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その夜、風海は佳踊が語ったようにおっかなびっくり手のひらで自分の性器に触れてみた。そうっとこすっているとたしかに反応はしてくる。頭をもたげたものを今度は指を使って撫であげてみた。これでいいのかな、とちらっと思う。―……俺がしているとこ見たいの? ふっと昼間のせりふがよみがえって、いっぺんにどきどきした。手のなかのものが膨張を増す。 佳踊が一心に自分と同じようにしているところを思い浮かべた。舞台の上...
「……どうして?」 風海はやっと言葉を絞り出す。七未にうそをつくのはいやだったし、ごまかせるほど口がうまくもない。七未がいたずらっぽい口調で言った。「去年の公演でここに来たとき、風海くんと佳踊が裏庭でキスしているのを見ちゃったんだよねー。小五だったくせに、ふたりともおませちゃんなんだから」 舞台袖のざわめきがすうっと遠くなる。佳踊、ばれちゃったよ、どうするんだよ。問いに対する答えはもちろんなかった。...
現時点では全年齢コピー本で登録してますが、変更する場合あります⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝ 上記の理由により予約受付はしてないので売り切れ表示になってますが7月20日頒布予定です。 ただしそれより前に納品出来たらもう少し早まるかもしれません! これはWebイベント【関係性自論3...
風海だけがなんとなく気恥ずかしいまま、ふたり揃って舞台袖にむかうと七未の声がした。「もう、佳踊、どこにいたの。六年生なんだから、ちょっとは団の手伝いをしなさいよ」「七未ねえちゃん、ごめん。僕が佳踊に訊きたいことがあったんだ」 風海が佳踊をかばうように言うと、七未は「なになに?ひみつの話?」と笑った。まさしくその通りなので、ふたりして黙ってしまう。七未は「いやだもう、なんの話をしていたの」ところこ...
「あのねぇ、ずっと、」 なんの脈略もなく、だけどとても自然に、空を見上げていた時雨さんが口を開いた。どこまでも青い空に、綿あめみたいな真っ白な雲がひとつ、ふわふわと時雨さんの視線を誘いながら流れていった。「ずっと、探している気がするんだ」 夢のなかにまだ、半分くらい居る。そんな表情をして時雨さんはそう云った。 独り言なんだろうか。隣に立つ僕は、どう返せばいいのかそれとも聞こえない振りをしていれば良いのか、迷い、半端に口を開いたまま、時雨さんの端正な横顔をただ見つめる。「なにを、だろう。なにを・・・・・・、なんだろう。でも、わかんない、」 漂う雲を追っているのか、それともあの空の向こうをただ見て…
またも久しぶりになってしまいました。 なんだかんだありつつ生きてます笑 ところで、私とある電子書籍アプリレーベルさんこトーナメントでブロック予選に残ったんですよ! (当然のことですが一次創作ですし、作品はBLです) 詳細はこちらになります。 私はBブロックなので来週月曜日か...
どきどきしたまま黙り込んでいると、佳踊がいたずらっぽく風海の顔を覗きこむ。「俺、たいてい風海のこと考えながらやってるし」「えっ?どんなふうに?」 佳踊が笑う。ぱあっとたんぽぽの綿毛が風に散るような笑いかただった。なぜだろう、僕たちっていまとてもよくない、後ろめたいような話をしているんじゃなかったっけ、と風海は思う。「どんなふうに?って風海、俺がしているとこ見たいの?」 風海は一気に血が頬に昇るの...
「風海、笑ってよ。どうしたの、ほんとに」「……佳踊に会えるのはうれしいよ。だけど、すこしだけ気まずい」 気持ち悪がられてもいい。嫌われてもいい。隠し事をしているのはよくない、隠していてもいつか佳踊には知られてしまう気がする。佳踊は風海のことならなんでもお見通しなのだから。 風海は自分の身に起こった出来事を佳踊につっかえつっかえ小声で打ち明けた。夏の日差しがじりじりと頭のてっぺんを焼いている。 風海...
《小学校六年生》 夏に団の公演を控えている佳踊に会うのが、ことしはほんのすこしだけ怖かった。両腕に余る大きな荷物を抱えて、あっちこっちうろうろしている気分だ。これは完全に風海の問題で、佳踊にさえなんと伝えたらいいのかわからない。 春のはじめ、目が覚めたら風海は精通を迎えていた。 それだけならまだなんということもないのだけれど、その前に見ていた夢に佳踊がいた。夢の舞台の上、何もまとわずに軽やかに舞っ...
