メインカテゴリーを選択しなおす
言葉を尽くして伝えながら、強く思った。花が盛りを終えて散って、若葉が芽生えて生い茂り、花が咲いていたことすら忘れるまえに、やがてすべてが失われるまえに、小窪に想いを伝えられてよかった。ほんとうによかった。どきどきと速い脈を心臓に隠して、意識して口角を持ち上げる。気持ち悪かったらごめんな、と小窪に視線を合わせて笑ってみせると、まなざしは意外にも逸らされなかった。「榎並くん」生真面目な声で小窪が言った...
月夜の猫-BL小説です 春立つ風に244(ラスト) BL小説 辻、加藤、研二もやってくると、森村も手伝っててきぱきと荷物を車に運び込んだ。 これであとは工藤が帰ってくるのを待つだけだが。 良太は鈴木さんに一日だけ猫の世話を頼んだ。 セットしておけば自動でカリカリは出てくるし、水も同じくだ。 良太は手早くセーター
月夜の猫-BL小説です 春立つ風に242(工藤×良太)までアップしました BL小説 あけましておめでとうございます。 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 春立つ風に242(工藤×良太)までアップしました。 たまにはクリスマスを10(京助×千雪)までアップしました。 たまには~は、年を越してしまいましたが
「混乱しているときに、いきなりごめんな。でも、伝えたかったんだ。小窪が将来、どうしたらいいか考えたかったら、僕がいっしょに考える。ほんとうに逃げたいんだったら、どこへでも連れて行く。小窪のことが、好きだからだよ」重ねて言うと、血の気の失せた小窪の表情にようやく徐々に赤みがさしていく。ゆらゆらと所在なげに視線がぶれる。「榎並くん」とつぶやいて、恥ずかしそうに僕のシャツから手を離す。離した手は膝の上に...
ゆるゆると髪を撫ぜてやりながら、僕は小窪の壊れてしまった箱庭に想いを馳せる。きっと居心地のいい、日当たりのいい、やさしい場所だったんだろう。その居心地の良さや日当たり、やさしさが小窪には窮屈に思えたにちがいない。ちがうものを見てみたくて、あたたかな場所ばかりじゃない現実の厳しい側面も目にしたくて、大学に行きたいとか、この町を出たいとか、口にしていたのだろう。小窪の生真面目さをこんなときなのにいとお...
ほんとうにこのまま小窪とどこかに逃げてしまいたい熱情のような衝動は、でもほんの一瞬だった。小窪の声が、しずかに揺れていたから。小窪にゆっくりゆっくり歩み寄ると「どうした?」と顔を覗き込む。うつむいた小窪の眼からぽたん、ぽたんと涙が落ちる。涙腺ではなくて、心が直接泣いているみたいな痛ましい泣きかただった。「じいちゃんが、入院したんだ。もう家には帰ってこられないかもしれない」「……そう、なんだ」「どうし...
残暑がひさしぶりにぶり返した放課後だった。小窪のピアノを聴きたいなぁと思いながら、地学室に置き忘れたノートを取りに第三校舎までむかった。座っていた席から無事にノートを回収して教室の外に出る。ぽろぽろと三階にある音楽室から旋律が聞こえた。メロディを聴きながらついにまぼろしを聴けるほどになったかと思っていたけれど、旋律がスピッツのあの曲になったとたん、ノート片手に階段を駆け上っていた。小窪が、僕を呼ん...
月夜の猫-BL小説です 春立つ風に(工藤×良太)239までアップしました BL小説 春立つ風に(工藤×良太)239までアップしました。たまにはクリスマスを(京助×千雪)6までアップしました。たまには、は短編のつもりなので、長くはならないつもりです
二学期の滑り出しは上々だった。将来をしっかり見定めている小窪の影響で夏休みのあいだになんとなく勉強に熱が入っていたので、実力テストで思った以上の点数がとれた。それよりなにより、小窪の顔を見て「おはよう」と言えるのがうれしかった。小窪にとってそれが何ら特別ではない言葉にしても。新学期初日、おそるおそる「おはよう」と小窪に声をかけると、それはそれはうれしそうに挨拶が返ってきて、不毛な片想いが勝手にとき...
夏の終わり、小窪の言葉がしずかに、余すことなく心の隅々までいきわたる。小窪にとってもかけがえのない時間だったのだと思うと、僕の独りよがりじゃなくて本当によかったと胸を撫ぜ下ろしたい気分だった。たとえ最後に芽生えたものが、不毛な片想いだったにせよ。連れ立って帰り道を歩きながら、小窪も僕もなんとなく言葉少なだった。分かれ道に辿りつくと、小窪はちょっと笑って「じゃあね、またあした」と言った。ひらりと手が...
こんな時間にベルが鳴るなんて、誰なのだろう。不思議に思ったが、もしかして……と恐る恐るセキュリティミラーを覗くと治だったので安心した。だけど、ベルを慣らすだなんてどうしたのだろう。しかも、入ってこようとしない。だから言っていた。「どうした?」そしたら、元気よく返事があった。「Merry Christmas! トリック or トリート!!」はははっと笑っていた。クリスマスとハロウィーンが同様になっているので、どうして...
