メインカテゴリーを選択しなおす
~ 追憶 東雲坂田鮫 ~ その日私は学校をサボった……… 帰宅後すぐに強い睡魔に襲われた私は 昼過ぎまで眠ってしまったのだ………… たぶん あの美味しい紅茶が 齎した作用だろう……… 私は今朝の帰宅途中 足がふらふらだったし 道もなんだか ぐにゃぐにゃに曲がって居るように感じて居たのも 覚えて居る………… 昼過ぎから 目は覚めて居たのだけれど…… なんだか頭と目の奥…… お腹や腰…… というか 軀全体が重くって…… 布団からは出られなかった…… 夕方になって バタバタと母親が出て行く音を聞いて…… それからやっと 布団を出た…… テレビのリモコンを押すと 誘拐と殺人 それとあと幾つかの容疑で …
日記形式で書かれた過去の文章に罫線が引かれるのである。訂正や誤解を招く恐れが本人たち、書き手が主張する理由と予測されるが、見る限り訂正の労力、つまり改めて今日の文章を訂正の修正や招いた誤解への謝罪などの労力をなるべく減らすのが目的。また、時に日に何度も文章は異なるテーマで投稿される。そのため、短期的な報告の類や募集、会合の発表などは書かれた翌日にはデータが消される場合も散見され、あろうことか、彼女たちが欲しがる事件当日の日記は大よその媒体で綺麗さっぱり消されていたのだった。 幾つか巨大なサイト運営会社というものがあるらしい、種田はその辺の事情には疎く、鈴木による知識の取得である。運営会社に事件…
約一時間後、喫茶店のお客が入れ替わったころあいを見計らい、O署の種田と鈴木は店を後にした。喫茶店はS駅北口の数メートル隣、店の二階と形容される階が実質上、地上高と等しい高さ。もっとも、S駅の出入り口は緩やかなスロープと階段を上って潜るのであって、本来は一・五階という言い方が正しいといえる。 五分ほどの時間を駅に入る、あるいは出て行く人の姿をなんともなしに種田は目で追った、かつて喫煙所があった濃淡に色分けされた茶色いブロック塀に寄り添い、直立不動である。 手間を掛ける荷物を持った人はタクシーやバスを利用している、対して軽装に一つの荷物だと足取りは極端に早いか、ゆったりのどちらか。緩慢な動作と手元…
「それがなに?見えなくなった私に思い出の場所はもう不要。写真や映像、昔のビデオだって見返すどころか、億劫でもあってさえ、実現には叶わないの」 「すまない」 「あなたせいじゃないわ、私のせいでもない、まして世界や両親でも、まったくない」 「荒れてるね」 「そうかしら?これが通常かもしれない。今までが異常な世界だったのよ」 「強い」 「煙草の灰は落とした?」 「よくみてる。いや、時間を計っていたのか」 「ええ、代用はこの機械がやってのけた一分ごとストップウォッチが単音で知らせてくれる。説明書を見なくても、使える仕様だったようね。上出来だわ」 「気に入ってくれたようだね」 「ええ、それはもう大事にす…
TV版は『機動戦士V Gundam』を最後に宇宙世紀の物語に結末を迎え、以降はSEEDが放映されるまで題名に『機動戦士』の名が消え、作品ごとに似たような文字が使われた。 『V』の次の作品は機動武闘伝『G』Gundamなのだが、MGとして模型化されている機体が圧倒的に少なく、MGのGOD Gundamを第九投稿目に書いているので今回はその次の作品になる『"新"機動戦”記"Gundam W』を紹介することになる。 『機動戦士V Gundam』以降の作品は機体のGundamがまるで戦隊物のように主人公以外にも敵にも味方にも登場し、個体としての価値が下がってしまったような気がするが、外見の格好良さがよ…
前のお客が振り返った、声が大きかったのだろう、一瞥して前を向けと、無言で言い渡す。 「私はこの流れが理想です」宇木林は夢を語るように斜め上空を今度の標的に口を開いた。多少なりとも、辛抱強さを身につけた僕も呆れてしまう、陶酔。「その商品しか目に入らない。時間を犠牲に商品を手に入れる。まさに願った姿をこうして、お客の立場で並ぶとまた新たに見すごした情景が残っていたのですねえ、いや有難い、あなたのおかげです。しかしです、食べ物は落ち込みが激しい、注目の的になってしまうと客足は増えるが、長くは続かずに下火、それからゼロにまで移行しかねない。また対照的に、口コミで広がるお客の増幅は、あまりにもその流れが…