佳踊はことし、どうやら風海と口づけを交わすことに執心しているようだった。 舞台袖で人目をはばかって、バックヤードで、裏庭で、風海はなんども佳踊とキスをした。そのたびに佳踊の唇がかさかさ乾いていたり、しっとり湿っていたりするのがふしぎでおもしろかった。佳踊の両手に腕を掴まれて口づけられると、自分のすべてが肯定されている気がした。自分の居場所はここなんだ、ここにならいていいんだ、というふうに。 この...
七未がまた踊るようになる。風海は素直にうれしかった。「そうなんだ。またバレエに戻るんだ」「うん。『こればっかりは業だねー』って言って」 佳踊が七未と美佑をおだやかな目で見ながら言う。とてもいいものを遠くから見る目だった。 たしかに、佳踊が風海を好きな限り、あの光景は佳踊の手の届くところには決して存在しない。だんだん、さすがの風海にもそういうことがわかってきた。風海は一瞬だけ目を伏せて、ちいさな声...
ああ、そうか、おれは、 約束をしたんだ、―――約束を、だから、 だからそうか、たいせつな■■を手放したから、だから、 だからおれはまた、 空っぽだ。
《小学校五年生》 佳踊のバレエ団は秋口に公演を控えている。佳踊は去年とおなじくふた幕にわたる出番をもらったそうで「俺、あんまり出世しないな」と恥ずかしそうに風海に告げた。「そんなことないよ。あんなにたくさんの人のまえで踊るなんてすごい」 去年の冬の舞台をはじめて通して観た。話の流れは完全に理解できなかったものの、とてもうつくしいものを観たのだ、ということは心の底から感じた。 そして、佳踊は。満員御...
照れもあってふたりで小突き合いながらステージに戻ると、ちょうど佳踊の出番のある場面の練習がはじまるところだった。佳踊が慌てて舞台へと駆けていく。その背中をなんとも言えない気持ちで見送った。さっきまで、あの細くて強い腕のなかにいた。 去年までの佳踊はステージの半分くらいを使っての舞いが多かったのに、今年は舞台全体を軽やかに駆け、跳び、くるくると回転している。あいかわらず、まっすぐに伸びた背中が凜と...
風海の告白を聞いた佳踊は顔をあげると、かすかに微笑んだ。ほんのりとした光のようなその笑顔を留めておきたいと、風海は胸の内に強く願った。消えないで。巡るたくさんの記憶に埋もれてしまわないで。ずっと僕の心の表層にいて。 風海から唇をあわせる。なぜか、そうすべきだとわかった。 ひと気のない劇場の裏庭で佳踊とキスをしている。去年の夏は、その行為にどういう意味があるのかうすぼんやりとしかわかっていなかった...
佳踊に手を引かれて、バックヤードを通って冷たい風が吹き渡る裏庭に出る。冷えた空気を吸うと、肺が透明になっていく気がする。 あのさ、と繰りかえして言う佳踊は風海を引っ張ってきたくせに、なにか言い淀んでいる。土を靴底でざりざりとこすりながら、佳踊がようやくうつむいたまま言った。「風海は、やっぱりうちの母さんみたいな美人が好き?」 佳踊の発言の意図がわからず、首をかしげると「風海、好きな女の子とか、い...
そのときだ。凜と張る声がした。「あなたが風海くん?」 うつくしい声に振りかえると、佳踊と目鼻立ちのよく似通った女性がこちらにむかって歩み寄ってくるところだった。すらりとした足が、軽やかに床を踏む。「こんにちは、風海くん。毎年なかなかご挨拶できなくてごめんなさいね。佳踊の母です」 なにか言わなければと思うのにぽかんと口が開いたままの風海からはなんの言葉も出ない。至近距離で見れば、圧倒的にこれまでの...
「なっ」と念を押してくる佳踊はずるい、と風海は思う。そう言われてしまったら、もう風海にはどうしようもないのに。 けれど、本気で腹が立つわけでもないので「佳踊はずるいなぁ」とわざと声に出した。「知らなかった?風海、俺、けっこうずるいよ」 風海がくすくす笑うと、佳踊は「ほんとだって!」とむきになるのがなおのことおかしい。 「おふたりさーん!」と声が飛んでくる。見なくてもわかる、七未の声だ。 けれど...
