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月夜の猫-BL小説です 霞に月の16 BL小説 「来年は前もって、平さんも誘っときましょうよ」 工藤は苦笑しながらグラスを持ってきてソファに座ると、ボトルを開けて酒をグラスに注いだ。 「軽井沢の桜はまだこれからですよね?」 良太は昨年の遅い春に、たまたま平造がぎっくり腰で入院したために急遽軽井沢に行くことにな
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み13 BL小説 「顔だけ出してくれと言われてる」 にこりともせずに工藤は答えた。 「ええ? 俺、これかあとジャージかいつものくたびれたスーツしか持って来てないですけど、俺は遠慮してもいいですよね?」 良太は言外に嫌だと目いっぱい訴えた。 「明日も店は開いてるぞ」 事も無げに言う
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み12 BL小説 駐車場で車のトランクにワインやプリンの袋を入れていると、「あ、良太やないか、と工藤さん」という声がして、振り返ると犬連れの小林千雪が立っていた。 「千雪さん、奇遇ですね」 案の定だと良太は笑う。 「狭い街で、大抵行くとこ決まっとおるし、そう奇遇でもないわな」
月夜の猫-BL小説です 霞に月の15 BL小説 「あ、はい」 戸外での夜宴で遅くまで騒いで、立ち並ぶマンションの住人など、周囲の迷惑にならないように配慮はしなくてはならない。 十一時前にはお開きにすると、タクシーを数台呼んで良太はみんなを送り出した。 既に奈々は十時を過ぎる頃にはもう谷川がタクシーで八王子の実家
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み11 BL小説 確かに、店の隣の駐車場は十台ほど置けるようになっている。 平造の話によると、もともと親の土地で前は空き地だったところを、息子の吉川が借りたということだった。 吉川の家も近所にあるが、この店を建てるにあたって二階に自分の部屋も作ったらしく、カンパネッラは吉川の住居
月夜の猫-BL小説です 霞に月の14 BL小説 野口新はランドエージェントコーポレーションの本社社長である。 高校時代に海老原と野口の二人は付き合っていたが、元外相の祖父らに引き裂かれたとかで、海老原は海老原家の恥だのなんだのと言う祖父の言うことなど聞く耳をもたなかったものの、野口は代々海老原家とは近しい付き合い
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み10 BL小説 平造に何か聞いているのだろうかとも思うのだが、そこはいろんな人間に関わってきただろう家政婦のプロ、というやつなのかも知れない。 いや、工藤ならこれまでにもあり、ってことなのか? 「綾小路さんとこには何時に行くんですか?」 それを聞いていなかったと、良太は思い出し
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み9 BL小説 標高の高いこの街の朝は窓越しの風だけで十分に涼しい。 良太はむき出しの肩が寒くなって、目を閉じたまま上掛けを引っ張り上げた。 気だるい身体は重くて起き上がりたくもなかったが、それでも厚ぼったいカーテンの隙間から洩れる朝の光を感じてうっすらと目を開けた。 この屋敷の家
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み8 BL小説 パーティや宴会が嫌いですぐ逃げる、検診が嫌い、病院が嫌い、ってまんまガキじゃんね。 注射嫌い歯医者嫌いな俺と五十歩百歩? 大同小異? 工藤も飲んだので、車は店の駐車場に置かせてもらって別荘まで歩くことにした。 「うわ、やっぱ、こっち涼しい!」 工藤はトランクから
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み7 BL小説 ここのところ、外に出ることが多く、良太にしてはちゃんとした食事を取っていなかった。 といっても夜十時頃に部屋に戻ってからの、コンビニ弁当が比較的まともな食事だが、時間がなくて出先でファストフードで済ませたりしていた。 ちょうど明日あたりから少し楽になると思っていた
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み6 BL小説 「大いなる、に、東京でのロケから何人か入ることになっているが、みんなど素人に毛が生えたようなもんだ。俺が不在の時はお前がまとめることになる。特に斎藤さん押しのタレントの二村、きっちり見ておけ」 「あ、はい」 どうやら長年の付き合いのあるスポンサーの美聖堂社長斎藤が