前のお客が振り返った、声が大きかったのだろう、一瞥して前を向けと、無言で言い渡す。 「私はこの流れが理想です」宇木林は夢を語るように斜め上空を今度の標的に口を開いた。多少なりとも、辛抱強さを身につけた僕も呆れてしまう、陶酔。「その商品しか目に入らない。時間を犠牲に商品を手に入れる。まさに願った姿をこうして、お客の立場で並ぶとまた新たに見すごした情景が残っていたのですねえ、いや有難い、あなたのおかげです。しかしです、食べ物は落ち込みが激しい、注目の的になってしまうと客足は増えるが、長くは続かずに下火、それからゼロにまで移行しかねない。また対照的に、口コミで広がるお客の増幅は、あまりにもその流れが…
このブログは、昔、リネージュ2というゲームの中で創ったFREEDOMというクラン(ギルド)のHPを元に立ち上げました(ブログを立ち上げた目的は、10数年前に散…
「形態の基本は実演販売、お客さんに作業工程を見せる、これがコンセプトです」 「契約を結んでいない私に内情を知らせるのは、僕をおとす自信から来るものですか、それとも……」 「近隣の商業ビルへは事前に情報が漏れる算段をこちらは取るつもりですよ」 「セオリーに反する気がします」後ろのお客が押し込む、ベンチの存在を感知していない更に後ろお客が前に進みたがっている。しかし、まだ前のお客の後ろに立つことは許されない、ベンチを塞いでしまう。 「私はね、あなたのそういった感度の良さを高く評価したのですよ」宇木林は舞台俳優のごとく、肩を左右に広げた、左手にかろうじてぶら下がる紙袋が、ビル風に晒される。「いずれ情…
宇木林はまた独特の笑い方。「決して馬鹿にしたのではありません、金光さん、あなたは自分の能力を過小評価してはいないでしょうか?」 「うーん、あまり、自慢げに見積もった態度をとったおぼえはありませんけれどね」列が動く。一歩前へ。植木を背にベンチが姿をみせる、そこだけは列の並びを避ける。一つ前のお客はベンチの幅を離れ、空間が生まれた。ただし、空けたベンチに空っぽ。人に見られてまでわざわざ席に落ち着こうとする希代な市民は早々出会わないか、と彼は推定を下す。 宇木林は体勢を変えた、とっさの動作に僕は軽く上半身を除けた形になる。 「センシティブだ」宇木林はにやりと頬を緩ませる。どうやら、何かを試したらしい…
小説投稿サイトのカクヨムに自作小説をアップして約半年が過ぎました (これは一昨日から書き始めたものです) それにしてもゼンゼン読まれません ジャンルも、いま人…
今年から、趣味で小説を書いてカクヨムとか小説家になろうに投稿を始めました しかし、無名で、しかもWEBサイトではマイナージャンルのホラーやミステリーなのでなか…
「呼び止めてくるよ」鈴木の立ち上がりを種田は素早い身のこなしで制した。動かない動物、動物園の檻であろうと元来備わった能力の一端を垣間見せた。彼は引っ張られるネクタイによって、席に引き戻される。そして、背後をそっと見やる。気付かれていない様子に、ホット胸をなでおろすと、こちらを睨みつける種田。しかし、大人になった僕だ、鈴木は先輩の立場を思い出した。音声は抑えて、小声。「何で、止めるんだよ。現場周辺の聞き込みは禁止されてるけど、直線距離約三百メートルのS駅の喫茶店にS市警察の捜査員がたまたま休憩がてら僕たちを見かける確率は相当低いと思うけどね」 「そちらではありません」種田は立てた親指を寝かす、指…
仮によ。つまり、私が名乗り出る前に、警察が公表を控える死体、その長期に渡る身元不明の理由を家族に説明したはず。私がしゃしゃり出て、あえて場を荒らすのはナンセンス、相手を特に奥さんの打ちひしがれたやり場のない感情の矛先を親切に教授してしまうの。攻撃対象が現れたら、相手は叩きのめすわ、誰だってね」彼女は首を振る。「沈黙は金よ、私は銀て柄ではないの」 「私たちが確かめる手段は?」 「警察に知り合いがいて、うまく訊きだせるのは、物語上の適切な配置、理想的な配役による、現実のつながりは希薄」 「そう、人違いを願うのが精一杯なのね……」 「話はそれだけ?」 「支店長が戻ってくれれば、それは一番だけれど、一…
