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PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(9) ~モラルインジャリーとPTSD~
MI(モラルインジャリー)は、前回みたように、トラウマといっても道徳的なトラウマなので、PTSDのような恐怖に対する反応というよりは、罪悪感や恥、怒り、無力感、無意味感、裏切り/裏切られ感、自分自身や他者を人として許せないという痛切な感覚、そして宗教的信仰の喪失といった反応となります[Koenigetals.2018;Koenig&AlZaben2021;Svodoba2022=2023]。MI(モラルインジャリー)は、重度のトラウマのもとでしばしば発生しますが、PTSDとは区別しなければなりません[Litzetals.2009;Brock&Letitini2012;Shay2014;Koenig&AlZaben2021,p.2994]。つまりMIは、PTSDとは別の症候群とみなされますが、しかしいくつか...PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(9)~モラルインジャリーとPTSD~
PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(8) ~道徳的トラウマとしての「モラルインジャリー」~
すなわち「モラルインジャリー」は、良心に大きく反する状況や、自身の中核となる道徳的な価値観を脅かす非倫理的な状況に直面したときに生じる特別なトラウマ[Svodoba2022=2023,p.58]、いわば「道徳的トラウマ」[Ibid.,p.59]なのです。トラウマといっても道徳的なトラウマなので、PTSDのような恐怖に対する反応というよりは、罪悪感や恥、怒り、無力感、無意味感、裏切り/裏切られ感、自分自身や他者を人として許せないという痛切な感覚、そして宗教的信仰の喪失といった反応であり[Koenigetals.2018;Koenig&AlZaben2021;Svodoba2022=2023]、自傷や自殺念慮、自殺企図も少なくありません[Bryanetals.2014;Amesetals.2019]。しかし、...PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(8)~道徳的トラウマとしての「モラルインジャリー」~
PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(7) ~「モラルインジャリー」の定義~
MI(モラルインジャリー)は、リッツらの2009年の定義では、「正邪や個人の善についての仮定と信念を毀損するため、不協和音と抗争を生み出す違反(transgression)行為」から結果するものとされました[Litzetals.2009;Koenig&AlZaben2021,p.2990]。道徳的信念や道徳的価値の違反(transgression)がなされたり、観察されたり、学習されたりしたときに発症するというのです[Litzetals.2009;Koenig&AlZaben2021,p.2995]。ブロックとレティティーニの2012年の定義では、「恥、悲嘆、無意味感、そして中核的な道徳的信念(coremoralbeliefs)を毀損したことによる後悔の感情などを含む違反(transgression)感」...PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(7)~「モラルインジャリー」の定義~
PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(6) ~「道徳的負傷:モラルインジャリー」概念の登場~
さて、これからは、今度はMI(道徳的負傷:モラルインジャリー)の方に話題を移しましょう。前回まで見てきた「(軽度)外傷性脳損傷」((m)TBI)がそうであったように、「モラルインジャリー」(MI)もまた、はじめは戦争(戦場での非倫理的な行動)から注目されるようになったものです:ベトナム、そしてイラクやアフガニスタンでの従軍兵士が、戦地での民間人殺害など自分(や仲間、上官)が犯した行為に、帰還後に苦しむ多くの事例があることから研究が進んできたのでした[Shay1994;Litzetals.2009:Svodoba2022=2023]。その先駆けは、1970年代、ボストン在郷軍人局病院でソーシャルワーカーとしてベトナム帰還兵の心理治療に専従していたセラ・ヘイリーの発見で[Haley1974]、それは兵士が“殺...PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(6)~「道徳的負傷:モラルインジャリー」概念の登場~
PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(2) ~「シェル・ショック」から「外傷性脳損傷」へ~
「外傷性脳損傷」(TBI)は、特にアフガン・イラク戦争以来の爆風等により多発して問題化されるようになったもので[Alexander2015,p.85]、アフガン・イラク戦争の戦地において、爆風を受けただけで、頭部に直接の外的損傷がないために、「異常なし」との診断を受けていた兵士が、帰還後に高次脳機能障害を生じたという例が2万2000人にも及び、詳しい検査の結果、(超音速の)爆風による衝撃波が血管を振動させながら急激に脳に達して神経細胞を破壊したためと判明したことから注目されるようになりました[毎日新聞2009.2.17-21]。次いで2007年7月には、帰還兵の団体が退役軍人省を相手取り、PTSDとともにTBIの適切な障害認定を求めてカリフォルニア州連邦地裁に提訴、同省は改善の必要性を認めて、TBIと認定...PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(2)~「シェル・ショック」から「外傷性脳損傷」へ~
PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(1)
トラウマといえばPTSDがすぐ引き合いに出されますが、トラウマに直接関わる疾患は、決してPTSDだけではありません。PTSDが生じるようなトラウマ受傷の際に、PTSDと併発しやすく、PTSDと似た症状も起こしながら、しかしPTSDとは異なる重要な疾患として、TBI(TraumaticBrainInjury:外傷性脳損傷)とくにmTBI(mildTraumaticBrainInjury:軽度外傷性脳損傷)と、MI(MoralInjury:道徳的負傷(モラルインジャリー))の2つの損傷(Injury)を、忘れるわけにはいきません。(m)TBIは物理的かつ心的なトラウマ性損傷であり、MIは心的かつ道徳的なトラウマ性損傷です。どちらもPTSDとはちがう疾患ですが、PTSDとよく似た症状を生じ、またそれ自体がPTS...PTSDと(m)TBI((軽度)外傷性脳損傷)、MI(道徳的負傷:モラルインジャリー)(1)