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ふでモグラの気ままな日常 https://fudemogura.com/

読書をこよなく好む内向的な元公務員が発信するブログです。 子どもたちの育成を長年担うが早期退職し、第2の人生をスタート。 読んだすべての本の紹介を中心に、旅行やグルメ、日頃気付いたことや感じたことなどをお届けします♪♪

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2022/01/30

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  • 【読書】『わたしが消える』佐野広実 著

    【あらすじ&ひとりごと】 佐野広実さんの江戸川乱歩賞受賞作品『わたしが消える』を読みました。 佐野さんの作品は、以前一作品(『誰かがこの町で』)だけ読んだことがあり、テンポが軽快で読みやすくて、ストーリー展開が徐々に膨らんでいって頁が進むおもしろさでした。 序盤は身元不明の認知症患者の謎を追っていく些細なことから始まりますが、ストーリ―が進んでいくにつれて、裏に隠された大きな事件へと繋がっていきます。今回も佐野さんの描くミステリーの厚みに引き込まれました。 軽度認知障碍を宣告された元刑事・藤巻智彦。警察を辞めると同時に妻と離婚し、その後20年間、マンション管理人として勤めている。 別れた妻は3…

  • 【読書】『テスカトリポカ』佐藤究 著

    【あらすじ&ひとりごと】 佐藤究さんの直木賞、山本周五郎賞受賞作品『テスカトリポカ』を読みました。 暴力シーンや殺人、麻薬・臓器密売など、想像以上に凄まじかったですが、ストーリーはとても濃厚なクライムミステリでした。 しかも500頁を超える長編ですが、そんなえぐいシーンでは自分がやられているような感覚になって、自然と肩に力が入り読んでいたものの、その圧倒的な臨場感に中だるみもせずに読み終わることができました。さすがに重厚感のある作品でした。 メキシコから日本へ逃れてきた母・ルシアと、暴力団員・土方興三との間に生まれた土方コシモ。 コシモは友達もいなければ、授業にもついていけず、小学4年生になっ…

  • グリム童話『ちえ者エルゼ』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その33 『ちえ者エルゼ〈KHM34〉』 【あらすじ(要約】 ひとりの男がいて、娘がいました。娘は「ちえ者エルゼ」と言われていました。年頃になったので、父親は「結婚させよう」と言い、母親は「そうですね」と言いました。 やがて遠くからやってきた者がいました。ハンスという名前です。エルゼを嫁にほしいと言うのですが、評判どおりのちえ者ならば、という条件をつけました。「この娘なら、より糸が頭の中に入っていますよ(利口なこと)」と父親は言いました。すると母親は「この子は風が通り抜けるのが見えたり、ハエが咳をするのが聞こえたりしますよ」と言いました。 ハンスは「本当にち…

  • 【読書】『朽ちゆく庭』伊岡 瞬 著

    【あらすじ&ひとりごと】 伊岡瞬さんの作品を読むのは『奔流の海』に続いて2作品目ですが、とても読みやすい文章で、サクサク読みながらもストーリー展開が頭にスルスル入ってくる心地良さがあります。事件に迫ってくると、もう一気読み必至。 本作は、一見、仲の良い家庭を演じながらも、それぞれが自分勝手に生活している一家が崩壊していく様を描いたサスペンス小説です。 地方都市ではあるが、かつてはセレブタウンと言われた場所の高台に建つ中古の戸建てに転居した山岸家。 中学生の真佐也は、不登校となり部屋に引きこもるが、友人の純二が日中両親の不在のときに遊びに来る。 父・陽一は中堅ゼネコンに勤め、家を空けることが多く…

  • 【読書】グリム童話『靴はき猫』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その32 『靴はき猫』 【あらすじ(要約)】 粉ひき男が息子3人、粉ひき場、驢馬、牡猫を持っていました。 粉ひきが死ぬと財産を分けました。長男は粉ひき場、次男は驢馬、三男は牡猫。 三男は「ぼくがもらったものが一番悪い」と言いました。 「聞いてください」と牡猫が口をききました。「私に編上げの靴を一足ください」と。 三男は、猫が言うのはおかしいと思い、靴屋に猫の靴の寸法をとってもらいました。 靴が出来上がると牡猫は靴を履き、袋に麦を入れ、郊外へ出て行きました。 その頃の王様は、シャコという鳥が好物でしたが、手に入りません。森にはシャコが多くいるのですが、怖くて狩…

  • 【読書】『この世の喜びよ』井戸川射子 著

    【あらすじ&ひとりごと】 芥川賞作品を久々に読みました。とは言っても、今まで数える程度しか読んだことはありません。 記憶にあるのは、『コンビニ人間』や『火花』『スクラップ・アンド・ビルド』、古い作品では、『限りなく透明に近いブルー』『海峡の光』など。正直、あまり心に残っていません。 読みとるのに難しいという印象が強くて、手を伸ばしづらいイメージが私にはあります。皆さんはどうでしょうか。 井戸川射子さんの『この世の喜びよ』を読みました。 ショッピングセンターの喪服売り場で働く主人公・「あなた」は、フードコートでいつも見かける中学生の女の子と知り合う。 そして「あなた」が、少女との語り合いから、か…

  • 【読書】『虚魚』新名 智 著

    【あらすじ&ひとりごと】 新名 智さんの横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作『虚魚(そらざかな)』を読みました。 巻末から見てみると、新名さんの受賞の言葉と、選考委員(綾辻行人さん、有栖川有栖さん、黒川博行さん、辻村深月さん、道尾秀介さん)による最終候補に選出された4作への選評が書かれていました。 厳しいお言葉もあり、さすがに大御所作家さんだなあと思いながら本文へと入っていきました。出版された大賞作品の巻末に他の候補作の選評も載せるのですね。 体験した人間は死んでしまうという怪談を探す怪談師・丹野三咲。そして呪いか祟りで死にたいと思っているカナちゃん。二人はともに暮らし、人が死ぬというその本物の…

  • 【読書】『夜に星を放つ』窪 美澄 著

    【あらすじ&ひとりごと】 窪美澄さんの直木賞受賞作『夜に星を放つ』を読みました。 現代に生きる人たちが、心の隅にある寂しさに人と心を通わせようとする、そんな素敵な五編からなる短編集でした。 「真夜中のアボガド」「銀紙色のアンタレス」「真珠星スピカ」「湿りの海」「星の随に」の五編が収められています。 どの短編も星座のエピソードを交え、かけがえのない家族・人間関係、そして恋人など、思うようにならない心を綴る物語です。 読みながら、何でこんな展開になるのって思いながら(これがストーリーとして良いところなのですが)、さわやかにさらりと綴られていくストーリーに、心がキュッとなります。 星座は星と星が線で…

  • 【旅】JR高速バスで名古屋へ④(最終)

    バンテリンドームで開催されたクイーンのコンサートに行く家族に付き添い、訪れた名古屋。 2月3日(土)〜6日(火)まで滞在し、最終日の2月6日の記録です。 3日(土)〜5日(月)までの記録↓↓↓ fudemogura.com fudemogura.com fudemogura.com 昨夜は、あつた蓬莱軒にていただいた、ひつまぶしの余韻に浸りながらホテルに帰ってくるも、テレビをつけるとニュースから流れる大雪による交通情報。 一瞬にして現実に戻され、眠れぬ一夜を過ごしました。(たぶん心配は一瞬で爆睡) 昨日の雨から打って変わり、本日は名古屋は晴天。 東名高速上りは厚木からの通行止めが解除され、首都…

  • 【旅】JR高速バスで名古屋へ③

    バンテリンドームで行われるクイーンのコンサート(2月4日)のために訪れた名古屋。 2月3日(土)〜6日(火)まで滞在し、3日目(2月5日)の記録です。 1日目2日目の記録↓↓↓ fudemogura.com fudemogura.com 名古屋は朝から土砂降り。関東地方では大雪警報が出されて、高速道路、東京都内の下道の一部が通行止めというニュースが昨晩から流れていました。 私たちは明日11:30のJR高速バスで帰るのに、運休にならないか心配になりました。 でも考えても仕方がないので、ホテル近くのコメダ珈琲で朝食をとり、本日の大きな目的、ひつまぶしの「あつた蓬莱軒本店」へ向かいました。 10:3…

  • 【旅】JR高速バスで名古屋へ②

    2月4日(日)バンテリンドームで開催されるクイーンのコンサートに行くため、3日(土)〜6日(火)まで名古屋に滞在。その2日目(2月4日)の記録です。 (1日目の記録は↓↓↓) fudemogura.com 今朝はプリンセスガーデンホテルを9時半にチェックアウトして、本日から2泊するアパホテルに向かいます。まだチェックインできないので、荷物だけ先に預かってもらうことにしました。 それから少し遅めの朝食へ。向かう先は「カフェ処カラス」。 『孤独のグルメ』で松重豊さん演じる井之頭五郎さんが訪れた、あんバタートーストのお店です。 あんバタートースト500円、安くておいしいです。カラスブレンド450円だ…

  • 【旅】JR高速バスで名古屋へ①

    2月3日(土)〜6日(火)まで名古屋に出掛けました。 目的は旅行というより、4日(日)にバンテリンドームで行われるクイーンの来日ライブ(初日)に家族が行くための付き添い。(私は行き帰りの随行) ついでに少し観光と名古屋名物を食べてきました。 3日(土)高速バスは東京駅を12:30に出発し、約5時間で名古屋駅に到着。車内は席が3列で前横に余裕があってとても快適。 そしてなんと乗車料が4,200円。こんな安価で快適なら、時間があればサービスエリアに寄りながら、景色を眺めるバス旅も楽しいです。 17:30頃に名古屋駅に到着し地下鉄で移動、中区栄にあるプリンセスガーデンホテルにチェックイン。 きょうは…

