し、トルストイは当時の社会そのものを詳細に描きながら思考の流れや意識の動きを初めて読者に提示しました。トルストイは、大作『戦争と平和』の後…

  • 『不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』ルイス・キャロル 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこの二作品です。 ある昼下がりのこと、チョッキを着た白ウサギを追いかけて大きな穴にとびこむとそこには……。アリスがたどる奇妙で不思議な冒険の物語は、作者キャロルが幼い三姉妹と出かけたピクニックで、次女のアリス・リデルにせがまれて即興的に作ったお話でした。1865年にイギリスで刊行されて以来、世界中で親しまれている傑作ファンタジーを金子國義のカラー挿画でお届けするオリジナル版。 ルイス・キャロル(1832-1898)は、軍事や聖職者を多く輩出する家系に生まれ、彼自身も聖公会(Anglican Church)に所属して、幼い頃より裕福な環境で育ちます。熱心な信者でア…

  • 『生まれいずる悩み』有島武郎 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 「私たちの愛はお前たちを暖め、慰め、励まし、人生の可能性をお前たちの心に味覚させずにはおかないと私は思っている」──妻を失った作者が残された愛児にむかって切々と胸中を吐露した名篇『小さき者へ』。ほかに、画家を志す才能ある青年が困窮する家族を見捨てられずに煩悶する姿を共感をこめて描く『生まれいずる悩み』を収めた。 有島武郎(1878-1923)は、東京で大蔵官僚として成功を収めた元薩摩郷士である父のもとに生まれました。幼い頃より恵まれた環境で育ち、隅々まで教育を与えられてきましたが、常にどこか心が晴れないような心持ちで日々を過ごしていました。札…

  • 『若きウェルテルの悩み』ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 親友のいいなずけロッテに対するウェルテルのひたむきな愛とその破局を描いたこの書簡体小説には、ゲーテが味わった若き日の情感と陶酔、不安と絶望が類いまれな抒情の言葉をもって吐露されている。晩年、詩人は「もし生涯に『ウェルテル』が自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ」と語った。 十八世紀におけるドイツ(神聖ローマ帝国)では、西ヨーロッパでの啓蒙主義の影響を強く受けていました。従来のキリスト教に基く封建的な考え方に対して反発するように起こったもので、人間の理性を重視して合理的な幸福社会を目指そうとするものでした。哲学者イマ…

  • 『しんどい月曜の朝がラクになる本』佐藤康行 紹介

    こんにちは。RIYOです。今回は書籍のご紹介です。 現代日本の社会において、組織の中に身を投じて働く人々は、少なからず月曜日(もしくは休み明け)を迎えることに憂鬱を感じる人が大多数であると言います。休みにしたいことが多すぎる、趣味の時間をもっと長く持ちたいなど、比較的前向きな悩みで休みを求める人は「憂鬱」とは少し違う不満の感情があると思います。そうではなく、仕事の日々が訪れることに対して「気が重くなる」という人々が本書の対象です。 本書では、仕事が「しんどい」と感じる大きな原因は「人間関係」にあると提言しています。競合や性格の不一致など、明確な不健全さによる息苦しい関係性は当然ではありますが、…

  • 『バガヴァッド・ギーター』聖仙ヴィヤーサ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 インド古典中もっとも有名な本書はヒンドゥー教が世界に誇る珠玉の聖典であり、古来宗派を超えて愛誦されてきた。表題は「神の歌」の意。ひとは社会人たることを放棄することなく現世の義務を果たしつつも窮極の境地に達することが可能である、と説く。サンスクリット原典による読みやすい新訳に懇切な注と解説をくわえた。 紀元前後に編纂された壮大な叙事詩『マハーバーラタ』は、バラタ王族に起こった同族戦争を描いたもので、世界最古の戦記とも言われています。このなかの一章を抜粋したものが本作『バガヴァッド・ギーター』です。「神の詩」という意味が込められ、神クリシュナと王…

  • 『マドゥモァゼル・ルウルウ』ジィップ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回はこちらの作品です。 天衣無縫、そして奔放。森茉莉が愛してやまなかった14歳の貴族の少女、おてんばルウルウの大冒険。 十八世紀のフランスでは、ルネサンスによって興った人間解放という思想が宗教に及び、永く続いていた封建社会における王権や教皇の絶対的な権威が薄れ始めていきます。時流に後押しされるように生まれたヴォルテールやジャン=ジャック・ルソーなどの解放的な思想が直接的に世相へ影響を与え、アンシャン・レジーム(旧制度の階級社会)が行き詰まり、虐げられ続けた第三身分たちによる権利の主張を呼び起こし、フランス革命が勃発しました。この革命の初期を指導したのが大弁舌家オノレ…

  • シェイクスピア作品感想リスト

    シェイクスピアは豊かで多様な作品を数多く遺しました。彼の戯曲は、さまざまな人間関係や文化を交えて、数多の解釈を生み出し、現代でも熱心に研究が進められています。さらには、現代の科学技術を用いて、新たな発見が次々に認められています。そして、彼の戯曲は現在の舞台や映画でも、色褪せない存在感と感動を放ち続けています。ここでは、シェイクスピア作品の感想をまとめました。ぜひ、お楽しみください。 「美しく、優しく、真実の」がわが主題のすべてであり、「美しく、優しく、真実の」をべつの言葉に変えて用いる。私の着想はこの変化を考えるのに使いはたされるのだ、三つの主題が一体となれば実に多様な世界がひらかれるから。美…

  • 『タイム・マシン』ハーバート・ジョージ・ウェルズ 感想

    こんにちは。RIYOです。今回の作品はこちらです。 時間飛行家は八十万年後の世界からもどってきた。彼が語る人類の未来図は、果して輝かしい希望に満ちたものだったろうか?──文明への苦い批評をこめて描く、ウエルズ不朽の古典的傑作。 ハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866-1946)はロンドンで商人をしていた父のもとに生まれました。しかし、立地や商材に恵まれず、父は庭師をする傍らでプロのクリケット選手として不安定な収入を得て暮らしていました。下層の中流階級に位置していた家庭は、決して裕福ではなく、ウェルズ自身も早々に呉服屋や科学者の見習いなどで働くという、厳しい生活を強いられることになりました。こ…

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