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2022/06/30

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  • 三度目の正直

    「じゃじゃ~ん」 遥子ちゃんにお披露目をする日がようやく来た。 河川敷のテニスコートは水はけが悪く、前日の雨の影響を受けやすいと遥子ちゃんが言う。前回、前々回も、当日雨は止んでいたが、コートは使えなかった。昨日も夕方から雨が降り出したので、三度目もまたかという気持ちになっていた。しかし、中止になるほどの雨量ではなかったようだ。 遥子ちゃんはいつも謙遜して、テニスは下手だからというが、そんなことはない。確かに、ハードな動きやスピード感あるボールを見たことはないが、それは私に合わせて打っているからであって、彼女はもう十年もテニスを続けている経験者だ。 とにかく怪我だけはしないようにしようね、と互い…

    地域タグ:東京都

  • 最新のモノ

    データ更新を”自動”に設定しているが、スムーズではないので、手動で更新する。まだ使い始めたばかりで、要領を得ていない。 去年の夏から、毎日体重を量るようにしている。知らないうちに増えているということがあるので、意識して自分の体重を知っておくというものだ。今までカレンダーに数値を書き込んでいたが、数日前からカレンダーが空白なのは、体重計を新しくしたからだった。スマホにデータが転送されるのである。 何かを買い換えるタイミングは、故障であることが多いが、今回はその理由ではない。夫が前々から体重計の買い替えを提案していた。夫も体重管理が必要で、私も然りだ。 前の体重計も体重のほか、いくつかデータを記録…

  • 個人情報バラまき作業

    郵便局の窓口で、一通の封筒を差し出した。これで”終わり”ということになる。 もうずっとネット検索ばかりする毎日で、心身共に疲弊していた。職業訓練校を修了して三ヶ月以内に就職をし、活動報告をすることが義務付けられている。未就職という欄に丸をした紙を封筒に入れ、郵便局へ出向く。最後の活動報告をした。訓練校への報告は終えたが、実はもう一方、ハローワークの報告も数週間後にしなくてはならない。報告内容は同じであろう。 一旦、仕切り直すことにした。白紙に戻す。 破棄されることが前提の個人情報の提供だが、実に簡単に相手方はその情報を手に入れ、”私”という人間を知ることになる。応募すればするほど、ダダ洩れでは…

  • 歩こう

    「今日だけは、やめて」という男の子のママの気持ちは、よく分かる。いつもは寛容なママであることが想像されるが、今日ばかりは勘弁してほしいだろう。通りすがりの私でさえ、冷や冷やした。ランドセルを背負って、おめかしした男の子は、水溜まりに足を入れようとしていた。 日曜日、小学校の入学式を控えた親子で、土手は賑わっていた。桜の木をバックに、どこもかしこも撮影会が行われていた。一年生になる子ばかりではない。プリンセスの恰好をした小さな女の子や、中学校の制服を着た子も見掛けた。もちろん、それとは関係なく、お花見を楽しんでいる人も多くいて、とにかく混んでいた。 そんな光景を見ながら、いつものウォーキングコー…

  • 訪ね人

    携帯電話に表示される番号は、知らない番号だった。電話に出ないでいると、すぐさま、家のインターホンが鳴った。まだ朝の8時過ぎである。そこには、知らない人が居た。 カレンダーに書くのをすっかり忘れていた。ただ、遥子ちゃんの経験がここで活かされる。財布の中には、シール状になった券をすでに忍ばせていた。 玄関前に立つ”知らない人”は、粗大ゴミの回収に来たと言う。粗大ゴミを出すときには、”有料粗大ゴミ処理券”を貼っておくのだが、その券を持っているか尋ねられた。そう、財布の中にある。レシートに埋もれた券を取り出す。そして、肝心の”粗大ゴミ“は押入の中だ。慌てて取りに行く。一人で運べる、コンパクトなサイズの…

  • 繋がり

    先に彼女の方が、私に気付いてくれた。待ち合わせ場所に行くのに、同じ路線に乗ることが分かったのは、前日、彼女がグループラインで問いかけてくれたおかげだった。乗り換えの駅で合流し、次の待ち合わせ場所へと向かう。 彼女とは互いに認識できたが、次の待ち合わせ場所で会う彼女達と上手く合流できるかは、また不安だった。そのうちの一人が、着いたら写真を送ってくれると言っていたとおり、ラインに写真が送られてきた。大きな駅の改札口を出ると、写真と同じ光景が目に入る。 お昼ご飯の調達に時間を要してしまったのは、お店が数多くあるだけの理由ではない。共通する”いつもの感覚”が、私達の中にはなかったのだ。そんなわけで、目…

  • 開花宣言

    春が好きなのは、三月が誕生月だからという理由なのかも知れない。 ベランダは一面に濡れ、サンダルのびしょ濡れ具合が、午前中の雨の様子を物語っていた。午後には打って変わって、太陽が顔を出し、空を明るくした。上着は必要なかったなと思うほど、外は随分と暖かかった。寒いのも、暑いのも苦手な私は、春の気候が一番良い。 残念なのは、花粉症に悩まされるということだ。今年、花粉症用の眼鏡を購入した。 老眼鏡が必要になってから、昔に買ったブルーライトカットだけされた眼鏡は使わなくなったが、花粉の時期には登場する。気持ち花粉を防ぐためだ。しかし、その眼鏡をどこかで失くしてしまう。モノを失くすのは珍しい。誤って”捨て…

  • 順次、家の外へ

    別れの日がやって来た。最後に”ありがとう”と抱きしめた。 息子と娘には、とうに承諾は取ってあった。洋室のソファーの、しかも座面ではなく背もたれの上に鎮座していた彼らは、子供達の承諾を得てからは、私の部屋の隅へと移動していた。それから随分と長い間、そこに居た。 二体のぬいぐるみを並べてサイズを測る。近くの薬局で、ダンボールを調達するつもりでいた。もしなければ、そのまま郵便局に出向いて、ダンボールを購入すると、段取りした。遠出してまで、無償で手に入るダンボールの調達をする選択肢をしなかったのは、天気が不安定なせいもあったが、今日の午前中のうちに、荷造りと発送までを”やる”と決めていたからだった。 …

  • 決めたらやる

    部屋の片隅にあった紙袋を自転車のカゴに載せ、橋を渡った。目的地に着くと、大きい紙袋と小さい紙袋を店員に預け、店内をぐるりとする。欲しいモノを探すのではなく、引き取ってくれそうなモノを確認する。今週の初め、リサイクルショップにようやく行くことができた。少しではあるが、家からモノが減る。 その日のうちに、もう一仕事終わらせるつもりが、必要なダンボールの調達が億劫になって、見送ってしまう。モノを減らすための、とある所に送る準備である。それを決めるのにも、送り先をどこにしようかと調べるだけで、時間を費やしてしまう。 モノを手に取って、行動すれば、家の中からモノが減る。そう実に簡単なこと、、、だと暗示を…

  • どっち派?

    「きのことたけのこ、どっち派?」 ”私は、たけのこ派”と思わず、会話に参加しそうになった。小学生の男の子二人が、お菓子売り場にいる。質問した男の子は、たけのこ派で、私と一緒だった。 「じゃあ、コンソメとのり塩は、どっち派?」 同じ男の子が別の論争を聞き出す。そんな二択はあっただろうか?答える側は、いつでも彼と被らない答えだった。”どちらかというと、のり塩”と心の中で答える私と、論争を繰り出す彼とは、また同じ嗜好だった。 小さなスーパーに置かれているお菓子は限られている。異なるメーカーのポテトチップスがいくつか陳列されているが、どれも全種類は置かれていないようだ。とあるメーカーのポテトチップスが…

  • 捨て活

    使えるけど使っていないペン。回収ボックスがあると知って、躊躇なく選別する。それでも使っていないペンすべてとはいかず、数本は手元に残し、あとは袋に詰めた。 片付けの方法は、いくつも見聞きしている。”8割捨てる”方法は、その名と通り、ゴミ袋に入れてゴミとして捨てる。フリマアプリやリサイクルショップなどの利用を考えると、手間と時間がかかり、いつまでもそれらが部屋に残されてしまう。それでは、スッキリしない。とにかく捨てる。 それらの関連動画に感化され、とにかく捨てたいという思いが沸々と湧く。とはいえ、実際には、サクサクと捨てられず、手放しても困らないのに判断するのに時間がかかる。しかし、ペンの回収のよ…

  • 旅の記録 ー続きー

    先週会ったばかりの母から電話があった。ちょうどこちらからも、連絡しようとしていた。都合の良い、曜日だったからだ。あちらは雨がひどく降っているという。こちらも結構降っていると答えたが、まだそうでもなかったことが、後から分かる。その後、西から東へと雨雲が移動し、雨は先程よりも、はるかに激しく音を立てていた。 旅を終えて自宅に戻ってから、無事に帰ったとの連絡をしそびれていた。同居する小さな甥っ子がラインに気付くと都合が悪いので、タイミングを見計らっていたら、その機会を失った。 母に会ったのは、まだ旅の途中だった。その続きを記しておく。 大阪駅から少し離れた場所のホテルに滞在していた。最寄駅からも少し…

