インジュと約束①
バンコクの3月は、すでに暑さが厳しくなり始めていた。 インジュは大学の図書館で建築設計の最終プロジェクトに取り組んでいた。 窓から差し込む夕陽が彼女のノートを黄金色に染めている。 卒業まであと数ヶ月。4年間の学生生活が終わりに近づいていた。 「インジュ、まだここにいたのか」 ソンポンの声に彼女は顔を上げた。小さく微笑みながら、 「うん、最後の課題だから完璧にしたくて」と答える。 ソンポンは席に座りながら、 「君の頑張りはすごいよ。でも君自身の意志で頑張っているの?」 と少し批判的な口調で言った。 インジュは一瞬息を止めた。ソンポンが「意志」と言うとき、それは日本にいる彼のことだと分かっていた。…
2025/03/14 19:08