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その夜、美波の帰りが遅くなったのには特にこれと言った理由はなかったのだが、最寄りのメトロの駅を降りたのが9時半をとうに過ぎていた。 メトロの出口は大通りに面しているから車や人の往来は多いが、1本また1本と脇道に入るにつけ人通りがパタッと途絶えてしまい、街灯がポツンポツンと侘しく地面を照らしている坂の多い夜道を歩くのは、何とも言えない薄気味悪さがある。 -毎日通っている道なのに、何故か今夜は感じが違うみたい…。 それに加えて、家までの道のりで最も厄介なのは途中に小さい公園があることだった。昼間の明るい時間であれば、そこを抜けていけば近道なので通ることもあるが、夜しかも9時過ぎであればとてもではな…
それは杞憂には終わらなかった。 その日は朝から雨が降っている陰鬱な日だった。 悠介は最寄り駅である荻窪から新宿まで中央線の快速に乗り、ぎゅうぎゅう詰めの車内で、足場を気にしながらあっちに揺られこっちに揺られ、浮草のように身を任せていたら何だか眠気を催してきた、まさにその時だった。 突然、右手首を掴まれた。いやガッチリと固められたように、全く右腕を動かせなくなっていた。身体も金縛りになったみたいに、何故か身動き一つできない。 -何だぁ、これは? 何が起こったんだぁ? そう思った途端、女性の鋭い大声が車内に響き渡った。 「痴漢です!痴漢で-す!」 そう聞いたと思ったら、僕の右手が、右腕が上の方に引…
初めてのアフリカ出張(7)ナイジェリア風ちょっとホラ-な小話
「いやあ、あの時は本当にビビりましたね。このまま彼が来なかったらどうしようって」 ここは、某日本商社のゲストハウスで、つい先ほどまで日本人駐在員のKさんと食事をしながら話していたところです。Kさんはもう