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片付けが大の苦手なヒロは朝食を作ってくれた。丸いおにぎり、プチトマト、バイオリンの模様を描いたきゅうり。それに、ジャガイモをすりつぶして玉子と一緒に焼き上げた物。それを見ると笑っていた。「良かった。ヒロのご飯だ。でも、ジャガイモと玉子で、こういうのができるんだね。ケチャップかけると美味しい」「見た目は悪いけど」ダディはヒロの言葉を遮ってくる。「5年間かける365日、こればかりだと飽きる」「ダディは作ら...
月夜の猫-BL小説です 夢見月16 BL小説 さらに大抵、この手の報道では当の本人のこれまでのプロフィールまで重箱の隅をつつくように情報が流れる。 それだけでなく、これまでにも何かと週刊誌ネタを提供していた事務所の社長である工藤に対しても余計な詮索が入るかも知れないことを良太は懸念していた。 ただし、
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった27 BL小説 「なあ、実際、どうなの? あいつら」 東は元気にボソリと尋ねる。 「俺が知るか!」 元気は胡散臭げに言い放つ。 「まああれだ、人気のあるヤツらがくっついてくれる分には、俺は助かる」 「だから、それ、人気のあるヤツらがいる、イコール東がモテない、
目が覚めると2人ともいない。もしかしたら、もう仕事行ったの?僕になにも言わずに?ダディ、ヒロ!急いでリビングに向かうと、途中にあるキッチンから声や音が聞こえてくる。「だから」「別にいいだろ」「よくない! ジュンが起きてくるまでやり直し!」何のことを言ってるのか分からず、キッチンに入り声を掻けていた。「何をやってるの?」「ほら、もう起きてきた」「ヒロ、何を」ダディは僕をキッチンからどこかに連れて行こ...
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった26 BL小説 ヨハンのバカのお陰でコンクールに出損ねて、何か、全てがバカらしくなってしまった。 音楽が嫌いになるとかではないけれど、コンクールに命燃やすとかはもういいやと思ったのだ。 肩が軽くなったように、響はドサ回りで演奏会を続けてきた。 疲弊したのは
月夜の猫-BL小説です 夢見月14 BL小説 ぐるりと塀が囲み、真新しい門戸に辿り着くと、良太は家の中にいるはずの千雪の携帯を鳴らした。 今、開ける、と千雪が返事をすると、門が内側に開いた。 雑木林が周囲を覆う中、年季の入った洋風の建物が現れ、秋山は玄関に車をつけた。 「軽井沢の綾小路さんとこみたいだ」
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった25 BL小説 お前の思い切りのいい笑顔は、晴天の空のように清々しかった。 変わらないんだな、そんなところは。 井原の笑顔を見ながら、何だか、あの頃に戻ったような気がして、響はふわりと胸に温かいものを感じた。 「にしたって、寛斗、大丈夫なんでしょうね。なんか
月夜の猫-BL小説です 夢見月12 BL小説 「アスカさんも変な色のジャージとか黒縁眼鏡とかで変装するとか?」 良太が千雪を見て苦笑する。 「やあだ、ユキのあのみょうちきな変装、あり得ない~」 アスカが心底いやそうに言うと、みんなが笑った。 お陰で妙に張りつめていたオフィス内の緊張感が少し緩められる。
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった23 BL小説 先日志田のヴァイオリンをみんなで聴かせてもらったが、音大を目指しているだけあって技術もしっかりしているし、高校の部活とはレベルが違うが、志田は皆と一緒に演奏するのが高校での醍醐味だとか達観していて逆に面白い。 結局、ピアノとヴァイオリン、チェ
月夜の猫-BL小説です 夢見月11 BL小説 「しかしあり得ないことじゃないですね。きついことを言うつもりじゃなくても新人はいじめられたと思うかもしれないし、大御所や脚本家なんかには生意気と思われるかもしれない言動がありますからね」 淡々とアスカ評をする秋山に、「ちょっとお、秋山さんまで、ひどーい!」とア
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった22 BL小説 「ああそう。オヤジが亡くなって、俺が店をやることにした時、ライブとかやるのにやっぱ防音措置しとかないと右隣り近いし。結構な出費だったけど、母親がオヤジの保険金ポンと出してくれたから、それこそ元取るまで店やらないとな」 元気は真面目な顔で頷いた。
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった20 BL小説 「ほんとカッコいい! 井原さん、エリートビジネスマンみたいな雰囲気」 客を見送った紀子が向き直り、憧れの眼差しで井原を見上げた。 「大学でお星さまだけみてたわけじゃなくて、いろんな企業のプロジェクトにも関わったりしてたから、下手するとそれこそ身
月夜の猫-BL小説です 夢見月8 BL小説 良太の頭の中には、昨今W不倫で思った以上にマスコミやSNSなどでも叩かれ、ドラマやCMを降板、築き上げてきたキャリアも失墜した美人俳優の騒動が駆け巡った。 人気俳優だったからこそ出演していたCMも多く、高額の違約金が発生したはずだ。 今当人は海外留学という名目
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった19 BL小説 「井原のやつ、本場で向こうの仲間とやっぱジャズやってたらしくて、俺も一緒にやるの楽しみなんですよ」 「そうなんだ」 今、元気の口から語られている井原は、もう響の知っている井原ではない。 十年ものの初恋を後生大事に抱えて腐らせてしまっているよう
月夜の猫-BL小説です 夢見月7 BL小説 「家元夫人て、俺、もろあの怖いおばはん、そのまんま書いてもうたで」 千雪のセリフに良太は頷いた。 「でしょうとも。茶道に厳しくて京都弁で、佐々木さんのお母さんが出てるって思いましたよ、小説読んでて」 「あのおばはん、出すんちゃうやろ?」 「まさか、冗談じゃないです
チンと乾いた音が鳴るのでキッチンに行く。「あとはクリームを入れるだけ」「見事な形だ」ダディにそう言われ、僕は嬉しくなった。「博人さんより形が良い」「ヒロのはボールだよね」「独特だからな。で、メニューはなんだ?」「今は味をしみ込ませているところ」そう言うとタイマーに目を向ける。「あと14分経ったら焼きます」「本格的だな」「えへへ」「で、部屋は掃除したんだろうな?」「しました」その時点で気が付く。リビン...
