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「私という付き合う恋人がいながら、他の人と付き合う。これは私にとってありえない、異常性の高い、目にあまる、耐えがたい光景だわ。認識はそれぞれ違って当然、あなたには私がそう見えた、私にはあなたがこう見えてる」 「……いつから?」 「いつ?はじめからよ」 「作戦は無駄に終わったってことか、手間暇かけたわりに得られたもは少ないかもって今更ながらに思っただろうね」 「私のすべてよ、あなたは」 「僕は一人の人に固執しない、いいや無理なんだ。病気だよ」 「私を見られるの、その目で、それとも、ねえ、見放す?」 「……難しいね。講師の職を捨てて、店を開く。ほら、そこのビルの一階に店を構える。従業員を二人、忙し…
もう一名のお客の性別は男だと判明した、店主の真後ろ、背もたれを挟む体温と低音の声が感じ取れる。盲目の女性の大立ち回りに応えた声が室内に散らばった無秩序をかろうじて取り集めた。レッテルが貼られた、あるいは名詞が冠された、とでも言おうか、男との対話以降は、そわそわと席を立たずとも、音量、声量は会話という括りに昇華した。 新しいコーヒーが運ばれる、ウエイトレスはまたもや中腰、よっぽど盲目の女性が異質に思えたんだろう。それか、以前に横暴な振る舞いのお客に出くわした。 水筒を受け取りに来た、彼女に手渡す。 大よその退出時間を聞かれた、最高の状態、つまり淹れたてに近い状態で保温を開始したい店側の配慮はもっ…
「発見時間のずれ、それからうーん、被害者の身元の発覚、それから、あなた方の到着と捜査の開始はおよそ、想定の範囲に収まったでしょう。店側に息のかかった人物が死体を発見、身元はいずれ発覚するように関係各所の微調整と連絡をつけた。進展状況などは小出しにする捜査資料や情報で行動をコントロールするのは容易い。仮に、お二人が予見された行動を逸脱しても、事件の核心には粉骨砕身、働いても到達は無理だった、ということがいえる」 「あなたも憶測で話すのですね」種田はいう。 「コーヒーの作り方と何が関係してるんだろう……」思い悩んでいるみたいに加熱ぶりに忙しい種田と対照的におっとりとした口調で鈴木が呟いた。 「まだ…
鈴木は店員を解放する。 「違うとは言い難い、ようです」鈴木は苦笑いを浮かべた。「うーんなんとも要領を得ないというか、豆によっても抽出ですか、お湯を注ぐ温度や湯量も異なって、機械を使った場合、あっと、わっとなんだったか、ハンドドリップだとかなりその工程に差は生まれるけれどもです、あのような作り方は大よそ理に適った作り方だろう、とのことでした、はい」ふう、と鈴木は灰皿に置いた煙草を手にとって吸い込んだ。 足並みが不ぞろい、種田が単独で話を引き戻した。「S市警察が組織の利害関係に帰属した事実の閉口、とあなたの見解ですが、事前に発言を禁じる、これがS市警察の妥当な応対ではないのでしょうか」 「S市警察…
作り方か、……より具体的に示したということか、うんうん。 「納得されたようなので、その考えを音声に変換しなさい」 「種田、おまえ、馬鹿っ、誰にでも通用すると思ったら大間違えだぞ」 「構いませんよ。意図的にこちらの感情を逆なでする、目的が明らかであると、何気ない無知な言葉遣いほど、汚らしさは感じない」この一本でどうか解放されますように、店主は二本目の指に挟む煙草に願いを込めた。短冊に自らの願いを、サンタクロースにプレゼントを誕生日に記念日に年中行事に占いに神に仏に、願ってばかりの人と比べても遜色なく僕の数十年に一度の願いは成就されてしかるべき。「いいでしょう。話しますよ」 「どうぞ」 「おい種田…
「質問を変えます。あの女の発言を紙にまとめた内容が一部不可解に思えて、理解に及びません」 「それを私に応えろと?」店主はいう。 「先ほどの質問は回答を拒否されたので」 「日常会話でも相手のプライバシーや当人が気に留める内容に触れた場合、黙秘を貫く権利は社会に残される、わずかならが信じてましたけれど、もう個人の領域は取れ払われたのですか?世知辛い世の中ですね」僕は二人を見た、そして煙草の灰を灰皿に落とす。 「市民は……」種田の発言を店主は奪った。 「市民は、警察に協力体制を惜しまない、それが日本国民の使命である」店主は肩を竦めてみせた。 「理解しているのならば、質問の回答をお聞かせ願いたい」 「…