  • 【読書】グリム童話『三いろの言葉』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その31 『三いろの言葉〈KHM32〉』 【あらすじ(要約)】 昔、スイスに年をとった伯爵が住んでいました。 息子は一人しかいないのですが、何一つ覚えられないバカ息子なのです。 父親は「ここを出なさい。おまえを評判の高い先生に預けて何とかしていただく」と言い、息子は見知らぬ都へ送られ、先生のもとで1年過ごし帰ってきました。 「何を習った?」と父親がたずねました。 「犬がわんわん鳴く言葉を習いました」と息子はこたえました。 伯爵は情けなく思い、また別の先生のもとへ息子を預けました。 息子はまたその先生のもとで1年過ごし帰ってきました。 「何を習った?」と父親が…

  • 【読書】『祇園怪談』森山 東 著

    【あらすじ&ひとりごと】 森山東さんの京都を舞台に繰り広げられる、祇園の芸舞妓をめぐる雅びなホラー作品です。読み進めていくうちに、実はミステリでもありました。 怪異の正体とは、、、徐々に明かされていく驚愕の真実。 『お見世出し』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞され、その後に『デスネイル』、そして三作目が本作品です。三作品の中でこの作品が一番おもしろかったです。 舞妓を志す恵里花は、祇園南一である老舗のお茶屋「夕月」を訪れる。女将の月春は恵里花の才能を直感し、夕月に置くことを認めるが、恵里花の周囲では不可解な霊現象が起き続ける。 それは夕月に伝わる伝説・梅姫の呪いによるものなのか、華やかな祇園の…

  • 【読書】『腹を割ったら血が出るだけさ』住野よる 著

    【あらすじ&ひとりごと】 住野よるさんの作品を久しぶりに読みました。久しぶりだったので、期待していたのだけど、思いのほか頁が進まず、読み終わるのにかなり時間がかかってしまいました。 青春小説って、すぐに入り込めないというか、読み始めて自分のリズムに乗るまでに時間がかかってしまうんですよね。 「愛されたい」と願うあまり、他人に本当の自分の姿を見せられずにいる女子高生の糸林茜寧。 ある日、偶然出会った小説『少女のマーチ』の登場人物「あい」に似た宇川逢と出会う。 そして、アイドルグループ「インパチェンス」のメンバー・後藤樹里亜もアイドルとして生きるために自分を偽り生きていた。 恵まれた中で日々を過ご…

  • 【読書】グリム童話『ものわかりのいいハンス』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その30 『ものわかりのいいハンス〈KHM32〉』 【あらすじ(要約)】 ハンスの母親が、「ハンスや、どこ行く?」と聞く。「グレーテルのとこへ」とハンスが返事をする。「うまくやんなよ」「大丈夫、うまくやるってば。あばよ、おっかあ」「あばよ、ハンス」 ハンスはグレーテルの家に行く。 「こんにちは、グレーテルさん」「こんにちは、ハンスさん。何かいいもの持ってきた?」「何も持ってこないよ。何かくれるもんない?」 グレーテルは、ハンスに針を一本やる。「あばよ、グレーテルさん」「あばよ、ハンスさん」 ハンスは針を干し草車に刺し、車のあとについて家に帰っていく。 「おっ…

  • 2024年謹賀新年🧧

    明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願いします🙇 今年も初日の出を拝むことができました。 早朝なのにとても暖かくて、じっとご来光を浴びることができました。 2024年初日の出 渡良瀬川に架かる橋からです 朝日森天満宮にて初詣。参拝者の行列でした。 昨年のお札のお焚き上げをお願いして、今年一年健康に過ごせることを祈願しました。 学問の神様 朝日森天満宮 今年は人が多かったです 年明けの一仕事を終え、ようやく元日のお楽しみです。早起きしてお腹もすいて、待ちわびたお酒。明るいときに飲むお酒はおいしいですよね🍶 お刺身とおせちで一杯 日本酒は外池酒造の燦爛 純米酒はおいしい 今年も良い新…

  • 【ひとりごと】2023年の振り返り

    一年が過ぎるのは早いものですね。2023年もあとわずかです。 仕事を辞めて2年目。いろいろ思うことはあったけど、良い一年だったと思います。 来年は辰年🐉、龍の如くのぼりつづける良い年にしたいですね。 今年一年、どのくらい読書記録をつけたのかなと、振り返ってみました。 【1月】 ⚪︎小野寺史宜 縁(YUKARI) ⚪︎伊吹有喜 犬がいた季節 ⚪︎グリム童話 漁夫とその妻 ⚪︎東野圭吾 希望の糸 【2月】 ⚪︎中島京子 ムーンライト・イン ⚪︎グリム童話 いさましいちびっこのしたてやさん ⚪︎知念実希人 十字架のカルテ ⚪︎中脇初枝 わたしをみつけて 【3月】 ⚪︎グリム童話 灰かぶり ⚪︎夏川草…

  • 【読書】『さよならの向う側 i love you』清水晴木 著

    マイクロマガジン社(2022) 【あらすじ&ひとりごと】 清水晴木さんの『さよならの向う側 Goodbye,My Dear』のその後を綴る続編、『さよならの向う側 i love you』を読みました。 亡くなったあとに一日だけ現世に戻り、自分の会いたい人に会える時間が与えられる。ただし、そこには残酷なルールがあって、会えるのは自分が死んだことを知らない人だけ。 この最後の時間を与えられる不思議な場所「さよならの向う側」を訪れ、案内人に導かれ、最後の再会を選択する人たちを綴る4話の連作短編です。 やはり最後に会いたいのは、自分の身近な人。でもルールが障害となって会えない。前作では、気が付かれない…

  • 【読書】『残照の頂 続・山女日記』湊かなえ 著

    幻冬舎(2021) 【あらすじ&ひとりごと】 湊かなえさんの『山女日記』の続編、『残照の頂 続・山女日記』を読みました。 前作に続いて、主人公の女性が心に残る後悔や喪失感を山に癒され、希望を見出し人生を再生する。そんな登山と人生を重ねた物語です。 本作は四編からなる短編で、舞台となる山は「後立山連峰」、「北アルプス表銀座」、「立山・剱岳」、「武奈ヶ岳・安達太良山」です。 亡くなった夫に対して後悔を抱く女性と人生を迷うOL、思いが擦れ違う母娘、疎遠となってしまった友人など、それぞれが悩みや後悔を抱え山を登り癒され、心を浄化させていく。読後にニンマリと頬が緩む短編集でした。 迷いながらも一歩一歩、…

  • 【読書】グリム童話『手なしむすめ』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その29 『手なしむすめ〈KHM31〉』 【あらすじ(要約)】 粉ひきの男は貧乏で、水車と一本のりんごの木しかなくなってしまいました。 森で薪を取っていると、お爺さんが来て「水車の後ろに立ってるものをくれるなら、金持ちにしてやる」と言いました。 それはりんごの木と考え、粉ひきは「いいですよ」と答えて、その男に証文を書きました。 すると男は「三年後に取りにくる」と言い、行ってしまいました。 粉ひきは帰ると、おかみさんが「お金が山のように入ってきたんだけど、どうしたの」と言いました。 粉ひきは「森で会った男が宝をくれると約束したから、代わりに水車の後ろに立ってる…

  • 【読書】『星を掬う』町田そのこ 著

    【あらすじ&ひとりごと】 町田そのこさんの『星を掬う』を読みました。 家族、親子って、どうあるべきなのか。分かり合える正しい繋がり方って何だろう。そんなことを考えさせられる作品でした。 芳野千鶴は、小学1年の夏休みに出掛けた母親との二人旅の直後に捨てられ、父と祖母に育てられるが、二人の肉親も亡くし、ひとりとなる。 高校卒業後就職し、同じ会社の男性と結婚するが、DVで離婚。その後も元夫からは逃げられず、暴力を振るわれ続け、金を取られるという不幸な生活が続く。 しかし、賞金欲しさに「夏の思い出」をラジオ番組に投稿したことで、千鶴の人生が変化していく。 その投稿は母親との夏の旅の思い出。それを聞いて…

  • 【読書】『おまえなんかに会いたくない』乾ルカ 著

    【あらすじ&ひとりごと】 高校時代のスクールカーストの「いじめ」に関わった生徒たちそれぞれの思いの葛藤、苦悩を描いた小説です。 北海道の高校を卒業した3年6組のクラスメートたちに、10年前の卒業時、校庭に埋めたタイムカプセルの開封を兼ねて、同窓会の開催案内が届いた。 同窓会のSNSが立ち上がり、高校生活を懐かしむコメントに盛り上がる中、「例のタイムカプセルに遺言墨で書いたメッセージを入れた人がいますが、知っていますか」と発信元不明の書き込みがされる。 さらに「岸本李矢さんを憶えていますか」と。 そこに関わる生徒それぞれの視点で現在と過去が語られ、ある事実が明らかになっていく。そして同窓会当日を…

  • 【読書】『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』東野圭吾 著

    【あらすじ&ひとりごと】 東野圭吾さんが紫綬褒章を受章されましたね。 そのときに、 「頭の中にあるのは、読者を楽しませるものを書くということだけです」 「文学性を追わず、ただひたすら娯楽性を求めて書き続けてきました。自分が作家として生き残っていくには、そこにしか活路はないとわかっていたからです。その覚悟だけが信用できる唯一のコンパスでした」 とコメントされていました。 その38年間の覚悟と信念、素敵です。これは東野文学ですね。 『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』を読みました。 相変わらずの軽快なテンポと、またこれまでと違った個性の登場人物が現れ、謎解きの痛快さに頁が進みました。 寂れた…

  • 【読書】グリム童話『しらみとのみ』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その28 『しらみとのみ〈KHM30〉』 【あらすじ(要約)】 しらみとのみが所帯をもち、卵の殻の中にビールをこしらえました。すると、しらみがその中に落ちて火傷をしました。 これが悲しくて、のみが泣き出しました。それを聞いて、開き戸が「のみさん、どうして泣いてるの?」と言うと、「しらみさんが火傷したんですもの」 すると、開き戸がきいきい鳴り出しました。それを聞いて、隅っこにいた箒が「開きさん、どうしてきいきい言ってるの?」と言うと、「きいきい言わずにいられよか、しらみの小僧が火傷して、のみが泣く」 すると、箒はすごい勢いで掃除を始めました。 そこへ通りかかっ…

