六本木の夜は、相変わらず人が多い。ネオン、笑い声、タクシーの列。どれだけ時間が経っても、この街は眠る気がないらしい。あきらから、『偽物の道明寺が現れた』と30分前に連絡が来た。急いで邸を飛び出してきたが、店の前に着くと、入口脇の街灯の下に見
六本木の夜は、相変わらず人が多い。ネオン、笑い声、タクシーの列。どれだけ時間が経っても、この街は眠る気がないらしい。あきらから、『偽物の道明寺が現れた』と30分前に連絡が来た。急いで邸を飛び出してきたが、店の前に着くと、入口脇の街灯の下に見
「おい」声をかけると、女刑事が振り返る。一瞬だけ、驚いた顔。「……まだいたんですか?」「帰るつもりだったけどな」ポケットに手を突っ込んだまま、「気になって帰れねぇから、俺も行く」と、言うと、少しだけ間があった。女は、俺の顔をじっと見たあと、
店長に案内され入ったのは、フロアの奥にある半個室だった。店内の喧騒は半減するが、VIPルームという程ではない。白いソファーにピンクのクッション。テーブルの上には、淡いブルーのグラスがいくつか用意されている。そんな華やかな空間に、似つかわしく
「自分たちが会っていた道明寺司は、この人じゃない」女の子たちが語ったこの言葉は、署内に衝撃と安堵をもたらした。もし本当に道明寺司本人が関わっていたら、単なる風俗営業違反じゃ済まされない。マスコミも、政治も、上層部も巻き込む大騒ぎになる。「本
高級クラブ「Lily」の内定調査に入ってから一週間。店の経営者二人とクラブのママに逮捕状が出された。それと同時に、未成年の女の子たちと繋がりがあったと推測される客への事情聴取と裏付け作業が連日続いていた。その中の一人、道明寺司のアリバイを証
三日後。押収した携帯電話の解析が、ひと通り終わった。画面に並んだ顧客リストの中で、あの名前はやはり異様に思えた。彼女たちは店で働き始めて数カ月、他の顧客はさほど大物はいない中、伏字でも偽名でもなく堂々と、何度も繰り返し記録されている。『道明
あたし牧野つくしが警視庁に入って、7年が経つ。配属は、生活安全部・保安課。風俗営業、売春、未成年者保護⋯いわゆる「表に出しづらい案件」を扱う部署だ。あ保安課が扱う事件のうち、被害者や容疑者になるのは若い女性が多い。だからこの部署での自分の役
12月28日。今日は、あたしと冬李の誕生日。今年は、あたしの運転する車で二人でディナーへとやってきた。自分の顔と同じくらいもある大きなステーキに目を輝かせ、嬉しそうに頬張る冬李。その姿を見ながら、あたしの脳裏には、自然と一年前の記憶がよみが
婚約否定のニュースがようやく鎮まりかけた頃、週刊誌の速報が再び火種を投げ込んだ。「石橋希美、違法カジノを運営 多額の借金か」報道は瞬時にSNSで拡散され、批判は当然のように“道明寺”へも向かった。「道明寺と違法カジノの癒着の可能性」「婚約否
それから2日後。俺のオフィスに親父と西田が集まっていた。西田がタブレットを見ながら報告する。「現在、週刊誌側は“年内にも結婚か”という記事の準備を進めているようです。もしかすると、石橋希美が裏で動いてマスコミに圧をかけている可能性もあります
「俺をこれ以上、怒らせるな。」そう警告したはずなのに、希美はまるで分かっていなかったようだ。あの会話から数日後の夜。時刻は二十時を少し過ぎた頃、道明寺邸に一人の来客があった。親父の書斎で仕事の打ち合わせをしていると、扉がコンコンと叩かれ、タ
年が明けて俺は東京へ戻っていた。年末に俺と親父の二人揃って東京にいなかったことにババァが少し怪しんでいる様子だったが、向こうからは何も言ってこない。まだつくしのことはバレていないようだ。そして、ロスにいる間何度も希美から着信があった。希美は
姉ちゃんの家を出たのは22時を回った後だった。親父との話し合いが終わったあと、つくしと姉ちゃんは2人書斎に残り5年分の空白を埋めるかのように話し込み、残った男たちは心愛と冬李が遊ぶ姿を目を細めながら見つめていた。そして、今は義理の兄が運転す
時計の針が19時を回った頃、マンションに司の車が迎えに来た。これから椿さんの家でお父様と話をすることになっている。冬季を一人で置いていけないし、ベビーシッターの花江さんはすでに年末の休みに入っている。どうしようかと迷ったが、お父様が先に「冬
なんて私は淫らで不品行でふしだらな女なんだと考えながらも、濃厚に重なる唇の気持ちよさに抵抗もしないまま身を委ねる。司の息遣いとクチュクチュと鳴る音が身体を痺れさせ、ここが普通の部屋なら間違いなくあたしたちは重なり合いその先へ進んでいただろう
「好きで好きで堪らなかった女と離婚して、それでも何年も何年もその女が忘れられなくて、そんな状態で他の奴と結婚なんてできねーだろ。また失敗するに決まってる。だから、懲り懲りだ。俺にはまだ忘れられねぇ女がいるから。」口に出してみると、この何年も
あれから30分がたった。つくしは今、ドクターから冬季の検査結果の詳しい説明を聞くため、救急室から離れた場所へと連れていかれまだ戻ってきていない。俺の頬を引っぱたいたつくしの目は完全に怒っていた。もちろん、騙すようなことをしたのだから殴られて
司様から重大な任務を2つ授かった。ひとつはそれほど難しいものではなく、スピードが重視なので早速取り掛かることにする。この病院から30分ほどのところに道明寺家が所有するプライベートジェット用の滑走路がある。司様の父である社長が、ロスの孫娘に会
冬季のぐったりした様子を見た瞬間、血の気が引き地面がぐらりと揺れるようなふらつきを覚えた。かなり動揺していた。手足が震えるのがわかった。けれど、つくしは違った。携帯を取りだし救急車を呼んだあと、震える声で「大丈夫、今助けに来てくれるからね!