「おそらく事件の公表は正当に情報開示が行われた。しかし、それと今回の集団卒倒を結びつける材料が極めて少ないのです」 「と、いいますと?」灰皿を叩いて、リズムを取った。僕は煙を吸い込む。 「ブルー・ウィステリアの番地ですよ」鈴木が言う。「明治の終わりから昭和の初期にかけて建造された建物は当時、番地という細かい区分けがなかったので、その時代につけられた番地がそのまま建物を示しているのです。建物を買い取った代々の企業が大手の有名どころで占められていたことも加味したんでしょうね、郵便物の配達があて先不明で送り返されずに、目立つ建物に届いた。<S市中央区3>、住所はここで終わります」 「新聞等のニュース…
「その方に家族は?」 「ええ、妻と娘がいます。被害届けは……、はい、提出されてませんね。会社側が異常事態だと奥さんに告げても、取り合ってもらえなかったということです。なんでも、以前から外泊が多くて、家に帰ることは少なかったと。仕事の煩雑期は自宅に帰る時間を惜しんで、ホテルや支店の二階に泊まり込んでいた様子です」 「何者が私たちを誘導すると、言うのでしょうか、納得のいく説明が聞きたい」種田は半眼で睨みつける、肉を狙う獰猛な猫科の肉食獣にみえた。性別の関与だったら面白い、それは対抗心と名前がつく。 店主は斜め上を見つめた。 覚えてる記憶では、被害者と店の支店長は同一人物であると噂した喫茶店内の会話…
「伝えたときは事実でありました」 「なんら落ち度はなかった、そうおっしゃりたい?」 「いいえ、初めて飛行船協会を訪れた際に飛田の正体を見破れるでしょうか?」 「尋ねたのは私です」 不穏な空気を察して鈴木がフォロー。「正直、事件の翌日に飛行船協会の所在が浮かび上がったのはサイト上に蔓延した目撃情報が元です。現場周辺の聞き込みが禁じられて、僕らの打つ手が、停電と飛行船ぐらいだった。停電は電力会社をS市警察が調べるでしょうから、死亡時刻前後の屋上を望める位置は、周辺のビルか、上空しかなかった」 「なるほど、かろうじて理由は成り立ちますかね」 「店長さんの納得はこの際取っ払って、あの、我々の質問に明確…
「私が吸います」店主が言った。種田を見つめる、この程度の譲歩は受け入れて欲しい、そう目に意思を込めた。 ブラインドが下げられる。ウエイトレスが気を利かせたらしいが、僕はすぐに体をねじって、外が見える程度にブラインドの羽を調節してもらう。 体に縞模様が浮かんだ。 煙草を吸うつもりはなかった。立場の優位性を嫌ったのだ、ここは喫茶店で、相手は刑事、とはいえ僕の店ではない。よって、対等に接するための足場を作った、といえるか。自らの行動を振り返り、言葉に意味をつける店主。 僕が吸い、鈴木が後を追う。種田はコーヒーを口に運んだ、カップの接触面積、その滞在時間は極端に少ない。猫舌だろうか、店主は何の気なしに…
「店長さんが、その、なんといいますか」挨拶以後、種田との会話を見守る鈴木が言った。「集団卒倒の原因と、S市警察が疑いをかけてまして……」 「もう、屋上の死体の身元、犯人は捕まったのでしょうか?」店主は話題を変える、鈴木たちの質問に答える価値を見出せない、正面切った否定は種田という女性刑事の神経を逆なでするし、やんわりとした拒否は鈴木の余計な気遣いが始まる、聞いてはいるが返答を避ける、そのポーズで汲み取ってもらおう、僕は目を細めて視線を外に流した。 「私は集団卒倒の事情聴取に窺った、その点をお忘れなく」凄みを利かせた種田の目線だった。一度合わせて離す。 「ええ」 並べられたコーヒーを三人が各自の…
幸い、開店間もない時間が功を奏したのかどうかは、正しい状況説明とはいえないけれど、ウエイトレスの特段に興味を湛えた視線、彼女の一人分の関心が留まったのだから、上出来だろう。正午過ぎのかきいれどきだったならば、目も当てられない、それこそこの端末の使用をやめるよう指摘を受けたかもしれないのだ。 一分も経っていない。店のドアが開く。窓際の奥の席、ドアを入って、左側に僕が見えただろう。他のお客の出入りに気分が損なわれない、そのために入り口に背を向けて座っている。 「失礼します」 「どうも、朝から押しかけてしまって」二人の刑事は特徴的な表情をそれぞれ浮かべ、席に着いた。鈴木が手を上げて、コーヒーを注文し…
見計らったと勘ぐるほどに席に着くと端末が震えた。慣れていないと飛び起きそう、心の準備が必要なぐらいだった、……通話後に設定を変えなくては。 「はい」電話の応答とウエイトレスの注文が重なる、メニューを指差して、一人にさせてもらった。僕は腕輪に呼びかる。 「おはようございます」 「ご用件は?」予定の時刻はそろそろであった。ただ、搬入口に面した店主が見下ろすとおりにトラックの姿は未確認。 「実は、厨房機器のメーカーが別の注文先に間違って配送したらしくて、二十分から三十分、そうですねえ、予定が遅れるかもわかりません」電話の相手は商業ビル改装のサンダーストーム代表の宇木林である。無駄にジェントルな声だ。…
