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ColBase:伊勢物語 鳥の子図 新しい年が明けた。 まだ春のきざしは見えず、川はすっかり凍って水の音すらしない。あまりの心細さに、 「貴女に心惑わされたが、道には迷わなかった」 という匂宮の言葉を思い出す浮舟。恋心は枯れ果てたが、その時の場面だけは心に焼きついている。...
浮舟が髪を下ろしたその時。 少将の尼は自室に下がり兄の阿闍梨と談笑、左衛門も知人の応対中であった。久しぶりの僧都一行の訪問につけ、旧交を温めるのに忙しかったのだ。 ただ一人、浮舟の傍で成り行きを見守っていた女童のこもきが、 「こんなことが!」 と告げに走った。慌てて尼たち...
相も変わらずの薫と匂宮周辺はさておき、物語は時を少し遡る。 浮舟が姿を消した三月下旬―――。 いったいどういったお導きであったことか。今思い出してみましても、まるで春の夜の夢か幻―――齢五十も過ぎてまいりますと、不思議な巡り合わせのひとつやふたつ経験するものでございますが、...
九月に入ると、小野の尼君はまたもや初瀬詣でを思い立った。 亡き娘を諦めきれないまま寂しく心細い山里暮らしを長年続けていたところに、降ってわいたような浮舟という存在―――尼君にはとても赤の他人とは思えなかった。兄僧都には否定されたが、やはりあの時詣でた観音の効験にちがいない、な...
琵琶湖から見る比叡山:比叡山延暦寺HPより 小野の尼君の亡き娘の婿はこの時、近衛中将となっていた。その弟・禅師の君は横川の兄僧都の弟子として山籠りしている。中将は他の兄弟とともにたびたび比叡山を登ったが、その前後に小野の庵にも立ち寄ることがあった。 この日、久しぶりに中将一行...
こうしてお世話するうち四月、五月と飛ぶように過ぎ去りました。が、一向に良くなりません。わたくしは心配のあまり兄僧都に文を送りました。 「やはり一度山を下りて来ていただけませんか?この人を助けて下さいませ。何にせよ今日まで命がありますのは、死ぬべき運命ではないんですわ……きっと何...