  • 旅の記録

    "かっこいいね"と雨の中を走る赤い車を、娘と一緒に見送った。 父と会った日の夜、同じ市内に住むよっちゃんと食事をした。近況はほどほどに、昔話が尽きない。記憶の答え合わせが面白い。同じ習い事をしていたのに、発表会の写真のどこに彼女が収まっていたのか、記憶がない。彼女は彼女で、別の習い事を一緒に通っていたか私に聞いたが、私は体験に連れて行ってもらったきり、通ってはいない。 互いの答え合わせと、離れて過ごした期間のことを知るには、これからもまだまだ時間が必要だ。 滞在するホテルに隣接した飲食店まで来てくれた彼女は、車で帰宅する。彼女が運転する姿を初めて見た。 帰省の際は、いつも叔母のところにも顔を出…

  • 父と娘

    毎朝日課となっていることを、すっかり忘れていた。案の定、こういう日はいつもの如く、慌てて家を出た。 駅へと急ぐ。途中で新幹線を乗り換え、西へ西へと向かう。 私が幼き頃、父がサラリーマンだった時代があったらしいが、その後は自営業で商売一筋だ。 「今年79、80やっけ?」と問うと、「81や」と答えが返ってきた。今でも昔と形を変えて、同じ商売をしている。 両親はもう何十年も前に熟年離婚をしていて、その後の父の暮らしぶりは詳しくは知らない。離婚するまでも長く別居をしていたし、父と話す機会がほとんどなく、今に至る。 そのせいなのか、遠慮というかなんなのか、意思疎通に少し欠けたりする。 今日の待ち合わせも…

  • モノを減らす

    燃えるゴミを二袋、燃えないゴミを一袋の半分ほど、捨てた。燃えないゴミの方は、捨てると決めてから長らく放置していたものだった。それらは、台所用品ばかりで、恐らく捨てたモノを記録に収めようとした当時の私が、とっておいたものだ。ちなみに、片付けているのは自室である。とりあえず、なんでも持ち込まれているので、娘がこの部屋を使っている頃に比べて、随分と雑然としていた。 30分のタイマーをかけて、片付けては休憩を繰り返し、トータル4時間を費やした。その割には、部屋はパッとしないが、ゴミを出したことの達成感は得られた。 今まで、何度も”いる”か”いらない”かをやってきて、”いらない”モノは処分してきたつもり…

  • 西へ行く

    青い空に、小さな白い雲が浮かんでいた。その光景を写真に収めたとしても、美しくはない。ゆらゆら揺れる電線が邪魔をしていた。 天気は良いが、随分と風が強い。花粉を浴びて帰宅すると、すぐさまくしゃみが出た。そうだ、マスクも必須だと気付いて、早速持ち物リストに書き加えた。来週の気温はどうだろうか、コートは邪魔かなと考えながら、また苦手な荷造りに時間がかかるのだろうなと予想した。 今年は会おうね、が実現する。昨年も友達の帰省に合わせて、実現に一歩話が進んだかのようだったが、結局そのままになってしまった。グループラインに全員の名がないのが心残りだが、連絡手段がもうなかった。 大阪へ出向く。必然的に帰省も兼…

  • しゅうかつ

    ダイレクトメールばかりの受信箱をチェックしていると、見覚えのある差出人から”要返信”と記載されたメールが届いていた。事前に聞いていた報告日が近づいていたので、そのメールの内容については、ここのところ気にしていた。 期待に応えられるような過去形の報告はなく、”○○予定”と未来形で返答する。返信内容が、芳しくなかったせいか、再度送られてきたメールには、丁寧な文面の中に、活動が少ないようですとの文言が記載されていた。 職業訓練校へのメール報告が終わった直後、今度はあちらに行く予定が入っていた。約束の日は時間も指定されていたのだが、前日になってキャンセルをした。訓練修了後は、ハローワークの担当者に、”…

  • こんな日

    踏切の向こう側にいる女性が、知っている人によく似ていた。勤務時間中にここに居るはずもなく、あまり見るのも失礼だなと、視線を逸らそうとした時、彼女は私に手を振った。似ているのではなく、本人だった。上下線の電車が通り過ぎる間が、妙に長い。もう彼女だと分かってからの、踏切が開くまでの時間を持て余してしまう。その間、携帯電話に目をやった。ちょうど12時を過ぎたところだった。なるほど、彼女は昼休みに自宅に帰ってきたのだと理解した。そういえばこの辺りに住んでいると言っていた。 前の職場で一緒だった昼休み中の彼女に、なんでここに居るのと聞かれ、百円ショップまで散歩を兼ねて歩いてきたのだと答えた。片道20分の…

  • 春一番

    待合室の椅子が足りないほど、混んでいた。時間潰しに携帯電話を眺めるのを躊躇する。自覚のない症状が、悪化するかもしれない。確かにパソコンや携帯電話を使用する時間が、大幅に増えていた。目を酷使しないよう、パソコンの使用に制限がかけられたらどうしようか、と考えた。 結論から言うと、心配する症状はなく何でもなかった。迷いなくここへ来たのは、家族が世話になったことがあるからで、自身のかかりつけ医がないことに、改めて気が付いた。 上下、左右と口で言う方向に、手も動かしていた。特に右と左が分からなくなる。リズミカルに正解を言い当てるので、文字はどんどん小さくなる。学生の時ほどではないが、視力は何年も衰えない…

  • 体調管理

    深呼吸をした。時計を見ると、16時を過ぎたところだった。アラーム音で起こされてから、30分ほど経過していたが、嫌な夢の消化がまだ終わっていない。 昔住んでいた、実家の一階の一室に、母とまだ幼い息子と居た。私は、二階に身を隠そうとしたが、息子を母に預けていくわけにはいかないと、思い直したその一瞬で、タイミングがずれた。鉢合わせたしたくない相手が帰宅した。慌てて、窓から外に出ようと試みるが、外は雨がザーザーと降っていて、断念した。結局、顔を合わすことになるが、一刻も早く自宅へ帰ろうと、幼い息子を説得していた。 こんな夢をみたのも、昼間、母と電話をしたからだ。今回はこちらから電話を掛けたが、先週に続…

  • ミッション遂行

    不備はない前提で、念のため確認をする。すると書類がニ枚足りないことが発覚する。一旦手が止まり数日が経過し、必要書類が同封されている夫宛の封筒を、ようやく捜索する。過去の私は、大事にしまい過ぎて、思いもよらぬファイルに収めていた。 ミッションが終わった。年内の年末調整に続き、年明けの確定申告も、ちょっと煩わしい。医療費が思ったより多く、驚いた。入力もその分、時間を要した。今年こそ、ふるさと納税の証明書が同封されている封筒と、医療費の領収書は、一箇所にまとめておこうと誓った。 気になることが、なかなか終わらず、時間が経過する。元々テキパキと動けない上に、行動するまで時間がかかる。この状態が続いてい…

  • 立春を迎えて

    目の前の光景に思わず”シュールすぎる”と口にした。いや、この場で声を出すのは御法度なので、正確には口にしたのではなく、心の中で呟いた。 ”シュール”という単語を使ったことがあっただろうか、ここで使うことがしっくり合っているのかも不明だが、恐らくそんな感じであろう。 夕食時、家族四人は食卓を囲む椅子に座っていた。しかし体の向きは、皆、同じ方向を向いている。声を発せず、黙々と同じものを頬張っている。娘もこのために実家へ帰ってきていた。皆、何を願って食しているのだろうか、私は家族の健康を願った。皆が東北東を向くと、私の座る場所からは三人の姿が確認できる。同じ向きで巻きずしを黙って食べる姿が、なんとも…

  • 久方ぶり

    歩道の脇に、数えきれないほどのどんぐりが落ちていた。”どんぐりって秋だよなぁ”と素朴な疑問を抱いた翌日には、もう落ち葉と共に一掃されていた。制服を着た学生と保護者の二人組とすれ違う。ここのところ、よく見かける光景だ。恐らく、受験生だろう。 五十年も生きてきたと言えば、何か一つぐらいは武勇伝が語れそうだが、何もない。長い人生経験と言えるかもしれないが、たった五十回、春夏秋冬を巡っただけだ。しかし、その間に、学生だった私は受験を経験し、母となった私は息子と娘の受験も経験した。 先日、短大の友達から電話があった。互いに「十年ぶり?かな?」なんて言ったけど、適当だと思う。 彼女とは、新年の挨拶をグルー…

  • 寒さに負けず

    ポケットに手を入れた。天気予報では、暖かいと言っていたが、風が冷たかった。 「ゆめちゃん、ダウン持ってなかった?」と遥子ちゃんが聞くのも、私が着ている上着が、薄手だったからだ。長年着ていたダウンは、この冬が来る前に処分した。着る時期が来たら購入すればよいと思って、結局買わずじまいだ。 ダウンもなければ、ウォーキングに適した、寒さ対策ができるスポーツウェアも持っていなかった。 持ち物は、中途半端だった。目的がはっきりしたものを購入するか、応用が利くものを購入するか、どちらも活躍しそうだが、どちらにも当てはまらない、なんかしっくりこないものが多かった。 寒さは、どうもやる気を妨げる。やる気は待って…

  • 平日の自由

    騒音が鳴りやんだ。昼休みの知らせだ。静かなうちに、お昼ご飯を済ませておこうと、昨日のおかゆの残りを温めた。 一昨日から続いていた胃の痛みは、今朝になって治まった。しかし、まだ体は重い。訓練校が修了し、その後、立て続けに入っていた予定を終えると、どっと疲れが出たようだった。 13時を回ると、再び騒音がした。ドリルの音は、天井に穴があくのではないかと心配するほどだ。上の階のリフォーム工事が始まった。 ようやく、平日に時間が与えられた。まだ、新しいルーティンは決まっていない。 家を出る時間までにという決まりがなくなり、午前中に洗濯機を何回も回している自分に、時間の使い方が、いやそうじゃないんだよなと…