僕の店を通り過ぎる。深夜から作業が行われ、日中は音の出る作業を控えて取り掛かるらしい、近隣店舗の兼ね合いがこうした密集区域では至上命題とも言えるし、これを怠ればギスギスした関係性が生まれ、大事に発展しかねない、とまあ、後半は最悪の事態、考えすぎたきらいはあるけれど、現実に起こった場面は過去に見てきた店主である、なので、リスクは事前に回避可能ならば、手を打つべきだろうと、桂木に話しあい、事前に左右、正面、斜向かいに手土産を持って挨拶を繰り出したのが、先週での土曜だった。出店の挨拶を省いたときとは事情が異なるのだから、その辺は僕も大人になったといえるだろうか。かなり遅い大人への第一歩である。 コー…
「ええ、今日からです。うるさいでしょうけれど、大目に見てください」 「いいえ、僕は後からやってきた新入りですので、意見なんて言えた立場ではありませんから、はい」樽前は気後れしたようで、数秒虚空を見つめるように、僕を視線を合わせた。背後で音声が鳴る。前のお客のコーヒーが出来上がったようだ、提供に応じた彼なりの選別方法があるようだ、天板のメニュー表にコーヒーの量と飲み干す大よその時間区分で勧めるコーヒーの種類が異なるらしい、店主はふんふんと首を縦に動かす。 「うちは量によって焙煎の種類を予め選んであります」興味深げに僕の動作が見えたらしい、前のお客にカップを手渡すと、樽前は説明を始めた。「特殊な豆…
店の斜向かい、テイクアウトの行列に店主は並んだ。前を通りかかったときは、ちょうど店のオーナー、樽前は背を向けていたので、こちらの存在には気がついていなかった。列は十人、いいや九人が並ぶ。朝方の六時過ぎ。こんな時間から働く人はいるものだ、そういう自分も早朝労働者の一員ではあるが、今日は気楽な身分、移転先のビルの完成具合を確かめに早々と家を出た。いつもの癖で目が覚めた、これが理由だった。とにかく、することがなかったのだ。料理を思いつくにも、提供の場があって、観測と翌日の課題・展開が生まれる。空想で作っても仕方がない。だったら自宅で作れば、そういった意見には、自宅は休息の場であり、仕事は仕事場で完遂…
しかし、地上に上がったはいいものの、店に入れるわけではないのだ。 昨日の日曜から耐震工事がとうとう、というか移転が決まるや否や、移転先の内装が決まったのが先々週の始め、路上で倒れた通行人の介抱に当った二日後で、その翌日には今日の日程が組まれたスケジュールを不動産屋の桂木が無理を承知で頼み込んだのだ。しかも、工事を請け負う業者にはスケジュールの日程を既に伝えてあるというのだから、これまた従業員、特にホール係兼経理担当の国見蘭の霹靂が落ちたことは記憶に新しい。ただ、そこは桂木の思惑に流され、僕は営業停止期間の売り上げ分は移転先の諸経費に回すことを提案した。その場での回答は見送られたが、後日数日後に…
S市の中央区仲通りで起きた集団卒倒は、通信端末ブルー・ウィステリアの新製品が要因と特定された。体調不良を訴える患者は全国で八百万人を超え、発症予備軍は更に三百万人との推定が経済省の調べで発覚した。現行は製品の使用中止を訴え、先週までに耳鳴り、めまい、気絶等の発症者数は減少傾向にあり、今後も注意を呼びかけていく、とブルー・ウィステリア会長は会見で語った。<現地時間午後八時十二分> 画面が切り替わった、台風の被害報告と再上陸の情報は見る価値もない。必要であればこちらから積極的に取得するのだ、店主は地下鉄の改札脇から足を踏み出した。数分ほど、いつもより滞在時間が長い。天気予報を見るつもりが、拡大鏡を…
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「はい」 「無事だったようね」数時間ぶりの再会?会ってないのだから、再会話とでも言おう。 「ええ、手荒なまねを受けました。あなたが出してくれたのですね」 「そういうことにしておいて。あまり電話では喋れないの」盗聴を警戒した発言、彼女の敵とは何者だろうか、僕は当てもなくアンテナを四方に向けた。 「飛行船場で何が起きたのかをこれから確かめます」 「お勧めはしない。いずれ知れることですし、あなたが足を運ぶ訪問先にあなたを見つけるや否や拘束に駆り立てる機能がインプットされた連中がひしめいてるわ。悪いことは言わない、自宅で静かに暮らしていて」 「あの家はいつまで借りられます?」 「気に入った?」 「地下…
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何のことだろう、従業員といえば、舞先しかいない。しかし、彼女は雇われた身分、要するに電話口で別れを告げた女性が派遣したこちらの内情を知る人物。いわれのない罪が降りかかろうとしている、けれど妙に達観した観測は続くらしい。だって、彼女の忠告と彼らの訪問した理由は違うのだから。笑いが増幅。 「なにがおかしい?」捜査員は言う。 「根拠、あるいはそれなりの証拠があって、拘束とプライバシーの侵害に踏み切ったのでしょうね、刑事さん」 「証拠は作り上げる。するとお前は罪を償い、拘束と侵害は合法の元に引き波に返され、大海原に飲み込まれる」 「詩人ですね」 「弁護士を雇っても状況は覆らない。決定的な証拠がここから…