「支店長から聞いたのね、過去の付き合いを」意を決する、燃え尽きる覚悟。稗田は、テーブルに戻すグラスを合図に口火を切った。 「はずれ、単なる勘よ。あなたは信じないでしょうけど、尋ねてない、それだけ」 「支店長の家族に迷惑がかかってしまう、考えがそっちに及ぶのは当然の配慮に、私は賛成する。けれど、倫理的な観点を優先させたいとも思うの。亡くなったのだったら、すぐにでも家族に引き合わせてあげたい」呼吸が荒い、目頭に集まる熱の塊を押し込める、涙を見せないことがこの歳まで仕事を任された条件の一役を担ったんだ、放棄は選択外、こらえて、こらえろ、こらえるんだ、保て、意地でも、靡くな、楽な方へ。俯瞰した観測にす…
「だから、何を言っているの、抽象的で的を射てない。射ててすらない」彼女は二口目を口に。 「あなたの口から聞きたい」 「頑固ね」 「言って」 「……」 「ブルー・ウィステリアの前で別れた二人をこの目で確かに見たんだから。距離は数メートル。仏具屋の入り口が真横にあった、ねえ、やっぱり正直にさ、警察に打ち明けるべきだって。あれから報道でも言ってたけど、捜査に進展はないって。行き詰ってるんだって、それは判明しない被害者の身元が原因よ」 言い切った、言ってしまった。後戻りはできない、関係の修復も、修繕も、まして再構築などもってのほか。会社での居場所唯一といってもいい、話し相手をこれで、私は失った、私から…
同僚の真下眞子と会う約束、土曜だから互いに職場を出る時間が合うことは決して、まずもってありえない。けれども、私と話が噛み合う年代は眞子しかもう残されていない。それにだ、稗田は運ばれたと思い込んだテーブル、コーヒーカップを掴もうとした、最近ではよくある、うっかりした思い込み。 見られていないことを願う。小鳥の囁き思わせるウエイトレスが登場、背の低い女性がコーヒーを置いていった。頭を下げた、そして戻る後姿を見送る。お客にいつも見られている気を張った背中だった。 砂糖とポットのミルクを稗田は注ぐ、いつもはブラック派の彼女であるが、今日は気分を変えたかった。 訊いておくべきだろう、同僚として、私にあり…
土曜日、支店長の失踪から約一週間が過ぎた。今日もお客はひっきりなしに店に押し寄せる、なんとも欲にまみれたことか、口が裂けてもいえない。仕事に支障をきたしてしまう。もしかすると、予想だけれど、支店長が姿を消したのは、会社の内部事情を他所に打ち明けようとしたから……考えすぎだ、稗田真紀子は上着を羽織り、喫茶店の席に着いた。今日は、一階の奥の席を選んだ。いつもは埋まる人気の席が今日は偶然にも空いていたらしい。 一つ噂を耳にした。頬杖をついていぶかしげ、壁にかかる滝の絵画に視線を留めた。数週間に壁にかかる絵が換わる、この喫茶店の特徴だ。外観や店員の制服はチェーン店と見間違えてしまうが、サービスやコーヒ…
「ええ」 「日曜日はお休み?」 「はい」 「明日、ランチの仕込み時間がいつもよりも軽減される、手が空いた仕込みの時間に窺います」 「丁寧なご配慮を」 「いいえ、とんでもございませんことよ」口元を押さえて微笑む彼女が想像に浮かぶ。「それではどうぞご帰宅を、従業員の皆さんにも、よろしくお伝えください。私はこれで失礼させていただきます。……ああ、そうそう。もう一つだけ」わざとらしく付け加える、演出。「あなたの左斜め、窓の下、石の棚の裏側に盗聴器があります、回収と処分をお願い」 「カメラは?」 「あなたはどこの電話に出ているの?レジの下の親機、その受話器を取っているはず。受け取った受話器、従業員に背に…