  • 【読書】グリム童話『黄金の毛が三ぼんはえてる鬼』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その27 『黄金の毛が三ぼんはえてる鬼〈KHM29〉』 【あらすじ(要約)】 昔、貧しい女が男の子を生みました。頭に福ずきんを被っていたので、14歳になるとお姫様を嫁にするという予言がありました。 王様がこの村に来て、何か変わったことはないかと村人に訊ねると、「福ずきんを被った子が生まれたので、14歳になるとお姫様を嫁にもらうだろうと予言する者もいます」と言いました。 王様は腹黒い人でその子の親のところへ行き、親切なふりをして「貧しいようだが、その子を私が面倒を見よう」と言いました。 両親は断りますが、金貨をたくさんくれると言うし運のいい子だと考え、子を王様…

  • 【読書】『神のダイスを見上げて』知念実希人 著

    【あらすじ&ひとりごと】 人類滅亡まで五日間のカウントダウンミステリーです。 残された数日間のパニックを描いた作品は他作でもいくつかありますね。 小惑星「ダイス」が地球に接近し、衝突するかもしれないという「裁きの刻」までの残り五日間、女子大生・漆原圭子が殺された。 人類が終わりを迎えるかもしれないという恐怖に混乱する中、被害者の弟・亮(高校生)は地球が消滅する前に唯一の肉親である姉を殺した犯人を見つけ出し、復讐を決意する。 本作は医療ミステリーではありませんが、やはり作者が医師ならでは、肉親との依存関係や疾病、薬が事件の真相へと繋がっていきます。 犯人を追い詰めながらも真相は二転三転しますが、…

  • 【読書】『誰かがこの町で』佐野広実 著

    【あらすじ&ひとりごと】 高級住宅街で起きたミステリー。 安全安心な町を治めようとする裏側には殺人も厭わない、犯罪をも揉み消す人たち、そんなホラーとも言える小説でした。 弁護士の岩田喜久子のもとに一家で失踪した友人・望月良子の娘・麻希が現れ、家族の失踪について調査を依頼する。 19年前に家族は失踪したが、麻希だけ捨てられ施設で育てられたという。 事務所の調査員・真崎雄一が調べていくと、一家が住んでいた安全安心の町を唱える鳩羽地区で、過去に起きた小学生誘拐殺人事件との関連が浮上する。 また、真崎もいじめで娘を亡くした過去を持ち、娘と麻希を重ね合わせ、不作為の罪を抱え悔恨に苦しみながら事件の真相を…

  • 【読書】グリム童話『唄をうたう骨』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その26 『唄をうたう骨〈KHM28〉』 【あらすじ(要約)】 昔ある国で、猪がお百姓たちの畑を荒らしたり、家畜を殺したり、人間を襲ったりするので、困っていました。 王様は、この災いから国を救ってくれる者には褒美を出すと言いますが、その獣は大きくて力が強いので、誰ひとりその獣が棲んでいる森に行く勇気がありません。 とうとう王様は、この猪を捕まえるか、殺すかした者には、一人娘を妻にやろうというおふれを出しました。 この国に二人の兄弟が住んでいました。貧しい男の二人の息子たちが名乗り出て、一か八か危ない仕事を引き受けると言いました。兄は悪知恵があって、自慢の気持…

  • 【読書】『ただいま神様当番』青山美智子 著

    【あらすじ&ひとりごと】 青山美智子さんの作品は、自身のプライドや卑屈さでいつしか忘れてしまった大切なことに気付かせてくれる、そんなあたたかな物語です。 『ただいま神様当番』を読みました。『お探し物は図書室まで』もよかったですが、こちらも同様に何気ない普段の生活の中での「生き方」というものに気が付かせてくれます。 朝のバス停で同じ時刻のバスを待つ5人(幸せを待つOL、弟にうんざりの小学生女子、リア充になりたい男子高校生、乱れた日本語に悩む外国人教師、零細企業のワンマン社長)がそれぞれ主人公になる連作短編集です。 ある日突然、バス停に置かれた忘れ物を拾うと、主人公は「神様当番」に選ばれ、ジャージ…

  • 【読書】グリム童話『死神とがちょうの番人』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その25 『死神とがちょうの番人』 【あらすじ(要約)】 不幸ながちょう飼いが、白いがちょうの番をしながら大きな川の岸を歩いていました。 そのとき、死神が川を渡ってきたので、どこから来たのか、どちらにおいでなのか、がちょう飼いが聞きました。 死神は、この世の中から立ち去るものだと答えます。 がちょう飼いは、どうしたらこの世の中から立ち去ることができるのかと死神に聞くと、この川を越えて向こう岸にある新しい世の中へ行くだけだと答えました。 がちょう飼いは、この世の生活が嫌になったので、自分を川向こうへ連れて行ってほしいと頼みました。 死神は、まだそのときが来ない…

  • 【読書】『7.5グラムの奇跡』砥上裕將 著

    【あらすじ&ひとりごと】 砥上裕將さんの作品といえばデビュー作の『線は、僕を描く』。横浜流星さんの主演で映画化もされましたね。 水墨画の「線」を描くことで、悲しみを秘めて生きる主人公の「僕」が、失ったものを埋めながら救われていく。繊細な描写がとても印象的でした。 今回は『7.5グラムの奇跡』を読みました。視能訓練士の若者の物語です。 視能訓練士の資格を取ったが、なかなか就職先が決まらない大学卒業間近の野宮恭一。後がない中、面接を受けたのは北見眼科医院というまちの医院。 おおらかな院長は、恭一のしっかりとした思いを感じ取り、即採用することにする。恭一は、失敗を繰り返しながらも先輩たちに見守られ、…

  • 【読書】『神の島のこどもたち』中脇初枝 著

    【あらすじ&ひとりごと】 中脇初枝さんの『神の島のこどもたち』を読みました。 戦争の最前線となった鹿児島県奄美群島の沖永良部島に住む子どもたちを描いた物語です。 主人公のマチジョー(童名)と幼馴染のカミ(童名)は、父や兄を戦争で失い、日々空襲に怯えながら生活するが、貧しくも島の人たちと助け合って生きていた。 戦争は終わるも、島は米政府の統治下に置かれ、復興され豊かになっていく日本本土から分離される。 そんな中、マチジョー一家は仕事を求め、島を出ることになる。一方、カミたちは日本本土への復帰を求め活動を始める。 そして、カミは島を出て行ったマチジョーの帰りを待ちながら自分の将来の夢を考え始める。…

  • 【読書】グリム童話『ブレーメンのおかかえ楽隊』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その24 『ブレーメンのおかかえ楽隊』<KHM27> 【あらすじ(要約)】 ある男が一匹のロバを持っていました。このロバは年をとり、だんだん働けなくなりました。 そこで飼い主は、ロバに餌をやるのをやめようと考えます。 すると、ロバは逃げ出しブレーメンへ向かって出かけました。まちのおかかえ楽隊になれるかもしれないと思ったからです。 少し行くと、猟犬を一匹見つけました。この犬も「年をとって、猟に行っても駆けることができないので、主人に殺されそうになり逃げ出した」と言います。 ロバは「ブレーメンに行って楽隊になる。一緒に入れてもらおう。俺は琵琶を弾く。あなたは鍋太…

  • 【読書】『奔流の海』伊岡 瞬 著

    【あらすじ&ひとりごと】 伊岡瞬さんの作品を初めて読みました。 『奔流の海』、タイトルからとても不穏な雰囲気を感じながら手に取りましたが、悲しい運命に抗って、その苦しみの中に必ず存在するであろう希望を求め、そして現実から逃げない強い意志を持ち生きる、そんなラストに心が救われました。 静岡県千里見町を襲った台風によって土砂崩れに巻き込まれ、避難時にすり替わってしまった赤ん坊。その不運な運命をたどり、本当の自分を探し求めるひとりの大学生の物語です。 そして、一年前に父親を交通事故で失った千里見町で旅館を営む一人娘のストーリーも同時に進行していきます。 その二人の主人公が登場して、それぞれのストーリ…

  • 【読書】グリム童話『赤ずきん』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その23 『赤ずきん』<KHM26> 【あらすじ(要約)】 昔、小さな愛くるしい女の子がいました。この子を一番かわいがっていたのは、お祖母さんでした。 あるとき、お祖母さんは赤いビロードの頭巾をあげました。これがこの子にとてもよく似合って、他のものをかぶろうとしなくなったので、皆がこの子を赤ずきんと言うようになりました。 ある日、お母さんが「お菓子とぶどう酒をお祖母さんのところへ持って行ってちょうだい。病気で弱っているから、これを食べると体にいいのよ。それから外へ出たらおてんばしないで歩くこと、脇道へ入っちゃダメ。転んで瓶を割ったら、お祖母さんにあげるものが…

  • 【読書】『桜風堂夢ものがたり』村山早紀 著

    【あらすじ&ひとりごと】 『桜風堂ものがたり』『星をつなぐ手』に続くシリーズ最新作の『桜風堂夢ものがたり』です。 主人公の月原一整を取り巻くひとりひとりの物語を綴る四話からなるオムニバスになっています。 今作品は、田舎町にある書店で店長として働く一整のその後のストーリーではなく、シリーズ作品に登場する人たちが、一整に会うため桜風堂書店へと向かう峠道で不思議な奇跡に出会うファンタジーな物語です。 それは、会いたいけれど会えない誰かに会えたりする奇跡。 なんとなく、『コーヒーが冷めないうちに』のようかな。(再読したくなりました) シリーズも長くなるとどうかと思うけど、一整とそこに取り巻く人たちのそ…