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「じゃあ、ホットドックを用意してください。安っぽくて、妙に固く、しかし食べ応えと飽きのこない味のやつを」 「研究者って味覚の鋭敏さを嫌う人が多いのね、どうしてかしら、おいしさは思考過程で除外されるんだろうか……」彼女は電話口で考え込む、悠長に唸っている芝居が、たまらなく可笑しい。この非常時に僕は笑いをこらえる、そのことも笑みを増幅させるのだからしかたないではないか。 息を整えて、通告。「約束ですから、守ってくださいよ、ギブアンドテイクです」 「エネルギー保存の法則ね。覚えておくわ」 がちゃりと通話が切れる。僕は口元を緩めた、にやけるおかしな奴、という認識で見られるだろう。他人の視線を気にする、…
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「洗いざらい僕の身辺は洗ったんじゃないのですか?」 「そのつもりだけど」ポーンとエレベーターの着地音が受話器の彼女の背後に聞こえた、ビジョンが鮮明に浮かび上がる。やはりホテルにいるらしい。 「逃げるべきですかね」 ドアがノック。二回、叩かれた。この位置からドアは死角になる、ベッドの足元に移って短い廊下の先がドアだ。 「来ました」 「あれ、もう?思ったより早かったわね」 「アドバイスがあれが聞いておきますよ」 「なあに、危険を感じて肝が据わったの。ふうん、案外度胸は備わってるんだ」 「忠告でもこの際構いませんよ」落ち着いてる自分を一歩引いて僕は更に客観的に見つめる。緊張のピークに訪れる、稀有な現…
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「はい」 「あら、ごめんなさい。いい気分で眠っていた?」女性の声だ、低音で声に香水が含まれてるみたいに、艶やかだった。 「眠ってはいない。まだ、午前中ですよ」 「そうね。それにしても、チェックインの時間早々に部屋に篭ったっきり出てこないつもり?あなた、自分が置かれた状況がわかっているのかしら、……緩慢ね」棘のある言い方、節回し。だが、私には危険を伝える、という警告のみが内部に届く。表面的な言葉の使い方、その違いや正当性さえ、多くの人物が使用してまとめ上げた規定の元に成り立っているのは、つまり何者かが言葉の選択を担い、広めて、現在の使用を牛耳ってこれまで生きてきた。だったら、相手がいかにも低俗な…
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選択肢はあまるほどに、手に持ちきれないほど、こぼれんばかりに、否、残されたものたちは私の無意識の選択によって予備予選なるものを通過してるんだ。仕方ない、無意識の仕業、これまでの私を形作る、いわば戦友だ。無下に扱っては罰が当る。そうだろうか?問い返す、男はベッドに寝転んだ。禁煙室を選んだが、かすかな煙草の残り香が鼻をつく。安さが売りの人気のホテル。 これまでの私をしかし、捨て去るべきが肝要だろうな。要、肝、似た言葉を並べた造り言葉。こうして言葉を強める。誰かが言い始めたんだろうな、私は薄ぼんやり、目を半眼に、天井のクロス、植物の模様、蔓を目で追い、左手でなぞった。そうだ、使い始めは世の中で自分の…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-1
もう駄目かもしれない、私の開発人生は幕を閉じようとしてる、今後の生活?ここが最到達点だ、これより下に下りたい、と誰が心底願えるのか、興味深い研究対象ではある。だが、私はせまり来る魔の手に抗う術を見出さなければ。 ホテルの一室、最上階のスイートに泊まる資金は潤沢に、余りあるが、寝室は適度に手狭な方に軍配がいつも上がる。しかも、老朽化が目立つホテルにいたっては古いという印象を越えたのちの新鮮さは何物にも変えがたく、それはデザインは不変である、これを如実に示している、といえよう。とにかく、小ぢんまり、収まりがいい室内が快適である、男は手荷物を隣に乗せたまま、ベッドでかれこれ二十分を過ごす。何をするで…
『機動新世紀GUNDAM X』の主人公はMSの操縦がうまいことを除けばどこにでもいそうな少年だ。作風も戦争では…