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった18 BL小説 まるであの日の続きのように、「あ、響さん、いい天気でよかったですね」などと言いながら、新任式が終わった講堂で、井原が声をかけてきたのだ。 一体全体何がどうなっているんだ? 「やだな、響さん」 元気が声をあげて笑った。 「この春から、井原、物
月夜の猫-BL小説です 夢見月6 BL小説 「あかんかった? ま、しゃあないやん」 「てんで他人事なんだからな」 呆れて良太は千雪を見やる。 これまでも原作のあるドラマに関わったことがあるが、主演はもちろん、好きな俳優が出てくれるとなると、原作者は感涙もので喜んでくれたりするものだ。 中にはあの人
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった17 BL小説 「にしたって、やっぱ父さんの言う通りだったってことだな。実質的な仕事に就けないようじゃ意味がない、か」 尾上はガラス屋を継ぐべくして大学に行き、きっちり地に足をつけて仕事をしているらしい。 仕事をしているからこそ、好きなガラス工芸の仕事もできる
第5章「選んだ先にあるもの」 金曜日の夜、東京の空はうっすらと雨が降っていた。 退勤後、オフィスビルの下で長谷川陸が傘も差さずに立っていた。 「……バカじゃん、濡れるやんか」 小走りで駆け寄った市川陽翔が、陸の頭の上に自分の傘を差し出す。 「なんしよんと、こんなとこで」 「……待っとった。お前に、ちゃんと答え聞かんと落ち着かんけん」 陽翔は小さく息を吐いた。 「俺な、ずっと迷っとった。陸とおると、気が楽っちゃ。昔と同じ空気で、なんも考えんで笑えるし、安心できる」 「……うん」 「けど、それって“今”の俺が欲しいもんとは……ちょっと違うか
短編BL小説5章で最後。明日アップして終わり〜次のはもう少し面白いの書きたいなぁ。ってか英語のも書いたんだけど、ここでアップしてもね😅 Lonely
第4章「距離が近づくとき」 週明けの朝、社内はいつもよりざわついていた。 「市川くん、市川くん!今日の資料、部長からすごく褒められてたよ」 「えっ、本当ですか!?やったー……!」 プレゼン資料の準備で、先週ずっと残業続きだった陽翔。報われた嬉しさに、思わず小さくガッツポーズを取った。 「……市川さん」 声をかけてきたのは高槻。少しだけ、目元が緩んでいた。 「お疲れさま。……本当に、頑張ってましたよね」 「あ、ありがとうございます……高槻さんが一緒に残ってくれたおかげです」 「いえ。僕は、あなたと一緒に仕事できるだけで十分なんで」 そう
月夜の猫-BL小説です 夢見月5 BL小説 「あ、この人、兄貴の嫁さんにぴったしや」 千雪が言う写真を見た良太は、「え、この人、も無理。ダメモトで一度オファーしてみたことがあるんですが、もうずーっと先までスケジュール決まってますってマネージャーにけんもほろろでしたもん」と断言した。 「俺ごとき門前払いって
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった16 BL小説 「お前、俺に夢を見てんじゃないか? 俺はつい最近までドロドロでぐっちゃぐっちゃの付き合いぶった切って、日本に戻ったんだからな」 「終わったんだろ? なら、いいじゃん!」 「疲弊しきってんの。色恋沙汰なんか、ゴメンなんだよ。俺は思い出の初恋に生きるか
響生と恋人同士になってから、2週間がまたたくまにすぎた。恋人というものができるのがはじめての陽詩には世間一般そういうものなのか、それとも自分たちが特殊なのかはわからなかったけれど、ひまさえあれば会って、会えばセックスした。試験期間あけだったので、大学生の陽詩は実技の授業がない日はそれほど忙しくもなかったし、響生の仕事も閑散期らしい。唇や触れてくる指、なかを穿つ性器まで、余すところなく記憶してしま...