  • 【読書】グリム童話『七羽のからす』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その22 『七羽のからす』<KHM25> 【あらすじ(要約)】 昔、ある男に息子が七人いましたが、娘は一人もいないため、娘をとても欲しがっていました。 そのうちに、おかみさんに子どもが生まれると待ちに待っていた女の子でした。 男はとても喜びました。けれども、子どもは小さく、痩せこけて体が弱いため、すぐに洗礼を受けさせなければなりませんでした。 父親は、男の子の一人を泉にやって、洗礼の水を持って来させようとしました。 すると、他の子どもたちも一緒にかけていき、競争で水を汲もうとしたので、壺が泉の中に落ちてしまいました。 皆どうしていいかわからず、帰ろうとしませ…

  • 【読書】『パラソルでパラシュート』一穂ミチ 著

    【あらすじ&ひとりごと】 大阪を舞台に、毎日に変化のない企業受付社員の女性とお笑い芸人たちとの友情を育んでいく物語です。 内容は違うけれど、又吉直樹さんの『花火』を別の視点で描いたようなイメージを持ちました。 29歳を迎えた柳生美雨(やないみう)は、契約社員として企業の受付で働く。 肩をたたかれるまであと一年となったとき、売れないお笑い芸人の矢沢亨と出会い、その相方の弓彦、そして仲間の芸人たちとの交流を通して、しっかり互いを見つめ合い友情を深め、退屈だった自分の人生に輝きを見つけていく物語です。 全体的にテンポがよく読みやすくて、一穂さんの描くお笑いネタがなかなか適度におもしろい。 お笑い芸人…

  • 【読書】『迷子の龍は夜明けを待ちわびる』岸本 惟 著

    【あらすじ&ひとりごと】 日本ファンタジーノベル大賞2020優秀賞作品です。 とても物静かな雰囲気と独特な世界観の中に寂しさと温もりが同居するような物語でした。 天空族のセイジ(女性)は、余命が残り少ない老人のために妻の遺した天空語で書かれた日記を読み聞かせてやってほしいという依頼を受け、人里離れた森の屋敷へと訪れる。 そこには、その老人の家族を襲った悲しい事件の真相が眠ったまま、少年の亡霊と過去を秘めたまま消えようとする龍が彷徨う。 そして、彼らを救うためにセイジはある決意をするが、天空族の秘密も解き明かされていく。 タイトルにある「龍」のイメージで壮大なファンタジーものと、勝手に想像して読…

  • 【読書】グリム童話『ホレのおばさん』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その21 『ホレのおばさん』<KHM24> 【あらすじ(要約)】 ある寡婦(ごけ)さんに二人の娘がいました。 その一人は美しくて働き者で、もう一人は器量が悪く怠け者でした。 けれども、母親は器量が悪い怠け者の娘が本当の娘なのでずっとかわいがり、もう一人の娘は、家中の仕事を一人で引き受け、灰だらけになって働かなければなりませんでした。 かわいそうにこの娘は、井戸のそばに座らせられて、指から血が出るほどたくさんの糸を紡がなければなりませんでした。 ある時、糸巻きが血だらけになったので、井戸にかがみ、糸巻きを洗おうとしたら、井戸の中に落としてしまいました。 娘は泣…

  • 【旅】鳴子温泉を訪れました♨️

    鳴子ホテル 6月30日(金)、7月1日(土)で宮城県大崎市にある名湯鳴子温泉に行ってきました。湯色がさまざまな色に変化するという鳴子温泉。 そして、「こけし」が伝統工芸品として有名ですね。温泉街のお店にはかわいらしいこけしがたくさんありました。 以前から一度訪れてみたい温泉地でしたので、少し遠かったですが泉質、宿とも大満足でした。 「回転鮨 清次郎(仙台泉店)」で昼食 「バナナマンのせっかくグルメ」で日村さんが訪れていたとは知りませんでした 宿泊先に向かいながら、まずはお目当ての「回転鮨 清次郎」にて昼食。 ネタが新鮮だと、こうも味が違うとは。魚の臭みがなく甘味がすごい。北関東の海なし県では考…

  • 【読書】『クスノキの番人』東野圭吾 著

    【あらすじ&ひとりごと】 『クスノキの番人』を読みました。 いつもの東野さんらしいミステリーではなく、むしろファンタジーというか、スピリチュアルでとても神秘的な物語でした。 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のようなやさしく、人が生きて行くことに希望を持てる物語。 不当に職場を解雇され、その腹いせに会社に忍び込み、窃盗未遂で逮捕された直井玲斗のもとに突然弁護士が現れた。 依頼人は明かされず、心当たりもないが、その依頼人の「命令」を聞くなら釈放されるよう動くと言う弁護士に、今後に考えをめぐらすが玲斗は従うことにする。 釈放され、依頼人の待つ場所へ行くと、柳澤千舟と名乗る年配の女性は、それは伯母であった。玲斗…

  • 【読書】『まち』小野寺史宜 著

    【あらすじ&ひとりごと】 ストーリーの続編ではないですけど、『ひと』『まち』『いえ』の3シリーズとなっている『まち』を読みました。 『ひと』も自分の心の中にするっと入ってくるような、淡々としていてやさしい雰囲気が伝わる作品でしたが、今作も同様の気持ちになりました。 尾瀬ヶ原の広がる群馬県片品村で歩荷(ぼっか)をする祖父に育てられた江藤瞬一。 歩荷とは、食料や燃料などを麓から山小屋へと運ぶ仕事のこと。数十キロもの荷物を背負い、十数キロの山道を登り、ときには二往復することもあるという。この「歩荷」という言葉を私は知りませんでした。 瞬一は、高校卒業後、祖父の勧めで上京し一人暮らしを始める。祖父から…

  • 【読書】グリム童話『はつかねずみと小鳥と腸づめの話』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その20 『はつかねずみと小鳥と腸づめの話』〈KHM23〉 【あらすじ(要約)】 昔、はつかねずみ、小鳥、腸づめが友達になって所帯をもち、仲良く豊かに暮らしていました。 小鳥の仕事は、毎日森で薪を取ってくること。はつかねずみは水を汲み火をおこしてお膳立て、腸づめは料理をする役でした。 幸せ過ぎる者は、何か違ったことをしてみたいと思うものです。 ある日、小鳥は別の鳥に会い、「 おまえが骨折って働いてる間に、あとの二人は楽をしているぞ 」と言われます。 確かに、はつかねずみは火をおこし、水を汲んでしまえば自分の部屋に引っ込んで、お膳立てまで休んでいられるし、腸づ…

  • 【読書】『スワン』呉 勝浩 著

    【あらすじ&ひとりごと】 冒頭から、大型ショッピングモールでの大量無差別殺人が始まり、一人の人間の死の真相をめぐって、生き残った人たちが互いに嘘をつき、真実を隠す。そして結末を迎えるまで息をつかせない内容に、強烈な一撃を見舞われたような感覚でした。 読後のこの気持ちの高揚は何だろう。そんなインパクトの強い作品でした。 大型ショッピングモール「スワン」で死者21名を出した無差別銃殺事件。 犯人は自害し事件の関係者5人が生き残るが、そのうちの一人である高校生の片岡いずみは、事件現場で犯人と接しながらも生き延びた。 そして、いずみは、被害者のはずが犯人と接していたことで非難される側へと一転していく。…

  • 【読書】『月まで三キロ』伊与原 新 著

    【あらすじ&ひとりごと】 初めて読んだ伊与原 新さんの作品が『八月の銀の雪』。一話一話の短編集がどれも心地よくて、今回も期待して『月まで三キロ』を読みました。 本作品は、同様に六篇からなる短編集で、伊与原さんが大学で専攻されていた地球惑星科学の知識を織り交ぜながら、人との触れ合いをさらりと描いた、心の奥の琴線に触れる優しい物語でした。 どれも一話が40頁程度なので空いた時間に一編を読むことができます。 『八月の銀の雪』も短編ゆえのさらっと心を流れていく切なさや暖かさが短く綴られていたのですが、本作も気持ちが穏やかになる素敵な物語でした。 六遍の中の表題作『月まで三キロ』では、死に場所を探してタ…

  • 【読書】グリム童話『子どもたちが屠殺ごっこをした話』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その19 『子どもたちが屠殺ごっこをした話』第一話・第二話 【あらすじ(要約)】 第一話 西部フリースランド(オランダ)のフラネッケルという小都会で五~六歳くらいの男女の子どもたちが遊んでいました。 やがて子どもたちは役割を決め、一人の男の子に、お前は牛や豚をつぶす人、またもう一人の男の子には料理番、またもう一人の男の子には豚だよと言いました。 それから女の子にも役をつくり、一人は料理番、もう一人は料理番の下働きにしました。この下働きは腸詰をつくるときに豚の血を容器に受ける役目です。 役割を決めると、豚をつぶす人は豚役の男の子につかみかかり、ねじ倒し、小刀で…

  • 【読書】『傷口はきみの姿をしている』九条時雨 著

    【あらすじ&ひとりごと】 九条時雨さんの作品『傷口はきみの姿をしている』を読みました。「高校生の心情を繊細に描く」という一文に、どんな青春群像が描かれているのか気になり読んでみました。 私は九条さんという作家さんを知りませんでしたので、巻末のプロフィールを先に見てみると、千葉県出身の方。 「犬、ブランコ、ベビーカステラが好き」、「創作以外で筆不精をなんとかしないと」など、自己紹介文のようでほっこりしましたが、作品は若者の内に秘める鬱屈としたものが描かれた小説でした。 心に傷を持つ高校2年・卯月遥臣(うづきはるおみ)、通称「ハル」は級友と深く関わりすぎないよう適度に距離をおき、高校生活を過ごして…

  • 【読書】『水を縫う』寺地はるな 著

    【あらすじ&ひとりごと】 寺地はるなさんの作品は、べったこ (id:kuroneko356)さんがたくさん読まれていて、以前から私も読みたいと思っていました。 物語は日常的なことであるけれど、澄んだ言葉が心の中にあたたかく流れていくようで、とても心に響く清々しい家族小説でした。 本作は、六章から構成され、各章の主人公が切り替わり、家族それぞれの視線で描かれています。 物語の中心は松岡清澄(高1)。一歳のときに親が離婚し、母と結婚を控えた姉、そして祖母との四人暮らし。 清澄は、手芸が好きなことで学校で浮いているが、結婚を控えた姉のためにウェディングドレスを手作りしたいと言う。華やかなものが苦手な…