『機動新世紀GUNDAM X』の主人公はMSの操縦がうまいことを除けばどこにでもいそうな少年だ。作風も戦争ではなく、各個人の因縁による小競り合いという、規模の狭い物語ではあるが登場するMS群はかなり異色で強力な機体が多い中、主人公の乗るDXはそのもっともたるもので圧倒的な火力を誇る。ただし、条件がそろわないと使用できないという乱用できないような設定になっている。 MGとして模型化されたものは少なく、今のところ主人公機体のX、DXとXの三号機しかない。今回はその中のDXを紹介しよう。 Beam rifle、Beam saber、盾、差し替えの手。Saberは他のMGのただまっすぐに伸びたものでは…
名作に使われる背景音楽、それもまたまさに名曲と言って違わない
MG Wing Gundam Zero Ver.Kaを作成しているときにふと、気が付いたのは宇宙世紀作品のBGMや歌曲集 機動戦士Gundam、Z、ZZ、ν、U.C.、F91の通常BGMと交響曲を所持しているのにVを持っていないことに気が付いた。現在でも通常の価格で流通していたので迷いなく即購入した。 買ってから知ったことなのだが、VのBGMの作曲家は幅広い分野、『日曜美術館』等の一般教養番組や娯楽番組、映画から J-Animation、Video gameまで手掛けている千住明だった。 実際に聞いてみると他のGundam作品の音の広がりや曲調が明らかに違うのを感じられるがGundamの作中に…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-8
まだ店は営業を続ける、装着は閉店まで控える、通話は証明されたし、これ以上の機能が必要に思えない、必要かもしれないし、便利で生活を豊かに、一日の時間に余裕が姿を見せるのかも、ただ、現在の生活には不必要だろう。使ってもいないのに断定するべきではない、いくつか忌憚のない意見が聞こえそうだ。取り合わずにいよう。それが理想。 平茸、マッシュルームをふんだんに盛り込んだオムライスがランチの主役。 ご飯の味付けは何が最適だろうか。 切り替え。 きのこと合うのはデミグラス、醤油ベースも悪くない、ケチャップはありきたりだ。出汁をふんだんにとったかえしなんてのも乙。 腕輪の決め手はなんだったのか、店主はふと、レジ…
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「あっと、かかってきましたよう」手元の端末が青く、いいや紫に点滅、鳴動を繰り返す。初期設定ではこうした音声がデフォルトに設定されるのか、いいかげんに無音を通常の仕様に変更できないものだろうか、店主は色合いを濃い紫に断定した。離れれみると青く、近づけば紫。 「もしもし」重なる館山の低音が耳に届いた、狭い空間で声が反響したみたい。小川が館山と端末を挟んで耳を寄せた。 「おー、聞こえます、聞こえます。感度良好、こちら安佐です。どうも、どうぞ、どうか、どうして。本日は晴天なり。トウデイ、イズ、ア、ファイン、デイズ」 「馬鹿。運動会じゃないんだぞ、それも町内会の」館山が回線を切る。プープープー、と回線音…
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「そんなことありませんって、ご冗談を、なにをいって、ああ、リルカさーん、ちょっと端末に電話掛けてくださいな」 「大丈夫なの?私、機械と苦手だから、正直わかんないのよね。爆発、しないでしょうね」館山は顔をしかめた。 「いいですか?二人とも弱腰でこの世界の進化についてこれると思ってます。何事も体験とチャレンジです、うん」 「どちらも同じ意味だよ」 「まあ、そういった意見もありますけど、スピーカーを通じた健康被害は、サイトを調べた限り掲載の報告は見当たりません。ですから、一度試して見ましょうよ」 「あのさ」店主は二人に素朴な疑問を投げかけた。端末という言葉を聞いたあたりにひっかかることである。「機種…
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「安佐、ちょっと調べて」 小川安佐が端末を取り出して、声を上げるまで、店主は背後の冷蔵庫を開ける、食材を確かめ、ランチに使えそうな組み合わせを飛び跳ねるような視線、身軽なステップで次から次へ野菜、肉、魚、茸、フルーツ、乾物をめぐった。缶詰もである。手元に夢中な小川をよけて隣の倉庫で回収。 「ひょええー」小川が驚愕する。厨房に戻って、数分後の喚起である。「先輩、回収です、回収。人体に不具合が生じたって。三半規管に影響が予見され、早急に使用者は端末の利用を止めるように、とのことです。被害報告が全国で六百万人って、かああ、私たちが無理して買ったのに、なんとも世界はいつも私の敵だああ」 「店長、私たち…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-4
