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ꕤ୭* short story ꕤ୭*梅雨の晴れ間を狙って、おる子は自室を出た。地球軍の基地のあるコロニーは、天候のすべてが人の手により管理されていた。地球に暮らしていたことを忘れないよう、この人工の空間でも四季が再現されている。特にこの時期は、じめじめとした梅雨の空気が特徴だ。おる子の生まれ育った星には梅雨なんてなかったから、このまとわりつくような湿気と、どんよりとした空気が、どうにも好きになれない。今日はアイド...
ꕤ୭* short story ꕤ୭*軍の病院の一室。ライアットの腕に巻かれたギプスが、医療スタッフの手によって慎重に外されていく。二ヶ月ぶりの解放感に、ライアットはゆっくりと腕を回した。骨折の経過は良好で、後遺症もなさそうだ。同じ頃、病院内の別の区画では、おる子が特殊な訓練室で、自身の力の実験に臨んでいた。ライブ襲撃以来、彼女の精神的な負担は大きく、時折、制御不能な力の奔流が周囲の電子機器を狂わせていた。ナノマシ...
ꕤ୭* short story ꕤ୭*【おる子目線】【ギャラクシーミューズ】の最後の歌声が、遠い星の瞬きのように消えていく。私の心は、空っぽの器のように、ただただ静まり返っていた。ライアットの安否が分からない。その事実が、私の内側を深く抉り、空洞を広げていく。ギャラクシーミューズとしての誇り…そんなものは、今、どこにも見当たらない。ただ、彼のいない世界への、底知れない恐怖だけが、私の全身を締め付けていた。次の瞬間、ス...
ꕤ୭* short story ꕤ୭*【レモネード・ドライブ】の最後の音が、遠い宇宙の吐息のように消えていく。右翼を撃ち抜かれたライアットのバルド…市街地に不時着…通信途絶…。 インカムから、アマテラスクルーの震える声が聞こえてくる。ライアット隊長機、ロスト…反応なし…頭の中が真っ白になる。嘘だ。そんなはずはない。彼は、私を置いていくはずがない。広報部が発足したあの日、二人で笑いながら作った、私たちの大切な歌。あの時...
ꕤ୭* short story ꕤ୭*ライブ会場【スペース・ソーサレス】の最後の音が、遠い宇宙の吐息のように消えていく。私の胸には、微かな安堵と、拭いきれない不安が入り混じっていた。ライアット…!彼の気配が、確かに近づいている。初めて彼のバルドに乗せてもらった、あの日作った『レモネード・ドライブ』のメロディーが、ふと頭をよぎる。インカムが小さく囁いた。ライアット隊長機、まもなくライブ会場宙域に到達します同時に、背後か...
🍀コイウタ43🍀SPACE SORCERESS ~銀河魔法黙示録~
ꕤ୭* short story ꕤ୭*【Clap!Crack!Scrap!Scandal!】の激しいビートが終わり、会場の興奮がまだ冷めない中、私の内側の何かがざわめき始めた。ライアット…!彼が、近づいている。遠く離れていた彼の気配が、確かに、この宙域に戻ってきているのを感じる。星屑のローブ翻し 銀河を歩くモニターに映る私は、星屑を散りばめたような漆黒のローブを翻し、銀河を彷徨う孤独な魔法使いを演じている。でも、今の私の心は、孤独なんかじ...
世界観人類が宇宙に進出して数百年。幾多の星々との邂逅と、生存圏を巡る熾烈な戦闘の時代を経て、銀河はようやく長い夜明けを迎えつつある。異星文明との交流は深まり、かつての緊張は緩和されつつあるものの、未だ紛争の火種は各地にくすぶっている。宇宙環境への適応と、人体機能の拡張のため、人類はその誕生時から体内に微細な機械群――ナノマシンを埋め込まれている。これらは生命維持、身体能力の向上、情報処理能力の補助な...
🍀コイウタ42🍀Clap!Crack!Scrap!Scandal!