  • 【お散歩】キジが鳴くのは地震の予言⁉

    とても暑くなってきましたね。私は毎朝90分ほど散歩していますが、朝とはいえ気温は上がっていてそろそろ暑さがしんどくなってきました。 いつも河川敷の土手沿いを橋から橋へ一周してくるのですが、最近よく鳴き声や姿を見かけるのがキジです。 私が住んでいるところは田舎なので、カラス(都会でもいるかな)やサギ(シロ、アオ)、カワウの群れはふつうによく見かけます。 でも、河畔林にキジも見かけて国鳥とはいえここではそれほど珍しくありません。(種類はわかりませんが) きょうは、キジを4羽見かけました。(鳴き声はそれ以上です) すべてオスで「ケーン、ケーン」というか金属を擦ったような甲高い鳴き声です。そのとき力を…

  • 【ひとりごと】『自分がどう生きるかを選ぶのは自分』(『嫌われる勇気』)

    人生とは誰かに与えられるものではなく、自ら選択するものであり、自分がどう生きるかを選ぶのは自分なのです。 『嫌われる勇気』を読みました。 今回は【読書】というよりは【ひとりごと】です。 私は自己啓発本というものをあまり読んだことがないのですが、はてなブログでも多くの方が紹介されているので、たまたま中古本が目に留まり購入しました。 哲人と青年の対話構成になっていて、議論にハラハラしますが、それが問題を掘り下げられていてとてもわかりやすかったです。 これは、ソクラテス哲学の伝統を踏まえているわけなんですね。 それはさておき、アドラーの考えにはとても共感することができました。人生の問いに対してとても…

  • 【読書】グリム童話『なぞなぞ』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その18 『なぞなぞ』〈KHM22〉 【あらすじ(要約)】 昔、ある国の王子が世界を見て回りたいと、家来を一人だけ連れ出発しました。 ある日、森へ入り日が暮れ、宿を探していると若くてきれいな娘が小さな家へ歩いていくのが見えます。 王子は「今夜、泊めてもらえるだろうか」と話しかけます。 娘は「泊まれないことはないが、お勧めしない」と言いました。 王子がたずねると、娘は「母親が悪い術を使い、客を大切にしない」と言います。 王子は、魔女の家だとわかりましたが、夜もふけ、先へ行くことができず、怖くなかったので家に入っていきました。 婆さんは、椅子に座って知らない客人…

  • 【読書】『夏物語』川上未映子 著

    文藝春秋(2019) 【あらすじ&ひとりごと】 出版されてもう4年近くたつ、川上未映子さんの『夏物語』。今頃になってしまったけど、ゆっくりとじっくり読むことができました。 人が生きていく中で、男性がいて女性がいる、そして仕事、出産、家族との生活などなど、自分らしく生きられる時代。 そんな現代において、さまざまな生き方をしていく中で考えさせられる、チクリと心に刺さる作品でした。 大阪から小説家を目指し上京した主人公・夏目夏子。相手がいないのに、自分の子どもに会いたいという密かな思いが芽生えはじめ、パートナーなしの出産を考え始める。そこに精子提供で生まれた、実の父親を探す逢沢潤と出会う。 冒頭から…

  • 【読書】『本を守ろうとする猫の話』夏川草介 著

    小学館(2017) 【あらすじ&ひとりごと】 ストーリーの進行のはやさに唐突感を抱きながら読み始めましたが、そのリズムに合わせていくと徐々に物語に吸い込まれていきました。 この序盤からおやおやという感じは何だろうと思いましたが、細かいことは気にせず、ストーリーを追っていくと、主人公のもとに猫が現れ、本が閉じ込められた迷宮へといざない本を解放するという、とても微笑ましく暖かい物語でした。 本を愛する引きこもりの主人公・夏木林太郎(高校生)は、古書店を経営する祖父を亡くし、一人ぼっちとなるが、叔母に引き取られることになり、引っ越しまでの間、人間の言葉を話す猫が現れ、不思議な世界に閉じ込められた本を…

  • 【ひとりごと】私は歩いて、ヤツは飛んでいますね🌲🌲🌲🤧

    歩くのにとてもよい季節になりましたね。 私は毎朝90分ほどウォーキングというか、散歩というほうが適当かもしれませんが、橋から土手沿いを歩き、次の橋を渡って反対側の土手沿いを進んで一周しています。 毎日歩いていると、土手沿いに咲き始めた菜の花が日に日に増えてきているのが実感できます。 そして、おもしろいのは、モグラが地中から土を押し上げたモグラ塚も増えています。 モグラ塚がたくさん まだ土に湿気の含んだモグラ塚を1~2分じっと見ていると土がモコモコするときがあります。モグラが少し顔出さないものかと見ていますが、なかなか出てきません。日中は無理ですね。また観察してみますが。 そんな楽しい散歩中に気…

  • 【読書】グリム童話『灰かぶり』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その17 『灰かぶり』〈KHM21〉 【あらすじ(要約)】 お金持ちの男の妻が病気になり、死ぬときに幼い一人娘に、「いつも神様を大事にして、気立てよくすれば神様は助けてくれて、母さんも天国から見ている」と言い亡くなりました 娘は毎日墓で泣いていましたが、神様を大事にして気立てよくしていました。 それから父親は別の妻を迎え、二人の娘の連れ子がいて、美しくて白いのは顔だけで心は汚く真っ黒でした。 その時から継娘として辛い日々が始まり、綺麗な着物は剥ぎ取られ、古い汚い服を着せられ、木の靴をあてがわれました。 それから日の出前に起き、水を運び、火を焚き、食事の準備、…

  • 【読書】『わたしをみつけて』中脇初枝 著

    ポプラ社(2013) 【あらすじ&ひとりごと】 中脇初枝さんの作品を読むのは3冊目。児童文学作家でもあり、童話や絵本も書かれています。 以前、『世界の果てのこどもたち』『きみはいい子』を読んで、子どもが生きる中で大人がどうあるべきかを描く物語がとても印象的でした。 これらの作品より以前に書かれた『わたしをみつけて』ですが、人が人を見守って・見守られる、そしてまた見守っていく、ということの大切さを感じました。 生後間もなく親に捨てられ、児童養護施設で育った主人公・山本弥生。名前は3月に生まれたから「弥生」ではなく、3月に捨てられたから。 自宅近くの病院に准看護師として勤務するが、仕事が終わると自…

  • 【読書】『十字架のカルテ』知念実希人 著

    小学館(2020) 【あらすじ&ひとりごと】 『祈りのカルテ』がドラマ化されていましたね。てっきり『十字架のカルテ』は、その後を描く「カルテ」シリーズかと思っていました。 今回は、院内のセクション、登場人物も変わり、精神鑑定医が主人公となり、犯罪者の心の闇に迫る医療ミステリーです。 最終話では、ダニエルキイスさんの作品を思い出しました。 過去に友人を殺され、自身に十字架を背負う新人医師・弓削凛は、当時の事件の全貌を知るために、日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願する。 凛は、影山とともに犯罪者の心の闇に対峙していくが、自分が追い求める過去の事件の真相に向き合うときがくる。 本作品は、五話か…

  • 【ひとりごと】おばあさんと地域に愛された食料品店(回顧)

    私が前職で福祉のセクションに配属されていたときのことです。 昔から地域の生活を支えた歴史あるスーパーが昨年閉店となったことで、当時、そのお店に通っていたおばあさんのことを思い出しました。福祉の制度を利用しているおばあさんで、私はそんな方々を120世帯ほど担当していました。 このおばあさんは一人暮らしで、身内は遠方に住む妹だけでした。 私は、三ヶ月に一度、おばあさんを訪問することになっていて、決まって留守のときは自宅から歩いて5分程度のところにあるそのスーパーに買い物に行っていました。私がスーパーに向かうと、ヨロヨロと買い物袋を提げて、帰り道を歩いているので、袋を持ってあげて自宅まで一緒に帰った…

  • 【読書】グリム童話『いさましいちびっこのしたてやさん』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その16 『いさましいちびっこのしたてやさん』〈KHM20〉 【あらすじ(要約)】 夏の朝、ちびの仕立屋さんが一生懸命縫物をしていました。 そこにお百姓さんのおかみさんがジャムを売りに来たので買いました。 仕立屋さんはパンにジャムを塗りますが、食べる前にこのジャケツを仕上げてしまうことにします。 そのうちに、ジャムの甘い匂いにハエが誘われて、パンの上に集まってきたので、仕立屋さんは布きれでハエを叩きました。布きれを見ると、7匹のハエが死んで手足を伸ばしています。自分のいさましさに我ながら感心します。 仕立屋さんは町中に知らせてやろうと、帯を一本縫い上げ、それ…

  • 【読書】『ムーンライト・イン』中島京子 著

    角川書店(2021)【あらすじ&ひとりごと】 中島京子さんの作品は初めてです。直木賞受賞作品の『小さいおうち』のイメージだけで、今まで読んだことはありませんでした。 登場する人物は、それぞれ事情を抱える訳ありですが、味があってとてもユーモア。後味のよい作品でした。 職を失った青年・栗田拓海は、自転車旅行中に雨に降られ、窓の灯りとおいしそうなスープの匂いにひかれ、古びた建物「ムーンライト・イン」を訪ねる。 そこには、かつてペンションであったが今は世代の違う3人の女性がそれぞれ事情を抱えて過ごしていた。 そして一晩限りの雨宿りのつもりが、拓海もしばらく居候することになり、奇妙な共同生活が始まる。 …