《小学校四年生》 風海が四年生の冬、佳踊のいるバレエ団は北風がぴうっと頬に厳しく、冷たくなるころに風海の街にやってきた。 ことしは会えないのかなとさびしい気持ちでいたので、父親から「お前の友達のいるバレエ団が来週水曜日からくるぞ」と聞かされたとき、心のなかでてんでばらばらに太鼓が打ち鳴らされているみたいだった。胸が躍るとはこういうことを言うのだろうか。 新調してもらったダウンコートを着て水曜日の放...
弾んだ声で、名を呼ばれる。この世でただひとつ、聞きたがえようのない声。「風海!」 稽古が終わったのだろう、佳踊が舞台から袖に戻ってきた。うれしそうに手を振っている。ぺたんと汗で前髪が額に貼りつき、手放しの笑顔もあいまって、すこし幼い印象になっている。「佳踊、じょうずになったな」 風海が言うと佳踊は照れたみたいに、「がんばればうまくなれるんだって最近わかってきた」と言う。 七未が口をはさむ。すこし...
夏の劇場は暑い。人いきれだけではなく、夏休み興行とあって一段と練習に熱が入る。完全には効ききらない空調が冷気をそれでも送り出している。 佳踊に会いに来る風海の存在に劇団員は慣れたのか、軽く頭を下げてくれるもののそれぞれの仕事の傍らで、という感じだ。 佳踊はことし、ほんのすこし大きな役をもらえたといって張り切っていたので、練習を見るのをとても楽しみにしていた。舞台の上に立つ佳踊の背中はまっすぐな糸...
「七未ねえちゃんがバックヤードで団員の男の人とこうしてた。あとで聞いたら、ほんとうに好きな相手とはこうするんだよって教えてくれた」 しずかな声で佳踊は言った。とても大事なものを差し出すような声が、そのあとにつづく。「僕、風海のことが好きだよ。ほかのだれより風海が好き。おかしいかな」 風海はかぶりを振る。佳踊が好きだと言ってくれた。だれより好きだと。ただ、うれしかった。発光しているみたいなきれいで大...
風海は玄関を手で示した。佳踊が「ん?」というふうに首をかしげる。「あがってく?」「いいの?ありがとう。喉乾いちゃったから麦茶もらっていい?」 いいよ、と答えて佳踊を家にあげる。きちんとそろえられた佳踊のスニーカー。留守にしているらしい母親がきれい好きでよかった、とちらっと思う。どうしてそんなことを思うのか、風海は自分で不思議だった。散らかった家だったら佳踊を招かなかった?そうじゃない、そんなこと...
先を歩く背中に追いついて、顔を覗きこんだ。すこしも日に灼けていないのがふしぎだと思う。「佳踊、ひさしぶり。元気だった?」「うん、元気」 直射日光が真上から容赦なく照り付け、ふたりの影は短い。アスファルトの向こうに陽炎が揺れている。「ことしは夏休みと佳踊のバレエ団の公演が重なってラッキーだ」 風海の言葉にふっと佳踊が足をとめた。「どうして?」 えっ?と尋ねかえすと、「どうして重なるとラッキーなの?...
黒ラベルでご機嫌マックスなおばさんは色々と近況報告してくれた。治のことは一言だけだった。「あのヤワな泣き虫坊主は寺に放り込み、講義の時だけ大学に行かすようにしたから」おばさんの性格を知っているから、それ以上は何も聞く事は出来なかった。そう、講義の時だけか。それでも、会うことは出来る。おばさんは早くも舟をこぎ出している。え、この量だけで酔いがきたのか? 早くないか。寝さすべきだよなと思っていると、自...
《小学校三年生》 翌年、佳踊のバレエ団の練習を含む公演期間は風海の夏休みに丸被りしていた。ラッキーだ。佳踊にたくさん会える。 二重三重の意味で夏休みが待ち遠しく、夜もなかなか寝付けないほどだった。目を閉じると、佳踊が去年舞台にむけていた一心なまなざしがよみがえった。 計画通りにピアニカや朝顔の植わった植木鉢を夏休みに備えて持ち帰れるはずもなく、終業式の帰り道は荷物が歩いているのか風海が歩いているの...
ぎこちなく、なぜかすこし気まずい沈黙を破ったのは風海だった。「佳踊」「なに?」 ぶすっとふてくされた声で佳踊がこたえる。「僕のこと、忘れないでいてくれてありがとう」と風海が言うと、佳踊がこくんとうなずいた。への字に結んだ唇をほどいて、「僕も」と言う。「僕も、風海におなじことを思ってる。覚えていてくれて、ありがとう。友達だって言ってくれて、ほんとうにうれしい」 その佳踊の言葉は風海の心をくすぐった...