  • 年に一度

    "Reception"と背後の壁に書かれた、長いカウンターには窓口が7つもあった。どの窓口もフル稼働で、待合室で待つ人達が次々と呼ばれていく。 席に着くと、私に充てられた番号の、一つ前の番号が呼ばれた。待合室の混み具合とは裏腹に、すぐ呼ばれるのだなと安堵した。最初に案内される、更衣室に移動するのもすぐだろう。コートは脱がずに待機した。 次に呼ばれた番号は、全く異なる番号だった。その後も規則性のない番号が呼ばれ、結局、混み具合で予想される通りの順番で、私の番が回ってきた。 その後、一時間経過しても検査は一つしか終わっていなかった。健康診断のオプションで付けた、胃カメラ検査がその次に回ってきて、憂…

  • ■ - 片付けられない「私」と向き合う

  • 冬の日

    湯舟に浸かると、体が冷え切っていることを実感する。私の体積分の湯が浴槽から一気に流れでる。湯が捌けるまで、時間を要している様子を目の当たりにして、排水溝の掃除を怠っていることに気付く。まるで銭湯のように、並々と浴槽に張られた湯は、夫が追いだきと間違って、自動お湯張りのボタンを押したのだろう。 年が明けても、まだまだ寒いということをつい忘れてしまう。気付くと体にかゆみをもった箇所が、少しずつ増えている。カサカサの皮膚は、よりカサカサしていた。手の指のなんとなく気になるところが、うっすら赤みを帯びていた。そのうち、あかぎれとなって、傷口が痛々しい。 少し寄り道をしただけで、ぐっと気温が下がっている…

  • 便り

    メールの受信箱に、見慣れない差出人の名があった。親切なお知らせは、終了と同時に継続を促すものだった。しかし、私には継続の必要はもうない。 届いた封筒のうち何通かは、ファイルに収めた記憶がある。途中から、その辺に置きだした。だいたいここら辺という、見当のついている箇所が数カ所あり、そこに埋まっている。美味しい物を食した分、封筒の数がある。 ふるさと納税の封筒を探すより厄介なのは、医療費の方だ。申告できるか定かでないが、それをはっきりさせるためにも、領収書を集めなければならない。他にも気になる書類があった。処理するための時間は、もう時期与えられる。 パートを辞めた時と似ている。何かをやり遂げたあと…

  • 環境を整える

    赤い半纏が、案外重宝していた。膝には毛布を掛け、寒さをしのぐ。箱から顔を出しているティッシュが勢いよく揺れていた。冷え切った部屋を暖めるために、エアコンがフル稼働していた。 とにかくこの部屋は寒い。 自室に居る時間が多くなった。ベットを椅子代わりにし、三段に重ねられた衣装ケースを机代わりにする。ここまでは、以前と一緒だ。その衣装ケースの上に、この度、デスクトップ型のPC一式が、こたつのある部屋から引っ越してきた。テレビ画面に繋がれていたパソコンは、今度は、夫から譲り受けたモニターに繋がれ、コンパクトになった。 とはいえ、テレビと比較してコンパクトになっただけで、狭い部屋に持ち込むには、十分場所…

  • 新年のご挨拶

    彼の名を何度も呼んだ。姿を現さない彼を心配した。部屋をぐるりと歩いても、彼の姿はなかった。私が訪ねていくと、必ず出迎えてくれる彼が、今日は居ない。 私が彼を探す様子を、彼は上から見下ろしていた。ようやく、彼がキャットタワーの上に居ることに気付いて、安堵した。今年最初の顔合わせがこれである。 相変わらず、ご飯を用意すると、彼はすぐさま食べ始める。私が来なかったら、困ったでしょう?と心の中で呟いた。彼女の方も相変わらずで、まるで置物のように、窓際で微動だにしない。彼女は、すり寄ってきたことがないので、撫でてあげたことがない。 瑠海さんから言付かった手紙を、読み直す。やり残したことがないことを確認す…

  • 東京の空

    あいにくの天気だった。正月休みも、普段と変わらず、洗濯機を回していた。 娘とウォーキングに出た午前中は、よく晴れていた。しかし、午後には雨がパラリとした。”今日は乾かないな”と呟きながら、夜にコインランドリ―へ行こうかなと考えていた。 娘も帰省し、夫も実家から戻ってきた。おせちは年々簡素化されて、今回生協で購入したおせちの中身は、ほんの数品で、重箱にさえ詰めなかった。年末に出向いたスーパでも、お正月用の品には目もくれず、買い物をした。そのため、雑煮用の白味噌をうっかり買いそびれるところだった。 何することなく、各々の空間から、時々ダイニングに顔を出しては、食するものを物色する。朝昼は、お腹の空…

  • 束の間の休暇

    角を曲がると、ビルのてっぺんに差し掛かろうとする太陽と向き合った。眩しくて、しかめっ面になる。 家事を終え、日用品の買い出しから戻ったら、もうこんな時間だった。いつもなら、五限目の最後の授業が終わる頃だ。 今日から休みに入った。勉強や課題に時間を充てるつもりだが、初日から通常の家事だけで時間が過ぎてしまう。休みの間、家事をしないと宣言したものの、全くしないというわけにもいかない。 課題の制作にいつも追われている。息つく暇もなく、次の課題が始まる、ということをここのところ繰り返していた。いつもは夏の帰省だけだが、夫が年末の帰省も提案した。当初は余裕があればと返事をしたが、課題が立て続けに出ること…

  • ■ - 片付けられない「私」と向き合う

  • ワークライフバランス

    机の下で、左手の親指と人差し指の間を、右手で揉んでいた。次はその逆で、右手の親指と人差し指の間を左手で揉む。何かしらのツボがありそうな箇所だ。 教室には時計がなかった。机の上のパソコンも閉じている。携帯電話も鞄の中だ。前で話す男性の手が上がるたび、腕時計を確認するが、よく見えない。 何度も睡魔が襲ってきた。押したツボは、眠気を解消するものではないようだ。授業の一コマが、とてつもなく長かった。 何が言いたいのか、よく分からなかった。就職支援という名のもと、外部からやってきた彼の講話を、聞き漏らさぬよう努力したが、なんともつまらない時間だった。 月に一度、ここに来る。もう何度も来ているのに、受付で…

  • 慣れ

    ”いつも"の数字を入力したはずが、パソコンの画面は変わらず、ログインに失敗する。この頃、訓練校のパソコンでも家のパソコンでも、同じ事が起きていた。というのも、各々のパスワードを違う端末に入力しているからだった。 キーボードを押し間違うこともある。よく見ると、キーの配列が端末によって微妙に異なる。 ”いつも"の事をしている手は、無意識に動いた。今朝、シャンプーを2回してしまったのも、なるほど無意識である。 天気予報のアプリを開くと、一時間ごとの天気はずっと雲のマークが並んでいた。出掛ける前に、洗濯をするのはいつものことだ。少々天気が気になっても、洗濯を干す。唯一洗濯だけは、億劫がらずにできる家事…

  • 週末は

    時刻を確認すると、起きる時間をとっくに過ぎていた。携帯電話のアラーム音が何度もなっていたのは、気のせいではなかったようだ。慌てて部屋を出ると、始発に乗ると言っていた夫は、もうほとんど身支度を終えていた。昨日、私はいつもより早い時間にベッドに入った。しかし、その前の日の睡眠時間を補うように、深い眠りについていた。 午後の授業は眠くなりがちだ。特に今日は欠伸まで出ている。作業の手が一段と遅くなった。頭の中は、帰ったら寝ることだけを考えていた。 家に着くと、今日に限って、シンクに残った洗いものや溜まった資源ごみが気になった。眠たいはずの体を動かして、ひととおり仕事を終えたら、こたつに足を入れる。ベッ…

  • 塵と山

    予報通り、雨が降っていた。 家の中に居ると、余程強い雨でなければ雨音が聞こえない。ロールスクリーンを下ろしたままの部屋からは、外の様子が覗えなかった。 帰りは雨が止むのを知っていたが、折り畳みではなく長傘を持って家を出た。傘の柄に貼られた赤いマスキングテープは、迷わず手に取るのに役に立つ。 電車で通う日々も、あと一ヶ月と少しだった。頭の中に蓄積される知識と比例して、レシートも財布の中で溜まっていた。 いつぞや紙類から解放されたはずだった。しかし、レシートを含む紙類は、財布の中だけでなく、部屋にあちらこちらの紙袋に大量にあった。 些細な行動を怠ると、溜まっていく”何か”を片付けるのには、とてつも…

  • タイミング

    うっすら白い半円が、雲一つない青い空に浮かんでいた。月だと認識はするも、なぜ青い空に浮かんでいるかは説明できない。理科の授業で習ったのだろうか、記憶にはなかった。 おせち料理にちなんだものが、スーパーに並び始めた。もうすぐ今年も終わりなんだと、突きつけられる。大晦日までのカウントダウンが始まった脳内は、すでに気持ちが忙しない。心と時間の余裕も持った、一年の終わりを過ごせるのはいつになるのだろうか。「今年こそ」の言葉は聞き飽きた。 しかし、今年はいつもと違う年末になりそうだ。”心と時間の余裕”を持つことはやはりできないかもしれない。しかし、年末特有の日常より増える家事については、しないつもりだ。…

