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「そうだ。今度、いっしょにどこか出かけようか。デートしよう、俺とデートして」 ベッドの傍らにしゃがみこんだ佳踊が風海の髪を撫ぜながら言って、風海は驚いて目を見開いた。だって、佳踊はバレエで忙しくて、風海の家にきてセックスするのだってわざわざ時間を割いてくれているんだろうに。風海がそう言うと、佳踊は声を立てて笑った。「風海とセックスするのは俺がしたくて来てるの。出かけたいのは、風海に喜んでほしいから...
「風海」 どのくらい、そこでぼんやりしていただろう。名を呼ばれて振り返ると、佳踊が立っていた。跳ねるように軽やかにこちらに駆けてくる。 風海の傍らで立ち止まると、「さっき、一番最初に『おめでとう』って言ってくれたの、うれしかった」と屈託なく笑った。角砂糖みたいな笑顔に、胸がいっぱいになる。もう何度目かもわからない、恋情の波が風海を襲う。思わず、口にしていた。「佳踊、また来られるときにうちに来て?」...
ヒロとジュンは2人揃ってリビングに行くと、友は見たことない物を置いている。同じ事を口にしていた。「それは何?」その言葉に友明が目を輝かせたのを博人は目敏く見つけた。「あ、いや、思い出した」でも、相手は上を行く。「これは杵と臼と言って、これから餅つきをする」その言葉にジュンは嬉しそうだ。「お餅、作れるの?」「そうだよ」「やるー!」嬉しそうな顔と声に、友明は満足そうな顔をする。これは何かある。そう思っ...
「……佳踊に会えてよかった、ほんとに」 つぶやくと、髪を撫ぜていた手が止まった。しばらくなにか考えていた佳踊が言う。「一年中ずっといっしょにいられなくても?」「うん。佳踊がいるときといないとき、っていうふうに僕のなかでは一年をわけることができて、佳踊がいるときにだけ蛍光色のマーカーペンで線を引いたみたいに色がついているんだ。そのあいだだけ、きらきら光ってて、佳踊の顔を見て、声を聞いて、触ることができ...
滅多に取材のアポイントが取れないことで有名だった大手広告代理店のCOOが、いつの頃からかインタビューの依頼を断らなくなった。もちろん受けるべき記事の内容は取捨選択され、悪意あるゴシップ誌の記者は近寄ることさえできない。だが、基本的には出版社の規模に問わず、地域誌のアマチュア記者であっても望めばその門扉は開けられるようになった。経済誌ならともかく娯楽誌にまで受け入れるようになった理由を、正直に言えば人...
《高校二年生》 ことし、佳踊はすべての幕で出番のあるかなり大きめの役をもらえたそうだ。テンションの高いメッセージをもらってからというものずっと、直接「おめでとう」が言いたくてうずうずしていた風海は、佳踊のバレエ団がやってきてからすぐに劇場に足を運んだ。 七未に挨拶してから、舞台袖でステージの上で練習にいそしむ佳踊を見つめる。佳踊の目標は毎年明らかだ。去年よりもっときれいに、もっと軽やかに、もっと高...
「……、すごい、すごい、佳踊。想像よりずっと気持ちよかった」 熱に浮かされたように口にした後で、自分の発言の身も蓋もないありさまに顔を覆いたくなる。けれど、佳踊はちょっと笑って「俺も」と言った。「風海がどういう想像してたのか知らないけど、俺もだよ」 ぬかるんだ交合を解き、風海の上に佳踊の身体が折り重なってくる。これから先、どういう顔で普段の佳踊を見ればいいのかわからないや、とその背中に腕をまわして風...
同じ頃。こちらパースでは、もぞもぞとベッドの中に潜り込む何かがいた。すこし待っていると、その何かは布団に潜ったままで何もしてこない。これは、あいつじゃない。残るは、もしかして・・・?だから声を掛けていた。「こんな時間に何をしているんだ?」その声に、潜っていた奴はひょっこり顔を出してくる。「えへ。グッモーニン&ハッピーニューイヤー! たまには、いいでしょ」「いつ帰ってきたんだ?」「10分前」「友は」「...
「風海、挿れるよ」 佳踊がすこしずつ腰を進めてくる。たしかに痛い。けれど、それ以上の幸福と快感に風海は声をあげた。時間をかけて慣らされたせいか、ゆっくり佳踊を受け入れながら風海は確かに快楽のかけらを拾い集めることができた。「あっ、あっ……ん!佳踊、はいって、あぁん……んっ」 シーツをかかとが擦る。しわになるさまが伝わってくるのにさえ感じてしまう。 たらたらと糸を引いて腹部に流れ落ちてくる先走りや自分の...
