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ときどき見る夢がある。真っ白で、真っ黒な凍りついた悪夢。 夢の景色はこうだ。 小雪のちらつくなか、広い雪原にたたずんでいる。すこし離れたところから、ブレザーを着た端正な顔立ちの男子高校生が黙ってこちらを見返している。表情に浮かんでいるものを読み取ろうとするけれど、うまくいかない。 上着を着ていないのが寒そうで、上履きを履いた足がとてもつめたそうで、歩み寄り手を取ってこちらに引き寄せようとする。あ...
月夜の猫-BL小説です 嘉月15(ラスト、工藤×良太)アップしました BL小説 嘉月15(ラスト、工藤×良太)アップしました 「寒に入り」、「春立つ風に」へ続きます。 お正月シリーズはこれが最後となります。 イベント的には次はバレンタインでしょうか。 「お正月」は今月いっぱいは置いてありますの出よろしくお願い
月夜の猫-BL小説です 嘉月15 BL小説 「あの程度の酒じゃ、足りない。ラム酒開けるから付き合え」 何ごとかと思えば。 「え、お疲れだから寝るんじゃなかったのかよ」 とはブツクサ口にしてみたものの、良太はバスタオルを取ってジャージの上下を着ると、工藤の部屋のドアを叩く。 「開いてるぞ」 言われてドアを開けた
「それでいいの?」と小窪がすこし笑った。緊張がゆるんだのか、おさない笑顔だった。すこしだけ、と僕は言う。「すこしだけなら、怖くない?」小窪がうなずく。あらためて向き合うかたちで座りなおして、その唇に唇を重ねた。ただ重ねるだけのキスだったのに、とても気持ちがよかった。これ以上のあれやこれやはもっともっと気持ちいいんだろうなぁという煩悩がよぎりはしたものの、実行には至らなかった。ただ、小窪をこわがらせ...
月夜の猫-BL小説です 嘉月14 BL小説 そう言えば今年に入って初めての一緒の食事だ、と良太は気が付いた。 オフィスで二人で食事というのも、悪くはないかもしれない。 「さっきの千雪さんと京助さん、何だったんでしょうね」 「いつもの戯言だ」 良太はちょっと噴いた。 「あ、例の、紫紀さんからのミッション、沢村の
月夜の猫-BL小説です 嘉月13 BL小説 「おめでとうございます。ボス、帰った?」 匠が聞いてきた。 「はい、昼過ぎに戻って来てまたでかけましたけど」 何だろうと良太は身構える。 「いやもう、スタッフみんな疲労困憊状態で、工藤さんも当然疲れてるはずなのに、最後まで気張ってたからな、また出かけたって、ほん
月夜の猫-BL小説です 嘉月12 BL小説 「俺がどうしたって?」 その時オフィスに入ってきたのは当の工藤本人だった。 「お帰りなさい」 良太はその顔から少し疲れを見て取った。 電話では話しているが、顔を見て話すのは今年初めてだ。 「おめでとうございます」 千雪の顔を見ると、「年明けから何かあったのか」と工藤が
からめた指先でゆるく手をつないだまま玄関ドアをくぐる。背後のドアの閉まる音がいつになく大きく聞こえた。指を離して施錠し、上がり框で小窪を抱きしめた。指先まで心臓になったみたいに鼓動がうるさい。小窪がそろそろと僕の背に腕を回す。なにも言わずに抱きしめあったままで、お互いのにぎやかな鼓動をそっと交換した。ほんとうのところ、女の子じゃない身体を感じたら、小窪も僕も淡い夢から目覚めるように「これじゃないな...
月夜の猫-BL小説です 嘉月11 BL小説 「ただ今帰りました」 良太の分も昼の弁当を買いに行ってくれていた鈴木さんが戻ってきた。 「ふう、やっぱり寒いわね、今年は。風が強くって」 「すみません、ありがとうございます」 ガラス越しに見る外の風景は陽ざしが出ているようだが、実際は気温がかなり低いようだ。 「マルネ
月夜の猫-BL小説です 嘉月10 BL小説 「なるほど。沢村選手は繊細なんだね。しかしこれで、良太ちゃんが今後の広告市場を左右しかねないドンだってことがよくわかったよ。君を怒らせないようにしないとね」 「は?」 何わけわからないこと言ってんだ? この人。 第一沢村が繊細? どこをどう取ったらそういう結論になるん
月夜の猫-BL小説です 嘉月9 BL小説 すると紫紀は今社内にはいないが、向こうからすぐコールバックすると、秘書の野坂が言った。 「やあ、良太ちゃん」 五分もしないうちに紫紀から電話が入った。 「緊急事態かな?」 「あ、すみません、実は例の沢村の件ですが」 「快諾してくれた?」 何となく紫紀は勢い込んでいる。
僕の手をそっと離すと、小窪は「僕にはいま、榎並くんしかいない」とまっすぐな目で言った。ちょっと怖いくらい、直線的なまなざしだった。「夏休み、毎日ピアノを聴いてくれて……しかも、わざわざ聴きにきてくれた日もいくつもあって、話を聞いてくれて、じいちゃんが倒れて混乱しているときに優しくて。言葉が足りない僕のことをちゃんとわかってくれる榎並くんが、僕には必要だよ。榎並くんがくれる気持ちにこたえたいし、僕だっ...