  • 鈴が鳴る夜

    教室の後ろが少しざわついた。今しがた、先生が張り出した紙を見て、クラスメイトが声を漏らしている。何も25日に被せて来なくても良いのになと、私でさえ不満を漏らした。 休み時間、後ろの席から聞こえる話に、私も加わった。聞くと、大きさも形状も、それぞれ違った。しかし、今年最後のイベントを楽しむために、皆、準備をしているようだ。うちのはこれぐらいと、手の平を下にして、高さを示した。「もう処分して、ないんだけど」と枕詞をつけた。年に一回、天袋から出し入れするたび、もみの木の葉が散っていたツリーは、もう我が家にはなかった。 彼女の家にも、ツリーがあった。存在感のある大きなツリーだった。それでも部屋を圧迫す…

  • 全力投球

    案の定、足が温まると目を閉じていた。深く頭が下がって、首に負担を感じる。その状態を回避するため、目を開けようとするが、時間がかかる。 起きてはまた、同じことを繰り返し、結局こたつでのパソコン作業は進まない。 課題の締切が迫っていた。ノートをまとめるとか、復習をするとか、課題以外のことに割く時間がなかった。先生に質問したいことが、何なのかも整理できないまま、卒業の日までのカウントダウンが始まっていた。 こたつから出て、台所へと向かった。コンロに火をつけ、やかんから湯気が立つのを待つ。その間に、ドリップコーヒーをカップにセットする。 欠伸をしながら、コーヒーを口に運んだ。少しばかり眠気を覚まして、…

  • 来世で会う

    いつものアナウンスを、今日は聞き逃していた。誰かに押された私の体は、踏ん張っていられず、私も誰かを押していた。 今朝のことなど、すっかり忘れていた。夫が帰宅後の、最初の会話のやり取りを思い返していた。いろいろ考えていると、ふと車内の光景が蘇った。 申し訳ない気持ちで隣にいた女性に頭を下げた。しかし女性は、とても嫌そうな顔をしていた。 「電車が揺れますので、お気を付け下さい」と、いつも流れる車内アナウンスが、どのあたりを通るときに聞こえてくるのか覚えていない。 途中の駅から、立つだけで精一杯になり、四方八方、私の体は誰かに触れていた。駅に着くたび、その状態のまま、体はどんどんと奥へ流れていく。電…

  • クラスメイト

    テーブルには、マグカップが一つ、グラスが三つ置かれていた。 ちょうどおやつに相応しい時刻だった。いつもなら、デザートも注文するところだ。しかし今日は控えておく。昼食も、少なめに調整しておいた。 コートを着る季節になった。マグカップに注がれたホットコーヒーを手に、先に席に着いた。あとから続く三人は、氷の入ったグラスを手にしていた。 もう一人、相変わらず忙しい彼女は、まだこちらに来られないようだ。今日の日を迎えるにあたって、私が約束を取り付けてくれないのではと、彼女は半信半疑だった。 コーヒーを飲み終えたあと、ラインの通知音が鳴った。しばらくして、私は表に出た。こちらに向かって来る彼女、娘をすぐに…

  • 予兆

    誰かに呼ばれているような気がした。 訓練校の終了日以降の予定は、まだ決まっていない。 前回までのハローワーク来所日と違った点は、履歴書と職務経歴書の提出を求められたことだった。たいして書く内容もない、薄っぺらい書類を持参した。 そろそろ具体的に動くよう、指導があった。ハローワークでの求人をいくつかピックアップするも、実はピンと来ていない。 ハローワークや訓練校が期待する働き口は決まっていないが、いくつかやることは決めていた。 誰かの声が聞こえたわけではない。「未来の私」が何か言わんとしている様子で、私を呼んでいるような気がした。 右に行くか、左に行くか、右を選ぶか、左を選ぶか、もしくは、今する…

  • 三日月

    やっつけ仕事のつもりはないが、結果そうだと言われても仕方がない。完成品に雑さが目立つ。締切厳守のなか、それがその時の精一杯だ。 何か課題が出るたび、完成後には反省をする。次は、全てではないものの、反省点の一部は活かしつつ、習ったばかりの新しい技を取り込む。そしてまた、自分の悪い癖が浮き彫りになり、反省する。 自分を知る良い材料だ。 先日、2週間かけて課題を終わらせたばかりだったが、息つく暇もなく、次の課題が出た。その後も、立て続けに課題が出ることが決まっている。 訓練校もあと2ヶ月で終了となる。 空に三日月が浮かんでいた。 少しずつ形を変えているはずだったが、知らないうちに、三日月になるまで満…

  • 木枯らし

    買ったばかりのセーターを着た。季節外れの暑さから一変、冷たい風が体を包み込んだ。 押入の中を覗くと、げんなりした。何度片付けても、リバウンドする。奥に追いやられていた、ガスストーブを取り出した。その手前には、押入に収納してからまだ日の浅い、扇風機が横たわっていた。乱暴に突っ込まれているこたつ布団が目に入った。今週末、こたつを出そうと決めた。 実際のところ、どのくらい寝ているのだろう。ベッドに入ってから朝起きるまでの、睡眠時間は十分とはいえない。夕方の帰宅直後や、夕食後のパソコン作業の途中に、睡魔に襲われる時間を足せば、まぁそれなりと言ったところだろうか。しかし、睡眠の質はよくないだろう。 体の…

  • つもりで

    引越に伴って、大量のごみが出た。引越後も、まだ後片付けをするために、引越前の住居に足しげく通う。連日の作業で、とても疲れている。 と語っていたのは、同じマンションの住人だった。彼女が引っ越したことで、また古株住人として、一つ昇格した。 彼女の家の、増え続けた「もの」は相当な量だったようだ。「もの」を処分するのに、引越はよい機会だと言っていた。 我が家の「もの」も、とにかく多い。もし、引越をするとして、今、家にある「もの」を新居に運びたいかと問われれば、「いいえ」と速攻答える。引越をするつもりで、新居に運びたくない「もの」は、処分したらどうだろう。 ワンルームの部屋は、時々ブラックホールになる。…

  • 少しずつ

    ビルの谷間から、オレンジ色の光が放たれている。上空の雲が色づいて、そこだけ異空間のようだ。土手に上がると、川の向こうのビルの群れが良く見える。 下流に向かってしばらく歩くと、向こうから遥子ちゃんが現れる。わりと早くから私は気付いていたが、手を振るのは、距離が縮まってからにした。遠くにいる私を、遥子ちゃんは、私だと確信が持てないようだ。 太陽はビルの谷間に静かに沈んでいく。河川敷の野球場はライトアップされ、その光を白いユニフォームが反射させている。同じ道を戻ってくると、先ほどのビルの群れは、また様子の違う景色を見せてくる。 「綺麗だね」 遥子ちゃんは、先週も川の向こうを見ながら、同じ事を言ってい…

  • 四半世紀前

    家に着く頃には、もう日付が変わっていた。別れを惜しんで帰ってきたが、また近々会えそうな予感だ。 「お互い見つけられるか楽しみだね」「ほんと、それ」 数日前に、私から待ち合わせ場所の連絡をした。夜には賑やかになる、若者の街を指定したのは、都合が良いという理由からだった。彼女が滞在しているホテルからも、私が通う訓練校からも近かった。街中に出るつもりは、はなからなく、駅直結のビルで会おうと決めていた。飲食店の選択肢も多いし、ビルの名を頼りに来れば、彼女も辿り着くだろう。 私の方が先に着いた、と思われた。周りにいる人を一人一人確認する。私と同年代の女性を探すも、該当する人がいない。つまり、彼女はまだこ…

  • 近づく終わり

    どーん、どーんという音で目が覚めた。ソファーから体を起こし、一人外に出た。 土手に上がると、皆、下流の方に体を向けていた。私もそれにならって、同じ方向に体を向けた。混み合っていたので、邪魔にならないところに移動をする。しばらく居るつもりで、しゃがみこんだ。しかし、いくら待っても花火は上がらなかった。 どうも、私はあきらめが悪かったようだ。振り返ると、一組の家族しか居なかった。土手から下りるとき、携帯のカメラを空に向けている人がいた。花火は上がっていないし、方角もまるで違っていた。見上げた先には、綺麗な月が浮かんでいた。 「明後日、試験をします」 急な話だ。今日は課題の方を少し進めておきたい。な…

  • 空の下で

    歩くたびに、ぴょんぴょんと揺れている。毛先が跳ねているのが、影でも分かる。 揺れる影と駅に向かった私が、雲一つない空に気付いたのは、電車に乗ってからだった。遅れているとアナウンスされた電車は、混んでいた。ドア付近から、それ以上奥に進むことはできず、ずっと窓から外を眺めていた。青い空は、しばらくすると消え去った。電車は地下へと潜っていく。 改札を出るとき、二回目の洗濯を干したか気になった。いや、干したなと思い直した。地上へ出ると、雲一つない空に再会した。 要領の悪さが、よく分かる。忙しくさせてるのは、紛れもなく私自身だ。足りない時間をどう作るかを考える。何かをするのにかかってる時間を短くする、も…