  • 【読書】『希望の糸』東野圭吾 著

    講談社(2019) 【あらすじ&ひとりごと】 読み始めて、刑事・加賀恭一郎シリーズだと気付きました。東野さんのこのシリーズは、『眠りの森』を読んだのみ。 映画では、『麒麟の翼』、『祈りの幕が下りる時』を観ましたが、原作は読んでいません。 『祈りの幕〜』では、加賀の生い立ちが明らかにされ、シリーズの完結とのことでしたが、本作は加賀の従弟・松宮刑事が主人公で描かれ、続編ということになるのでしょうか。 加賀恭一郎といえば、もう阿部寛さんのハマり役で、原作を読んでいてもあの顔と滑舌が浮かんでくるぐらい。 震災によって幼い二人の我が子を失った家族と、老舗旅館を営む女将の家族、そして喫茶店を営む女性の話。…

  • 【読書】グリム童話『漁夫とその妻の話』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その15 『漁夫とその妻の話』〈KHM19〉 【あらすじ(要約)】 昔、漁師とおかみさんが、汚い小さな家に住んでいました。 ある日、漁師が釣りに出かけると、一匹のカレイが釣れました。 漁師はそのカレイを売ろうとしますが、カレイに話しかけられ、自分は魔法をかけられた王子と言い、お礼をするから海へ戻してほしいと話します。漁師はビックリしましたが、カレイをカゴから出してやり、海へ放してやりました。 漁師は家に帰り、そのことをおかみさんに話すと、お礼をすると言っているのだから、こんな汚い家ではなく、小さくても新しい家がほしいと今すぐカレイのところに行って、願いごとを…

  • 【読書】『犬がいた季節』伊吹有喜 著

    双葉社(2020) 【あらすじ&ひとりごと】 読み心地がとてもさわやかな小説でした。 私が犬好きもあってか手にした一冊ですが、人と犬との共生を描くありがちな内容ではなく、18歳の高校生たちの決意や友情、恋愛、そして新たな出発を犬が静かに優しく見守っていくという美しい一冊でした。 高校に迷い込んだ「シロ」と呼ばれていた子犬は、生徒の努力で学校で飼うことを許され、ちょっとしたできごとから名前を「コーシロー」と名付けられる。 高校で拾われ、育てられるコーシローをめぐって、昭和から平成、令和の春から春へと季節がめぐり、コーシローが見守り続けた18歳たちの思いを描いた作品です。 本作品は連作短編で、どの…

  • 【読書】『縁(YUKARI)』小野寺史宜 著

    講談社(2019) 【あらすじ&ひとりごと】 小野寺史宜さんらしい作品でした。 やはりテーマは「人と人との繋がり」。 私が言うのも変ですが、心に深く刻まれる文章というわけではない(と感じている)のに、人と人が触れ合っていくことによって起きる、さまざまな些細な問題に傷つきながらも、またちょっとしたことで気持ちを回復していく、そんな日常的な描写をさらりと綴っていく内容に惹かれます。 この作品は、四編から連なる短編で、「霧 KIRI」「塵 CHIRI」「針 HARI」「縁 HERI」とそれぞれ主人公(視点)が変わり、つながっていきます。そして最後に「終 OWARI」で回収されます。 読みながら、普段…

  • 【ひとりごと】2023日の出

    渡良瀬川に架かる橋から見る初日の出(2023) 明けましておめでとうございます🎍 本年もよろしくお願いします。 元旦は、お昼からお酒をいただきました。とても美味しい日本酒で、 栃木の「東力士純米極雫」と北海道の「十勝晴れ」です。 【那須烏山市のやや発泡した日本酒】 【十勝の雑のない純米酒】 とても飲みやすい美味しい日本酒でついつい飲み過ぎてしまいました。 お目にされた方は、ぜひ飲んでみてください。 振り返ると、 昨年3月に公務員を早期退職し、その後自身のリハビリのような意味も含めて、5ヶ月間アルバイトをしたことで、新たな人との出会いもすることができました。 好きな読書はというと、昨年一年を振り…

  • 【読書】グリム童話『わらと炭とそらまめ』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その14 『わらと炭とそらまめ』〈KHM18〉 岩波文庫(1979) 【あらすじ(要約)】 どこかの村に貧乏なお婆さんがいました。 お婆さんはそらまめを煮るつもりで、かまどに火をおこして、わらをひとつかみ、くべました。 そらまめをお鍋にあけるとき、滑り落ちた一つが土間へ落ちると、わらの隣へ転がりました。 それから、炭が一つはねて、その隣に転がって行きました。 わらがどこから来たのかと聞くと、炭が火の中から跳ね出してきた、このままだと灰になるところだったと言います。 そらまめもぐつぐつ煮られてドロドロになる前に逃げ出してきたと言いました。 すると、わらが自分の…

  • 【読書】『自転しながら公転する』山本文緒 著

    新潮社(2020) 【あらすじ&ひとりごと】 とても読みやすい、心に残る作品でした。 以前からずっと読みたいと思いながらも数年が経ち、やっと手にした一冊。 この作品は、茨城県牛久市を舞台にアラサーの女性を主人公として、恋愛や仕事、家族との関係に悩む姿が描かれた物語です。 誰しもがそんな悩みを一つ二つ当たり前のように抱えていることなので、性別や年齢に関係なく、とても共感させられました。 主人公は、親の介護のため東京のアパレル会社を辞め実家に戻り、アウトレットモールの衣料品店で働いている。 32歳となり、友人が結婚していく中、仕事や恋愛、家族との関係など、自分の将来が不明確な状況に悩みながらも進も…

  • 【読書】『デス・ネイル』森山東 著

    角川文庫(2006) 【あらすじ&ひとりごと】 森山東さんの日本ホラー小説大賞短編賞『お見世出し』に続く2作目『デス・ネイル』を読みました。 16年前に刊行された文庫本です。表紙からすでにおぞましい雰囲気ですね。 本作品は、表題を含む四編からなる短編集です。 「デス・ネイル」 ある遺品の力によってカリスマへと上りつめたネイリストが、欲と高慢さによって転落していく。 「幸運を呼ぶ魚」 幸運を呼ぶ魚・アロワナを購入し振り回される父親の悲劇。 「月の川」 同じフロアのマンションに住む美人な人妻の得体の知れない恐怖。 「感光タクシー」 修学旅行に訪れた高校生が、班別行動のためタクシーに乗車するが、そこ…

  • 【読書】グリム童話『白へび』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その13 『白へび』〈KHM17〉 【あらすじ(要約)】 昔あるところに賢い王様が住んでいました。 王様には変わった習慣があり、毎日お昼の食後、だれもいなくなると、信頼の厚い召使いが、もう一皿持ってきます。それには蓋がされ、その召使いも何が入っているのか知りません。王様は一人にならないと食べようとはしないからです。 ある日、召使いは中身が知りたくて皿を自分の部屋に持っていき、蓋をとってみると中には一匹の白ヘビが入っていて、少し切って、口に入れました。 舌に触った途端、外からひそひそ話が聞こえ、召使いはヘビを食べたせいで、動物たちの言葉がわかるようになりました…

  • 【読書】『お探し物は図書室まで』青山美智子 著

    【あらすじ&ひとりごと】 はじめて読む青山美智子さんの作品、『お探し物は図書室まで』。 表紙の写真には本のほか、猫やカニ、飛行機などの羊毛フェルトが生きているようで、今にも動き出しそうです。 そして、帯には、「お探し物は、本ですか?人生ですか?」と書いてあります。 頁を開く前に物語に流れる温かさに引き込まれそうです。 本作品は、五章から連なる短編集です。 「二十一歳婦人服販売員」 「三十五歳家具メーカー経理部」 「四十歳元雑誌編集者」 「三十歳ニート」 「六十五歳定年退職」 それぞれの主人公が図書室を訪れ、自身の生き方に気付いていく物語です。 その人たちをさりげなく導いてくれるのが、図書館司書…

  • 【読書】『傷痕のメッセージ』知念実希人 著

    角川書店(2021) 【あらすじ&ひとりごと】 知念実希人さんの作品は、医療とミステリーの融合。 エンターテイメント性に富んだ作品は、東野圭吾さんのようで、どれもおもしろくて、リズミカルなテンポでサクサク読み進めることができます。 そして、ミステリーのなかにもハートフルな展開があり、読者を飽きさせない魅力があります。 主人公の医師・水城千早は、父・穣が「死んだらすぐに遺体を解剖して欲しい」という遺言から、病理医の友人・紫織とともに遺体を解剖することになる。 父の胃の内壁には、内視鏡によって暗号が刻まれており、紫織と協力しその暗号を読み解こうとする。 そこには、28年前、穣が追っていた連続殺人事…

  • 【読書】『連続殺人鬼カエル男』『連続殺人鬼カエル男ふたたび』中山七里 著

    宝島社(2011 2019) 【あらすじ&ひとりごと】 タイトルの「カエル男」と、その表紙の可愛らしさが目に付き、手にした中山七里さんの『連続殺人鬼カエル男』、『連続殺人鬼カエル男ふたたび』。 ところが、頁を開いて各章のタイトルを見るともう戦慄は始まっていました。 マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体が発見される。 そこには、「きょう、かえるをつかまえたよ」という幼児が書いたような文字の稚拙な犯行声明文が残され、街を恐怖と混乱へと陥れる殺人鬼「カエル男」による犯行が始まる。 この作品は、残忍極まりない連続殺人事件のなかに、刑法39条の是非を問う社会派小説として整えつつ、二転三転す…

  • 【読書】グリム童話『三まいの蛇の葉』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その12 『三まいの蛇の葉』〈KHM16〉 【あらすじ(要約)】 あるところに、貧しい男がいましたが、貧乏がひどくなり、ひとり息子を養えなくなりました。息子は、これ以上父親の重荷になるのがつらくなり家を出ます。 このとき、国は戦争中で、息子は戦争で手柄をあげ、王様は宝物を授けました。 王様にはひとり娘がいて、とても美しい方でしたが、相当な変わり者でした。 自分が死んだとき一緒に、生きながら埋葬されてもいいと約束できる人でなければ、結婚しないというのです。 逆に相手が先に死んだら、自分も一緒に埋葬されると言います。 男は、お姫様の美貌にまいっていたので、王様に…

