ボードレールと三島由紀夫――三島由紀夫『潮騒』について
前回新訳を公開した、シャルル・ボードレールの『悪の華』の5番めに収録されている無題詩は、三島由紀夫にとっての『潮騒』(1954年)のような作品だったのではないかと私は考えている。 潮騒 (新潮文庫)作者:三島 由紀夫新潮社Amazon 三島由紀夫も、代表作である『仮面の告白』(1949年)や『金閣寺』(1956年)がまさにそうであるように、鬱々とした内面の苦悩を描くイメージの強い作家だ。その三島が遺した膨大な作品のなかで、唯一の純愛小説と言われているのが、離島で暮らす漁師の少年、新治と、島の外から帰ってきた海女の少女、初江の恋を描いた『潮騒』である。 三島が人生初のギリシャ旅行の「昂奮のつづき…
2022/03/07 23:36