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み5 BL小説 「田園の方はどうだ?」 車が走り出したと思うや、今度は赤信号で停まると、工藤が人気俳優宇都宮俊治主演のドラマの進捗状況を聞いてきた。 「いや、順調、ですよ。月末あたりから北海道ロケになってますけど、行けそうですか?」 「この分だと無理だろうな」 はいはい、そうでし
月夜の猫-BL小説です 霞に月の11 BL小説 裏庭に集うメンツを見ると、京助と千雪以外ほぼ来ているらしいと良太は確認した。 あとはうちの社長か。 「鈴木さん、モリーもほぼお客さん揃ったし、向こうに行ってください。俺、あと千雪さん待ってますから」 二人に裏庭に行ってもらい、良太は表の方に目をやった。 ややあってタ
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み4 BL小説 七時過ぎに工藤の運転するベンツは乃木坂を出た。 「え、こっちなら俺運転しますけど」 良太は普段使っているジャガーをさして言ったが、俺が運転する、と工藤が言うので、良太は必要なものをとりあえず放り込んだバッグを一つトランクに入れると、助手席に座った。 慌ててスケジ
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み3 BL小説 俺ら沢村たちより古いつきあいなわけだし。 もちょい、こう、何かしらのアレがあってもさ。 ブツブツと良太は心の中で呟いた。 一応、社長でオヤジだが鬼の工藤と、部下で怒鳴りまくられているけれど良太は、一般的に言えば付き合っている関係なのだ。 そこはまあ、良太の方が工藤
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み2 BL小説 たまたま仕事でとあるホテルのラウンジで佐々木と会った良太は、その夜、たまたまリトルリーグからのライバルでもある沢村と飲みの約束をしていた、それが沢村が佐々木にフォーリンラブとなったきっかけだった。 佐々木は、沢村が人気スラッガーであるということでかなり葛藤もあった
月夜の猫-BL小説です 鬼の夏休み BL小説 「風そよぐ」「夏霞(沢村×佐々木)」の後のエピソードです。 青山プロダクション社長工藤高広も、秘書兼プロデューサー兼運転手兼雑用係の広瀬良太も、寒い冬だろうが暑い夏だろうがおかまいなく仕事漬けの毎日だ。お盆を過ぎた八月中旬、忙しいばかりの工藤のスケジュールが唐突に二
月夜の猫-BL小説です 霞に月の9 BL小説 カメラマンの井上がライティングをチェックしていると、井上の妻であり、元このプロダクション俳優の小野万里子が駆けつけて最初の客となった。 「きれいねえ」 しばらくものも言わずに桜を眺めていた万里子が、ため息とともに口にした。 「菊さんも来るって言ってたんだけど、入院さ
月夜の猫-BL小説です 夏休み16 BL小説 運転席から立ち上がる気力もなく、良太はシートにもたれて目を閉じていた。 ややあって携帯がベートーベンを軽やかに奏でた。 工藤からだ。 「はい、え、今すぐですか? わかりました」 社長室に来い、という。 一体何だろう、と思う。 「俺また、なんかやったっけ?」 首を傾げ
月夜の猫-BL小説です 夏休み15 BL小説 指定されたのは、いつか閉じ込められたあの屋敷だった。 「久しぶりに良太ちゃんからのお誘いに意気揚揚ときてみたら、そんな話か」 鴻池は深深とアームチェアに腰を降ろし、酒を飲んでいる。 「まあ、突っ立ってないで座ったら?」 「俺は、千雪さんにもう近づかないで欲しいって言
月夜の猫-BL小説です 夏休み14 BL小説 近くの喫茶店で藤堂が切り出した話は、良太には寝耳に水だった。 「何で?! 鴻池が小林さんを? 一体どういうことなんですか?」 つい声が大きくなってしまった。 「やっぱり君も知らないのか。鴻池さんの話によると、次の映画で小林くんを主演に持ってくる、っていうんだ」 藤堂
月夜の猫-BL小説です 霞に月の4 BL小説 そんなある日、小林千雪原作の老弁護士シリーズで秋放映予定のドラマ『今ひとたびの』の打ち上げがゲスト主役竹野紗英の希望で代官山にあるカフェバーを借り切って行われた。 撮影は先月のうちに終わっていたが、打ち上げをやろうと張り切っていた竹野のスケジュールの都合がなかなかつか
月夜の猫-BL小説です 夏休み13 BL小説 「いや、悪い。お前はお前で活躍してるだろ。プロデューサーなんてすごいじゃんか」 沢村は口調を変えた。 「プロデューサーなんていったって、名ばかりだよ。一応、今の目標はうちの社長の工藤。怒鳴り散らすのが得意な頑固なオヤジだけどな。実はこれがなかなかすごい男だったりする
月夜の猫-BL小説です 霞に月の3 BL小説 「ああ、優勝候補のO高の清水選手でしょ? 上から投げ下ろす豪速球、あれはなかなか打てないみたいで」 確かに近年の高校生はでかい子が多いと良太も思う。 まあ、プロ野球選手も、沢村や八木沼など一九〇超えだし、何であれでかいのは得だよな。 「俺ももうちょい、身長あったら、