さあ、待望のデザートだ!デザートはケーキ!あたり前なんだけど、俺が頼んだのはホールではないんだよね。紅茶を淹れ、イチゴたっぷりのショートケーキ。俊平は一口サイズのケーキ14種類を1つずつ選ぶ。「俊平。はい、ここにも入れて🖤」「お前は、そのデカいのを食ってるだろ」「1つくらいいいじゃん」あーん、と口を開けて待つ。俊平は笑っている。「間抜けな顔をして」「ほら、早く」もう一度、あーんと口を開ける。「本当に...
月夜の猫-BL小説です これだから5 BL小説 ただ彰子が当時付き合っていた相手との結婚を父親に反対され、家同士の結婚で沢村家に嫁いだことなどは少し哀れに思ったのは確かだ。 亡き祖父が彰子のことを不憫がっており、当時の恋人と別れさせて、すまないことをしたと沢村に語ったことも覚えている。 最近になって、ボランティ
そのピアノの旋律が耳に入ってきたのは、駅のロータリーに差し掛かったときだった。スピッツの『スターゲイザー』だ。あっ、と思いふわふわとした足取りのまま駆け出す。躓きそうになりながらも駅前広場に辿りつけば、案の定、小窪がピアノに向かっている。両手の指がいっさい迷うことなく鍵を押し、メロディを奏でている。「小窪!」名を呼ぶと、旋律がやんだ。榎並くん、と振り返った小窪はただにこにこ笑っていて、しあわせそう...
はじめてLINEの小窪とのトークルームにふきだしが浮かんだのがその一週間後の金曜日の夜だった。驚いたことにトークはじめてのメッセージは小窪からだった。漫画雑誌を読んでいた僕の頭から、おもしろいと思っていたはずのストーリーが瞬時に吹き飛んでいく。『あした、12時に駅ピアノのところで待ってる』急に走り出したせいでひっくり返りそうな心臓をもてあましながら、みじかいメッセージをなんども読み返す。これは、返事をさ...
月夜の猫-BL小説です これだから1 BL小説 帝都ホテル本館二階、朱雀の間で年明け二日から始まった日本橋の老舗呉服店『大和屋』の展示会イベントは盛況だった。 希望者を募って展示会場で行われている着付けのサービスも成人式や卒業式、謝恩会などを控えた若い女性で賑わいを見せている。 今回はCMも規模を縮小したものの
食事しながら、俺は話していた。12月に入ったものの、一人暮らしも快適になったので、そろそろ俊平とどっか行きたいな。クリスマスもあるので、クリスマスプレゼントを買いに新宿をブラついていた。何が良いかなあ。今までだって、ずっと買ってプレゼントしていたので色々と持っているのは分かっている。旅行にしようかな。春は京都だったから、今回は沖縄か?とりあえず食材を買い、毎年のように商店街の福引きをする。今まで一度...
月夜の猫-BL小説です 春立つ風に244工藤×良太(ラスト)までアップしました BL小説 春立つ風に244工藤×良太(ラスト)までアップしました たまにはクリスマスを12京助×千雪(ラスト)までアップしました 一応、お正月エピソードもアップすることにいたしました。 嘉月(工藤×良太)トップページ、お正月、から入
翌日からも小窪は屈託なく僕に笑いかけ、話しかけてくれた。昼食の弁当を一緒に開くようにもなった。僕のとなりでひろげられる小窪の弁当は彩りがきれいで、大事につくられているのがよくわかる。こんなふうに育てられたんだろうなぁと、勝手に弁当から生い立ちを思った。天高く馬肥ゆる、という感じの秋晴れの昼休みだった。あいかわらずきれいな色彩の弁当を食べながら小窪が言った。「そうだ。高校卒業したら弟子入りする人が決...
高校の最寄り駅まで並んで歩き、改札を抜けて電車に乗ると小窪はちいさく息をついた。「どうなっちゃうのかな」うん、とうなずく。小窪の祖父が師として彼を導けなくなったあと、小窪はだれを頼りに箱庭の木を植え、花を咲かせ、うつくしい庭を保てばいいのだろう。「じいちゃんの伝手で、弟子入りさせてくれそうな人をあたってみてはいるんだけど」えっ、と小さくつぶやく。この地域にそうそう調律師を生業としている人はいそうに...
言葉を尽くして伝えながら、強く思った。花が盛りを終えて散って、若葉が芽生えて生い茂り、花が咲いていたことすら忘れるまえに、やがてすべてが失われるまえに、小窪に想いを伝えられてよかった。ほんとうによかった。どきどきと速い脈を心臓に隠して、意識して口角を持ち上げる。気持ち悪かったらごめんな、と小窪に視線を合わせて笑ってみせると、まなざしは意外にも逸らされなかった。「榎並くん」生真面目な声で小窪が言った...