  • 【読書】『山亭ミアキス』古内一絵 著

    角川書店(2021) 【あらすじ&ひとりごと】 「日常から逃げ出したいあなたへ」 「美味しいごはんと、不思議な従業員がお待ちしております」 そんな帯に目が留まり、手にした古内一絵さんの『山亭ミアキス』。 「ミアキス」って聞いたことがある言葉だなぁとググってみると、イヌやネコ、アシカなどの祖先である太古の動物。なるほど表紙もしっかりクロネコでした。 古内さんの作品は初読みです。 ファンタジーの中に、幼児虐待やパワハラ、セクハラなどの社会問題が盛り込まれ、ダークでちょっとしたホラーファンタジーの様相でした。 心に迷いや悩みを抱える人たちが、迷い込んだ先にある「山亭」。 そこには、美形のオーナーと不…

  • 【読書】『魔力の胎動』東野圭吾 著

    角川書店(2018) 【あらすじ&ひとりごと】 定期的に東野圭吾さんのエンターテイメント性に富んだ作品を読んで楽しんでいます。 今回は『魔力の胎動』。『ラプラスの魔女』の前日譚です。 本作品は、五編からなる連作短編集で、四編までは鍼灸師・工藤ナユタの視点で描かれ、不思議な力を持つ少女・羽原円華によって、悩める人たちが救われていく物語です。 そして、最後の五編目が『ラプラスの魔女』へと繋がっていきます。 円華が自然現象を予測する能力によって人が救われて、さらにはナユタ自身も問題を抱えていることに気付きはじめ、彼をも救っていく。 社会問題も散りばめられ、東野さんらしさを感じます。 そして、この物語…

  • 【読書】グリム童話『ヘンゼルとグレーテル』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その11 『ヘンゼルとグレーテル』〈KHM15〉 【あらすじ(要約)】 どこかの大きな森の入り口に貧しい木こりの夫婦とヘンゼルとグレーテルという名の兄妹が住んでいました。 生活は苦しく、パンすら手に入らなくなり、ある夜、ヘンゼルとグレーテルは、母親が父親に「もう食べるものがない。明日、森へ出かけて、子どもたちを置き去りにしよう」と話すのを聞きます。 泣くグレーテルにヘンゼルは何とかするからと冷静に言い、庭の白い小石をたくさん集めます。 翌日、子どもたちは森に置き去りにされますが、ヘンゼルが家から小石を落として目印をつけていたおかげで、家に戻ることができました…

  • 【読書】『ライフ』小野寺史宜 著

    ポプラ社(2019) 【あらすじ&ひとりごと】 小野寺史宜さんの作品は、『ひと』を読んでとてもよかったので、今回は『ライフ』を読んでみました。 タイトルから想像できるように、主人公のゆったりと流れていく日々の生活が描かれた物語で、とても現実的な空気感を楽しんで読むことができました。 主人公・井川幹太27歳。大手製パン会社を辞め、今はアルバイトを掛け持ちしながらの気楽なアパートひとり暮らし。 物語は、結婚披露宴の代理出席のアルバイト中、そこに出席する高校時代の同級生と再会するところから始まる。 そして、気楽なアパート暮らしのはずが、2階へ越してきた「戸田さん」との出会いと望まない付き合いが始まる…

  • 【読書】『山女日記』湊かなえ 著

    幻冬舎(2014) 【あらすじ&ひとりごと】 湊かなえさんの『山女日記』を読みました。 ドラマにもなっていて、私は観ていないのですが人気だったようです。そして、原作本の続編も昨年出ています。 湊さんといえば「イヤミス」を楽しむ。楽しむといったら少し嫌らしいですが、人の心の奥底にある気持ちが露骨に出され、何となくモヤモヤするこの後味の悪さが癖になって、ときどきは読みたくなります。 でも本作品は、主人公のそんな心の見え隠れはあるけれど、いつもとは違い、心の清涼剤となった物語でした。 本作は七編からなる連作短編です。 タイトルが『山女日記』、各編のタイトルも山の名前になっていて、悩みを抱えるそれぞれ…

  • 【読書】グリム童話『糸くり三人おんな』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その10 『糸くり三人おんな』〈KHM14〉 【あらすじ&ひとりごと】 昔、怠け者の女の子がいて、糸を紡ぐことを嫌がりました。 母親は、女の子が言うことを聞かないので、腹が立って、つい殴りつけました。 すると、娘が泣いているところに王様のお妃が通りかかり、なぜ泣いているのか尋ねます。 母親は、怠け者の娘を恥ずかしく思い、娘が糸くりをいつまでもしていたいと言うが、うちは貧乏で麻がないとお妃に話します。 するとお妃は、娘を今すぐ御殿へ来させ、嫌と言うほど糸くりをさせてあげようと話します。 御殿に着くと、見事な麻がぎっしりつまった部屋へ連れていき、この麻を残らず紡…

  • 【読書】『六月の雪』乃南アサ 著

    文藝春秋(2018) 【あらすじ&ひとりごと】 ずいぶんと長い間、私の部屋の本棚に置かれていた『六月の雪』。 購入はしたものの、500頁を超える長編に手が伸びず後回しになっていましたが、ようやく読み終わりました。 読み始めると、とてもシンプルなストーリーで舞台となっている台湾、そしてそこに生きる台湾人の温かさに触れ、訪れたくなりました。 一方で日本と台湾との関係や、その歴史を理解することができて、戦後の台湾の悲劇には胸が詰まる思いでした。 声優への夢が破れ、祖母とふたりで暮らす主人公・杉山未来は、入院した祖母を元気づけるために、祖母が生まれたという台湾・台南を訪れる。 戦時中の祖母の人生をたど…

  • 【食】数年ぶりに築地を訪れました

    先週の金曜日に築地に行きました。 市場が豊洲に移転して、まもなく4年が経つので、かれこれ6〜7年は行ってなかったでしょうか。 平日とはいえ、相変わらず賑わっていました。 きれいなマグロの刺身が安くて(スーパーよりもずっと高いのに安いと感じてしまう)、つい買いたくなってしまいます。 以前は、家族が近くの病院に入院していたこともあり、ときどき昼食を取りに市場の場外へ行ったものでした。 今回も当時から行っていた寿司清(本館)さんを数年ぶりに訪れ、ランチをいただきました。 寿司屋さんがたくさんある中でも、どうしても寿司清さんのカウンター席が落ち着きます。 数年ぶりに懐かしかったです。 板前さんと話をし…

  • 【読書】『ギリシャ神話』石井桃子 編・訳 富岡妙子 画

    のら書店(2000) 『クマのプーさん』の翻訳などでも知られる児童文学作家・翻訳家として活躍された石井桃子さんが、小学生や中学生を対象にまとめたギリシャ文学本です。 子どもの頃、アキレウスやヘラクレス、パンドラなどの物語を読んだ記憶があり、もう一度「ギリシャ神話」を読んでみたいと思っていました。 神話って、小説とはまた違って、泥臭いというか、とても興味を惹かれます。 日本の神話でも竹田恒泰さんの『現代語古事記』を読みましたが、相通じるものがありますよね。 神話とはいえ、神様も嫉妬したり恨んだりと、人間臭さがあって、その神が人類を創造したのであれば、今も昔も生きている人間が災いを起こすのは、何ら…

  • 【旅】県民割を利用して箱根湯本温泉へ

    今回は「読書」ではなく、脱線して「旅」のブログです。 最近バタバタしていて、一冊の本すら読み終わらないのに、県民割キャンペーン(地域観光事業支援)の延長に魅せられて、箱根湯本温泉に行ってきました。 この県民割キャンペーン、ご案内のとおり1人1泊あたりの宿泊料金が最大5,000円が割引され、さらに2,000円の地域限定クーポン券が付き、とてもお得でした。 箱根はずいぶん前に何度か訪れたことがあり、宿泊するのは今回が二度目です。 宿へ入る前にまずは1か所目の観光。 箱根関所へ行きました。江戸時代の関所が復元され、旅はここから始まるのだなあと感じました。当時の全国にある関所の数にびっくり。 箱根の旅…

  • 【読書】グリム童話『森のなかの三人一寸ぼうし』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その9 『森のなかの三人一寸ぼうし』〈KHM13〉 【あらすじ&ひとりごと】 昔、妻を亡くした男と、夫を亡くした女がいました。 男には一人の娘、女にも一人の娘がいます。 娘たちは知り合いになり、女のところへ行きます。そのとき、女は男の娘に「私がお父さんと結婚したがっていると言ってほしい。そうしたら、あなたを毎朝ミルクで体を洗わせ、ワインを飲ませてあげる。でも、うちの娘には水で体を洗わせ、水を飲ませる。」と言いました。 その娘は家へ帰り、父親に話します。男は、決めることができず、長靴を脱ぎ、「この長靴には底に穴があいているが、それを屋根裏の大きな釘につるし、そ…

  • 【読書】『僕の神さま』芦沢 央 著

    角川書店(2020) 【あらすじ&ひとりごと】 本作品の帯にある『あなたは後悔するかもしれない。第一話で読むのをやめればよかった、と』という一文。 芦沢央さんの作品『火のないところに煙は』を思い出し、またどんなホラーなのかと、躊躇わずに手に取りました。 小学生の主人公・佐土原くんの視点から物語がすすむ4遍からなる連作集です。 小学生の優しさから起きる日常生活での些細なことから、残酷でとても切ない出来事まで、主人公の友人・水谷くんが小学生らしからぬ洞察力、推理力で解決へと導くストーリーです。 読み進める中でなんともモヤっとする複雑な感覚と不穏な気配に、主人公たちが小学生だということを忘れそうにな…

  • 【読書】『夜行』森見登美彦 著

    小学館(2016) 【あらすじ&ひとりごと】 森見登美彦さんの『夜行』を読みました。 森見さんの作品は『聖なる怠け者の冒険』を読んで以来の二冊目です。 きっとまたあの独特の森見節なる言い回しで、読者の口元を綻ばせるような作品なのだろうと思っていましたが、今作品はがらりと変わり、恒川光太郎さんのホラー系ファンタジーを思い出しました。 京都で学生時代を過ごした仲間が再会し、「鞍馬の火祭」を見物に出掛けることになる。 それは、10年前にも訪れた際、仲間の一人が突然姿を消したことで、もう一度会えるかもしれないという思いを皆抱き、10年ぶりに鞍馬に集まることになった。 夜が更けるなか、それぞれが旅先で出…