  • 一期とも一会ともいわず

    地面の斑点模様を見て、雨だと気付いた。降り始めの雨よりも、結構風が強いことが気になった。 近くの土手から花火が見えるのを期待して、娘が実家に帰ってきた。息子を誘ったが、行く気はなく、夫と娘と、三人で家を出た。 雨にあたらぬよう、高架下で腰を下ろす。遠くで上がる花火は、まだ先に進めばもっと大きく見えるが、ここでも十分だ。 今年初めて花火を見た。花火玉の中身を覗いたとしても、よく分からないだろう。様々な形の花火に、素直に綺麗だと感想を抱き、どうしてあんな風に上がるのだろうと不思議に思う。 ラインの履歴をみると、彼女との前回のやり取りは三年前だった。彼女は、私がパートの仕事を辞めたのを知らなかった。…

  • 風のしわざ

    庭に小さな洋服が落ちていた。強風がもたらす影響を受けたのは、私だけではなかったようだ。 「ゆめ子ちゃん、目が真っ赤だよ」 別れ際、私の顔を正面からみた遥子ちゃんが言った。 そろそろ声を掛けようと思いながら、先延ばしになっていたウォーキングがやっと実現した。 「ちょうど昨日、ゆめ子ちゃんのことを思っていたら、連絡が来た」と彼女は言っていた。土手のどこかで合流できれば良し、としている私達だが、なかなか遥子ちゃんの姿が見えない。そのことにちょっと安心する。家を出た時間が遅かったのは、私だけではなかたようだ。 土手を歩いている途中で、涙が出ると訴えた私に、彼女はすぐ道を変えようと言ってくれた。いつもは…

  • 大人の靴屋

    「どこに置いたっけ?」 週末、家を空ける前はそこにあったはずだ。しかし見当たらなかった。 洋室にあるソファーと長椅子の上には、丁寧に畳まれた洗濯物が仕分けされていた。畳み方と、仕分けが、いつもと少し異なった。 それらの洗濯物と、洋服を収めている引き出しを何度見ても、手持ちの服が増えるわけではない。何を着ようか、いつも決めかねる。 結果、一昨日と同じ服を着ていることもしばしばだ。すぐにターンが回ってくる服の上から羽織った上着は、教室に到着後は椅子に掛けられたままだ。外が窺えない窓は、ロールカーテン越しに陽射しを感じとる。 週末の長旅の疲れが、まだ残っているのだろうか。それともこの季節のせいだろう…

  • 秋晴れ

    「さむっ」寝床に入りながら、思わず声が出る。娘もよく言っていた。 雲一つない空だった。夏にはプールが広げられていた保育所の前には、一台のカートが置かれていた。その中には、小さな子供が4~5人乗っている。これから外へ出掛けるようだ。しかし、まだ出発できずにいた。一人、先生の膝に乗って、なだめられている子がいる。 午後になっても、ビルの窓から覗く空は、雲一つなかった。あの子は、みんなと一緒にカートに乗ったのだろうか? 以前寝床にしていた和室とは、室内温度がやはり異なるようだ。部屋に入ると、ひんやりとした空気に触れた。昼間の心地よさは一転し、夜になると随分と冷える。 娘から譲り受けた部屋で、この秋、…

  • 再開せよ

    リュックを下ろし、うがいと手洗いを済ませたら、すぐさまベッドに潜り込んだ。携帯電話のアラームを一時間後にセットし、仮眠をする。 途中で雨音が聞こえ、洗濯物が気になったが、体を起こすことはしなかった。 長い制作期間を終えた。帰ったら寝る、そう決めて訓練校を出た。 三十年ぶりに学生となって、使っていなかった脳は、フル回転している。しかし、三ヶ月で詰め込まれたことが、形に出来ることに達成感がある。と同時に、仕上がりはまだまだだと痛感させられる。 折り返し地点となった。「制作」は、個人とグループを含め、あと三つだ。 三ヶ月後の終了時には、年が明けている。その前に、私の嫌いな年末がやって来る。”やらなけ…

  • 寄り道

    「お幸せにお降りください」 何も急ぐことはなかったのだ。そう遠くない目的地に行くのに、”普通”でも”急行”でもどちらでも良かった。しかもまだ間に合う時間だ。なんとなく人の流れに沿って急行に乗り換える。やはり混んでいた。 頭の中で、言葉を変換する。車内のアナウンスは「押し合わずにお降りください」だった。 帰りの電車は、押し合うこともない。早く帰りたいと訴える、疲れた体を座席に委ね、帰路に着く。自宅に着く時間はいつも同じだ。 川の向こうに渡るには、ほんの十数メートル歩くだけだ。土手を降りたら、河川敷で野球やサッカーができるほどの広さのある、自宅の最寄りの川とはまた様子が違う。 道路と道路に挟まれた…

  • 挑む

    クラスの何人かは、授業中イヤホンをしていた。注意事項は、”音漏れはしないように”だった。 どうにも集中できない。曲や、その音に合わせた歌詞を聴いてしまう。先生からの注意事項は、私には無用だった。イヤホンをつける必要がないからだ。 制作期間中、各々机に向かって作業をする。音はない環境だったが、集中力は途切れる。作業量も多く、家での作業時間を足さないと、どうにも追いつかなかった。それは、”人による”ものではあったが、私には授業時間外の時間が必要だった。 まだ作業途中ではあったが、見えてくるものがある。その一つは自分の欠点が浮き彫りになることだ。ここは職業訓練校なので、仕事に就くための学びをしている…

  • 日々

    電車の警笛が鳴った。 ドアが閉まるというのに、小さな駅のホームには残る人がいる。特急や急行が走る路線ではないので、この駅で後から来る電車を待つ必要がない。 電車に乗らなかった彼らに視線を向ける。お父さんとお母さん、二人の前に小さな男の子がいた。男の子は電車に向かって手を振っている。警笛は、運転士さんから男の子に向けた挨拶だ。 なんとも楽しそうだ。訓練校に行く途中、ビルの一角にある保育所の前を通る。庭を備えていないその場所は、夏の日の間、表に小さなプールを出していた。無邪気に水遊びをする子供達の様子が覗える。 目を閉じると、すぐに眠ってしまいそうだった。繰り返しの毎日のなかで、微笑ましい光景が目…

  • 余裕なき

    玄関の方から、物音がした。インターホンのカメラを覗くが、誰もいない。 積み上げた”もの”たちが、少しずつ崩れ落ちてる音かもしれない。玄関近くの、もう娘の元部屋だという名残もないほど散らかった、自室に向かう。 パソコンからデータを送ったプリンターが作動していた。そうだった。パソコンの操作をしたのは、少し前だが、ようやく動き始めたようだ。 今日は、すこぶるプリンターの調子が悪かった。一枚印刷するのに、途方もなく時間がかかる。 明日の面談で持参する、複数の書類の印刷をしないといけないというのに。 書類を入れるためのファイルは、山ほどあるはずだが、どれもこれも、人前で出すにはちょっとといった具合だ。結…

  • 「私」と向き合う

    特別お題「わたしがブログを書く理由」 ※はてなブログ企画※ いつか記しておきたいと思っていた。いい機会かもしれない。少し語ってみようか。 もう昔のことで覚えていない。”趣味は読書”という少女だったら、きっと覚えているのだろう。 夏休みの宿題で、一番苦手だったのが、読書感想文だ。毎年一冊は否応なく、本を読まされる。しかし、今まで何を読んだのか、記憶になかった。 普段出される宿題は、きちんとやる子だった。しかし、夏休みに出される大量の宿題には、対応できない。計画どおりに、そつなくこなせる子ではなかった。尚且つ、嫌なことは後回しで、必然的に夏休みの最後には、読書感想文が残ってしまう。 もうその頃から…

  • 花朝月夕

    心地よい風に当たると、なんだかホッとする。一日に一度は、部屋の空気を入れ替える。時には湿った空気が入ったり、かえって部屋の暑さが増したりするが、涼しい風が通ると、堂々と窓を開けられる。 昼間はまだ暑いが、朝夕過ごしやすくなった。”そろそろ遥子ちゃんに連絡しないとな” 彼女には大概、私の都合に合わせてもらっている。今回もそうだ。ウォーキングの再開を”気長に待つよ”と言ってくれている彼女に、なお、こちらの都合で、時間帯の変更もお願いすることになる。 先月まだ暑いさなか、久しぶりに会ったときは、ウォーキングをせずカフェでお茶をした。それもまた、急な連絡をしたこちらの都合だ。 遥子ちゃんとウォーキング…

  • 心模様

    彼女はいつも笑顔だ。こちらまで、自然と明るい表情になる。 近所に住む彼女、咲希さんとは、ごくたまにすれ違うことがある。互いに、もしくは片方が自転車に乗っている、そんな状況もあって、立ち止まることはない。挨拶を交わすのみだ。 駅前のクリーニング屋へ行く途中、向こうからよく知る人物が歩いてきた。今日は互いに自転車に乗っていない。立ち止まって、つい話し込んでしまう。彼女の、包容力を感じさせる、優しい声が、会話を弾ませる。 よくないな、とこの頃感じていた。疲れた、時間が足りない、終わらない、分からない、文句のオンパレードだった。確かに、言葉のとおりの事実はあるにせよ、訓練校の帰りの日課のようになってい…

