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(Op.20250530-2 / Studio31, TOKYO) 『ちっちゃな人間』というと、小柄な人を指すよりも度量 ——— 心が広く、人を受け入れ…
吉田健一の小説『金沢』には、内山という主人公が登場する。といっても、この内山、主人公と呼ぶには少々ふさわしくない人物だ。なにしろこの人物、「自分というものに固執することもなさそう」なのだ。吉田の世界では、たとえば『東京の昔』でも、自分のことを「こつち」と言う主語が現れる。自我とか我執をリアルに暴く私小説のいつも一人称単数の主人公とははじめから異なる立場に立っている。 もっともこの内山は、小説においてさまざまな独自の体験を重ねるうちにいつのまにか交友の人としての豊かなものの見方まで身につける。この内山という人物はいったいどのようして成熟ともいえる境地に達したのだろうか。 はじめ内山は寺の床の間に…