  • 【読書】グリム童話『野ぢしゃ(ラプンツェル)』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その8 『野ぢしゃ(ラプンツェル)』〈KHM12〉 【あらすじ&ひとりごと】 昔、あるところに夫婦がいました。 二人は長い間子供を欲しがっていましたが、やっと望みが叶いました。 夫婦の家の裏側には、美しい花や野菜がなる立派な畑がありましたが、そこは魔法使いの女のもので、近づくものはいません。 ある日、妻は畑の野ぢしゃ(ラプンツェル)を見て、どうしても食べたくなります。その気持ちが大きくなり、妻はすっかりやせてしまったので、亭主は妻のために野ぢしゃを取ってきてやろうと考えます。 亭主は魔法使いの畑から野ぢしゃを取って来て、妻に食べさせました。妻はおいしくて次の…

  • 【読書】『戦場のコックたち』深緑野分 著

    創元推理文庫(2019) 【あらすじ&ひとりごと】 深緑野分さんの作品を読むのは、『この本を盗む者は』に続いて二冊目です。 以前、『ベルリンは晴れているか』が気になっていたのですが、大戦終結後の戦争小説ということもあり、手にはしませんでした。 でも、そこにこの『戦場のコックたち』。 戦争小説とはいっても、コック兵としての視点から描かれるものと期待して読みました。 でも当然ながら、戦争の残酷さは描かれ、胸が苦しくなって序盤はなかなか読み進められませんでしたが、戦線の中に次々と起こるミステリ、青年兵たちの友情と葛藤が描かれ、とても読み応えのある作品でした。 舞台は第二次世界大戦ヨーロッパ戦線。 1…

  • 【読書】『さようなら、オレンジ』岩城けい 著

    筑摩書房(2013) 【あらすじ&ひとりごと】 岩城けいさんの作品は初読みです。 大学卒業後、単身渡豪された作家さんです。 本書は少し前に書かれたものですが、太宰治文学賞などを受賞され、芥川賞候補にもなったとのこと。 在豪中のご自身のご経験から書かれた作品ではないかと思われます。 アフリカ難民の女性が異国の地で夫に逃げられ、精肉作業場で働きながら2人の子を育て、異郷で強く逞しく新しい生活を切り拓いていく物語です。 オーストラリアに移民し生活する主人公・サリマの生活が描かれ、また「S」という女性が綴る手紙でのふたつの視点から物語は進みます。 サリマは、母語の読み書きすらままならず、職業訓練学校で…

  • 【読書】グリム童話集『ならずもの』『兄と妹』

    岩波文庫(1979) 『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その7 『ならずもの』〈KHM10〉 【あらすじ&ひとりごと】 雄鶏と雌鶏のつがいは、山へ出かけ、クルミをたらふく食べた後、歩いて帰るのが嫌になったため、クルミの殻で小さな引き車を作りました。しかし、どちらが車を引いていくかで口喧嘩になります。 しばらくすると、遠くから一羽のカモがやってきて、鶏が自分の山のクルミを無断で食べてしまったことに怒り、襲いかかりましたが、負けてしまい罰として車を引かされます。 走っていくと途中で留め針と縫い針に出くわし、車に乗せて欲しいと頼まれ、乗せます。 夜になり、宿屋にたどり着きますが、宿の主人は、うさん…

  • 【読書】『さよならの向う側』清水晴木 著

    マイクロマガジン社(2021) 【あらすじ&ひとりごと】 書店で本書を見かけたとき、昔、山口百恵さんの歌にこんなタイトルがあったなぁと思いながら手にしました。 きっと恋愛小説なのだろうと思い読み始めると、そうではありませんでした。 人が亡くなったとき、最後に一日だけ現世に戻ってくることができ、会いたい人に会う時間が与えられる。 辻村深月さんの『ツナグ』のようですが、本書では「会える人」の条件が違います。 自分の死をすでに知っている人には会えないという。 さよならの向う側と呼ばれる場所にいる案内人が、さまざまな人をエスコートし最後の再会を果たす物語です。 5篇(5人が織りなす再会)からなる連作短…

  • 【読書】『きみはいい子』中脇初枝 著

    ポプラ社(2012) 【あらすじ&ひとりごと】 中脇初枝さんの作品は以前、戦時中の満州で出会った3人の少女の人生を描いた『世界の果てのこどもたち』を読んで、とても感動したことを覚えています。 それよりも前に書かれた『きみはいい子』。 本書は虐待がテーマになっていて、虐待を受ける子どもや高齢者とその家族が描かれ、その家庭に関わる教師や大人たちが悩みながらも思いやりの手を差し伸べ、一筋の光を与えてくれる短編集。 一話一話のストーリーは独立したものですが、ひとつのまちが舞台となっていて、人と人が繋がっていきます。 どの短編も心が苦しくなるけど、最後は希望へと変わっていくことに救われ、目頭が熱くなる作…

  • 【読書】グリム童話集『奇妙な楽人』『十二人兄弟』

    岩波文庫(1979) 『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その6 『奇妙な楽人』〈KHM8〉 【あらすじ&ひとりごと】 昔あるところに奇妙な音楽家がいました。 一人で森の中を通り抜けながら考え事をしていましたが、考える種もなくなりバイオリンを弾き始めると、狼がやってきます。 狼は「バイオリンを習いたい」と言い、音楽家は「わたしの言いつけは何でもやりなさい」と言う。 狼は音楽家についていきますが、しばらく歩くと、柏の老木があり、その空洞の裂け目に両前足を突っ込むよう音楽家は命じます。 そのとおりにした狼の足を音楽家は石で押さえつけてしまい、帰ってくるまで待っているよう言い残し行ってしまいます。 …

  • 【読書】『聖なる怠け者の冒険』森見登美彦 著

    朝日文庫(2016) 【あらすじ&ひとりごと】 森見登美彦さんの作品は初読みです。 ファンタジー作家さんであることだけは知っていました。読後に本書について調べてみたら、各作品に繋がりあって、本作品を読む前に『有頂天家族』『夜は短し歩けよ乙女』を読んでいたほうがさらに楽しめたようです。 でも、とても独特なワールドでした。なかなか馴染むのに時間がかかりましたが、少しずつ免疫がつき始めると楽しくなってきました。 主人公・社会人2年目の小和田君は、仕事が終われば独身寮での夜更かしを楽しみ、休日は「グウタラ」に過ごす怠け者。 ある日、狸のお面をかぶった「ぽんぽこ仮面」との出会いから、京都祇園祭の宵山を舞…

  • 【読書】『ピエタ』大島真寿美 著

    ポプラ社(2011) 【あらすじ&ひとりごと】 大島真寿美さんの『ピエタ』。 18世紀絢爛の水の都ヴェネツィアを舞台にした、とても美しい作品でした。 『ピエタ』というタイトルからは、ミケランジェロの彫刻像を私は最初に思い出す。 イタリア語で「哀れみ、慈悲」。 ページを開くと、それが孤児を養育する「ピエタ慈善院」であることに気付きます。 物語は、ピエタ慈善院で育ったエミーリアという女性の視点で描かれる。 ピエタで音楽の才能に秀でた女性だけで構成する「合奏・合唱の娘たち」を指導していた『四季』の作曲家であるヴィヴァルディの訃報がエミーリアに届くところから始まっていく。 そして、教え子であるエミーリ…

  • 【読書】グリム童話『夜うぐいすとめくらとかげの話』『うまい商売』

    『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その5 『夜うぐいすとめくらとかげの話』〈KHM6〉 【あらすじ&ひとりごと】 昔、目玉を一つずつしか持たない「夜うぐいす」と「めくらとかげ」が仲良く暮らしていました。 ある時、うぐいすは婚礼に呼ばれますが、自分の目が一つしかないことが気になり、とかげに明日返すから一日だけ目を貸してほしいと頼みます。 とかげは承諾し、自分の目をうぐいすに貸しますが、うぐいすは両側を一度に見られることがうれしくなり、翌日になってもとかげに目を返しません。 そのため、2匹は仲違いし、とかげはうぐいすに、子どもたち、そしてその子どもたち、そのまた子どもたちに仕返しをするから覚えて…

  • 【読書】『ひと』小野寺史宜 著

    【あらすじ&ひとりごと】 小野寺史宜さんの本を初めて読みましたが、とても素敵な作品でした。 先行き不安で悲しい現実を突きつけられているのに、なぜかニンマリと微笑ましくストーリーが進んでいく。 鳥取から上京し私大に進学した主人公・柏木聖輔20歳。 しかし、両親を亡くし一人となった聖輔は大学を中退する。 仕事を探そうと思いつつも動き出せない日々が続くが、ある日、空腹から揚げ物の匂いに吸い寄せられ、砂町銀座商店街へと歩くと「おかずの田野倉」にたどり着く。 最後に残った50円のコロッケを買おうとするが、見知らぬお婆さんに譲る。 そこから新たな出会いと自身の未来への再生が始まる。 聖輔の誠実さと優しさが…

  • 【読書】『火のないところに煙は』 芦沢央 著

    【あらすじ&ひとりごと】 芦沢央さんの本は初めてです。作風も知らず、予備知識もなく手にした本、『火のないところに煙は』。 本書はホラー作品なのか、怪談の実話なのか。 ストーリーは、小説新潮から作家(私)に「神楽坂を舞台にした怪談」の執筆依頼がくることから始まる。 「私」は迷いつつも過去の悲劇について執筆を始める。 6話の短編を語るように綴られていて、ホラーとかミステリ小説というよりか、体験談を淡々と話しているような、なんかドキュメンタリーっぽさを感じる。 そんな疑問を持ちながら、読み進めました。 これは芦沢さんが体験(聴いた)したことなのか、あとがきも何もない。 すべて文章が「私」となっている…

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