  • 半人前

    置時計の横に、新しいアイテムが並べられた。毎朝、そこに書かれた言葉に目を通すようにした。 駅を降りて、日傘がないことに気付いた。その上、腕時計も忘れている。日傘なんぞ、今年の夏に初めて手にした。腕時計も以前は着ける習慣もなかった。今では、毎日の持ち物の仲間入りだ。 そういえば、”今日の言葉”をまだ見ていないことに、夜になって気付いた。今朝、置時計の横の、三十一枚からなる小さな日めくりカレンダーに、目もくれなかったのは、慌てて家を出たからだった。 大きな原動力となり、自らを成長させることも、もちろんあるであろう、”負の感情”を糧にすることには、抵抗があった。”負の感情”を抱いていると、良からぬ方…

  • 不意打ち

    部屋で寝ている私に、会社に出勤しようとしている夫が、声を掛けた。寝ぼけた様子で見送った私は、寝過ごしたことを認識するのに、間があった。 授業の内容や進み具合から、今週は、特段時間に追われるようなことはない、はずだった。予め説明会でも聞いていたとおり、少し触れる程度の単元は、授業時間が十分に組み込まれていない。新しい単元が始まったばかりのところに、途中で割り込んできた単元は、小休憩のつもりで、寧ろ安心していたのだ。 どんなソフトを使ってもいいというが、自由さのなかに不自由さがあった。結果、家のパソコンに入っている、しかも数えるほどしか使ってないソフトを選択した私は、制作に時間を割くことになり、寝…

  • 孫の祭り

    初めて耳にした言葉だった。皆が集まる機会だと、夫の母が言った。 彼ら兄弟に会うのは久しぶりだった。弟の方は数年前に上京し、我が家からさほど遠くない場所に住んでいる。それでも今年はまだ一度も会っていなかった。兄の方というと、最後に会った日が思い出せない。 昔は我が家の帰省に合わせて、彼らもやってきて、よく我が子と遊んでいた。自宅に戻るときには、互いに寂しがっていたものだ。 ちょうどその時代の写真が、食卓に出されていた。写真に写る、甥っ子にあたる彼ら兄弟と、息子と娘がとても幼い。 こうしてまた揃って会うのは、何年ぶりだろうか。 普段はがらんとした和室も、大人達が机を囲み、昔話が弾むと賑やかになった…

  • 訓練中

    ノートを広げるスペースはなく、ノートパソコンのキーボードの上に置く。だからと言って、それは言い訳に過ぎず、広い机にノートを広げたところで、板書を書き写す文字は変わらず汚いだろう。 自分の字が好きではない。その上、学生の時より、ノートの取り方が下手になっている。 帰り際、テストが明後日だと知った私は、明日は居残りだなと確信した。テスト勉強をしてから帰ることにした。 ノートの持ち込みは可能だったが、役に立ちそうになかった。一度整理をする必要がある。再度ノートを作り直したいところだが、テストまでに仕上げる時間もなさそうだ。 今のノートを頼りながら、もう忘れかけている操作を思い出すのも一苦労だ。 次々…

  • 猫の手も借りたい

    ラインの最後に猫の写真が送られてきた。飼い主は”癒し”と言っていた。なんとも可愛らしい。 最近猫を飼い始めたという彼女からラインが来た。彼女の用件は、さすがに私の”呼び出し”ではなかった。寧ろ、私を呼び出さなくとも、今は人が増えているという朗報が聞けた。 以前一緒に仕事をしていた彼女のヘルプ要請に応じたのは、後にも先にも、昨年のあの時だけだ。辞めたパートに、ましてや断るであろう私に連絡をしてきたのだから、余程手が回らぬほど、忙しかったのだ。 *** ”友達と約束していなくて良かった” ”あまり先の予定は入れられないね”クラスメイトとそう話すのは、もう明日が課題の締切日だったからだ。授業時間内に…

  • 半休

    ”大変混みあっています”というメッセージは聞き飽きた。それでも電話は切らず、スピーカー機能をONにして、根気よく待ち続ける。 相手先の電話の受付時間が限られていた。こちらも、いつでも電話を掛けられるという訳ではない。今日、この件は済ませておきたい。 自動音声が随分流れたあと、ようやく「大変お待たせしました」の声が聞こえた。 電話がなかなか繋がらなかった間も、予約は次々と埋まっていったのだろう。土曜日しか予約できないという、こちらの事情もあった。それにしても、健康診断の日程がかなり先になってしまったのは、想定外だった。 職業訓練校に通っている期間、月に一度”ハローワーク来所日”がある。必ずハロー…

  • 三分の積み重ね

    脳内の音楽に合わせて、手足を動かそうとしたが、音楽が途絶えた。無音のなか、空で体を動かそうとしてもダメだった。体は覚えていないようだ。携帯電話で”ラジオ体操”を検索する。 動画アプリで再生される、懐かしい音を耳に入れながら、音に合わせた動きの真似をする。体の硬さは自覚していたが、ラジオ体操すらままならなかった。大きく腕を振るうさまは、肩こりにも効くというのも、頷ける。 朝活を早速始めるべく、まずはラジオ体操を実践する。ベッドの横に立ち、いざ手を広げようとすると、あまりにスペースがなかった。娘から譲り受けた部屋で、優雅な朝活を送るには、ものが多すぎた。 一日を皆どのように過ごしているか、覗いてみ…

  • 朝活を考える

    ここの家主は、土地を手放したようだ。囲まれた塀の向こうは、今まで窺うことはできず、ただ広いことだけは想像できた。塀が取り壊され、敷地内が露わになった。と同時に、その隣に建つ家屋も一緒に取り壊され、なお広い土地が更地になり、ここも同じ家主だったのかと驚いた。 塀の向こうから、道路の方に伸びた一本の桜の木は、春には道行く人々を楽しませてくれた。しかしその桜の木も伐採され、とても残念な気持ちになった。 昨年、夏休みのラジオ体操の案内をみたのは、この家の塀にかかっていた、町の掲示板だったことを思い出した。今は掲示板の代わりに、マンションの建築計画の看板が立てられている。そういえば、今年のラジオ体操は、…

  • 疲れ

    シュワシュワと炭酸が泡を立てているところに手をやると、その原因となる固形物が随分と小さくなっていた。 朝の目覚めが良いとはいえなかった。体が固まっていて、重い。痛みもどこかしらあって、すっと歩けず、ぎこちない。 万年肩こりの私は、普段痛みは感じていない。しかし、数か月前から、痛みが続いている。心当たりはあった。ゴールデンウィーク中、ずっとパソコンに向かっていた。その辺りからだ、肩こりがひどくなったのは。 それに加えて、この頃快適に寝ているとは言い難い。エアコンのタイマーが切れると、夜中に起きてしまう。寝る時間も遅いし、睡眠時間は短い。ゴールデンウィーク辺りから続く痛みもまだ尾を引いたまま、疲れ…

  • 整える

    マンションから出たところで、忘れ物を思い出した。しかし引き返すには時間がない。電車に乗り遅れるわけにはいかず、そのまま駅へと向かった。 今日は”遅れ”がないようだ。毎朝電車に乗るようになって、まだ日は浅い。しかし、電車の遅れに度々遭遇し、その頻度に驚いていた。 職業訓練校に通い始めて、三週間が経過した。この期間に、三度も教室の前に立って発表した。他には、面談があり、テストがありと、それらを否応なくこなす。ちょうど一つの単元が終わるころ、疲れがどっと出た。 一休みをしたいところだが、また明日の朝も電車に揺られている。 生活リズムの変化に慣れるには、というより、まだ定まっていないリズムが整うには、…

  • 猫とお家と

    携帯電話のカレンダーアプリが、今日の予定を知らせてきた。面談を終えたあとの、ちょうど良い頃合いの時間に設定しておいたのだ。 カレンダーに記したのは念のためで、もちろん忘れることなく、すでに最寄駅を降りて、彼の待つ家へ向かっている途中だった。 リュックの内ポケットの底に入れた、小さなポーチから鍵を取り出す。玄関を開けると、彼はそこに居た。 「久しぶり」と挨拶をする。顔を寄せてくる彼を、しばらくの間、撫でてやる。 「ちょっと、上がらせて」と、私は一旦手を引っ込め、ようやく靴を脱いだ。まずは二階へ上がる。彼も一緒についてきた。 エアコンのスイッチを入れ、彼に話しかける。 「暑いねぇ?」 彼は、さぞ暑…

  • 近道

    日が迫ってきて、ようやく腰を上げるのは、いつもの悪い癖だった。一昨日も昨日も同じ書類を広げていたが、空欄は埋まっていなかった。睡魔に襲われて、連日断念している。明日の面談に必要となる書類は、今日がタイムリミットだった。 ”協調性”、”責任感”、”我慢強い”、これらの言葉にチェックを入れた。直感的に選べといわれても、少々時間を要する。そういうところが、”優柔不断”であり、ここにもチェックを入れた。 「私」を分析したのち、書類を埋めていく。 分析された「私」は、仕事に対しての価値観などを知ることはできたが、片付けられない「私」を知るには、情報不足だった。良いところを探しても、片付けられない「私」に…