「いいでしょう、ほら、なかなかの商品だとは思いませんか、気に入ったって顔に書いてありますもん」まるで自分が生み出したみたいに小川は言う。「改装に着手したら店の電話が使えなくなります、店長はいつも店にいてこそ、居場所と連絡が取れた。よって、今後は店長とは連絡が取れない場面が増えてしまう。バッテリー残量の乏しい端末を使われては、私たちも移転先のビル関係者も店長の所在を探す手間に追われます。ですので、これは必ず、肌身、離さず携帯してください。私たち三人からのお願いです」 「うーん、プレゼントは有難いけれど、居場所を逐一知られるのは不本意だね」左側に立つ小川に僕は不平を率直に述べた。 「ほら、だからい…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-3
「あ、うん」 「何をもじもじっしてんですか、いつものこう、勇ましさはどこへしまったのやら」小川は呆れる。そして颯爽とコーヒー容器を片手にロッカーへ小走りに消えた。誕生日ではない、とっくに過ぎたし、彼女たち従業員には公表してもいない。記念になるような出来事がここ数日に、これからの数日に出会うのだろうか、店主は考える。 「はいっ」背後、小川が緑の箱を突きつけた。片手で持ち運べる、軽そうである。 「……意味もなく、プレゼントは受け取れないよ」 「馬鹿なことを言わないで、とにもかくにもあけてくださいよ」小川がはやし立てる、そして館山は、軽く頷く。左右を従業員に挟まれた、逃げ場はなし。日常と反転した態度…
『新機動戦記Gundam W』の劇場版Endress waltzに登場するヒイロ・ユイの搭乗機、Wing Gundam ZeroはTV版のProto Zeroと大分違うように見受けられる。そのもっともたる部分が飛行の為の翼だ。 Zero EW版はまるで天使を思わせるような二対、四翼で、映像内表現では人工物であるはずなのにOver technology過ぎる生物、鳥の羽が散るような、とんでもない演出もしていた。 MGとしては一度、模型化されていたが、カトキハジメ氏により新規模型化されたWing Gundam Zero Ver.Kaを紹介する。 塗装前の素組の時の写真。塗装前の写真を収めたのは初め…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-2
ロッカーの上に見慣れない箱が置かれていた。プレゼントの外装、緑色と光沢のある水玉が二十センチ四方の箱を包む。リボンは赤。店主は眺めるのみに行動を留める、僕のロッカーの真上に置かれた、すなわち自分へのプレゼントと捉えるのは時期尚早、甚だ短絡的な思考といわざるを得ない。放置しておいた。それよりもランチが店主の脳内を席巻、焦ってはいない、それどこから気分は高揚、舞い上がる。どれにしようか、何を作ろうか、討論に勤しむ脳内の小人たちは各自の意見をぶつけ合う。 「店長、手ぶらですか?」小川安佐がコーヒーを手に、出入り口のドアを引き開ける、すっと風が舞い込んだ。彼女の指摘から推察するに、先ほど見かけた箱は僕…
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翌日。交差点に倒れ込む騒動がS市中心部で発生した約十六時間後。店主はブルゾンに手を忍ばせて出勤する、考え事に耽り、歩いていたので、出窓を通じた厨房内の様子は視界に入らず、つま先の茶色い染みはいつついた汚れであるかに意識を集約させていた。 店を通り過ぎるギリギリに足を止めた。ドアノブに手を掛ける間際、異状さを感知して、動きを止めた。ドアの雰囲気が異なっていた。お客と従業員が帰った静謐な室内とは趣にズレが生じてる、僕の勘が働いた。案の定、ドアの鍵は開いていた。 「おはよう、早いね」 「おはようございます」館山リルカが厨房から出迎える、屈んでいた長身がぐぐっと真上に伸びた。 「まだ六時過ぎだけど、時…
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「男女の関係に年齢など無関係。女性が上の年齢であるならば、世間で散見されるのは一部でしょう。だから、どうこうということではありません、データが少ない、または表層に見られる場面が少ないかもしれないだけ、ということもたぶんにありえます」 「……フォローですか?残念、ながら、そんなロマンチックな関係じゃ、ないですから」 種田は病室を出た。 彼女の発言は嘘には思えない。丁寧に緊急時だから取り繕う心理が働いたとも思えたが、縛りつけ、自分を煙にまみれに、命すら奪いかねない状況に陥れた非常事態と飛田への思慕を天秤に掛けられるものだろうか。 雨、しゃわしゃわと囁くような霧雨。喫煙席に医者の姿はない。ロータリー…