「ママへの誕生日プレゼントでしょ?」冬季にそう言われ、ハッとする。今日は12月28日。つくしの誕生日だ。一瞬気まづそうな表情をしてしまい、「時差で曜日感覚がズレてんだよ、今日が何日か…」と、言い訳をしそうになった俺に、「覚えてる必要なんてな
「この件には口出しするな。」親父からそう冷たく突き放されて、激しい頭痛を抱えながら一夜を明かした。もうロサンゼルスにいる意味が無くなった。つくしとは5年前に終わったのだ。何を今更蒸し返そうとしているのか。何度も自問自答するが、答えは出ない。
どこから漏れたのか、石橋家で開かれたパーティーの写真が流出した。それも、どの角度から撮ったのか…と思わせるような巧妙なアングルで、石橋家の3人と俺とババァがフレーム内に綺麗に収まっている。マスコミが騒ぎ立てるのも仕方がない。ここ数年、婚約の
駐車場の奥から3台目にいつも停めている愛車のSUV車が見えた。遠目からでは中の様子は分からなかったが、近くまで近づくと、助手席に黒い人影が見えた。どうやら大人しく車の中で待っていたのだろう。いつものように運転席を開けると、助手席の人影がビク
3日後、俺はロスへの飛行機に乗っていた。親父が何の目的でつくしの会社を調べていたのか、そして同じ頃、遺伝子情報解析センターで誰のDNAを調べていたのか。親父に聞けば早い。でも、俺はこの目でもう一度つくしの息子である冬季の顔を見たかった。「私
どこから手をつければいいか…と考えると、やはり執事の坂東の周辺を調べるべきだと行き着く。坂東は俺が物心ついた時から道明寺邸で働いていた。歳は50代半ば、親父やババァと同じくらいだろうか。次の日、俺は道明寺邸に関する資料が置かれている書斎に足
石橋家のパーティーを終え道明寺邸に戻ると、スーツを着替えることも無くソファーで目を閉じ、自分の考えに集中させる。坂東と繋がっているのは石橋夫妻ではなく娘の希美だ。だとしたら、何が目的なのか。考えられることはひとつしかない。俺と結婚し、道明寺
婚約して3年目で初めて石橋家の門をくぐった。石橋家は曽祖父の代に石橋産業を創設、その後、祖父は政界にも手を広げ官房長官にまでのし上がった人物だ。曽祖父と祖父で約80年余り日本を代表する企業として名を馳せ、現在はその息子である石橋まことに引き
その一週間後、俺は日本に帰国していた。年末までロスで過ごすと話していたのに、急に日本に帰ると言い出した俺に、「やっぱりあんたに心愛のお守りは無理だったのね。」と、姉ちゃんが呆れて言う。「ちげーよ。やり残した仕事を思い出した。」「リモートワー
「逆にあたしが聞きたい。先に手を離したのはそっちでしょ。信じてたのに、裏切られたのはあたしの方。」静かにそう言ったつくしに、俺はあの頃と同じように言い返す。「自分の浮気を正当化しようとすんじゃねーよ。何度も言うけど、俺は後ろめたい事は一切し
午後2時。幼稚園へ冬李(とうり)君を迎えに行く時間。いつものように部屋を出てマンションの駐車場へ下りると、そこに1人の男性がいた。「あなたは……」「先日はどうも。」深く頭を下げるその男性とは、心愛ちゃんのお母様の弟さんで、つくしさんには「も
「ママっ、ねぇ、ママ聞いてる?」後部座席に座るとうりの声であたしは我に返る。「ん?ごめん。何?」「あのね、僕、ママに怒られることしちゃった。」「怒られること?」「うん。今日、チーズたっぷりのピザを食べたんだ。」いつもなら笑って許すその言葉も
「ピザがいい」男の子のリクエストに応えて、俺はすぐにピザのデリバリーに電話をかけた。アメリカンサイズのピザは想像以上にデカいだろうと予測してMサイズを2枚と、他にもポテトを頼む。「困ります。」と、遠慮するベビーシッターを横目に、「そのままあ
心愛のベビーシッターを……と自分から引き受けたはいいが、現実はそんな甘いものじゃないと早くも3日目で後悔している。3歳児は怪物だ。自分ではほとんど何も出来ないくせに、口だけは達者で、あれをして、これをしてと俺にせがんでくる。疲れたからと少し
昨夜は勢いで司の言葉に「お願いします」と飛びついたはいいけれど、一夜明けて冷静になって考えてみるとまずい気がしてきた。司を連れてロスに帰れば、もしも万が一つくしちゃんに遭遇してしまうことがあるかもしれない。何年も暮らしている私でさえ今まで出
夕方5時を過ぎた頃、ようやく人気作家の類が俺たちのいるバーにやってきた。「遅くなって悪い。」「おつかれ〜。すげぇ、人気じゃん。」「サイン会なんてしなくていいって言ってんのに、出版社側が毎回うるさいんだよ。こんな事なら顔出しNGにしておけば良
