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月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人3 BL小説 都内で開催された研究会に教授のお供で出席した京助は、夕方、やっと研究会が終わり、どうだね、一杯付き合わないか、という教授に、車ですし実は身内に不幸がありましてとどこぞで聞いたようなありふれた言い訳をして部屋に戻ろうと車に乗り込んで初めて、千雪のラインに気づいて慌
月夜の猫-BL小説です お前にだけ狂想曲7 BL小説 男の車で連れていかれたところは、代々木上原にあるそこそこのマンションの一室だった。 閑散としているのは良太の部屋も同じだが、黒で統一された家具調度はきちんとコーディネイトしてあるのはわかる。 ベッドルームにでんと置かれたキングサイズのベッドまで黒。 げー、
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人2 BL小説 ようやく手に入れたその眠りを妨げられたのは、カーテンが開けられ、一気に日差しが部屋の中に降り注いだからだ。 麻布にある緑に囲まれた七階建てのマンションの六、七階に京助は住んでいる。 入り口は六階、広いリビングと書斎、キッチン、バスルームがあり、メゾネット式で階段
月夜の猫-BL小説です 真夜中の恋人(京助×千雪) BL小説 思い出してもそれは最低最悪な朝だった。徹夜明けで引っ張りまわされた挙句、京都から戻っていらいべったりな京助にベッドに引っ張り込まれ寝不足も手伝って死んだように眠っていた千雪は、傍らに立ったのがてっきり京助だと思ったところが、違和感を感じて目を開けると
風海の言葉に佳踊は驚いたように目をぱちぱちさせたけれど、「わかった」と言って、風海の指先から住所のメモを受け取った。すっと紙が指から離れたとき、自分たちが離ればなれになってしまうことを風海は痛感した。 佳踊と離れるのだと思うと、まるで心をえぐられるような気持ちがする。あんなに毎日、劇場で会っていたのに。たったひとりのひみつの友達を失ってしまう。でも、どうしてこんなに、まるでたくさんの針が心に刺さ...
月夜の猫-BL小説です お前にだけ狂想曲6 BL小説 やっかいごとは早く片付けた方がいいだろう、と翌日の夜、良太は指定された場所に出かけていった。 「土方建造…さん? フリーライター…ですか」 名刺を出されたので自分もバカ正直に名刺を渡す。 「広瀬良太、ね。どっかで見たと思ってたんだ。青山プロか。お前、新宿のあ
ゆめをみてた。 焦燥感が残っている。 起き上がって両手をじっと見た。 なんだろう、 なにかを掴みたかった。そう、おれはなにかを掴みたかった。けれど、 届かなかった。あれは、 ・・・・・・・・・・・・なんのゆめだったか忘れたけど。あれは、 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだったのかなぁ、
月夜の猫-BL小説です お前にだけ狂想曲5 BL小説 良太の前に立った背の高い男は、「おや、まさか、こんなところでゴーさんにお会いできるとは」と、親しげに森山に声をかける。 「お前もここ出入りしてるんやったな。そんな嬉しそうな顔したかて、ネタなんかないで」 アスカにくっついて一緒に乗っていた森山は軽快な関西弁で
佳踊の立ち居振る舞いがとても洗練されていること、背筋がいつもまっすぐに伸びていること、考え込むときにかすかに首をかしげる癖があること。放課後の劇場で風海は佳踊について少しずついろいろなことを知っていった。自分だけのひみつの友達ができたようでうれしかった。 佳踊は博識で、ほんとうにいろいろなことを知っていた。ラスコーの壁画のことや天体をめぐるミステリーの話、全国を巡業中に食べたおいしいものの思い出...