「そちらの言い分は理解しました」店主は早口にまくし立てる。一種の効果を狙った。同調してくれれば、幸い。降車したら、次の機会を待つ。「私に店の移転を諦めさせ、移転計画・ビル改装の中止をあなたは願う。それにはただ、条件というものが付帯します。私はあなたが耳を済ませて音を拾う老朽化した店の改善を迫られています。法律改定の事実をあなたの指摘にしたがって、確かめる必要はあるとは思いますが、調べれば判明する嘘を不動産屋がその進退をかけて、私に言ってのけるとは考えにくい。大掛かりな私の要求をいいますと、店を移転せずに、店の耐震構造及び老朽化の改善を、営業に支障が出ない工夫を凝らして欲しい」 「……可能かどう…
店主は目配せ、意味のない、わかりやすい瞼の開閉のあと、滑り出すようにぬるっと言い放った。「いつか助けを求めるときが来るかもしれない、とっておきはいざという状況下で縋る。誰かの受け売り、前々から考えていた僕の持論、どちらでも好きな方の解釈をして構わない」短くなった煙草を缶の内側に押し当てる、さびが目立つ缶の内側、立てかけた蓋を閉めた。 電話が鳴った。小川がびっくりして腰を浮かす、同時に発した奇声に館山が女性らしい高い擬音を発する。国見は平然と、席を立ってレジ下の受話器を取った。ぎしぎし、床の軋みが耳に残った。常夜灯の明かりが薄ぼんやりと、温まった室温のくもりによって淡く室内の明かりと共鳴している…
会計を先に済ませる、するとテイクアウトか。 カウンター席も設けてある、フロア共有の通路側にお客の並び口を作り、調理スペースを島に見立て、店舗内、一人客の席をL字型に壁とカウンターとの両サイドに互いのプライバシーが守られるよう仕切りをつけたんだ。 取り外せば、二人、あるいは三人との食事が連れ立つ限度に人数を操る。 入り口の所在が不明確だ、改善点を挙げる。予定場所と記載された図面では店の区画はビルの内部の中ほどの位置を示す。 「店長、聞いてますか?」苛立った館山の呼びかけだった。 「ああ、聞こえてる」 「もう、煙草の灰が落ちますって」 「……」素直に指摘を受けた。 「国見さんの意見は、前と変わらな…
機動戦士V GUNDAM、その作品は宇宙世紀物語年史として作成された最後の作品である。その後に発表された∀やReconguistaは宇宙世紀から続いているような表現を映像内で出しているが公式で宇宙世紀のずっと先の未来の物語であるとは言っていないのでVが最後といってよいと考えられる。 初代、Z、ZZ、ν、Unicornまでは地球連邦とジオン軍との闘争、F91では地球連邦は弱体化し、Colony国家側が台頭氏はじめ、VではColonyの国家側の一大勢力と地球に住む民間組織との対立に代わってしまっていた。 New typeと言う人種の存在ももはや伝説、語られることさえない・・・。 今までの主人公が搭…
思い出した仕草、小川はわざとらしく拍子を打つ。「あの、新しいビルのついでに、ブルー・ウィステリアの行列を見てきましたよ。ずらっと、移転先の工事現場場を越えてまだ続いてました」 「端末の機能は大して変わらないのに、何で食いついたのかしら」国見も小川の発言に寄り添う。 「無駄話はよそでやってよ」 「うーん、だって先輩、店長の言い分に勝てると思います。これこそまさにお手上げ状態ですよ」 「お手上げは既に状態なんだから、言葉を二重に重ねるな」 「二重も既に重なってます」 「なんかいったか?」 「いえ、べつに。そうそう、ビジネスマンのお父さんとか、電話しか使わない高齢者に人気が高くって、だって時計みたい…
「反応がそのビルでは見られる、聞かれる、また媒体に映されて、見られ、読まれる」店主は一同を順に見つめる。煙草を吸った、灰を足元の缶に落す。「常連客というのは、他に数店通いの店を持ってる。そのなかの一店に足を運べなくなったとしたら、他店の利用回数が増えるか、新しい店を探す。すると、その期間の不自由はなくなる。店を忘れた、潰れたという噂は立たないように張り紙を店の前に張るつもりだから、いつか再開するんだ、お客はそのいつかを保有するはずさ、食べるために張り紙を目にしたんだ。予測だから、確証は持てない。だが、試す価値はあるよね。お客は少しは減ってしまうかもしれないが、移転先の反響で酷評なり賛辞なりの、…
