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ハイレベル模試を全教科受け終わり、家路を辿る途中の自販機で買ったスチール缶のココアを片手に自宅のドアをひらく。いちどきに、重く沈み、暗く淀み、つめたく凍りついた空気に全身を包まれた。家じゅうが閉じた冷蔵庫になってしまったかのような異様な雰囲気にかすかに身震いする。ふっと、このさきの人生には何一ついいことがないんじゃないかという予感がした。 空恐ろしい未来予想を振り払うように、陽詩(ひなた)は精い...
ぽた、と膝に落ちたのが溶けたアイスクリームの雫だったとき、やっと、別れ話をされているのだと理解した。夏の終わりの夜のはじまりはまだ明るく、一瞬でぬるくなった濃紺のうえのミックスミントアイスの色はいかにもすずしげだ。 人工色の緑を指先でふき取り、ふふ、と千緒(ちお)はちいさく笑う。アイスだって。涙じゃなくて。たぶん、650円くらいの値段の恋だったんだ。 涙さえ流す価値さえない恋だったのだと、だれかに...
ふっと、帰ってきている気がした。曇りガラスのむこうに、朝からしとしとと降っている雨の足跡を刻んで。麻杜(おと)は人参をさいの目に刻んでいた手を止め、じっと硝子戸の外の気配をうかがう。犬が甲高く鳴く声、バイクの走り抜ける音。昼下がりの休日の、なんということのない音の光景。きっと、聞いた通りの風景が硝子の引き戸越しには広がっているのだろう。「麻杜」聞こえない声が聞こえる。触れられない腕がそっと手の甲を...
★華KAGEROUシリーズ Kindleペーパーバック版にしました!
2021年12月から華KAGEROUシリーズの紙本化作業をはじめて約2年をかけてシリーズ全冊紙本にすることができました。やったー! 長かったぁ。。遠い昔、何人かの読者様に「同人誌として発行して欲しい」というお言葉を頂いたのですが、その時はやはりあまりに膨大な量になるだろうと予想して、断っていました。ブログで記事を本にするサービスもあって、試しに作ってみたりもしたけど、コストが高くなりすぎてとても配布できるよう...
「ボクは死んだ。でもトゥーリオを一人にしておけなくて、ゴーストになってこの地に留まってる。それでボクは満足だし、トゥーリオも喜んでくれている……本当はヴァンピーロになって一緒に生きたかったけど、トゥーリオはボクがヴァンピーロになったら百年も経たないうちに彼を捨てて、どこかへ行ってしまうだろうって言うんだよ。そんなことあるわけないのに。ボクたちはいつもそのことで口論する。今となってはどっちが正しいのか...
【いいねの数だけ自分の作品の名言を言え】華KAGEROU本編
ツイッターでのタグ遊び。自作のお気に入りのセリフや場面を抜き出してみました!ネタばれあります。未読の方はご注意下さい。●・・・・・・●・・・・・・●・・・・・・●・・・・・・●華KAGEROU1巻 専制君主の無茶ぶり💖=・=・=・=・=・=・=・=・=紙本を適当に開いたところで目についたセリフを選んでみたんですが、一発目はミシェルだったー(笑)プライム・レジェクトの絶対君主として君臨するオーナーのミシェル。セ...
嫌で嫌で、どうしようもなく嫌で叫びまくっていた。「やめろ! やめ……、と言ってるんだ!!」「煩い。もっと静かに喘げない?」「嫌がる相手にこういう事をしてどういうつもりだ!」「俺は、あんたが好きだからしているだけだ」「貴様なんて大嫌いだ!」「好きになれない?」「そもそもタイプではない!」「女が良いのか……」「あんたには関係ないだろ!」「俺、ずっと言ってきてただろ。あんたが好きだって。その返事はなかったけ...
地中海の中央に位置し、様々な歴史と文化が入り混じった島国マルタ共和国。色とりどりな船が港に持ち帰ってきた新鮮な魚介類は島民の生活を支えるだけではなく、世界中から訪れる観光客の胃袋も満たす。調理法は隣国のイタリアの影響が強く、トマトやオリーブオイルを使ったものが多いが、アラブから運ばれたスパイスや調味料も多用される。文化が交わる島らしい料理の数々に、ハインリヒは感嘆もポーカーフェイスも忘れてエプロン...
地中海に浮かぶ5つの島々からなる、マルタ共和国。マルタストーンと呼ばれる蜂蜜色の石灰岩で造られた建築物が立ち並び、中世の息吹が今も感じられる美しい国だ。「ガラリア」と呼ばれる通りに突き出た特徴的なバルコニーは赤や黄、青や緑に彩色され、マルタストーンとの鮮やかなコントラストは見る者の足を止めるほど壮麗で。“ルネッサンスの理想都市”と謳われたかつての栄華に感嘆を零すだろう。近代では1989年12月3日に44年続い...
至急対応して欲しい案件がある、と秘書のフルアから連絡を受けたのは1時間前のこと。担当部署からの報告書に目を通し、いくつかのメールに返信し、やるべきことに片を付けたハインリヒはふぅと小さく息を吐き出した。身体を伸ばし、そのままソファの背に体重を預ける。ラップトップの画面を埋め尽くしている小さな文字や数字がぼんやりと滲み、疲労が蓄積された目頭を解そうと手を伸ばす。と、その指先が眼鏡のブリッジに当たった...
ふと思いついて、新作の設定など深掘りしていました。ランナーBL。いつも同じコースを走っていると、全然知り合いじゃないけど、なんとなくあの人だな・・・認識してる人いるんですよね。 顔だったり、走り方、背格好だったり、ウェアだったりで、、私もだ