月夜の猫-BL小説です 春雷49 BL小説 「あ、乗ります!」 良太は千雪の手を掴んで、閉まりかけているエレベーターに向って呼びかけた。 ドアは開いて、良太は千雪とともに慌てて乗り込んだ。 「すみません!」 先に乗っていた人に断りを入れると、「おはようございます」と落ち着いた声が返ってきた。 「あ、おはようござい
月夜の猫-BL小説です お前にだけ狂想曲4 BL小説 快晴の空は夏の兆しが見え隠れしていた。 風は心地よく傍らを抜け、ぽっかりあちこちに浮かんだ雲はマグリットの世界にワープしたかのようだ。 「よろしくお願いします」 良太は編集部の面々に頭を下げ、周りの女の子にはさりげににっこり笑って挨拶した。 今日は、青山プロ
佳踊の声が心配そうにかげった。風海の目をじっと見てくる。「風海くん、きょうは楽しくなかったの?」「うーん、算数のドリルの宿題がいっぱい出たから、やだなぁと思って」「いっぱいあるんだったら、はやく家で終わらせないと」 佳踊のもっともな発言に、背負っていたランドセルを急に重く感じた。佳踊は風海の感情の起伏に気づいたのか、「それか、ここでやっちゃえば?」ととびきりの提案をするように言った。 風海はいい...
そこから、風海は佳踊についていくつかのことを知っていった。恥ずかしげながらに、佳踊が教えてくれたのだ。はにかんだような笑顔がよく似合うな、と風海は思う。 佳踊は言葉を選び選び、語った。両親がバレエ団にいるのであちこちを転々としながら暮らしていること、風海とおなじ小学校一年生だということ、将来は両親とおなじようなバレエダンサーになりたいと思っていること。 風海も自分について話した。といっても、「こ...
月夜の猫-BL小説です 春雷47 BL小説 「とりあえず、お返しするわ」 紫の袱紗にくるんだベルベットのペンダントケースを千雪は良太の方に押しやった。 「ちゃんと中、確認してや」 千雪に言われて良太はちょっと嫌そうな顔をしつつ、袱紗を開いてペンダントケースを開けた。 「はあ、確認しましたけど」 「あかんがな、偽
《小学校一年生》 はじめて劇場で佳踊を見かけたのは、小学校にあがったばかりの春、埃っぽい匂いのするひと気のないロビーでだった。 両手に持った紙パックのオレンジジュースを飲みながら、ぶらぶら足を振っていた。振り子のように規則正しく振られるまだ小さなかかとは、ロビーの椅子に腰かけると中途半端に宙に浮いていた。春の日差しが淡く高窓から差し込み、色素の薄い少年の髪のうえで踊っていた。光のかたまりみたいだ、...
月夜の猫-BL小説です 春雷46 BL小説 何が食べたいか千雪に聞いたところ、温かいもの、というので、西麻布のフレンチレストランに予約を入れた。 以前、工藤が連れて行ってくれたこじんまりとした店で、工藤の元同期がオーナー、その弟がシェフで、気取らない雰囲気だが美味しいフレンチを食べさせてくれる。 車寄せに車を停
「あ、風海くんだ」 舞台袖からこっそりステージをのぞいていると、背後から声がかかる。懐かしい声に振り返る。快活な笑みをたたえた女性が立っていた。風海の声が自然とはずむ。「七未(なみ)ねえちゃん、ひさしぶり」「風海くんもこの一年で大きくなったねぇ。うちの佳踊もすごく背が伸びたよ」「男子高校生だからね、水を飲んでも背が伸びる」 風海の言葉に七未は「ありえる」とわらうと、「佳踊を呼んでこようか?」と舞台...
月夜の猫-BL小説です 春雷45 BL小説 ともあれ、良太はダメモトで千雪の携帯を呼び出した。 「あ、お忙しいところ恐れ入ります、広瀬ですが」 繋がったことだけでもラッキーだ。 千雪は編集から逃れるために携帯を切っていたりするからだ。 「ああ、何? 良太からの連絡とか、嫌な予感ばっかやから」 なるほど、千雪
月夜の猫-BL小説です 春雷44 BL小説 「良太ちゃん、山根監督からお電話よ」 たった今考えていた『今ひとたびの』の監督だ。 「はい、お電話代わりました。お世話になっております。は? え? 小林先生ですか?」 またぞろ、山根は面倒なことを言ってきた。 今日の撮影シーンで、原作者の小林千雪に確認したいことがある
バックヤードの薄暗くてどこか埃っぽい階段をのぼっていく。一段、また一段。造りがしっかりしているので、乱暴に駆けあがってもきっと軋まないだろう。けれど、いつもこの階段をのぼるとき、足運びは慎重になる。 だんだんと耳に届いてくる音楽や、靴が床に擦れる高い音、飛び交う言葉。最後の一段までのぼりきり、舞台のあるフロアとおなじ階の通路の重い扉を押し開けると、音と光と人の気配の洪水に包まれる。 衣装や音響、...