ꕤ୭* short story ꕤ୭*Clap!Clap!Clap!Crack!Crack!Crack!Scrap!Scrap!Scrap! Scandal!『スパイダー・ラブ』の激しい余韻がまだ耳に残る中、会場にさらに攻撃的なギターサウンドが叩きつけられる。5曲目、『Clap!Crack!Scrap!Scandal!』だ。モニターのおる子は、挑みかかるような強い眼差しでこちらを睨みつけている。ねえ、聞こえる? この胸の鼓動Clap! Clap! 加速してくくそっ、戻れない!ギリアの野郎、完...
ꕤ୭* short story ꕤ୭*『禁断症状』が終わり、会場の熱気が渦巻く中、『スパイダー・ラブ』のイントロがけたたましく鳴り響く。モニターのおる子は、獲物を射抜くような鋭い視線をこちらに向けている。絡みつく視線はスパイダーウェブギリア・ロンダート…!奴の動きは、まるで獲物を誘い込む蜘蛛のようだ。俺をこの空域に釘付けにし、その隙におる子を…!レーダーに映るギリアの機影は、挑発的な軌跡を描きながら、俺の周囲を旋回し...
ꕤ୭* short story ꕤ୭*戦闘機のモニター越しに映し出される、ピンクのナース服風の衣装を身にまとったおる子。その姿は、任務中であることを忘れさせるほどに、俺の心を奪っていく。あなたの全て私のモノねぇ、聞こえる?この胸の鼓動彼女の歌声は、直接俺に語りかけてくるように響く。ステージには、医療器具をモチーフにした光が、彼女の動きに合わせてきらめく。聞こえるよ、おる子。君の鼓動も、歌声も。任務中だって分かってる...
ꕤ୭* song ꕤ୭*Ah〜……罪な私、蜜月のパピヨン禁断の蜜の味、知りたい?薔薇(バラ)の囁き、甘い罠「愛」を乞うアマリリス「欲望」のダリア、隠し味ねぇ、私だけのパピヨンその羽根で、どこへ飛ぶの?星屑のドレス纏い誘惑のステップ刻む月の光、スポットライトさぁ、踊りましょう?「永遠の愛」誓うカトレアでもね、気まぐれなの「あなたを想う」かすみ草それも、嘘じゃないけど今夜は、別の蜜を頂くわ罪な私、蜜月のパピヨン「純粋な...
🍀コイウタ38🍀アポリア・シンドローム~Aporia Syndrome~
ꕤ୭* short story ꕤ୭* 会場を揺るがす轟音と閃光。 ステージに立つのは、人気アイドル「おる子」。 彼女の歌声は、人の精神に直接作用する特殊な力を持つことで知られている。 今宵、彼女の最新ライブの幕が開けた。 一曲目に選ばれたのは、ロック調の激しいナンバー『アポリア・シンドローム』。 ねえ、気づいてる? この世界の綻びに歌詞の一言一句が、観客の心を震わせる。その歌声は、まる...
🍀コイウタ37🍀泡沫のユートピア~シャボン玉みたいに消えたとしても~
ꕤ୭* short story ꕤ୭*「高度を下げます。間もなく空母アマテラスは、補給のため廃墟都市へ着陸します。」艦橋に響く、無機質なアナウンス。おる子は、窓の外に広がる荒涼とした光景を、息を呑んで見つめていた。かつては人々の営みで賑わっていたであろう街は、今や黒ずんだ瓦礫の山と化し、風に舞う砂塵が、その残骸を容赦なく覆い隠していた。「……」おる子は、その光景に胸を締め付けられるような痛みを覚え、思わず歌詞を口ずさ...
🍀コイウタ36🍀ロジカル・マジカル・ラブ~恋の法則は予測不可能~
ꕤ୭* short story ꕤ୭*カフェの隅の席で、おる子は日記を読み返していた。ページをめくるたび、あの日、軍の広報イベントで新型戦闘機のデモンストレーションを見た日のことが鮮明に蘇る。眩い光を放ちながら空を舞う戦闘機。そのパイロットが、今、おる子の恋人だ。おる子はアイドルとして活動する傍ら、その歌声に特殊な力があるため、軍の保護下にあった。軍の基地の人工衛星内に設けられた居住区。そこは、単独で自由に動き回れ...