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こちらの問いかけのまもなく、電話は料理番組の映像のように文字情報のみが流れて、通話が強制的に切られた。 なんだったのだろうか、コーヒーの説明をわざわざ彼女が私に教えるとは、事件の解決が絡んでいるのか、それとも迷いを生じさせるつもりだろうか。 「あっ、ここにいた。刑事さん、どうぞ、意識が回復しました。こちらです」マスクを填めた看護師に呼ばれた。種田は立ち上がり、端末の電源を切った。ポケットにしまう。病院に向う途中で舞先の意識は途切れていた、呼吸は確認できていたが、それ以上の生命維持に関わる状態の判断を持ち合わせてはいない私であったため、回復の時間は多少なりとも長時間、あるいは数日単位を予測してい…
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「洋食屋の店主さん、その方の助言の一つを完遂したまでで、訪問先の予定をまだあなた方は取り残しています。ただし、前回の助言によって鮮明な事実が公表されましたが、どうやらお気づきではないらしい。それを私の口からは言うのは遠慮させていただきます。これ以上の助言は、権利を逸脱、あなたの敵意を真っ向から受けたくはありませんので。しいてあげるなら、火災に見せかけたその女性の発見というのは、いささか綱渡りに思えますね。ええ、危険を承知で仕掛けた、という意味です。あまりその、計画性は感じられない。とっさの対処の追われた苦肉の策、といえるでしょうか。時間稼ぎです。飛行船協会は会長さんの行方を当然追っておられるの…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-7
いつもながらに目ざとく私の神経を逆なでする奴つだ。いいか、抑える、抑えろ。吐き出してはならない。冷静になれよ。種田は言い聞かせる。部外者のあいつに話を聞く、この行動すらも私は考えられないほど、そう蕁麻疹が出てもおかしくはない忌み嫌う最悪の問いかけなのだ。まったく。自分を呪うぞ。上司との関係も詮索の対象に置かれている、あるまじき行為。これは単なるあこがれ、立場への羨望、アドレーションに過ぎない。捜査権限が拡充された上司にいつかなりたいのさ、種田は余分に言い聞かせた。それにだ。結局は事件の解決が優先されるべきだ。私は二の次に回すべきである、警察としての職務が何よりも、生活や思想の侵害にかけても、一…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-6
「O署の種田です」 一拍の間。電話の主は数秒で理解に及ぶ。 「店の電話を使ったの?それとも転送電話かしら?」 「なぜ後者だと?」種田は聞き返し、ベンチに座り直す。 「なぜ?可能性の問題です。各自が端末を所持する時代にたとえ店の電話であろうと、簡単に使用を申し出ることははばかられます。常連であるならば、一縷の可能性があるでしょうが、あなたには私の番号を知る由はありませんし、常連とは呼び難い。しかも、どこへ掛けるのか、電話を借りたのですから店長があなたに質問をしたでしょう、そこで私への通話を許可したとはおもえません。よって、私の端末番号を設定してもらい、転送を試みた」 「電話番号は記憶してます、以…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-5
言われたように外に出た。入ってきたときには目に入らなかった情報、記憶を彼女は振り返り、照合した。脳内の容量を圧縮するための取り組みである、こうすることで不確かな映像が処理され、まとまる。思い出し易く、引き出しも楽に行えるのだ。 ロータリーは坂道に作られた形状で病院の敷地内に立ち入ると傾斜がきつい。視界の詳細な観測を挙げると、正面に病棟がそびえる。縦長というより低層マンション程度の高さに横幅が加わった感じだろうか、外壁は茶色であった。正面の建物、それから私が今出てきた建物も複数の棟の分かれる、左右に続く日よけを越えて、背後を眺めた。不ぞろいなてっぺん、予想は確かだった。日よけ、庇の下に移り、種田…
ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-4