月夜の猫-BL小説です 春雷43 BL小説 黒塗りの車が向かった先は、十階建てのビルで、株式会社KCC。 良太がネットで検索したところ建設会社となっていたが、元々は上田市にあった中山組系暴力団君塚組が解散した後に会社組織として改名したものだという。 社長の君塚隆造は先代君塚組の長男で、次男、三男とも役員として会
優羽の指が墓石からそっと離れるのと、恋人のほがらかな声が聞こえるのが同時だった。「優、持ってきたよ」 優羽に柄杓を手渡すと、足元にバケツを置き、供えられた花束を交換している。そのやわらかい横顔を無性に好きだと思った。智伸の眠る墓石をすっかりきれいにして、手を合わせる。――俺、たぶん大丈夫。だから、心配しないでゆっくり休んでくれ。最後、苦しかったぶんもゆっくり眠って。 優羽が目を開けると、神妙な顔で...
月夜の猫-BL小説です 春雷42 BL小説 「佐藤製作所の会社で佐藤彰吾が出てくるのを待ってたら、ちょうどエントランス前の車に乗るとこだったみたいで、スーツ着て出てくる佐藤とわざとぶつかったんです。いや、あんなにうまくいくとは思わなかったけど、ガイジンの振りして英語で捲し立てたら、日本人て逆に引くんですよね。
月夜の猫-BL小説です かぜをいたみ42 BL小説 聞きたくないながら聞いた千雪に、小夜子が言った。 「やっと事実を理解したら、京助さんが誑かしたに違いないとかってお父さんが怒り出すから、綾小路では二人のことをちゃんと認めてるって言ったのよ」 「ってか、余計そんな状況でやる食事会に顔出すやなんて冗談やないわ
恋人と距離を詰めていったのはごくゆっくりだった。そのあいだ、彼が焦れる様子もなく優羽のそばにいてくれたのが、たぶんきちんとつきあうことになった決定打だった。優羽をちゃんと尊重してくれている。そう思えるようになって、はじめて優羽は彼のまえで泣いた。与えられる優しさに、改めて智伸の不在が浮き彫りになったから。 キスをされても、抱きしめられても、抱かれても、なにもかもが智伸とはちがった。ちがうと思うこ...
月夜の猫-BL小説です 春雷41 BL小説 それを俺に言うのが後ろめたかったとか? やっぱね。 何かあったに違いないって勝手に俺が思うのと、リアルな証拠を突き付けられるのとではちょっと違うよな。 だから、京助さんがあんなに工藤に対して目くじらを立てるわけで。 まあ、千雪さんにとっては昔のことなのかも知れないけ
胸の奥で花が揺らめく。 ―――【 】が尋ねる。心底不思議そうにぼくに問う。 胸の奥で花が震える。 ああ、こんなにもぼくの躰には花がみっしりと根を張っているのに。 ああ、こんなにもぼくの心は果てしなく空虚なんだ。 花たちはほろほろと花弁を散らす。それは涙のようにはらりはらりと足許に零れる。 ―――【 】が尋ねる。心底不思議そうにぼくを眺める。 もう、いいんだ。もう、終わらせたんだ。なのに、 ――――――――――――なのに、―――――――――――――――どうして? 〈暗転〉
《それから》 薄手のタートルネックの背中を、ガラス越しのおだやかな午後の日差しが照らしている。暖かさにうつらうつらしていると、ふいに手の甲を叩かれる。淡い眠りの海から引き戻されるとき、とても優しい夢を見ていた気がした。「優、着くよ」 聞きなれた駅名を繰りかえすアナウンスが流れる。 覗きこんでくる笑顔に微笑みかえして、優羽はそっとかばんを膝に乗せなおした。ちいさなかばんに収まった線香の香りがかすかに...