「先輩、興奮しすぎですよ」 「なんでもしすぎ、しずぎって、やりすぎりをよくないように言ってるじゃないのよ」 「私に当たらないでください」 「館山さんは、常連客は新しい店に流れてしまう、うち目当ての客さんが移転先で他にお客を取られかねない、そういった指摘だね?」 「なんあだ。それならそうとわかりやすくいってもらわないと、私わかりませんからね」小川が言う。 「だーから、あんたはいつまでたってもっ……、ああ、今はその話じゃなくって、店長!はぐらかさずに答えてもらいます?」ぐっと館山は椅子を引いた。「常連客を移転先に導き、なおかつ他の目新しい店と対抗する妙案なんてものがあって納得したら、私はすぐにでも…
一度ランチを離れるか。念のために、吸殻を集めた缶を持って店主はテーブルに着いた。 一同の表情は一貫して、くすんだ色だった。 「終電に間に合うつもりで回答を聞こうと思う。また、」店主はそこで言葉を切った。「君たちの意見を取り入れるつもりであるけれど、最終的な決断は僕に任せて欲しい」 「横暴です」左手の館山がテーブルに手をつく、中腰、背が高い彼女のすらりとした体の曲線、最上部の頭にはぽっかりと浮かび上がった月を思わせる壁の船底時計が時を刻む。時刻は十一時と数分を過ぎる。 「仮にも僕の店だから、その権限は渡していないつもりだ。君たちを軽視しているつもりも、同時にないとは言っておくよ。誤解を招かないよ…
「かぼちゃのスープが三つ入りました」小川が厨房に入り、オーダーを読み上げる。 「それで一旦止めておいて。十分ぐらいで再開できるから」 「わかりました、蘭さんに伝えます」 「マルゲリータできたよ、もってって」館山が皿に載せたビザを小川に。取りに来い、という合図。 「リルカさんが運んでくださいよ。私だって手一杯です。これからジンジャーエールをもっていないとですから、よろしくう」小川は瓶の栓を器用に空けると、二つのグラスとボトルをトレーに載せていってしまう。 「あいつ」悪態をつきながらも、館山はサロンをはずし、ホールに出る。「ちょっと運んできます」 「よろしく」 お客の波は定時に仕事を切り上げた一団…
金曜日のディナータイムはいつになく盛況であった。よくよく振り返ると月の終わり、つまり給料日がわんさかお客が押しかけた要因であったらしい。それほど、高額な料理は、いいやまったくといって店で出される料理はリーズナブルな価格設定であるが、なるほど、お客はかなり敷居を高く見積もっているのだろう、店主はうつらうつら考えながら鍋に張り付く。 温かいかぼちゃのスープが短時間、およそ一時間で底をついたので、早急に小川安佐をスープの作り手に任命、館山リルカはいつもの通りピザ釜に付きっ切りでびっしょり額と首筋に汗を掻いている。ホール係の国見蘭はお客が席で埋まるまでを勝負と決めているようで、てきぱきと案内をこなすと…
左に進路をとった、何気なく、なんとなく、喧騒から離れたい心境に下半身が従ったんだ。 何をしよう、着手するべき、試す、こうして探究心を探し求める心境は久しぶりの感覚に思う。引退時、かもしれないな。呟く。空っぽ。空虚。けれど、空洞に砂を埋めたのは僕であるし、まみれたお宝を掘り出すのだって、埋もれた場所を忘れてしまったからだ。元々は僕の中に存在しなかった無形物を掘り当てて、形に見えるように狭い間口に悪戦苦闘を強いられ、脱出に成功したのが、これまでの生き方。 ガラス越しの店、じっと座って視線を落すお客と髪を切る美容師、それを見つめる私。 切られる、切る、見入る。 埋める、掘り出す、扱う。 前者は自ずか…
黙っていなくては。 橋が見えてきた。川幅が広がったように思う、川上に振り返った。 南下を始めた地点から現在地を比べると広さは目に見えて明らかだが、数メートル下流だと、違いを見出すのは難しい。変化率は低い。 プロモーションも無事に終えた。一号店の状況は売り上げの数字、メディアの取り上げ、サイト上の個人評価等々、大よそ想定の範囲を上回る満足度だった。もう、これからは私の手の及ばない領域だ、見守る、……ただそれだけ。 私は何も見てない。飛行船を飛ばしていた。理由はおいおい聞かれるまで、時間は残されてる。 ただし、避けられない警察の追及に陥る状況を捉えなおすと、対策を講じるべきが、やはり収束には必須の…