月夜の猫-BL小説です 夢見月4 BL小説 「それやね。多部さんにでけた本もろて、読み返したら、これが結構おもろてな、え、これ、俺が書いたん? て、思わず感心してもた」 「何アホなことゆってんですかっ! とにかく、この話の要の家元のお嬢様、誰に白羽の矢を立てるんですかっ!」 呆れて良太はつい関西弁に染まり
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった15 BL小説 「まあた、ボールかなんか飛び込んだんすか? ここほんと、昔っからよく飛び込みますよね~」 作業員は言いながらひょうひょうとブルーシートを外し、抱えてきたサッシから保護材を取り除いて窓にはめ込んだ。 「俺は本気で言ってんだぞ!」 窓の方を見てい
第2章「意識し始めた瞬間」 「なあ陽翔、昼一緒に飯行かん?」 会議が終わったタイミングで、長谷川陸が陽翔のデスクに顔を出した。隣の席に座る高槻悠真の目が、さりげなくそのやりとりを捉える。 「あ、うん。ええよ」 「ほんじゃ決まりやな!」 にかっと笑う陸を見て、陽翔は少しだけ照れたように笑い返す。 「仲良いんですね、幼なじみって」 ふいに高槻が言った。 その声に陽翔は一瞬反応し、視線を向けた。 「あっ、はい。小学校からずっと一緒だったんで。……なんか変な感じです、ここでまた会うなんて」 「……そうですか」 高槻は視線を落としたまま、静かにタイピングを再開した。
第1章 再会 「おはようございまーす……って、あれ?何か人増えとる?」 市川陽翔(いちかわ はると)はオフィスに入るなり、見慣れない後ろ姿に足を止めた。スーツなのに、どこか体育会系の匂いがする。背が高くてがっしりした肩、ラフなリュック。 「あれ、まさか……うっそ……」 ぽつりと漏らした瞬間、その男が振り返った。 「おっ!やっぱ陽翔やん!お前、こんなとこで働きよったんか!」 「陸!? 長谷川陸!? なんしよん、いつ東京に来たんか!?」 「転職よ。ほんでこっち配属っち言われて来たら、まさか陽翔がおるとか。運命やろ?」 驚きと戸惑いでしばらく口が開いたままの陽翔。 声
月夜の猫-BL小説です 夢見月3 BL小説 「そういえば、今日は背後霊はどうしたんです?」 腹が減っていたのと弁当の美味さにしばし言葉も忘れてひたすら箸を動かしていた二人だが、ようやく食べ終えてお茶を飲み、一息ついた良太が思い出したように聞いた。 「学会で名古屋や」 こちらもあらかた食べ終わり、お茶を飲
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった14 BL小説 「どしたん?」 あまりに凝視していたのだろう、胡乱気に寛斗が聞いた。 「ああ、いや」 しょっちゅう、井原もそうやって響に笑みを向けていた。 あれ弾いてよ、ドビュッシー、なんかこう眠くなるやつ。 井原の声が聞こえた気がした。 指は勝手にドビ
月夜の猫-BL小説です 夢見月2 BL小説 大学四年当時、野球三昧の大学生活を送り、卒業したら父親のちっぽけな整備会社を手伝いながら草野球チームでまた野球やろう、などと甘いことを考えていた矢先、お人よしの父親が連帯保証人になっていた友人がバックレたため、高額な債務を押し付けられ、いきなり土地家工場何もかも取ら
月夜の猫-BL小説です そんなお前が好きだった13 BL小説 井原と同じクラスで、琴美よりもっと線の細い感じの少女だったが、井原のことが好きだと、そんな目をしていた。 気が付いたのは、響が同じ目で井原を見ていたからだろう。 少女のことを思い出した途端、当時のキリキリと胸をひっかくような感情までが呼び起
月夜の猫-BL小説です 夢見月(工藤×良太54)更新しました BL小説 夢見月(工藤×良太54)更新しました。 「月澄む空に」、「何となくクリスマス」、「バレンタインデー、良太走る」の後のエピソードになります。 4月からのニューヨーク研修を控え、工藤並みに忙しい毎日を送っている良太に、また難題が降りかかり
ピンポンと鳴らして入る。「ただいま~」バタバタと賑やかな足音が聞こえてくる。「ダディ、ヒロ。おかえりなさい」「ただいま。ジュン、泣いてないか?」「大丈夫だよ。1年だからね」ヒロは匂いを嗅いでいる。「なんかいい匂いがするな」「シュークリームの生地を焼いているんだ」「デザートはシュークリームか。嬉しいな」ジュンに土産袋を渡す。「これ、スペイン土産だよ」「ありがとう。開けて良い?」「いいよ」ヒロから貰っ...