彼らがその関係を公にしたとき、世間の声は歓迎と批判に二分した。そして、それは圧倒的に後者に軍配が上がっていた。嘆く声もあれば、汚らわしいと侮蔑する声もあった。悪だ罪だと蔑み、憎悪を露わにした者もいた。ハインリヒがCOOの椅子に就く企業株は一時的とは言え大幅に値を下げ、その年の株主総会では彼を引責辞任させるべきだという声が挙がり荒れに荒れたという。社内でも実質のトップである男が同性をパートナーに選んだ...
「いいな、いいんだな」 念を押されて風海はうなずいた。佳踊としたかった。佳踊以外とはしたくなかった。 だから、後孔にぬめった指がそっと挿ってきたときも、さほどおびえずにいられた。どこか熱っぽい口調で、佳踊が言う。「風海、気持ちいいところ、どこ?」「……えっ、わ、わかんない」 佳踊がしかたないなぁというふうに笑う。男でも後ろで感じることはできることは知っていたけれど、実際に自分の身体で試したことはなか...
スポーツで体を動かそう #4 性描写あります。抵抗ある方はスルーしてくださいね。
「ふ、ぅ……」何かが入ってくる。何なのかは分かるが、これはキツい。「ぁ……」悟さんの声が聞きたい。ねぇ、悟さん何してるの?「「ふ、ぅ……」何かがこすれ、瞬間、痺れが来た。「んっ」悟さん、声を聞かせて。「さ、と……」何かが押し入ってくる。これは……。違う、これは指だ。指だけで俺をこんな気にさせるだなんて、悟さんってテクニシャン。「くぅ……」いきなり耳元で声が聞こえてくる。「へぇ、日本酒は体に良いというが、簡単に...
胸にキスを落とされながら、鼻にかかった声をあげていると佳踊がふっと笑った。「風海、気持ちいいか?」 佳踊の低い声にうなずいて、その髪をぐしゃぐしゃにかき回した。佳踊がふたたび風海に口づけると、すうすうと外気に触れる胸の先が寂しかった。口づけられたまま器用にベルトを外され、下着をずらされて、止める間もなく兆していた性器に触れられる。もうぐっしょり濡れているのがいたたまれない。「佳踊、ごめん……汚い、...
こんにちは、くもくもです。四月の東京は…が、とにかく切ない!やっと通じたかと思いきや、そういう関係なっちゃうの? 切なすぎる。泣10年前、入院している間に何があったのか気になります。初めての相手が行為の後に泣いて発熱して――それだけでもトラ
二階への階段をのぼりながら、ふと風海も佳踊も言葉を失くしてしまう。こういうときって、なにを言えばいいんだろう。二人きりの家に沈黙が落ちた。 部屋のドアを開けると、「きれいにしてあるんだな」と佳踊が感心したように言う。佳踊がくるからきれいにしたとは言いづらく、「まぁ、うん……」と風海はあいまいに相槌を打つ。 風海が後ろ手にドアを閉めると、それがなにかの合図だったかのように引き寄せられて唇が重なる。佳...
佳踊がちらっとロビーの時計に目をやった。忙しいのだろう。急いで伝えなきゃ、と思うほどに言葉が絡まる。「なに?俺、団の荷解きを手伝わなきゃいけないから……」「あの、約束のこと、覚えてる?」 佳踊がかすかに首をかしげる。風海は慌てて言った。「僕が高校に受かったら、キス以上のことがしたいって、あれ」 言いながら、かっと頬が赤くなるのがわかった。佳踊がちょっと笑って、「早速ですかー」と照れたように言う。指...
11世紀、カトリックを信仰するヨーロッパの貴族たちは巡礼者の宿泊と医療奉仕のために整地エルサレムに修道会を作った。聖ヨハネ騎士団と呼ばれた彼らは信仰や人種を問わずに医療奉仕を続け、十字軍に派遣された際も多くの兵士の治療にあたったという。その後、地中海のマルタ島に拠点を移したことで“マルタ騎士団”と呼ばれるようになる。しかし、ナポレオン軍の侵攻によってこのマルタ島に置いた本拠と地中海に有していたいくつか...