あの日から1ヶ月が経ったが、私の頭の中にはあの光景が忘れられない。花江さんに駆け寄る男の子とその母親。それは間違いなく、つくしちゃんだった。彼女と最後に会ったのは5年前。銀座の小さな喫茶店で人目を避けるようにして会った。お母様にも司にも知ら
紫門 椿。旧姓は道明寺 椿。8年前、ホテル王である紫門(さいもん)家の一人息子と結婚しロサンゼルスに移住した。結婚してからは、紫門家の仕事も手伝いつつ、母が所有する楓ホテルのオーナーとなり、旦那とともに忙しく世界中を飛び回る日々。そんな日常
4年後。「司、小雪のお昼寝バッグ持った?」「ああ、もう車に積んだ。」「帰りは私が迎えに行くって先生に伝えてね。」「分かった。こはる、そろそろ時間だぞ。」「あっ、遅刻しちゃう!じゃあ、行ってくるね。」パタパタとリビングを駆け回り、俺と小雪の頬
嫌な予感は的中した。道明寺邸から帰ってきて数日、こはるの体調が良くない。食べすぎたのか胃痛と吐き気が続き、今日の朝は微熱まである。ベッドに横になるこはるに「大丈夫か?」ここ数日、俺は何度も同じ言葉をかけていて、その度に「大丈夫。」と答えてい
笹倉邸の俺たちの住居スペースには、今日も甘い雰囲気が流れている。いつの間にか寝室も一緒になり、2度目の新婚生活を満喫している俺たち。「行ってくる。」「行ってらっしゃい。」そう言葉を交わし、軽くこはるの唇にキスを落とす、と同時に俺の携帯が短く
最近の俺たちは、まるで新婚のような暮らしをしている。別々だった寝室もいつしか一緒になり、仕事中以外は常に一緒。どこに行くにも2人で……が当たり前になった。そして今日は、月に一度のこはるの検診日。午後から仕事の休みを取って俺も一緒に病院に付い
店を出てタクシーに飛び乗ると、類から携帯に動画が送られてきた。さっき見たあの動画だ。まさか4年前のあの呑み会で動画を回していたとは夢にも思わなかった。けれど類には感謝してもしきれない。これをこはるに見せれば、こはるに対する俺の気持ちが証明出
あきらが日本に帰国した。半年後の結婚式を控えて色々と準備が忙しそうだ。あきらの婚約者はアジア系アメリカ人で、仕事の付き合いで3年前に知り合い、その後ゆっくりと関係を深めていった。昔はマダムキラーと呼ばれていたあきらだが、結婚相手として選んだ
あの日以来、俺たち夫婦はお互いを意識しあっている。それもそのはず、あんなに濃厚なキスをしたあと、普通に何も無かったようには暮らせない。正直、近頃はあのキスを思い出し夜も眠れなくなるほどだ。攻めて攻めてこはるの舌を誘い出し、吸い上げ唾液を絡ま
出張最終日の夜。父と夫は経済界の重鎮らが集まるパーティーに招かれていて夕方からその準備でバタバタとしていた。「こはるも一緒に行かないか?」そう父に聞かれ、即座に首を振ってみたけれど、テーブルに置かれた招待客リストを何気なく眺めているうちに、
事故を目の当たりにして、どうやら私たち夫婦は感情のコントロールがおかしくなってしまったようだ。まぁ、こんな事は珍しいことでは無い。病院に勤めていると、生死をさまよう患者やそれを見守る家族らが、時に慰めあったり時に喧嘩をしたり、揺れ動く感情を
次の日、午後から本屋を数件周り最新の医学書を探したり、NYで一番大きなシューマーケットでスニーカーを購入したりしたあと、約束の17時少し前に老舗のデパートであるバーグドルフグッドマンへ向かった。一日中歩き回っていたから足がもうヘトヘトに疲れ
こはるが仕事をやめて1ヶ月がたった。もともと、活発に出歩くタイプでもないし、仲の良い友達が沢山いる訳でもない。だから、この1ヶ月ほぼ邸の中だけで過ごしていると言ってもおかしくない。今までバリバリ働いていたから、さぞかし退屈で憂鬱なのでは…と
読者様から情報提供頂きました。最近『iPhone15が当たりました』などといった詐欺サイトへの誘導が頻繁に出るようです。心当たりのある方はこちらのサイトをご参考までに決して個人情報などは入力しませんように。ブックマークから入ると詐欺サイトが
次の日、6時に目覚めてしまった。今日から仕事は行かなくてもいいのに、そんな日に限ってこんなに目覚めがいいなんて。寝室のカーテンを開けて大きく伸びをする。『今日から自由だぁー』と思わず叫びそうになって思い出した。そうだ、リビングを隔てた向こう
邸に入ると、こんな時間にも関わらずたくさんの使用人たちが出迎えてくれた。「お帰りなさいませ、お嬢様。」「ただいま。……遅くなりました。」申し訳なく思い頭を下げると、一斉に使用人たちも頭を下げる。本当に申し訳ない。グダグダと街を歩き回り帰るの
耳の不調が出るようになってから3ヶ月が過ぎた。初めは耳に何かが詰まったようで聞こえにくい程度だったが、今は右耳はほとんど聞こえない状態にまで悪化している。特に、夜勤が続き疲れていたり、夜眠れずに寝不足で目覚めた翌日は、聞こえる方の左耳にまで