川沿い。 自転車とランナー、歩行者が順々に通り過ぎる。赤いトラックロード上は健康志向の強い人種が集まる居場所。 確かに休暇は必要だった。目的にはないにしろ、開発の際に溜まった休暇はちょうど残り数ヶ月で丸々五年分、会社の方針は期間内に私に幾度となく消費を義務づけていた。それをあの女はかぎつけた……。 飛行の事実を警察に話すわけにはいかない、私が作り上げた商品の披露の場が台無しになる。だから、黙っていた。とはいえだ、男は歩調を緩める。くしゃみが出た。川沿いに強めの風が吹き付ける。 このまま真相に行き着いた場合、私の身の潔白を証明することになるあの女の所在を警察に明かす必要性に迫られるんだ、そうなれ…
ベンチに戻ろうか迷った。帰路の数歩はそのまま散歩に移り変わった。腹ごなしの散歩といえる。それほどの私にしては食事の量が多かったのだ。 川を目指すことに決めた。東に流れてるらしい、こっちへ移り住んだ初日にS駅で手に入れた周辺の地図を男は思い出した。交通量の多い、人通り。二ブロック先に行き着くと、四斜線の通りの二つ、上りと下りの計八車線に挟まれた川を発見した。北は駅に向う方角、南を歩くか、男は川の土手を南に下る。 あの女、というのはかなり風変わりな要請をロビーの席で手短な用件でという私の制限に、的確に反応を示し、まるで予想していたかのごとく端的で驚きに満ちた、滑稽なプランを述べた。私はつい、笑った…
手が空いた、箸に持ち替える、サツマイモのてんぷらを口へ。外側の衣の触感と皮をつけたままのサツマイモが絶妙に舌に届く。少々の塩味、男は裏側を確認、手首を四十五度回転させた。表面が味の決め手、過度な味付けを嫌ったのだろう、男はしきりに関心、頭を上下に揺らす。 そうそう、社内がファーストコンタクトであった。考えてみれば、あの女は会社との何らかのつながりを持つ提携や協力関係の企業に借りの所属の席をおく、ということだろうな。厳重で強固なセキュリティを通過しなくては、私がたまたま顔を出すロビーに足を踏み入られない。これが通常の想定である。 そうえいば、彼女が声をかけた初対面の印象はこの間とはまるで別人を思…
男は一口頬張って中の具を確かめる。柔らかくなめらか、火を通した具材は冷えることでまとまりやすく、食べやすさも考慮に入れているのか、納得。 私は料理は作らない、ほぼ外食で済ませるが、食材の元の形との違いによって、工程を想像でき、そこから作業の意味が知れる。何事も共通項がある、ということを私は言いたいのだ。ただし、だからといって、私が料理を作れるかは疑問であるし、十中八九、想像の八割を超える味にはお目にかかれないだろう。弁解をするのは、私が何でもできるような、言い方をするから、そう同僚に言われたからだ。特段気にも留めていない、改善は無為だとさえ思う。なぜか、私は予測を述べているつもり。 多くの人は…
開発には多大な、それこそ専門外の分野にまで責任者は最低限の知識と技術のあらましを備えて、三日に一度訪れる進捗状況と方針転換の再確認と計画自体の廃止を問う会議に挑まなくてはならない。 私は全体と開発チームの指揮を二つ抱えていた。片方に疲れると、もう片方の処理に移る。時に二つが重なり合う場面にも遭遇した。そこでは、取り掛かった仕事を終えると、特別に無駄な時間を過ごす。何もしない、しかし自由にしてよい時間を作る。無駄にはカウントしない。効率を高める上では必要な休息であると、学んだからだ。他人の作業効率はどうだか知らない。ただ、何事にも興味の対象は開発作業なのだ。誰が身につけるのか、誰に見せるのか、い…
一体自分のおかれた状況をいつ抜け出せるのか、彼は食べ進める箸の運びを止める。代わりにコーヒーを傾けた。 ここまで歩いた短時間に、新商品を身につける流行好きの姿を確かめられた。開発の準備期間は三年、現物化の許可にこぎつけて二年、計五年の歳月を注ぎ込んだ商品がまさに今人の手に、いいや腕に渡って、もうそれは満足といってもいい。商業目的とはいえ、開発者の根本は純粋に未知の領域に思えた私の突飛な発想の具現化、それだけが望み。ブルー・ウィステリアという世界規模の看板はそのためにこちらが利用しているようなものだ、会社自体への貢献度によって報酬の増減があろうとも、私は金銭を天秤に掛ける、ほとんどの開発者には当…