《高校一年生》 春のはじめ、無事に風海の頭上に桜が咲いた。受かった。ずっとあこがれていた高校に合格した。 合格発表の掲示板を見に行った帰宅途中の電車のなかで、佳踊に浮かれた気分でメッセージを送る。『受かったよ。サクラサク』 高校に通学するには乗り換えをふくめ、40分くらい電車に揺られなければならず、受け取った書類一式を抱えて窓の外を見る。 見慣れない風景、見慣れない町並み。ここから、また新しい生活...
「なーに言ってんの、もう。佳踊、ちっちゃいときから『風海、風海』ってそればっかりだったんだから。うわ言みたいに、ほんとにそればっかりで。しばらくの間しか会えないのに、すごいよね」「……僕は佳踊が好きで、佳踊以外は考えられない、それだけだよ」 七未が声をあげて笑う。「こっちが照れるわぁ」と言って、ちらりと舞台に目をやった。「風海くん、佳踊が練習してるよ」 七未の声に振り向いて舞台上を見ると、佳踊がふか...
「七未ねえちゃん、美佑ちゃん」 佳踊が練習に出た舞台の袖ですらりとした背中とちいさな姿に声をかけると、美佑が先にくるりと振り返った。「だれ?」という顔で風海をしげしげと見る。まるい顔の大きな瞳が、遠慮のないまっすぐさで風海にむけられていて、そのやわらかな圧にちょっと戸惑った。七未がすこし笑って、美佑を抱き上げて風海の視線まで持ってきた。「風海お兄ちゃんだよ。佳踊の仲のいい友達。美佑、去年も会ったの...
「風海、受験勉強はどうなの?」「うん、だいじょうぶ。このまま成績をキープしていれば受かるって担任にも塾の講師にも言われてる」「すごいなぁ」 ふっと疑問に思う。義務教育はともかく、佳踊は高校をどうするつもりなんだろう。「佳踊は?高校、行くの?」 のぞきこむようにして聞くと、あっさりと首を横に振る。「いまはバレエに集中したい。いつか大学に行きたくなったら高卒認定試験を受ければいいだけの話だし、いまはい...
《中学校三年生》 中学三年の夏は受験勉強と佳踊に会うことで費やされていった。 風海は成績を維持し、志望校に受かるだろうと担任からも太鼓判を押されていた。けれど、油断は禁物だ。手を抜くことなく受験勉強をしながらも、佳踊に会いに劇場へ足を運んだ。 ひざの故障は治ったらしく、ことしの佳踊は無事に役をもらっていた。しかも、第一幕の最初の場面だ。「風海ー、どうしよう。緊張で毎日、胃を吐きそうなんだけど」と言...
練習部屋を七未に教えてもらって覗きに行くと、佳踊がひとりで鏡に向かっていた。フォームの確認でもしているのか、鏡から目を離さないまま跳んで、滑らかに着地する。両腕をひろげた跳躍はほんとうに重力を感じさせない。「……佳踊」 そっと声をかけると、振り返った佳踊が破顔した。「風海!こんなところまで来てくれたんだ」 ちょいちょいと手招きされて気後れしながら練習部屋に入る。鏡に背中を預けて座り込んだ佳踊のとな...
「でも、ことしはリラックスして公演のあいだ過ごせるから、いいや。悔しいけどさ」 えっ、と思わず訊きかえしてしまう。まったく、そんな様子は見せなかったのに。「緊張してたの、佳踊」 佳踊がふっと笑った。「あたりまえだろー、自分が失敗したら舞台が台無しになるんだ。一部でも欠けたら完全じゃない。公演のあいだずっと緊張しないなんて、どんな鋼のメンタルでも無理だよ」 佳踊の軽やかな笑顔や、風海とキスするときの...
佳踊が椅子に腰かける。当然のことながら、あのころ床につかずに振り子のように振られていた足はしっかり床を踏んでいる。「まだ、ちびだったくせに風海のことが大好きだったな」 風海もとなりの椅子に腰かける。佳踊にむかって微笑んでみせた。「僕は佳踊みたいな友だちがはじめてだったから、うれしかった」 かすかに佳踊が目を細めた。「俺みたいなって?」と訊かれたので正直に答えた。「内側から発光しているみたいな、舞...
《中学校二年生》 佳踊はしょっちゅうLINEで連絡をよこした。道端で見かけた猫の写真とか、美佑のいたずらの顛末の一部始終を収めた動画も送ってくるので、離ればなれのあいだも佳踊をいつもより近くに感じていた。『猫成分ありがとう』『美佑ちゃんもいたずらっ子だなぁ』 自分のぱっとしない返信と佳踊のユーモアと怜悧さを備えたひと言が並ぶトークルームを眺めながら、佳踊のこの返信の切れのよさはどこから来るんだろうと何...