パーティー会場から抜け出した私たちはホテルの前からタクシーに乗った。「楓ホテルまで。」夫がそう告げるのを聞きながら、義母が所有する高級ホテルを思い出す。確か、結婚したての頃はよく楓ホテルのバーで2人でお酒を呑み、そのまま夫のプライベートルー
三吉会長の喜寿のパーティー当日。こはるは病院での仕事を終えてから到着する予定なので、俺は義両親と共に先に会場に入っていた。20時からのパーティー。なかなかこはるは現れない。きっとまた緊急の手術が入って来られないのだろうか。笹倉邸を出てから一
笹倉邸夫が家を出てから5日が過ぎた。父は私たち夫婦が不仲で別居したことを知っているけれど、母は何も知らない。もともとお嬢様育ちの母は、人を疑うということを知らない人だ。だから、夫が道明寺家の仕事の関係で長く出張になったと告げても、明るく『大
緊急で入った手術を終えて、ドクタールームへ戻ろうとしていた時、背後から「笹倉っ!」と、切羽詰まった声で呼び止められた。「本田先生、どうしたんですか?」また急患が来たのだろうか、そう思ったが、本田先生の次の言葉で面食らう。「笹倉、マジでごめん
こはるを勤務する病院まで車で送るようになって2週間が過ぎた。もちろん、夜勤の日もあるから毎日ではないけれど、週4日は一緒に邸を出る。車中では相変わらずほとんど会話はない。その日の手術の確認なのか、タブレットで臓器の生々しい画像を見たり、論文
治療を終えたこはるが部屋に戻ってきた。その腕には白い包帯が巻かれている。「大丈夫か?」「平気。」そう答えて自分の部屋に入ろうとするこはるに俺は直球で言った。「こはる、右耳はいつから聞こえていない?」こはるが驚いた顔で振り向く。「どうしてっ、
昨夜、こはるにメールをしたが既読になったまま返信はない。あいつは家に帰ってくるだろうか、それとも今日もまた病院に泊まるのだろうか。どちらとも分からないまま時間だけが過ぎていき、20時を回った頃、俺たちの部屋の扉が開いた。「……ただいま。」「
結局、昨夜は笹倉邸に帰らず、勤務する大学病院の当直室で一夜を明かした。そして今日、寝不足のまま白衣に着替え病棟に行き、いつものように朝の回診を済ませたあと、コーヒーを片手に病院の屋上にあがった。そして、ベンチに座り空を見上げる。キーーーーン
笹倉家の義父は昔から、国内にある優秀な大学や企業の研究チームを支援するため多くの寄付金を出してきた。そのうちの一つが、こはるが勤める大学病院の新井ドクターのチームで、先日国内初の移植を成功させ世間を賑わせたばかりだ。その祝賀パーティーとも言
午前中に1件、少し休んで午後から1件の手術を終え、体力的にも精神的にもクタクタだ。ドクタールームの「笹倉こはる」というプレートが置かれた自分の席に深く腰を下ろし、ガンガンに張った肩を揉みほぐしながら「はぁーーー」と息を吐く。ここのところかな
こはるとの冷めた夫婦生活はもう3年以上も続いている。笹倉邸の西棟は俺たち若夫婦のために広いリビングと大きな2つのベッドルームがある専用スペースだ。そのベッドルームは元々夫婦のものと、生まれてくる子供のために作られたものだが、言うまでもなく俺
この作品は道明寺司のラブストーリーです。相手役はつくしではありません。キュンキュンするような作品になれば…と思っています。どうぞお付き合いください。………………ここは都内の高級住宅が並ぶ一等地。そこに道明寺邸よりもさらに広い敷地を誇る笹倉邸
前サイトも含めて約10年、色々な設定のつかつくを書いて参りました。その中でも書きたくても書けなかった設定がありまして、それはつくしの方が司よりもお嬢様だという設定です。何度か書いてみたのですが、どうしてもイメージが合わなくて(笑)ボツにして
…………半年後…………数日前に町長宛てに一通の書類が届いた。それはあの視察団からの報告書だ。視察団が帰って以降、なんの音沙汰もなく季節は冬を迎えようとしている。役場の職員や町民の間では、ホテル建設の話は白紙になったのだろうと、最近では話題に
テントの中。並んで座り、ポツポツと鳴り響く雨音を聞く。「帰れそうにないね。」牧野がそう呟くから、「俺はそのつもりで来たけど、おまえは大丈夫なのかよ。」と、聞く。「明日は仕事休みだからへーき。」その答えに、俺は首をかすかに横に振りながら言って
視察団の訪町も残すところあと2日になった。今日は特に予定も入っていなく、それぞれが観光を楽しむことになっている……と昨夜、道明寺から電話で聞いた。正式に付き合うことになったあたしたち。なんだか夢のようだけど、毎日かかってくるメールや電話に、