  • あとで

    この頃、ベランダとその先の庭に、来客が多かった。私の気配を感じると、一匹は右に、一匹は左に、逃げ去るトカゲがいるかと思えば、こちらの気配など気にもせず、堂々としているカラスがいる。 姿を見せない鳩だが、ベランダにやってきているのは知っていた。その証拠に羽が落ちていた。小さなスズメも、知らない名前の鳥たちもやってくる。 動きが予測不可能なハチだけは、本当に勘弁してほしかった。ベランダに立つ私の方へ、何度も近づいてくる。 それにしても、彼らも暑いだろうと思った。 庭を覗くたび、雑草が気になった。三分の一だけ草を刈って、放置しているから尚更だった。刈ったところからも、葉が伸びるは待ってくれず、容赦な…

  • 歩かず そして歩きだす

    なにか、様子が違った。階段から見下ろす光景に、随分と人がいる。私は階段を下りきって、長い列の一番後ろに並んだ。 私の後ろにも人が並んでいく。しばらくして、私は列から抜け、先ほど下りてきた階段を上った。迂回をするか、時間潰しをするか考えた。上った先の改札口で、遅延していた電車が、もうまもなく来るという情報を得た。私はすぐさま、ホームに続く階段を下りていった。 早く家に着きたい一心で、パン屋に寄ることをすっかり忘れていた。 夕食の食材は、冷蔵庫のもので足りていた。スーパーで提げているカゴに、これといったものが入っていないのは、それが理由だ。最後に忘れずに食パンをカゴに入れ、そろそろレジに並ぼうかと…

  • 目的

    いつもの指定席と違い、ゆったりと座って少し贅沢な気分を味わっていた。私の席の隣も然り、並んだ二席のうち、ひと席はどこも空いているようだった。しかし、次の駅で席は埋まってしまう。今日は金曜日だった。 五十になったら一人旅をしようと決めていた。一人の帰省でさえ、何か目的があってのことで、しかも数えるほどだ。純粋に一人で旅を経験したことがない。 そういえば同い年の友達が、一人旅をしたと言っていた。自分へのご褒美か定かではないが、三泊四日の長旅は、ちっとも寂しくなかったようだ。いや、私は彼女のように楽しめないかもしれない。一泊で十分だと思った。 道中、家族のグループラインで互いに途中の居場所を報告する…

  • 折り返し

    あと、どのくらいだろう。 スタートやゴールは、キリの良いところを設定する。月の初めや月の終わり、週の初めや週の終わり、ちょうど一週間だとか、十日だとか。期間だけではなく、時間もそうで、〇時になったら始めるだとか、〇時が過ぎたら、次は〇時半だとか、その次には、長い針がもう一度てっぺんに来る△時に始めるだとか。 四の五の言わずに片付ければよいのに。常に片付けがしたくて仕方ないのに、行動にはムラがあった。 「あっという間」という言葉は、なるべく控えていた。口を開けば、「あっという間」という自分がちょっと嫌になっていた。 それでも、口にしてしまうことがあるのは、やはり「あっという間」だからである。テレ…

  • 未知

    「L」の英文字の発音が、「え・る」ではなかった。彼女はきっと英語が話せるのだろうと想像した。 机にはいくかの書類が並べられ、その一つに目を通した彼女は、「長いですね」と言った。 「ええ、半年あります」と答えた私は、もうここに来るのは四回目だった。 毎回、窓口の担当者は違っていた。 白髪の彼女は、私より年上だった。窓口で向かい合った私達の間には、前回と違い、透明のアクリル板がなくなっていた。 彼女の洒落た眼鏡と、その奥の目に引いたアイラインまで、くっきり見える。 書類を取ってきます、コピーを取らせてもらいますね、と颯爽と席を立つ彼女は、タイトなスカートが良く似合っていた。 彼女の指示どおりに記入…

  • 夏 到来

    「暑い」と声に出せば余計に暑いのに、言わずにはいられないほど暑い。連日、気温は三十度を超えていた。 エアコンが欠かせないが、心地よいとは言い難い。夜の九時を回り、一度エアコンを止めて、窓を開けてみた。もわっとした生暖かい空気が肌に触れ、すぐさま窓を閉める。結局エアコンに頼らざるを得なかった。 暑いとちょっとした用事でも、出掛けるのが億劫になる。部屋の隅には、リサイクルショップへ持ち込むものが置きっぱなしになっていた。 片付けがスムーズに進んでいるかというと、そうでもない。どこから手を付ければ良いのかと悩んでいた時期を思うと、どう進めていこうかは、概ね決めてある。順番に進めていけば、「片付けの終…

  • 七夕

    ラインで送られてきた一枚の写真をみて、今日が七月七日だったと気付く。グループライン内の会話を目で追っていると、写真の送り主は、有名な七夕祭りに行ったようだった。隣県の地名だったが、七夕祭りが有名だと初めて知る。後ほど調べてみると、日本三大七夕祭りの一つだと分かった。 先日、商店街の天井から吊るされた、大きな吹き流しを見た娘が、「これって、七夕の飾り?」と聞いてきたことを思い出した。 娘の自宅近くで、その吹き流しを見たきり、七夕らしきものに出合っていない。何かのイベントの際には、スーパーではパーティーセットなる焼肉セットや、お寿司セットなど店頭で並ぶが、今日の日は特別なことでもないようで、それら…

  • 心 踊る

    ポストを覗くと、一通の封筒が入っていた。 *** 帰宅した途端、頭がズキズキしだした。体もとても疲れている。暑さのせいだった。いやしかし、それだけではなかった。 前日、夜遅くまで起きていた。自分なりの準備は、抜かりなくやったつもりだ。想定される質問の答えがまだふわっとしていて、それらを文章化するのに、時間がかかった。その後は、そらで言えるよう、何度も声に出す。 そして迎えた当日。一つの狭い空間には、受付から、待機場所、面接ブースまで所狭しと設置されていた。 受付で渡された紙に記入する際、手が少し震えて、上手く字が書けずにいた。どうってことないのだと、さっきまで思い込んでいたのに、緊張しているこ…

  • つながり

    頃合いを見計らって、オーブンのスイッチを入れた。メニューは先週と同じだ。 私が片付けもできなければ、料理もできないことは、友人たちは皆知っていた。お昼は用意できたらするけど、出前を取ってもいいしなどと保険を掛けつつ、「オーブン 簡単」でレシピを検索する。 たまに逢衣子さんから連絡が来る。何か月も日があいていても、端的に用件が伝えられる。私はいつも、申し訳ないくらいに彼女の誘いを断っていた。時にどこどこに行こうは、どこどこに興味がなかったり、ランチに行こうは、気乗りしなかったり。こちらの返事も、彼女に言い訳は必要なく、あっさりしたものだった。 明日、空いてる?と久々に逢衣子さんからラインがきた。…

  • 私が居る場所

    始発駅が同じ二つの路線は、ときに出発時刻が重なるときがある。 広いホームを挟んで、並んだ二台の電車は、発車ベルと共に動き出す。一瞬、線路が交わるのではないかと錯覚する。まるで遊園地のアトラクションのごとく、臨場感を味わう演出かのように、互いの電車は近づいて、今にもぶつかりそうになる。 すぐに二台の電車は離れていき、各々別の終点駅へと向かっていく。 あちらの電車は、パラレルワールドに繋がっているのではないだろうかと、小説ちっくな事を思ってみる。 こちらの電車には、相変わらず優柔不断な「私」が乗っていた。何軒か店を回ったあと、結局最初の店で、明日着ていく洋服を買う。娘が置いていった洋服を借りように…

  • 睡眠

    しばらくしたら、外から聞こえる不快な音は止んだ。それと引き換えに、心地よい夜風が、部屋を通り抜ける。 ヘリコプターの音をあまり好ましく思っていなかった。近くの川で何かあったのではないか、など良からぬ想像をしてしまう。 ヘリコプターが去ったあと、静寂に包まれた、とは言い難かった。電車の音が、常に聞こえていた。もう慣れているはずで、音の認識など普段はしていないのに、なぜか耳を傾けてしまう。 電車の音がやがて遠くなり、私の頭がひどく下がっていることに気付くと、今、寝ていたということを自覚する。何度もそれを繰り返しているうち、首が痛くなっていた。 冷蔵庫からお茶を取り出し、喉を潤す。眠気が少し遠のいて…

  • 紫陽花

    写真の中の私達は笑っていなかった。その写真をみて、私達は大笑いした。 携帯電話をカメラ機能にして、その画面に、遥子ちゃんと私が収まるよう顔を近づけて並んだ。ぎこちなく、遥子ちゃんの右手の指がシャッターを押す。 遥子ちゃんが撮った写真は決して上手とは言えなかった。人に任せておいて、その言いようはないが、だからと言って私が上手なわけではない。二人とも、写真を撮るときの口癖は「難しいよね」だった。 「私達、全然笑ってないんだけど」「えっ? なんでこんな顔?」と言いながら、声を出して笑った。 そんなつもりはないのに、笑っていないどころか、寧ろつまらなさそうな顔をしていた。写真の撮り方の上手い、下手以前…

  • 休む

    最後に電車に乗って出掛けたのは、三日前だ。しかしまだ疲れが残っていたのかもしれない。今日は思うように動けなかった。 連日出掛けることなんて、非日常である。出先で受け取るたび、資料が日に日に増えて、それらを何度も何度も目を通した。普段使わない脳も稼働した。資料は広げっぱなしで、ようやく今日、一旦目のつかないところに片付けた。 また数日経ったら、資料を出すことになる。しばし、脳を休憩させる。 17時を回ってから、今日初めて外に出た。空は明るかった。薬局に出向いて日用品を買うことで、今日一日何もせず過ごしたことの後悔を、慰め程度に薄めてみる。 帰り道、何組もの親子連れとすれ違う。この先の保育園に通う…