僕に、大人びているのに子どもっぽい、ふしぎなまなざしを向けながら小窪が言う。「こうやって演奏するのも、榎並くんが聴きに来てくれるのも、きょうが最後だから」小窪がふっと目を伏せて「楽しかったよ」とつづけた。榎並くんが好きそうな曲を探して、ここで弾くのがすごく楽しかった。そんな、そんな些細な(僕にとっては些細ではないのだけれど)夏休みの日々をとても大事なことのように言う小窪のつむじをじっと見つめた。あ...
月夜の猫-BL小説です たまにはクリスマスを4 BL小説 野球部でピッチャー、しかも直球勝負がモットーだったという良太らしく、今はひたすら工藤の背中を追いかけながら、プロデューサーとして研鑽を積んでいるわけだが、何かあれば怒鳴りまくってキャスティングに見合わないとなればクビを切る、業界では鬼の工藤と称された
それからも、部活帰りに小窪の演奏を聴いて一緒に帰ったり、わざわざ駅前広場まで聴きに行ったりして夏休みを過ごした。小窪の演奏曲のなかにスピッツの曲をちらほら耳にするたびに、胸が高鳴った。小窪の指先の奏でる音楽に、どんな形であれ、少なからず影響を及ぼしている自分が誇らしかった。そして、これは僕のために弾いてくれているのかな、と思うともうどうしようもなく、心を内側からごく弱い力で引っかかれているようなく...
月夜の猫-BL小説です 春立つ風に(工藤×良太)236までアップしました BL小説 春立つ風に(工藤×良太)236までアップしました。限りの月16(ラストxmascountdown工藤×良太)までアップしました。お付き合い頂き有難うございました。「限りの月」は月末までXmas count downのページからご覧
それだけ、と言う小窪は、でも何かほかのことを言いかけたのではないかと思ったけれど、深追いするのはよくなさそうだったので「彼女なんかいないよ」と事実を述べた。疑わしそうに小窪がこちらを見てくるので「ほんとだって。小窪こそピアノっていう大技があるんだし、見た目も整っているし、彼女のひとりやふたり、あっという間だって」と言い聞かせた。言い聞かせながら、そんな日が来たら、たったいま登録されたばかりの僕のLI...
月夜の猫-BL小説です たまにはクリスマスを1 BL小説 ただただ慌ただしい師走の半ばのことだ。 キャンパスにもびゅうびゅうと冷たい北風が吹きすさんでいた。 「おい、来週末、空けとけよ」 急に上から降ってきた科白に、ここ数年来なかった寒さに震えながら、学食で熱いうどんをすすっていた小林千雪は、ああ? と胡乱気に
月夜の猫-BL小説です たまにはクリスマスを(京助×千雪) BL小説 毎年年の瀬は、京助も千雪も忙しい。クリスマスなんてものは彼らには何の関係もないキーワードだ。ところが12月の半ば頃、京助がいきなり、来週末空けとけよ、と命令口調でのたまった。千雪は怪訝な顔で何を企んでいるんだ、と京助を見やったのだが……R18
僕は首をかしげる。明るい、と言われたことはあまりないのだけれど。「そんなに陽キャじゃないよ、僕。小窪とそう変わらないって」「そんなことない。クラスで自分がどう思われているかくらい、よくわかってる」小窪はうつむいて、「あんまり取り柄がなくて、ぼうっとしていて、静かでなに考えてんのかわかんないって思われてることくらいはわかってる」とむしろおだやかな声で言った。あきらめているのだろうか、もうそれを軌道修...
月夜の猫-BL小説です 限りの月16(ラスト) BL小説 いつだって思ってる。 このオヤジは俺なんかで満足してんのかとか。 どこまでも俺はあんたにとってガキなんだ。 クッソ、だけど今夜は離してやんないからな! ザマ見やがれ! 良太は心の中で毒づいた。 執拗な口づけにやがて頭の中から理性が飛び、酒のお陰で程よく弛緩した良
翌日、部活が終わるのももどかしく急いで駅に向かった。小窪の奏でるピアノの旋律が聴こえてくると小走りになる。駅前広場のグランドピアノのまえで小窪は初日に弾いていたのとおなじ曲を楽しげに演奏していた。ラストのサビまで弾きおわり曲の余韻が消えると、小窪はきょろきょろして僕に目をとめてかすかに笑った。改めて鍵盤にむきなおった小窪が手をなめらかに動かすと、僕がきのう好きだと言った曲が流れだす。うつくしい、演...
いつもありがとうございます。新作になります。俊平&治の物語です。~あらすじ大学4年生の冬、留年して5年生となった雅治。着々と落とした必修科目も残すところ、あと1科目になった。そんな大学5年生のクリスマス。恋人の俊平とクリスマスをホテルで過ごす計画を立てていた。その時に出会った人が主催側となった正月に行われる、あるイベントに参加することにした。その時、俊平は自業自得ともいえる怪我を負い、その時に治に...