家に着くなり、後悔する。道明寺が来るなんて思ってもいなかったから、脱ぎ捨てた服などがリビングに散乱している。「ちょっ、ちょっと3分だけここで待ってて!」そう言って、道明寺を玄関で待たせて、慌てて片付けた後、「どーぞ。」と、息を切らしながら中
視察団が来たという噂は、次の日にはあっという間に町中に広がっていた。昼過ぎに役場に顔を出したげんさんが言うには、町に古くからあるホテルと民宿のオーナーたちが猛反発をしていて、抗議活動をすると意気込んでいるらしい。彼らの孫の顔まで知っている役
一行が視察に出かけてから、役場の中は騒然となった。「牧野さんっ、さっきのイケメンと知り合いなの?」「……えーと、」「彼は、どこの誰?」「どこのって……、」あたしのデスク周りは人だかり。「高校、大学の同級生です。」「同級生?そういえば、牧野さ
「牧野さーん、今月の広報に載せる写真、これでいい?」「はい、それでお願いします!それと、お祭りの日程も目立つところに大きく入れたいんですけど。」「了解〜!!」ここは北海道にある人口5万人弱の小さな町。大自然に囲まれたこの町は、夏はキャンプ、
牧野と想いが通じたというのに、年が明けてもなかなか距離が縮まらない。それに追い打ちをかけるように、卒業式を前にして俺はNY支社での研修が始まり、牧野は就職準備のため実家に帰ることが決まった。牧野がこの邸で暮らし始めて10ヶ月。ババァや姉ちゃ
「で?司とは最近どーなの?」大学内にあるベンチでいつものように講義の合間の休憩を取っていると、横のベンチで昼寝をしていると思っていた類が急にそんなことを言い出した。「コホッ!な、なに、急にっ。」「んー、司の機嫌があんまり良くないから、牧野と
翌日、いつもより30分早くエントランスへ下りて行くと、運転手の焦った声が聞こえてくる。「お待ちくださいっ、もう少しで司様もいらっしゃいますので!」それに、「大丈夫です。ちょっと寄るところがあるので今日はバスで行きますので。」と、牧野の声。思
ドンッ!ボンッ!バシッ!!「痛ってぇ!おまえさ、少しは手加減しろよっ。」「はぁ?突然おかしなことしてきて、何よあんたっ!」バシッ!!もう一度俺の胸を思いっきり叩く牧野の耳が照れているのか真っ赤なのに気付き、俺の顔が緩む。「な、なに笑ってんの
新潟から東京に戻り、邸に着いたのは夜になっていた。エントランスに近付くと、そこには見慣れた車がとまっている。類のポルシェだ。「あっ、花沢類の車?」と、牧野もその車に気付き嬉しそうに呟く。気に食わねぇ。類の車を見ただけで、こんなに素直に喜ぶの
昨夜は寝付けなかった。朝方までウトウトを繰り返し、ようやくうっすらと明るくなりかけてきた頃、深い睡眠が訪れた。そのせいで、目覚めたのは9時半すぎ。ダイニングに炭酸水を取りに行き、そのついでに……とわざわざ1回に下りエントランスに近い牧野の部
昨夜は寝付けなかった。朝方までウトウトを繰り返し、ようやくうっすらと明るくなりかけてきた頃、深い睡眠が訪れた。そのせいで、目覚めたのは9時半すぎ。ダイニングに炭酸水を取りに行き、そのついでに……とわざわざ1回に下りエントランスに近い牧野の部
部屋に戻りタバコの悪臭が染み付いた服を脱ぎ捨てると、ようやく少しだけ頭痛が和らいできた。今日は長い1日だった。このまま目を閉じて、明日の朝になれば全てを忘れてしまっていたい。そう逃避してしまいそうになる思考を、トントンとノックする音が再び現
9月中旬、類とふたりで出掛ける約束をした。脅迫文や嫌がらせ、就活などでバタバタとした日々を過ごしていたから、こうしてのんびりと過ごすのは久しぶりだ。大きな公園で草むらに並んで座り、時間を気にすることなくダラダラするのがこんなに幸せに感じると
警察で聴取を受け、その後病院で検査をし、全てが終わったのは次の日の正午近かった。その間、牧野のそばにはずっと姉ちゃんが付き添っていて、こういう時は男の俺は何も役に立たない。ただひたすら、ヤキモキした気持ちを抱えながら車の中で終わるのを待つだ
牧野の肩の怪我が治りかけてきた頃、事件が起きた。金曜の夜、部屋で寛いでいるとタマが血相を変えて俺の部屋に飛び込んできた。「坊ちゃん!」「っ!なんだよ、ノックもしねーで。」「これ、見てくださいな。」タマがそう言って俺に差し出したのは、2センチ
それから数日たったある日。いつものように大学の図書館で自習している途中、トイレに席を立った。数分後、席に戻りそこに広げていた教科書を見てあたしは唖然とする。そこには赤ペンで大きく、「泥棒猫!!」と殴り書きがされていたのだ。意味がわからない。
その夜、22時をすぎた頃あたしの部屋の扉が小さくノックされた。タマさんか?そう思ったけれど、いつもならこの時間は寝ているはず。「はい?」「俺だ。」扉の向こうから道明寺の声。道明寺があたしの部屋まで来るなんて初めてのこと。静かに扉を開けると、