  • 要確認

    家を出る前に、何度も書類の中身を確認した。提出先には、郵送ではなく持参することになっている。 電車で向かった先で、ついでに銀行と百円ショップに行くことを決めていた。手にした緑色の通帳を、書類と一緒に鞄にしまい家を出た。 書類は不備なく、提出することができた。先週は書類のことに関係して、連日出掛けていた。昨日は書類を書くのにかなりの時間を要した。一旦区切りがついてほっとする。 ATMで緑色の通帳に入金する。鞄に戻すとき、通帳の端にマジックで書かれた私の字を見つけて落胆した。入金するのはこの通帳ではなかった。同じ緑色の通帳を区別するために、わざわざ私が書いた文字だった。 百円ショップで探した洗濯ネ…

  • 地図

    スマホが表示する青い丸は、私と共に動き出す。青い線を描いている道順とは、反対方向へ。 いつもそうだった。駅を降りてから目的地へ向かうのに、右か左か分からない。グーグルマップだけではなく、ストリートビューも見ておくべきだったと、後悔する。 今日はこの駅に到着するまでも、予定通りとはいかなかった。検索した電車に乗っているつもりが、途中から止まる駅の名が異なっていた。 帰りは帰りで、気が気でなく、何度も携帯電話の画面を確かめた。ようやく自宅の最寄駅に到着し、再び携帯電話を見て”大丈夫そうだ”と安心した。しかし、改札のタッチパネルに携帯電話をかざすと、警告音がなった。携帯電話の電池の残量は1%だった。…

  • 明日の予定

    電車は地下を走っていた。ガタンゴトンと一定のリズムに、いろいろな擬音が入り混じる。車内アナウンスは、電車の音にかき消されないほどの結構な音量だった。車内は案外、騒音にさらされているのだと、気になった。 自宅に戻ると、先程、丁寧に説明された資料を、もう一度見返した。まだ判断しかねる。すべての資料が揃うのは三日後だった。また明日も電車に乗る。 『ゆめ子さん、ワクワクすること考えてるやろ?』 「うん。そうよ」 『片付け忘れてないよな?』 「大丈夫だよ、みぃ。忘れてないよ」 やることリストは、相変わらずつらつらとノートに綴られており、確かに山ほどあった。しかし、次にすることが見えていた。今日の予定が明…

  • 次のステップ

    台風の影響だ。庭にある木々は、強風にさらされ、もう十分すぎるほどの水分が、空から与え続けられていた。 雨音に交じって、今朝からずっと機械音が外から聞こえている。そういえば、マンションの掲示板に、業者による清掃の日が案内されていたのを思い出した。 夕方になって、業者は帰ったようだ。雨と風の音だけに変わった。そっと玄関を開けると、当然の如くマンション内に雨が吹き込み、廊下をびしょびしょに濡らしていた。今日が清掃の日だったことに、なんだか気の毒になった。 しばらくして、風の音もかき消すぐらいの雨量が、地面を叩きつける。台風の本番はこれからだった。 こんな日は洗濯物を干すことも、買い物へ行くことも、家…

  • 兆し

    ”あともう一息”、随分前にそう言ったきり、もう一息が完了しないまま時間が経過した。 本棚、引き出し収納、押入と、いろいろな場所を経て、最終的に洋室の一角に、書類は置かれていた。一時期、書類の片付けに精を出し、少しずつ減らしたものの、そのうち手が止まってしまった。長く放置したのち、再び目に付かない押入へ押し込んでいた。 しばらくぶりに、書類を出した。それから一ヶ月ほど、コツコツと整理をして、ようやく終わりに近づいた。”あともう一息”は、今言うべき言葉だった。 大量の書類は、最後押入れに入れた時点では、かなり少なくなっていて、本当にあともう一息だと思われた。大事な書類も含まれていたため、残すものも…

  • 私は「本人」ではなかった。 ちょっと聞きたいことがあった。だが断られた。ならばと、”委任状”という言葉を出してみた。しかし、よほどの事情がない限り、その効力は発揮しないようだ。 今週は幾度となく、この坂を通る。以前は立ちこぎして上りきることができたのに、途中で自転車から降りることもしばしばだった。坂の向こうにある金融機関を、三日も巡っていた。 坂を上る前に、小さな郵便局へ寄った。やはりここでも、”本人”しか手続きができないと言う。委任状という言葉は、別の金融機関で却下されたので、すっかり頭から消え、口に出すことさえ忘れていた。営業は平日のみだ。本人が来店するのは難しい。 坂を上った先に、大きな…

  • 旧友と

    都会に建つビルの名を彼女が出した時、すぐさま私は間違えているのでは?と指摘した。なぜなら、十年ほど前に建ったビルを、最近できたところだと彼女が言ったからだった。しかし、ビルの名は合っていると言う。彼女が遠方に引越をしたのは、子供達が幼少期の頃だった。もう子供達はとっくに成人していた。 昨日連絡をもらった時間通りの電車に乗り込んだ。隣の駅から乗ってきた友達と真ん中の車両で合流する。私達は彼女が待つ都会のビルへと向かう。 待ち合わせ時間にはまだ数分あった。時間に正確な彼女は、私達より早く到着すると思われたが、まだ姿が見えなかった。しばらくすると、少し離れたところでキョロキョロしている彼女らしき姿が…

  • 楽々

    五月の中旬だというのに、真夏のような暑さだった。まだ体は気温に対応しておらず、テレビの画面からも、熱中症の注意を促す。 昨日取り込んだ洗濯物から手に取った服は、そんな暑さのなかに着た半袖だったが、今日は一転し、肌寒い。部屋中の開け放した窓を一旦閉めて、長袖を羽織る。 予報通り午後からは雨が降り、そんななか都会の雑踏へと向かう。 目的地の駅には、複数の路線が通っているため、乗換案内のアプリも複数の回答する。電車に乗る直前に検索した結果は、よく見ると乗換駅で随分歩かされる。再度、検索をすると今度は乗り継ぎが悪い。 帰りも同様に、アプリの回答は行きと同じ路線には乗せてくれない。駅構内で検索したにもか…

  • 視点

    向こうから来る男性に「おはようございます」と声を掛けた。私の隣で歩く友達も、よく彼に会うものだから、すっかり顔を覚えたようだ。彼は我が家の隣に住む年配の紳士だ。 私達は彼のことを、頻繁に会うと認識しているが、彼の方は違う。彼からしたら、たまに会う”私達”なのである。週に一回ウォーキングをしている私達と、毎日ウォーキングをしている彼との違いである。 日曜日に一言だけラインを送った母に、今日は電話をしようと決めていた。母の仕事が休みだったことに加え、家に一人で居ることを知っていたからだった。直接電話することはせず、念のためラインを入れた。 すぐさま、母から電話があった。近況などを聞いたあとは、いつ…

  • 一念発起

    けたたましいアラーム音に起こされ、慌てて携帯電話を探す。その直後、揺れを感じた。起床時間にはまだ早い、朝の4時過ぎのことだった。 7時半を回った頃、今度はラインの通知音が、息つく暇もなく鳴り続ける。一瞬何事かと思ったが、だいたいこういう時は、写真が複数送られてくることが多い。今朝の地震を心配して、叔母がラインをくれたのだが、その文面の前に楽しくランチをしている写真が目に入る。一枚一枚送信するものだから、忙しなく通知音がなっていた。 その日の夕方、ゴロゴロと不穏な音が鳴り始めた。徐々に地の底から唸るような、激しい音を響かせ、強い光が空から放たれた。 昨日の雨で、たっぷりの水分を与えられた庭をよく…

  • 猫と私

    キッチンには小さな箱が二つ並べられ、それぞれにメモが貼られていた。メモに書かれているスプーンは、箱の隣にあった。 左の箱の中身と、スプーンを持ってキッチンを出ると、すぐに彼がやって来た。スプーンを使って、食事を皿に出している途中で、彼は待ちきれず食べ始めてしまう。 今度は右の箱の中身を持って、部屋を出る。この家にいるはずの彼女は、何度ここを訪ねても姿を現すことはない。今日は、家主から聞いた彼女の居場所へ、こちらから向かう。一つだけ扉が開いたままの部屋がある。そこを覗くと、奥の窓際に、こちらをじっと見ている彼女がいた。 こちらから出向いても、ここの住人でないと彼女は逃げてしまうらしく、「ゆめ子ち…

  • 自由

    向かい風を受けながら、右手は何度も両目をこすっていた。その右手は、時々鼻をつまんで、むずがゆさを抑えていた。一度治まっていた花粉症の症状が、ここのところ復活している。 とても煩わしかった。 加えて、”乾燥によるかゆみ”と以前診断された手の指の症状が、一進一退を繰り返していることも、煩わしさを増していた。 ”煩わしさ”を失くせるものなら、失くしたほうがよい。 結婚当初、シンプルな支出は、夫に教えてもらったエクセルの表を埋めるのに、時間を要しなかった。やがて、家計簿の項目も増え、クレジットカードを持つようになり、管理を複雑にさせた。私にとって、家計管理は難しいものになった。 算数や数学が得意だった…

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うお座のゆめ子さん
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片付けられない「私」と向き合う
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