第86話 花残 act.31 side story「陽はまた昇る」
光、あわくとも温かな英二24歳4月第86話花残act.31sidestory「陽はまた昇る」雪が青いと知ったのは、この町だ。「運転で痛みは?」「はい、ありません、」答えながらドアかちり施錠して、足もと白く青く埋もれる。3月終わる午前の町、銀色そまる森と稜線に英二は笑った。「いいですね、奥多摩は、」笑った唇ふれる風が甘い。甘い香かすかに渋い、漲らす冷気に額も髪も染められる。もう3月、けれど雪満ちる山里ひろがる隣で山ヤが笑った。「いいだろうよ、奥多摩は宮田の場所だからなあ、」肚底じわり響く声、告げてくれる。こんな言葉きっと2年前なら信じられない、けれど今ただ笑った。「はい、奥多摩は俺の場所です、」自分の場所、そう言える。だって全てを懸けた時間がここにある、その長さと笑いかけた。「でも後藤さん、俺はまだ一年半で...第86話花残act.31sidestory「陽はまた昇る」
2024/03/16 01:32