「あ、佳踊の出番だよ」 舞台上に視線を投げて、七未が言う。慌てて振り返ると、反対側の舞台袖から佳踊がゆっくりと歩み出てくるところだった。なんの前触れもなくいきなり高く跳んだので、風海はびっくりして言葉を失う。「風海、この一年でじょうずになったんだよ」 風海の驚きを拾った七未がささやくような声で言う。「トレーニングもがんばってるし、自分なりの表現を考えてもいるみたい。まあ、行き詰まってわたしに相談し...
翌日、約束通りに舞台袖を訪れると、七未がいた。その視線の先で、美佑が二足歩行におよそ似つかわしくなさそうな脚で懸命によたよた歩いているのを見て驚愕した。「美佑ちゃん、もう歩けるの?」「これでも遅いほうなんだよ、風海くん。やっと歩くようになったんだよー。歩くようになるまで、心配だった。喋ることは喋るんだけどね」 「おいで」と娘にむかって両腕をひろげた七未は、これまたよたよたやってきた美佑を抱き上げ...
風海の中学校では部活動が必須なので、佳踊にはめったに会えなくなった。 金曜日、休日練習がなさそうだという理由だけで所属した書道部のゆるい練習を終えて帰宅していると、「風海!」と佳踊の声がした。道路のむこう側で両手にスーパーの袋を提げているところを見ると買い出しにでも行っていたのか。点滅している青信号を走って渡り、佳踊の右手に手を伸ばして、袋を持った。「ありがとう、風海」 佳踊が「さすがに中学生に...
舞台袖をあとにして、ゆっくり自宅への道のりを歩く。公園の木々が燃え立つような赤に染まるころ、佳踊の舞台がはじまる。 その夜はひさしぶりに佳踊に会ったせいか、いつものように佳踊の姿態を思い浮かべながらする自慰がいつになく気持ちよかった。 あのまっすぐな佳踊に仄暗いまなざしで抱かれるところを妄想する。買ってもらったばかりのスマートフォンでおそるおそる調べてみた結果の男どうしでもセックスできるという知...
↑ こちらからRT投票用ツイートに飛べます。 (BLなのでご注意ください!) リブログ内の画像にもあるようにアプリにアップされている作品にいただいたコメントも投票になりますのでもしよろしければお願いします(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) (アプリに関してはお願いしづらい部分もありますが…...
舞台袖にいっしょにむかいながら、ことしの佳踊の出番を尋ねてみた。三幕出番のある役をもらったとかで、いつになく佳踊は張り切っている。「俺、恵まれてたと思うんだよな」 ふいに佳踊が言った。「え?」と風海が首をかしげると、佳踊は舞台袖でステージのほうを見やりながら、「うち、両親ともここのバレエ団だろ。ちっさいころからずっとバレエに触れて、触れない日なんてなくって。そういう、夢にいちばん近い場所にいられ...
《中学校一年生》 風海が進学した中学校に行くには、毎朝劇場の前を通る。 だから、佳踊の所属するバレエ団が有名かつ人気があること、団のトップスターになるのは登竜門だということ、佳踊は大きな夢を描きつづけてきたのだということを風海はすこしずつ知っていった。なんとなくそんな気はしていたから、答案用紙に丸をつけていくような気分だった。 秋に差し掛かったころ、佳踊のバレエ団がことしもやってきた。 風海は佳踊...
佳踊がすこしあきれたように笑った。大人びた笑顔だった。風海はどきりとして、わずかに目を逸らせた。「のぞき見なんて七未ねえちゃんもほんと、趣味がわるいよな」「佳踊がそれで別にいいなら、僕もいいんだけど……」 「別にいいだろ、七未ねえちゃんでよかったよ」とあっさり言う佳踊の視線が舞台の上にむけられる。今回の花形のバレエダンサーがプリマで恋人役のバレリーナと複雑な舞いを見せていた。 やわらかなまなざしで...
つぎの日の朝までは、佳踊の顔を見たら「ちゃんとできた!」とかなんとか報告するつもりだった。 けれど、実際に風海に笑いかける佳踊の顔を見ると、ゆうべ思い浮かべた佳踊のしどけない姿を思い出してなにも言えなかった。風海が心で作った佳踊の姿は夢に出てきそうなほどの色を帯びていたから。「第一幕のはじめから出番があるんだ」 うれしそうに語る佳踊が、ひどく遠い。「そうなんだ、よかった」と相槌を打ちながら、こう...