第86話 花残 act.28 side story「陽はまた昇る」
ある日、境界線に英二24歳4月第86話花残act.28sidestory「陽はまた昇る」意識の底つんと刺す、薬品たち匂う。渋いような酸いような独特、けれど懐かしい匂い。こととっ、傾けるケトルきらめく湯飛沫、コーヒーの粒子さらさら崩す。見つめるフィルター湧きあがる湯気、ほろ苦く甘く昇らせる。「…ほんとひさしぶりだ、」声こぼれて自覚する、こんな時間どれくらいぶりだろう?ことこと滴る音こだまするマグカップ、白なめらかに深い黒茶が満ちてゆく。この香、この音、半年前まで日常だった。ただ慕わしさ英二は笑いかけた。「吉村先生、ブラックでよろしかったですか?」「はい、ブラックでお願いします、」答えてくれる声おだやかに響く。朝陽やわらかな雪の窓、白銀かぶるパトカーたちは四輪駆動の小型も多い。帰ってきているんだな、そんな実感...第86話花残act.28sidestory「陽はまた昇る」
2023/07/15 22:12