月夜の猫-BL小説です お前にだけ狂想曲12 BL小説 「おう、千雪か、元気か?」 電話の向こう、工藤の声は何だか元気がない。 「はあ、お蔭様で」 千雪は良太のことが気になってかけてみたのだが。 「何だ? お誘いならいつでもOKだぞ」 「またそんなことゆうてると良太に愛想つかされますよ」 しばしの沈黙があった。
佳踊は遠くてひかるものを見るようなまなざしで舞台上を見つめている。一心な視線だった。「どうして、ロビーじゃなくてここに来るようになったの?」 小声で尋ねると、佳踊は舞台袖の暗がりのなかでまた頬を赤らめた。「……笑わない?」「笑わない」「風海が、舞台に立っている僕が好きって言ってくれたから……少しでもうまくなろうかなって」 「いい心がけだね、佳踊」と突然、背後からよく通る女性の声がして風海は飛び上がっ...
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人6 BL小説 「聞きしに勝る変人ぶり。面白いなぁ、何か、漫画の中から出てきたまんまって感じ?」 「大原です」 ぺこりと頭は下げただけで、千雪は速水は無視し、無表情で文子を見た。 深窓の令嬢とはまさしくこの人のことを言う気がした。 従姉の小夜子もお嬢様を絵に描いたようなタイプ
夢なのか現実だったのか、 それすらも曖昧で、 しあわせという言葉の意味が、 何故かひどくかなしく響く。 どうしてだろう、 なにかを忘れてきた気がするんだ。 でもなんなのか、 それがなんなのか、 わからないんだ。 何処かにあるんだろうか、 まだ何処かにあるんだろうか、 けれど何処へ行けばいいのか、 わからなくておれはずっと途方に暮れてる。 あのきんいろのひかりと、あの空の色。 どうしてこんなにも、 くるしくなるんだろう。
「風海とがんばるって約束したのに、なかなかいい役がもらえないんだ。まだまだ子どもなんだからってお父さんには言われた」「でも、今回の舞台でも出番はあるんだよね?」「うん、端役だけど……」「僕は佳踊が好き。舞台に立っている佳踊が好き」 この1年で出した結論を告げると、佳踊はすこしうなだれたまま頬を赤らめて「ありがとう」とちいさくつぶやいた。 らしくない佳踊の反応になぜかどきどきしながら風海は思う。1年に...
雑踏の中、―――そう、見知らぬひとたちが行き交う、その中に居る。ゆめ。そう、これはゆめ。ゆめのなかで、おれだけが立ち止まり、人の流れに眼を凝らす。 だけどどうして、 そんな風に立ち止まってしまうのかわからない。 けれど確かに、 なにかを探している。そんな気がする。ゆめを、―――夢をみているって知っている。わかっている。けれど。 それがなんなのかわからない。 なにを? ―――なにを? おれは、・・・・・・ねぇ? 探している気がする。夢のなかで探しているずっと、 なにを? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰れを? 〈fragment〉 時折過る、音の欠片。 きんいろのひ…
月夜の猫-BL小説です 春雷52 BL小説 「まあとにかく、鴻池がその阿部を降ろして結局良太ちゃんになっただろ? それも鴻池の企みだったんだが、その時オーディション受けて、監督やプロデューサーもこいつだって決定しかけてたのが、実は天野だったんだ。スカイプロモーションも自信もって天野を売り出そうとしてたとこだった
月夜の猫-BL小説です お前にだけ狂想曲8 BL小説 例え俺が思っているほど工藤は俺のこと思ってくれてないのはわかっていても、やはり裏切りのような気がしてならない。 こんな身体、誰がどうしようが構わないのだけれど、工藤に知られて嫌われることだけが気がかりなのだ。 ここひと月ほど、工藤は海外やら北海道やら九州やら
《小学校二年生》 佳踊の所属するバレエ団は、翌年の秋、ふたたび風海の父親の持つ劇場にやってきた。それを聞かされた夏のなかばからずっと、風海の心は佳踊に会えるという希望でふわふわとはずんでいた。 佳踊たちの到着の当日、弾むような足取りで下校し、ランドセルを自室においてから劇場にむかった。秋のやわらかな光がさしているロビーに足を踏み入れると、背後から「風海!」という声が背中をたたいた。心臓が痛いほど鳴...