昼下がりの市内、テイクアウトのランチを片手に男はコーヒースタンドのちょうど切れた列の最後尾に並んだ。洋風建築を思わせる飲食店の行列に並んだ時はそちらもずらりと人が並んでいたのだった。目の錯覚に思えたが、よく考えれば、コーヒーの出来上がりは数分程度、対してランチのテイクアウトは注文を受け取り、品物を運び、手渡し、料金を徴収するんだ、比べること自体が間違いというもの。 仕事は休み。週末が稼ぎ時なので、平日に休みが回る。 警察の質問に、答えた。男は思い返す。 当日の飛行が法律に抵触するとは思えない。私は飛行船のパイロットで、停電のあの日は飛行船のフライト予約が埋まらなかったので、飛行船は格納庫に納ま…
「ないとは言い切れないね」 「そうですか、それはそれは」次の仕事を彼女は探す。「先輩、先輩って」 「……なに?」 「休憩ですよ。それ私が代わります」 「うん、そうね。もう休憩の時間か、あっという間だ、びっくり。じゃあ、お先に休憩いただきます」 「店長、気に触ることでも言ったんじゃないんですか?」厨房を出る館山を見送って、小川がこっそりと僕に真相を確かめた。 「意見の変更は受け付ける、これはいったかな」 「店を離れる、これは結構堪えますよ、店長とは違うんですから」しんみりと小川が呟いた。国見の位置に彼女は陣取る。ステンレスの壁面を物悲し気に見つめる小ぶりな瞳、片目がみえた。 引き続き店が明日も存…
「安佐、あんた、どうしちゃったの。えらく優等生な答えじゃない」ホールから国見が言った。姿が見えないのは、カウンター席に座っているためだ。 「馬鹿にしてもらっちゃあ、こまりますんで。私は実はこう見えて、スマートに物事を考えられる才能に溢れているわけなのです、はい」 「溢れすぎて、こぼれちゃうから、普段のあなたは抜けているのね」国見が的確に矛盾点を強打する。 「騙されましたね。それは相手に油断させるためですよ。ようしようし、蘭さんもひっかかりましたね、くふふふふ」 「今日は何曜日?」国見が訊く。 「火曜日ですよ」 そがれた勢い、流れに水を差された小川は、会話の内容をすっかり脇に置き去る。 「あれれ…
「お店の改装を遅らせて、できればこの通りの空き店舗を探して移るのなら、お客さんの誘導だって可能です」作業とは裏腹に彼女の口調が勢いを帯びる。しかし、行動に反比例、首を傾けてサルサソースのガラス瓶を見つめる一定の角度は保たれている。 ドアが閉まって、小川の大げさため息が聞こえる。事実、大変だったのだろう。ただし、僕は感謝の弁は述べないつもり。当然のことであり、だけれど褒めて欲しいという提供側の労わりはあえて取り除くべきだ、そう店主は考える。気にかけているが、本筋はそこではないことを感じ取れてくれたら幸い。もしも、見過ごしこちらの配慮のなさに嫌気がし、窮状を訴えてこようものなら、時と場合、頻度によ…
彼女ならば、と店主の確証は割合で言えば、五割以下だろう。見守る、成長を促す、チャンスを与える、どれも店主の考えには当てはまらない。すべてはお客に還る。それこそが店の存在理由、と店主は考える。彼女たちが僕の仕事の意味を理解し、体現、料理を作り、提供し、お客に与え、お客は次に足を運ぶ流れを生むことが店の理想だ。 小川が店をバタバタ出入り、蒸し器に次の一団を送り込むと、出来上がった料理を持って店外に運ぶ。レジは外に作っていた。肌寒さを出来上がりの湯気でお客の待機時間を紛らわす作戦を取ったのだ。到着時刻どおりに姿を見せるバスよりも、次の駅を出た地下鉄のアナウンスの方が苛立ちと焦りを取り去ってくれる。 …