「人が倒れてる。今からゲートの外に運ぶ。こっちに来て、手伝って」 「登れませんよー、私にはゲートが高すぎます」 「くそっ、まったく」種田は、事務所に走った 鍵穴が塞がれていた、煙でよく見えなかったらしい。即座にドアを蹴破ろうとするも、弾かれた。びくともしない。切り替える。手近な石を窓に投げた。鍵を外側から開ける。飛び散ったガラスをなかに、袖を摘んでおとす。腕の力のみで、まずは肩と肘をサッシに置く、出っ張りに痛みを感じる余裕はない、もう片方の腕を室内に、格子に指先を引っ掛けて体を持ち上げる、同時に滑る壁をつま先で押し、上半身滑り込ませたら、そのまま体を一回転。軽快に足から先に着いた。 壁にかかる…
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人を椅子ごと持ち上げた、煙の影響が少ない場所まで種田は引き戻る。パイプ椅子と椅子に座る人物が華奢な女性であった。これはのちに気がついたことである。この時点ではまったく意識に上げていない項目。 「大丈夫ですか!もしもし、聞こえますか!」顔に被された頭巾を取る。視界がかすむほどの煙幕に数分はいたのだ、多少の煙は吸い込んでいる。後ろに縛られた紐も解く、両足も足首で縛られていた。結び目は簡単に解けた。 女性の体を地面に寝かせる、肩を揺すって、叩く。呼びかけに応じない。くそっ。 この人物は北海道飛行船協会の事務員で舞先と名乗った女性だ。しかし、誰が煙を焚いて殺害を企てたのか、種田は端末を取り出す。救急車…
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白んできた、視界が白煙に奪われて、一メートル先の見通しが利かない状態である。窓を覗くが、カーテンが閉待って中の様子は見えない。ドアも施錠されている、そこで、種田な冷静に事態を把握した。 建物から煙は排出されていない、入り口ドアの裏側に発信源か……。 種田は、そっと足を殺して、プレハブの壁に張り付く。 ゆっくり死角を覗いた。もちろん視界は煙が覆う、足元を注視。今度は地面に這い蹲る、草がちくちくと痛い。建物の周囲は手入れが行き届いていたようだ、ゲートと事務所の獣道の両脇とは草の背丈が異なる。気分転換か、それとも単なる気まぐれ、気の迷いか、はたまた秋めいた時節に購入したての機材の使用はそろそろ不要で…
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S駅に向うタクシーを捕まえて、乗車。 北海道飛行船協会の事務所を運転手に告げるが、伝わらない。 ドライバーはかなりの高齢だった。ナビに打ち込む住所を教えた。 前かがみの体勢を動き出しに安堵を勝ち取り、やっとシートに背をつける。レースのカバーは数十年の歴史を感じる。 渋滞の箇所を離れると、車窓はびゅびゅんと本来の車の動きを取り戻す。 種田は瞼を下ろして、休息を取った。あまり眠れなかった、昨夜も寝付いたのは日が昇る少し前だ、開けた窓を通じた新聞配達のエンジンの加速と停止が聞こえていた。眠ったのはその後である。蒸し暑く、冬用の羽毛掛け布団も寝つきの悪さの要因であった、とにじり寄った疲労について考察を…
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「こっそり僕にだけ、教えてくれる、店長さんの譲歩なんて計らいは、はい、ありませんよね」鈴木は額を掴むようにこめかみを挟んだ。「かなり大胆な行動だったんですよう、現場の踏み込みだって……。背に腹は変えられないかあ、何とか希望を繋ぎましょう、上司の許可を取ります」鈴木は深く頷くと端末を耳に当てた。 僕はその場を離れる。彼の要求は満たした、現場を再度確認して見解も述べた。店に帰る権利を掲げる、立ち去る姿が何よりの主張となる。いちいち、許可の申請に待機を命じられるなど、役所で十分だ。 「どうもお手数掛けました。また、窺うかもしれません」端末のスピーカーを押さえた鈴木は呼び止めなかった、誘った後ろめたさ…
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「結局ですよ、ここで行われた、あくまで予測ですけど、殺害は事実であるとおっしゃるんですね?」 「当該店舗の関係者が殺害に関与、殺害を目撃したのである。だから、死体は屋上に運ばれた。そろそろ一週間が過ぎますかね、製品の出荷、販売に影響を及ぼす大打撃は避けられたが、未だに発表がありません、そうですね?」店主は世間の情報、流行に大変疎い。先週は移転騒動の混乱真っ只中であったため、たまに目にするお客が置いていく、新聞の見出しに送る数秒の視覚情報すら取り入れていなかったのだ。 「要するにです、ブルー・ウィステリアの関係者が殺害や殺害に関わる事態目撃してしまった。そして、スキャンダルを隠蔽するべく、屋上の…