月夜の猫-BL小説です 夏休み12 BL小説 大阪は東京よりさらに暑かった。 いや、せかせか動く人々に余計に暑さを感じないではいられなかった。 九時にホテルにチェックインし、そのまま打ち合わせを兼ねてディレクターたちと飲みに行った良太は、周りを飛び交う関西弁の襲撃になかなか頭のエンジンがかからなかった。 話題は
月夜の猫-BL小説です 夏休み11 BL小説 「もう、うんざりやねんけど。よほど訴えてほしいんですね?」 千雪も負けじと顔を近づける。 「いいねー、アップにも耐えうるその美貌、一つ一つのパーツがまるでアーティストが創り上げた奇跡の産物だ」 間近でじろじろ見つめられ、千雪は思わず顔を引っ込める。 「いっそのこと、
月夜の猫-BL小説です 霞に月の1 BL小説 明け方から強い春の風が窓の外を吹き抜けている。 ヒューヒューいう風の音が耳について、良太は目を覚ました。 厚ぼったいカーテンのお陰で陽が遮断されているが、薄暗くも部屋のようすがわかるところを見ると、もう既に朝になっているらしい。 首を動かして隣を見たが、大きなベッド
月夜の猫-BL小説です 夏休み10 BL小説 「ええ、従姉妹と夕食の約束なんです。鴻池さんもお待ち合わせですか?」 白々しくも聞いてみる。 「この後、代理店の人間と打ち合わせがあってね」 どうだか、と千雪は思う。 得たいの知れない不気味さを持つ鴻池の目は、千雪をじっと見つめている。 鴻池和路、四十二歳。 財界の
月夜の猫-BL小説です 夏休み9 BL小説 小林千雪は閉口していた。 ここのところ姿を見せなかった『ストーカー』が、また最近周りをうろつくようになったからだ。 「どうやら、海外の出張から戻ってきたいうとこやろか」 独り言を呟きながら、千雪は大学をあとにする。 夏休みだから来ないだろうとたかをくくっていたのに。
月夜の猫-BL小説です 夏休み8 BL小説 忘れているか、或いはまた嫌味の一つも言われるだろうと覚悟はしていたが、沢村の反応は案外あっさりとしたもので、良太は少々気が抜けた。 本当は出演交渉も良太の仕事なのだが、ディレクターにさり気に依頼してしまったのも、ただでさえマスコミ嫌いなのに、自分が出て行って断られるこ
月夜の猫-BL小説です 春雷93 BL小説 「何やってるんだ、おとなしく寝てろって言っただろうが」 工藤が部屋に戻るとベッドに寝ているはずの良太がいないので、隣の部屋を覗くと、猫のトイレを片付けていた。 「なんか、熱、下がったみたいだし」 工藤は立ち上がった良太の額に手を当てた。 「ちょっとよくなったからってホ
月夜の猫-BL小説です 夏休み7 BL小説 「あ、いや、それはその。そっちこそ、すげー活躍じゃん」 予期しない出来事に周りは一時騒然となり、やはりクールに沢村がさっさとスタジオを出て行くと、良太を羨望の眼差しで口々に問い詰めた。 「え、ええ、ちょっと昔知ってるってだけで…」 言葉を濁した良太を、例によって大山が
月夜の猫-BL小説です 夏休み6 BL小説 間もなくエントランスから工藤が現れたのを見た良太がドアを開けて運転席を立つと、一斉にセミの声がさんざめく。 すんげーセミの合唱。 太陽の光をまともに浴びて、良太は少し顔をしかめつつ、工藤のために後部座席のドアを開けた。 車に乗り込んでからも、しばらく工藤は携帯でいくつ
月夜の猫-BL小説です 夏休み5 BL小説 「わかった、河崎さんも西口さんも、三浦さんもいないんでしょ?」 良太はスプーンをとめることなく口にする。 「おや、どうしてわかった?」 「藤堂さん、かまうヒトいないと、ここにくるから」 「何をいうかね、この子は。良太ちゃんはかまいたいヒトの筆頭だよ?」 嬉しいとは言い
月夜の猫-BL小説です 春雷91 BL小説 工藤は良太に歩み寄って、「しょうがないな、こっちで寝るか」と良太の後ろ頭に手を当てた。 うん、と頷いた良太は何だか頑是ない子どものようで、工藤はベッドに連れて行って座らせた。 「なんだ、怖い夢でも見たのか?」 工藤は傍らに座り、良太の頭を引き寄せた。 夢が怖かったので
月夜の猫-BL小説です 夏休み4 BL小説 「おお、やっと現れたね、良太ちゃん」 オフィスのドアを開けるなり、能天気な声が良太を出迎えた。 「藤堂さん、いらっしゃい」 「さきにいただいてるわよぉ」 窓際の大テーブルでは、アスカが大きな口を開けてスプーン一杯のメロンをほおばっている。 人気女優があんな大きな口を開
月夜の猫-BL小説です 夏休み3 BL小説 良太も親の背負った大きな借金という枷がなかったら、この会社に入ることはおそらくなかっただろう。 しかし子供を谷に突き落とす獅子がごときやり方でもって工藤に鍛えられてきたお陰で、世の中どんな災難が待ち受けていようと良太は軽く乗り越えられそうな自信が今はある。 「関西タイ