シンプルに手を加えたサツマイモの人気は予想をはるかに上回った。当初サツマイモの素揚げを作る予定を、今日の今さっき、変更を加えた。お客さんが食事場所まで戻る時間を想定したら、三十分の時間経過では味が極端に落ちてしまう。油を吸いきってしまし、酸化が早急に進行するだろう、想像が支配した。よって、薄いてんぷら粉を衣につけて、サツマイモのてんぷらはサツマイモまんと共に、サツマイモを生地に練りこむパスタのセットメニューとして形態を変えた。この程度の変更を従業員たちは毎日にさらされる。たぶん、彼女たちにとっては変化率の低い僕の要求と、感じているだろう。 調理台を覆い隠すステンレスのバット、濡れ布巾をひらりと…
「前を」 「ああ、ごめん。まったく僕に興味がないのは、うーん男としては悲しいね」 「すべての人にちやほやされたいのでしょうか?」種田は仕方なく話をあわせた。普段は確実に無言でやり過ごす、問いかけ。 「そう、言われると口ごもっちゃうな。どうかな、ああんと、やっぱり好みのタイプに言い寄られて欲しいよね、心理としてはそうでしょう?」 「では、大勢の好みのタイプに言い寄られるのは?」 「うっ、なんだか僕の意見を踏み潰そうとしてない?」 「しています」 「はっきりと、まあ」車列の先頭から徐々に停止の波が打ち寄せる、車がひとつ前の車両の数十センチ後方へ速度を落とす。「だけど、大勢の中から選別するのって、い…
日井田美弥都の指摘は主に二点。身元不明の死体と死亡当夜の現場の状況は何らかの意図を含む。もう一点は、私たちのアプローチが捜査の手詰まりの要因である。 また、頼ってしまった。種田は顔をしかめる。まったく、情けない。一般市民を頼る警察に信頼などを置けるものか。仕方ないと言い訳を立てたのは、しかし私自身だ。種田は、何気ない視線をフロントガラスの向こうで煙草を吸う鈴木を見つめる。彼は雨よけに張り出した庇の裏側を覗く、鳥の巣が見えた。ツバメの巣のようだ。 鈴木が車に戻る。 「手紙に隠された暗号とやらは見つけられた?」エンジンをかけて鈴木がきいた。お尻に入れた財布を取り出す動作で、助手席側に顔が迫る。が、…
ええ、そうですね、そろそろ時間が気になるのでしょう、約一分で、それでは事件の説明に移りましょう。ああ、ただし、いっておきますが、あくまでこれは予測であり、不確かな要素がたぶんに含まれた想像であることを、お忘れなく。はい、急いでますか、ええ、私もあなたたちとのおしゃべりで大幅な作業の遅れが発生してます。明らかに喫茶店の店員の業務を逸脱している、と訴えることも可能でしょう。そうですね、黙っている方が利口ですよ。私に喋るな、とは口が裂けても言えません、本当に黙りますし、それが私の標準の機能ともいえますので。さて、事件についてはどこから話しましょうか。端的に、ですね。まず、死体の移送が警察によって迅速…
美弥都が発した言葉は息継ぎを忘れる。とめどなく、制限時間を設けなければ、永久に彼女の透明な声を聞いていられただろう。コーヒー豆の容器が並ぶ背後の棚に置いてあったタイマーつきの時計が、午後一時を知らせる合図を奏でたので、事件の回答はそこで途切れた。 種田は出力した文面を車内で読みふける、現場に向う海道沿いのコンビニの駐車場に現在、車を止めていた。 文面は以下のようであった。 「お互いに面倒なことに巻き込まれましたね。あまり、警察の方々への協力は控えるよう、忠告をしておきます。一度や二度が、三度四度と回を重ねるのが、この方たちの手法ですから。事件についての、見解でした。はい、応えますよ。時間は平等…
「そちらの刑事さんが、理解されてると思います」美弥都が送った茶色の瞳を種田はがっしりと受け止め、弾き返してやろうと願ったつもりが、すぐにそらされてしまった。読まれていたか……まったく、抜け目がない。 「まず、私の本意でここへ、あなたを目的に、話を窺いに、わざわざやってきたのではありません、という弁解が必要です」鈴木は種田を睨みつけた、黙っていろ、彼は口を塞ぐジェスチャー。 「あの、こいつじゃなかった、種田のことは気にしないでください。僕が事件についてのレクチャーを受けに来た張本人ですから」とん、と鈴木の胸が叩かれた。折れそうなほどの厚み。内部に響くどころか、破壊の不安を煽ってしまう。 「何度目…