夏休みも残すところ1週間。就活やバイトに追われ、結局夏休み中に花沢類と会ったのもほんの数日、しかもキャンパス内でだけだった為、「少しは俺に時間を割いてよ。」と言われ、今日は2人でドライブに行ってきた。少し遠出をして、街をプラプラ散策し、美味
花沢類に連れられて、美音さんが入院している病院にまで来てしまった。美音さんと特別親しい訳でもない。あたしなんかが.........と思ったけれど、断れずに付いて来てしまった理由はただ1つ。道明寺に会いたかったから。別に変な意味では無い。ただ
新潟の実家から道明寺邸に戻り3日が過ぎた。その間、一度も道明寺の姿を見ていない。あの日、新潟から急遽東京に戻った道明寺に「無事に着いた?」とメールを送ったけれど、未だに返事は無い。美音さんに何があったのだろうか。道明寺に会ったら聞いてみよう
総二郎の電話で呼び出され、東京の大学病院に着いたのは22時を回っていた。病室の前に行くと、あきらと総二郎が硬い表情で立っていて、俺を見つけると、「おう、待ってたぞ。」と、肩に手を置く。「美音は?」「安静に…って言われて眠ってる。中に美音の両
次の日、目を覚ますとあたしの両隣の布団は空だった。慌てて下におりると、リビングでパパとママ、進、そして道明寺が仲良く朝ごはん中。「つくし、遅いわよ〜。」ママにそう言われ時計を見ると、まだ8時前。「えっ、みんなが早くない?」困惑しながら急いで
新潟行きの新幹線の中。あたしの隣には長い足を窮屈そうに組み、座る道明寺がいる。新幹線に乗るまでは何かの冗談だと思っていたのに、まさか本当に新潟までくるとは思いもしなかった。だから、もう何度も聞いたセリフをもう一度この人に言う。「本当に付いて
パーティーの日以来、道明寺の機嫌が悪い。会えば突っかかってくるし話せば口論になる。「喧嘩でもした?」椿さんにも心配されるけど、思い当たる節は全くない。今日も朝から登校中の車の中で、「おまえさ、」と、喧嘩腰にあたしを睨むこの男。「何よっ。」「
パーティーが終わり邸は静けさを取り戻したというのに、俺の部屋ではまだこいつらがうだうだと長居をして騒いでいる。「早く帰れよお前らも。」「司ー、いーだろ久しぶりにおまえの部屋に来たんだから。」「どうせ、俺のコレクションを呑みてぇだけだろ。」長
毎年恒例の会長のバースデーパーティーが始まった。招待客は300人ほど、邸の中庭をメインにオーケストラの演奏と三ツ星シェフの料理が並んでいる。パーティーには花沢家、西門家、美作家ももちろん招待されていて久しぶりにF4の両親が顔を合わせた。そし
それから3週間がたった頃、邸の中がいつもより慌ただしい事に気付き椿さんに聞いてみる。「何かあるんですか?」「来週の日曜日、おじい様のお誕生日なの。毎年、邸にお客様をお呼びしてパーティーを開くのよ。今年はもちろんつくしちゃんも参加してね。そう
「最近、司とはどう?」大学内にあるいつものベンチ。邸で作ってきたお弁当を食べているあたしに花沢類が聞く。「どうって相変わらず態度だけは大きいけど…、まぁ、以前よりは近付きやすくなったかな。」「へぇ、話したりするんだ。」「するよ。でも、あの人
邸のジムで汗を流し、シャワーを出ると22時を過ぎていた。自室に戻るため廊下を歩いていると、どこからか楽しげな声が聞こえてくる。その声の方へ歩いていくと、そこは小さなキッチンが備え付けてある第2ダイニング。俺たちがいつも使っているメインダイニ
最近、道明寺の様子が変だ。どう変なのか、そう聞かれれば上手く言えないけれど、何となく態度が柔らかくなったような気がする。つい先日は朝の車の中で、「おまえの両親はどこに住んでる?」と急に聞いてくるから、「新潟に引っ越したけど」と答えると、「意
あの女が道明寺邸で暮らすようになって1ヶ月が過ぎた。ババァや姉ちゃんとはかなり打ち解けているし、タマをはじめ使用人や運転手たちとも距離が近い。俺だけがあの女を受け入れていないようでなぜだか居心地が悪い。でも、受け入れらんねぇ理由はある。俺に
六本木の夜は、相変わらず人が多い。ネオン、笑い声、タクシーの列。どれだけ時間が経っても、この街は眠る気がないらしい。あきらから、『偽物の道明寺が現れた』と30分前に連絡が来た。急いで邸を飛び出してきたが、店の前に着くと、入口脇の街灯の下に見
「おい」声をかけると、女刑事が振り返る。一瞬だけ、驚いた顔。「……まだいたんですか?」「帰るつもりだったけどな」ポケットに手を突っ込んだまま、「気になって帰れねぇから、俺も行く」と、言うと、少しだけ間があった。女は、俺の顔をじっと見たあと、