月夜の猫-BL小説です 春雷(工藤×良太)40までアップしました BL小説 春雷(工藤×良太)40までアップしました。かぜをいたみ(京助×千雪)40までアップしました。
月夜の猫-BL小説です 春雷40 BL小説 「まあ、じゃあ、ほんとにその方近しい方がいらっしゃらなかったのね。疎遠になってしまっているとお孫さんもそんなもんなんでしょうかねえ」 「子や孫がいても今時はそんなもんなんだろうな」 鈴木さんが平造としみじみと語っている間に、良太は小田に電話を入れた。 「お忙しいところ
くるしい、 くるしい、 くるしい、 くるしい、 ・・・・・・・・・・・・だってまだこんなにも、 あなたの残滓がぼくの細胞ひとつひとつに沁みついている。 だってあなたはぼくの寄す処(よすが)だった。 美しかったあのセカイは色を失った。 ぼくはどうやって、 ことばを紡げばいいんだろう。
とうとう智伸と優羽がそれぞれ暮らすアパートの最寄り駅に到着してしまう。先に改札をくぐった優羽は振り返って智伸を見上げた。「ありがとう。旅行につきあってくれて。……見舞いに行くから」 「ああ」と答えた智伸が優羽の両手をぎゅっと握りしめた。あたたかい体温が伝わってくる。「あしたがいい日でありますように。どんなに優羽がつらくなっても、お前に降り積もりつづけるあしたが、ずっとずっといい日でありますように」...
月夜の猫-BL小説です かぜをいたみ40 BL小説 「お、めでとう、ってか、もう五か月?」 小夜子は確かにゆったりしたAラインのワンピースを着ているが、お腹が特に目立っているとは思えない。 「先月、紫紀さんの仕事の都合もあって、一緒に日本に戻ってきたんだけど、ちょっと風邪気味かなと思って、病院行ったら妊娠してるっ
諦めるとか、 忘れるとか、 どうやったらできるんだっけ。 あの日から毎日を、日常を繰り返してきたくせに、 昨日までと明日からの、 区切り方がわからないんだ。 予定を分刻みで詰め込んで、 楽しいと思い込んで笑って燥いで、 くたくたになって泥の様に眠りに落ちても、 明け方に見る、淡い陽炎みたいな夢の欠片。 曖昧な、形にすらなっていない揺らぐそのカケラが、 頭の片隅にこびりついたまま拭えない。 ふとした瞬間に、 気配を感じて。 空白の刹那に、 過るなにかを、 全身全霊で、気配や色や音やにおいを、 探している。自覚のないまま。 未練。 きっとそうなんだろうでも、 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・手…
月夜の猫-BL小説です 春雷39 BL小説 「何かお手伝いすることがあればおっしゃって下さいよ」 鈴木さんが優しく平造に問う。 「そうですよ」 良太も頷いた。 すると平造はしばし迷ったような顔をしたが、「そうたいしたことじゃないんだが」と口を開いた。 「俺はガキの頃に親を亡くして、親戚をたらいまわしにされたんだが
「……そんなこと、できない」 かたくなな優羽の声に、智伸がつないだ手を軽く揺らした。「いつでもいい、どんなにゆっくりでもいい。俺がいなくなること、乗り越えてくれないか。優羽のためじゃないよ、俺のために。そうだな、これが俺の最後のわがままだな」「会えなくても、抱きしめられなくても、愛してるから。だから、そういう痛みを抱えて、ずっと生きていきたい」「痛む胸を抱えたままでも、しあわせにはなれるよ。優羽には...
月夜の猫-BL小説です 春雷38 BL小説 でも工藤がピアノとか、そういうの好きな相手と一緒なんだろうか。 あ、あれかな、ニューヨークの佳乃さん。 あの人が日本に来るとか? ちぇ、ま、いいけどさ。 これだから、工藤のことなんか、人に話せないんだよ。 ふう、と大きく溜息をついたところを、宇都宮に見られてしまった。