いにしへの
過去に戻りたいわけではない。少し覗いてみたくなっただけだ。 駅の周りには、わずかな数の店舗しかない。どこも違う店になっている。いくつかの店は、恐らく閉店しているであろうことが伺える。ぐるりと見渡していると、思わず「えっ!」と声が出た。かれこれ四十年以上前、ここに越してきた当時からあるパン屋は、まだ健在だった。色褪せた看板はその時のままなのかもしれない。よくここでパンを買っていた。店の前にある自販機で時々買う、ガラス瓶に入った「メローイエロー」も最高だった。 もう姿、形もないことは知っていたが、当時住んでいた家の前までやって来る。 『なつかしぃなー、ゆめ子さん』 「あっ、みぃ」 『うちのこと、忘…
2022/12/14 00:07