店長に案内され入ったのは、フロアの奥にある半個室だった。店内の喧騒は半減するが、VIPルームという程ではない。白いソファーにピンクのクッション。テーブルの上には、淡いブルーのグラスがいくつか用意されている。そんな華やかな空間に、似つかわしく
「自分たちが会っていた道明寺司は、この人じゃない」女の子たちが語ったこの言葉は、署内に衝撃と安堵をもたらした。もし本当に道明寺司本人が関わっていたら、単なる風俗営業違反じゃ済まされない。マスコミも、政治も、上層部も巻き込む大騒ぎになる。「本
高級クラブ「Lily」の内定調査に入ってから一週間。店の経営者二人とクラブのママに逮捕状が出された。それと同時に、未成年の女の子たちと繋がりがあったと推測される客への事情聴取と裏付け作業が連日続いていた。その中の一人、道明寺司のアリバイを証
三日後。押収した携帯電話の解析が、ひと通り終わった。画面に並んだ顧客リストの中で、あの名前はやはり異様に思えた。彼女たちは店で働き始めて数カ月、他の顧客はさほど大物はいない中、伏字でも偽名でもなく堂々と、何度も繰り返し記録されている。『道明
あたし牧野つくしが警視庁に入って、7年が経つ。配属は、生活安全部・保安課。風俗営業、売春、未成年者保護⋯いわゆる「表に出しづらい案件」を扱う部署だ。あ保安課が扱う事件のうち、被害者や容疑者になるのは若い女性が多い。だからこの部署での自分の役
12月28日。今日は、あたしと冬李の誕生日。今年は、あたしの運転する車で二人でディナーへとやってきた。自分の顔と同じくらいもある大きなステーキに目を輝かせ、嬉しそうに頬張る冬李。その姿を見ながら、あたしの脳裏には、自然と一年前の記憶がよみが
婚約否定のニュースがようやく鎮まりかけた頃、週刊誌の速報が再び火種を投げ込んだ。「石橋希美、違法カジノを運営 多額の借金か」報道は瞬時にSNSで拡散され、批判は当然のように“道明寺”へも向かった。「道明寺と違法カジノの癒着の可能性」「婚約否
それから2日後。俺のオフィスに親父と西田が集まっていた。西田がタブレットを見ながら報告する。「現在、週刊誌側は“年内にも結婚か”という記事の準備を進めているようです。もしかすると、石橋希美が裏で動いてマスコミに圧をかけている可能性もあります
「俺をこれ以上、怒らせるな。」そう警告したはずなのに、希美はまるで分かっていなかったようだ。あの会話から数日後の夜。時刻は二十時を少し過ぎた頃、道明寺邸に一人の来客があった。親父の書斎で仕事の打ち合わせをしていると、扉がコンコンと叩かれ、タ
年が明けて俺は東京へ戻っていた。年末に俺と親父の二人揃って東京にいなかったことにババァが少し怪しんでいる様子だったが、向こうからは何も言ってこない。まだつくしのことはバレていないようだ。そして、ロスにいる間何度も希美から着信があった。希美は
姉ちゃんの家を出たのは22時を回った後だった。親父との話し合いが終わったあと、つくしと姉ちゃんは2人書斎に残り5年分の空白を埋めるかのように話し込み、残った男たちは心愛と冬李が遊ぶ姿を目を細めながら見つめていた。そして、今は義理の兄が運転す
時計の針が19時を回った頃、マンションに司の車が迎えに来た。これから椿さんの家でお父様と話をすることになっている。冬季を一人で置いていけないし、ベビーシッターの花江さんはすでに年末の休みに入っている。どうしようかと迷ったが、お父様が先に「冬
なんて私は淫らで不品行でふしだらな女なんだと考えながらも、濃厚に重なる唇の気持ちよさに抵抗もしないまま身を委ねる。司の息遣いとクチュクチュと鳴る音が身体を痺れさせ、ここが普通の部屋なら間違いなくあたしたちは重なり合いその先へ進んでいただろう
「好きで好きで堪らなかった女と離婚して、それでも何年も何年もその女が忘れられなくて、そんな状態で他の奴と結婚なんてできねーだろ。また失敗するに決まってる。だから、懲り懲りだ。俺にはまだ忘れられねぇ女がいるから。」口に出してみると、この何年も
あれから30分がたった。つくしは今、ドクターから冬季の検査結果の詳しい説明を聞くため、救急室から離れた場所へと連れていかれまだ戻ってきていない。俺の頬を引っぱたいたつくしの目は完全に怒っていた。もちろん、騙すようなことをしたのだから殴られて
司様から重大な任務を2つ授かった。ひとつはそれほど難しいものではなく、スピードが重視なので早速取り掛かることにする。この病院から30分ほどのところに道明寺家が所有するプライベートジェット用の滑走路がある。司様の父である社長が、ロスの孫娘に会
冬季のぐったりした様子を見た瞬間、血の気が引き地面がぐらりと揺れるようなふらつきを覚えた。かなり動揺していた。手足が震えるのがわかった。けれど、つくしは違った。携帯を取りだし救急車を呼んだあと、震える声で「大丈夫、今助けに来てくれるからね!
「ママへの誕生日プレゼントでしょ?」冬季にそう言われ、ハッとする。今日は12月28日。つくしの誕生日だ。一瞬気まづそうな表情をしてしまい、「時差で曜日感覚がズレてんだよ、今日が何日か…」と、言い訳をしそうになった俺に、「覚えてる必要なんてな
「ママへの誕生日プレゼントでしょ?」冬季にそう言われ、ハッとする。今日は12月28日。つくしの誕生日だ。一瞬気まづそうな表情をしてしまい、「時差で曜日感覚がズレてんだよ、今日が何日か…」と、言い訳をしそうになった俺に、「覚えてる必要なんてな
「この件には口出しするな。」親父からそう冷たく突き放されて、激しい頭痛を抱えながら一夜を明かした。もうロサンゼルスにいる意味が無くなった。つくしとは5年前に終わったのだ。何を今更蒸し返そうとしているのか。何度も自問自答するが、答えは出ない。
どこから漏れたのか、石橋家で開かれたパーティーの写真が流出した。それも、どの角度から撮ったのか…と思わせるような巧妙なアングルで、石橋家の3人と俺とババァがフレーム内に綺麗に収まっている。マスコミが騒ぎ立てるのも仕方がない。ここ数年、婚約の
駐車場の奥から3台目にいつも停めている愛車のSUV車が見えた。遠目からでは中の様子は分からなかったが、近くまで近づくと、助手席に黒い人影が見えた。どうやら大人しく車の中で待っていたのだろう。いつものように運転席を開けると、助手席の人影がビク
3日後、俺はロスへの飛行機に乗っていた。親父が何の目的でつくしの会社を調べていたのか、そして同じ頃、遺伝子情報解析センターで誰のDNAを調べていたのか。親父に聞けば早い。でも、俺はこの目でもう一度つくしの息子である冬季の顔を見たかった。「私
どこから手をつければいいか…と考えると、やはり執事の坂東の周辺を調べるべきだと行き着く。坂東は俺が物心ついた時から道明寺邸で働いていた。歳は50代半ば、親父やババァと同じくらいだろうか。次の日、俺は道明寺邸に関する資料が置かれている書斎に足
石橋家のパーティーを終え道明寺邸に戻ると、スーツを着替えることも無くソファーで目を閉じ、自分の考えに集中させる。坂東と繋がっているのは石橋夫妻ではなく娘の希美だ。だとしたら、何が目的なのか。考えられることはひとつしかない。俺と結婚し、道明寺
婚約して3年目で初めて石橋家の門をくぐった。石橋家は曽祖父の代に石橋産業を創設、その後、祖父は政界にも手を広げ官房長官にまでのし上がった人物だ。曽祖父と祖父で約80年余り日本を代表する企業として名を馳せ、現在はその息子である石橋まことに引き
その一週間後、俺は日本に帰国していた。年末までロスで過ごすと話していたのに、急に日本に帰ると言い出した俺に、「やっぱりあんたに心愛のお守りは無理だったのね。」と、姉ちゃんが呆れて言う。「ちげーよ。やり残した仕事を思い出した。」「リモートワー
「逆にあたしが聞きたい。先に手を離したのはそっちでしょ。信じてたのに、裏切られたのはあたしの方。」静かにそう言ったつくしに、俺はあの頃と同じように言い返す。「自分の浮気を正当化しようとすんじゃねーよ。何度も言うけど、俺は後ろめたい事は一切し
午後2時。幼稚園へ冬李(とうり)君を迎えに行く時間。いつものように部屋を出てマンションの駐車場へ下りると、そこに1人の男性がいた。「あなたは……」「先日はどうも。」深く頭を下げるその男性とは、心愛ちゃんのお母様の弟さんで、つくしさんには「も
「ママっ、ねぇ、ママ聞いてる?」後部座席に座るとうりの声であたしは我に返る。「ん?ごめん。何?」「あのね、僕、ママに怒られることしちゃった。」「怒られること?」「うん。今日、チーズたっぷりのピザを食べたんだ。」いつもなら笑って許すその言葉も
「ピザがいい」男の子のリクエストに応えて、俺はすぐにピザのデリバリーに電話をかけた。アメリカンサイズのピザは想像以上にデカいだろうと予測してMサイズを2枚と、他にもポテトを頼む。「困ります。」と、遠慮するベビーシッターを横目に、「そのままあ
心愛のベビーシッターを……と自分から引き受けたはいいが、現実はそんな甘いものじゃないと早くも3日目で後悔している。3歳児は怪物だ。自分ではほとんど何も出来ないくせに、口だけは達者で、あれをして、これをしてと俺にせがんでくる。疲れたからと少し
昨夜は勢いで司の言葉に「お願いします」と飛びついたはいいけれど、一夜明けて冷静になって考えてみるとまずい気がしてきた。司を連れてロスに帰れば、もしも万が一つくしちゃんに遭遇してしまうことがあるかもしれない。何年も暮らしている私でさえ今まで出